坂本龍一の「融合」ミュージック
月刊誌「レコード・コレクターズ」の 2024年6月号の特集が「フュージョン・ベスト100 邦楽編」。先月が「フュージョン・ベスト100 洋楽編」だったのだが、今月はさらにマニアック度が増して、我が国のフュージョンの名盤・好盤のベスト100。
早速、チェックしてみたが、さすがに、80%程度は聴いたことがある。しかし、残りの20%は聴いたことが無い盤で、フュージョンのアルバムについても「裾野が広いなあ」と再認識した次第。当ブログにて記事にしたアルバムは約半分弱だから、これは「いけない」。ベスト100の中で、聴いたはいいが、記事にしていないアルバムについて、さっそく記事化を進める。
坂本龍一『千のナイフ "Thousand Knives" 』(写真左)。1978年4月10日 – 7月27日、コロムビア1,2,4スタジオでの録音。ちなみにパーソネルは、坂本龍一(syn, vocorder, sequencer, ac-p, marimba), 松武秀樹 (computer Operation, syn-programming assistance), 高橋悠治 (ac-p), 山下達郎 (castanets), 渡辺香津美 (el-g), 浜口茂外也, Pecker (syn-ds), 浜口茂外也 (whistle), 細野晴臣 (finger cymbals) 。
故・坂本龍一の初リーダー作。シンセサイザーの多重録音による、ポップスからロック、エスニック音楽からエレ・ジャズを包含した、現代音楽志向のフュージョン・ミュージックである。単なるテクノ・ポップでも無いし、難解な現代音楽でも無い。キャッチーな旋律とアブストラクトでスピリチュアルな旋律が共存した、多国籍な異種格闘技風のフュージョン・ミュージック。
坂本については、このデビュー作では、膨大な種類のシンセサイザーを使用。ベーシックなリズム&ビートは、デジタル・シーケンサーMC-8を活用。シンセとシーケンサーのプログラミング&オペレーションについては松武秀樹が全面サポート。
サイドマンについては、山下達郎がカスタネットを叩きまくり、渡辺香津美がエレギを弾きまくる、高橋悠治がアコピの連弾サポートをしている。リズム隊については、浜口茂外也とPeckerがシンセ・ドラムを担当、細野晴臣がフィンガー・シンバルで参加している。
冒頭のタイトル曲「千のナイフ」が衝撃的。出だしは、ヴォコーダーによる、毛沢東の「井岡山に登る」という詩の朗読から始まる。ここからして衝撃的。詩の朗読が終わって、恐ろしげな爆発音がして、耽美的で美しい「千のナイフ」の旋律が奏でられる。以降は、キャッチーで現代音楽的な響きを宿しつつ、クロスオーバー・ジャズ風のインスト・パーフォーマンスが展開される。硬派でアーティステックな、究極のジャンルレスなフュージョン・ミュージック。
この盤のベーシックなリズム&ビートを司る、デジタル・シーケンサーのピュン、ピョン、といったビート音や、ややダークな神秘性溢れるシンセのフレーズについては、思わず、ハービー・ハンコックのシンセとシーケンサーを活用した「プログレ・エレ・ファンク」の名盤『Crossings』や『Sextant』を想起する。
ところどころに、渡辺香津美のエモーショナルでスピリチュアルなエレギの即興演奏が入っていたり、シンセ・ドラムの浜口やペッカーの叩きっぷりは、どこかクロスオーバー・ジャズの8ビートを想起したりで、この硬派でアーティステックな、究極のジャンルレスなフュージョン・ミュージックの中に、ジャズな要素が見え隠れしたりして、聴いていてとても興味深い。
確かに、この盤に詰まったフュージョン・ミュージックの中に、エレ・ハービーの例の如く、ジャジーな要素がしっかりと横たわっている。そういう観点から、この『千のナイフ』を、クロスオーバー&フュージョン・ジャズの範疇の音世界の一つとして聴いても違和感は無い。フュージョン・ミュージックは奥が深い。
今回の「レコード・コレクターズ」の特集「フュージョン・ベスト100 邦楽編」に、この盤が上がっていたので、当ブログでも、ジャズの要素を包含した、我が国のフュージョン・ミュージックの名盤の一枚として、取り上げさせて貰った。
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