2024年5月11日 (土曜日)

ポップ・インスト・バンドの傑作

ザ・スクエア(1989年から「T-スクエア」)は、我が国が世界に誇るフュージョン・バンドの一つ。バンド・メンバーは自身を「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」と称している。

独特の「融合音楽」志向、独特のアレンジや引用・カヴァーは、米国フュージョン・ジャズを志向していない、我が国のフュージョン・ジャズとしても、ユニークな存在。ポップでキャッチーな音世界は、通常のフュージョン・ジャズではない、唯一無二の「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」としても、確かに違和感は無い。

THE SQUARE『うち水にRainbow』(写真左)。ちなみにパーソネルは、安藤まさひろ (g), 伊東たけし (as, lyricon), 和泉宏隆 (key), 田中豊雪 (b), 長谷部徹 (ds)。以上が「ザ・スクエア」。ゲストとして、仙波清彦 (conga), EVE (vo, "HELLO GOODBYE"), 伊藤広規 (el-b, "STINGRAY"), Nitta Group (horns, "HANK & CLIFF" 及び "黄昏で見えない")。

ザ・スクエアの「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」な個性が確立された盤が、前作『脚線美の誘惑』だと思うのだが、この『うち水... 』は、この前作で確立した「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」な個性を、確固たるものとして踏襲した傑作である。

ザ・スクエアの個性である、独特の「融合音楽」志向、独特のアレンジや引用・カヴァーに関しては、1曲目の「Hellow Goodby」はレノン&マッカートニーの名曲のカヴァー、6曲目「黄昏で見えない」は松任谷由実(ユーミン)作曲、というところからも良く判る。
 

The-squarerainbow

 
「Hellow Goodby」は、インスト・ナンバーとして、かなり大胆なアレンジを施していて、ちょっと聴いただけでは原曲の雰囲気が感じられないくらい。しかし、フュージョン・インストとしては秀逸のアレンジ、秀逸の演奏になっている。ザ・スクエアの面目躍如だろう。

「黄昏で見えない」は、後にユーミンが歌詞を付けて、「幻の魚たち」と改題し、小林麻美がカヴァーしている。ボーカルの部分のフレーズをインストに置き換えての演奏になっているが、ザ・スクエアって、ポップス曲の歌唱のフレーズの「楽器での唄わせ方」が実に上手い。これも、他のバンドには見られない、ザ・スクエア独特の取り組みで、これも、ザ・スクエアの面目躍如と言える。

前述の2曲、レノン&マッカートニー曲のカヴァー、ユーミン曲のフュージョン化、というだけで、「スクエアは俗っぽい」と敬遠する向きもあるが、他のアルバム収録曲、安藤まさひろをはじめとする、ザ・スクエアのメンバーの手になるオリジナル曲については、聴きやすい、キャッチーな歌心溢れるフレーズを持った佳曲揃いで、演奏はテクニック抜群のビートの効いた爽快感溢れるもの。優れたフュージョン・ジャズ曲満載で、俗っぽさは微塵も無い。

2曲目の「君はハリケーン」はテクノ・ポップっぽい曲調とアレンジなので、思わず「ニヤリ」。3曲目の「Sabana Hotel 」は爽やかな夏曲。8曲目の「カピオラニの通り雨」は安藤のアコギが印象的な名曲&名演。8曲目「Barbarian」は、スクエアお得意のフュージョン・ロックなインスト曲。唄うリリコンが格好良い。

ちなみに、曲名、ジャケなど、それまでのザ・スクエアのテイストとちょっと違う雰囲気なのですが、これって、実は、ユーミンの仕業。ユーミンは楽曲の提供(黄昏で見えない)のみならず、曲のタイトルの命名からジャケット・デザインまで、コーディネーターとして関与しているんですね。こういう切り口でも、ザ・スクエア独特の「融合」志向が見え隠れして面白い。
 
 

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2024年5月10日 (金曜日)

異種格闘技な「和フュージョン」

我が国のフュージョン・ジャズ・バンドの代表格が、「CASIOPEA(カシオペア)」と「T-SQUARE(T-スクエア)」(デビューから1988年までは「THE SQUARE」)。この2つのバンドが、我が国のフュージョン・ブームを牽引していた様に思う。

「T-スクエア」は、純国産フュージョン・ジャズの音作り。我が国の音楽シーンから引用される独特のアレンジや展開、他のジャンルとの融合のバリエーションが、米国フュージョン・ジャズには無い、我が国のフュージョン・ジャズ独特なものだった。

この「和フュージョン」独特の個性を音にしていたのが、当時の「ザ・スクエア」。この米国フュージョン・ジャズの音志向を忠実に踏襲しないところが好き嫌いの分かれ目で、この純国産な「和フュージョン・ジャズ」の音作りは認めない、という向きが当時にはあった様に思う。

が、今の耳で聴いてみると、この「ザ・スクエア」の音も、優れた内容のフュージョン・ジャズ、エレ・ジャズロックをベースとした、いわゆる「融合音楽」の一つで、例えば、カシオペアの音志向と比較しても、優劣はつけ難い、と僕は思っている。

THE SQUARE『MAGIC』(写真左)。1981年8-9月の録音。ちなみにパーソネルは、安藤まさひろ (g), 伊東たけし (as, lyricon), 久米大作 (key), 田中豊雪 (b), 清水永二 (ds)。以上が「ザ・スクエア」。ゲストとして、仙波清彦 (conga), 御厨裕二 (g), キャサリーン (vo), 金子マリ、タンタン、サンディー (chor), 中西ストリングス。特別参加として、タモリ(tp)。

ザ・スクェア名義の5作目のアルバムになる。このアルバムこそが、当時の「ザ・スクエア」の音志向の特異性、独特の個性を表している好盤だと思う。
 

The-squaremagic

 
音を聴けば、たちどころに判るが、まず、サックスになり変わって、フロントで大活躍するのが「リリコン」。このリリコンの活用、そして、シンセの積極活用が、当時、テクノ・ポップが流行っていた我が国のフュージョンらしいアレンジ。

冒頭のボーカル入り人気曲「IT'S MAGIC」は、キャサリーンのボーカルがとても可愛い、和風のディスコ・ミュージック。ビートがどう聴いても「和」している。そして、ボーカル&コーラスが、どう聴いても、当時のニュー・ミュージックの影響が感じられる。なんとか米国フュージョン風に、と工夫を凝らしているが、結果、どう聴いても、我が国のフュージョンらしい独特のアレンジが楽しい。

シンセ・ドラム活用や、リズム&ビートは、どう聴いても、当時、わが国で流行っていた「テクノ・ポップ」の影響が感じられる。なんせ、収録された曲の中にも、ラスト曲のタイトルが「かわいいテクノ」とあったりする。

ザ・スクエアの演奏のベースは、フュージョン・ジャズなので、この盤は、フュージョン・ジャズの最たるもの、エレなジャズロックに和風ディスコ、ニュー・ミュージック、テクノポップが融合した音楽成果と評価できる。異種格闘技が大好きだった「YMO」もびっくりである(笑)。それでも、フュージョン・ジャズの好盤として、このアルバムはまとまっているので、当時のザ・スクエアの力量たるや恐るべし、である。

そして、特別参加として、タモリさんが、7曲目「サンシャイン・サンシャイン」とラストの「かわいいテクノ」で、トランペットとバックグラウンド・ボーカルで参加している。これも異種格闘技のバリエーションの一つ、我が国ならでは「融合音楽」の成果であろう。

とにかく、今の耳にも古さを感じさせない、和フュージョン・ジャズの好盤として、十分、評価できる内容である。
 
 

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2023年9月26日 (火曜日)

45周年記念盤 『Vento De Felicidade 〜しあわせの風〜』

最近、日本のフュージョン・ジャズ(和フュージョン・ジャズ)の名盤・好盤を聴き直しているのだが、意外と内容充実の盤が多い。演奏テクニックは申し分無く、歌心もあり、オリジナルの楽曲もメロディーラインの魅力的な佳曲ばかりで、十分、世界と渡り合えるレベルのアルバムを量産していたことを再認識している。

そんな和フュージョンの名盤・好盤を聴き直していくと、必ず、ぶち当たるフュージョン・ジャズのグループが2つある。ひとつは、1977年結成の「CACIOPEA(カシオペア)」、もうひとつは、1976年結成の「T-SQUARE(ティー・スクエア)」。和フュージョン・ジャズの老舗中の2つの老舗バンド。フュージョン・バンド・ブームの中、この2つのグループで人気を二分して大いに盛り上がっていた。

T-SQUARE『Vento De Felicidade 〜しあわせの風〜』(写真左)。2023年5月31日のリリース。T-SQUARE45周年記念アルバム。現メンバーの伊東たけしと坂東慧に加え、歴代のメンバーの中から、安藤正容、河野啓三、仙波清彦、久米大作、田中豊雪、長谷部徹、則竹裕之、須藤満、本田雅人、松本圭司、宮崎隆睦、サポート・メンバーの田中晋吾、白井アキト、外園一馬、山崎千裕が顔を揃えている。加えて、ゲストとして、渡辺香津美と鳥山雄司、TOKUが参加。
 

Tsquarevento-de-felicidade

 
『WISH』では、確実にスムース・ジャズ化したT-SQUARE。アルバムの出来はそつなく優秀、よく聴けば、T-SQUAREらしさは押さえられている。しかし、今回の「スムース・ジャズ志向」の耳当たりの良いサウンドは、恐らく「賛否両論」だろう、と感じた。ポップス度、ロック志向が強かったサウンドが、一気にスムース・ジャズ化したのだから無理は無い。

以前は「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」とは言っても、ジャズ度はほどよく漂い、演奏のフレーズには、どこかジャズ・ライクな捻りや「引っ掛かり」があったりして、ポップでロックな雰囲気はあるが、基本的にはフュージョン・ジャズの音志向を貫いていたと思う。と思っていたら、この最新盤では、そんな従来からのT-SQUAREサウンドが戻って来ている。

爽快感に溢れた、落ち着いた雰囲気の、大人の「ポップでロックなフュージョン・ジャズ」、大人のT-SQUAREサウンドが、実に心地良く響いてくる。従来からのT-SQUAREサウンドが戻って来て、安心して聴ける、T-SQUARE45周年記念アルバム。もう結成から45年経ったなんて思えない、フレッシュで若々しい明るいサウンドが、とても気持ち良い。気分爽快な和フュージョン・ジャズ盤である。
 
 

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2023年4月25日 (火曜日)

河野啓三『Dreams』を聴く

和ジャズもしっかり聴く様にしている。最近では、サブスク・サイトで、和ジャズのアルバムが結構な数、アップされているので、試聴するには事欠かない。しかも、特定のサブスク・サイトでは「音が良い」。いわゆるハイレゾ対応されているので、CDで聴くのと同じくらい、若しくはそれ以上の音で聴くことができるが有り難い。

河野啓三『Dreams』(写真左)。2011年の作品。ちなみにパーソネルは、河野啓三 (kb), 宮崎隆睦, 平家徹也 (EWI, sax), 吉井俊倫, 布川俊樹 (g), 田中豊雪, 岡田治朗 (b), 岡野大介, 斎藤たかし (ds, perc), 伊沢麻美 (vo)。21世紀に入っての「T-Square」のキーボード奏者、河野啓三の初リーダー作。

冒頭「First Impression」の出だしのフレーズを初めて聴いた時、「あれ、T-Squareの盤と間違えたか」と慌てたくらい、T-Squareの音世界である。ディストーションを効かせたエレギ、シンセの様なユニークな音が出る吹奏楽器EWIの特徴のある伸びのある音、そのバックでリズム&ビートを刻むエレピ。作曲は河野自身で、河野はT-Squareでも楽曲提供しているので、T-Squareの音っぽくなっても仕方の無いことか。
 

Dreams

 
しかし、2曲目「Across The Sky」を聴いていると、確かに「T-Square」風の音の展開なんだが、演奏するメンバーが異なるので、演奏の音のテイストは「T-Square」とは違う。

「T-Square」はロック寄りのバカテク・フュージョンなんだが、河野のこの盤の音は、ポップなフュージョン・ジャズってな感じで、ノリが良くて聴きやすく、ジャジーな雰囲気も見え隠れし、フレーズは印象的でメロディアスで判り易い。河野の作曲のセンスの良さがとても良く判る。

河野のアコピが良い感じなんですよね。6曲目の「衣川館」での、河野のアコピ、布川のギター、宮崎のソプラノで醸し出すジャジーな雰囲気は、他のメロディアスで活きのよいポップな楽曲との対比に、思わず聴き入ってしまう。

そして、僕はこの盤での河野のシンセの音が大好きだ。ばりばり、アナログシンセの音。音が太くて、ちょっとノイジーで、変に捻れて、音がヒューンと伸びる。1970年代のプログレにおけるアナログシンセの音。このアナログシンセの音でソロ・フレーズを弾き回すところが、とにかく格好良くて素敵である。
 
 

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2022年6月 5日 (日曜日)

スムース・ジャズ化のT-SQUARE 『WISH』

1978年、「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」としてデビューしてから44年。2021年11月、伊東たけし、坂東慧のユニット形態として活動を始めた「T-SQUARE alpha」。ポップでロックなフュージョン・ジャズから、ポップでロックなスムース・ジャズに変化してきた様だ。

T-SQUARE『WISH』(写真左)。2022年5月のリリース。そんな「T-SQUARE alpha」での初オリジナル盤。ちなみにパーソネルは、伊東たけし (sax), 坂東慧 (ds) が「T-SQUARE alpha」。そこにゲスト・ミュージシャンとして、様々なメンバーが参加している。「T-SQUARE alpha」は、素晴らしいサポートメンバーを交えたT-SQUAREという意味合いだろう。

そんなサポート・メンバーを思いつくままに列挙すると、まず、T-SQUAREの必須サポートである、田中晋吾 (b), 白井アキト (key), 佐藤雄大 (key)。ゲスト・ギタリストとして、渡辺香津美、是方博邦。20数年ぶり、T-SQUAREへのゲスト参加となった本田雅人 (sax), 松本圭司 (key)。

加えて、ホーン・セクションとして、エリック・ミヤシロ (tp), 西村浩二 (tp), 中川英二郎 (tb), 半田信英 (tb)。他にもいると思うが、とにかく、我が国の優れものジャズマン達が、こぞってサポート・メンバーとして参加しているから凄い。
 

Tsquarewish

 
もともと、デビュー当時からのT-SQUAREの音の志向が「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」だったので、他の我が国のフュージョン・バンドと比して、ジャズ度は軽く、ポップス度、ロック志向が強い。今回の「T-SQUARE alpha」の音は更にそれが進んで、今までは辛うじて「フュージョン・ジャズ志向」の範疇に留まっていたが、今回は「スムース・ジャズ志向」に完全に変化した様な音世界である。

もともとフュージョン・ジャズというのは、エレギの音がそのフュージョン・バンドの音の「カギ」を握っていたケースが多く、T-SQUAREは「ギター・バンド」の印象が強かった。そんな「ギター・バンド」から、結成当時から不動のメンバーとして君臨していたギターの安藤正容が抜けたのだから、バンド・サウンドがガラッと変わっても不思議では無いのだが、案の定、今回「T-SQUARE alpha」の音はガラッと変わった。

以前は「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」とは言っても、ジャズ度はほどよく漂い、演奏のフレーズには、どこかジャズ・ライクな捻りや「引っ掛かり」があったりして、ポップでロックな雰囲気はあるが、基本的にはフュージョン・ジャズの音志向を貫いていたと思う。

アルバムの出来はそつなく優秀、よく聴けば、T-SQUAREらしさは押さえられている。しかし、今回の「スムース・ジャズ志向」の耳当たりの良いサウンドは、恐らく「賛否両論」だろう。
 
 

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2022年4月30日 (土曜日)

スクエアの転換点となった重要盤『Rockoon』

フュージョン・ジャズ全盛時、日本のフュージョン・ジャズ・バンドについては、カシオペアとこのスクエアが2大人気バンド。カシオペアがバカテクでクロスオーバー・ジャズ志向のフュージョンな音世界がウリ、スクエアは、ポップ&ロック志向の親しみ易いフュージョン・サウンドな音世界がウリ。どちらも甲乙付けがたく、TPOに応じて聴き分けていた様な気がする。

THE SQUARE『Rockoon』(写真左)。1980年4月のリリース。ちなみにパーソネルは、安藤正容 (g), 伊東たけし (sax), 久米大作 (key), 中村裕二 (b), 青山純 (ds), 仙波清彦/せんバきヨひコ (perc), 古原正人 (vo)。キーボードが宮城純子から久米大作、ドラムがマイケル河合から青山純に交代。メンバーチェンジを経た7人の新体制で録音されたアルバム。

このアルバム『Rockoon』は、ポップ&ロック志向の親しみ易いフュージョン・サウンドに磨きがかかった、スクエアならではの音世界。米国西海岸のフュージョン志向な音作りから、ポップ&ロックの音の要素に軸足を移した「過渡的な内容」。印象的なボーカル曲が3曲もあり、そのボーカル曲の存在も、ポップ&ロックの音の要素を強調するのに一役買っている。
 

The-squarerockoon

 
冒頭のタイトル曲「Rockoon」を聴けば、確かにそれまでの前3作とは音の作りが全く異なるのが判る。ほとんど「AORなロック」である。TotoやJourneyを想起する様な、エレギ中心のハードなAOR風。英語の歌詞がつけられた「Really Love」「Come Back」「It's Happening Again」、3曲のボーカル曲の存在がそのイメージを加速させる。この盤にだけ参加した、青山純のドラミングが、この「ポップ&ロックの音の要素に軸足を移す」のに大きく貢献している。

3曲目「Tomorrow's Affair」の日本語タイトルは「トゥモロー」。TBS系列ドラマ『突然の明日』のテーマ曲。T-SQUARE名義のオーケストラ・アレンジ盤『Harmony』では、当曲のオーケストラとの共演を聴くことが出来る。雄大な音拡がりと高揚感が素晴らしい、スローテンポの曲であるが、キャッチャーでポップなフレーズは、いまにもスクエアらしい。

いわゆる「脱・米国西海岸フュージョン」。この『Rockoon』を契機に、スクエアは「日本独自のフュージョン」を推し進めていくことになる。カシオペアは「米国西海岸フュージョンから国際化フュージョン」を推し進めていく訳で、ここで、カシオペアとスクエアは、音の志向が全く異なるバンドとなったのだった。
 
 

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2022年1月18日 (火曜日)

T-Square『FLY! FLY! FLY!』

日本のフュージョン・ジャズの「バンド・サウンド」については、カシオペアとT-スクエアの2つの代表的バンドの音の個性がそのまま、日本のフュージョン・ジャズの「バンド・サウンド」の個性になった。呆れるほどの高テクニック、スピード感溢れる高速フレーズ、バラードについてはキャッチャーで印象的なフレーズの連発。当然、本場の様な「粘る様なファンクネス」は皆無。

T-Square『FLY! FLY! FLY!』(写真左)。T-SQUARE48枚目のアルバム。2021年4月のリリース。ちなみにパーソネルは、安藤正容 (g), 伊東たけし(as, EWI), 坂東慧 (ds) のオリジナル・メンバーに加えて、サポートとして、田中晋吾 (b, #1, 3, 5-7), Taiki Tsuyama (b, #2), 森光奏太 (b, #4, 8, 9), 白井アキト (key), 伊沢麻未 (vo, #3) が参加している。

1978年のプロデビューから43年間に渡ってバンドを牽引し、支え続けたリーダーであり、作曲家、ギタリストの安藤正容が、本作への参加と2021年のコンサートツアーをもって退団。つまり、本作は安藤正容がメンバーとして参加した最後のアルバムである。43年間、ずっと変わらずT-Squareのメンバーだった安藤の退団の報はショックだった。
 

Fly-fly-fly

 
相変わらずの「T-スクエアの音世界」である。これだけサウンドの根幹を変えずにやってきたら、マンネリに陥ったりする部分があったりするのだが、それが全く感じられないところが凄い。1曲目の「閃光」を聴くだけで、これは「T-スクエアの音」やな、と当たりが付く。ライトでポップでスピード感抜群。キャッチャーなフレーズがポジティヴに響く。

どこか今までのT-スクエアの音に無い、新しい雰囲気が感じられるのだが、これは、恐らく、全9曲中6曲を作曲している、最も若いメンバー板東慧の楽曲が柱となっているからだろう。従来のT-スクエアらしさを醸し出しつつ、若かりし頃の「やんちゃな音」を差し引いた、堅実で落ち着いたリズム&ビートをベースに、大人のT-スクエアの音で、ガンガンに攻めている。

43年間に渡ってバンドを牽引し、支え続けたリーダーであり、ギタリストであった安藤がいなくなる。恐らく、次作というか、安藤脱退後の、伊東と坂東のユニット&サポートメンバーによる「T-SQUARE alpha」の音は、「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」の前提は変わらないのだろうが、ガラッと変わってくるのだろう。日本のフュージョン・ジャズの「1つの時代」が終わった様な気がする。
 
 
 
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  ・The Brothers Johnson『Light Up the Night』&『Winners』

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  ・『ヘンリー8世と6人の妻』を聴く

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  ・伝説の和製プログレ『四人囃子』

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2021年2月 2日 (火曜日)

無観客ライヴ 『T-SQUARE 2020 Live...』

フュージョン・ジャズの大ブームの中、我が国では2つのフュージョン・ジャズを代表するバンドが出現した。1つは「カシオペア」もうひとつは「THE SQUARE」。どちらもコッテコテのバカテク集団。スクエアはどちらかと言えば「ロック&ポップ」の部分を押し出した音作り。そのスクエアは、1989年、「T-SQUARE」と改称して、現在も活躍中である。

『T-SQUARE 2020 Live Streaming Concert ”AI Factory” at ZeppTokyo』(写真左)。2020年7月23日、ZeppTokyoにて行われた無観客生配信コンサートの収録音源。ちなみにパーソネルは、安藤正容 (g), 伊東たけし (sax), 坂東慧 (ds), 河野啓三 (key), 田中晋吾 (b)。白井アキト (key) が、河野のサポートとして参加している。

コロナ禍により全ホールのコンサートをやむなくキャンセル、その後、約半年ぶりに参集したメンバーの演奏。体調管理とリハビリを優先しながら、今後自身のペースで音楽活動する為、T-SQUARE退団の意向を表明したキーボード担当「河野啓三」がメンバーとして参加するラストステージでもある。
 
 
Tsquare-2020-live-streaming-concert  
 
 
同時にDVDも出ているが、今回は「音」のみのレビューになる。が、その凄まじい迫力の演奏にちょっとビックリ。いつものT-SQUAREのポップな音をイメージしていると思わずぶっ飛ぶ。T-SQUAREの代表曲をバンバン演奏していくので、聴いていて思わず「ウハーッ」と叫んでしまいそうな、爽快感溢れるハイテクニックなパフォーマンス。

無観客のコンサートホールでの録音なので、音がとても良い。ドラムがバッシバッシ決まり、コンサートではこもりがちのベースの音もかなりクリア。このリズム隊の音の良さとクリアさが、いつものT-SQUAREの音世界をさらに躍動感溢れ、さらに疾走感を増幅した音世界にバージョンアップしているんだなあ、と感じる。

キーボードの河野は右手中心のパフォーマンスだが、これがなかなかの「渾身プレイ」で思わず引き込まれる。やはり楽器演奏というのはテクニックが全てでは無い、と再認識させてくれる。DVDはドキュメンタリーも収録されていて、T-SQUAREの動く姿を確認するには最適なもの。しかし、この無観客生配信コンサート、その音だけでも、T-SQUAREの歴史と今の力量をバリバリに体感出来る。
 
 
 

《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館》の更新状況》
 
 ★ AORの風に吹かれて        【久々に更新しました】 2021.01.22 更新。

  ・『The More Things Change』1980

 ★ まだまだロックキッズ     【久々に更新しました】 2021.01.22 更新。

  ・The Band『Stage Fright』

 ★ 松和の「青春のかけら達」 【久々に更新しました】 2021.01.22 更新。

  ・僕達は「タツロー」を聴き込んだ
 

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2020年6月24日 (水曜日)

爽快なTースクエアの新盤 『AI Factory』

僕がジャズを本格的に聴き始めたのが1978年。当時のジャズは「フュージョン・ジャズ」の全盛時代。猫も杓子もフュージョン・ジャズ、老舗のジャズ喫茶もこぞってフュージョン・ジャズ。我が国でもフュージョン・ジャズのブームは凄まじく、純ジャズ系のジャズマンの中でも、フュージョン・ジャズに宗旨替えして活躍するジャズマンが出てきたりした。

そんなフュージョン・ジャズの大ブームの中、我が国では2つのフュージョン・ジャズを代表するバンドが出現した。1つは「カシオペア」もうひとつは「スクエア」。どちらもコッテコテのバカテク集団で、カシオペアはどちらかといえば、フュージョン・ジャズの「ジャズ」の部分に力点を置いている様であり、スクエアはどちらかと言えば「ロック&ポップ」の部分を押し出している感じだった。両グループとも、カシオペアは「カシオペア 3rd.」、スクエアは「T-スクエア」と改称して、現在も活躍中である。

T-Square『AI Factory』(写真左)。2020年4月のリリース。T-Squareの通算47枚目となる最新オリジナル盤。ちなみにパーソネルは、安藤正容 (g), 伊東たけし (sax, EWI, fl), 河野啓三 (key), 坂東慧 (ds), サポート・メンバーとして、田中晋吾 (b), 白井アキト (key) が参加している。
 
 
Ai-factory-1  
 
 
前作では急病で入院の為、バンドの音楽監督的存在であるキーボードの河野が不参加だったが、今回、懸命のリハビリの末、復帰している。よかったなあ。アルバムタイトル『AI Factory』には、「近未来の愛(AI)と友情のロボット工場」という意味が込められた、とのこと。意味深なアニメのジャケットなので、アニソンか何かのカヴァー盤かな、と訝しく思ったのだが違った。

Tースクエアの音をずっと聴き続けていないと、その変化が判り難いのだが、内容的には相変わらず、「T-スクエアらしい」金太郎飴的なアプローチと、T-スクエアらしからぬ、新しいアプローチが混在していて、なかなか聴き応えのある音に仕上がっているところは流石である。フュージョン・ジャズの中でも「ロック&ポップ」の部分を押し出しているのは従来通りなのだが、曲毎における音作りのモチーフが今までに無いものになっている。恐らく、サポート・メンバーの白井の存在が大きく作用しているのはないか、と睨んでいる。

バカテク、疾走感溢れる展開、切れ味鋭いフレーズ、いずれも変わらない。変わらなければ「飽きる」のだが、意外と飽きないT-スクエアの音世界。まだまだ「チャレンジ&進化」の要素が新作の中に必ずあって、この「チャレンジ&進化」の要素が有る限り、T-スクエアの音はマンネリにはならないだろう。今回の新作も聴き応え充分。まだまだ、T-スクエアは進化しそうな気配。まだまだ元気な様子、なんだかホッとしました。
 
 
 

《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館》の更新状況
 

 ★ AORの風に吹かれて    【更新しました】 2020.06.12更新。

  ・『Bobby Caldwell』 1978

 ★ まだまだロックキッズ     【更新しました】 2020.06.12更新。

  ・Led Zeppelin Ⅲ (1970)

 ★ 松和の「青春のかけら達」 【更新しました】 2020.06.12更新。

  ・太田裕美『心が風邪をひいた日』
 

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2018年9月16日 (日曜日)

T-スクエア者として外せない盤 『TRUTH』

日本発のフュージョン・グループといえば、カシオペアとT-スクエア。この2つのバンドはリアルタイムでずっと聴き続けて来た。T-スクエアって、最初は「ザ・スクエア」って読んでいたんですよね。もともと、バンドメンバーが4人だから「ザ・スクエア」のノリで命名されたらしいのだが、1989年に「T-スクエア」に改名している。

それは米国でこのアルバムを発売するにあたって、米国では既に、同じ様な名前のバンド「SQUARES」があったため、米国で「T-SQUARE」と名乗り、そのバンド名をそのままに、日本でも活動するようになった。その年が1989年。そして、その改名のきっかけになったアルバムとは、T-SQUARE『TRUTH』(写真)である。日本では1987年4月のリリース。

この『TRUTH』というアルバム、T-スクエアといえば『TRUTH』と言われるくらい、T-スクエアを代表するアルバムである。T-スクエアのバンド・サウンドが成熟し、完成した時期の録音であり、そんなT-スクエアの良い部分がこのアルバムに充満している。当人たちが自らを「ポップ・インストゥメンタル・バンド」と呼んでいるが、まさにこの盤は「ポップ・インストゥメンタル・バンド」の面目躍如である。
 

Tsquare_truth

 
この盤のタイトル曲「TRUTH」、この曲のとても印象的なイントロを聴けば、一般の方々も「これは聴いたことがある」となるのではないか。そう、フジテレビ系の「F1グランプリ」のテーマ曲である。この曲は本当によく出来た曲で、T-スクエアのバンドの個性を凝縮したような名曲である。他の曲もその出来は大変良い。「TRUTH」ばかりがクローズアップされる盤ではあるが、他の曲も含めて、この盤の内容は濃い。

音作りの面でも大きな変化がある。それまでのデッドな録音が、リバーブ(残響)が深い録音に変わっている。いわゆる純日本風の録音から米国風の録音への変化。メリハリが思いっきり効いて、演奏自体の躍動感が飛躍的に向上したように感じる。デッドな録音が悪いと言っている訳では無い。この頃のT-スクエアのバンド・サウンドには、このリバーブ(残響)が深い録音の方がより適している、と感じるのだ。

この盤は、ザ・スクェアとしてリリースされたアルバムの12枚目。この盤で、T-スクエアのバンド・サウンドが成熟し完成した。そして、バンド名を「T-スクエア」と改名。T-スクエアにとって、この盤はバンドとして「記念碑」的な盤であり、マイルストーン的な盤である。ということで、T-スクエアを愛でる上で、T-スクエア者(T-スクエアのファン)として、この『TRUTH』は絶対に避けられない盤なのだ。
 
 
 
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