2024年6月23日 (日曜日)

ジャズ喫茶で流したい・271

グローヴァー・ワシントンJr.(Grover Washington Jr.、以下「ワシントンJr.」と略)は、スムース・ジャズの父、フュージョン・ジャズにおけるサックスの帝王と呼ばれていたが、それ故、彼の名前を出すと「ああ、コマーシャルでソフト&メロウな、フュージョン・サックスね」と、結構、低く見られることが多かった。大体、そういう輩は、ワシントンJr. のサックスをちゃんと聴いていない。失礼千万である。

Grover Washington, Jr.『Then and Now』(写真左)。1988年の作品。ちなみにパーソネルは以下の解説の通り、3つのセッションに分かれる。

注目は、1曲目のロン・カーター作の「Blues for D. P.」、2曲目のハービー・ハンコック作の「Just Enough」、5曲目のワシントンJr.作の「Lullaby for Shana Bly」のセッション。ワシントンJr.のサックスのワンホーンに、ハンコックのピアノ、カーターのベース、スミスのドラムの、バリバリ純ジャズ系の超一流リズム・セクションがバックを固める。

そう、これが、素晴らしい、メインストリーム志向の純ジャズな演奏なのだ。力感溢れる、歌心溢れる、流麗で切れ味の良いサックス。これ、ワシントンJr. のリーダー作と知らずに聴いたら、この素晴らしいサックス、誰だ、となる。

そして、ばりばりとハードバップ風だが、新しい響き満載のバッキングを弾き進めるピアノ、これも、誰だ、となる。骨太のアタッチメントで増幅されたベース、これは、もしかしたら、ロン・カーターか、と思うが、そんなことは無いだろうと思い直す、そして、この新しい響きを宿したポリリズミックなドラム、これも、誰だ、となる。

この素晴らしい、メインストリーム志向の純ジャズな演奏のパーソネルは、 Grover Washington Jr. (sax), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Marvin "Smitty" Smith (ds)。1曲目の「Blues for D. P.」にだけ、Grady Tate (ds, track: 1) がゲストに加わる。

次に注目するのが、4曲目のトミー・フラナガン作の「Something Borrowed, Something Blue」、7曲目、デューク・エリントンの「In a Sentimental Mood」の、サックスとピアノのデュオ。これがまた、正統派ハードバップなデュオ演奏で、この洒脱で小粋でバップなピアノは誰だ、となる。そして、正統派ハードバップなサックスが、そんなピアノに相対する。堂々とした切れ味の良いサックス。これ誰だ、となる。
 

Grover-washington-jrthen-and-now

 
この素晴らしい、メインストリーム志向の純ジャズなデュオ演奏のパーソネルは、Grover Washington Jr. (sax), Tommy Flanagan (p)。

残りの3曲目「French Connections」、6曲目「Stolen Moments」、8曲目の「Stella by Starlight」は、有名なジャズ・スタンダード曲。このスタンダード曲を、コンテンポラリー・ジャズ志向のフュージョンな演奏で、新しい解釈を表現している。これが意外と見事で、これって、純ジャズ復古後の「ネオ・ハードバップ」な演奏かな、と思う。誰がやってるんだ、となる。

このコンテンポラリー・ジャズ志向のフュージョンな演奏で、ハードバップやるパーソネルは、Grover Washington Jr. (sax), Igor Butman (ts), James "Sid" Simmons (p), Richard Lee Steacker (g), Gerald Veasley (5-string el-b), Darryl Washington (ds), Miguel Fuentes (perc)。

この『Then and Now』は、ワシントンJr. の純ジャズ盤である。メインストリーム志向の純ジャズな演奏で固められていて、その演奏も、当時の純ジャズ復古後の、新伝承派の新しいハードバップな解釈と比較しても、勝るとも劣ることのない、正統派な純ジャズな演奏が、コンテンポラリー・ジャズ志向のフュージョンな響きを前提で演奏されている。

これが、1960年代のモーダル演奏の響きに戻った、新伝承派の新しいハードバップの解釈とは正反対のアプローチで、フュージョン・ジャズの演奏スタイル、響き、要素を「正」と捉えて、ワシントンJr. は、メインストリーム志向の純ジャズを展開している。

今の耳で聴くと、これって「正解」なアプローチで、このフュージョン・ジャズの演奏スタイル、響き、要素を「正」と捉えているところは、現代の「ネオ・ハードバップ」に直結するところで、この盤に詰まっているスタンダード曲の演奏は、不思議と古さを感じない。

ワシントンJr. のサックスは正統派なもの。この盤に詰まっている、素晴らしいサックスの吹奏は、ワシントンJr. のサックスの実力の確かさを証明する。ワシントンJr. のサックスは、テクニックに優れ、歌心満載、特に流麗で爽快感のあるアルト・サックスは個性的でクセになる。この盤での、純ジャズなパフォーマンスは見事という他ない。

今までのジャズ盤紹介本でも、ジャズ雑誌でも、はたまた、ネットのジャズ記事でも、この盤の話題はほとんど見かけない。しかし、この盤は、ワシントンJr. が純ジャズに取り組んだ名盤だと僕は評価している。良いアルバムです。
 
 

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2024年6月22日 (土曜日)

ワシントンJr.の『Mister Magic』

フュージョン・ジャズとか、スムース・ジャズについて語ると、どうもウケが悪い。でも、ウケ狙いでブログ記事をアップしている訳では無いのだが、フュージョン・ジャズにも、スムース・ジャズにも「良い音楽」という類の好盤が沢山ある。我がヴァーチャル音楽喫茶『松和』では、フュージョン・ジャズ、スムース・ジャズも、きっちり「守備範囲内」なので、適宜、好盤をご紹介している。

グローヴァー・ワシントンJr.(Grover Washington Jr.、以下「ワシントンJr.」と略)。スムース・ジャズの父、フュージョン・ジャズにおけるサックスの帝王。ソフト&メロウなフュージョンの代表盤『Winelight』が大ヒットしたことから、軟弱ジャズ、商業主義ジャズと揶揄されることが多々あった ワシントンJr. だが、生前に残したリーダー作については、「良い音楽」の類の、水準以上の優れた内容のものばかり。

Grover Washington Jr.『Mister Magic』(写真左)。1974年の作品。ちなみにパーソネルは、Grover Washington Jr. (sax), Bob James (ac-p, Fender Rhodes, arr, cond), Eric Gale (g), Phil Upchurch (b, track:1), Gary King (b, track:2-4), Harvey Mason (ds), Ralph MacDonald (perc)。プロデューサーは Creed Taylor。 収録曲全4曲。トータル33分弱と収録時間は短いが、内容は濃い。

この『Mister Magic』は、クロスオーバー&フュージョン・ジャズ志向なワシントンJr. を捉えたものだが、クロスオーバー&フュージョン・ジャズ志向の「源」は、ボブ・ジェームスのアレンジと、バックバンドの演奏内容にある。それほど、この盤での、ボブ・ジェームスのアレンジは秀逸。メインストリーム志向のコンテンポラリー・ジャズとしても良い、軟弱ジャズや商業主義ジャズの欠片も無い、硬派で真摯で実直なアレンジはアーティステックですらある。
 

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ワシントンJr. のサックスは正統派なもの。スムース・ジャズの父、フュージョン・ジャズにおけるサックスの帝王なんてニックネームがあるので、「ワシントンJr. のサックスって、純ジャズの名手達と比べるに値しないんだろう」と思うジャズ者の方々も多いかと思うが、どうして、ワシントンJr. のサックスは正統派で確かなもの。テクニックに優れ、歌心満載、特に流麗で爽快感のあるアルト・サックスは個性的でクセになる。

ボブ・ジェームスの独特のフレーズと音の重ね方を伴ったローズが、そこはかとなく趣味の良いファンクネスを漂わせ、ゲイルのソウルフルで歌心溢れるフレーズとカッティングが、フュージョン・ジャズな雰囲気を増幅させる。メイソンの端正で余裕溢れるドラミングとマクドナルドのパーカッションが洒脱でアーバンな雰囲気を醸し出し、アップチャーチとキングのベースが、ソリッドでファンキーなビートを供給する。

アルバム全体の内容は「ジャズ・ファンク」の一言では括れない。スピリチュアル・ジャズな要素、R&Bな要素、ジャズ・ファンク&ジャズ・ロックな要素、ニュー・ジャズっぽいプログッシヴな響きを、効果的に交わり融合させた、クロスオーバー&フュージョン・ジャズ。当時として、新しい響き溢れる、メインストリーム志向のコンテンポラリー・ジャズである。

ちょっと趣味の悪い、ワシントンJr. のアップのジャケットで損をしているアルバムだが、ビルボード200で10位、R&Bとジャズのチャートででそれぞれ1位を獲得した、実績ある超人気盤。しかし、よくこのジャケットでこれだけ売れたなあ、と改めて思う(笑)。ジャケには我慢が必要だが、その他は文句無しのワシントンJr. 初期の名盤です。
 
 

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2023年6月14日 (水曜日)

エレクトラ時代の最終作です。

「グローヴァー・ワシントン・ジュニア(Grover Washington Jr.)」。以降、略して「ワシントンJr.」。彼が「スムース・ジャズの父」と形容される個性を確立したのが、1980年から1985年にかけての、エレクトラ(Elektra)レコードの時代。このエレクトラ時代の5枚のリーダー作で、ワシントンJr. の音楽性と個性が確立された。

Grover Washington Jr.『Inside Moves』(写真左)。1985年の作品。ちなみにパーソネルは、Grover Washington Jr.(sax), Richard Tee (Fender Rhodes), Eric Gale: Guitar (g), Marcus Miller (b), Ralph MacDonald (ds, perc), Buddy Williams (ds)。ゲストとして、Steve Gadd (ds, on A1), Anthony MacDonald (perc, on A3, B1 & B3), Anthony Jackson (b, on A3)。

ワシントンJr.のエレクトラ時代の5枚目、最終作になる。録音時のメンバーもある程度固定しており、アルバム全体の演奏の雰囲気の統一感が増していて、リーダー作としてしっかりとした内容に仕上がっている。ソフト&メロウなフュージョン・サウンドではあるが、仄かにR&B志向、ジャズ・ファンク志向の音作りが見え隠れする。

名盤『Winelight』の「Just The Two of Us」の二匹目のドジョウ的なボーカル曲が良いアクセントになっている。1982年にユランダが歌った「Watching You Watching Me」をカヴァーした3曲目と6曲目の「When I Look at You」。
 

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どちらの曲も、ジョン・ルシアンをゲスト・ヴォーカリストとして採用し、雰囲気良く唄い上げている。そして、ルシアンのヴォーカルに絡むワシントンJrのサックスがとても良い。ワシントンJr.は、ヴォーカルの伴奏役としても、素晴らしいサックスを聴かせてくれる。

続く4曲目の「Secret Sounds」、5曲目の「Jet Stream」、そしてラストの「Sassy Stew」は、ワシントンJr.のサックスがとってもソフト&メロウ。意外と力感溢れるブロウで、男気溢れる吹奏はまさに「ジャズ」。

マーカス・ミラーのエレベもキッチリ効いて、演奏全体の滑らかさは、明らかに後のスムース・ジャズの先駆け。バックの演奏はテクニック良く、しっかりまとまっているので、演奏全体が易きに流れない。決して、イージーリスニングにはならない。

そうそう、冒頭1曲目のタイトル曲「Inside Moves」は、後の、Steve Gadd『The Gadd Gang』の2曲目の「Strength」と同一曲です。この曲は「Steve Gadd, Ralph MacDonald, William Salter」の共作。この曲のバックのリズム隊には、スティーヴ・ガッドがドラムでゲスト参加しているので、この盤では曲名を「Inside Moves」として、ガッドが自らのバンドで録音時には、何故か曲名を変えて収録したものと思われます。
 
 

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2023年6月 4日 (日曜日)

エレクトラ時代のワシントンJr.

スムース・ジャズの父、フュージョン・ジャズにおけるサックスの帝王と呼ばれる「グローヴァー・ワシントン・ジュニア(Grover Washington Jr.)」。以降、略して「ワシントンJr.」。そのワシントンJr. が、その音楽性と個性を確立させたのが、エレクトラ(Elektra)レコードの時代。

アルバム・タイトルとして、『Paradise(パラダイス)』(1980年)、『Winelight(ワインライト)』(1982年)、『Come Morning(カム・モーニング)』(1983年)、『The Best Is Yet to Come(訪れ)』(1984年)、『Inside Moves(インサイド・ムーヴス)』(1985年) の5枚。この5枚で、ワシントンJr. の音楽性と個性の全てが理解出来る。

Grover Washington Jr.『Paradise』(写真左)。1979年のフィラデルフィア録音、1979年のリリース。ちなみにパーソネルは、Grover Washington Jr. (sax, fl, , el-p (7)), James "Sid" Simmons (p), Richard Lee Steacker (g), Tyrone Brown (b), Millard "Pete" Vinson (ds,),Leonard "Doc" Gibbs (perc), John Blake Jr. (vln)。エレクトラ・レコード時代の第一弾。この盤から、ワシントンJr. の伝説は始まるのだ。
 

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エレクトラ・レコードからのリリースと並行して、モータウン・レコードからもリーダー作をリリースしており、モータウンでは、アレンジの志向としては、ライトな「ソウル、R&B」志向のアレンジがメイン。こちら、エレクトラでは、ライトな「ソウル、R&B」志向以外の様々なアレンジにチャレンジしている。

ラテン風、ボサノバ風を含め、バラエティーの富んだアレンジではあるが、基本は「ソフト&メロウ」な、正統フュージョン・ジャズ。力感溢れる流麗サックスがブリリアントなワシントンJr.の真骨頂。特にLP時代のB面、CDでは4曲目「Asia's Theme」以降は、ソフト&メロウな正統派フュージョンのオンパレードで、このB面は聴きどころ満載。ワシントンJr. のフュージョン・ジャズが確立された瞬間を捉えている様で、演奏全体の雰囲気は素晴らしい。

ただ、バックのメンバーは、録音地の地元フィラデルフィアのミュージシャンを採用しているらしく(どうりでパーソネルを見て、知らない名前ばかりが並んでいる)、ちょっと洗練度に欠けるところが惜しい。それでも、ワシントンJr.のサックスは充実しまくりなので、良しとしましょう。そして、ワシントンJr. は、次作以降、この盤のLP時代のB面の演奏〜展開の洗練度を高めていく。
 
 

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2023年5月25日 (木曜日)

ワシントン・ジュニアの『訪れ』

グローヴァー・ワシントンJr.(Grover Washington Jr.、以下「ワシントンJr.」と略)。スムース・ジャズの父、フュージョン・ジャズにおけるサックスの帝王。

そんなワシントンJr.が一番ポピュラーなアルバムをリリースしたのが「エレクトラ時代」。作品的には1979~1984年のリリース。「スムース・ジャズの父」と呼ばれるに相応しいアルバムを5作品リリースしているが、かの有名な『Winelight』もそんな中の一枚。

この『Winelight』だけが突出して扱われるので、ワシントンJr.は「一発屋」と誤解されることが多いが、どうして、エレクトラ時代の他の4枚も、スムース・ジャズの父」と呼ばれるに相応しいどれもが出来は上々。

Grover Washington Jr.『The Best Is Yet To Come』(写真)。邦題『訪れ』。1982年の作品。ちなみにパーソネルは、であるが、この作品、曲毎にパーソネルが異なるので、詳細は割愛する。主だったところをピックアップすると、Richard Tee (key), Eric Gale (g), Marcus Miller (b), Ralph MacDonald (perc) 等々、フュージョン畑の強者どもがしっかり参加している。

内容的には前々作の大ヒットアルバム『Winelight』の路線を踏襲している。ビル・ウィザースの名唱入りのヒット曲「Just the Two of Us(クリスタルの恋人たち)」に味を占めた訳では無いだろうが、このアルバム『訪れ』には、ボーカル入りの曲が3曲も入っている。
 

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メロウでグルーヴ、パティ・ラベルの名唱入りのタイトル曲「The Best Is Yet To Come」。ブラジリアン・スタイル、ボビー・マクファーリンの名唱入りの「Things Are Getting Better」。アーバンでソウルフルな雰囲気濃厚、セドリック・ナポレオンの名唱入りの「I'll Be With You」。

いずれのボーカル入り曲も、フュージョン・ジャズの「ツボ」を押さえていて、なかなかの出来。特に、バックの、フロント管、リズム・セクション含め、ソフト&メロウな「R&B志向」のパフォーマンスがとても心地良い。特にベース、ドラム、パーカッションがそこはかとなく効いている。

他のインスト曲は充実硬派なフュージョン・ジャズ。決して、イージーリスニングに流れない、ソフトにライトに、がっつりジャズ・ファンクしたパフォーマンスは見事。

ワシントンJr.は、相も変わらず、ソフィスティケイトされたサックス・ソロを聴かせる。トロピカル色豊かな、ソフト&メロウなフュージョン・チューン「More Than Meets The Eye」が特に良い感じ。

『Winelight』ばかりがクローズアップされるので、ちょっと地味な印象のアルバム『訪れ』であるが、ワシントンJr.をはじめ、フュージョン畑の名手達が腕によりをかけて、素晴らしいフュージョン・パフォーマンスを披露している。聴けば聴くほどに味わい深くなる好盤です。
 
 

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2023年3月21日 (火曜日)

ソウル, R&B志向のワシントンJr.

Grover Washington, Jr.(グローヴァー・ワシントン・ジュニア、以降「ワシントンJr.」と略)の聴き直しと再評価を進めている。

ワシントンJr.は、あのソフト&メロウなフュージョン・ジャズの名盤『Winelight』のイメージが強くて、我が国では、軟弱でイージーリスニング志向の「スムース・ジャズ」なサックス奏者というレッテルを貼られて久しい。しかし、ワシントンJr.のリーダー作を初リーダー作から遺作まで聴き通すと「それは違うなあ」ということが良く判る。

Grover Washington, Jr.『Reed Seed』(写真)。1978年の作品。ちなみにパーソネルは、Grover Washington Jr. (sax), James "Sid" Simmons, John Blake Jr. (key), Richard Lee Steacker (el-g), Tyrone Brown (b), Millard "Pete" Vinson (ds), Leonard "Doc" Gibbs (perc), Derrick Graves (arr)。

ワシントンJr. が、多くの好盤を残したkudoレーベルを離れて、モータウンからリリースした「移籍第一弾」。モータウンといえば、ソウル、R&Bがメインのメジャー・レーベルだが、ワシントンJr. は、意外と硬派な「フュージョン・ジャズ」で勝負している。
 

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が、アレンジの志向としては、ライトな「ソウル、R&B」志向のアレンジがなされており、他の「ソフト&メロウな」フュージョン・ジャズ盤とは一線を画する、ソウルもしくはR&B志向のフュージョン・ジャズがとても個性的。

内容的には実に充実して優れていると思うんだが、我が国では何故か「ソウルもしくはR&B志向のフュージョン」は受けが悪い。この盤も、ワシントンJr.のリーダー作紹介の中で、そのタイトル名が上がることは無い(僕は見たことが無い)。

しかし、である。この盤、ソウルもしくはR&B志向のフュージョン盤として、とても良い内容なのだ。後にサンプリングされている曲もあって、実にナイスな、ライトでアーバンなジャズ・ファンクな志向も見え隠れする。ラストのワシントンJr.作の「Loran's Dance」のファンクネスは実に芳しく、Billy Joelの「Just The Way You Are(素顔のままで)」のソウルフルなカヴァーはとても良い。

ワシントンJr. のサックスは、ライトな「ソウル、R&B」志向のアレンジの中、意外と力強くテクニカル。歌心は当然「抜群」で聴き応えがある。ワシントンJr. の好盤として、再評価すべき好盤だと思います。
 
 

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2023年3月 2日 (木曜日)

ワシントンJr.のリーダー作第2弾

Grover Washington, Jr.(グローヴァー・ワシントン・ジュニア、以降、ワシントンJr.と略)。クロスオーバー&フュージョン・ジャズの名サックス奏者。しっかりと情感が込めて、力感溢れエモーショナルでハードボイルドな吹きっぷりから、ソフト&メロウに囁くように吹く繊細な吹きっぷりまで、その表現力は高度で多彩。非常に優れたサックス奏者の1人だと思うのだが、何故か我が国では人気がイマイチ。

風貌が良くないのかなあ。クロスオーバー&フュージョン・ジャズの人気のあるジャズマンは、一様に「イケメン」揃い。そういう点では、ワシントンJr.はちょっと損をしているのかなあ。風貌はどう見ても、マッチョでガテン系の風貌で、どう見ても「イケメン」風では無いし、柔和な「優男」風でも無い。でも、良いサックスを吹くんですよ。ブリリアントで重心が低くてファンキーで、説得力があり、訴求力のあるサックスを吹くんだがなあ。

Grover Washington, Jr.『All The King's Horses』(写真)。1972年5ー6月の録音。ちなみにパーソネルは、Grover Washington Jr. (sax), Bob James (key, arr, cond), Richard Tee (org), Gene Bertoncini, Cornell Dupree, Eric Gale, David Spinozza (g), Marvin Stamm (tp, Flgh), Gordon Edwards, Ron Carter (b), Bernard Purdie, Billy Cobham (ds), Airto Moreira (perc), Ralph MacDonald (congas)。ここに、ブラス・セクションとストリングスが加わるゴージャズな布陣。
 

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このワシントンJr.のセカンド盤もフュージョン畑の優れ者達が集結。特に、キーボードに、リチャード・ティー、エレギのコーネル・デュプリーとエリック・ゲイル、そして、ベースにゴードン・エドワーズと、後の伝説のフュージョン・バンド「スタッフ」のメンバーがほぼ集結しているのが目を引く。このメンバーが中心の演奏は、グルーヴ感&ファンクネス漂う「R&B志向」の素敵な演奏に仕上がっている。そう、このワシントンJr.のリーダー作第2弾は「R&B志向」の音作りがメインになっている。

ソウル・エレジャズ、と形容したら良いかと思う。ビル・ウイザースの「Lean On Me」のカバーや、エモーショナルにファンキーに吹き上げる「Love Song」、ソフト&メロウでスムースな雰囲気が素敵な「Where is The Love」等が如何にもソウルフル&ファンキー。そして、極めつけは、ジャズ・スタンダードの「Lover Man」。この「Lover Man」のエレジャズ化は、メロウな序盤からファンキーに展開していく雰囲気は、とっても「ソウルフル」。これ、本当に良い雰囲気です。この盤でイチ推しの名演。

ワシントンJr.には「ソウルフル」が良く似合う。初リーダー作は、シンプルでストレート・アヘッドな、純ジャズ志向のエレジャズだったが、今回は、アルバムの雰囲気を「ソウルフル」&「R&B」に絞ったプロデュースが大正解。この盤が「全米・Jazzチャ-ト・第1位」に輝いたのも頷ける。クロスオーバー&フュージョン・ジャズも捨てたもんじゃない。
 
 

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2023年3月 1日 (水曜日)

ワシントンJr.の初リーダー作です

Grover Washington, Jr.(グローヴァー・ワシントン・ジュニア)。このサックス奏者は、ソフト&メロウなフュージョン・ジャズの代名詞『Winelight』が大ヒットしたが故、かなり誤解されているなあ、と感じることが多い。彼のリーダー作の全てを聴き直してみると、やっぱり、彼の評価に偏りがあるなあ、と感じることが多い。

グローヴァー・ワシントン・ジュニアと言うと、ベテランのジャズ者の方々は「ああ、あのソフト&メロウなサックス奏者ね」と冷ややかに反応することが多い。でも、ですね。このサックス奏者、意外と硬派で正統派なサックスを吹くんですよ。『Winelight』は、彼のサックスのテクニックと表現力が高い証明で、あの究極のソフト&メロウなブロウは、彼の表現パターンのひとつに過ぎないのだ。

Grover Washington, Jr.『Inner City Blues』(写真)。1971年9月の録音。 Kudu Recordsからのリリース。ちなみにパーソネルは、Grover Washington Jr.(sax), Bob James (el-p, arr, cond), Richard Tee (org), Eric Gale (g), Ron Carter (b), Idris Muhammad (ds), Airto Moreira (perc), Donald Ashworth (bs), Wayne Andre (tb), Thad Jones (tp, French horn), Eugene Young (tp, flh)。プロデューサーは、フュージョンの仕掛け人の1人、クリード・テイラー。

ということで、グローヴァー・ワシントン・ジュニア(以降、ワシントンJr.と略)の初リーダー作を聴いてみる。ジャズマンにおいて、初リーダー作は、そのジャズマンの個性と特徴をしっかり反映しているので、そのジャズマンの素姓を知るには、まず初リーダー作を聴くに限る。
 

Grover-washington-jrinner-city-blues

 
このワシントンJr.の初リーダー作、パーソネルを見渡すと、当時のフュージョン・ジャズの担い手ジャズメンがズラリと顔を揃えている。アレンジはボブ・ジェームス。プロデューサーはクリード・テイラー。1971年の作品だが、後のフュージョン・ジャズを見据えた、コンテンポラリーでクロスオーバーなエレ・ジャズに仕上がっていて、ちょっとビックリする。これ、硬派なフュージョン・ジャズそのもの、と言っても良い位の「内容充実」な盤である。

バックのボブ・ジェームス節をしっかり踏まえた、お洒落でクールで躍動感溢れるアレンジに乗って、硬派で正統派なワシントンJr.のサックスのエモーショナルで力強くて流麗なサックスが乱舞する。明らかにフュージョン志向のアレンジなんだが、ワシントンJr.のサックスは意外とブリリアントで重心が低くてファンキー。説得力があり、訴求力のあるサックスで、ソフト&メロウな軟弱さなんて、どこにも無い。

ワシントンJr.は唄う様にサックスを吹き上げる。力感溢れエモーショナルでハードボイルドな吹きっぷりから、ソフト&メロウに囁くように吹く繊細な吹きっぷりまで、その表現力は高度で多彩。それは決してテクニカルで無く、しっかりと情感がこもっている。後のフュージョン・ジャズのサックスの雰囲気を先取りしたかの様な、このワシントンJr.の表現力豊かなサックスは、当時としてはかなり先進的だったのでは無いか。

このワシントンJr.の初リーダー作は、ワシントンJr.のサックスマンとして、とても優れた資質と個性を持っていることが良く判る。我が国では、何故か「ソフト&メロウなフュージョン・サックス野郎」の位置づけで留まっているが、もっとワシントンJr.のサックスの本質を再評価して欲しいなあ、とこの初リーダー作を久し振りに聴いて、再び思った次第。お気に入りのフュージョン好盤です。
 
 

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2021年10月13日 (水曜日)

完全フュージョンなワシントンJr.

グローヴァー・ワシントン Jr. (以降、ワシントンJr. と略す)って、1980年の大ヒット作『Winelight』まで、全くマイナーな存在だった思い出がある。なんせ『Winelight』がヒットした時、僕は ワシントンJr. って新人だと思ってた。

いや〜凄い新人が出てきたもんだ、と感心して、ADLIB誌でワシントンJr. の経歴を見て、1972年に初リーダー作と知ってビックリした。それまで、レコード屋で ワシントンJr. のアルバムを見たことが無かったのだから無理も無い。Kuduレーベル時代のアルバムは、普通のレコード屋には置いてなかったのでは、と思っている。

Grover Washington, Jr.『A Secret Place』(写真左)。1976年10月、NYのVan Gelder Studioでの録音。ちなみにパーソネルは、Grover Washington Jr. (ss, ts), Dave Grusin (ac-p, Rhodes), Eric Gale (g), Steve Khan (g), Anthony Jackson, George Mraz (b), Harvey Mason (ds), Ralph MacDonald (perc), Gerry Niewood (as), John Gatchell (tp)。ホーン・アレンジに David Matthews。プロデュースは Creed Taylor。

この盤もKuduレーベル時代の好盤である。メンバーも前作とガラリと変え、基本編成が「西海岸フュージョン仕様」になった。特に、ディヴ・グルーシンのキーボードと、ハーヴィー・メイソンのドラムが効いている。ホーン・アレンジもマシューズの器用なアレンジで「西海岸フュージョン仕様」。西海岸フュージョンのライトでアーバンでちょっとラフなバックの演奏が、意外とワシントンJr. のソプラノ・サックスと相性が良い。
 

A-secret-place

 
全曲、通して聴くと、完全にイージーリスニングなエレ・ジャズから、フュージョン・ジャズへの移行が完了した、フュージョン・ジャズならではの音作りがなかなか小粋である。冒頭のタイトル曲「A Secret Place」は、ソフト&メロウなジャズ・ファンク。マクドナルドのパーカッションやソウルフルなコーラスも上手く填まって、ワシントンJr. のソプラノ・サックスが映える。ソフト&メロウなフュージョン色満載である。

続くハービー・ハンコックの名曲「Dolphin Dance」が面白い。グルーシンの印象的なローズの前奏から始まるところから「ソフト&メロウ」。このグルーシンのローズを伴奏に、ワシントンJr. はソプラノ・サックスのソロを吹き続けて行く。ベースは純ジャズ志向のムラーツが担当。基本、ワシントンJr. のソプラノ、グルーシンのローズ、ムラーツのベースの変則トリオの演奏で、フュージョンでは無い、メインストリームな純ジャズ志向のパフォーマンスがとても良い。

3曲目「Not Yet」、ラスト「Love Makes It Better」などは、ソウル・ジャズの影が見えるものの、完全にフュージョン・ジャズなテイスト。こってこて「ソフト&メロウ」な演奏をバックに、ここではワシントンJr. はテナー・サックスを吹いていて、これがちょっと無骨な印象与えているのが面白い。後にアルト・サックスを追加したのも理解出来る。

この盤『A Secret Place』は、ワシントンJr. が「ソフト&メロウ」なフュージョン・ジャズに完全移行を完了した好盤ですね。
 
 
 
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2021年10月12日 (火曜日)

kudu時代のワシントンJr. 再評価

10月に入って、季節外れの暑い日が続いているが、朝夜は涼しくなった。涼しくなると、決まってクロスオーバー&フュージョン・ジャズが聴きたくなる。これだけ涼しくなると、電気楽器の熱い音を、ホットな8ビートなリズム&ビートを汗をかきかき聴くこともない。夏の間、お休みしていたクロスオーバー&フュージョン・ジャズを再び聴き始めた。

Grover Washington, Jr.『Feels So Good』(写真)。1975年5月, 7月、Van Gelder Studioでの録音。ちなみにパーソネルは、メイン・メンバーとして、Grover Washington Jr. (ss, ts), Bob James (key, arr), Eric Gale (g), Gary King, Louis Johnson (b), Steve Gadd, Jimmy Madison, Kenneth "Spider Webb" Rice (ds), Ralph MacDonald (perc), Sid Weinberg (oboe, English horn)。オーボエ&イングリッシュ・ホルンが入って、ベース、ドラムは曲によって使い分ける、セプテット編成(7人編成)。

そこに加わるブラス・セクションが、Alan Raph, Dave Taylor, Barry Rogers (tb), Randy Brecker, Jon Faddis, John Frosk and Bob Millikan (tp, flh)。これがなかなかのメンバーで編成されている。そして、スリングスが加わる、大掛かりな編成のフュージョン・ジャズ。

リーダーはサックス奏者のグローヴァー・ワシントン・ジュニア(以降、ワシントンJr. と略す)。1980年の大ヒット作『Winelight』が突出していて、他のリーダー作はあまり顧みられていない。しかし、初リーダー作『Inner City Blues』以降、なかなかの秀作をリリースし続けている。基本的に「駄盤」は無いのが、フュージョン・ジャズの寵児、ワシントンJr. の真骨頂。
 

Feels-so-good

 
この盤は、ボブ・ジェームスが全面的にバックアップしている。プロデュースこそ、クリード・テイラーが担当しているが、アレンジ、そして、キーボード全般はボブ・ジェームスが担当。しかも、アレンジ、キーボード、共に、ボブ・ジェームスの最高のパフォーマンスがこの盤に詰まっている。

ワシントンJr. のサックスは、ボブ・ジェームスのアレンジとの相性が良い。ワシントンJr. の流麗で「ソフト&メロウ」なサックスをしっかり引き立てる、ボブ・ジェームスの「クールでパンチの効いた」アレンジ。リズム隊は、フュージョン・ジャズ系の独特な縦ノリ8ビートを叩きだして、演奏全体の「ソフト&メロウ」な雰囲気をグッと引き締めて、甘きに流れず、意外とダンディズム溢れるフュージョン・ジャズを展開している。

この盤では、これまでのリーダー作で、必ず数曲入っていたソウル、ポップスのカヴァー演奏が無くなって、メンバーのオリジナル曲で占められていること。リズム&ビートや音作りが、硬派ではあるが「ソフト&メロウ」にシフトしていること。ワシントンJr.にとって、イージーリスニングなエレ・ジャズから、フュージョン・ジャズへの移行期の秀作である。

kudu時代のワシントンJr. は、以前は入手し難い状態が続いたので、あまり話題にもならなかったし、注目もされなかった。が、今では、リイシューも完了し、気軽に聴くことが出来る環境にある。フュージョン・ジャズ者の方々は、このkudu時代のワシントンJr. の一聴をお勧めしたい。フュージョン・ジャズ時代前期の、なかなかの内容のパフォーマンスを聴くことが出来ます。
 
 
 
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