2026年6月12日 (金曜日)

ECMの音世界の完璧な具現化

これは傑作だろう。北欧の冷涼で幻想的なサウンドと、創造的で圧倒的な即興演奏が融合した、初期ECMを代表する傑作。モダン・ジャズの枠組みを飛び越え、裾野を広げ、アンビエント・ミュージック(環境音楽)や現代音楽、プログレッシブ・ロックの要素までをも内包した、緊張感溢れ、切れ味鋭い、底知れぬ深みを持つ独自の静謐な音世界を構築している。

『Terje Rypdal / Miroslav Vitous / Jack DeJohnette』(写真左)。1978年6月、オスロの「Talent Studio」での録音。ECMの1125番。ちなみにパーソネルは、Terje Rypdal (g, g-syn, org), Miroslav Vitouš (b, el-p), Jack DeJohnette (ds)。トリオ3人による、ECMの標榜する音世界「沈黙の次に美しい音」を具現化した、完全な即興演奏の記録。

ジャック・デジョネットの鋭く変幻自在なシンバルワークと、アグレッシブでポリリズミックなドラミング。ミロスラフ・ヴィトウスのソリッドでモーダルな自由度の高いベースライン、アルコを使った幻想的なベースプレイ。ノルウェー出身のギタリスト、テリエ・リピダルの独自のディレイやボリュームペダル、ギターシンセを駆使した、クリスタルで冷涼な空間的な美音を飛翔させるギタープレイ。この3人によるインタープレイが尋常では無い。
 

Terje-rypdal-miroslav-vitous-ja_20260612214101  

 
ヴィトウスの哀愁を帯びたベースライン、リピダルのドライブ感あるギター、デジョネットのポリリズミックな緩急自在・変幻自在・硬軟自在なドラミング。そして、単なる「ギター・ベース・ドラム」のトリオにとどまらず、メンバーが複数の楽器やエフェクターを駆使してオーケストラのような空間的な広がりを作っている。この3人の「三位一体」となったインプロビゼーションの圧倒的な空気感、即興演奏の緊張感、豊かな音の色彩感は、筆舌に尽くしがたい。

冒頭の「Sunrise」からして、既にただならぬ雰囲気の音世界。デジョネットの緊張感溢れる切れ味抜群のシンバルワークから始まり、エレキピアノでベースラインを表現する独創的なアプローチが重なり、そこにリピダルの魂を揺さぶるエレキギターが飛翔し浮遊し、切れ込む。この冒頭の1曲が、このアルバム全体の音世界を代表している。

米国のジャズとは一線を画す、1970年代以降の「欧州ジャズ」のアイデンティティを決定づけた、歴史的一枚である。非現実的で、痛烈な美しさを持つ音響空間、ジャズの枠を超越したスピリチュアルな音楽といった、ECMが追求する「沈黙の次に美しい音」を完璧に具現化した一枚である。
 
 

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2026年6月11日 (木曜日)

ジャズ喫茶で流したい・325

コルトレーン時代のような4ビートのアヴァンギャルド・ジャズにとどまらず、ジーン・パーラが一部でエレクトリック・ベースを導入、ボサノヴァ調のリズムとファンキーなベースラインが融合し、後のスピリチュアルなジャズ・ファンクの先駆けとも言えるキャッチーなサウンドが興味深い。

Elvin Jones『Genesis』(写真左)。1971年2月12日、Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ での録音。ブルーノートの4369番。ちなみにパーソネルは、Elvin Jones (ds), Joe Farrell, Dave Liebman (ts, ss), Frank Foster (ts, fl, cl), Gene Perla (b)。エルヴィンの1970年代前半のマルチ・リード編成の幕開けを告げた、記念碑的なアルバム。

このところの十八番である「ピアノレス・クインテット」。ピアノ(コード楽器)を排除し、3人の強力なサックス奏者とベース、ドラムという編成を採用。これにより、独自の「空間的な広がり」と自由度の高いインプロが展開されている。ここにきて、マルチ・リードのフロント編成に落ち着いた模様。マルチ・リードのフロント管によって、コルトレーン色が一掃されるのだから、ジャズにおいて、演奏の編成も重要な要素なのが良く判る。
 

Elvin-jonesgenesis  

 
ハード・バップの力強さを残しつつ、70年代特有のスピリチュアル・ジャズやジャズ・ファンクの要素も内包した、当時として先駆的な「ポスト・バップ」な音世界。エルヴィンの複雑に絡み合うポリリズム(多重リズム)と激しいドラムロールが、バンド・パフォーマンスを極限までドライヴさせているのが印象的。ジーン・パーラのファンキーなベースワークも聴きどころ満載。

フランク・フォスター、デイヴ・リーブマン、ジョー・ファレルの3本テナーが基本の、重厚な3管フロントのブロウが強力だが、フォスターが持ち替えるアルト・フルート、アルト・クラリネット、ファレルとリーブマンのソプラノ・サックスが、色彩豊かなアンサンブルを生み出しているところも注目である。

この『Genesis』で「マルチ・リードによるピアノレス・クインテット」という独自のフォーマットを確立したエルヴィン。ここにきて、「コルトレーン・クァルテットの影」からの完全な自立を果たしたように感じる。エルヴィン印のポスト・バップの方向性の大本がこのアルバムにある。ここから、エルヴィンのポスト・バップの快進撃が始まる。
 
 

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2026年6月10日 (水曜日)

絶望を癒やす瞑想ジャズの聖典

夫君であった巨匠ジョン・コルトレーンの逝去(1967年)という深い喪失感のなか、アリスが東洋思想やヒンドゥー教の導師スワミ・サッチダーナンダ(Swami Satchidananda)との出会いを通じて、自らの精神的救済と覚醒を音楽へと昇華させた、「アリスの考えるスピリチュアル・ジャズ」の最初の成果である。

Alice Coltrane『Journey in Satchidananda』(写真左)。1970年7月4日(track :5)、NYの「Village Gate」でのライブ録音。1970年11月8日(track :1ー4)、ニューヨーク州ディックスヒルズにあるコルトレーンの自宅スタジオでの録音。ちなみにパーソネルは、以下の通り。

1970年11月8日(track :1ー4)は、Alice Coltrane (harp, p), Pharoah Sanders (ss, perc), Cecil McBee (b), Rashied Ali (ds), Tulsi Sen Gupta (tanpura), Majid Shabazz (bells, tambourine)。
1970年7月4日(track :5)は、Alice Coltrane (harp), Pharoah Sanders (ss, perc), Charlie Haden (b), Rashied Ali (ds), Vishnu Wood (oud)。

アリス・コルトレーンの4枚目のリーダー作。1970年代のスピリチュアル・ジャズの傑作である。1960年代後半、夫君であった、ジョン・コルトレーンが標榜したスピリチュアル・ジャズ。それは、未整理、未成熟、直感的な類の演奏成果で、どうにもこうにも評価しにくい代物であった。
 

Alice-coltranejourney-in-satchidananda

 
しかし、このアリスの『Journey in Satchidananda』は違う。モーダルなジャズとスピリチュアルなジャズを融合し、理路整然としたスピリチュアル・ジャズを成立させている。しかも、しっかりとアレンジされ、しっかりとリハーサルを積んでいるんであろう、非常に整理された聴き易いスピリチュアル・ジャズに昇華されている。

従来のモダン・ジャズの音世界に、瞑想的(メディテーティブ)なドローン・ミュージック、インド音楽、アフリカや中東の民族音楽要素を融合させた、独自の宇宙的音響空間を構築しているところがこの盤の「肝」である。そして、アリスの大々的な、きらびやかで流麗なハープの導入もこの盤の個性。

そして、インドの伝統弦楽器「タンブーラ」が放つ個性的な持続音が、聴き手を深い瞑想状態へと誘うミニマルな土台を作っている。そして、ファラオ・サンダースのむせび泣くような、かつ包容力のあるソプラノ・サックスがエモーショナルな息吹を吹き込んでいる。

本作は、アリスが絶望から立ち直るための精神的ドキュメンタリーであり、ジャズとインド古典音楽の理想的な融合を果たした記念碑的作品。全編通じて、どこか明日を感じさせる様な「明るさ」が印象深い。ジャズとインド音楽の「真の融合」がこのアルバムの中に息づいている。スピリチュアル・ジャズの傑作の一枚。
 
 

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2026年6月 9日 (火曜日)

ECM流のフュージョン・ジャズ

前々作、1975年2月の録音の『Clouds in My Head』では、北欧ジャズを基本としたクロスオーバー・ジャズ、若しくはジャズ・ロックをやった。1976年10月録音の前作『Shimri』では、典型的なECMサウンドの中での欧州的なモード・ジャズ、静的でリリカルでクールで透明度溢れるモード・ジャズをやってのけた、ノルウェー出身のベーシスト、アリルト・アンデルセン。このアルバムはECMでのリーダー作第3作目である。

The Arild Andersen Quartet『Green Shading into Blue』(写真左)。1978年4月の録音。ECMの1127番。ちなみにパーソネルは、Juhani Aaltonen (ts, ss, fl), Lars Jansson (p, moog-syn, string ensemble), Arild Andersen (b), Pål Thowsen (ds, perc)。純アコースティックな路線から一歩進み、「初期フュージョン〜アンビエント・ジャズ」への架け橋となった作品。

前作とガラッと変わって、ECMレーベルのサウンド色に見合った、北欧の「フュージョン・ジャズ」的な音作り。1970年代後半の米国フュージョンによくある「派手なシンセ・ソロ」では無い、ラルス・ヤンソンが奏でるミニ・モーグやストリング・アンサンブルによって、アコースティックな響きの中に、ほのかなエレクトロニクスの色彩が加わり、より浮遊感のあるモダンな仕上がりとなっている。
 

Thearild-andersenquartetgreen-shading-in

 
4曲目の「Radka's Samba」が象徴的。クールでありながら疾走感のあるリズムが特徴で、純ジャズ、メインストリーム・ジャズとは明らかに一線を画している。この曲は一言で言うと「ECM流のジャズ・サンバ」。この曲が持つ「思わず頭を振ってしまう(Head-bobbing)ようなダンサブルなビートが、どう聴いても、それまでのECMジャズとは雰囲気が異なる。ECM流の北欧フュージョン・ジャズと言っても良い演奏内容。

リーダーのアンデルセンの「地を這うベース」。ラルス・ヤンソンが操る「背景に溶け込む電子音」。ポール・トヴセンの「自然界のざわめきの様な」繊細なパーカッション。ユハニ・アールトネンの「スピリチュアルな咆哮と静寂」。この4人の個性が、ECM流のフュージョン・ジャズを奏でている。この聴き易く、エレクトリックなイージーリスニング志向の音作りは、当時流行した「フュージョン・ミュージック」と符号が一致する。

長らくオリジナルのLPは廃盤状態が続き、わが国では、CDリイシューもなされず、完全にマイナーな存在のアルバムである。今では、2010年に、本作を含む初期カルテットの3部作が『Green in Blue: Early Quartets』という3枚組CDボックスとしてECMから復刻され、サブスク・サイトからストリーミング聴取が可能となって、やっとその内容を確認することが出来るようになった。ECMの異色盤である。
 
 

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2026年6月 8日 (月曜日)

キューンの熱く激しいECM盤

ECM Recordsのカタログ番号1101〜1199(1100番台)。キース・ジャレット、パット・メセニー、チック・コリアといったスターたちの歴史的名盤を生み出し、レーベルの代名詞である「静寂の次に美しい音楽」という世界観を完璧に決定づけたシリーズであるが、わが国では、そんなスター達のアルバムだけがリリースされ、他のアルバムはなかなかリリースされなかった。よって意外と当時は知らなかった隠れ好盤がずらずら。

Steve Kuhn『Non-Fiction』(写真左)。1978年4月、旧西ドイツの「Tonstudio」での録音。ECMの1124番。ちなみにパーソネルは、Steve Kuhn (p, perc), Steve Slagle (ss, as, fl, percu), Harvie Swartz (b), Bob Moses (ds)。米国出身のピアニスト、スティーヴ・キューンのECMレーベルでの4枚目のリーダー作。スティーブ・スレイグルのサックスがフロント1管のカルテット編成。

美しいメロディ、変拍子を交えた緊迫感のあるポリリズム、そしてECMらしい透明感と空間の広がりが融合した音世界が特徴。ECMという欧州ジャズの老舗レーベルでの制作とはいいながら、米国ジャズの伝統とアヴァンギャルドな実験精神が飛び交う、しかしながら、音の響きは欧州ジャズという、ECMレーベルならではの、米国と欧州のジャズが融合した、独特の音世界が広がっている。
 

Steve-kuhnnonfiction

 
リーダーのキューンのピアノは「尖っている」。叙情的なメロディを紡ぎながらも、予測不能でエッジの効いたコード展開を行うスタイルは、ECMジャズの中でも、メンストリームな純ジャズ路線を踏襲する音。ニュー・ジャズ系の耽美的でリリカルな「広がる様な透明感」とは、また違った、硬質でクリスタルな「切れ味の良い透明感」がこのアルバムに広がっている。

この盤では「即興演奏の爆発力とドライブ感」を徹底追求している。スレイグルのフルートとスワルツのベースが美しく絡み合う「The Fruit Fly」や、ファンキーなロック調のビートから4ビートのジャズへとスリリングに展開する11分超の大作「Alias Dash Grapey」など、バラエティに富んだアンサンブルやインタープレイを聴くことが出来る。

本作の直後、キューンは歌手のシーラ・ジョーダンを迎えたバンド活動へとシフトしたため、この「インストゥルメンタル・カルテットによる純粋な熱量」を捉えた録音としては、この盤のパフォーマンスがピークだと思う。シンプルで判り易いが、かなり高度で複雑なメインストリーム系純ジャズを展開している。キューンのピアノを語る上で、この盤は外せないだろう。
 
 

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2026年6月 7日 (日曜日)

早すぎた精神的ジャズ・ファンク

ブルーノートの4300番台。ここまでくると、胸を張って「ジャズ」とは言いにくい。しかし、バックの演奏は上質のジャズ・ファンク。本作は、1970年代初頭、ホレス・シルヴァーが展開した三部作プロジェクト『The United States of Mind』の「Phase 2(第2章)」にあたる意欲作。ファンキー・ジャズの巨匠がソウルやファンク、ボーカル・ジャズへと大胆に接近した、レア・グルーヴ視点から、極めて評価の高い好盤として評価されている。

Horace Silver Quintet/Sextet With Vocals『Total Response』(写真左)。1970年11月15日 (#1, 2, 6, 9), 1971年1月29日 (#3–5, 7, 8) の録音。ブルーノートの4368番。ちなみにパーソネルは、Horace Silver (el-p), Cecil Bridgewater (tp, flh), Harold Vick (ts), Richie Resnicoff (g), Bob Cranshaw (el-b), Mickey Roker (ds), Salome Bey (vo, 1, 2, 5–7, 9), Andy Bey (vo, 3, 4, 8)。

それまでのハード・バップ〜ファンキー・ジャズ路線から一転、シルヴァーがエレクトリック・ピアノ(フェンダー・ローズ)を本格的に導入、アンディ・ベイとサロメ・ベイという実力派シンガーを起用、メッセージ性の強い歌詞を歌わせて、瞑想や精神の統一といった精神世界、そして当時の米国社会へのメッセージが融合した、コンセプチュアルで政治的な時期の作品である。

冒頭「Acid, Pot or Pills」は、ドラッグ依存への警告。2曲目「What Kind of Animal Am I?」は、人間の本質への問いかけ。3曲目「Won't You Open Up Your Senses」は、五感の解放。4曲目「I've Had a Little Talk」は、内省と自己との対話。5曲目「Soul Searchin'」は、自己探求。
 

Horace-silver-quintetsextet-with-vocalst  

 
6曲目「Big Business」は、巨大企業・資本主義への批判。7曲目「I'm Aware of the Animal Within Me」は、人間の野蛮性の自覚。8曲目「Old Mother Nature Counts Her Children」は、大自然への回帰。9曲目の「Total Response」は、精神と肉体の完全なる調和。

シルヴァーのフェンダー・ローズは、浮遊感とサイケデリックな響き。しかし、伝統のファンキー・リフは健在。コードのボイシングには独特のジャジーな緊張感があり、単なるポップスに流されないジャズマンとしての矜持が演奏に表れているところが、やはり、この盤は「コンテンポラリーなジャズ」である。楽器として機能するベイ兄妹の圧倒的な歌唱も、単に「メロディを歌う」だけでなく、「アンサンブルの一部」として完璧に機能している。

クランショウのエレベと、ローカーのドラムのファンク・グルーヴがこれまた良い。レスニコフのカッティングと彩りを与えるギターの系かな推進力。ブリッジウォーターのトランペットと、ヴィックのテナーの2管フロントは、1960年代の爆発するようなハード・バップのソロ回しとは異なる、「楽曲のメッセージ(歌詞)を支えるための知的なアンサンブル」に徹して、これもまた見事。

アルバムのサブタイトルにある『The United States of Mind(人心連合)』とは、「人間の精神(Mind)の中にある様々な要素が、アメリカ合衆国(United States)のように一つに団結・調和しなければならない」というシルバー独自の哲学。1970年代初頭の混沌とした米国社会(ベトナム戦争、ドラッグの蔓延、物質主義の台頭)に対し、シルバーは「精神性の回復」「心と身体の健康」「平和」を音楽で訴えようとした。その成果の一つがこのアルバムである。
  
 

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2026年6月 6日 (土曜日)

ジャズ喫茶で流したい・324

ハンク・モブレーの、ブルーノートに残した最後のリーダー・セッションとして知られるジャズ盤。フロント2管に、リーダーのハンク・モブレーのテナー、そして、新進気鋭の若手ウッディ・ショウのトランペット。リズム・セクションに、モード・プレイの雄シダー・ウォルトンがピアノを担当している。ギター、ベース、ドラムは当時の中堅〜若手のジャズマン。セクステット編成である。

Hank Mobley『Thinking Of Home』(写真)。1970年7月31日、Van Gelder Studioでの録音。リリースは1980年。ブルーノートの4367番。ちなみにパーソネルは、Hank Mobley (ts), Woody Shaw (tp), Cedar Walton (p), Eddie Diehl (g), Mickey Bass (b), Leroy Williams (ds)。1970年のブルーノートには珍しい、真摯実直、硬派ストレートアヘッドなポスト・バップなモード・ジャズ盤。

まず、モブレーのテナーは申し分ない。ストレートアヘッドな吹奏も、イージーリスニング志向のソフト&メロウな吹奏もどちらも水準以上。この盤でのモブレーは好調である。ウディ・ショウの瑞々しいトランペットやシダー・ウォルトンの堅実なピアノワークも優れたパフォーマンスで、モブレーのスモーキーで哀愁漂うサックスと見事に調和している。
 

Hank-mobleythinking-of-home

 
ギターの存在は、演奏全体がポスト・バップしすぎて大衆受けしないリスクを和らげる為に、イージーリスニング志向のギターを織り交ぜている様だ。演奏レベルとしては、ブルーノートの標準レベル以上をキープしている。1970年の録音ということを勘案すると、ブルーノートにおける「最後の価値あるハード・バップ・アルバムの一つ」と評価して良い内容の充実度である。

サイドマンとしては、やはり、ショウのトランペットが素晴らしい。ショウの放つエネルギッシュで瑞々しいソロは、モブレーの少しスモーキーで哀愁のあるサックスと最高のリリシズムを生み出している。ウォルトンのピアノも良い。モブレーの哀愁あるサックスや、ショウの鋭いトランペットの背後で、一切の無駄がない完璧なバッキングを聴かせる。知的なソロも素晴らしく、全体の音楽的な気品と統一感は、彼のピアノがコントロールしていると言っても過言ではない。

モブレーは15年間にわたりブルーノートの看板テナー・サックス奏者として活躍。本作はその最後を飾る隠れた名盤。録音後すぐに発売されず、1980年まで未発表だった為、当時のリアルタイムな評価こそ逃したものの、後年その完成度の高さから再評価が進んでいる逸品。とにかく、モブレーのテナーが好調で元気なのが良い。好盤である。
 
 

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2026年6月 5日 (金曜日)

ECMレーベルのエンリコ・ラヴァ

総帥プロデューサー、マンフレート・アイヒャーが率いるECMレーベル。ドイツのミュンヘンの本社を構え、欧州ジャズの老舗レーベルとはいえ、どちらかといえば、北欧ジャズ中心の耽美的でリリカルな即興演奏を主体としたコンテンポラリー・ジャズがメインと誤解されることがしばしば。

しかしながら、欧州各国の純ジャズもしっかり網羅していて、時に米国ジャズマンも招聘して、多国籍な編成でのECMジャズも制作しているから、目が離せない。欧州ジャズの現在位置を確認するには、ECMレーベルのその時その時のアルバムを聴くのが、一番、手っ取り早い。

『Enrico Rava Quartet』(写真左)。1978年3月、西ドイツの「Tonstudio」での録音。ECMの1122番。ちなみにパーソネルは、Enrico Rava (tp), Roswell Rudd (tb), Jean-François Jenny-Clark (b), Aldo Romano (ds)。イタリアン・ジャズの至宝トランペッター、エンリコ・ラヴァのECMレーベルでのリーダー作である。

リーダーのエンリコ・ラヴァは伊出身のトランペッター。ロズウェル・ラッドロズウェル・ラッドは米国出身のフリー・ジャズ界の重鎮ロンボニスト。ジャン=フランソワ・ジェニー=クラークは仏出身のベーシスト。アルド・ロマーノは伊出身のドラマー。伊米仏の大陸を跨いだ多国籍なピアノレスの変則カルテット。
 

Enrico-rava-quartet  

 
いかにもECMらしい取り合わせなんだが、総帥プロデューサーのアイヒャーの発想は理解し難い。しかし、出てくる音は、しっかりECMの響きを宿しているのだから感心する。出てくる音は、イタリアン・ジャズの哀愁と叙情的なメロディ、そしてフリー・ジャズの先鋭的なアプローチが絶妙に融合した音世界である。

ピアノレスのフロント2管(トランペット+トロンボーン)のカルテット演奏で、伝統的な純ジャズの硬派な雰囲気に、イタリアン・ジャズ独特の哀愁感漂う叙情的でリリカルなフレーズの展開、時々、アヴァンギャルドでスピリチュアルなフリー・ジャズへとブレイクダウンするスリリングな演奏が素晴らしい。

エンリコ・ラヴァの哀愁を帯びた抒情的なトランペットと、ロズウェル・ラッドの豪快でアーシー(泥臭い)なトロンボーンのフレーズが、互いに絡み合いながら見事なコントラストを描いていて、自由度の高いアンサンブルが繰り広げられている。これが、とても「欧州ジャズ」らしい響きと展開。イタリア・ジャズと米国ジャズの邂逅なんだが、しっかりと、欧州ジャズしていて、しっかりと、ECMジャズしている。

これぞ、アイヒャー・マジックなんだろう。このアルバムには、ECMレーベルの音と響きをしっかり反映した、1970年代後半のイタリアン・ジャズの最先端の音が展開されている。根底にはニューオーリンズ・ジャズのような伝統的なお祭り騒ぎ(祝祭感)や、イタリア独特の美しいメロディが漂っていて、実に興味深い内容に仕上がっている。意外とこの盤、イタリアン・ジャズの「隠れ名盤」である。
 
 

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2026年6月 4日 (木曜日)

インプロバイザーなタウナーです

1977年から1981年にかけてのリリース。キース・ジャレット、パット・メセニー、チック・コリアといったスターたちの歴史的名盤を生み出し、レーベルの代名詞である「静寂の次に美しい音楽」という世界観を完璧に決定づけた、ECM Recordsのカタログ番号1101〜1199(1100番台)。今日はそのECM1121番。

Ralph Towner『Batik』(写真左)。1978年1月、オスロの「Talent Studios」での録音。ちなみにパーソネルは、Ralph Towner (12-string guitar, classical-g, p), Eddie Gómez (b), Jack DeJohnette (ds)。アコースティック・ギターの透明感あふれる響きとパフォーマンス、卓越したリズム隊による即興演奏とが融合した、「ECMのサウンド」を代表する好盤の一枚。

ECM御用達、ECMのハウスギタリストの一人、ラルフ・タウナーの繊細かつ耽美的なアコギとピアノに対し、ジャズ界屈指の実力派リズム・セクションの担い手、ベースのエディ・ゴメスと、ドラムのジャック・デジョネットを迎えた、変則的なピアノレス・トリオ(一部の曲でタウナーがピアノを演奏)で録音されている。特に、米国東海岸ジャズがメインのエディ・ゴメスの参加が目を引く。
 

Ralph-townerbatik

 
このアルバムの「静謐感とダイナミズム」は半端ない。ECM特有の「透明感のある美しい響き」をベースにしつつも、ディジョネットの躍動的でポリリズミックなドラミングと、ゴメスのゴリッとした強靭な骨太ベースが絡み合うことで、単なるヒーリング・ミュージック志向なニュー・ジャズに留まらない、欧州的で正統派硬派で、スリリングなジャズの即興性を生み出している。

タウナーの唯一無二の「12弦ギター」によるパーカッシブなアプローチが見事。ギター自体を打楽器のように激しく鳴らすことで、強靱なリズム隊と呼応して、トリオのグルーヴを先導している。そして、タウナーな優秀なピアニストでもある。この盤では、「ピアニスト」としてのタウナーの深化を感じることができる。タウナーの弾く叙情的なピアノと伝説的ベーシストのゴメスとが対話する瞬間は、贅沢な聴きどころである。

「Batik(バティック)」とはインドネシアなどの伝統的な「ろうけつ染め(更紗)」の意。その名の通り、音が幾重にも織り重なり、美しい模様を描き出すような芸術的な世界観が表現されている。そして、この盤には「ECM的アグレッシブさ」=ストレートなジャズの即興のスリルに溢れている。インプロバイザーとしてのタウナーをとことん楽しめる。
 
 

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2026年6月 2日 (火曜日)

極上ソウル・ジャズ・パーティー

米国のジャズ・オルガン奏者ルーベン・ウィルソン(Reuben Wilson)の、ソウルフルでファンキーなジャズ・ファンク盤である。全体の音的には、ソウル・ジャズというよりも、軽くアーシーなリズム&ビートをメインにしたジャズ・ロック&ジャス・ファンクという雰囲気で、1960年代のソウル・ジャズとは、グルーヴが縦ノリなのが特徴。

Reuben Wilson『A Groovy Situation』(写真左)。1970年9月18 & 25日、Van Gelder Studioでの録音。ブルーノートの4365番。ちなみにパーソネルは、Reuben Wilson (org), Earl Turbinton (as), Eddie Diehl (g), Harold White (ds)。滑らかでファンキーなグルーヴを湛えた、楽しいクロスオーバー・ファンキーなアルバムである。

ルーベン・ウィルソン自身、前作『Blue Mode』(1969年)の硬派な路線から、本作では意図的にポップで親しみやすい「コマーシャル・ルート」へと舵を切った、ということだろう。ジャズ者(ジャズ・マニア)に対してだけでは無く、幅広いリスナー層にアプローチを試みた、キャッチーな作品として評価できる。
 

Reuben-wilsona-groovy-situation  

 
ポップス&ソウルのカバーが中心で、当時のヒット曲に対して、大胆にジャズ・ファンクなアレンジを充てている。乾いた明るい粘り気のあるソウルフルな、そしてR&Bな音色と、タイトなリズム・セクションが融合して、このアレンジに乗って、滑らかでファンキーなグルーヴを醸し出している。ジャズ者御用達の濃厚なグルーヴではない、軽快で明るい傾向のグルーヴである。

4曲目「A Groovy Situation」は、メル&ティムの有名なシカゴ・ソウル名曲をカバーしたタイトル曲。5曲目「Happy Together」は、ポップロックなバンド、ザ・タートルズの代表曲をソウルフルなジャズ・ファンクへ大胆カバー。6曲目「Signed, Sealed, Delivered I'm Yours」は、スティーヴィー・ワンダーの大ヒット曲をジャズ・ファンクにアレンジ。

レーベル全体がジャズ・ファンクやソウル・ジャズ、そして商業的でキャッチーな路線へシフトしていく過渡期を象徴する、ファンクやR&B、ロックの要素を取り入れたサウンドが全盛の中での、ブルーノートの「コマーシャル路線」への挑戦の音である。難しいことを考えずに、純粋に、滑らかでファンキーなグルーヴを楽しむ盤だろう。ながら聴きに最適な好盤である。
 
 

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    AORとは、Adult-Oriented Rockの略語。一言でいうと「大人向けのロック」。ロックがポップスやジャズ、ファンクなどさまざまな音楽と融合し、大人の鑑賞にも堪えうるクオリティの高いロックがAOR。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、AORの記事を修正加筆して集約していきます。  

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