2024年6月25日 (火曜日)

トミフラの個性を再認識する。

名盤請負人の異名を持つ、根っからのバップ・ピアニスト「トミー・フラナガン(Tommy Flanagan・以下「トミフラ」と略)」。1970年代後半から、ドイツのレーベル「Enja(エンヤ)」に7枚のリーダー作を残している。トミフラの、米国ジャズらしからぬ「流麗で典雅」な、テクニック確かなピアノの個性が、ホルスト・ウェーバーに響いたのだろう。

Tommy Flanagan『Confirmation』(写真左)。1977年2月4日と1978年11月15日の録音。リリースは1982年。ちなみにパーソネルは、Tommy Flanagan (p), George Mraz (b), Elvin Jones (ds, tracks 1, 2, 5 & 6)。1977年2月4日の録音は『Eclypso』セッションの未収録曲(tracks 1, 2, 5 & 6)でトリオ編成。1978年11月15日の録音は『Ballads & Blues』セッションの未収録曲(tracks 3, 4)でデュオ編成。

そう、この『Confirmation』は、トリオ名盤『Eclypso』とデュオ名盤『Ballads & Blues』の未収録曲を集めた「アウトテイク集」。リーダーのトミフラとベーシストのムラーツが、2つのセッションで共通ということで、約1年半程度離れたセッションだが、その演奏内容と雰囲気には違和感は無い。
 

Tommy-flanaganconfirmation  

 
『Eclypso』は、トミフラのバップ・ピアニストとしての「ハードなタッチがご機嫌なトリオ好盤」であったが、その『Eclypso』セッションの未収録曲「Maybe September」「Confirmation」「Cup Bearers」「50-21」は、『Eclypso』収録曲と同様に、溌剌とした、バリバリ弾きまくるバップ・ピアニスト、トミフラの面目躍如なパフォーマンス。

『Ballads & Blues』は、職人ジャズマン同士の素敵なデュオ。その『Ballads & Blues』セッションの未収録曲「How High the Moon」「It Never Entered My Mind」も同様に、ムラーツのベースがブンブンブンと小気味良い正確なビートを刻み、ピッチが合った唄うようなフレーズと弾き出し、ピアノのトミフラは気持ちよさそうに、バラードやブルースのスタンダードを小気味よく弾き綴っていく。見事なデュオ・パフォーマンス。

Enjaレーベルでのトミフラは、本来の「メインの個性」であるバップなピアノをバリバリと弾きまくっている。ムーディーな一面はどこへやら、「流麗で典雅」な雰囲気はそのままに、切れ味良く、明快なタッチでバップなピアノを弾きまくるトミフラ。Enjaレーベルのトミフラの諸作は、そんなトミフラの「メインの個性」をしっかりと伝えてくれる。
 
 

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2023年8月 9日 (水曜日)

欧州のフリー・ジャズ・ピアノ

フリー・ジャズといえば、サックスが多い。音が肉声に近くて訴求力があること、そして、吹奏楽器として、長時間吹きづ付けることが出来ることが挙げられる。例えば、トランペットなどは、長時間吹くのには向かない吹奏楽器なので、フリー・ジャズの担い手にトランペッターはいない。

逆にジャズ・ピアノで完全フリーなピアノって意外と少ない。長時間引き続ける可能性が高いので、完全に体力勝負となること、激情に駆られるままフリーにピアノを弾くと、ピアノって打楽器の特性もあるので、喧しくて音楽として聴くことが出来なくなること、左手と右手、二つの音を出す方法があるので、一つの音で片付くサックスより、演奏難度が高いこと、それが障壁となって、フリー・ジャズなピアニストは数が少ないのだろう。

フリー・ジャズなピアノを弾くには、現代音楽や近代クラシックの無調、不協和音前提のフレーズに精通していること、そして、プロのクラシック・ピアニストに匹敵する演奏テクニックを保有していること、そして、長時間、ピアノを弾き続ける「演奏体力」があること。そんな要素が必須となる。これはなかなか「いない」。

フリー・ジャズをメインにしているジャズ・ピアニストと言われてパッと思い浮かぶのは、米国ではセシル・テイラー。我が国では山下洋輔。そして、欧州ドイツではシュリッペンバッハ。その3人くらいしか、思い浮かばない。山下洋輔、シュリッペンバッハは、欧州フリー・ジャズのメッカ、Enjaレーベル所属だったし、セシル・テイラーもどちらかと言えば欧州ジャズ寄りだったから、フリー・ジャズなピアノは欧州ジャズに偏っている、と言える。

Alexander von Schlippenbach『Payan』(写真)。1972年2月4日の録音。ENJAの2012番。ちなみにパーソネルは、Alexander von Schlippenbach (p) オンリー。欧州フリー・ジャズ・ピアノの鬼才、アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハのソロ・ピアノ盤になる。
 

Alexander-von-schlippenbachpayan

 
アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ(1938年〜 )は、ドイツのジャズ・ピアニスト、作曲家。ベルリン生まれ。8歳でピアノを始め、ケルンでベルント・アロイス・ツィンマーマンに作曲を学んだ。勉学中、マンフレート・ショーフと共同演奏を始める。以降、欧州のフリー・ジャズ界における多くの重要な音楽家と共演歴を持つ。1994年、アルベルト・マンゲルスドルフ賞を受賞。今年で85歳になるレジェンド。

このソロ盤では、現代音楽や近代クラシックの無調、不協和音を下敷きにした、テクニック溢れる、即興演奏な弾き回しが素晴らしい。完全フリーなピアノ演奏でありながら五月蠅くないし、不協和音も耳に付かない。音楽として聴くことが出来る無調なフレーズや不協和音について事前にしっかり理解していて、その範疇で完全フリーなピアノ演奏を聴かせてくれる様なのだ。

セシル・テイラーも山下洋輔もそうだったのだが、完全フリーな演奏でありながら、五月蠅くないし、耳に付かない。加えて、シュリッペンバッハのフリーなピアノは、近代クラシックな響きが演奏の底にあり、現代音楽の前衛な展開が即興演奏の中に織り込まれている様で、意外と理路整然としていることろが独特の個性だと思う。

終始フリー・フォーム、明確なテーマもコード進行も無いインプロの連続なのだが、どこか理路整然としている即興演奏として耳に響く様は、聴いていて実に興味深い。欧州ドイツのフリー・ジャズなソロ・ピアノ。フリー・ジャズの範疇での希少価値として、一聴の価値はあるだろう。僕はとても興味深く聴くことが出来ました。
 
 

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2023年8月 3日 (木曜日)

欧州フリー・ジャズの入門盤

Enjaレーベルは、欧州フリー・ジャズに造詣が深い。共同設立者のホルスト・ウェーバーは、アパレル時代に日本の企業と仕事をしており日本のジャズにも精通していた為、日本のジャズ・ミュージシャンの作品も多く手がけ、日本でのライヴ録音も行っている。

1970年代、欧州フリー・ジャズに強いレーベルは、Enja(エンヤ)しか無かったと記憶する。「欧州フリー・ジャズを聴くなら、Enjaを聴け」が、僕が学生時代の合い言葉(笑)。

Albert Mangelsdorff『Live in Tokyo』(写真)。1971年2月15日、東京「新宿DUG」でのライヴ録音。ENJAちなみにパーソネルは、Albert Mangelsdorff (tb), Heinz Sauer (ts), Günter Lenz (b), Ralf Hübner (ds)。欧州ドイツのトロンボーンの鬼才、アルベルト・マンゲルスドルフとハインツ・ザウアーのテナーの2管フロント。ピアノレスのカルテット編成。

フリー・ジャズって、①音階(キー)から、②コードあるいはコード進行から、③ハーモニーから、④リズムから、の束縛から逃れたインプロのことで、この「束縛」から逃れておれば、調性音楽でも「フリー・ジャズ」として成立する。

本能の赴くまま、激情に駆られて、個人的に自由に吹きまくる、という米国でよくあるフリー・ジャズは、音楽として鑑賞するにはちょっと辛いものが多々ある。フリー・ジャズは、あくまで音楽として鑑賞することが出来る程度のものであって欲しい。

このマンゲルスドルフ・カルテットのフリー・ジャズは、音楽として鑑賞できる優れもの。確かにアブストラクトに展開するところもあるし、自由な吹きまくりテナーの咆哮もある。
 

Albert-mangelsdorfflive-in-tokyo  
 

が、それらはほんの少し、演奏全体のスパイス的なもの。この盤の演奏は、しっかりと秩序を守ったフリー・ジャズ。ビートは最低限ではあるが「ある」。その最低限のビートの下で、真の即興を志向し、それを実行している。

欧州のフリー・ジャズ、ドイツのフリー・ジャズやなあ、と思う。フリー・ジャズというか、自由度の相当高い即興演奏かな、とも思う。さすが欧州ジャズ。現代音楽志向の展開、現代音楽のジャズ化、現代音楽志向の即興演奏、そんな雰囲気。

マンゲルスドルフのトロンボーンも、ザウアーのテナーも、激情に駆られて熱くはならない。クールに熱い、静的な感情の高ぶりを、現代音楽志向の即興演奏で表現。どこか客観的に「醒めた」視点を持って、客観的に自らのフリーな即興演奏を愛でながら展開するような「クールに熱い」フリー・ジャズ。

我が国では、フリー・ジャズと言えば、オーネット・コールマン志向、いわゆる「通常のモダン・ジャズがやらないことをやる」フリー・ジャズ。若しくは、コルトレーン志向の「本能の赴くまま、激情に駆られて、個人的に自由に吹きまくる」フリー・ジャズ、いわゆる米国のフリー・ジャズがもてはやされてきた。

が、意外とフリー・ジャズと言えば、欧州ジャズ、ドイツ・ジャズなのでは、と思わせてくれる、マンゲスドルフの秀逸な「欧州フリー・ジャズ」の記録である。このライヴ盤を聴けば、欧州のフリー・ジャズの雰囲気を的確に掴めると思う。欧州フリー・ジャズの入門盤的位置づけのライヴ盤。
 
 

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2023年8月 1日 (火曜日)

日野皓正の欧州なフリー・ジャズ

今日の関東地方は不安定な天気。明け方、雨が降って、朝は久し振りに曇天。陽射しが無い分、気温はさほど上がらず、蒸し暑さは回避。昼間は東京ではゲリラ雷雨で大変だったみたいだが、我が方はチョロッと降っただけで、昼過ぎからは日が射したりして、最高気温は34℃。猛暑日は避けられたみたいだが、結局、真夏日となった。

今日は日中はほぼ曇り空で、部屋のエアコンの効きが良い。涼しい快適な湿度の部屋の中で、今日は久し振りに「フリー・ジャズ」を聴いてみようと思った。フリー・ジャズはいろいろあるが、最近は1970年代の「Enja(エンヤ」」レーベルのフリー・ジャズを選んで聴く様にしている。

エンヤ・レーベルは、1971年、ジャズ愛好家のマティアス・ヴィンケルマンとホルスト・ウェーバーによって、ドイツのミュンヘンで設立された、欧州ジャズ・レーベルの老舗のひとつ。ハードバップからモード、フリー、スピリチュアル・ジャズまで、モダン・ジャズの奏法、スタイルをほぼ網羅するが、とりわけ、前衛ジャズに造詣が深い。

ジャズの演奏スタイルの1つ「フリー・ジャズ」。従来のジャズの奏法を踏まえることなく、自由に演奏するスタイル、いわゆる「音階(キー)」「コードあるいはコード進行」「リズム(律動)」、以上3要素から自由になって演奏するのが「フリー・ジャズ」。しかし、これら3要素を全て自由にすると「音楽」として成立しないので、「必要最低限の取り決め」のもと、フリーに演奏するということになる。

日野皓正『Vibration』(写真)。1971年11月7日、ベルリンでの録音。ENJAー2010番。ちなみにパーソネルは、日野皓正(tp), Heinz Sauer (ts), Peter Warren (b), Pierre Favre (ds)。日野のトランペットとザウアーのテナーがフロント2管、ピアノレスのカルテット編成。演奏スタイルはフリー・ジャズ。欧州ジャズのフリー・ジャズ。
 

Vibration

 
日野皓正といえば、僕が本格的にジャズを聴き始めた頃は、NYに渡ってフュージョン・ジャズにドップリだったので、NYの渡る以前のハードボイルドで前衛的な日野皓正を聴いた時は、最初はビックリ。しかし、しっかり対峙して聴くと、かなり高度で難度の高い純ジャズをやっていて、フリー・ジャズはそのバリエーションのひとつ。

日野以外のメンバーは3人とも僕は知らなかった。この人選、ホルスト・ウェーバーによる人選だったらしく、録音当日、全員、初顔合わせだったらしい。しかし、録音された演奏を聴くと、初顔合わせとは思えない、フリー・ジャズ志向な演奏の中、メンバー間の連携と熱気が凄い。ピアノレスな分、フロントの2人の自由度が限りなく高い。

前衛的でアバンギャルド、激しいフレーズと無調のアドリブ。米国のコルトレーン直系の、心の赴くまま、とにかく「熱く吹きまくって力づく」というフリー・ジャズでは無く、クールでソリッドで硬質、切れ味良く、「前衛音楽の響きを秘めた欧州ジャズの範疇」でのフリー・ジャズ。加えて、高度なテクニックと音楽性を有しないと、フリー・ジャズとしての音楽を表現出来ないのだが、この盤のカルテット・メンバーの演奏テクニックはかなり高い。

日野の自由度の高い、シャープなトランペットの咆哮、ザウアーのゴリゴリと尖ったテナー、自由奔放にクールに暴れまくるファーヴルのドラム、そして、フリーな演奏の底をガッチリと押さえる、重心低くソリッドなウォーレンのベース。混沌とした無調のフリー・ジャズだが、「間」としっかり取って、それを活かしたフリーな展開が、この盤のフリー・ジャズを聴き易いものにしている。

定速ビートが無い分、聴くのに骨が折れるが、しっかり聴いていると、フリーな演奏の底に自由度の高い変則ビートが流れている様で、このフリーな演奏をどこか整然とした印象を持たせてくれる。限りなく自由度の高いモーダルなジャズのすぐ先にある、そんな感じのフリー・ジャズ。
 
 

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2023年6月 6日 (火曜日)

メインストリームなジョンスコ

ジョン・スコフィールド(John Scofield、以降「ジョンスコ」と略)は、1970年代後半から1980年代初頭にかけては、エンヤ・レコードとアリスタ・レコードの2つのレーベルを股にかけて、単独リーダー作をリリースしている。大雑把に言えば、エンヤは「メインストリーム志向」、アリスタは「ジャズ・ロック志向」のアルバム作り。1980年代以降は「メインストリーム志向」に軸足を置いていく。

John Scofield『Out Like A Light』(写真)。1981年12月14日、ドイツ、ミュンヘンのクラブ・ハーモニーでのライヴ録音。Enjaレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、John Scofield (g), Steve Swallow (b), Adam Nussbaum (ds)。スティーヴ・スワローのベース、アダム・ナスバウムのドラムとのギター・トリオをフィーチャーした3枚のアルバムのうちの最後の1枚。

1981年12月12〜14日の3日間、ジョンスコは、独ミュンヘンの「クラブ・ハーモニー」でライヴを行う。その中から12日と13日がアルバム『Shinola』になり、14日のライヴから5曲をセレクトしたのが本作になる。いわゆる前作『Shinola』の続編的位置づけのアルバムになる。

当然、ジョンスコの印象は『Shinola』と同じ感じになる。ジョンスコのエレギは、従来のジャズ・ギターとは全く異なる音色とフレーズ。心地良く「捻れた」ジャズ・ギター。時には「変態ギター」と崇め奉られる、ワン・アンド・オンリーな音とフレーズ。そして、しっかりとジャズを踏まえた「ヘビメタ」エレギ。おおよそ、ジャズ・ギターらしくない、といって、ロック・ギターのコピーではない、ジョンスコ独特のエレギがこのライヴ盤で堪能出来る。
 

John-scofieldout-like-a-light

 
加えて、スワローのエレベとの相性も抜群。ジャズ・ギターらしくないジョンスコのギターを、ロック志向、クロスオーバー志向に傾ける事無く、しっかりとメインストリームな純ジャズ志向に留めているのは、スワローのエレベのフレーズ。自由度の高いモーダルで変幻自在なスワローのエレベは、しっかりと硬派にメインストリーム志向している。そのエレベに絡んで、ジョンスコのエレギが飛翔する。

ナスバウムのドラミングも見事。心地良く「捻れた」、自由度の高いモーダルなエレギとエレベのリズム&ビートをしっかりと支えているのはナスバウムのドラミング。良い意味で変態チックなエレベとエレギの邪魔にならず、しっかりとタイムリーに「リズム&ビート」をキープしサポートしているのはナスバウムのドラミングだと感じる。

このライヴ盤を録音した翌年、ジョンスコは、マイルスの下へ馳せ参じることになる。アルバム『スター・ピープル』(1983年), 『デコイ』(1984年), 『ユア・アンダー・アレスト』(1985年) に参加、マイルス・デイヴィス・グループのメンバーとして、1985年夏のツアーまで同行する。このライヴ盤のジョンスコを聴けば、マイルスがジョンスコのギターを重用したのが良く判る。

加えて、ジョンスコは、このライヴ盤をもって、Enjaレーベルからも離れることになる。マイルスの下で、マイルス流のエレ・ジャズ・ファンクに触れ、ジョンスコ流のファンクネスを身につけていく。ジョンスコのデビュー以来の初期の時代は、このライヴ盤がひとつの節目となって、次の時代へと移行する。
 
 

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2022年8月16日 (火曜日)

硬派な欧州のモード・ジャズ

ダスコ・ゴイコヴィッチ(Dusko Goykovich)は1931年生まれ、旧ユーゴスラビア(現ボスニア・ヘルツェゴビナ)出身のトランペット、フリューゲルホーン奏者。「バルカン〜ヨーロッパ的哀愁に満ちたフレーズ」と「テクニック優秀+力強く高速なフレーズ」とが融合した、東欧出身でありながら、正統なバップ・トランペットの名手である。

僕はこのゴイコヴィッチには、今を去ること40年ほど前、ジャズを聴き始めた頃に出会っている。大学近くの「秘密の喫茶店」だった。この喫茶店、不思議な喫茶店で、1980年前後で、スティープルチェイス・レーベルやエンヤ・レーベルのLPが結構あって、まだジャズ者初心者ワッペンほやほやの僕に、欧州ジャズの名盤を積極的に聴かせてくれた。感謝である。

Dusko Goykovich『It's About Blues Time』(写真)。1971年11月8日、スペイン・バルセロナでの録音。エンヤ・レーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Dusko Goykovich (tp), Ferdinand Powell (ts), Tete Montoliu (p), Robert Langereis (b), Joe Nay (ds)。リーダーのゴイコヴィッチのトランペット、ポヴェルのテナーがフロント2管のクインテット編成。

このクインテット、トランペットのゴイコヴィッチが旧ユーゴスラビア、テナーのポヴェルがオランダ、ピアノのモントリューがスペイン・カタルーニャ出身、ベースのラングレイスはオランダ出身、ドラムのネイはドイツ出身。オール欧州のクインテットである。

で、この完璧なオール欧州のクインテットが、バリバリ硬派なメンストリーム志向の純ジャズをやるのだから、ビックリである。この盤を初めて聴いたのは、1990年代だが、最初は「内容のある硬派なモード・ジャズやなあ」と思ったが、ファンクネスが皆無なのが気になった。
 

Dusko-goykovichits-about-blues-time

 
日本のジャズでも乾いたファンクネスは仄かに漂うのだが、と思って、レーベルを見たら「Enja」とある。この硬派なモード・ジャズが欧州ジャズ出身なのか、と驚いた。録音当時の欧州ジャズのレベルの高さを再認識した。名盤『アフター・アワーズ』(2021年1月3日のブログ参照)と同じ1971年にスペインで録音された姉妹盤的な内容である。納得である。

本場米国のモード・ジャズよりも端正で硬質。恐らく、クラシック音楽や現代音楽の影響が、米国よりも欧州の方が強いのだろう。それもそのはずで、かなりの確率で、欧州のジャズマンは、何らかの形でクラシック音楽に関わっている。欧州のジャズマンは、基本的に演奏テクニックが半端ないのだ。

ゴイコヴィッチのトランペットがバルカン〜ヨーロッパ的哀愁に満ちたフレーズをモーダルに吹きまくる。「Old Folks」のミュート・プレイも絶品。「Bosna Calling」はエキゾチックなバルカン的哀愁なフレーズが個性的。バップ・ナンバー「The End Of Love」でのハードバッパーな吹きっぷり。

テテ・モントリューのピアノが、様々なバリエーションのモーダルなフレーズを叩き出す。このテテのパフォーマンスが見事。チック、若しくはキースに匹敵するモードなフレーズの弾き回しの多彩さに驚き、その確かさに感心する。凄いピアニストが欧州のスペインにいる。欧州ジャズの奥の深さを感じて、1990年代以降、僕は欧州ジャズにもどっぷり填まっていく。

ファンクネス皆無の硬派な欧州のモード・ジャズ。どの演奏もモーダルでスインギー。そんな欧州ジャズの優れた演奏が、このゴイコヴィッチのリーダー作にてんこ盛り。これが、1971年の演奏である。当時の欧州ジャズのレベルの高さとモダン・ジャズに対する人気の高さを改めて再認識する。
 
 

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2022年4月29日 (金曜日)

マルの西ドイツでの好ライヴ盤

久々に、マル・ウォルドロンのリーダー作を聴き直している。彼のリーダー作の音源については、現在、結構な数が出ていて、まだ聴いたことが無いリーダー作も結構あることに気がついた。なんでかなあ、と思わず「思案投げ首」である。

しばらく、マルのリーダー作を追ってはいなかったので、その間に、音源のサブスクサイト中心に、今まで廃盤になっていた音源が結構な数、リイシューされたようなのだ。よい機会なので、マルのリーダー作でまだ、このブログで記事になっていないリーダー作をチョイスして聴き直している。

Mal Waldron『A Touch of the Blues』(写真)。1972年5月6日、西ドイツ(当時)のニュルンベルクでの「East-West Jazz Festival」におけるライヴ録音。Enjaレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Mal Waldron (p), Jimmy Woode (b), Allen Blairman (ds)。

収録曲は3曲。LPが前提の収録時間で、長尺のライヴ音源が3曲。1曲目の「Here, There And Everywhere」が、11分17秒、2曲目の「The Search」が、10分28秒。ここまでが、LP時代のA面。3曲目の「A Touch Of The Blues」が、16分22秒で、この1曲で、LP時代のB面を占める。
 

Mal-waldrona-touch-of-the-blues

 
収録曲の全てが、マルのオリジナル。1曲目の「Here, There And Everywhere」が、レノン&マッカートニーの名曲のカヴァーか、と思いきや、マルのオリジナルです。かの有名な静的でロマンティシズム溢れるフレーズが出てくるか、あのバラード曲をマルがどう料理するか、と思って構えて聴いていたら、思いっ切り肩すかしを食らいます(笑)。

しかし、この「Here, There And Everywhere」、マルのピアノの個性が全開の展開。タッチは深く、それでいて流麗。右手の奏でるフレーズの基本はマイナーでブルージー。その左手は印象的な重低音のビートを叩き続ける。マルのオリジナル曲ということを踏まえて聴くと、実に聴き応えのある白熱のパフォーマンスで、思わず集中して聴き込んでしまう。

ベースのジミー・ウッズ、ドラムのアレン・ブレアマンも米国出身、マルと併せて「オール米国」のトリオが、西ドイツで、ガンガンに欧州ジャズ志向のモード・ジャズを演奏しまくる。確かに、マルのピアノは「黒い情念」と形容されるが、ファンクネスは希薄。トリオとしても、出てくるリズム&ビートは「ストレートで切れ味が良い」。決して「粘る」ことは無い。

マルの個性は異国である欧州の地で、その個性をさらに輝かせる様だ。特に、ライヴにその傾向は顕著に出る様で、この西ドイツでのライブ音源を聴けば、それが良く判る。資料を見たら、2020年7月に初CD化、とある。僕はこの盤、LP時代には聴いたことが無かったので、知らなかった訳だ。今回、音源のサブスク・サイトで出会えて良かった。マルの好ライヴ盤である。
 
 

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2022年1月 8日 (土曜日)

ジュニア・マンスを偲ぶ・2

ドイツの名門ジャズ・レーベル、エンヤ・レーベル(Enja Label)。エンヤのカタログを見渡すと、フリー・ジャズ、スピリチュアル・ジャズのアルバムが多くリリースされている。欧州はドイツ出身のジャズ・レーベルなので、とにかく、内容的に硬派でストイックなフリー&スピリチュアル・ジャズな演奏がほとんどなんだが、中には、内容の濃い「ネオ・ハードバップ」な盤をリリースしているから「隅に置けない」。

Junior Mance『At Town Hall Vol.1&2』(写真)。1995年、NYの「Flushing Town Hall」でのライヴ録音。Enjaレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Junior Mance (p), Houston Person (ts), Calvin Hill (b), Alvin Queen (ds)。ピアニストのジュニア・マンスがリーダー、フロントにテナー・サックス奏者のヒューストン・パーソンを迎えた、カルテット編成。

録音当時、既に大ベテラン・クラスのピアニスト、「総合力で勝負する」タイプを代表する1人のジュニア・マンスであるが、このライヴ盤でも、その個性を遺憾なく発揮している。ファンキーなノリとグルーヴィなフレーズ、端正で明確なタッチ。堅実かつリズミカルな左手。その弾きっぷりはダイナミックで、バリバリ弾き進めるバップなピアノである。
 

At-town-hall-junior-mance_20220108213701

 
そんなマンスのピアノが2枚のライヴ盤で、心ゆくまで楽しめる。リーダーのマンスが録音当時、67歳。ベースのカルヴィン・ヒルは50歳。ドラムのアルヴィン・クイーンは45歳。フロント・テナーのヒューストン・パーソンは、61歳。ベテランから中堅のメンバーでの演奏であるが、お互いにインタープレイを楽しんでいるような、溌剌としたパフォーマンスが見事である。

そして、Vol.1&2、ともに選曲が良い。マンスの「総合力で勝負する」タイプが、その個性を十分に発揮出来るスタンダード曲が効果的にチョイスされていて、マンス独特のスタンダード曲の解釈が良く判るし、アレンジの妙がしっかりと体感出来る。特にVol.2が楽しい。冒頭の「Blues in the Closet」、3曲目の「My Romance」そしてラストの「Mercy, Mercy, Mercy」、意外と癖のあるスタンダード曲だが、なかなかの解釈とアレンジで、小粋な演奏に仕上がっている。

なかなか決定盤に恵まれないマンスであるが、Enjaレーベル、良いライヴ盤を残してくれた、と思っている。ライヴ演奏をそのままアルバム化している様で、冗長なところやラフなところもあるにはある。が、逆にそれが臨場感に感じられて、僕にとってはなかなかのライヴ盤として、マンスを聴きたい時、時々引きずり出しては、繰り返し聴いている。歴史を変えるような名盤では無いが、味のある、小粋な内容の好盤として、長年、愛聴している。
 
 
 
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2022年1月 7日 (金曜日)

ジュニア・マンスを偲ぶ・1

昨年も多くのジャズマンが鬼籍に入っている。今、流行のコロナ禍に倒れたジャズマンもいれば、通常のよくある病気で、天寿を全うしたジャズマンもいる。ハードバップが現れ出でて約70年。当時、メインで活躍したジャズマンは殆ど鬼籍に入ってしまった。1960年代に活躍したジャズマンも、毎年、どんどん鬼籍に入っていく。

特に、自分がジャズを聴き始めた頃、リアルタイムでその活躍を耳にしてきたジャズマンが鬼籍に入るのを見るのはとても辛い。2021年1月17日に逝去した、ジュニア・マンス(Junior Mance)もそんなジャズマンの1人。実際にマンスが来日した時に、生で彼のピアノを聴いたほど、リアルタイムで聴いてきた、親しみのあるジャズ・ピアニストであった。

Junior Mance『Nadja』(写真左)。1998年5月14日、NYでの録音。Enjaレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Junior Mance (p), Earl May (b), Jackie Williams (ds)。ジュニア・マンス、録音当時、69歳のピアノ・トリオ演奏。冒頭のタイトル曲である快活なブルース曲からラスト曲までマンスのピアノの魅力満載の好盤である。
 

Nadja_junior_mance

 
マンスのピアノは、ファンキーなノリとグルーヴィなフレーズが持ち味の「総合力で勝負する」タイプのピアノである。独特の癖や奏法がある訳では無い。端正で明確なタッチ。堅実かつリズミカルな左手。とても整った弾きっぷりで、ダイナミズムもほど良く備わっていて、独特のノリの良いフレーズが、なかなかに格好良い。聴いていて爽快な気分になる。

そんなマンスが、バリバリに弾きまくっているのが、このトリオ盤。マンスと同じく大ベテランのベーシストのアール・メイ。そして。これまた、大ベテランのドラマー、ジャキー・ウィリアムス。この2人の大ベテラン・リズム隊との相性が抜群で、ドライヴ感とグルーブ感を振り撒いて、グイグイ、バリバリ、マンスが魅力的なバップ・ピアノを弾き進めていく。

この盤はマンスのピアノを聴くだけの好盤。ベースとドラムのリズム隊はサポートに徹している。しかし、それが単調にならず、様々なニュアンスとイメージを繰り出して、とても聴き応えのあるピアノ・トリオ演奏に仕上がっている。平均年齢60歳代後半のピアノ・トリオであるが、ネオ・ハードバップな新しい響きを採用しているところには痛く感心した次第。良いトリオ盤です。
 
 
 
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2021年9月13日 (月曜日)

アンブロゼッティのテンテット盤

ドイツの名門ジャズ・レーベル、エンヤ・レーベル(Enja Label)。アパレルのバイヤーをしていたドイツの熱心なジャズ・マニア、ホルスト・ウェーバーとミュンヘン大学在学中だったこちらも熱狂的ジャズ・ファン、マティアス・ウィンケルマンによってミュンヘンで1971年に設立されたジャズ・レーベル。

エンヤのカタログを見渡すと、フリー・ジャズ、スピリチュアル・ジャズのアルバムが多くリリースされている。欧州はドイツ出身のジャズ・レーベルなので、とにかく、内容的に硬派でストイックなフリー&スピリチュアル・ジャズな演奏がほとんど。ジャズ者初心者の方が、生半可な気持ちで手を出すと「火傷」するような、シビアな内容のジャズが多い。

Franco Ambrosetti『Tentets』(写真左)。1985年3月13, 14日の録音。エンヤ・レーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Franco Ambrosetti (flh), Lew Soloff, Mike Mossman (tp), Alex Brofsky (french horn), Steve Coleman (as), Mike Brecker (ts), Howard Johnson (bs, tuba), Tommy Flanagan (p), Dave Holland (b), Daniel Humair (ds).。タイトル通り、10人編成の大所帯コンボである。

フランコ・アンブロゼッティは、スイス出身のトランペット&フリューゲルホーン奏者。1941年12月生まれ。録音当時は44歳、ベテランの域に達しつつある、実績バリバリの中堅トランペッター。今年で80歳。1960年代以降は主にイタリアを中心に活動している。
 

Tentets-francoambrosetti

 
アンブロゼッティは、この盤ではフリューゲルホーンに専念している。このアンブロゼッティをリーダーとした10人編成コンボの好パフォーマンスを収めた盤。エンヤ・レーベルからのリリースだが、中身はエンヤ・レーベルで少数派の「メインストリームな純ジャズ」で占められている。エンヤ・レーベルには、こういった「メインストリームな純ジャズ」もあって、どれもが聴き応えのある佳作ばかりである。

名盤請負人+燻し銀なバップ・ピアニストのトミー・フラナガン、明日を担う若きテナーマンのマイケル・ブレッカー、加えて、エモーショナルなコンテンポラリー・トランペッターのルー・ソロフ、モーダルで自由度溢れるテナーのスティーヴ・コールマンらのホーン・セクションを従えた豪華なセッション。このメンバーを見れば、この盤の内容、悪かろうはずが無い。

フランコ・アンブロゼッティのフリューゲルホーンはテクニック優秀、音色とフレーズに癖が無い流麗なもの。決して、前面に出てテクニックをひけらかすことはしない。でも、やっていることは結構高度。聴き応え満点である。アップテンポの4ビート曲、アップテンポでノリの良いサンバ曲、ゴージャスな雰囲気のしっとりとしたバラード曲など、いとも容易く、魅力的なフリューゲルホーンを吹き上げていく。

アンブロゼッティは「スイス出身で欧州を代表するトランペットの巨匠」。マイルス・デイヴィスをしてその「黒さ」を認めさせた、とあるが、確かにこの人のトランペットは欧州らしからぬファンクネスを感じるから不思議な存在だ。それでも、超有名スタンダード曲「枯葉」をユニークなアレンジで解釈するところなどは、まさに「欧州ジャズ的」。隠れた好盤、小粋な好盤として、とても楽しめる内容である。
 
 
 
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