2025年10月18日 (土曜日)

『ウィーン・コンサート 2016』

キース・ジャレットは、2016年の欧米8都市ピアノソロツアーの後、2017年2月15日ニューヨーク・カーネギーホールでのソロコンサートを最後に活動を休止し、ニュージャージー州の自宅で穏やかに暮らしている。今回は、キースが80歳の誕生日を迎えたことを記念し、最後の欧州ソロ・ツアーからの未発表ライヴ音源がリリースされた。今年の6月のことである。

Keith Jarrett『New Vienna』(写真左)。邦題『ウィーン・コンサート 2016』。2016年7月9日、ウィーンの「Goldener Saal, Musikverein」(学友協会黄金大ホール)でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Keith Jarrett (p) のみ。ソロ・ピアノによる(現時点での)最後の欧州ツアー中、オーストリアのウィーンでのコンサートの模様を収めた未発表ライヴ音源である。

同じ欧州ツアーからは7月3日の『ブダペスト・コンサート』,7月6日の『ボルドー・コンサート』が先行リリースされているので、その流れに続くものになる。また、ウィーンでのライヴ録音としては、1991年にウィーン国立歌劇場で録音された『Vienna Concert』をリリースしている。ただし、内容的には因果関係は全く無い。
 

Keith-jarrettnew-vienna

 
このアルバムには9曲の即興演奏と1曲のスタンダード「Somewhere Over The Rainbow(虹の彼方に)」が収録されている。このソロ・ピアノ演奏では、キースのソロ・ピアノの歴史を感じることが出来る様な、バリエーション豊かな内容になっていて、キース者の我々にとっては、ノスタルジーを感じつつ、じっくりと楽しめる内容になっている。

冒頭のワンフレーズから「キースの音」。端正で歯切れ良く明晰なタッチで、最初は、硬派に不協和音とアブストラクトな幾何学的フレーズで「一発かます」。現代音楽寄りで実験色の濃いアプローチが哲学的であり、ビター・スイートなバラード表現もいかにもキースらしい。パルシヴでリズミカルなグルーヴがニュー・エイジっぽくもあり、一転、耽美派ロマンティストの極みのマイルドな展開もあり。ウィーンで、ゴスペル・フォーキーな節回しが出てくるのは嬉しい限り。

全10曲70分弱、コンパクトにまとまった、キースのソロ・ピアノの「ショーケース」の様な内容に、思わず聴き入り、思わずリピートしてしまう。ラストの定番曲「Somewhere Over The Rainbow(虹の彼方に)」が儚くも美しい。このライヴ盤については、例の「唸り声」も少なく、優しさと穏やかさが全体を覆うライヴ・パフォーマンスはいつ聴いても、何度聴いても良い。キース者には必須アイテム。好盤です。
 
 

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2025年9月25日 (木曜日)

グイディのカルテットな好盤

ジェイムズ・ブランドン・ルイスのテナーがフロント1管、イタリアのピアニスト、リーダーのジョヴァンニ・グイディのピアノ、トーマス・モーガンのベース、ジョアン・ロボのドラムがリズム隊のいわゆる「ワン・ホーン・カルテット」。ジェイムズ・ブランドン・ルイスのテナーの存在感抜群。

Giovanni Guidi, James Brandon Lewis, Thomas Morgan, João Lobo『A New Day』(写真左)。2023年8月、南フランスのスタジオ・ラ・ビュイソンヌでの録音。2024年7月、ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Giovanni Guidi (p), James Brandon Lewis (ts), Thomas Morgan (b), Joao Lobo (ds)。

前作『Avec Le Temps』から5年ぶりとなるECM盤。2013年にECMデビュー以来、ECMでのリーダー作の5作目。ECMレーベルでのデビュー以来、活動しているピアノ・トリオに、今回、ECM初登場のジェイムズ・ブランドン・ルイスのテナーを迎えたカルテット編成。アンサンブルの幅が広がっただけでなく、音世界の表現の幅が大きく広がった感じがする。
 

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ジョヴァンニ・グイディは、1985年イタリア・フォリーニョ生まれのピアニスト。今年で40歳、もはや中堅である。そのピアノの音は、耽美的でリリカルでメロディック。音の質は深遠かつ情感豊か、音の拡がりと間を活かした弾き回しで、聴けば判るが、完璧に、ECMレーベル向き、ECMレーベル御用達なピアニストである。

冒頭「Cantos Del Ocells」、スペイン北部のカタルーニャの伝統的子守歌と言われる曲「鳥の歌」、もうどっぷりECMの音世界。トリオ演奏だと少し地味に響く曲だが、ここにブランドン・ルイスのテナーがガツンと入ってきて、深遠かつ情感豊かなテナーで歌を唄う。耽美的でリリカルなピアノ・トリオの世界に、一筋のテンションを投げかける。この辺りが「アンサンブルの幅が広がった」と感じるところ。

トリオの演奏は従来のトリオ演奏をさらに洗練されたもので、安心して聴くことが出来る。この盤は、テナーの入ったカルテット演奏で表現の広がりを獲得した、新しいジョヴァンニ・グイディの音世界を聴くべき盤だろう。ジョヴァンニ・グイディ・トリオの音世界とジェイムズ・ブランドン・ルイスのテナーが良い共鳴で、お互いがお互いを活かす、そんなカルテット演奏になっているところが実に良い。好盤です。
 
 

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2025年9月 7日 (日曜日)

ジャズ喫茶で流したい・294

キース・ジャレットが、ジャズ・ベースの哲人「チャーリー・ヘイデン」を自宅に招いて行った心温まるデュオ・セッション集である。デュオでの共演はなんと31年ぶり。しかし、キースは「ソロの達人」、ヘイデンは「デュオの達人」。ソロの達人とでデュオの達人が組んでの、極上のメインストリーム・ジャズなデュオ演奏に展開されていく。

Keith Jarrett & Charlie Haden『Jasmine』(写真左)。2007年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Keith Jarrett (p), Charlie Haden (b)。1976年、チャーリー・ヘイデンの『Closeness』の冒頭「Ellen David」以来のヘイデンとキースのデュエット。キースの自宅スタジオでの気軽なセッションを収めたデュオ盤である。

キース自身「事前に準備を整えて録音したものではなく、本当にそのとき偶然に出来た音楽で、二人にしかできえなかったもの」と語るように、とても自然で淡々とした、色彩豊かなピアノとベースのデュオ演奏が展開されいます。いずれの曲にも「作為とプロデュース」が全く感じられなくて、キースとヘイデンが心のままに、デュオ演奏を繰り広げていったのがよく判る。
 

Keith-jarrett-charlie-hadenjasmine

 
キースの他のソロ演奏のように、ダイナミックで幅広な展開で弾き回すのでは無く、ヘイデンのベースの音とフレーズを良く聴き、それに応じるような、ピアノとベースとが「会話」を重ねるような、シンプルでナチュアルなデュオ演奏が続く。収録曲のどれが突出するでもない、皆、同じ流れと雰囲気の中で、淡々と極上の内容を湛えたデュオ演奏を繰り広げていく。

キースのピアノを久し振りに聴いたのだが、これだけリラックスして、プライベートな雰囲気を湛えた、躍動感溢れるパフォーマンスはこの盤の他に無いだろう。また、ヘイデンのベースは、アコースティック・ベースの良いところを前面に出しつつ、キースのピアノに寄り添うようにベースラインを弾き進めていく。もはやこれは名人芸の上を行く極上のレジェンド・パフォーマンスである。それほどまでに、ヘイデンのベースは充実している。

キースは、ライナーノーツで「Call your wife or husband or lover in late at night and sit down listen.(夜遅く、妻、夫、そして恋人、そんな二人でゆっくり腰掛けて聴いてほしい)」と言う言葉で締めくくっている。プライベートな響きと雰囲気を宿した極上のピアノとベースのデュオ。名盤です。
 
 

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2025年7月30日 (水曜日)

多国籍な変則トリオの化学反応

ジャズ・ベースのチャーリー・ヘイデン。彼のベースは変幻自在。モード・ジャズ、フリー・ジャズ、は、もとより、ジャズの即興演奏をメインとした「ニュー・ジャズ」と、完全適応する演奏トレンド&フォーマットは多岐に渡る。しかし、面白いのは、ヘイデンは自分の奏法と音を、演奏トレンド&フォーマットによって、変えることは無い。

Charlie Haden, Jan Garbarek, Egberto Gismonti『Folk Songs』(写真左)。1979年11月、ノルウェー、オスロの「Talent Studio」での録音。ちなみにパーソネルは、Charlie Haden (b), Jan Garbarek (ss, ts), Egberto Gismonti (g, p)。ECMの1170番。ドラムレスの変則トリオ編成。ECMの「ニュー・ジャズ」である。

ジャズとワールド・ミュージックを融合させた即興演奏。4ビートがメインの、ハードバップでもなければ、モード・ジャズでも無い、非4ビートの即興演奏をメインとしたジャズ。僕はそれを「ニュー・ジャズ」と呼んでいる。この盤は、そんなECMの典型的なニュー・ジャズ。ECM独特の音世界の中、雰囲気のあるアンサンブルが満載。

ガルバルクのサックスがアルバム全体の「基本の音世界」を提示する。透明度の高い、力感溢れる、ストレートな「欧州サックス」。そこに、ジスモンチのギターとピアノが、ワールド・ミュージック的彩りを添える。
 
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ガルバレクのサックスの音がアルバム全体に響き渡る。欧州のサックスの音そのもの。そこに、ジスモンチのアコギが入る。米国フォーキーなネイチャーなアコギの響き。少し、PMGでのパット・メセニーのアコギを彷彿とさせる。そして、ジスモンチの十八番、ブラジリアン・フレーバーなアコギの響き。ガルバレクがセットアップした欧州の響きをガラリと「ブラジル」に変える。

面白いのは、ジスモンチのピアノ。ジスモンチのピアノは、良い意味で「無国籍」な響き。欧州でもなければ、米国でもなければ、ブラジルでも無い。透明度の高い無垢な響きのピアノ。ジスモンチのピアノをバックにガルバレクがサックスを吹くと、そこは「欧州の音世界」にガラリと変わる。

そんなガルバレクとジスモンチの二人の即興演奏の「底」を、ヘイデンの骨太でソリッドで「思索的」なベースが支え、ジャズとワールド・ミュージックを融合させた即興演奏のど真ん中を、明確で切れ味の良いベース・ラインで貫く。ヘイデンのベースが、このセッションのリズム&ビートをコントロールし、ガルバレクとジスモンチのパフォーマンスを鼓舞し、さらなる高みのパフォーマンスを引き出している様に聴こえる。

ECMのアイヒヤーだから為し得た多国籍な変則トリオ。ドラムレスだからこそ、ヘイデンのベースの自由度が増し、それに呼応する様に、ガルバレクとジスモンチのパフォーマンスの自由度が更に高まっている。ECMマジックによる、3者の化学反応が堪能出来る。
 
 

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2025年5月 4日 (日曜日)

ECMの無国籍ニュー・ジャズ

欧州のニュー・ジャズの牽引役であるECMは、欧州ジャズらしい「エキゾチックでありながら、無国籍的なワールド・ミュージック志向のニュー・ジャズ」が得意ジャンルの一つだったりする。ワールド・ミュージック志向の音を敬遠せず、音志向の一つとして、しっかり認識し適応した、珍しい類の懐の深いレーベルである。

Collin Walcott, Don Cherry & Nana Vasconcelos『Codona 3』(写真左)。1982年9月の録音。ちなみにパーソネルは、Collin Walcott (sitar, tabla, hammered dulcimer, sanza, voice), Don Cherry (tp, org, doussn' gouni, voice), Naná Vasconcelos (perc, berimbau, voice)。

シタール兼タブラ奏者のコリン・ウォルコット、トランペット奏者のドン・チェリー、パーカッショニストのナナ・ヴァスコンセロスからなるジャズ・トリオ、コドナの3枚目で最後のアルバム。コドナは「free jazz and world fusion group」とされており、欧州ジャズ独特の整然としたワールド・ミュージック志向のニュー・ジャズが、ECM独特の録音とエコーを纏って展開されている。
 
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エキゾチックでありながら、無国籍的なワールド・ミュージック、国籍不明のニュー・ジャズなところが、この盤の個性で、即興演奏をベースとした、確実にフリーな展開なのだが、どこか理路整然としていて、規律の取れたインタープレイが独特。国や地域の音の色が付かないが、土着的なリズム&ビート、タブラなどの民族音楽楽器の響きが、どこまでも「ワールド・ミュージック志向」。それでいて無国籍なのが、いかにも欧州ジャズらしい。

そして、途中から入ってくる「ボイス」の存在が、そんな「ワールド・ミュージック志向」を、「無国籍的なエキゾチックな雰囲気」を増幅する。しかし、ECM独特の録音とエコーが、アフリカンな、土着的な雰囲気を抑制する。どこかアーバンっぽい雰囲気も漂う、独特のワールド・ミュージック志向」を振り撒いている。

欧州のニュー・ジャズの牽引役であるECMらしい、不思議な響きと魅力に満ちた、無国籍的なエキゾチックな雰囲気を色濃く宿した「ワールド・ミュージック志向」のニュー・ジャズ。ウォルコット、チェリー、ヴァスコンセロス、それぞれが、自らの個性を最大限に発揮して、即興にフリーに展開した、極上のパフォーマンスがここに記録されている。
 
 

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2025年4月 9日 (水曜日)

スタンダーズの飽くなき深化

キース・ジャレット(Keith Jarrett)。1945年5月生まれ。今年の5月で80歳になる。2020年10月、米『ニューヨークタイムズ』紙が、2度の脳卒中を起こし、音楽活動の復帰が困難な状況にあることを報じた。現在では、片手でしか演奏できず、本格的な復帰はほぼ絶望的とのこと。

キースのスタンダーズについては、ECMからリリースするアルバムは、ほとんどがライヴ盤だったことを振り返ると、スタンダーズの最後のライヴ盤のリリースが、2013年5月にリリースされた『Somewhere』(2013年5月31日のブログ参照)。2009年7月11日、スイスのルチェルンにて行われた公演を収録した最新ライヴ音源で、この盤以降、新しい年での新作は出ていない。

Keith Jarrett Trio『Up for It』(写真左)。2002年7月16日、フランスのジュアン=レ=パンで開催されたジャズ・ア・ジュアン・フェスティバルでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Keith Jarrett (p), Gary Peacock (b), Jack DeJohnette (ds)。2002年7月に行われたスタンダード・トリオの欧州ツアー中に録音されたもの。

スタンダーズのアルバムの中で、今のところ直近のライヴ録音である『Somewhere』(2009年7月11日の録音)の一枚前、現時点でのスタンダーズのディスコグラフィーの「ラス前」のアルバムになる。

この盤の収録曲が、これまでのスタンダードらしからぬ選曲である。ほぼ全曲、「ど」がつくほどの有名スタンダード曲ばかり。しかも、この日のスタンダーズ、それぞれの「ど」スタンダード曲のアレンジが、シンプルで判り易いアレンジを採用していて、それぞれの曲がイントロから何となく判って、主旋律は「そのもの」ずばり。
 

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1. If I Were a Bell (Frank Loesser)
2. Butch & Butch (Oliver Nelson)
3. My Funny Valentine
(Richard Rodgers, Lorenz Hart)
4. Scrapple from the Apple (Charlie Parker)
5. Someday My Prince Will Come
(Frank Churchill, Larry Morey)
6. Two Degrees East, Three Degrees West
(John Lewis)
7. Autumn Leaves"/"Up for It
(Joseph Kosma, Jacques Prévert/Keith Jarrett)
 
しかし、それでいて、他のジャズマンのアレンジでは絶対に聴くことのできない、スタンダーズ独特、キース独特の音の重ね方、音の展開で演奏されるのが素晴らしい。聴いていて、すぐに「これって、スタンダーズやね」と判るくらい、独特のアレンジ。だけど、それぞれの曲がイントロから何となく判って、主旋律は「そのもの」ずばり。スタンダード曲の新しいアレンジのバリエーションを聴かせてもらったイメージ。

「If I Were a Bell」「My Funny Valentine」「Someday My Prince Will Come」など、お馴染みのスタンダード曲を、温故知新、それぞれのスタンダード曲の持つ美しい旋律はシンプルに活かし、アドリブ部に入ると、スタンダーズとして、新しい響きにチャレンジする。2002年、結成19年目にして、さらに深化し続けるスタンダーズには頭が下がる思いだ。

フランスで行われた雨の屋外コンサートでのライヴ録音で、メンバーそれぞれが個人的な体調の問題を抱え、雨の中での会場へのアプローチも辛く、演奏前のディナーは雨の中、短時間でのサウンド・チェック等々、コンディションは最悪だったらしいが、演奏自体は、2002年度の「スタンダーズの深化バージョン」の密度の濃い演奏が繰り広げられている。
 
 

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2025年4月 8日 (火曜日)

「スタンダーズ」の安定の好盤

キース・ジャレットは、2018年に2度の脳卒中を発症して以降、療養生活を続けており、ピアノ演奏への復帰は難しいとされている。以前のように弾けなくとも、とにかく元気でさえいてくれれば……と思っている。

お気に入りのジャズ・ピアニストについては、キースは絶対に外せない訳で、キースのアルバムについては、ほぼ全部、聴いている。当ブログでも、キースのアルバムに関する記事についても、順次アップしてきて、残るは10枚程度。今年中にはコンプリートできるかな。

Keith Jarrett Trio『The Out-Of-Towners』(写真左)。2001年7月28日、ミュンヘンのバイエルン国立歌劇場でのライヴ録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Keith Jarrett (p), Gary Peacock (b), Jack DeJohnette (ds)。2001年夏の「スタンダード・トリオ」ヨーロッパツアー中に録音されたライブ盤。

1996年、キースは慢性疲労症候群と診断され、同年の秋以降の活動予定を全てキャンセルして自宅での療養を余儀なくされる。2年の闘病の後、1998年に復活。このライヴ盤は、復活後3年経った頃の録音で、慢性疲労症候群の影響は全く無くなり、療養前のキースが戻っている。

病気療養後のキースのピアノは明らかに変わった(良い意味で)。アドリブ展開については、変にこねくり回さずにシンプルで判り易い展開に変わっている。
 

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スタンダード曲の解釈については、変にアレンジせずにシンプルになり、スタンダード曲の持つ個性をストレートに押し出している。そして、大きな声で唸らなくなっている。これは良い。3者3様の演奏に耳を集中させることが出来る。

このライヴ盤でも、その傾向は変わらない。病気療養前、自らを体力的にも精神的にも削りに削って、鬼気迫る、テンションMax、切れ味抜群、限りなく耽美的で、息が詰まる様な、限りなくテクニカルなピアノを限界まで弾ききっていたキースが、療養後、自らを追い込むことはせず、自ら浮かんだイメージを信じて、そのままに、フレーズは捻らない。シンプルにそのままにフレーズは展開される。

アドリブ展開はシンプルそのもの。アレンジやアドリブが、ストレートでシンプルになればなるほど、スタンダード曲の良さがポッカリと浮かび上がってくるから不思議。キースの弾くスタンダード曲の旋律が、以前よりもはっきり判る様にアレンジやアドリブがシンプルなものに変わっているのが判る。

ベースのピーコック、ドラムのデジョネットのソロ・パートの長さが増えたなあ、とも感じる。ピーコックの現代音楽的な、硬質な変則ビートで変幻自在、緩急自在なベースラインが見事。捻れて浮遊するベースライン。ピーコックのベースの個性がはっきり判る。デジョネットの究極な「ポリリズミックなドラミング」も素晴らしい。ダイナミズム溢れる、即興要素満載の変幻自在なドラミングは凄い。

キースのピアノの音が美しい。ピーコックのベースの音がソリッド。デジョネットのドラムの音がポリリズミック。このトリオの出す音は、このキースの「スタンダーズ」トリオでしか出せない音。そんな「スタンダーズ」トリオしか出せない音が、このライヴ盤に詰まっている。安心して聞き込むことの出来る、キースの「スタンダーズ」トリオの安定の好盤である。
 
 

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2025年3月31日 (月曜日)

1980年代のタウナー・サウンド

月刊誌レココレの2024年11月号の特集「ECMレコーズ」にある「今聴きたいECMアルバム45選」。この特集のアルバム・セレクトが興味深く、掲載されているアルバムを順番に聴き直し&初聴きをしている。どの盤にも新しい発見があって、実に楽しい。今回の盤は「1980年代のタウナー・サウンド」の最初の成果。

Ralph Towner『Blue Sun』(写真左)。1982年12月の録音。翌年のリリース。ECMの1250番。ちなみにパーソネルは、Ralph Towner (12-string guitar, classical-g, p, Prophet 5 syn, French Horn, cornet, perc)。ECMのハウス・ギタリスト、ラルフ・タウナーのソロ・アルバム。

ECMのニュー・ジャズの具現化の筆頭。ECMの音志向である「耽美的で、音の「間」と「拡がり」を活かした、即興演奏をメインとした、限りなく自由度の高いインタープレイ」の担い手の一人。欧州ギターの吟遊詩人、ラルフ・タウナーのソロ・アルバム。1980年代仕様のラルフ・タウナーがここにある。

1970年代の「硬質でシャープで耽美的で、少しマイナー志向の思索的なアコギ」がトレード・マークだったタウナー。そう、2枚目のリーダー作『Diary』のジャケット写真の様な、明るい鉛色の、どこか硬質でシャープな、海の風景の様なギター。そんなタウナーのギターが、このアルバムでは、少し明るく、温かみのあるメジャーな響きが加わって、とてもカラフルな、ポジティヴでバリエーション豊かな音に変化している。
 

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しかも、このアルバムでは、マルチ・プレイヤーとして、お得意の12弦ギターに加え、クラシック・ギター、ピアノ、プロフェット5・シンセ、フレンチ・ホルン、コルネット、パーカッションを、一人でこなしている。そして、それぞれの楽器の演奏を多重録音にて、一つの作品に仕立て上げている。

タウナーのギターの音は「硬質でシャープで耽美的で、少しマイナー志向の思索的なアコギ」。1970年代の音と変わらない。しかし、そこにメジャーな響きのピアノの音やシンセの音が絡んで、硬質でシャープなギターの音を少しラウンドさせ柔和な雰囲気を醸し出し、フレンチ・ホルンとコルネットの管楽器が硬質なギターの音を包みこみ、1970年代のタイナー・サウンドに、明るさと温かみを加味している。

タウナーは「OREGON」というグループの一員として活動していたが、オレゴンの音志向は「実生活と音楽を切り離すのではなくて、あくまで自然の=海、川、風=リズムを基盤にしたアース・ミュージックの具現化」。このOREGONが志向する「アース・ミュージック」の音要素を、効果的に、自らのソロ・アルバムの音世界に反映している様に感じる。それが「少し明るく、温かみのあるメジャーな響き」なのだろう。

ラルフ・タウナーのディスコグラフィーの中で、ほとんど話題に上がらないアルバムなので、内容はイマイチなのかな、と思って敬遠した時期もあったが、初聴してビックリ。1980年代のタイナー・サウンドの最初の成果がこの盤に詰まっている。マイナーな存在のアルバムだが、これはタイナーの傑作、ECM名盤の一枚だと僕は思う。
 
 

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2025年3月30日 (日曜日)

ブリュニングハウスのECM好盤

月刊誌レココレの2024年11月号の特集「ECMレコーズ」にある「今聴きたいECMアルバム45選」。この特集のアルバム・セレクトが興味深く、掲載されているアルバムを順番に聴き直し&初聴きをしている。どの盤にも新しい発見があって、実に楽しい。今回の盤は「初聴き」盤。

Rainer Brüninghaus『Freigeweht』(写真左)。1980年 7月から8月、オスロの「Talent Studio」での録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Rainer Brüninghaus (p, syn), Kenny Wheeler (flh), Jon Christensen (ds), Brynjar Hoff (oboe, cor snglais)。ピアニスト、ライナー・ブリュニングハウスがECMの「ハウス・タレント」と共に録音した、ECMにおける初リーダー作である。

変則な楽器編成である。フリューゲルホルンのケニー・ホイーラー、ドラムのヨン・クリステンセン、オーボエ奏者のブリンジャー・ホフ、そして、リーダーでピアニストのライナー・ブリュニングハウス。まず、定番のベーシストが不在。そして、なぜかオーボエが入っている。パーソネルの楽器記号「cor snglais(仏語・コーラングレ)」は、英語でいう「イングリッシュ・ホルン」。
 

Rainer-bruninghausfreigeweht

 
この変則な楽器編成から、ECMならではの、現代音楽&現代クラシック志向、即興演奏をメインとした「ニュー・ジャズ」だと当たりをつける。ベースが不在だが、ブリュニングハウスのピアノがあるので、ベースラインはピアノが代替している。加えて、演奏メンバーは、ブリュニングハウスがドイツ、ホイーラーはカナダ(英国)、クリステンセンとホフはノルウェーと、欧州ジャズ志向の面々で固められていて、従来の4ビート・メインのモダン・ジャズの雰囲気は皆無。

冒頭の「Stufen」から、即興演奏をメインとした、自由度の高いインタープレイが展開される。ブリューニングハウスの硬質で叙情的で印象派的なピアノ、ホイーラーとホフの、拡がるが如く、漂うが如くの瞑想的なフレーズが、欧州的で叙情的な響きと共に展開、そんな拡がりと間を活かしたインタープレイを、クリステンセンの変幻自在、硬軟自在、緩急自在な、切れ味よく推進力溢れるドラムが演奏全体を牽引する。

このアルバムの持つ、現代音楽&現代クラシック志向の欧州ジャズ的なサウンド志向、即興演奏をメインとした、柔軟でスピリチュアルなフレーズの展開、そして、拡がりと間を活かしたインタープレイが、ECMのサウンド志向とピッタリと合致して、唯一無二な響きを宿した、コンテンポラリーな欧州ジャズの好盤に仕上がっている。ECMレーベルにしか制作できない、ECMならではの好盤の一枚である。
 
 
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2025年3月 8日 (土曜日)

傑作 Jan Garbarek ”Eventyr”

昨年の「レコード・コレクターズ 11月号」の特集に「ECMレコーズ」がある。これは「創設者マンフレート・アイヒャーのコンセプトと55年の歴史の概説」と「今聴きたいECMアルバム45選」の2本立ての特集。

特に、後半の「今聴きたいECMアルバム45選」のアルバム・セレクトが実に気に入った。ということで、この45枚のアルバムについて、ブログ記事としてアップしようと思い立った。ということで、久しぶりの「今聴きたいECMアルバム45選」の聴き直し記事、である。

Jan Garbarek『Eventyr』(写真左)。1980年12月の録音。ちなみにパーソネルは、Jan Garbarek (ss, ts,fl), John Abercrombie (g), Naná Vasconcelos (berimbau, talking drum, perc, voice)。ノルウェーのジャズ・サックス奏者で作曲家のヤン・ガルバレクが、ECMからリリースした変則トリオ盤。

この変則トリオには、ヤン・ガルバレクのサックス&フルートに、ギタリストのジョン・アバクロンビーとパーカッショニストのナナ・ヴァスコンセロスが参加している。ピアノ&ベースレス。ピアノとベースがいない、そして、ドラム・セットが無い。

演奏全体の雰囲気は「現代音楽&現代クラシック」。演奏形態は即興演奏。現代音楽&現代クラシック志向の即興演奏に、パーカッションのリズム&ビートを添えて「ジャズ」として捉え、それが、ECMの考えるニュー・ジャズであり、現代の欧州ジャズとした、そんな雰囲気がビンビンに伝わる傑作。
 

Jan-garbarekeventyr

 
ECMの創立者、マンフレート・アイヒャーの音の美意識、ECMの標榜する音世界を具現化した、その大成功例の一つ。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」、限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音、そんな、アイヒャー自らの監修・判断による強烈な「美意識」を、このアルバムはしっかりと捉えている。

一曲目「Soria Maria」の冒頭、ガルバレクのソプラノ・サックスが、ピューッと伸びて飛翔するだけで、この盤の音世界は『ECMのニュー・ジャズ」。そして、ガルバレクに寄り添う様に絡む、アバークロンビーのエレギ。演奏が進むにつれ、曲が進むにつれ、その二人の演奏の音志向はどんどん「現代音楽&現代クラシック志向の即興演奏」になっていく。もはやこれはジャズでは無いなあ、と思いきや・・・。

ナナ・ヴァスコンセロスの、トーキング・ドラムをはじめとする、ワールド・ミュージック志向&エスニック志向のリズム&ビートが、ガルバレクとアバークロンビーの「現代音楽&現代クラシック志向の即興演奏」を「ジャズ」の音世界に連れ戻してくれる。欧州ジャズらしからぬ、アフリカン・ネイティヴなリズム&ビートは、ガルバレクとアバークロンビーの「現代音楽&現代クラシック志向の即興演奏」を、モーダルな音世界に瞬間移動させてくれる。

のちのECMレコードが標榜する「ワールド・ミュージック志向のニュー・ジャズ」を、思いっきり先取した、素晴らしいECMレコード志向のニュー・ジャズ盤である。ガルバレクとアバークロンビー、そして、ヴァスコンセロスの途方もない音の「バリエーションと表現力」。欧州ジャズ、ECMジャズの傑作です。

ちなみにタイトルの「Eventyr(イベントュル)」は、ノルウェー語で「冒険」を意味する単語だそうです。 
 
 

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