イブラヒムの ”Ancient Africa”
フォーキーでワールド・ミュージック的な響きを持つ、アーシーでゴスペルチックなジャズ・ピアノを全面的に押し出して、そのまんまのジャズ・ピアノをずっとイチ押しで弾き続けているピアニストがいる。Abdullah Ibrahim(アブドゥーラ・イブラヒム)、昔のデビュー当時の名前は、Dollar Brand(ダラー・ブランド)である。
僕はこの唯一無二の個性を持つピアニストの『African Piano』というソロ・ピアノ盤で、冒頭の「Bra Joe from Kilimanjaro」を聴くだけで、一瞬にして、心を撃ち抜かれた。緩やかな緊張感溢れるアーシーでゴスペルチックで骨太な左手のビートに乗って、右手が力強いタッチで、これまたアーシーでゴスペルチックなフレーズを紡いでいく。この「アーシーでゴスペルチックな」そして、力感溢れるタッチに完全に「やられた」。
Abdullah Ibrahim『Ancient Africa』(写真左)。Sackville(Delmark)盤。1973年2月18日、カナダ・トロントのスタジオ(Thunder Sound)にて録音。ちなみにパーソネルは、Abdullah Ibrahim (p)のみ。イブラヒム単独のソロ・ピアノ盤である。このタイトルを持つアルバムには、リリース時期や録音場所が異なる2つの重要な作品(JAPO盤”写真右”とSackville盤”写真左”)が存在する。これは、Sackville(Delmark)盤。
もともと『Sangoma』と『African Portraits』という2枚のソロ・ピアノLPに分かれていた音源を、曲順を再構成して1枚のCDにまとめたもの。イスラム教への改宗とメッカ巡礼を終えた直後の録音であり、強烈なタッチとサステインペダルを駆使した、非常に濃密でスピリチュアルな祈りが込められている好盤、とされる。特に冒頭のメドレー「Ancient Africa」は凄まじいの一言。
キリスト教の賛美歌(ゴスペル)、南アフリカの伝統音楽、そして最先端のモダン・ジャズの語法とが、唯一無二な融合を果たしている。この融合は、他のピアニストには決して聴かれない、イブラヒムならでは、のもの。15分〜20分に及ぶ長大な即興演奏のスタイルは、キース・ジャレットが有名だが、そのキースの先駆け的存在であり、キースのソロを凌駕するオリジナリティを持っていると思料。
イブラヒムのソロ・ピアノは、欧州的クラシック臭が全く無く、あくまで「キリスト教の賛美歌(ゴスペル)、南アフリカの伝統音楽、そして最先端のモダン・ジャズの語法の融合」だけで勝負しているところが潔い。ジャズ以外の他のジャンル音楽のファンにも訴求したいという気持ちは微塵もないみたい。イブラヒムのソロ・ピアノの凄さは、この「我が道を行く」感である。
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