絶望を癒やす瞑想ジャズの聖典
夫君であった巨匠ジョン・コルトレーンの逝去(1967年)という深い喪失感のなか、アリスが東洋思想やヒンドゥー教の導師スワミ・サッチダーナンダ(Swami Satchidananda)との出会いを通じて、自らの精神的救済と覚醒を音楽へと昇華させた、「アリスの考えるスピリチュアル・ジャズ」の最初の成果である。
Alice Coltrane『Journey in Satchidananda』(写真左)。1970年7月4日(track :5)、NYの「Village Gate」でのライブ録音。1970年11月8日(track :1ー4)、ニューヨーク州ディックスヒルズにあるコルトレーンの自宅スタジオでの録音。ちなみにパーソネルは、以下の通り。
1970年11月8日(track :1ー4)は、Alice Coltrane (harp, p), Pharoah Sanders (ss, perc), Cecil McBee (b), Rashied Ali (ds), Tulsi Sen Gupta (tanpura), Majid Shabazz (bells, tambourine)。
1970年7月4日(track :5)は、Alice Coltrane (harp), Pharoah Sanders (ss, perc), Charlie Haden (b), Rashied Ali (ds), Vishnu Wood (oud)。
アリス・コルトレーンの4枚目のリーダー作。1970年代のスピリチュアル・ジャズの傑作である。1960年代後半、夫君であった、ジョン・コルトレーンが標榜したスピリチュアル・ジャズ。それは、未整理、未成熟、直感的な類の演奏成果で、どうにもこうにも評価しにくい代物であった。
しかし、このアリスの『Journey in Satchidananda』は違う。モーダルなジャズとスピリチュアルなジャズを融合し、理路整然としたスピリチュアル・ジャズを成立させている。しかも、しっかりとアレンジされ、しっかりとリハーサルを積んでいるんであろう、非常に整理された聴き易いスピリチュアル・ジャズに昇華されている。
従来のモダン・ジャズの音世界に、瞑想的(メディテーティブ)なドローン・ミュージック、インド音楽、アフリカや中東の民族音楽要素を融合させた、独自の宇宙的音響空間を構築しているところがこの盤の「肝」である。そして、アリスの大々的な、きらびやかで流麗なハープの導入もこの盤の個性。
そして、インドの伝統弦楽器「タンブーラ」が放つ個性的な持続音が、聴き手を深い瞑想状態へと誘うミニマルな土台を作っている。そして、ファラオ・サンダースのむせび泣くような、かつ包容力のあるソプラノ・サックスがエモーショナルな息吹を吹き込んでいる。
本作は、アリスが絶望から立ち直るための精神的ドキュメンタリーであり、ジャズとインド古典音楽の理想的な融合を果たした記念碑的作品。全編通じて、どこか明日を感じさせる様な「明るさ」が印象深い。ジャズとインド音楽の「真の融合」がこのアルバムの中に息づいている。スピリチュアル・ジャズの傑作の一枚。
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