マイナーな存在の貴重な記録『Herbie Nichols Trio』
レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」。ブルーノート創立の1939年以降、ジャズの潮流が変わりつつある1968年までにリリースされたアルバムから、ブルーノートらしい「内容と音と響き」、そんな三拍子揃ったブルーノート盤の「ベスト100」を順に聴き直していく企画。今日はその「第20位」。
ハービー・ニコルス(Herbie Nichols)は、米国東海岸のジャズ・ピアニスト。1919年1月3日生まれ、1963年4月12日、44歳、白血病にて逝去。活動期間は1952年から1958年の6年間と圧倒的に短い。リーダー作は、10インチ盤で2枚。12インチ盤ではたったの2枚。
ニコルスの絶対ユニークな個性は、ブルーノートからリリースされた、10インチ盤で2枚、12インチ盤の1枚のみ。ラストの12インチ盤「Love, Gloom, Cash, Love」は、ポップなアレンジが施されて、ニコルスの絶対ユニークな個性は薄れていた。
『Herbie Nichols Trio』(写真左)。1955年8月、1956年4月の録音。ブルーノートの1519番。ちなみにパーソネルは、1955年8月の録音は、Herbie Nichols (p), Al McKibbon (b), Max Roach (ds)。1956年4月の録音は、Herbie Nichols (p), Teddy Kotick (b), Max Roach (ds)。
ブルーノートらしい「内容と音と響き」という切り口で、このアルバムを聴き直してみると、意外とブルーノートらしさは希薄である。ただし、ニコルスの絶対ユニークな個性はしっかり記録されている。
音の響きは、まるで「セロニアス・モンク」。そのフレーズのノリはモンクと同じく「スクエア」で、ところどころ不協和音を配した、ちょっと前衛的な響きのする個性的なピアノ。ニコルスは、ピアノの鍵盤を叩き、弾く様に弾く。ピアノという楽器の打楽器的要素の部分をフレーズの真ん中に置いている。これもモンクと同じ。
しかし、ニコルスのそれは、平易で判り易い。モンクの様に「思索的、哲学的」な、機微に富んだフレーズではなく、モンクのフレーズを研究し、テクニックを駆使して、モンクのフレーズを再現しつつ、ニコルスの考える個性を織り込んだ、ニコルス流の「リトル・モンク」的なピアノである。ちなみに、ニコルスは、モンクの研究家だったとも聞く。
ちなみに、この盤は、ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンが、ニコルスの才能を発掘〜着目して、ライオンの肝入りで録音した盤では無いらしい。
ニコルスが、ライオンに、ブルーノートでの自身のリーダー作の録音をしつこく懇願し、遂にライオンが折れて実現したリーダー作らしい。ライオンが素晴らしい仕事をした訳では無く、ニコルスの粘り勝ちの果ての歴史的成果である。そういった背景が、このアルバムには、「意外とブルーノートらしさが希薄」な理由だと推察している。
ただ、自発的、積極的では無いにしても、このニコルスの個性を、ニコルスに懇願された結果かもしれないが、ちゃんとブルーノートのアルバムとして制作し、リリースしたところは、やはり、ブルーノートのジャズ・レーベルとしての矜持を強く感じる所以。但し、この盤にブルーノートらしい「内容と音と響き」が濃厚、とは思えない。
ニコルスの個性を動機はともあれ、ブルーノートが記録して世に出した、という事実については、大いに評価できるが、盤の内容については二の次。事実、ブルーノートの総帥であるライオンも、ニコルスの新たなリーダー作を録音することは無かった。
よって、ブルーノートの「ベスト100」の中で「第20位」というのは大いに疑問を感じる。ランキングの「番外つけ出し」として捉えるべきユニークなアルバムだと僕は思う。
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