2026年2月27日 (金曜日)

『The Real McCoy』の聴き方

レコード・コレクターズ(レココレ)2026年2月号の特集「この曲のピアノを聴け! ジャズ/フュージョン編」を楽しんでいる。当ブログでは、「この曲一曲」を「これ一枚」に拡大して、レココレに紹介されているアルバムを聴き直している。今回は「この一曲」から始まって、結局は「これ一枚」に落ち着いた、マッコイ・タイナーの名盤を聴き直している。

McCoy Tyner『The Real McCoy』(写真左)。1967年4月の録音。ブルーノートの4264番。ちなみにパーソネルは、McCoy Tyner (p), Joe Henderson (ts), Ron Carter (b), Elvin Jones (ds)。時代はロック台頭の時代、そして、 1967年7月には、コルトレーンが急逝する激動の時代。タイナーはコルトレーンのバンド配下を辞してでの、ブルーノートでの初リーダー作である。

レココレでの「この1曲」は、アルバムのラスト、5曲目の「Blues on the Corner」を挙げている。ブルーノートのアルバムでは、リーダーが必ず1曲は持ってくるようにと、ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンの要請に応じた、タイナー自作のブルース。まあ、この『The Real McCoy』に収録された曲は全て、タイナーの自作曲で占められてはいるが。
 

The_real_mccoy

 
ダイナミックで迫力満点のモーダルな右手、そして、ビートを打ち付ける様なハンマー奏法な左手。迫力満点のモーダル・ピアノが、タイナーのピアノの個性と特徴なんだが、このラストの「Blues on the Corner」でそれが判るかどうか。このちょっと緩やかなテンポのブルースでは、ちょっと判り難いかもしれない。

やはり、冒頭1曲目の「Passion Dance」だろう。エルヴィンのドラムが、激しいリズムの嵐を叩き上げ、タイナーのビートを打ち付ける様なハンマー奏法な左手のビートに乗って、ダイナミックで迫力満点の右手のモーダルな「シーツ・オブ・サウンド」が炸裂する。左手のハンマー打法なビートは、強弱と間を効果的にあしらって、うねるようなモーダルなビートを叩き出す。右手は、タイナー流の「シーツ・オブ・サウンド」で、モーダルに疾走する。

このタイナーのブルーノート初のリーダー作『The Real McCoy』は、やはり、これ1曲というよりかは、この1枚、アルバムを全曲聴いて、速い曲、緩やかな曲、ブルース、バラード、それぞれ、異なった曲想、演奏内容の中で、タイナーの揺るぎない「ダイナミックで迫力満点のモーダルな右手、そして、ビートを打ち付ける様なハンマー奏法な左手」を確認し愛でるのが、タイナーのピアノを理解する一番の近道だと僕は思う。
 
 

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2026年2月 4日 (水曜日)

ジャズ喫茶で流したい・312

メロディーの断片、落ち着きなく変化する音階、濃密な多色和音、予測不能なリズム。自由度の限りなく高いモードからややフリー、ヒルの個性全開。なぜ、この音源が録音当時、お蔵入りしたのか、とんと見当が付かない。リーダーとしての録音順としては6枚目のアルバムになる。そんなヒルの独特の個性が、こなれてメロディアスになり、聴き易くなっている。なのにお蔵入りとは・・・。

Andrew Hill『Andrew!!!』(写真左)。1964年6月25日の録音。ブルーノートの4203番。ちなみにパーソネルは、Andrew Hill (p), John Gilmore (ts), Bobby Hutcherson (vib), Richard Davis (b), Joe Chambers (ds)。ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンが見出した「最後の才能」、アンドリュー・ヒルの録音当時、お蔵入り盤である。リリースは4年後、1968年である。

確かに、アルフレッド・ライオンが言う様に、セロニアス・モンクの様に、音が予測不可能な様に飛ぶ。そして、間の取り方、チェンジ・オブ・ペースが定型ではない。つまりは、ジャズの最大の特徴である「即興演奏」の最たるものが、モンクの紡ぎ出すフレーズで、予測不可能な如く、音が飛び、間が複雑に入り、再現性はほぼ無い。即興演奏の究極形である。
 

Andrew-hillandrew

 
そんなモンクの様な予測不可能な「即興演奏」を、ヒルは踏襲しているが、モンクが角が立って、スクエアにカクカクとスイングするが、ヒルは、角が適度にラウンドしていて、意外とメロディアスにスイングする。音が適度に予測不可能名レベルで飛ぶのだが、その飛び方も、モンクに比べて穏やかで優しい。このアルバムを聴くと、ヒルはモンクの影響下から完全に抜け出て、独自のフレーズ作りを確立していることを強く感じる。

ヒルの個性的な音は、意外とメロディアスな面を持ち合わせている分、サイドマンはヒルの音を理解しやすく、ヒルの音に追従しやすくなる。そんなところに、モーダルでフリーでスピリチュアルな、ハッチャーソンのヴァイブと、ギルモアのテナーが絡んでくるのだから堪らない。ハッチャーソンもギルモアも、ヒルの音世界を十分理解して、良い音出しつつ、ヒルの個性的なフレーズに呼応し、絡み、対抗する。

このヒルの音世界一色の、バンド全体が一丸となったパフォーマンスは迫力満点。フロント楽器として、ハッチャーソンのヴァイブ、ギルモアのテナーが好調に「ヒル節」を叩き出す。そして、ヒルはそんなフロントのパフォーマンスを推進力として、さらに先の「ヒル節」を弾きまくる。ヒルの個性全開。良いアルバムです。
 
 

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2025年11月 1日 (土曜日)

ルーさんのモータウンへの挑戦『Say It Loud』

本作は、1968年にトランペッターのブルー・ミッチェル、オルガン奏者のチャールズ・アーランド、ギタリストのジミー・ポンダーと録音した作品だが、冒頭の「Say It Loud – I'm Black and I'm Proud」を聴けば、たちどころに判る。この盤は、ルーさんの「R&B志向、モータウン志向のソウル・ジャズ&ジャズ・ファンク」である。

Lou Donaldson『Say It Loud』(写真左)。1968年11月6日の録音。ブルーノートの4299番。ちなみにパーソネルは、Lou Donaldson (as, vo), Blue Mitchell (tp), Charles Earland (org), Jimmy Ponder (g), Leo Morris (ds)。JB(James Brown)に共感して、カヴァSay It Loud (I'm Black and I'm Proud)ーしてタイトルに冠したと思われ、R&B志向、モータウン志向を協力に押し出した、ルーさんのソウル・ジャズ。

リズム&ビートが「とーん・と−ん・とんとんとんとん」といった、モータウン独特のリズム&ビートに乗って、ルーさん流のソウル・ジャズが展開される。結構、ネットでは酷評されているんだが、爆発的なグルーヴが無い、作られたファンク・ミュージックとか散々に揶揄されているんだが、これはこれで正解なんだけど。

この盤でも、ルーさんは、モータウン志向に走ってはいるけれど、演奏の根っこは「モダン・ジャズ」。モータウンにどっぷり填まれば、体の良いジャズ・ファンクのリズム&ビートを拝借した「イージーリスニング音楽」になってしまう、ことを危惧した結果だと思っている。そう、この盤の根底に流れているのは、ソウル・ジャズであり、ジャズ・ファンク、あくまで「ジャズ」なのだ。

だから、モータウン風の曲のカヴァー演奏になると、腰が動くほどのファンクネスは無いし、グルーヴ感も無い。この盤の根底に流れているのは「ジャズ」であり、爆発的なグルーヴが無い、作られたファンク・ミュージックと言われても仕方が無い内容。
 

Lou-donaldsonsay-it-loud

 
でも、ジャズとして、ハードバップとして捉えると、モータウンって、こうなるのか、というプロトタイプ的内容。演奏内容、演奏レベルに問題があるのでは無い。モータウンをジャズでカヴァるって、いう行為が無茶だということ、無理がある行為だということを、このアルバムは教えてくれる。

冒頭の「Say It Loud (I'm Black and I'm Proud)」のカヴァー演奏が、モータウンのジャズ化の限界だろう。これ以上に、グルーヴを爆発させ、ファンクネスを濃くしたら、モータウンの「イージーリスニング音楽」になってしまう。

ルーさんはジャズマン。このカヴァー演奏でも、しっかり、ジャズに軸足を置いたまま、モータウンのジャズ化にチャレンジしたのではないか、と睨んでいる。

とにかく、有名スタンダード曲、ハードバップとモード・ジャズにこそ、ピッタリと合致した「Summertime」や「Caravan」を、モータウン志向のソウル・ジャズで解釈するのは、あまりに無謀であった。

これは、明らかにプロデュースの誤り。もしかしたら、ルーさんがやりたい、ときかなかったかもしれないが、これがフランシス・ウルフの限界だったのだろう。

この盤は、ルーさんがいかに「純ジャズ」畑のジャズマンだったかを再認識させてくれる。どんなアレンジの演奏にだって、ルーさんは、ジャズに軸足を残したまま、いろいろなアレンジにチャレンジした。ルーさんの純ジャズ志向のジャズマンとしての矜持を感じさせてくれる盤である。
 
 

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2025年10月28日 (火曜日)

ソウルフルなジャズ・オルガン『On Broadway』

ライトでポップで小洒落たソウル・ジャズである。こってこてジャジーな雰囲気は無く、どちらかと言えば、イージーリスニング志向、クロスオーバー・ジャズ志向の聴き易く、判り易いソウル・ジャズである。こってこてファンキーに、バンバン前へ出るオルガンでは無く、アンサンブルの中で、ソウル・ジャズ志向のオルガンをさり気なく響かせる様な、グループ・サウンズ重視のオルガンである。

Reuben Wilson『On Broadway』(写真左)。1968年10月4日の録音。ブルーノートの4295番。ちなみにパーソネルは、Reuben Wilson (org), Trevor Lawrence (ts), Malcolm Riddick (g), Tommy Derrick (ds)。1960年代のブルーノートが送り出した最後のオルガン奏者、ファンキー&ソウル・ジャズ志向のオルガン奏者、ルーベン・ウィルソンのデビュー盤。

ダンサブルかつファンキー&ソウルフルなプレイが身上のオルガンである。ジャズ色濃厚のテンション高く切れ味の良い純ジャズ志向なオルガンとは正反対の、ライトでポップで適度に緩く明るいオルガン。深刻感は全く無い。あっけらかんとした、小洒落たフレーズが心地良く、聴き流して心地良い、この時代特有の、一般聴衆にもしっかり訴求する判り易いオルガンである。
 

Reuben-wilsonon-broadway

 
パーソネルを見渡しても、それまでのハードバップからジャズの多様化まで、いわゆる1950年代から1960年代前半までのハードバップ時代に活躍したメンバーの名前は無い。メンバーそれぞれ、ソウル・ジャズ志向、それもR&Bの音の色づけに長けたメンバーで構成されているみたいで、例えば、サックスのトレヴァー・ローレンスはマーヴィン・ゲイとの共演などで、ソウル・ミュージックの世界ではお馴染みのサックス奏者である。

タイトル曲「On Broadway」は、ドゥーワップ・グループ、ドリフターズの大ヒット曲で、後にジョージ・ベンソンがリバイバル・ヒットさせたソウルフルな名曲。この名曲を、ライトにポップに、聴き易く判り易いアレンジで、ソウルフルに演奏していく。さりげなくソウルフルに響く、ウィルソンの軽快なオルガンが良い感じで鳴っている。

ルーベン・ウィルソンは、ソウル・ジャズ志向が色濃いオルガン奏者。米国オクラホマ州で1935年4月に生まれる・2023年5月、ニューヨークで肺癌のため88歳で逝去している。リーダー作は生涯で20枚以上、活動時期は、1968年から2011年まで、43年と長かった。しかし、我が国ではマイナーな存在に甘んじている。しかし、この初リーダー作は、小粋で良く出来たソウルフルなオルガン・ジャズ盤。良いアルバムだと思います。
 
 

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2025年10月25日 (土曜日)

BNのスピリチュアル盤の秀作『Eddie Gale's Ghetto Music』

4200番台も終盤にきて、いよいよ、売上最優先、大衆に訴求するイージーリスニング・ジャズに手を染め出したブルーノート。

大手のリバティーに買収され、総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンも引退し、いよいよ、ジャズの歴史の、ジャズのトレンドの番人の様な存在だったブルーノートも終わりかな、と思っていたら、こんな硬派な純ジャズ志向のアルバムを出したりするから、隅に置けない。

『Eddie Gale's Ghetto Music』(写真左)。ブルーノートの4294番。1968年9月20日の録音。ちなみにパーソネルは、Eddie Gale (tp, kalimba, steel drum, bird whistle), Russell Lyle (ts, fl), Jo Ann Gale Stevens (g, vo), James "Tokio" Reid, Judah Samuel (b), Richard Hackett, Thomas Holman (ds)。ここに、11声の合唱団が加わる。

米国のトランペット奏者、エディ・ゲイルのデビュー作になる。エディ・ゲイルは、セシル・テイラーとの共演、サン・ラ・オーケストラでのフリージャズでの活動で知られたトランペット奏者。ゲイルの基本的な演奏スタイルは、フリー&スピリチュアル。

このアルバムに詰まっているジャズは、1960年代の新しいジャズとゴスペル、ソウル、ブルースをシームレスに融合、フリー・ジャズ、R&B、ワールド・ミュージック的要素が混在する驚異のスピリチュアル・ジャズ。しかし、非常に聴きやすい作品で、旋律、メロディー、ハーモニーはしっかりと保たれている。
 

Eddie-gales-ghetto-music

 
フロント管の相方にラッセル・ライルのサックス&フルートを従えた2管フロント。加えて、ダブル・ベースにダブル・ドラム、そして11声のバックコーラスを配した、迫力のスピリチュアル・ジャズである。

無勝手流の、自由気ままに吹きまくるフリーな吹奏は無く、洗練されたポリリズムと分厚いコーラスをバックに、現代音楽的なフリーな響きとスピリチュアルな響きが全体を支配する。

「Fulton Street」では、アフリカの民族音楽とラテンジャズの美しい旋律が見え隠れ、「A Walk with Thee」は行進曲のテンポで書かれたスピリチュアル・ジャズ。リズム&ビートは互いに対位法で叩きまくり、フロントラインは東洋的なハーモニー感覚を通して伸びやかなメロディーラインを奏でる。

最後の「The Coming of Gwilu」は、ジャマイカンなカリン場の音色、アーケストラ風の高揚するボーカル、ポリリズミックなリズム&ビートで、新しいスピリチュアル・ジャズの響きを表現している。

米国の都市部でアフリカン・アメリカンの貧困層が形成する「ゲットー(Ghetto)社会」をテーマとしている「政治的意図」を明確にしたアルバムだが、小難しいところは微塵も無い。

そんな「Ghetto Music」をコンセプトにブラック・パワーを表現している異色盤である。しかし、ブルーノートのカタログの中でも最も知られていないアルバムの一つでもある。ただし、内容は良い。1960年代後半のスピリチュアル・ジャズの秀作の一枚だろう。
 
 

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2025年10月24日 (金曜日)

オルガン好きには堪らない好盤『Think!』

ブルーノートの4200番台のアルバムの「落ち穂拾い」を進めている。まだ、当ブログに記事として上がっていないアルバムを順に聴き直し、その記事化を進めている。そして、4200番台コンプリートまで、あと6枚というところまで、こぎ着けた。しかし、4200番台は後半、終わりあたりでは、ブルーノートらしからぬ、売上大前提のアルバムもあったりして、気が抜けない。しかし、この盤は違う。

Lonnie Smith『Think!』(写真左)。1968年7月23日の録音。ブルーノートの4290番。ちなみにパーソネルは、Lonnie Smith (org), Lee Morgan (tp), David Newman (ts, fl), Melvin Sparks (g), Marion Booker Jr. (ds), Norberto Apellaniz, Willie Bivens (conga :tracks 2 & 5), Henry "Pucho" Brown (timbales :tracks 2 & 5)。ロニー・スミスのブルーノート・レーベルからリリースした2枚目のリーダー作になる。

よく整った内容のオルガン・ジャズ。ファンキー・ジャズとソウル・ジャズの間を取った様な、「いいとこ取り」のアレンジ、音作りで、これが成功している。ファンキーに偏ると「古さ」を感じさせ、ソウルに偏ると「俗っぽさ」が前に出る。その「悪いところ」を、ファンキーとソウルの間を取って、モーダルな展開の味付けをすることで、アーティスティックな側面を補強する。なかなか、良く出来た音作りである。
 

Lonnie-smiththink

 
オルガン・ジャズだから、ファンキー&ソウルフルで、俗っぽいジャズなんだろう、という先入観は捨てた方が良い。このロニー・スミスの『Think!』は、ジャズとして、メインストリーム志向であり、温故知新なアレンジを優先して、正統派な、そして、意外と硬派なオルガン・ジャズを展開している。これが、1968年という時代、そして、大手リバティー社に買収された以降のブルーノートからのリリースだというから、二度びっくりである。

ただ、モーガンのトランペット、ニューマンのテナー、スパークスのギターの3フロント楽器のクインテット編成なので、音的にはグループ・サウンズ優先。3フロント楽器にもふんだんにソロ・パフォーマンスのスペースを与え、伴奏に徹するロニー・スミスは、実は「伴奏上手」なのが良く判る。聴いていると判るが、3フロント楽器は、それぞれ、気持ちよさそうに、ソロ・パフォーマンスを繰り広げている。ロニー・スミスが「伴奏上手」だからだろう。

当時のアレサ・フランクリンのヒット曲「Think」をカヴァーしていたり(タイトル曲ですね)、「The Call Of The Wild」の様な躍動的なファンキー・ラテン・チューンや「「Slouchin'」の様な、ムーディーでラテン・テイストのソウル・ジャズがあったり、売れ線を狙った選曲もあるが、どれもが、メインストリーム志向で、温故知新で良好なアレンジを施して、正統派で硬派なオルガン・ジャズとなっているので、全く気にならない。オルガン・ジャズの好盤です。
 
 

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2025年10月20日 (月曜日)

BNの「オーネットの不思議盤」『New York Is Now!』

オーネットは、コンテンポラリー・レコードでの『Something Else!!!!』から始まり、アトランティック・レコードに移籍して『The Shape of Jazz to Come』をリリース、その後、5枚のリーダー作をリリースした後、突然、1966年に、コロンビア・レコードから『Chappaqua Suite』を突然リリース。そして、1966年から1971年にかけて、3枚のリーダー作をブルーノートからリリースしている。そんな3枚の中の一枚がこの盤。

Ornette Coleman『New York Is Now!』(写真左)。1968年4月29日、5月7日の録音。ブルーノートの4287番。ちなみにパーソネルは、Ornette Coleman (as, vln, tp), Mel Fuhrman (vo), Jimmy Garrison (b), Elvin Jones (ds), Dewey Redman (ts)。

オーネットのブルーノートからの2枚目のリーダー作になるが、オーネットが、元コルトレーン・カルテットのリズム隊、ギャリソンのベース、エルヴィンのドラムと組んだ、「不思議で面白い内容」のモード&フリー・ジャズ盤。

プロデューサーが、設立者&総帥プロデューサーであったアルフレッド・ライオンでは無く、後を引き着いたフランシス・ウルフなのが象徴的。オーネットがどうやって、この音のコンセプトを提案したのか、若しくは了解したのかは判らないが、オーネットのリーダー作の中では、異質な、ちょっと不思議な盤である。

「あれをやっちゃ駄目、これをやっちゃ駄目は、ジャズの自由度を狭める。なんでもかんでもやってみよう」というのが、真のジャズである」というのがオーネットの考え方なんだろうが、前作では、当時10歳の息子デナード・コールマンをドラマーに採用するという「暴挙」でちょっとスベったので、このアルバムでは、リズム隊を完全強化している。なんと、元コルトレーン・カルテットのリズム隊を持って来て、そこで「オーネットの考えるフリー・ジャズ」を展開する、という寸法。
 

Ornette-colemannew-york-is-now

 
加えて、コルトレーン・フォロワーの第一人者の1人、デューイ・レッドマンのテナーを持って来て、老舗ジャズ・レーベルのブルーノートで、「オーネットの考えるフリー・ジャズ」をやろうとしたら、どこか、モーダルな響きのするフリー・ジャズというか、限りなくフリーに近いモード・ジャズ風の演奏に落ち着いてしまった、そんな偶然性を感じる、このアルバムの内容である。

このアルバムには、1950年代の「オーネットに対する新鮮な驚き」は無い。音は明らかにオーネットの音。冒頭の「The Garden of Souls」の最初の自由度の高いフレーズを聴いただけでオーネットと判る音世界なんだが、フリーな即興演奏を求めているにも関わらず、どこか理路整然とした、完全即興では無い、限りなく自由度の高い、オーネット流のモーダルなジャズが展開されている様なイメージ。

どう聴いても、オーネットの考えるフリー・ジャズは伝わってこなくて、レッドマン参加の影響も大きかったのか、この盤では「オーネットの考えるコルトレーンのフリー・ジャズ」を追求している様に感じる。逆に、そう解釈した方が判り易い、上質かつ真摯な「オーネットの考えるコルトレーンのフリー・ジャズ」を、オーネットは、やっているように聴こえる。

フリー・ジャズ系のサックス奏者としての成熟、円熟をみたオーネットのリーダー作。モード時々フリーなジャズで、フリーな部分はオーネット流のフリー・ジャズの響きはするが、演奏全体の雰囲気は限りなく自由度の高い、オーネット流モード・ジャズ風。そういう意味で、このオーネットのブルーノート第二弾は「不思議で面白い内容」のモード&フリー・ジャズ盤に仕上がっている。

つまりは、コルトレーン・フォロワーのレッドマン、ギャリソン、エルヴィンは、オーネットの考えるフリー・ジャズに染まらなかった、逆に、オーネットが、コルトレーンにはこういうフリー・ジャズをやって欲しかったという、レッドマン、ギャリソン、エルヴィンらの想いにオーネットが寄り添った、「オーネットの考えるコルトレーンのフリー・ジャズ」、そんな雰囲気がするのがこのアルバム。解釈が悩ましい異色盤です。
 
 

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2025年10月16日 (木曜日)

BNのR&B志向のソウル・ジャズ『Coldwater Flat』

軽快ファンキーなピアノ・トリオとジャズ・オーケストラとの共演なので、こってこてのイージーリスニング・ジャズかと思いきや、こってこてのソウル・ジャズ。それも、どっぷりR&B志向の、こってこてのソウル・ジャズに仕上がっている。

The Three Sounds and The Oliver Nelson Orchestra『Coldwater Flat』(写真左)。1968年4月10–12日、ハリウッドでの録音。ブルーノートの4285番。ちなみにパーソネルは、以下の通り。ブルーノートのお抱えピアノ・トリオのブルー・サウンズと、オリヴァー・ネルソン率いるジャズ・オーケストラとの共演盤である。

Gene Harris (p, org), Andrew Simpkins (b), Donald Bailey (ds), 以上, The Three Sounds。Oliver Nelson (arr), Bobby Bryant, Conte Candoli, Buddy Childers, Freddy Hill, Melvin Moore (tp), Lou Blackburn, Milt Bernhart, Billy Byers, Pete Myers (tb), Ernie Tack (b-tb), Anthony Ortega, Frank Strozier (as), Plas Johnson, Jay Migliori, Tom Scott (ts), Bill Green (bs), Lou Singer (timpani), Ken Watson (perc), 以上, The Oliver Nelson Orchestra。

スリー・サウンズの音は、もともと、1967年、ブルーノートにカムバックした時のアルバム『Vibrations』(ここをクリック)で、ソウル・ジャズ志向になっていたが、この盤では、そのソウル・ジャズ志向に拍車がかかって、R&Bの音要素をばっちり取り込んでいるので、恥ずかしいくらいの、こってこてなソウル・ジャズ盤に仕上がっている。但し、よく見たら、録音場所はハリウッド。スタジオも、ヴァン=ゲルダーのスタジオでは無い。つまり、この盤の録音は、従来の「ブルーノートの音」とは異なるところにある。
 

The-three-soundscoldwater-flat

 
オリヴァー・ネルソン率いるジャズ・オーケストラ自体が、ネルソンのアレンジに乗って、こってこてR&B志向のソウルフルなジャズオケになっているので、まず、このジャズオケのソウルフルなR&B志向の音が、この盤の「キモ」になっている。冒頭のクインシー・ジョーンズ作の「Lonely Bottles」の前奏から、こってこてソウルフル。ジャズオケもピアノ・トリオも、俗っぽい位にソウルフル。

聴き進めると、R&Bのリズム&ビートがメインなのが判る。そんなR&B志向にどっぷり浸かりながら、当時のポップ曲「"The Look of Love」「Georgia(我が心のジョージア)」「Last Train to Clarksville(恋の終列車)」などを、ばりばりソウルフルに快演する。主役のスリー・サウンズも、負けずにソウルフルなピアノ・トリオ演奏を展開する。ジャズオケとピアノ・トリオとの、ソウル・ジャズの相乗効果。

但し、この盤の弱点は、このR&B志向のこってこてソウルフルなジャズオケが前面に出すぎていて、主役のスリー・サウンズのピアノ・トリオを食ってしまっているところ。これは録音バランスの問題だと思うんだが、何とかならなかったのだろうか。それとも、当時、大衆受けの良い、R&Bのリズム&ビートとグルーヴを浮き立たせるために、わざとこのバランスにしたのだろうか。

ブルーノートの4200番台も後半に来ると、硬派でメインストリーム志向のモードや、フリー&アヴァンギャルドなジャズがあるかと思えば、明らかに一般大衆向けのイージーリスニング・ジャズや、この盤の様な、R&B志向のソウル・ジャズがあったりで、ジャズ盤の内容についての「振れ幅」が大きくなっている。これが4200番台後半の面白いところでもあり、悩ましいところでもある。
 
 

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2025年10月14日 (火曜日)

ながら聴き用のブルーノート盤『The Look of Love』

大手リバティーの傘下に入って以降、当時のブルーノートとして、純ジャズ度、モダン・ジャズ度は落とすこと無く、大衆受けする「売れる」ジャズ盤をリリースする様になる。これは、4100番台までは、ほとんど無かったこと。しかし、4200番台も後半になると、大衆受けする「売れる」盤だけを狙った、イージーリスニング志向のジャズ盤を制作する様になる。

Stanley Turrentine『The Look of Love』(写真左)。1968年4月15日 (#1, 4, 10) と5月2日 (#3, 5, 7-8) 5月13日 (#2, 6, 9) の録音。5月27日にストリングスのオーバーダビング。ブルーノートの4286番。漆黒ファンキーなテナー・レジェンド、スタンリー・タレンタインのリーダー作。ちなみにパーソネルは、以下の通り。

Stanley Turrentine (ts), Jimmy Nottingham, Snooky Young (flh), Benny Powell (b-tb), Jim Buffington (french horn), Hank Jones (p, tracks 3–5, 7, 8 & 10), Duke Pearson (p, track 1; arr, track 1-3 & 5–9), Roland Hanna (p, tracks 2, 6 & 9), Kenny Burrell (g), George Duvivier (b), Grady Tate (ds, tracks 1, 3–5, 7, 8 & 10), Mickey Roker (ds, tracks 2, 6 & 9),Thad Jones (arr, tracks 4 & 10)。

3セッションからの収録で、ピアノやドラムは2人で交代して担当しているが、基本の編成は、テナー・サックス :1, フリューゲルホーン :2, ベース・トロンボーン :1, フレンチホルン :1, ギター :1 以上がフロントで、5管のフロント管にギター。そして、リズム隊に、 ピアノ :1, ベース :1, ドラム :1 で、総勢9名=ノネット編成。アレンジは、ピアソンとサドが分担して担当しているが、聴いていて、その差は微少。そして、ノネット編成の演奏のバックに、後日、ストリングスをオーバーダビングしている。
 

Stanley-turrentinethe-look-of-love

 
アルバム全体の音の雰囲気は、イージーリスニング志向のポップなジャズ。いわゆる「イージーリスニング・ジャズ」である。ジャズのリズム&ビートを、ポップで平易な4ビート&8ビートをベースにして、ジャズ臭さを中和して、ポップなイージーリスニング志向のリズム&ビートにしつつ、フロント楽器は、それぞれ、ハードバップ時代の判り易い旋律、判り易いアドリブを展開する。聴き手の「ながら聴き」のニーズにでも合わせたのか、ブルーノートでは、それまでに無かった、完璧なまでの「イージーリスニング・ジャズ」である。

フリューゲルホーン、ベース・トロンボーン、フレンチホルンは伴奏に徹していて、基本はタレンタインのテナーが映える様に仕掛けられたホーン楽器である。そして、この伴奏に徹した管楽器のユニゾン&ハーモニーをベースに、タレンタインは気持ち良く、ポップでファンキーなテナーで、ポップなバカラック曲「The Look Of Love」や「This Guy's In Love With You」、レノン=マッカートニーの「Here, There and Everywhere」、チャップリンの「Smile」などを、明るく朗々とかつ印象的に吹き上げていく。

このアルバムの「イージーリスニング・ジャズ」的な音世界は、1970年代のCTIレーベルの弦入りクロスオーバー&フュージョン・ジャズの先駆け的な音と捉えることも出来るが、CTレーベルの弦入りクロスオーバー&フュージョン・ジャズの方が、面白い事にリズム&ビートがジャジーで、明らかにジャズに軸足を残している。

この筋金入り漆黒ファンキー&アーバンなタレンタインのテナーと、漆黒ファンキー&アーバンなバレルのギターがフロントにいなかったら、この盤、もしかしたら、完璧に「イージーリスニング・ミュージック」に陥っていたかも。タレンタインのテナーとバレルのギターが、辛うじてこの盤を「ジャズ」に留めている。それほど、この盤のアレンジは、売れ筋の「ポップス」的アレンジに偏っている。やはり、ブルーノートに「イージーリスニング・ジャズ」は似合わない。
 
 

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2025年10月12日 (日曜日)

フリー・ジャズな”ソウル・ジャズ”『’Bout Soul』

とにかく、聴き始めてビックリ、椅子から転げ落ちる。オルガン・ジャズに代表されるノリの良いソウル・ジャズを想起していたら、絶対に怪我をします(笑)。確かに、マクリーンは正統派ハードバップから、モードに染まり、フリーにチャレンジする「挑戦し変化するジャズマン」でしたが、ここで、いきなり、フリー・ジャズを持ってくるとは。恐れ入りました。脱帽です。

Jackie McLean『’Bout Soul』(写真左)。1967年9月8日の録音。ブルーノートの4284番。ちなみにパーソネルは、Jackie McLean (as), Woody Shaw (tp), Grachan Moncur III (tb), Lamont Johnson (p), Scott Holt (b), Rashied Ali (ds), Barbara Simmons (recitation)。マクリーンのアルト・サックス、ショウのトランペット、モンカー3世のトロンボーンの3管フロントのセクステット編成。そして、なんと、そこに女性の朗読が付く。

タイトルが直訳すると「ソウルについて」なので、しかも、ジャケットの妙齢の黒人女性ときてるので、このアルバム、聴く前は、マクリーン流の直球勝負の硬派なソウル・ジャズかと思いきや、冒頭、ゴスペル的雰囲気で、女性の朗読「ソウルソウルソウル・・・」が出てきてビックリ。もしかして、ゴスペルチックな「ラップ」メインのジャズかと身構えたら、高速パルシヴ・ドラミングに乗って、ドバ〜っと、フリー・ジャズへなだれ込んでいく。

アルバムの内容としては、1960年代後半のジャズのスタイル(ソウル、アヴァンギャルド、フリー、モードなど)が混在した実験的な作品。
 

Jackie-mcleanbout-soul

 
特に、アルバムの冒頭には、バーバラ・シモンズによる「ソウル」の意味を語る詩の朗読が収録されているところが象徴的。つまり、ソウル・ジャズといえば「魂の叫び」、よって、メインは「フリー&アヴァンギャルド」ジャズで、スピリチュアルに攻めるのが筋だろう、という感じなんだろうな、と。

フリー&アヴァンギャルドがメインとくれば、フロント楽器の力量が問われる訳だが、フロントは、マクリーンのアルト・サックス、ショウのトランペット、モンカー3世のトロンボーン、と、フリー&アヴァンギャルドをやらせて一流、ハードバップ&モードをやらせても一流の申し分無いフロント3管なので、モードから入って、いきなりフリー&アヴァンギャルドに流れ込む展開も、安心して、彼らの音に身を任せることができる。リズム隊もラシッド・アリのパルシヴなドラミングが「肝」で安定感がある。

ソウル・ジャズみたいなタイトルだが、実は中身はフリー&アヴァンギャルドがメイン、という問題作で、ジャズ者の方々の間でも好き嫌いが分かれる思う。でも、不思議と聴き易いフリー&アヴァンギャルドで、これはフレーズのところどころにモーダルなフレーズやソウルフルなフレーズが見え隠れするからだろう。この辺りが、マクリーンのフリー&アヴァンギャルド・ジャズの面白いところ。

そう言えば、マクリーンのノリの良い、大衆に受けするソウル・ジャズなんて聴いたことがなかったなあ。ということで、この時代での、フリー&アヴァンギャルドがメインのソウル・ジャズ、というのはマクリーンの「必然」だったのだろう。
 
 

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