2025年7月21日 (月曜日)

カーメン・マクレエの名ライヴ盤

アトランティックはブラック・ミュージック」というレーベル・カラーの印象は強く、ミュージシャンの多彩さ及びジャズ・ジャンルの幅広さは、ジャズ・レーベルの中でも白眉。ジャズ・ボーカルも、ルース・ブラウン、クリス・コナー、メル・トーメ、レイ・チャールズなど、充実のラインナップである。

Carmen McRae『Great American Songbook』(写真左)。1971年11月6日、ロスの「Donte's」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Carmen McRae (vo, p on "If the Moon Turns Green" and "Mr Ugly"), Jimmy Rowles (p), Joe Pass (g), Chuck Domanico (b), Chuck Flores (ds)。グレート・アメリカン・ソング・ブック。SwingJournal 選定ゴールドディスク 第2期 第56弾。

カーメン・マクレエは 1920年4月、NYハーレムにて、ジャマイカ移民の両親の間に生まれ、.1994年11月、脳卒中から呼吸器疾患を合併し、74歳にて逝去。若い頃、ピアニストとして活動していたので、ピアノの腕もまずまず。女性ジャズ・ヴォーカルを代表する一人である。

実は、僕がジャズを本格的に聴き始めて、最初に購入したアルバムである。ジャズ・ボーカルについては、FMをメインに聴き始めたのだが、女性ボーカルがどうしても馴染めない。ビリー・ホリディ、エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーンと、ジャズ盤入門本の勧めるままに聴いていくのだが、どうにも耳に馴染まない。

女性ジャズ・ボーカルの正統派、朗々とした唄いっぷりと「こぶし回し」、過剰なビブラート、フェイク、どうしても耳に馴染まない。困ったなあ、と思っていたところに、FM放送から僕の耳に飛び込んで来た歌声、曲は「(They Long to Be) Close to You(遙かなる影)」。
 

Carmen-mcraegreat-american-songbook

 
カーペンターズがカヴァーして大ヒットしたバカラックの名曲。このポップな曲を、スッキリとしたストレートな声で、暖かく繊細なニュアンスをしっかりと唄い上げる。確かに伴奏はジャズ。この女性ボーカリストは誰か。カーメン・マクレエその人でした。次の日、この曲が収録されているアルバムをレコード屋で探し当てゲットした。

やっと、このライヴ盤で、僕は、耳に馴染む女性ジャズ・ボーカルに出会った気がした。まず、小編成のジャズ・コンボをバックにしたライヴ・ステージの様子を収録した演奏が、シンプルで風通しが良くて良い。オケをバックにした女性ボーカルのアルバムは、耳に「もたれて」いけない。

タイトル通り、米国のヒット・ソングを出来るだけ、多く扱い多く唄い収録する。そんなシンプルなアルバム制作の方針も好感度抜群。名曲・秀曲のオンパレードで、聴いていてとても楽しい。レオン・ラッセルの名曲「A Song for You」が、さり気なく入っているのが「ニクい」。

ロックやポップスの名曲も、このライヴでの解釈はもちろんモダン・ジャズ的なものだが、とにかくアレンジが秀逸。いわゆる変な「ジャズ臭さ」が無くて、すっきりストレートな伴奏に乗って、シンプルにウォームに唄い上げるマクレエ。得意のバラード曲も良い感じだが、軽快なポップな曲での歌唱が絶妙で、本当に楽しく聴かせてくれる。

このライヴ盤、録音もとても良くて、聴いていてとても気持ちが良い。レコードやCDでは、曲前お楽しいおしゃべりが聴けて、これも楽しく聴ける。

僕は、この『Great American Songbook』に出会って、女性ジャズ・ボーカルに馴染むことが出来た。以来、このマクレエのボーカル盤、長年の愛聴盤です。
 
 

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2025年7月16日 (水曜日)

エアーズのサイケ・ジャズの秀作

アトランティック・レコードは「ブラック・ミュージック」というレーベル・カラーの印象が強いが、意外と実験的ジャズ、ジャズロック、フリー・ジャズなど、時代のトレンドの最先端をしっかりと捉えた、いわゆる「尖った」ジャズの秀作を多数、世に送り出している。今回のピックアップ盤は「サイケデリック・ジャズ」。

Roy Ayers『Stoned Soul Picnic』(写真左)。1968年6月29日の録音。アトランティック・レコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Roy Ayers (vib), Charles Tolliver (tp, flh), Hubert Laws (fl, piccolo), Gary Bartz (as), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b, tracks 1 & 2), Miroslav Vitouš (b, tracks 3–6), Grady Tate (ds)。ちなみにプロデキュースは、ジャズ・フルートの達人、ハービー・マン。

ロイ・エアーズは、米国のジャズ・ヴァイブ奏者。自身のバンド、ユビキティと共にジャズとファンクを融合させた音楽ジャズ・ファンクを生み出す。その洗練された独自性はアシッドジャズやレア・グルーヴ、ヒップホップに関わる人々に再評価され、多くのラッパーの楽曲にサンプリングされている(Wikipediaより)。
 

Roy-ayersstoned-soul-picnic

 
アルバムの音世界は、当時の「ニュー・ジャズ」の範疇の「サイケディック・ジャズ」。ジャケットからして、当時の全米の精神的流行だった「サマー・オブ・ラヴ」を思いっ切り反映している「サイケなデザイン」。サイケデリック・ロックの影響を受け、実験的で厭世感漂う、夢幻的でトリッピーな雰囲気、そして、アルバム全体を覆う、退廃的なファンクネス。幻想的な妖術的なリズム&ビートが、そんな「サイケ」な雰囲気を増幅する。

そんなサウンドスケープの中を、エアーズの幽玄な響きの拡がりが印象的なヴァイブが浮遊するように流れていく。ヴァイブの硬質な音が、その浮遊するフレーズの輪郭をクッキリと浮かび上がらせる。サイケでクリスタルなエアーズのヴァイブの音。サイケなフレーズを連発するが、フレーズそのものはどこかモーダルで、しっかりジャズに根を下ろしている。このエアーズのヴァイブこそが、この盤をサイケデリック・ジャズの名盤の1枚としている。

しっかりとジャズに根を張った「サイケデリック・ジャズ」の秀作。音楽として、ジャズとして破綻しているような、無手勝流の「サイケデリック・ジャズ」もあるが、このエアーズの「サイケデリック・ジャズ」は、ジャズの範疇として安心して聴くことが出来る。「サイケデリック・ジャズ」入門として恰好の1枚である。
 
 

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2025年7月13日 (日曜日)

ジュフリー ”ウエスタン組曲” 再聴

「アトランティックはブラック・ミュージック」というレーベル・カラーの印象は強く、ミュージシャンの多彩さ及びジャズ・ジャンルの幅広さは、ジャズ・レーベルの中でも白眉。

ジャズ・ヴォーカルから、オーネットに代表されるフリー系、レニー・トリスターノなどの実験的ジャズ、ロイドやマーカスなどのジャズ・ロック、そしてソウル・ジャズにも造詣が深い。そんなアトランティック・レコードの「実験的ジャズ」の好盤を再聴した。

Jimmy Giuffre『Western Suite』(写真左)。December 3, 1958年12月3日、NYでの録音。ちなみにパーソネルは、Jimmy Giuffre (cl, ts, bs), Jim Hall (g), Bob Brookmeyer (valve-tb)。管楽器担当のジミー・ジュフリー、ギターのジム・ホール、ボブ・ブルックマイヤーのヴァルヴ・トロンボーンの圧倒的な変則トリオで、優れたアレンジと多重録音を駆使した実験盤である。

ベースもドラムもいないんじゃ、リズムもビートも無い。スウィングする訳が無い、と決めつけられ、特に我が国のジャズ・シーンでは、どうにも評判の悪いアルバムである。

まず「ベースもドラムもいないんじゃ、リズムもビートも無い」と決めつけるのは、楽器を演奏する、ということを実体験していないが故の「大きな誤解」であって、フレーズを吹き続ける強弱、緩急、伸張で、「フレーズのうねり」により、リズム&ビートが醸し出される。グルーヴ感だってシッカリと出てくる。
 

Jimmygiuffrewesternsuite_1

 
よって「ベースもドラムもいないんじゃ、リズムもビートも無い」というのは誤解であって、この盤での演奏は、LP時代、B面にあった「Topsy」と「Blue Monk」、この2曲のスタンダード、このドラムレス&ベースレスのトリオで、気持ち良く趣味良く小粋にスイングしている。趣味の良いジャジーなグルーヴ感も申し分無い。

そして、LP時代のA面を占める「Western Suite」では、ジャズを演奏の基本フォーマットとした、秀逸なアレンジによる「アレンジされた」上質のインタープレイとインプロビゼーションを聴くことが出来る。直訳すると「西部組曲」。出だしの音の雰囲気が、もう、ジャケット写真が物語るように、西部劇の世界、米国西部の砂漠の世界。ジャズという演奏で、クラシックと同等の、これだけの「音の表現」を醸し出すことが出来る。

この組曲では、ジャズ演奏の「幅」を大きく広げる「アレンジされたジャズ」の可能性の大きさを提示している。即興演奏のみがジャズである、とすると、アレンジされたジャズはジャズじゃない、という図式になるが、ジャズだって、テーマ部はしっかりアレンジされていて、アドリブ部にはいって、即興演奏が展開されるのだから、全くアレンジされていないジャズ、というものは存在しない。

西部劇の世界の雰囲気がフワ〜っと広がる。そんな雰囲気が僕は大好きです。しかし、よくまあ、クラリネットとトロンボーンとギターのトリオで、これだけ、雰囲気があって、厚みがあって、深みのある演奏が出来るもんだ、と聴く度に感心する。

このアルバムが録音されたのが1958年。それから66年が経って、ジャズ演奏の歴史を俯瞰的に見渡してみると、「アレンジされたジャズ」はちゃんと残っている。「アレンジされたジャズ」もジャズである。この『Western Suite』も「アレンジされたジャズ」の初期の成果のひとつ。好盤だと思います。
 
 

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2025年7月10日 (木曜日)

セルジオ・メンデスの好きなもの

アトランティック・レコードは、1947年にアーメット・アーティガンとハーブ・エイブラムソンによって設立された音楽レーベル。レーベル設立当初は、R&Bやジャズのレーベルとして名を上げ、ソウルやロックなど、所属アーティストの音楽ジャンルの幅を拡大、1967年には現ワーナー・ブラザース・ディスカバリーの傘下に入っている。

「アトランティックはブラック・ミュージック」というレーベル・カラーの印象は強く、ミュージシャンの多彩さ及びジャズ・ジャンルの幅広さは、ジャズ・レーベルの中でも白眉。ジャズ・ヴォーカルから、オーネットに代表されるフリー系、レニー・トリスターノなどの実験的ジャズ、ロイドやマーカスなどのジャズ・ロック、そしてソウル・ジャズにも造詣が深い。そんなアトランティック・レコードの好盤をピックアップして、今回の記事化である。

Sérgio Mendes『Sérgio Mendes' Favorite Things』(写真左)。1968年の作品。ちなみにパーソネルは、Sergio Mendes (ac-p, el-p, harpsichord), Tom Scott (fl, ss, piccolo), John Pisano (g), Dave Grusin (org), Joe Mondragon (b), Larry Nechtel (b), Dom Um Romao (ds), Joao Donato (per), Moacir Santos (per) , Dave Grusin (arr, cond)。メンデスが純粋なボサノバから離れ、アメリカのポピュラー音楽を取り入れた最初の試みを捉えた盤。
 
Sergio-mendessergio-mendes-favorite-thin

 
タイトルを直訳すると「セルジオ・メンデスの好きなもの」。メンデスの好きな曲をカバーしてます、ということと、コルトレーンがカバーしたことで有名な「マイ・フェイバリット・シングス」をシャレでかけている感じ。まず、冒頭に収録されている「My Favorite Things」を聴いて欲しい。

こってこてラテン・ジャズにアレンジされた、怪しげでダンサフルな「My Favorite Things」。思わず、声を上げて笑ってしまう。出来が悪いのではない。ここまで、徹底的にラテンにアレンジされた「My Favorite Things」は爽快ですらある。メンデスのラテンなピアノで奏でられる「My Favorite Things」のテーマ。ラテンなアレンジが素晴らしい。これはこれで「アリ」やな、と思わずほくそ笑む。

他の曲を見渡すと、バカラックの名曲カバー「I Say A Little Prayer」も、しっかりラテンしていて小気味良い。バーデン・パウエル作「Tempo Feliz(Happy Times)」は高揚感溢れるコーラスが心地良い。ソウルフル・フルートの代表格、ハービー・マンのライブアルバム『Herbie Mann at the Village Gate』にも収録された「Comin Home Baby」などは、ラウンジ・ミュージック一歩手前、小粋なアレンジが見事なソウル・ジャズ風の演奏にグッとくる。
 
 

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