2024年11月24日 (日曜日)

ブルーノートの ”先取気質” を聴く

ブルーノートの、創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった1968年までにリリースされたアルバムから、レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」。ブルーノートらしい内容、音、響き。そんな三拍子揃ったブルーノート盤の「ベスト100」。今日はその「第7位」。

Thelonious Monk 『Genius of Modern Music Vol.1』。1947年10月15日、1947年10月24日、1947年11月21日、1948年7月2日の4セッションからのピックアップ。パーソネルは以下の通り。

1947年10月15日は、Thelonious Monk (p), Idrees Sulieman (tp), Danny Quebec West (as), Billy Smith (ts), Gene Ramey (b), Art Blakey (ds)。演奏曲は、7曲目「Thelonious」、12曲目 「Humph」。

1947年10月24日は、Thelonious Monk (p), Gene Ramey (b), Art Blakey (ds)。演奏曲は、2曲目「Off Minor」、3曲目「Ruby My Dear」、5曲目「April In Paris」、10曲目「Well You Needn't」、11曲目「Introspection」。

1947年11月21日は、Thelonious Monk (p), George Taitt (tp), Sahib Shihab (as), Bob Paige (b), Art Blakey (ds)。演奏曲は、1曲目「 'Round About Midnight」、6曲目「 In Walked Bud」。

1948年7月2日は、Milt Jackson (vib), Thelonious Monk (p), John Simmons (b), Shadow Wilson (ds)。演奏曲は、4曲目「I Mean You」、8曲目「Epistrophy」、9曲目「Misterioso」。

セロニアス・モンクのピアノの強烈な個性をいち早く見出し、録音したブルーノート・レーベル。初録音は1947年に遡る。ブルーノート・レーベルの設立が1939年だから、設立後8年でモンクの音を記録している。

1947年と言えば、ビ・バップ創生期。そんな時代にあまりに個性的なモンクのピアノ。まだ、レーベル経営が軌道に乗っていない時期に、そんな「個性的でユニーク過ぎる」モンクの音を記録しているのだから、ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンの慧眼と判断力&行動力「恐るべし」である。
 

Monkgeniusofmodernmusicvol1

 
モダン・ジャズの最高の奇才、セロニアス・モンク。モンクのピアノの個性は強烈かつユニーク。スクエアにスイングし、フレーズは幾何学的に飛ぶ。そして、独特のタイム感覚。休符の置き方、テンポ、どれもがユニーク。クラシックの理路整然とした音とは「正反対の音」。クラシックからの影響は微塵も無い。ジャズだけ、から生まれた、モダン・ジャズの最高の個性。

このブルーノート盤では、そんなモンクの強烈かつユニークな個性のピアノを確実に誠実に記録している。一曲一曲の収録時間は短い。しかし、モンクのピアノは既にその個性を確立していることが直ぐに判る。

4つのセッションの寄せ集めだが、この盤は「モンクのピアノだけを聴くべき」アルバムである。そういう意味では、どのセッションでも、モンクの個性は平準化されているので、セッション毎について、セッション間についての違和感は全く無い。モンクの強烈かつユニークな個性のピアノで、アルバム全体の統一感をバッチリ出している。

収録曲はモンクの自作曲で統一され、モンク独特のアレンジで統一されている。このモンクの自作曲が実に個性的で、ジャズ的に「美しい」。収録された自作曲を見渡すと、後のミュージシャンズ・チューンとなって、最終的にはスタンダード曲化する。この盤では、モンクの自作曲の中でも特に有名となる曲が軒並みチョイスされている。

そして、モンクの独特かつユニークな個性のピアノには、やはり、モンク自身のアレンジが一番映える。モンク自身が、自身の個性を理解しつつ、その個性を際立たせる、自身によるアレンジ。この盤は「モンクの作曲力とアレンジ力を聴くべき」アルバムでもある。

ただし、この盤に記録された、モンクの独特かつユニークな個性のピアノは、その出来栄えとしては「原石レベル」であり、これから磨きがかかってさらに輝きを増す直前の「原石レベル」の音の個性。モンクの決定的名演は、のちのリヴァーサイド・レーベルの諸作を待たなければならない。

セロニアス・モンクの最初期の名盤である。セロニアス・モンクの個性の原石を強烈に感じること出来る、ブルーノートの素晴らしい「お仕事」。この盤は、ブルーノート・レーベルが持つ、独特の「先取気質」を強烈に感じ取ることが出来る盤と言える。
 
 

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2024年11月23日 (土曜日)

ストックホルムのオーネット

ブルーノートの、創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった1968年までにリリースされたアルバムから、レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」。ブルーノートらしい内容、音、響き。そんな三拍子揃ったブルーノート盤の「ベスト100」。今日はその「第6位」。

Ornette Coleman『At the "Golden Circle" Stockholm vol.1』(写真左)。1965年12月3–4日、スウェーデンのストックホルムでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Ornette Coleman (as, tp, vin), David Izenzon (b), Charles Moffett (ds)。約3年ぶりに活動を再開した、オーネット・コールマンの欧州ツアーでの一コマ。

レココレ評者が選んだ、ブルーノート盤の「ベスト100」。今回は第6位だが、これまた難物なアルバムを選んだものだ。フリー・ジャズの祖とされるオーネット・コールマンであるが、僕はどう聴いても、オーネットの吹奏は「フリー・ジャズ」には聴こえない。

本人も語っているが、一応、本人が考案した「ハーモロディクス理論」というものに則った結果だというし、演奏を聴けば、必要最低限の「重要な何らかの決めごと」が演奏の底にあるのが判る。

つまり、フリー・ジャズではなく、ハードバップの弱点を克服し、ジャズの即興演奏の可能性を拡げ、発展させた「モード奏法」と同列の奏法、「ハーモロディクス理論」で、モード奏法と同じく、ハードバップの弱点を克服し、ジャズの即興演奏の可能性を拡げ、発展させたのが、オーネット・コールマンだと僕は解釈している。
 
Ornette-colemanat-the-22golden-circle22-
 
ただ、困ったことに、モード奏法はその音楽理論が理路整然と確立されているが、「ハーモロディクス理論」については、オーネットの精神的な言葉は残っているが、具体的な記述を残していない。これが、オーネットの演奏する、自由度の高いユニークな即興演奏を解釈しにくくしているし、正確なフォロワーが現れ出でない、大きな理由だろう。

さて、このブルーノートに残したストックホルムでのライヴ音源、オーネットの奏でる自由度の高いユニークな即興演奏の全貌がとてもよくわかる、大変優れたライヴ録音になっている。

それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、を全部やっている、それまでの伝統的なジャズに対する「アンチテーゼ」の様な演奏がギッシリ詰め込んだ、オーネット独特な自由度の限りなく高い「ハードバップ」が、ライヴ演奏という、一期一会な、究極の即興演奏という形で記録されている。

演奏によっては、内容が混乱したり、冗長になったりすることがあるオーネットだが、このライヴ盤には、それが全く無い。オーネットの個性的な「ハーモロディクス理論」に基づく即興演奏が、整った形で鮮度の良いイメージで記録されている。この辺りは、さすが。ブルーノートといったところ。優れたライヴ録音をモノにするプロデュース能力と録音技術については見事という他ない。

オーネット・コールマンの「ハーモロディクス理論」に基づいた、自由度の高いユニークな即興演奏を体感し、理解するには格好のアルバムである。そういう意味では、ブルーノート・レーベルほど、当時のオーネット・コールマンを理解していたレーベルは無かった、と言える。

ベスト100の「第6位」が妥当かどうかについては異論はあるが、ジャズ・レーベルとして、当時の優れたジャズを的確に捉え記録する「ジャズに対する感覚の鋭さ」については、確かに、ブルーノートらしいアルバム、である。こういった、異端に近いジャズを的確に捉えるという点では、ブルーノートがピカイチだろう。
 
 

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2024年11月17日 (日曜日)

ブルーノートらしい「バレル盤」

創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった1968年までにリリースされたアルバムから、レコード・コレクターズ誌の執筆陣が選んだ「ブルーノートのベスト100」。レコード・コレクターズ 2024年11月号に載った特集記事なんだが、これがなかなかに興味深くて、順に聴き直してみようと思い立った。今日は「第5位」。

Kenny Burrell『Midnight Blue』(写真左)。1963年1月8日の録音。ブルーノートの4123番。ちなみにパーソネルは、Kenny Burrell (g), Stanley Turrentine (ts), Major Holley (b), Bill English (ds), Ray Barretto (conga)。リーダーのバレルのギターとタレンタインのテナーがフロント2管の、コンガ入り、キーボードレスのクインテット編成。

やっと「第5位」で、何から何までブルーノート・レーベルらしいアルバムがランクインした。まずタイトルの「Midnight Blue」と、このタイトルを印象的なタイポグラフィーであしらった、デザイン・センス抜群のジャケット。タイトルもジャケットもとにかく、とても「ブルーノートらしい」。

アルフレッド・ライオンがブルーノートの総帥プロデューサーだった時代、ブルーノートのアルバムには必ず「ブルース曲」が入っていた。ライオンの指示である。ブルーノートの音の基本は「ブルース」。
 

Kennyburrellmidnightblue_1

 
このケニー・バレルのリーダー作には、「洗練されたブルース・フィーリング」が横溢している。そして、そのブルース・フィーリングが、伝説の録音技師、ルディ・ヴァン・ゲルダーの手になる「ブルノート仕様の音」に映えに映える。

ブルージーでアダルト・オリエンテッドなファンキー・ジャズ。バレルの漆黒ギターとタレンタインの漆黒テナーが、アーバンな夜の雰囲気を醸し出す。コンガが良いアクセントとなった小粋な曲もあって、アルバム全体を通して、大人のファンキー・ジャズをとことん楽しむ事が出来る名盤。

ブルーノートのハウス・ミュージシャンの二人、バレルのギターとタレンタインのテナーの相性が抜群で、このフロント2管の相乗効果で、漆黒ファンクネスがだだ漏れ。どこか洗練された都会的な雰囲気が底に流れている。都会の深夜のブルージーで漆黒な雰囲気がアルバム全体を覆っている。

ブルーノートらしい演奏良し、ブルーノートらしい録音良し、ブルーノートらしいジャケット良し。「三方良し」のブルーノートらしい、ブルーノートらしさ満載のケニー・バレルの名盤。「ブルーノートのベスト100」の第5位は納得、である。
 
 

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2024年11月16日 (土曜日)

ハンコックの「凄み」を引き出す

ブルーノートの、創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった1968年までにリリースされたアルバムから、レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」。ブルーノートらしい内容、音、響き。そんな三拍子揃ったブルーノート盤の「ベスト100」。今日はその「第4位」。

Herbie Hancock『Maiden Voyage』(写真左)。1965年3月15日の録音。ブルーノートの4195番。ちなみにパーソネルは、Herbie Hancock (p), Freddie Hubbard (tp), George Coleman (ts), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)。邦題『処女航海』。マイルス・スクールで、直接、帝王マイルスの薫陶を受けた(ハバードは除く)若き精鋭達で構成されたクインテットの名演集。

この盤の評価については、アルバム紹介本で、雑誌で、ネットのブログなどで語り尽くされているので、ここでは語らない。ここでは、レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」の第4位になった、この『処女航海』というアルバムのブルーノートらしさ、という切り口から考察してみたい。

この盤のパーソネルが面白い。ピアノのハンコック、ベースのロン、ドラムのトニーについては、当時のマイルスの「1960年代黄金のクインテット」のリズム・セクション。しかし、フロント管にマイルスとショーターはいない。当時のマイルスの「1960年代黄金のクインテット」の「ウリ」はモード・ジャズ。しかし、これは、マイルス&ショーターのモード・ジャズであって、ハンコック、ロン、トニーのモード・ジャズではない。

それでは、ハンコック、ロン、トニーの、当時のマイルスの「1960年代黄金のクインテット」のリズム・セクションのモード・ジャズはどうか。リズム・セクション主導のモード・ジャズはあり得るのか。モード・ジャズの個性を決定づける要素は何か。その答えが、この盤にあるように思える。

ブルーノートの総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンのフロント2管のメンバー選定が面白い。テナー・サックスに、若干、ショーターの様に吹けるコールマン、トランペットに、確実にマイルスの様に吹けるハバード。何だか、疑似マイルスの「1960年代黄金のクインテット」の様な布陣。
 

Herbiehancockmaidenvoyage_1

 
出てくる音は、モード・ジャズの「教科書の様な」演奏。フロント2管のパフォーマンスに化学反応は起きない。テクニカルで端正な、マイルス&ショーターの様な、マイルス&ショーターのモーダルなフレーズをフォローした吹奏。今の耳で振り返って聴くと、この盤のフロント2管の吹奏は、テクニックは凄く素晴らしいが、フレーズ的には「安全運転」。

しかし、面白いことに、フロント2管が安全運転な分、バックのリズム・セクションのバッキングの演奏の創造力は素晴らしい。安全運転なフロント・フレーズに相対する様な、創造的でバリエーションに富んだモーダルなフレーズの連発。特に、バッっキングに回った時のハンコックのピアノの創造性と革新性は素晴らしいのだが、ここでも、その「バッキングに回ったハンコック」の凄みが噴出している。

バックに回って、フロントにマイルスとショーターがフロント管にいない時、不思議なことに、ハンコックは凄まじい想像性と革新性に富んだモーダルなフレーズを叩き出す傾向にある。ハンコックは、マイルスがフロントの時は、マイルスのモードにピッタリ寄り添い、ショーターがフロントの時は、ショーターのモードにガッチリ適応する。しかし、他のフロント管のモーダルな展開のバッキングに回った時のハンコックは、ハンコックならでは、の個性溢れるモーダルなフレーズを連発する。

そして、そんなハンコックならでは、の個性溢れるモーダルなフレーズの連発に、ベースのロン、ドラムのトニーは的確に反応する。そして、三位一体となったハンコックなモード・ジャズを展開する。この盤でも、フロントのコールマンハバードのバックで、ハンコック流のモード・ジャズが展開されていて立派。

ブルーノートの総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンは、「他のフロント管のモーダルな展開のバッキングに回った時のハンコックは、ハンコックならでは、の個性溢れるモーダルなフレーズを連発する」という特性を理解していたのだろうか。

この盤は、テクニックが素晴らしい、教科書の様な、安全運転なフロント管のモーダルな展開の、バッキングに回った時のハンコックの、凄みある、創造性と革新性に富んだモーダルな弾き回しを愛でる為にあるアルバムだと僕は思う。

リーダー・ミュージシャンの個性と特性、長所を最大限に引き出し、音にして記録する。そんなブルーノート・レーベルの凄さが感じ取れるハンコックのリーダー作である。第4位はちょっとなあ、とは思うが、ブルーノート・レーベルの、レーベルの特徴が良く出たアルバムであることは間違いない。
 
 

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2024年11月11日 (月曜日)

実質の「マイルス盤」が第3位!

レココレ 2024年11月号」に掲載された「ブルーノート・ベスト100」。この「ブルーノート・ベスト100」は、創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった、1968年までにリリースされたアルバムから、レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」が掲載されている。この「ベスト100」のアルバムを1位から順に聴き直していこう、と思い立っての3日目。

Cannonball Adderley『Somethin' Else』(写真左)。1958年3月9日の録音。ブルーノート・レーベルの1595番。ちなみにパーソネルは、Cannonball Adderley (as), Miles Davis (tp), Hank Jones (p), Sam Jones (b), Art Blakey (ds)。アルト・サックスの個性的な達人、キャノンボール・アダレイのブルーノートでの唯一のリーダー作である。

が、実質のリーダーは、ジャズの帝王「マイルス・デイヴィス」。この「実質のリーダー」の件には訳がある。

歴史を遡ること、1950年前後、マイルスは「ジャンキー」であった。マイルスは麻薬中毒の為、レコーディングもままならない状態に陥っていた。しかし、彼の才能を高く評価していたブルーノートの総帥プロデューサーのアルフレット・ライオンは彼を懇切にサポート。1952年より1年ごとに、マイルスのリーダー作を録音することを約束。実際、1952年〜1954年の録音から、2枚のリーダー作をリリースしている。

しかし、1955年、麻薬中毒から立ち直ったマイルスは、大手のコロムビア・レコードと契約をした。契約金が半端なく高額だった。生活がかかっていたマイルスについては、このコロムビアとの契約は仕方のないところ。しかし、この契約により、ブルーノートへの録音は途切れることになる。
 

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が、マイルスは「ライオンの恩義」を忘れていない。自らがオファーして、このキャノンボールのリーダー作にサイドマンとして参加したのである。当然、ライオンは狂喜乱舞。当時の録音テープには「マイルス」の名前を記していたという。

この盤は、先にご紹介した、ブルーノートでの唯一盤『Blue Train』のコルトレーンと同じく、プロデュースはライオンだが、メンバー選びや選曲などはマイルスに一任されている。が、マイルスの対応は一味違う。マイルスは「ライオンの音の好み」を勘案して、メンバーを選んでいる。

他のレーベルとの専属契約があったので、ブルーノートでの録音は、したくても叶わなかったであろう、当時、新進気鋭のアルト・サックス奏者のキャノンボール・アダレイを選出。ピアノに流麗なバップ・ピアノの名手、ハンク・ジョーンズ。ベースに堅実骨太のサム・ジョーンズ。ドラムに名手アート・ブレイキー。このリズム・セクションの人選が渋い。

内容の素晴らしさについては、既に様々なところで語り尽くされているので、ここでは書かない。が、この盤は、恩人アルフレッド・ライオンに向けての、マイルス・ディヴィスがプロデュースの「ブルーノート盤」であることは確かである。

コーニー(俗っぽい)な曲を嫌い、コーニーな演奏を嫌うライオンに対して、マイルスは、冒頭、実に俗っぽい有名スタンダード曲「「枯葉(Autumn Leaves)」を持ってきている。しかし、この「枯葉」の演奏が絶品かつ、素晴らしくブルーノートっぽい演奏なのだ。ブルージーでファンキーで気品溢れる、アーティステックなアレンジと演奏。これには、恐らく、ライオンも感嘆したに違いない。この1曲だけでも、この盤は「ブルーノートらしい」。

この盤が「ブルーノート・ベスト100」の第3位である。キャノンボール・アダレイの唯一のブルーノートでのリーダー作だが、実質リーダーはマイルス・ディヴィスと言う「変化球」の様な超名盤。ブルーノートらしさは色濃いが、徹頭徹尾、ストレートにブルーノートらしいか、と問われれば、ちょっとひいてしまう。が、そこは、人情味溢れる、義理堅いマイルスに免じて、これは明確に「ブルーノートのアルバム」と言って良いだろう。
 
 
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唯一のコルトレーン盤が第2位

「レコード・コレクターズ 2024年11月号」に掲載された「ブルーノート・ベスト100」。この「ブルーノート・ベスト100」は、創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった、1968年までにリリースされたアルバムから、レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」が掲載されている。

John Coltrane『Blue Train』(写真左)。ブルーノートの1577番。1957年9月15日の録音。ちなみにパーソネルは、John Coltrane (ts), Lee Morgan (tp), Curtis Fuller (tb), Kenny Drew (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)。テナーの聖人コルトレーンがブルーノートに残した唯一のリーダー作である。

この盤は「ブルーノート・ベスト100」の第2位。ふむむ、『Blue Train』が第2位かぁ。1950年代後半のコルトレーンは筋金入りのジャンキー。ブルーノートの総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンは、大のジャンキー嫌い。しかし、コルトレーンのアルバムは録音したい。この盤の録音時期は、コルトレーンが、約5年間在籍したマイルス・デイビスの元を離れて独立、自分の名前でジャズ・シーンでの歩みを開始した時期。

この盤は、リアルタイムでは、この盤が2枚目のリーダー作。この時、コルトレーンはプレスティッジと契約中。プレスティッジから初リーダー作をリリースしたが、ライオンの要請に従い、なんとかブルーノートからリリースの流れらしい。従って、このブルーノート版には、"courtesy of Prestige Records" とクレジットされている。
 

Blue_train

 
しかも、この盤、プロデュースはライオンだが、メンバー選びや選曲などはコルトレーンに一任されている。つまり、この盤はブルーノートらしさが希薄な盤と言える。つまり、どのレーベルでリリースしてもこの内容になった、ということ。しかし、ジャケのデザイン、ルディ・ヴァン・ゲルダーの手になる「ブルノート・サウンド」による録音。この2つのブルーノートならではの要素が、この盤をブルーノート・レーベルの名盤の一枚、に留めている。

加えて、この盤については、評論のほとんどが「コルトレーンは素晴らしい」の一点張りだが、この盤は、演奏に参加したメンバー全員が素晴らしい演奏をしている。ブルーノートはリハーサルにもギャラを払う。記録によると、ブルーノートは2〜3日間のリハーサルを積んで、本録音に望んでいる。当然、演奏内容は素晴らしい。これもブルーノートならでは、である。

演奏も素晴らしい。曲も素晴らしい。しかし、この盤はアレンジが秀逸。アレンジャーのクレジットがないので、恐らく、2〜3日間のリハーサルの中でのヘッド・アレンジだと思うが、どの曲も、このアレンジが素晴らしい。この優れたアレンジの則って、しっかりリハーサルを積んだ、端正でメロディアスでファンキーで骨太の演奏が「ブルーノートらしさ」をこの盤に付加している。

それぞれのメンバーの演奏の素晴らしさ、曲毎の作りの素晴らしさについては、既に様々なところで語り尽くされているので、ここでは書かない。コルトレーンだけではない、演奏メンバー全員が素晴らしい。アレンジも良い、ジャケも良い、録音も良い。モダン・ジャズの、ハードバップのアルバムとして、全ての面で、切り口で素晴らしい、コルトレーンの、というよりは、ハードバップの名盤、と言った方が座りが良い。

もっと他に、ブルーノートらしさが滴り落ちるような名盤があったようにも思うが、我が国のジャズ・シーンは、コルトレーン信奉者がまだまだ多いとみえる。ブルーノートらしさが少し希薄な、ブルーノートに一枚だけ残した、コルトレーンのこの盤が、「ブルーノート・ベスト100」の第2位である。少しだけ違和感を感じる。
 
 

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2024年11月 9日 (土曜日)

この盤が第1位とは意外である

「レコード・コレクターズ 2024年11月号」に珍しくジャズの特集が載った。「ブルー・ノート・ベスト100」。

ブルーノート・レーベルは、1939年にアルフレッド・ライオンによって始められたジャズ・レーベル。1950〜60年代のハード・バップを中心としながらも幅広いスタイルのジャズのアルバムを多数リリース。「1950〜60年代のジャズの変遷を知るなら、ブルーノートを聴けば良い」と言われるくらい、ジャズ史の中で、超重要なレーベルである。

そんなブルーノートの、創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった1968年までにリリースされたアルバムから、レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」が掲載されている。今回、この「ベスト100」を指針として、ここヴァーチャル音楽喫茶「松和」で、順に聴き直してみようと思い立った。100枚相手の聴き直し。一年位、かかるかな。結果は右下のカテゴリー欄に「Blue Noteの100枚」としてアーカイブしていくので、よろしくお願いします。

Eric Dolphy『Out to Lunch』(写真左)。1964年2月25日の録音。ブルーノートの4163番。ちなみにパーソネルは、Eric Dolphy (b-cl, fl, as), Freddie Hubbard (tp). Bobby Hutcherson (vib), Richard Davis (b), Tony Williams (ds)。当時、先進的な、先鋭的なジャズを牽引していた精鋭クインテットである。

この盤が「ブルーノート100」の1位に選ばれている。うむむ、どこに焦点を当てるか、によるが、よりによってこの盤か、との想いが頭をよぎる。この盤は、一言で言うと「難解盤」。1位だといって、決して、初心者向けの盤では無い。ジャズの歴史と様々な奏法を聴いてきた、中級から上級向け。なんせ、聴き心地の良いものではない。

リーダーのエリック・ドルフィーのアルト・サックスは、ジャズの伝統に根ざした「前衛志向」。決して、前衛ではないし、フリージャズのリーダーでも無い。ジャズの伝統に根ざした、限りなく自由でユニークなアルト・サックス。マイルスが「コードからの解放」を示唆し、モード奏法を導入して、ジャズの即興演奏の自由度を飛躍的に高めた。そのベクトルの先の、ちょっと外れたところに、ドルフィーはいる。
 

Eric-dolphyout-to-lunch

 
この盤のドルフィーは、完全に「ドルフィー流のモード・ジャズ」。一定のルールと規律に基づいた、ジャズの伝統の枠内で、最大の自由を追求した様な演奏。だが、その自由度溢れるフレーズはドルフィー独特なもの。しかし、その「独特」なフレーズの凸凹と揺らぎが「癖になる」。癖になればドルフィー大好きだし、嫌になればドルフィー嫌いになるほどの強烈な個性。

演奏メンバーそれぞれ、このドルフィー独特の自由度溢れるモーダルなフレーズを踏襲する。まず、モーダルな先鋭的ヴァイブが個性のハッチャーソン。ドルフィー独特のフレーズの雰囲気を踏襲しつつ、ハッチャーソンの個性を踏まえたフレーズを叩きまくる。ドルフィー志向のハッチャーソンのヴァイブといった風情がユニーク。

トランペットのハバードは、テクニックが超優秀が故、ドルフィーのフレーズの「優れた物真似」志向で、「こんな感じでどう」という感じで、ドルフィーのコピー志向のモーダルなフレーズを吹く。創造性と独創性に欠ける嫌いがあるが、バカテクが故の仕業なので仕方がない。ピアノレスなので、このフロント3人のフレーズ展開の自由度はかなり高い。

リチャード・デイヴィスのベースと、トニー・ウイリアムスのドラムは、フリー&アブストラクトにも完全対応する、優れものなリズム隊なので、ドルフィーの、ジャズの伝統に根ざした「前衛志向」の演奏については、全く問題なく対応する。

しかし、このドルフィーの『Out to Lunch』が、「ブルーノート100」の第1位だったのには、ちょっと戸惑った。ジャズ者初心者にはちょっと荷が重いこの盤。確かにジャズ者ベテランからすると、聴いて面白い盤ではあるんだが。でも、やっぱり趣味性が高いかなあ。ジャケットもシュールで、マニアからするとたまらない逸品。とにかく、ブルーノートの名盤の一枚ではある。
 
 

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