2024年10月12日 (土曜日)

「Jay&Kai」のColumbia好盤

ジャズの演奏で大切なものは色々あるが、リーダーのフロント楽器の特性に応じた「アレンジ」は特に重要な要素。そして、その「アレンジ」に適したリズム・セクションの手配。この「アレンジ」と「適したリズム・セクション」がバッチリ合ったセッションは優れた結果になる。

J.J. Johnson and Kai Winding『Jay & Kai + 6: The Jay and Kai Trombone Octet』(写真左)。1956年4月の録音。ちなみにパーソネルは、J.J. Johnson, Kai Winding (tb, arr), Hank Jones (p), Milt Hinton, Ray Brown (b), Osie Johnson (ds), Candido Camero (conga, bongo) and The Six Trombonists (Urbie Green, Bob Alexander, Eddie Bert, Jimmy Cleveland (tb), Tom Mitchell, Bart Varsalona (b-tb))。

3日前のブログで、「トロンボーンはスライドを出し入れして音程を出すので、とにかく演奏するのが難しい楽器。まず、カイのテクニックは抜群なので、その最低要件は満たしているが、そんなハイ・テクニックを持ってしても、その曲毎に、スタートするキーや、スライド幅を出来るだけ少なくする様なアレンジが非常に重要になる。」と書いた。

この盤は「Jay & Kai」のColumbiaリリースの好盤。楽曲のアレンジを、トロンボーンの名手二人「Jay & Kai」自らが担当している。これって「無敵」に近いことで、トロンボーンの演奏を熟知した名手二人が、それぞれのトロンボーンの特性を踏まえて、それぞれのトロンボーンが映えるアレンジを施すのだ。確かに、この盤のアレンジはバッチリはまっていて、「Jay & Kai」のトロンボーンが映えに映えている。
 

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アレンジの「キモ」は、The Six Trombonistsの存在。この6人のトロンボーンが効果的にバッキングし、「Jay & Kai」のトロンボーンを前面に押し出し、引き立てる。このトロンボーンのユニゾン&ハーモニーのアレンジも「Jay & Kai」が担当している様で、さすが、トロンボーンをどうやったら、トロンボーンで引き立てることが出来るか、を熟知している名手二人のアレンジである。

そして、もう一つの「キモ」である「適したリズム・セクション」については、小粋で味のある伴奏上手のピアニスト、ハンク・ジョーンズのピアノが要所要所で効いている。

ハンクの趣味の良い流麗な、バップなバッキングのリズム&ビートの躍動感が、「Jay & Kai」のトロンボーンを支え、鼓舞する。「Jay & Kai」のトロンボーンの特性を見抜いた、見事なバッキング。ヒントンとブラウンのベースは堅実、ドラムとコンガ、ボンゴのリズム隊も堅実に、躍動感溢れるリズム&ビートを供給する。

トロンボーンがフロントを担うセッションにおいて重要なファクターである「アレンジ」と「適したリズム・セクション」がバッチリ合った、「Jay & Kai」のセッションの記録。秋のこの季節にピッタリの、爽快でブリリアントなトロンボーンが主役の好盤です。
 
 
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2024年10月 8日 (火曜日)

A&Mでの ”Jey & Kai” の復活

「A&Mレコード」が牽引役を担ったのが、聴き易さと分かり易さと適度な刺激を追求した「クロスオーバーなイージーリスニング・ジャズ」。そのカラクリは「聴き易さと分かり易さと適度な刺激を追求した、ロック&ポップスとジャズとの融合」と考えると、A&Mの諸作は実に興味深く聴くことが出来る。

J. J. Johnson & Kai Winding『J&K: Stonebone』(写真左)。1969年9月の録音。1970年、日本限定のリリース。ちなみにパーソネルは、J. J. Johnson, Kai Winding (tb), Herbie Hancock, Bob James, Ross Tompkins (key), George Benson (g), Ron Carter (b), Grady Tate (ds)。すべてのA&M / CTIリリースの中で最も希少な作品。

1950年代に活躍した、2人のトロンボーン・ユニット「Jey & Kai」を、約20年の時を経て、A&Mレコードのクリード・テイラーが、聴き易さと分かり易さと適度な刺激を追求した「クロスオーバーなイージーリスニング・ジャズ」にて復活させた、エレクトリックなソウル・ジャズ&ジャズ・ファンク。

ルディ・スティーブンソンの「Dontcha Hear Me Callin' To Ya?」のエレ・ファンクなカヴァー。イージーリスニングなエレ・ジャズ風にアレンジされた、ジョー・ザヴィヌルの典型的なフュージョン曲「Recollections」。そして、ジョンソン作の魅力的な2曲「Musing」と「Mojo」の全4曲。
 

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聴き易さと判り易さと適度な刺激を追求した、ロック&ポップスとジャズとの融合の中で、収録された曲の全てに、トロンボーン・ユニット「Jey & Kai」のトロンボーンの響きと音色が映える、素敵なアレンジが施されている。 バックの演奏トーンは、エレクトリックがメインではあるが、旧来のハードバップな8ビートを採用していて、基本的に耳に馴染む。

電子キーボードは「ハンコック」がメイン(「Recollections」ではボブ・ジェームスとロス・トンプキンスが加わる)。ファンキーなフレーズを弾き始めている様子がよく判る。ギター参加の若き日のジョージ・ベンソンが、ロックっぽいジャジーなフレーズを弾きまくっている。ロン・カーターのベース、グラディ・テイトのドラムのリズム隊は、エレ・ファンクな8ビートに難なく対応、エモーショナルでファンキーなリズム&ビートを叩き出している。

ジェイジェイとカイのトロンボーンはファンキー。肉声のボーカルの如く、トロンボーンを吹き上げる。ブリリアントでエッジが丸い、柔らかだが芯の入った音色。そう、ジェイジェイとカイのトロンボーンは、ロックやポップスのボーカルの様に、トロンボーンを響かせている。

明らかに、ジェイジェイとカイのトロンボーンのフレーズは、ロック&ポップスの様に、シンプルで分かり易いキャッチャーなフレーズになっている。そして、エレピ・ベース・ドラムのリズム&ビートが、従来のジャズ風の8ビートでは無く、ロック&ポップス風の8ビートなリズム&ビートになっている。

A&Mレコードの音作りの「キモ」である、聴き易さと分かり易さと適度な刺激を追求した、ロック&ポップスとジャズとの融合、がとてもよく判る優秀盤です。1970年の初出以来、CDやストリーミングでの発売もなかったというレアな作品でしたが、今では、音楽のサブスク・サイトに音源がアップされていて、気軽に聴くことが出来る様になりました。
 
 

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2024年5月17日 (金曜日)

A&Mの ”カイとJ.J.” の名演

「K. and J.J. 」とは、ジャズ・トロンボーンの名手の二人、J.J.ジョンソンとカイ・ウィンディング。ハードバップ時代には「KAI & J.J.」というユニットを組んで、聴き心地の良いファンキー・ジャズの好盤を連発していた。その「KAI & J.J.」の再結成風のA&M盤。単なる「懐メロ同窓会」的雰囲気で終わるのではないか、という危惧を覚える。

K. and J.J. 『Israel』(写真左)。1968年2, 3, 4月の録音。A&Mレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、J. J. Johnson, Kai Winding (tb), Herbie Hancock (p), Ross Tompkins (p, harpsichord), Eric Gale, Bucky Pizzarelli (g), Ron Carter, Richard Davis (b), Grady Tate (ds) がメイン・メンバー。ここにハープ入りの管楽器メインのジャズオケがバックに入っている。

が、聴いてみると、まず、カイとJ.J.のトロンボーンが「イケる」。しっかりとしたテクニックで、しっかりとしたブロウで、しっかりとしたピッチでトロンボーンを吹きまくっている。トロンボーンのブラスの鳴りがスピーカーから伝わってくるほどのブリリアントなトロンボーンの響き。このカイとJ.J.の好調な「本気トロンボーン」の吹奏を聴くだけで、この盤は「懐メロ同窓会」的な企画盤で無いことが判る。

もともと、A&Mレコードの音作りが「上質なイージーリスニング志向のジャズ」を目指しているだけあって、この盤でも、特に、ハープ入りの管楽器メインのジャズオケのアレンジが優れている。陳腐なところは全く無い。とても良く練られた、ドン・セベスキーのアレンジである。
 

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演奏自体のアレンジも良い。収録曲を見渡せば、「"My Funny Valentine」「Django」などの人気スタンダード曲あり、「Israel」「Am I Blue」「St. James Infirmary」などの渋いスタンダード曲あり、どちらも、一捻りしたアレンジが優秀で、「上質なイージーリスニング志向のジャズ」として、絶大な効果を発揮している。

「上質なイージーリスニング志向のジャズ」を目指しているからと言って、演奏自体が聴き心地優先の甘々な演奏では全く無い。それぞれの楽器のパフォーマンスは、とても充実している。それぞれの楽器担当の「本気」を感じる。

カイとJ.J.のトロンボーンのユニゾン&ハーモニー、そして、チェイス。これが、どの曲でもバッチリ効いている。とにかく、トロンボーン独特のユニゾン&ハーモニーが前面に出てくる。これがどれもが印象的に耳に響く。カイとJ.J.のトロンボーンのソロも良い。充実した本気な吹き回しで、ダレたところは微塵も無い。本気で聴かせるジャズ・トロンボーン。

ハンコックのピアノもそこはかとなくファンキーで、カイとJ.J.のトロンボーンを引き立てる。伴奏上手のハンコックの面目躍如。ゲイルとピザレリのギター隊のリフ、カッティング、バッキングが小粋でこれまたファンキー。トロンボーンの柔らかな音色との対比が良い。

ロン、ディヴィスのベースはハードパップなウォーキング・ベースで、テイトの小粋で趣味の良いドラミングで、「上質なイージーリスニング志向のジャズ」のリズム&ビート支えている。

ハードバップ時代の「KAI & J.J.」の再結成盤。どうなることやら、と思いきや、当時の流行のど真ん中、ハードバップでファンキーでモダン、ジャズオケ+エレ楽器入りの「上質なイージーリスニング志向のジャズ」が展開されていて立派。とりわけ、カイとJ.J.のトロンボーンの、新鮮な「ハードバップ志向の力演」が印象に残る。
 
 

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2016年10月25日 (火曜日)

インパルス!の最初の一枚目

若い頃、ジャズ者初心者の頃から、インパルス!レコード(Impulse! Records)がなんとなく好きである。このレーベルは、かのフュージョン・ジャズの仕掛け人の一人、クリード・テイラーによって1960年に設立されたジャズレーベルである。

まず、ジャケットが良い。見開きのジャケットで、黒とオレンジ色で統一されたデザインが特徴的。紙の厚みもあって重厚、コーティングも上等で、その光沢がお洒落。そして音が良い。ブルーノート・レーベルの録音技師で有名な、ルディ・ヴァン・ゲルダーがサウンド・エンジニアをしている。インパルス!レコードの音には独特の個性がある。聴いていて「あっこれは、インパルス!やな」と判る。

アルバムの内容には、しっかりとした統一感がある。ジャズのその時点でのトレンドをしっかりと押さえ、旬の音を捉える。インパルス!のジャズの音はどれもが新しい。プロデュースがしっかりしているのだ。多くのアルバムはボブ・シールによりプロデュースされている。なるほど、ボブ・シールの仕業か。納得。

そんなインパルス!レコードのアルバムをカタログの順に聴き直している。まずは、Impulse! 9000 seriesからだろう。最初の1枚目(A-1)は、Kai Winding & J.J. Johnson『The Great Kai And J.J.』(写真左)。1960年10月、11月の録音になる。

ちなみにパーソネルは、J.J.Johnson, Kai Winding (tb), Bill Evans (p), Paul Chambers (tracks 1, 3, 6, 7) ; Tommy Williams (tracks 2, 4, 5 & 8-11) - (b), Roy Haynes (tracks 1, 3, 6, 7) ; Art Taylor (tracks 2, 4, 5 & 8-11) - (ds)。当時として、なかなか充実の布陣である。パーソネルの選定にも気を配っていることが感じ取れる。
 

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カイ・ウィンディングとJ.J.ジョンソン、二人の一流トロンボーン奏者の双頭リーダー盤である。二人の一流トロンボーン奏者の双頭リーダー盤なので、競演バトルが繰り広げられるのか、と思いきや、そうはならない。録音年は1960年。ジャズが鑑賞音楽としてのポジションを獲得しつつある時代である。

この盤の音世界は、一言で言うと「お洒落で聴き流しに最適」。ほどよくアレンジされて、カイ・ウィンディングとJ.J.ジョンソン、二人の一流トロンボーン奏者のユニゾン&ハーモニー、チェイス、アドリブ交換、どれもがとても心地良い響きを持って展開される。アドリブ・フレーズですら流麗で、これも事前にアレンジされているのでは、と勘ぐってしまう位な「お洒落度合いの高さ」。

曲によっては、その流麗さにブレーキがかかって「オヨヨ」と前のめりになるが、これはアレンジ・ミスが原因で、二人の一流トロンボーン奏者の問題では無い。二人の一流トロンボーン奏者はどちらも、この盤ではご機嫌なプレイを聴かせてくれる。

ピアノにビル・エバンスの名が見えるが、この盤では特に目立ったプレイを展開している訳では無い。あまり個性を前面に押し出しておらず、平均点なピアノに落ち着く。逆に、ベース、ドラムは、曲によってそれぞれ二人のプレーヤーが分担しているが、いずれもなかなか粋なサポートを繰り出していて、聴いていて楽しい。

お洒落な聴き流しが最適なトロンボーン盤である。トロンボーンのほのぼのとした、伸びやかなトーンをベースに、聴いていて、なんか優しい、聴いていて、なんか心温まる音世界が実に心地良い。とにかく、当時としてアレンジが新しい。鑑賞音楽としてのジャズが根付いてきたんやなあ、ということが追体験できる好盤である。

 
 

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2016年2月10日 (水曜日)

トロンボーンなジャズを愛でる

トロンボーンの音が好きである。ちょっとのんびりしたような丸みを帯びた音。意外と高い音から低い音までをカバーする幅広い音程。トロンボーン2本以上でのユニゾン&ハーモニーなぞ、ファンクネス濃厚に漂い、耳に柔らかく至福の時である。

そんなトロンボーン、ジャズの世界ではちょっとマイナーな楽器ではある。スライド管を動かして音程をとるので、速いパッセージが苦手。ビ・バップなど、速さとテクニックを誇る向きには、この楽器はちょっと向かない。しかし、どの楽器にも才人というのはいるもので、この難しい楽器をいともたやすく吹きこなす強者もいるのだ。

そんなジャズ・トロンボーンの強者二人が組んだデュオ・グループがある。「J&K」である。J.J.Johnson,とKai Windingという二人のジャズ・トロンボーン奏者がガッチリと組んだグループである。とにかく、この二人のトロンボーンは天才的である。トランペットやサックスの様にトロンボーンを吹き上げる。 

そんなジャズ・トロンボーンのデュオ・グループの先駆け「J&K」 の記念すべき初セッション盤がこれ。J.J.Johnson & Kai Winding『Jay & Kai』(写真左)。1947,1952,1954年と3つの時期の録音を集めたもの。全10曲のうち、1954年の録音によるもので、「J&K」がフロントでデュオ演奏しているのは8曲。残りの2曲はJ.J.とカイが1曲ずつコンボで演奏しています。
 

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J.J.Johnsonは1924年生まれなので、1954年を基準とすると30歳。Kai Windingは1922年生まれなので32歳。ジャズでいうとまだまだ若手のレベル。やんちゃで溌剌として尖った、若々しいジャズ・トロンボーンを聴くことが出来ます。

このアルバムを聴き通すと判るんですが、この二人のデュオ・グループ、とってもクオリティが高い。アンサンブルも優秀、アレンジが良いのでしょうね。とにかく天才的なジャズ・トロンボーン奏者が二人、フロントをとって吹きまくるですから、それはそれは、スリリングな展開がそこかしこに現れます。

1947,1952,1954年という、かなり年代物の録音なんですが、さすがサボイ・レーベル、中音域を前面に押し出した、厚みのあるジャジーな音が心地良く、この録音の個性が「J&K」のトロンボーンの音色を惹き立たせています。ライブ感を感じさせてくれる適度なテンションが良いですね。

収録曲を見渡すと、収録されている楽曲はほぼJ.J.の代表的なオリジナルで埋め尽くされていて圧巻です。聴き応え満点。このアルバムは「J&K」のアルバムの中でも上位に位置する好盤だと思います。ジャズ・トロンボーンを感じる入門盤としても良いですね。ジャズ・トロンボーンを愛でたくなると、この盤は必ず登場します。
 
 
 
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