2024年10月 3日 (木曜日)

唯一無二な ”マハヴィシュヌの音”

ジョン・マクラフリン率いるマハヴィシュヌ・オーケストラは、マクラフリンがマハヴィシュヌを結成する前に所属していた、トニー・ウィリアムス率いるライフタイムと、よく一緒くたに語られるが、マハヴィシュヌとライフタイムは全く「音の志向」が異なる。

ライフタイムは、エレクトリックな「限りなく自由度の高い」モード・ジャズから、エレクトリックなフリー・ジャズ。ライフタイムの音の志向は「フリー」。片や、マハヴィシュヌは、ジャズとロックの融合からのジャズロック。そこにクラシックの要素や英国プログレッシヴ・ロックのテイストを取り入れた、マハヴィシュヌの音の志向は「クロスオーバー」。

Mahavishnu Orchestra『Visions of the Emerald Beyond』(写真)。邦題『エメラルドの幻影』。 1974年12月4日から12月14日まで、NYの「エレクトリック・レディ・スタジオ」で録音。その後、1974年12月16日から12月24日まで、ロンドンの「トライデント・スタジオ」でミックスダウンされている。

ちなみにパーソネルは、John McLaughlin (g, vo), Jean-Luc Ponty (vin, vo), Ralphe Armstrong (b, vo), Narada Michael Walden (perc, ds, vo, clavinet), Gayle Moran (key, vo)。ジャズ・エレギのイノベーター&レジェンド、ジョン・マクラフリン率いるマハヴィシュヌ・オーケストラの4枚目のアルバム。

今回の『Visions of the Emerald Beyond』を聴くと、マハヴィシュヌの音の志向である「クロスオーバー」を強く感じることができる。
 

Visions-of-the-emerald-beyond

 
この盤では、ジャン=リュック・ポンティのバイオリンが大々的にフィーチャーされている。このバイオリンを聴いていると、英国プログレのキング・クリムゾンのデヴィッド・クロスや、伊プログレのPFMのマウロ・パガーニのヴァイオリンを想起する。もともと、欧州ではジャズとプログレッシヴ・ロックとの境界が曖昧で「クロスオーバー」している。

マクラフリンのエレギだって、英国プログレや和蘭プログレ、伊プログレでのエレギのテイストに強烈な影響を与えているようで、欧州のエレクトリック・ジャズとプログレッシヴ・ロックとの境界が曖昧なのは、エレギもバイオリンと同じ。そういう意味で、マハヴィシュヌの音は「欧州プログレとのクロスオーバー」な傾向にあると僕は睨んでいる。

そういう考察抜きにも、この盤でのマハヴィシュヌの音世界は唯一無二。エレクトリック・ジャズのモーダルな展開をベースに、ジャズロックやプログレの要素を交えた音世界は迫力満点。訴求力抜群。

お得意の「インドの瞑想モード」で始まるジャズロックあり、トライブ感溢れるジャズロックあり、流麗なプログレ調ジャズロックあり、グルーヴ感抜群のジャズファンクあり。マハヴィシュヌのジャズロックをベースとした「クロスオーバー」な音世界が満載。

『エメラルドの幻影』。いかにも、当時の日本のCBSソニーらしい、気恥ずかしい、赤面ものの邦題である(笑)。クロスオーバー・ジャズの名盤につける雰囲気の邦題やないよね。ジャケのイラストは、既出のアルバムとの統一感があって良い感じなんですが,,,。まあ、邦題は横に置いておいて、中身の演奏を堪能したいと思います(笑)。
 
 

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2021年7月 2日 (金曜日)

第2期マハヴィシュヌ・オケの傑作

マクラフリン率いる「マハヴィシュヌ・オーケストラ」。今の耳で聴けば、これはジャズロックの体をした「プログレッシヴ・ロック(略して「プログレ」)」である。マハヴィシュヌ・オーケストラのメンバー自体、ジャズ畑からの参入なので、クロスオーバー・ジャズのジャンルに留め置いたが、どうも最近の「今の耳」で聴き直すと、どうもこれは「プログレ」ではないかと(笑)。

John McLaughlin with Mahavishnu Orchestra『Apocalypse』(写真)。邦題『黙示録』。1974年3月の録音。ちなみにパーソネルは、John McLaughlin (g), Gayle Moran (key, vo), Jean-Luc Ponty (el-vln), Ralphe Armstrong (b, vo), Narada Michael Walden (ds, perc, vo)。

ギターのジョン・マクラフリンを除くメンバーががらりと変わった、マハヴィシュヌ・オーケストラの第2期の作品になる。プロデューサーが「ジョージ・マーティン (George Martin)」。これが大正解だった。エレ・ジャズとプログレとクラシックの「融合音楽」をものの見事にプロデュースしている。

ロンドン・シンフォニー・オーケストラとの共演が興味深い。ジャズのバンドや演奏者がムーディーな雰囲気を増幅するのに、オーケストラとの共演をするのはたまにある。が、ジャズロック、クロスオーバー・ジャズがオーケストラと共演するのは、ロックバンドがオーケストラと共演する様なもので、あまり例が無く、成功例は少ない。
 

Apocalypse

 
しかし、このマハヴィシュヌ・オーケストラとオーケストラの共演、よく練られていて、ジャズとロックとオーケストラの融合。つまり、クロスオーバー・ジャズの真骨頂とでも言いたくなる、素晴らしい「融合」音楽が成立している。

電気楽器の音がジャジーな分、オーケストラの音と良く馴染む。マクラフリンのクロスオーバーなエレ・ギターと、ジャズロック側のジャン=リュックポンティの電気バイオリンとが、オーケストラの弦との間の「橋渡しの役割」を担って、違和感無く融合していて違和感が無い。オーケストラの音が、静的なスピリチュアル・ジャズに通じる響きを供給していて、マハヴィシュヌ・オーケストラの「プログレ」な音を増幅している。

ゲイル・モランのボーカルも幻想的でスピリチュアル、ドラムはなんと、ジェフ・ベック「WIRED」でのドラマー、マイケル・ウォールデンで、乾いたファンクネスが漂うロックビートなドラミングがユニーク。

音的には、第1期マハヴィシュヌ・オーケストラの様な、切れ味良くテンション溢れ、畳みかけるような展開は影を潜め、代わって、叙情的でシンフォニックな展開がメインになっている。エレ・ジャズとプログレとクラシックの「クロスオーバー・ミュージック」。そんな魅力的な音世界がこのアルバムに詰まっている。
 
 
 

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2021年7月 1日 (木曜日)

マハヴィシュヌ・オケのライブ盤

もともと自分は「ロック・キッズ」出身。中学時代には、深夜放送を中心に「ロック&ポップス」のシングル曲をせっせと聴いていた。高校時代に入って、本格的に「ロック・キッズ」の仲間入り。高校一年生の頃、プログレッシヴ・ロック(略して「プログレ」)にドップリ填まった。いわゆる「プログレ小僧」化し、あれから50年経った今でも「プログレ盤」は大好きで、ジャズの合間の耳休めにちょくちょく聴いている。

このプログレであるが、英国においてはロックとジャズの境界線が曖昧。クロスオーバー・ジャズの中で、ロックからジャズへ、ジャズからロックへ、双方向からのアプローチがあって混沌としている。判別のポイントは、ロックからジャズへのアプローチは「シンプルでポップで判り易い」、言い換えれば「単純」。ジャズからロックへのアプローチは「テクニカルで複雑」、言い換えれば「判り難い」。

ロックからジャズへのアプローチの代表例が「プログレ」で、ロックにジャズの要素を混ぜ込むことで、ちょっとアカデミックな雰囲気が漂い、その辺のやんちゃなロックとは一線を画すことが出来る。「プログレ」は演奏テクニックが優秀で、ジャズの要素を取り込み事が出来たのだ。

逆に、ジャズにロックの要素を混ぜ込むことで、アコースティック一辺倒だったジャズの「音の表現」に、電気楽器の新たな「音の表現」が加わり、新しいジャズの響きが生まれる。特に「エレ楽器や8ビート」の導入は、それまでに無い、全く新しいジャズの表現方法を生み出した。
 

Between-nothingness-eternity

 
John McLaughlin with Mahavishnu Orchestra『Between Nothingness & Eternity』(写真左)。1973年8月18日、NYのセントラルパークで行われた「Schaefer Music Festival」でのライブ録音。リリース当時の邦題は「虚無からの飛翔」。ちなみにパーソネルは、John McLaughlin (g), Jan Hammer (key), Jerry Goodman (vln), Rick Laird (b), Billy Cobham (ds, perc)。

クロスオーバー・ジャズの代表格、ジャズ畑のエレ・ギターの雄、ジョン・マクラフリンがリーダーのマハヴィシュヌ・オーケストラのライヴ盤。聴けば良く判るが、演奏のベースはジャズである。そこにロックの要素(エレ楽器や8ビート)をタップリ注入し、ジャズの即興演奏の要素を前面に押し出す。

しかしながら、エレ・マイルスとは異なり、このマハヴィシュヌ・オケの音に「ファンクネス」は希薄。ファンクネスを極力抑えることによって、ロックとの融合の印象をより強くする作戦。ライヴ音源だとそれが良く判るし、その作戦は成功している。マハヴィシュヌ・オケの音は、驚異的なハイ・テクニックの下、リズム&ビート、およびアドリブ・フレーズは「捻れていて複雑」かつ「ストイックでアーティスティック」。

恐らく、マハヴィシュヌ・オケは英国をはじめ欧州でウケたのではないか。演奏内容が「テクニカルで複雑」なので米国では、欧州ほどにはウケなかったと思われる。我が国では、当時、エレ・ジャズは異端とされていたので論外(笑)。元「プログレ小僧」だったジャズ者の方々に是非お勧めの「マハヴィシュヌ・オケ」である。
 
 
 

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2014年10月 5日 (日曜日)

圧倒的演奏力なジャズロックです

ジャズロック、および、クロスオーバー・ジャズの傑作と言い切って良いだろう。まだ、ロック小僧だった頃、このアルバムを初めて聴いた時、頭の中に衝撃が走った。そして、ジャズ畑のミュージシャンのテクニックの高さに驚いた。

1972年9-10月ニューヨーク及びロンドンで録音。1973年のリリース。The Mahavishnu Orchestra『Birds of Fire(邦題:火の鳥)』(写真)。ジョン・マクラフリン主宰のマハヴィシュヌ・オーケストラの第2作。 ちなみにパーソネルは、Billy Cobham (ds), Rick Laird (b), John McLaughlin (g), Jan Hammer ( el-p,ac-p,syn), Jerry Goodman (vln)。

凄まじいテンションの高さと演奏力の高さ。圧倒的演奏力を持って、複雑な曲をいとも簡単に弾き切ってしまう。それでいて、展開される音について難解さは無い。しかし、この演奏にあるアバンギャルドさは、当時のエレクトリック・ジャズに必須の要素で、これが思いっきりクールに決まっている。

音の響きと雰囲気は、プログレッシブ・ロック。叙情性とトータル・イメージが際立つ。かつパワフル。このアルバムの演奏を聴いて、ジャズ側の圧倒的な演奏力に「やられた」。もはや、ロック側には何も無い、と感じたのは事実。ジャズ者になる前、1976年の秋から冬にかけて、これら、エレクトリック・ジャズの傑作を幾枚か聴いて、僕は当時のロックを見限って、ジャズに乗り換えた。

それだけ説得力のある、圧倒的テクニックを誇るエレクトリック・ジャズな演奏である。エレクトリック・マイルスは、リズム&ビートに、あくまでジャズとファンクをメインに置いたが、このマハヴィシュヌ・オーケストラは、リズム&ビートにロック・ビートを織り交ぜており、このロック・ビートの存在が、クロスオーバー・ジャズの雰囲気を増幅させていて心地良い。
 

Bird_of_fire

 
ギターとヴァイオリンをフィーチュアした、テンションの高いハードで硬派なジャズロック。甘さの微塵も無い。 ギターとヴァイオリンの絡みがエキゾチックな響きを漂わせ、ジャズとロックの融合なんていう「予定調和」な響きはここには全く無い。あるのは、今の耳で聴いても驚きを感じる「ハプニング性」。これは最終的には「聴いて貰うしか無い」。

マハヴィシュヌ・オーケストラのデビュー盤『The Inner Mounting Flame(内に秘めた炎)』とこのセカンド盤を初めて聴いた時、これって「キング・クリムゾンやん」って思った。特に、ギターの弾き方、ヴァイオリンの響き、これって、『太陽と戦慄』から『暗黒の世界』のキング・クリムゾンの音にそっくり。

というか、このマハヴィシュヌ・オーケストラのデビュー盤『The Inner Mounting Flame(内に秘めた炎)』が1971年のリリースですから、キング・クリムゾンのほうが、このマハヴィシュヌ・オーケストラの音を参考にしたんでしょうね。う〜ん、キング・クリムゾンの総帥ロバート・フィリップもなかなか「あざとい」なあ(笑)。

今の耳で聴いても、ジャズ・ロック的な音楽の中に、懐の深く柔軟なジャズらしい、クラシック、インド音楽、カントリーなどを詰め込んだ、説得力のある、圧倒的テクニックを誇るエレクトリック・ジャズ。この様々な音楽要素を突っ込んで、ひとつにまとめてエレクトリック・ジャズに仕立て上げる豪腕、これが本来の「クロスオーバー・ジャズ」の本質なんだろう。

 
 

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2014年8月27日 (水曜日)

直訳は「高まっていく内なる炎」

John Mclaughlin(ジョン・マクラフリン)率いるThe Mahavishnu Orchestra(マハヴィシュヌ・オーケストラ)は、僕のお気に入りのジャズ・ロック〜クロスオーバー・ジャズのバンド。活動期間は、1971年 - 1976年と1984年 - 1987年の2つに分かれるが、主要な活動としては前半の1971年 - 1976年だろう。

ジョン・マクラフリンは英国出身のジャズ・ギタリスト。ジャズ・ロック〜クロスオーバーなエレギを基本とするテクニシャンで、ジャズ・ギタリストの歴史の中でも、重要なポジションを占めるバーチュオーゾである。特に、エレギを駆使してのハードなエレクトリック・ジャズについては第一人者だろう。

このジョン・マクラフリンが率いるエレクトリック・ジャズ・バンドが「マハヴィシュヌ・オーケストラ」。オリジナル・メンバーは、John McLaughlin (g), Rick Laird (b), Billy Cobham (ds, perc), Jan Hammer (key, org), Jerry Goodman (vln)の5人編成。

ちなみにオリジナル・メンバーの出身を見てみると、ジョン・マクラフリンがイングランド、ビリー・コブハムがパナマ、リック・レアードがアイルライド、ヤン・ハマーがチェコ、ジェリー・グッドマンが米国。出身地から見ても音的に見ても、欧州志向でどちらかと言えば、英国志向のジャズ・ロック〜クロスオーバー・ジャズのバンドである。

そんなマハヴィシュヌ・オーケストラのデビュー盤が『The Inner Mounting Flame』(写真)。1971年8月のリリース。邦題は「内に秘めた炎」。しかし、この邦題は直訳とは異なる。直訳は「高まっていく内なる炎」。高まっていくのであって、秘めるのでは無い。確かに、このデビュー盤を聴くと「高まっていく内なる炎」という直訳が納得出来る。

とにかくハードなジャズ・ロックである。1971年の時代的な感覚で言うと、とにかくハードなクロスオーバー・ジャズである。ジャズとロックがクロスオーバーしたジャズ。ロックより遙かに複雑で拡がりがあってエネルギッシュでハード。とにかくギンギンにハードに迫り来る様に弾きまくり、叩きまくる。
 

The_inner_mounting_flame

 
ハードではあるがフリーキーな部分はほとんど無く、しっかりと伝統に根ざしてフレーズを重ねていく、正統なジャズ・ロックである。高テクニックで高テンション、弾きまくりに次ぐ弾きまくり。音的には、英国プログレの統制がとれて、構築美に優れ、ウェット感のある音。曲の展開は「プログレ」そのもの。しかし、楽器を弾くマナーそれぞれは「ジャズ」。

ギターのバイオリンの2本のフロントを張る弦楽器の存在が見事。ここに管楽器が入っていないのは大正解。このフロントの2つの弦楽器が、主な旋律を奏で、豊かなバリエーションのアドリブを展開する。コブハムの千手観音ドラミングが、弦楽器2本が奏でるフレーズの隙間を埋めていく。ハマーのキーボードがリズム&ビートの基本部分を司る。

もともと英国のロックとジャズは境界線が曖昧。このアルバムの音世界は、ほとんど「プログレ」。しかし、これほどまでに高テクニック&高テンションのプログレは無い。テクニカルなギターに絡む艶やかなヴァイオリン、シンセによる「ぶ厚い音」。やはり、この盤はジャズ・ロック。ハードなクロスオーバー・ジャズ。 

このアルバムの音を初めて聴いた時、思わず「これって、キング・クリムゾンやん」と思った。あのクリムゾンの名盤『太陽と戦慄』のパクリかと思った。しかし、冷静に考えみると逆なんですね。キング・クリムゾンがこのマハヴィシュヌ・オーケストラにインスパイアされているんでした。それほどまでに音の作り方は良く似ている。さすが、英国のロックとジャズの境界線は曖昧である。

耳当たりの良いフュージョン・ジャズとは違いますが、この盤の音世界は、エレ・マイルス、エレ・チックに相当するものであり、ネットでピッタリとフィットする評論文があったんだが、「ワイアード」以降のジェフベックと、「太陽と戦慄」〜「レッド」時代のクリムゾンを足して2で割った様な音世界、と表現するのが適当。エレクトロニック・ジャズの世界が好きな「エレジャズ者」には必須の逸品です。

 
 

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