米国と欧州の接近の”今”を感じる
2023年晩秋、ニューヨークの名門クラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」でのレジデンス(ライヴ)期間中に、ニュージャージーの歴史的なヴァン・ゲルダー・スタジオにてレコーディング。ECMレーベルにしては珍しいスタジオ選択。ここでも、ECMレーベルの「米国ジャズへの接近」「グローバル・ジャズへの裾野拡大」を感じる。
Joe Lovano & Marcin Wasilewski Trio『Homage』(写真左)。2023年11月18日、米国ニュージャージー州イングルウッド・クリフスのヴァン・ゲルダー・スタジオでの録音。ちなみにパーソネルは、Joe Lovano (ts, tarogato, gong), Marcin Wasilewski (p), Slawomir Kurkiewicz (b), Michal Miskiewicz (ds)。ECM Recordsから、2025年4月25日のリリース。
このアルバムでは、ECMレーベルの音の「今」の一端を感じる事が出来る。ジョー・ロヴァーノは米国のサックス奏者。圧倒的な極太のダークトーン、伝統とアヴァンギャルドの融合がロヴァーノのサックスの個性なのだが、出てくる音の響きは当然「米国的」。
しかし、ロヴァーノは、ECMレーベルでの録音の時は、ECMの音のカラーに合わせて、音数を絞り、空間の響きを大切にした「静かでスピリチュアルな祈り」のようなパフォーマンスを展開する。米国的な「音の質」で、ECMレーベルライクな「音」を紡ぎ出す。いわゆる「米国ジャズの欧州ジャズへの接近」である。これが、聴いていて興味深く、最近のロバーノのECM盤を聴く最大の楽しみになっている。
マルチン・ボシレフスキ・トリオは、ポーランドが世界に誇る、現代最高峰のピアノ・トリオの一つ。このトリオの音楽性は「ヨーロッパ・ジャズの極み」とされる、静寂とリリシズム、ダークで、深く、スピリチュアルな表現力が個性。加えて、ユニークなのは、ジャンルを超えた「ポップ・センス」。ポップ・ロックの楽曲を、原曲の良さを活かしつつ、完全に自分たちのディープなジャズの世界観に染め上げるのに長けている。
ジョー・ロヴァーノの「豪快で太いアメリカン・サックス」と、マルチン・ボシレフスキ・トリオの「繊細で透明感のあるヨーロピアン・ピアノ」が出会い、化学反応を起こして、叙情的な美しさをベースにしつつ、本作ではより自由で広がりのある「インプロヴィゼーション」と、メンバー間のスリリングな「インタープレイ」を展開している。
ロヴァーノの音数を絞り、空間の響きを大切にした「静かでスピリチュアルな祈り」のようなパフォーマンスが、マルチン・ボシレフスキ・トリオの静寂とリリシズム、ダークで、深く、スピリチュアルなリズム・セクションをバックに、ECMレーベルの独特の「限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした音世界」に染め上げられ、朗々と叙情的に展開されていく。
マルチン・トリオ本来の美しくポップなメロディ・ラインをあえて少し崩し、欧州的な音の響きを米国的に少しチューニングし、ロヴァーノが得意とする「自由に流れるような即興演奏」や「大胆な音の掛け合いによるインタープレイ」に軸足を置いた、非常にスリリングで冒険的な内容になっている。まさに、ECMレーベルの「今」を感じることができる好盤である。
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