”less is more” なステイシー盤
ステイシー・ケント(Stacey Kent)は、高い人気を誇る米国出身のジャズ・シンガー。繊細でキュートな歌声と、ボサノヴァやフレンチ・ポップなどを織り交ぜた、ならではの「クロスオーバー志向」の歌唱内容が個性。夫君はサックス奏者のジム・トムリンソン。ステイシーのアルバムのプロデューサーも務めている。
Stacey Kent『A Time For Love』(写真左)。2026年4月のリリース。ちなみにパーソネルは、Stacey Kent (vo), Jim Tomlinson (ts, ss, fl, cl, perc, back-vo, producer), Art Hirahara (p, key)。アート・ヒラハラのピアノとのデュオを基調としつつ、数曲で夫であるジム・トムリンソンのサックスやフルートが加わるシンプルな構成のボーカル盤。
エヴァーグリーンな楽曲の数々を取り上げた、収録曲のラインナップが魅力的。バーンスタインがミュージカル『オン・ザ・タウン』のために書いた「Lucky To Be Me」から始まり、映画『いそしぎ』のテーマ曲「The Shadow Of Your Smile」、フランス語で歌われるセルジュ・ゲンスブールの「La Javanaise」、バート・バカラック作曲の「Trains And Boats And Planes」など、聴いて「ああ、あの曲か」と判る位の、長く親しまれている楽曲がズラリ。
ステイシーの低音域の温かな響きが心地良い。フレーズ取り回しや、絶妙な「間」が独特で、聴いていて、ああ、その唄声はステイシーやなあ、と確認できる。「La Javanaise」で見せる仏語での歌唱の美しさにちょっと嬉しい驚き。堂々として、確信を持った、繊細でキュートな唄声は、ジャズ・ボーカルの「ニュー・タイプ」の代表格の貫禄を感じる。
このアルバムで「これ一曲」を挙げて欲しいと請われたら、僕は、スティーヴィー・ワンダーの名曲「As」を推す。恐らく、今の若いジャズ者の方達は知らないかもしれないが、フュージョン時代、数々の名カヴァーを生んだスティービーの名曲。この曲の雰囲気をずばりキーボードで表現したヒラハラのキーボード・ワークに惚れ惚れ。ステイシーの歌唱も「名カヴァー」と称えたくなる、曲の個性と歌詞を踏まえた、素晴らしい歌唱。
このアルバムは、前作『Summer Me, Winter Me』に次ぐ名作として、評価されるべきボーカル好盤。現代のジャズ・ボーカルの最良のひとつとして、全てのジャズ者の方々にお勧めしたい「現代の女性ジャズ・ボーカルの優秀盤」の一枚。「Less is more(少ないほど、豊かである)」の形容がピッタリなボーカル盤である。
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