モンティの「愛のプレリュード」
Monty Alexander(モンティ・アレキサンダー)。1944年6月6日生まれ。ジャマイカ系アメリカ人のジャズ・ピアニストである。ジャズ・ピアニストのスタイルとしては オスカー・ピーターソンの直系とされる。テクニック抜群、力強いタッチ、スケールの大きい弾きっぷり、下世話な位判り易い展開。さしずめ「細めのピーターソン」といったところだろうか。
鑑賞に耐えるレベルで止まってはいるが、笑える位にピアノを饒舌に弾きまくる。恐らく、ピアノ・トリオの代表的名盤を輩出したピアニストの中では、かなりの饒舌の部類、というか、一番饒舌ではないかと思う。が、ジャマイカ生まれというルーツの影響か、モンティのピアノには、カリビアンな心地良いフレーズと明るいスウィング感が同居していて、饒舌な弾き回しに聴きやすさ、楽しみやすさをプラスしている。
Monty Alexander『We've Only Just Begun』(写真)。1971年12月1日、NYでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Monty Alexander (p), Eugene Wright (b), Bobby Durham (ds)。
モンティの7枚目のリーダー作。MPSレーベルに移籍しての第一弾。ベースにブルーベック・カルテットで活躍していたユージン・ライト、ドラムに、ピーターソン・トリオで活躍していたボビー・ダーハム。さすが、MPSレーベルの下での、充実のパーソネルである。
冒頭の有名スタンダード曲「It Could Happen To You」のモンティのスピード感溢れる弾き回しに、一瞬、唖然とする。冒頭部分だけ、有名スタンダードのメロディーの引用があるのだが、ピアノの低音の打鍵を合図(?)にトリオが疾走する。豪快にダイナミックにスイングするモンティのピアノ。ピーターソンもビックリの迫力。
面白いのは、バリバリ弾きまくって3分ほど、急に、マイルスの有名曲「マイルストーンズ」の引用が始まり、演奏全体がモード・ジャズに早変わり。そして、このモーダルな展開においても、淀みのない、バリバリとモーダルなフレーズを弾きまくるモンティ。この疾走感溢れるモーダルな弾き回しについては、他に追従を許さない、饒舌な弾き回しのモンティの真骨頂。
4曲目のタイトル曲「We've Only Just Begun」は、邦題「愛のプレリュード」。カーペンターズのヒット曲で有名なんですが、冒頭、スローなピアノのみのイントロが続き、お馴染みのフレーズが出てこない。テンポが上がって、疾走感溢れるビートは陽気なボサノバ。
そして、やっと、お馴染みのフレーズが出てくるのですが、もう原曲のしっとりとしたバラード・チックな雰囲気の微塵も無い。陽気な疾走感溢れるビートに乗った「愛のプレリュード」(笑)。アドリブに入ると、モンティの豪快だが陽気で爽快感溢れる弾き回しが清々しい。
ラストにヘンリー・マンシーニ作曲の「Love Story Theme」、邦題「ある愛の詩」が、ボサノヴァ・ビートに乗って演奏されているのもユニーク。この甘々のマイナーなバラード曲、ジャズ化すると、皆、ほとんど「コケる」のですが、このモンティ・トリオの演奏は意外と純ジャズ化されている。特に、原曲のコード進行をしっかり踏まえつつ、アドリブ展開するモンティのいマージネーションとテクニックには感心する。
モンティのピアノの個性と特徴をしっかり捉えた好盤。MPSレーベルからのリリースだからか、音も良い。エンターテインメント優先なモンティのピアノなので、我が国では一部では「ゲテモノ扱い」されているが、素性はしっかりした、バップなピアノの弾き手である。タッチも良好、歌心も良好。モンティ・アレキサンダー再評価である。
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