2024年10月 4日 (金曜日)

Glassmenagerie名義のコブハム

ドラマー、トニー・ウィリアムスが率いる「ライフタイム」、クロスオーバー・エレギのレジェンド、ジョン・マクラフリンが率いる「マハヴィシュヌ・オーケストラ」。そして、ヴァイオリンを活かしたクロスオーバー・ジャズなんてことを書いていたら、ふとこのアルバムを思い出して、思わす再聴。

Billy Cobham's Glassmenagerie『Stratus』(写真左)。1981年3月18日、ロンドンでの録音。ちなみにパーソネルは、Billy Cobham (ds), Gil Goldstein (key), Tim Landers (el-b), Mike Stern (el-g), Michal Urbaniak (el-vln, Lyricon)。マイク・スターンのエレギとマイケル・ウルバニアクの電気バイオリンがフロントの、カルテット編成。

千手観音ドラマーのビリー・コブハムがリーダー。これは、トニー・ウィリアムスが率いる「ライフタイム」に通じる。電気バイオリンを活かしたエレ・ジャズ。これは、ジョン・マクラフリンが率いる「マハヴィシュヌ・オーケストラ」に通じる。しかし、このコブハム・バンドの音志向は「クロスオーバー・ファンク」。

ロンドンの録音とあって、ファンキーな音志向とは言え、この盤でのファンクネスは「乾いて粘りの無いシンプル」なファンクネス。1981年の録音なので、マハビシュヌの様に、1970年代の英国プログレとの融合は無い。

逆に、R&Bやソウルなど、ブラック・ファンクとの融合がそこかしこに感じられる。が、粘りが無い分、こってこてなファンクネスは感じられず、リズム&ビートは、コブハムの千手観音ドラミングがリードしていて、コンテンポラリーでジャジーなファンクネスが強く感じられるユニークなもの。
 

Billy-cobhams-glassmenageriestratus

 
演奏自体は「クロスオーバー・ファンク」だが、R&Bな要素のみならず、ロックな要素、フュージョンな要素、クラシックな要素もしっかり反映されていて、なかなか興味深い、コブハム・バンドならではの音世界はユニークであり、しっかりと聴き応えがある。

マイク・スターンのエレギは「ジャズっぽいが基本はロック」なエレギを弾きまくる。マイケル・ウルバニアクの電気バイオリンとリリコン(シンセ・サックス/ウインド・シンセサイザー)のフロントのフレーズが印象的。ギル・ゴールドスタインのキーボードは意外と正統派ジャズな音を出していて、フロントのエレギと電気バイオリン、そして、リリコンとの対比が面白い効果を生み出している。

コブハムの「千手観音ドラミング」は絶好調。というか、1970年代よりも、良い意味で落ち着きがあって、的確でブレの無い、爽快で乾いたファンキー・グルーヴを叩き出している。そして、ティム・ランダースのベースは、正統派クロスオーバー&フュージョン・ジャズなベースラインを供給して、このバンドの音の底をガッチリと支えている。

当時のクロスオーバー&フュージョン・ジャズの好盤として、コブハムの代表的好盤として、このアルバムのタイトルが上がることは無い。実際、僕は目にしたことが無い。以前、たまたま、コブハムのディスコグラフィーを整理していて、この盤の存在に気がついたくらいである。

しかし、中身は素性確かな、コブハムならではの「クロスオーバー・ファンク」な音世界がてんこ盛り。なかなか良い内容のアルバムだと思います。
 
 

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2024年4月27日 (土曜日)

コブハムが目指す「融合」ジャズ

『A Funky Thide of Sings』(1975)のリリース後、ブレッカー兄弟が抜けて、エレクトリックなジャズ・ファンクの橋頭堡が不在となったビリー・コブハムのバンド。クロスオーバーなエレ・ジャズ・ファンクを捨てて、次作では、いきなりハードで硬派なクロスオーバー・ジャズに転身した。

Billy Cobham『Life & Times』(写真左)。1976年の作品。ちなみにパーソネルは、Billy Cobham (ds, perc, syn), Dawilli Gonga (key), John Scofield (g), Doug Rauch (b)。コブハムのアトランティック・レコードでの最後のスタジオ盤になる。

パーソネルの中の「Dawilli Gonga」は、George Duke (key) の契約上の理由からの変装名。ギターのジョンスコはそのままに、新たに加わったキーボードのジョージ・デューク、エレベの元サンタナのダグ・ロウチと、リーダーのコブハムのドラムを交えたカルテット編成のクロスオーバー・ジャズである。

前作『A Funky Thide of Sings』までのホーン・セクションを配した、分厚いジャズ・ファンクな演奏をガラッと変えて、リズム&ビートを主体とする、コンパクトなメンバーでの、ジャズとロックの融合がメインのハードなクロスオーバーなエレ・ジャズを展開している。
 

Billy-cobhamlife-times

 
1970年代前半、マイルスが推し進めていたジャズ・ファンクなエレ・ジャズからファンクネスを差し引いて、ポップでキャッチーな音作りを加味したクロスオーバーなエレ・ジャズ。

シンセが唸りを上げ、エレギが捻れ響くインスト中心の演奏。まるで「プログレ」な雰囲気だが、ジャジーなビートと途方も無い演奏テクニックが、この演奏は「ジャズ」に軸足をしっかり置いていることを確信させてくれる。

コブハムのドラムは、徹底して「千手観音ドラミング」で叩きまくり。ジョンスコのギターは、意外とストレートな伸びのロック・ギターの様な迫力と疾走感溢れる骨太なフレーズを聴かせてくれる。

冒頭のタイトル曲「Life & Times」など、やたらハードでアクセル全開なナンバーが印象に残るが、爽やかでクールなファンクネスを忍ばせた4曲目の「East Bay」のヒップで小粋な演奏など、この盤のリリース後、すぐに結成された「The Billy Cobham - George Duke Band」の音世界がこの盤で確立されている。

ちなみに、ジャケの写真はコブハムの幼少期。それを持っている手は、アルバム制作当時のコブハムの手。このジャケが何を意味するのか、コブハムの真意は測りかねるが、時代はソフト&メロウをメインとしたフュージョン・ジャズの入り口の時代。この盤に詰め込まれた演奏は、エレクトリックなクロスオーバー・ジャズの成熟形と捉えることも出来る。
 
 

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2024年4月23日 (火曜日)

名盤『Uptown Conversation』

ロン・カーターはジャズ・ベーシストのレジェンド。リーダー作については、ベーシストとしては珍しく、かなりの数に上る。リーダー作というのは、まずテクニックがあって積極性があって、そして、プロデュース力があって、統率力がなければ出来ない。

加えて、サイドマンとして、他のジャズマンのリーダー作のセッションに参加した数は膨大な数にのぼる。「演奏内容と共演メンバーを活かすも殺すもベーシスト次第」という面からすると、ロンのベーシストとしての力量は、他の一流ジャズマンの面々の周知するところだったと思われる。

Ron Carter『Uptown Conversation』(写真)。1969年10月の録音。ちなみにパーソネルは、Ron Carter (el-b, ac-b), Hubert Laws (fl, tracks 1, 4 & 5), Herbie Hancock (ac-p, el-p, all tracks except 2), Sam Brown (g, tracks 1, 2 & 4), Grady Tate (ds, tracks 1, 4 & 5), Billy Cobham (ds, tracks 3, 6, & 7)。
 
ロンの2枚目のリーダー作。初リーダー作が1961年。約8年ぶりのリーダー作になる。1960年代はほぼマイルスの下で専属ベーシストとして活躍。マイルスがエレクトリック化に踏み出した頃にリリースした、2枚目のリーダー作。

ロンのベースをメインに、以下の4つのパターンのセッションで、演奏を弾き分けている。

① ベース+ギター(ブラウン)のデュオ
② ベース+ピアノ(ハンコック)+ドラム(コブハム)
③ ベース+ピアノ(ハンコック)+フルート(ロウズ)+ドラム(テイト)
④ ベース+ギター(ブラウン)+ピアノ(ハンコック)+フルート(ロウズ)+ドラム(テイト)

当時、流行していたソウル・ジャズ。それもシュッとクールなソウル・ジャズ、そして、ハードバップ。これは、グラディ・テイトがドラムのユニットが担当。ハンコックもファンキーでソウルフルなピアノをガンガン弾きまくっている。ロウズのフルートも、それはそれはクールでファンキーでソウルフル。
 

Ron-carteruptown-conversation  

 
ソウル・ジャズ、ハードバップな演奏のバックで、演奏の底をガッチリ支えるロンのベースが見事。意外とファンキーでソウルフルなロンのベースにちょっとビックリする。リラックスして楽しそうにベースを弾くロン。ロンの適応力の高さと広さ。見事である。

コブハムがドラムのユニットは限りなく自由度の高いモード・ジャズ、そして、フリー・ジャズ。モード・ジャズでのベース・ラインは、ロンにとってはお手のものなんだが、フリーにアブストラクトに展開するロンのベースの切れ味とマージネーションには驚く。これだけソリッドで切れ味の良い、バリエーション豊かでフリーなベースラインを弾き通せるベーシストは希少。

しかも、ハンコックのフリーなピアノにクイックに反応して応戦している。ロンのベースは意外とアグレッシブでオフェンシブ。ちょっと驚く。そうそう、このハンコックのフリーなピアノも聴き応え十分。そして、後の千手観音ドラミングで名を馳せたコブハムのモーダル〜フリーなドラミングがこれまた見事。コブハムの純ジャズ系ドラマーとして力量を再認識する。

ロンとサム・ブラウンのデュオ、2曲目の「Ten Strings」でのベースとギターのフリーなインタープレイは内容が濃い。ロンのベースがフリー・ジャズに完全適応し、前衛音楽にしっかり軸足を置くことが出来る。ベーシストとしてのテクニックの面でも優れたものがあることが良く判る。

例えば、ベースの哲人、チャーリー・ヘイデンに比肩する、高いレベルのテクニックと個性。この盤で、ロンのベーシストとしての実力、力量、適応力の全てが判る内容になっている。

今でもネットの世界では、ロンのベースに対して、一部に手厳しい評価がある。ベース音にピックアップを付けて増幅している音が許せない、時折ピッチが狂っている、そう言ったマイナス面だけがクローズアップされている。

しかし、この盤を聴いてみると、ベースの音が整っていて、ピッチを合わせたロンのベースは、やはり優れている。リーダー作の多さ、サイドマンとしてのセッション参加機会の莫大な数。それらが、ロンのベースの優秀性を如実に物語っていると僕は思う。
 
 

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2020年12月27日 (日曜日)

クロスオーバー・ジャズの成熟形 『"Live" On Tour In Europe』

1960年代後半、マイルスがエレ・ジャズをやり始めて、1960年代の終わりには、ジャズとロックの融合形であるクロスオーバー・ジャズが出現。エレクトリック楽器の飛躍的な進化と共に、ジャズのエレキ化が進み、クロスオーバー・ジャズもその内容は日進月歩で充実していった。そして、1970年代半ばでクロスオーバー・ジャズは、一旦、ほぼ成熟したイメージがある。

The Billy Cobham - George Duke Band『"Live" On Tour In Europe』(写真)。1976年7月27-29日ロンドンと7月6日モントルーでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Billy Cobham (ds, perc), George Duke (key), Alphonso Johnson (el-b), John Scofield (el-g)。たった4人で織りなす、重厚で8ビートなクロスオーバー・ジャズ。

コブハムの繰り出す8ビート、唸りを上げるデュークのシンセ、重低音を響かせグルーヴ感を生み出すアルフォンソのエレベ、ロックなフレーズを繰り出すジョンスコの捻れエレギ。時は1976年、フュージョン・ブームの入口。演奏内容はジャズとロックの融合、クロスオーバー・ジャズ。マイルスから始まったエレ・ジャズのバリエーション。
 
 
Live-on-tour-in-europe  
 
 
たった4人でこの重厚でスピード感溢れるエレ・ジャズ。とにかく、4人とも上手い。4人とも上手すぎる。めくるめく超絶技巧の世界。70年代半ばのクロスオーバー・ジャズの成熟した音。純ジャズ畑からクロスオーバーなエレ・ジャズに転身したジャズマン達独特の「純ジャズ的クロスオーバー感覚」が溢れている。ロックなビートを採用してはいるが、演奏の雰囲気は明らかにジャズ。

1970年代前半、マイルスが推し進めていたエレ・ジャズからファンクネスを大きく差し引いて、ポップな音作りを加味したクロスオーバーなエレ・ジャズ。シンセが唸りを上げ、エレギが捻れ響くインスト中心の演奏。まるで「プログレッシブ・ロック」な雰囲気だが、ジャジーなビートと途方も無い演奏テクニックが、これはクロスオーバー・ジャズだ、ということを確信させる。

ジョージ・デュークの弾き語り(?)にはドン引き、長いコブハムのドラムソロにはちょっと戸惑うが、演奏全体としては、クロスオーバー・ジャズの成熟形と言える演奏。それぞれのミュージシャンのコテコテの個性と、他を寄せ付けない筋金入りのテクニックが実に魅力的。とにかく凄い迫力のエレ・ジャズです。生で聴いてみたかったなあ。
 
 
 

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  ・僕達はタツローの源へ遡った

 

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2018年6月30日 (土曜日)

ジャケに戸惑うことなく 『Picture This』

1980年代はジャズにおいては大転換点だった。フュージョン・ジャズが発展するどころか急激に衰退し、純ジャズが復古し、ネオ・ハードバップな演奏がもてはやされた。そういう、いわば「原点への回帰」がジャズのムーブメントだった訳で、1980年代はジャズの歴史を揺るがすようなアルバムは出現していない。

それでも、衰退基調とは言え、フュージョン・ジャズでは内容のある好盤は結構リリースされたし、逆に復古した純ジャズは玉石混交としていた。しかし、衰退基調のフュージョン・ジャズには予算が付かなかったのか、アルバム・ジャケットがチープなものが多い。LPからCDへの切り替えの時代であった、という背景もあるのだが、1980年代のフュージョン盤のアルバム・ジャケットにはチープなものが多い。

Billy Cobham『Picture This』(写真左)。パナマ出身、ホレス・シルヴァーやジョージ・デュークのグループでも活躍したジャズドラマー、コブハムの1987年作である。まず、見て思うのは「酷いジャケットやなあ」。もうどうでも良い様なジャケット・デザイン。ビリー・コブハムとは何者で、1980年代のコブハムの活躍度合いについて知っていないと、この盤には決して触手は伸びないだろう。 

 
Picture_this_1

 
しかし、である。冒頭の「Two For Juan」を聴けば、フュージョン・ジャズ者であれば、この盤を入手して良かったなあ、という気持ちになる。明らかに上質なフュージョンであり、キーボードが実に小粋。パーソネルを見れば、キーボードはジョージ・デュークが担当している。派手に立ち回るのでは無い、グループ・サウンズを意識した、実に上質上品なキーボードである。これを聴けば、この盤は「只者では無い」ことが判る。

1980年代はデジタル録音へシフトしていった時代で、独特のデジタル臭さに苦戦し、敗退していったミュージシャンはごまんといる。が、この盤でのコブハムは健闘している。デジタル臭さは仄かに残ってはいるが、基本的にアナログ時代のフュージョン・ジャズのリズム&ビートの音の太さと音の滑らかさは十分にキープされている。

1970年代のコブハムが戻って来ている。こってこてなグルーヴ感、印象的でメロディアスなフレーズ、いわずもがなな超人的テクニック、何を考えているのか良く判らない音のビジョン(笑)、全てがコブハムの個性である。そう、この盤については、アルバム・ジャケットに惑わされてはならない。けど、何も情報が無ければ、なかなか触手が伸びない、1980年代のコブハム盤。フュージョン者の方々には、この盤はお勧めの「太鼓判」盤です。

 
 

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2016年12月 6日 (火曜日)

掘り出し物のフュージョン盤

1970年代後半から1980年代前半、ジャズは「フュージョン・ジャズ」がトレンドだった。ジャズ盤のメジャーどころは殆どが「フュージョン」。電気楽器が中心で、曲調は「ソフト&メロウ」。ハイ・テクニックで超絶技巧、それでいて、アドリブ・フレーズは歌心満載。今、聴き直してみても十分にジャズしている。

21世紀になって、15年以上が経過して今でも、このフュージョン・ジャズのアルバムは毎月毎月リリースされている。需要と供給のバランスが取れているのか、かなり心配になるほどの枚数がリリースされている。逆に、そんなにフュージョンに対するニーズが高いのか、とも訝しく思う。それほど、フュージョン・ジャズのアルバムはリリースされ続けている。

それぞれの盤の内容は「玉石混交」。良いものもあれば悪いものもある。そんな中、僕の選盤基準は、まずは「選曲を見て、興味ある曲、好きな曲が数曲あればゲット」。次に「パーソネルを見渡して、興味あるメンバーがいればゲット」。そして「ジャケットを見て、ジャケ買い出来る時はゲット」。つまり、選曲、パーソネル、ジャケットの3要素を総合して選盤している。

Stanley Clarke, Larry Carlton, Billy Cobham, Deron Johnson & Najee『Live At The Greek Live』(写真左)。 1994年のリリース。そんな選盤基準で、最近ゲットして当たりだったフュージョン盤である。なにも参加メンバー全てを羅列しなくても良いとは思うんだが、長〜いバンド名が目を惹く。というか、この羅列されたメンバーを見るだけで、この盤には触手が伸びる。

ちなみにそのパーソネルは、Stanley Clarke (写真右・acoustic & electric basses); Najee (soprano, alto & tenor saxophones, flute, synthesizer); Deron Johnson (keyboards); Larry Carlton (acoustic & electric guitars); Billy Cobham (drums, percussion)。いやはや錚々たるメンバーではないか。
 

Live_at_the_greek_live

 
そして選曲を見渡せば、冒頭に、ドゥービー兄弟で有名な「Minute By Minute」が収録されている。そして、5曲目に、セロニアス・モンクの「Goodbye Pork Pie Hat」。ラストにスタンリー・クラークの「School Days」が収録されている。この選曲を見渡しても、この盤には期待がかかる。

で、聴いてみれば、このライブ盤、完璧なまでの「フュージョン・ジャズ」がギッシリと詰まっている。スタンリー・クラークの超絶技巧なエレベが凄い。この人、こういう並列リーダーの時やサイドメンに回った時の方が気楽になるのか、その才能を余すところなく発揮するのだが、この盤でも例外では無い。エレベをブンブン弾きまくる。

次にラリー・カールトンのエレギが凄い。この人のエレギ、こんなにハードだったっけ、とビックリするほど、ハードにプログレッシブに弾きまくっている。ソフト&メロウなMr.335的な印象はここには無い。ハードに弾きまくるエレギ野郎がここにいる。ナジーのテナーも良い感じ。フルートでもなかなかのフレーズを聴かせてくれます。

そして、相変わらず凄いなあ〜と感心するのが、ビリー・コブハムの千手観音的ドラミング。一体何本腕があるんや、と思う位のポリリズム。とにかく叩きまくりである。デロン・ジョンソンさんのエレピとシンセも聴き逃せない。爽快感溢れるソロを、はたまた小粋なバッキングを聴かせてくれます。意外と聴きものです。

あっけらかんとしたフュージョン・ジャズのオールスター盤ですが、録音もまずまず良く、ライブの良いところ、いわゆる熱気と興奮がダイレクトに伝わってくるライブ盤です。難しいことを言うこと無く、気楽に楽しめるフュージョンのライブ盤。意外とお勧めの「掘り出し物」の好盤です。
 
 
 
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2011年7月 7日 (木曜日)

純ジャズ的なハードで硬派な 『Focused』

梅雨時は、ハードな純ジャズより、ちょっとソフト&メロウな雰囲気漂うフュージョン・テイストのエレクトリックな純ジャズが良い。特に、丸いエッジのソフト&メロウなシンセやローズの音があって、そして、要所要所で純ジャズ的な、ピリリと締まった、ハードなインプロビゼーションがあれば言うこと無し。

2年ほど前、たまたま、iTunesを徘徊していて、このアルバムを入手して以来、気が付けば、梅雨時から夏の季節に良く聴くアルバムになっていた。Billy Cobhamの『Focused』(写真)。ちなみに、このアルバム、コブハムのアルバムの中では、かなりマイナーな扱いで、なかなかお目にかかれない(お耳にかかれない?・笑)。

1999年3月のリリース。ちなみにパーソネルは、Billy Cobham (ds,per), Randy Brecker (tp,flh), Gary Husband (key), Carl Orr (g), Stefan Rademacher (b) のクインテット構成。ランディ・ブレッカーの参加が目を惹くが、他のメンバーはあまり知らない、というか、知らない。

ちなみに、ネットの僅かな情報を辿ると、このメンバー構成はコブハムを中心として、気心知れたメンバー構成らしい。確かに、このアルバムの演奏はプレイ的にもサウンド的にも完成度が高い。なるほど、気心知れたメンバーだからこその内容ですね、うん納得納得。
 

Focused

 

1曲目の「Mirage」が良い。コブハムの特徴的なドラムに乗って、Rademacherの心地良く趣味の良いブヨンブヨンなベースが入ってきて、Husbandの印象的でメロウなシンセが入ってきて、それはそれはタイトで格好良い、ソフト&メロウながら、しっかりと硬派な純ジャズ的要素を漂わせた、極上のコンテンポラリーなジャズが展開される。

この1曲目の「Mirage」が、このアルバムの内容を代表してくれている。収録されている曲はいずれも、ちょっとソフト&メロウな雰囲気漂うフュージョン・テイストのエレクトリックな純ジャズ。要所要所で、ハードで硬派な純ジャズ的なインプロビゼーションが展開されていて、それがまた「癖になる」。

ランディ・ブレッカーのペットが好調。純ジャズ的なハードで硬派なランディのペットを堪能できるということだけでも、このアルバムの価値がある。

千手観音ドラマー、コブハムのコンテンポラリー・ジャズな一枚。Randy Breckerのペットが輝き、Gary Husbandのシンセがセンス良し。Carl Orrのギターがモダン。梅雨時から夏の季節にピッタリなアルバムです。

 

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2011年3月29日 (火曜日)

メインストリーム志向の『Nordic』

昨日、「ジャズ喫茶で流したい」シリーズの第26回目として、Donald Harrison, Billy Cobham & Ron Carter『New York Cool(Live in BlueNote)』をご紹介した。そして、このライブ盤で、ビリー・コブハムのドラミングを見直した。何を見直したって、クロスオーバーからファンク・ジャズまで、フュージョン畑のドラマーだと思っていたが、純ジャズへの適応度も素晴らしいのだ。

純ジャズな、メインストリーム・ジャズなビリー・コブハムは、今まで全く意識していなかった。いやはや、ジャズとは、ジャズメンとは奥が深いものである。まだまだだな、と自分の不明を恥じると共に、だからジャズって面白いんやな〜、と嬉しくなったりもする。

さて、それでは、他にビリー・コブハムがメインストリーム・ジャズをやっているアルバムはあるのか。それが、探せばあるもんなんですね。いや〜ジャズって奥が深い。Billy Cobhamがリーダーの『Nordic』(写真左)である。1996年のリリース。ちなみにパーソネルは、Billy Cobham (ds), Bugge Wesseltoft (key), Tore Brunborg (ts,ss), Terje Gewelt (b)。

これ、なかなかの内容です。パーソネルを見渡すと、日本で名前の通っているプレイヤーは、ドラムのビリー・コブハムだけですが、他のプレイヤーのレベルも相当なものです。

テナー&ソプラノ・サックスのTore Brunborg(トーレ・ブルンボリ)、キーボードのBugge Wesseltoft(ブッゲ・ヴェッセルトフト)はノルウェーのフィーチャー・ジャズの若手有望株。テリエ・ゲヴェルトは、ノルウェーのジャズレーベルResonant Music の主催者でもある、ノルウェー・ジャズの中核ベーシスト。そう、リーダーのビリー・コブハム以外、北欧ジャズの精鋭メンバーが脇を固めているんですね。そう言えば、アルバムタイトルが『Nordic』でしたね(笑)。
 

Nordic

 
この『Nordic』でも、ビリー・コブハムの純ジャズに適応したドラミングは素晴らしい。千手観音と呼ばれる、いったい何本の手で叩いているんだ、と考え込んでしまうほどのポリリズムと豊かな音のバリエーション。マシンガン奏法と相まって、イメージ的には、トニー・ウィリアムスを彷彿とさせるが、トニーよりも音のバリエーションが豊か。合わせて、純ジャズをやる時は、素晴らしく繊細で美しいドラミングを惜しげもなく披露するものだから、これはもう「たまりません」。

サックスのトレー・ブルンボリのブロウも実に良い。スタイルは、ウェイン・ショーター的雰囲気なんだが、ショーターより、その音色は、カッチリというかクッキリしている。恐らく音程が良いんだろう。フリーキーなブロウを繰り広げても喧しくならない。北欧ジャズ独特の透明感のあるサックスが実に気持ち良い。ソプラノ・サックスの音色の美しさも特筆ものです。

キーボードのブッゲ・ヴェッセルトフトも良い。欧州ジャズの雰囲気そのままに、北欧ジャズの透明感を加えて、淡々と印象的なフレーズを紡ぎ上げていく。そして、このカルテットの要は、ベースのテリエ・ゲヴェルト。このテリエ・ゲヴェルトのベース、良い音させてます。ゴリッガリッ、ブンブンと実に心地良い生ベースの音が、他の楽器の響きを妨げることなく、しっかりと演奏のボトムをガッチリと支えています。

収録されている曲がどれも良い曲ばかり。録音も実に良く、メインストリーム・ジャズの佳作だと思います。お勧めです。そして、何より、ドラムのビリー・コブハムが良い。コブハムが前面で出るのでは無く、しっかりとバックで支え、バンド全体が、しっかりとアンサンブルとしてまとまっているところに、コブハムのリーダーとしての力量も感じます。良いアルバムです。
 
 
 
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2011年3月28日 (月曜日)

ジャズ喫茶で流したい・26 『New York Cool』

「ジャズ喫茶で流したい」シリーズの第26回目である。ジャズ入門盤の紹介本には絶対に挙がらない、ジャズ推薦盤にも決して挙がらない。それでも、たまたま、そのアルバムに出会って、なぜか自分の「ツボ」にはまって、適度なヘビーローテーションな一枚になるアルバムというものがある。

Donald Harrison, Billy Cobham & Ron Carter『New York Cool(Live in BlueNote)』(写真左)がそんなアルバムの一枚。このライブ盤は、なぜか自分の「ツボ」にピッタリとはまったのだ。このライブ盤、NYのブルーノートにて、2005年4月28ー29日の録音。ちなみに、パーソネルは、Donald Harrison (as), Ron Carter (b), Billy Cobham (ds)。

「ツボ」にはまった理由のひとつは、ピアノレスなサックス・トリオなところ。ピアノレスは、サックスもベースもドラムもかなり自由になってインプロビゼーションを展開できることろがメリット。逆に、テクニックと歌心が無いと、スカスカのつまらない演奏になってしまうという危険性がある。

しかし、この『New York Cool(Live in BlueNote)』は、そんな危険性は全く気にすることは無い。そりゃあ、トリオの3人の名前を見れば判りますよね。テクニックと歌心は問題無い。後は、それぞれの演奏のレベルがどの程度になるのか、が決め手となる位かなあ。

特に、このライブ盤で見直したのは、ドラムのビリー・コブハム。ビリー・コブハムのドラミングを見直した。クロスオーバーからファンク・ジャズまで、フュージョン畑のドラマーだと思っていたが、純ジャズへの適用度も素晴らしい。冒頭の「Body and Soul」の、ボサノバのリズムの様な「ツン、カカ、ツン、カカ」という音を聴くだけで、このドラムはただものでは無いことが判る。

シンバルの音もシャーンと美しく、ハイハットの音も魅惑的。タムタムの音は躍動的で、スネアは「コーン」と心地良い響きを鳴らしまくる。しかも、リズム感の堅実度、安定感は抜群で、僕は本当にこのライブ盤で、ビリー・コブハムを心底見直した。
 

Newyork_cool

 
加えて、ベースのロン・カーターが良い。もともと優れたベーシストなんだが、70年代〜80年代、ベースのピッチが合っていないことが多く、ドロンドロンとした、増幅されたベース音に加えて、音程が合っていないということが合わさって、聴いていて気持ち悪くなるようなベース音が顰蹙をかっていた。が、90年代になって徐々に修正され、このアルバムでは、ピッチもキッチリ合って、ベース音もタイト、ロンの実力がストレートに伝わってくる、素晴らしいベースである。

そんな素晴らしいドラムとベースをバックにするのである。フロント、アルト・サックスのドナルド・ハリソンのアルトは、これまた実に良い響き、実に良いインプロビゼーションを展開している。ストレートな破綻の無い、フェイクとは全く無縁のシンプルなアルトの響きは、今までありそうで無かった、ドナルド・ハリソン独特のアルトの個性。歌心も十分、テクニックも十分、安心感あるベテランのバックを得て、悠々と余裕あるブロウをかましてくれる。

このライブ盤、収録されたどの曲も良い出来だが、僕のお気に入りは、冒頭の「Body and Soul」、5曲目の「Star Eyes」と続く6曲目の「Third Plane」かな。特に、ロンのオリジナル「Third Plane」は、1970年代後半。V.S.O.P.のライブ盤で聴いた時から大好きな曲です。このライブ盤を手に入れようと思った切っ掛けは、この「Third Plane」の存在が大きいですね。

良いライブ盤です。アルトのドナルド・ハリソンの自由度溢れる、リラックスしたブロウが魅力です。そして、見直したビリー・コブハムのドラミング、そして、ロンの堅実なベースのサポート。録音も良いですし、これは隠れライブ名盤として、バーチャル音楽喫茶「松和」お勧めの一枚です。

 

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2009年2月25日 (水曜日)

プログレも「ぶっ飛ぶ」内容 『Inner Conflicts』

70年代ロックについては、プログレからドップリ浸かったので、70年代のプログレについては、造詣が深いつもりである。ロックの世界では「プログレ」は超絶技巧のテクニックで、明らかにアカデミックな内容を誇るのであるが、ジャズの世界に照らし合わせると、劣勢は否めない。

最近、ミシェル・ペトルチアーニやジョン・コルトレーンなど、純ジャズのハードな世界を聴きまくっていたので、さすがに「耳休め」のアルバムが聴きたくなる。通常は、70年代ロックに走るのだが、今回は、70年代フュージョンのシンセ・フュージョンに走る。

Billy Cobham(ビリー・コブハム)の『Inner Conflicts』(写真左)を聴く。gにJ.スコフィールド、S.カーン、hornにブレッカーBros.、E.ワッツ、bがA.ジョンソンで、keyにはD.グロルニック。参加メンバーが凄い。でも、固定メンバーを中心としたバンド的な演奏では無く、ゲスト・メンバーを要所要所に使っての、名実共に、ビリー・コブハムのソロ・アルバムである。
 

Inner_conflicts

 
1曲目のシンセサイザー・ファンク・ジャズが凄まじい。70年代のプログレも「ぶっ飛ぶ」勢いである。2曲目の「Muffin Talks Back」、3曲目「Nickels and Dimes」、4曲目「Barrio」は、目眩くエレクトリック・ファンク・フュージョンのオンパレードで、聴きやすく、ノリのある、なかなかの内容で、やっぱり、ジャズ畑出身のロック的演奏は凄い。

そして、ラストの「Arroyo」は、再び、シンセサイザー・ファンク・ジャズに戻って、シンセサイザーの使い方などなど、その内容は素晴らしいの一言。ジャズのジャンルでこれだけシンセサイザーを駆使する演奏というのは、当時の環境では例を見ない。フュージョンの世界でも、これだけあからさまに、シンセサイザーを前面に押し出した演奏は例を見ないので、なかなか正統な評価を得られ無いのは仕方の無いこと。

でも、シンセサイザーを駆使している70年代プログレの演奏と比べると、このビリー・コブハムの『Inner Conflicts』が、如何に優れているかが判る。その「肝」は何か。それは、シンセサイザーの演奏を支えるバックの「ビート」である。ジャズで鍛えられた、正確で粘りのある「ビート」が、シンセサイザーの旋律の底辺を支える。そこが「肝」なのだと僕は睨んでいる。
 
 
 
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