2026年1月11日 (日曜日)

伴奏上手のケリーを聴き直す・2

伴奏上手なウィントン・ケリー。彼のピアノの個性である「そこはかとなく、マイナーな影を宿しつつ、表向きには、ご機嫌にハッピー・スウィングするピアノ」が、フロント管を効果的にサポートし引き立て、メイン・ボーカルに効果的に寄り添い引き立てる。それが、とても良く判るサイドマン盤がこれ。

Miles Davis『Someday My Prince Will Come』(写真左)。1961年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp) Hank Mobley (ts) John Coltrane (ts) Wynton Kelly (p) Paul Chambers (b) Jimmy Cobb (ds) 。マイルスが、その先進的な歩みをふと止めて、当時のジャズの演奏スタイルのど真ん中だった「ハード・バップ」メインで演奏したアルバムである。

マイルスのトランペット、モブレーのテナーの2管フロントに、ケリー=ポルチェン=コブのリズム・セクションがバックに付くクインテット編成。演奏のスタイルは「ハードバップ」がメイン。演奏内容は、バラード演奏をメインにミッド・テンポのリラックスしたクールな演奏がメイン。つまりは「ごまかしが利かない」演奏内容。そんな中で、ここでは、サイドマンで参加している、ウィントン・ケリーのピアノにだけ注目してみる。
 

Miles-davissomeday-my-prince-will-come

 
「そこはかとなく、マイナーな影を宿しつつ、表向きには、ご機嫌にハッピー・スウィングするピアノ」が個性のウィントン・ケリーが、そのハッピー・スウィンガーぶりを適度に抑制しつつ、そこはかとなく翳りを宿しつつ、そこはかとなくファンキーなソロを奏でる。ハッピー・スイングの「ハッピー」部分を適度に抑制し「クール」に置き換え、そこはかとなく「ハッピー」、マイナーな影を宿しつつ、クールにスイングするケリーの伴奏ピアノには惚れ惚れ。

ミッド・テンポな演奏に端正で正確、そこはかとなくハッピーでファンキーで、クールにスイングする。このケリーの「スイング感」が、マイルスのミッド・テンポで吹奏されるトランペットにバッチリ合っている。しかも、マイルスのバックに回って弾き回すクールなスイング感溢れるケリーのピアノは、マイルスのクールなトランペットを引き立て、映えに映えさせる。特に、ミュートで耽美的にリリカルにクールに吹き上げるマイルスのバックでの、ケリーの伴奏は絶品。

「ケリーはマッチみたいな奴だ。奴がいなきゃプレイに火が付かない」とマイルスが語っているのは有名なエピソードですが、この盤の演奏を聴いていると、そのマイルスの言葉に至極納得。この盤での「一ランク上をいくハードバップ演奏」を支えているのは、ケリーの「クールにスイングするバッキング」に因るところが大きいと思います。もちろん、マイルスのトランペットが一番恰好良くて、クールでヒップなんですけどね。マイルスとケリーの相性は抜群です。
 
 

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2026年1月 7日 (水曜日)

”My Funny Valentine” 再聴です

昨日、アコースティック・マイルスの最高峰『Four & More』をご紹介したが、もう一枚、『Four & More』と同じ、NYのフィルハーモニック・ホールでの同一日のライヴ音源がある。実は、『Four & More』と今回、ご紹介するライヴ盤の二枚を併せて、アコースティック・マイルスの最高峰としている。

Miles Davis『My Funny Valentine: Miles Davis in Concert』(写真左)。1964年2月12日のライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp) George Coleman (ts) Herbie Hancock (p) Ron Carter (b) Tony Williams (ds)。60年代伝説のクインテットの一歩手前。まだ、テナーがウェイン・ショーターでは無い。ここでのテナーは、ジョージ・コールマン。

『Four & More』が、モーダルなハードバップなマイルス【動】だとすれば、『My Funny Valentine』は、バラードやスローなブルース中心の、リリカル&耽美的なマイルス【静】。この2枚の同一日のライヴ音源は併せて聴いてこそ、アコースティック・マイルスにおける、マイルスのバップ・トランペットの最高のパフォーマンスを体験することが出来る。
 

My-funny-valentine-miles-davis-in-concer

 
クールでセンシティブで、限りなく自由度が高くモーダル、とにかく繊細で耽美的なマイルス・バンドのパフォーマンスである。特に、マイルスのトランペットの個性のひとつ、ミュート・トランペットで奏でるバラード・プレイは絶品。この静的な、リリカル&耽美的な表現こそが、他の一流トランペッターと一線を画する、マイルス・トランペットの面目躍如たるところ。

ハービー=ロン=トニーの60年代黄金のリズム・セクションも、マイルス・サウンドの意図を明確に理解していて、マイルスのトランペットを素晴らしいバッキングで盛り上げる。とりわけ、ハービーのモーダルなピアノが、このバラードやスローなブルース中心の演奏の中で映えに映える。ロン=トニーは、スローなリズム&ビートをイマージネーション豊かに供給する。

優しく緩やかなバラードやスローなブルース中心の収録曲の構成ではありながら、それでも、ちょっとハードボイルドでハードバップでモーダルな演奏は、アコースティック・マイルスの面目躍如。ここまで、クールでヒップなモーダルな演奏を成立されたら、もうアコースティックではやることがないのでは、とマイルスに感服してしまう。そんな素晴らしいライヴ盤である。
 
 

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2026年1月 6日 (火曜日)

マイルスの ”Four & More” 再聴

このところ、マイルスについていろいろ考える機会があって、マイルスには、アコースティックの側面とエレクトリックの側面、と大きく分けて2つの側面があるが、アコースティック・マイルスの時代、アルバム・レベルでみて、ピークはどこだったんだろう、と、アコースティック・マイルスのアルバムを順に再聴をし始めた。

Miles Davis『Four & More』(写真左)。1964年2月12日のライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp) George Coleman (ts) Herbie Hancock (p) Ron Carter (b) Tony Williams (ds)。60年代伝説のクインテットの一歩手前。まだ、テナーがウェイン・ショーターでは無い。ここでのテナーは、ジョージ・コールマン。

僕はこのライヴ盤あたりが、アコースティック・マイルスのピークだったんじゃないかと睨んでいる。とにかく、マイルスのトランペットは「恰好良い」。テクニックも申し分無い、音の揺らぎや躊躇いは一切無い。エモーショナルでクールでヒップ。アドリブ・フレーズは、マイルスの個性全開、イマージネーション豊かで、ケレン味が無い。アコースティック時代のマイルスの吹奏として、最高レベルではないか、と感じている。
 

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加えて、モード・ジャズに対する解釈が、明らかに「マイルス独自の、マイルス流のモード・ジャズ」が完成している。マイルス流のモード奏法が確立していて、自信に満ち満ちた、マイルス流のモーダルな展開が素晴らしい。ビ・バップ時代からアコースティック・ジャズを追求してきたマイルス。ハードバップからモードと奏法のトレンドが変遷する中で、先頭を切って走ってきたマイルス。この盤には、そんなマイルスのアコースティック・ジャズとしての最高到達点が記録されている。

マイルス・ジャズを完全理解していた、ハービー=ロン=トニーの60年代黄金のリズム・セクションに恵まれたことも大きい。このの60年代黄金のリズム・セクションは、マイルスを引きに引き立て、マイルスのトランペットを映えに映えさせる。マイルスにとって、最高のリズム・セクション。ちなみに、コールマンは、以前、マイルスの下にいたコルトレーンの代わり。それも、マイルス・ジャズを邪魔しないコルトレーン。

このマイルスが音楽監督も兼ねた、マイルス・バンドでのマイルスのパフォーマンスが、一番、マイルスらしくて恰好良いアコースティック・マイルスが記録されている様に思う。この後、マイルスは、音楽監督にウェイン・ショーターを迎え、マイルス流モードとはまた違った、ユニークなショーター流のモードに乗って、バップ・トランペットを楽しむことになる。マイルス流のモードに乗った、マイルスのバップ・トランペットは、この『Four & More』あたりが一番の聴きどころなんだと思う。
 
 

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2025年12月12日 (金曜日)

『Miles Davis In Europe』再聴

一昨日、マイルスの『Seven Steps to Heaven』再聴の記事を書いた訳だが、『Seven Steps to Heaven』を3回、繰り返し聴く中で、アコースティック・マイルスの時代で、マイルス自身のトランペットって、この時期が一番だったなあ、と思い返していた。

マイルスのバンドに、ハービー=ロン=トニーの「黄金のリズム隊」が入って来て、ショーターが遅れて入ってくるまでの約2年間。マイルス単独で想像した、マイルス印のモード・ジャズ。この時のマイルスのトランペットが一番輝いていたのではないか。そんなことをぼんやり思いながら、ついつい次のアルバムに手が伸びる。

『Miles Davis In Europe』(写真左)。1963年7月27日、フランス、ジュアン=レ=パン、ラ・ピネード、アンティーブ国際ジャズ・フェスティバルでのライブ録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp) George Coleman (ts) Herbie Hancock (p) Ron Carter (b) Tony Williams (ds)。マイルスの「黄金のクインテット」からショーターを引いて、代わりにコールマンがテナーで参加している。

フランスの著名なジャズ評論家・アンドレ・フランシス(André Francis)の、フランス訛りの英語でメンバー紹介から始まる、なかなかお洒落なライヴ盤。冒頭1曲目は「Autumn Leaves」、有名なシャンソンの名曲だが、立派なジャズ・スタンダード曲でもある。

これが、まあ、テーマ部はそれと判るが、アドリブ部に展開する時には、原曲が何だったか、判らない位、自由度の高い、柔軟どの高い、モーダルなアドリブ展開が素晴らしい。とりわけ、マイルスのトランペットは「火を噴くが如く」な、熱気溢れる、迫力あるアドリブを繰り広げる。マイルス流のモーダルなトランペットが輝く様である。
 

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今の耳で聴いても、このマイルスのモーダルなトランペットは、他の追従を許さない、マイルスだけが吹くことの出来る、マイルス・オリジナルなモード・トランペットである。しかも、トランペットが良く鳴っている。テクニックも上々。どこの誰だ、昔、マイルスのトランペットは下手だ、と言い切った輩は・・・(笑)。

逆に、テナーのコールマンは、コルトレーンのフォロワーの域を出ていない。シーツ・オブ・サウンドな吹きっぷりで、モーダルな雰囲気を醸し出しているが、そのモーダルな展開も、コルトレーンのカヴァーの雰囲気。コールマン独自の創造的なフレーズでは無い。まるで、コルトレーンの「影武者」が吹いているよう。でも、彼の名誉の為に言っておくと、決して下手ではない。ハードバップなテナーとしては一流である。

マイルスの創造的な、マイルス独自の「マイルス・オリジナルなモード展開」と、コールマンの旧来の「コルトレーン・カヴァーのモード展開」の対比が、マイルスのトランペットの先進性、創造性、独自性を前面に推し出し、マイルスのトランペットのモーダルな吹奏を映えに映えさせる効果を醸し出している。コールマンのテナーは、マイルスの無くてはならない引き立て役だった感が強い。

ハービー=ロン=トニーの「黄金のリズム隊」は、マイルス・オリジナルのモード・ジャズを効果的にサポートし、引き立てる為のリズム&ビートを繰り出す。いわゆる、マイルス好みの「モード対応リズム隊」である。『Seven Steps to Heaven』セッションで出会った3人。あれから3ヶ月。マイルスの指導よろしく、「黄金のリズム隊」は、堂々とそれぞれの個性を活かした、モーダルなリズム&ビートをバンドに供給している。

このフランスでのライヴ盤では、マイルス・オリジナルのモード・ジャズの充実を感じ取ることができる。手垢のついた感のあるスタンダード曲「Autumn Leaves」「All Of You」「Walkin'」や十八番の「Milestones」が、 モード奏法をベースにした、自由度の高いインプロビゼーションによって、まるで新しく作曲された曲の様に響き渡る。アコ・マイルスの名盤の一枚である。
 
 

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2025年12月10日 (水曜日)

”Seven Steps to Heaven” 再聴

もうかれこれ半年くらい前のことになるが、ジャズ盤のサブスク・サイトを徘徊していて、をMiles Davis『Seven Steps to Heaven』の2023年リマスター盤が出ているのに気が付いた。そう言えば、このマイルス盤、しばらく聴いてないぞ、ということで、良い機会なので、さっそく拝聴する。

Miles Davis『Seven Steps to Heaven』(写真左)。1963年4月19日と1963年5月14日の録音。ちなみにパーソネルは、1963年4月19日の録音が、Miles Davis (tp), Victor Feldman (p), Ron Carter (b), Frank Butler (ds) のワンホーン・カルテット。1963年5月14日の録音が、Miles Davis (tp), George Coleman (ts), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)。マイルス=コールマンの2管フロントのクインテット編成。

この盤は、マイルス当人と、ピアノのハンコックとベースのロン、ドラムのトニーが初めて揃って録音した音源を収録している、ということで、1963年5月14日の録音ばかりが「もてはやされて」はいる。が、それはパーソネル上のことであって、演奏内容が、その後の「1960年代マイルスの黄金のクインテット」の演奏に比肩するレベルの演奏が既にここで行われている訳では無い。これは、はっきりしておきたい。

演奏全体のトーンは、初期の穏やかなモード・ジャズ。マイルスをはじめ、ピアノのフェルドマンとハンコックもモード・ジャズに馴染んでいる。コールマンは、コルトレーンの忠実なフォロワーという感じで、ちょっと「浮いている」。ロンについては、この2つのセッションで、フロントがモードの時のベース・ラインの付け方を会得したのはないだろうか。

フェルドマンもハンコックもモードへの対応については甲乙付けがたい。年季が入っていて、堂々と弾き進めているフェルドマンの方が、ハンコックを一歩リードというところだろうか。ドラムについても、西海岸のバスターと若干17歳5ヶ月のトニー、どちらもマイルス・ジャズに対する適応は甲乙付けがたい。年季が入っていて、堂々と叩きまくるバスターの方が、トニーを一歩リードというところか。
 

Seven_steps_to_heaven_2

 
1963年4月19日と1963年5月14日、どちらのセッションも甲乙付けがたい。まず、どちらのセッションでも、マイルスのトランペットは「素晴らしい」の一言。テクニック、個性、どこから聴いても「マイルス」。

話題になるリズム・セクションは、1963年4月19日の「ウエストコースト」隊の方が年季が入っている分、一日の長がある。ハービー=ロン=トニーの、後の「黄金のリズム・セクション」については、初顔合わせ、初セッションということでちょっと固い。とはいえ、アルバム全演奏を通じて、とても内容の良いマイルス盤。その演奏内容のレベルは相当に高い。

マイルスはフェルドマンを自身のバンドに勧誘している。それだけ、マイルスが、フェルドマンのピアノを買っていたことが判る。が、フェルドマンは米国西海岸に留まることを選択する。しかしながら、マイルスは、一期一会とばかりに、フェルドマンとの録音を残す。それが、この盤の1963年4月19日の録音。

旧来のジャズ本、マイルス本では、必ず評価の低い1963年4月19日のセッションではあるが、僕はそんなにレベルの低い演奏とは思わない。米国西海岸ジャズ独特の爽やかさという点で、そして、マイルスのトランペットのワンホーンのカルテットで、マイルスのトランペットをとことん愛でることが出来る、という点では、1963年4月19日のセッションの方が、僕には好みだ。

ちなみに、タイトル曲の「Seven Steps To Heaven」はフェルドマンの作曲。テーマ部の「たった、たった、たーたーたっ」。確かに「7音」=「Seven Steps」、これ秀曲、名曲です。僕は大好き。やはり、この盤、マイルス盤として優秀盤の一枚でしょう。
 
 

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2023年12月16日 (土曜日)

Miles Davis At Carnegie Hall

アコースティック・マイルスの正式盤のブログ記事のフォローアップをしている。

『Miles Davis At Carnegie Hall』(写真左)。1961年5月19日、NYのカーネギー・ホールでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Hank Mobley (ts), Wynton Kelly (p), Paul Chambers (b), Jimmy Cobb (ds) のマイルス・クインテットのバックに、Gil Evans (arr, cond) のジャズ・オーケストラが付く。

NYの音楽の殿堂「カーネギー・ホール」にて、デイビスが通常のクインテットを演奏し、ギル エヴァンスと21人編成のオーケストラの伴奏をバックに、マイルス・ディヴィスのクインテットがフロントで演奏するライヴ音源。

初出のLPでは、マイルスの有名オリジナル曲2曲とジャズ・スタンダード曲4曲の全6曲。CDリイシューでは、CD2枚組となって全11曲。LP収録曲に追加された曲の中での目玉は「アランフェス組曲」のライヴ収録。カーネギー・ホールでのマイルスとギルとのコラボの全貌、という点では、「アランフェス組曲」のライヴ収録を含めたCD2枚組が良いだろう。

まず、ギルのアレンジが冴渡る、マイルスの有名オリジナル曲とジャズ・スタンダード曲の演奏が良い。ウィズ・ジャズオケのアルバムは多々あれど、このギルのユニークで内容の濃いアレンジで演奏されたものは無い。

このギルのアレンジは、どこから聴いても「ギルのアレンジ」で、これがまた、マイルスのトランペットを大いに引き立て、マイルスの音世界に独特の彩りを添える。

ウィントン・ケリーのハッピーで快調なピアノが演奏全体に明るい躍動感を与えている。モブレーのテナーは少し優しいが、この盤では、ケリーのピアノに煽られるようにスインギーに吹きまくる。モブレーのテナーの優しさは、ジャズオケとの共演においては相性が良い。
 

Miles-davis-at-carnegie-hall

 
ジャズオケ含めたジャジーな演奏に推進力を与えているのがポール・チェンバースのベース、ジミー・コブのドラムのリズム隊。このリズム隊の醸し出す熱気は、ケリーの明るい躍動感溢れるピアノと相まって、演奏全体に独特のグルーヴを与えている。

もちろん、演奏の内容について、一番はマイルス・ディヴィス。特に、このライヴ音源では、ギル・エヴァンス独特のアレンジを得て、マイルスの好調なトランペットが映えに映える。

演奏メンバーにの中で、マイルスのパフォーマンスの充実度は抜きん出ている。演奏全体の雰囲気は「マイルスの考えるハードバップ」だが、マイルスのハードバップなトランペットは、1950年台から比べると、確実にステップアップしているのは見事だ。

CDリイシュー時に追加収録された、目玉の「アランフェス組曲」については、この難曲をジャズオケ込みのライヴ演奏で再現出来るとは思っていなかったので、このライヴ演奏のクインテット+ジャズオケの演奏力は素晴らしいものがある。

マイルス・クインテットだけによる演奏もあり、これがまた溌剌として良し。当時のマイルス・クインテットの充実度合いの高さが窺い知れいる。特に、ケリー・ポルチェン・コブのリズム・セクションが絶好調。このリズム・セクションの好調度合いが、演奏全体に好影響を与えている。

マイルスとギルのコラボのライヴ音源。スタジオ録音の精緻さ・精巧さも良いが、このライヴ音源における、マイルスの有名曲、ジャズ・スタンダード曲の演奏の躍動感と溌剌としたマイルスのトランペットも捨て難い。

マイルスのリーダー作の中で「地味」な部類に入る盤だが、内容はとても良い。地味盤だからと言って、聴かず嫌いは無いだろう。このライヴ盤でのマイルスのトランペットは一聴の価値あり、である。
 
 

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2023年12月15日 (金曜日)

好盤『Jazz at the Plaza Vol. I』

アコースティック・マイルスの正式盤のブログ記事を整理していて、2枚ほど、まだ記事にしていないアルバムがあることが判明。どちらも、ジャズ者になってかなり早い頃から、LPで所有していたアルバムだけに、今まで、当ブログで記事にしていなかったことに驚いている。どちらも結構、馴染みの深いアルバムなんですけどね〜。

Miles Davis『Jazz at the Plaza Vol. I』(写真左)。1958年9月9日、NYの「Plaza Hotel」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), John Coltrane (ts), Julian "Cannonball" Adderley (as)., Bill Evans (p), Paul Chambers (b), Jimmy Cobb (ds)。パーソネルを見渡せば、翌年の春に録音された大名盤『Kind of Blue』を産んだメンバーである。

1958年9月、ニューヨークのプラザ・ホテルにおけるパーティでの演奏を収録したライヴ盤。ただし、リリースは1973年。1958年の録音なので、15年ほど、お蔵入りになっていたライヴ音源。元々リリースの予定がなったらしく、どうも、メンバーは録音されていることを知らずに演奏していたらしい。何回か、マイルスがマイクから遠ざかったり、全編に渡って、楽器の音量バランスが悪い。
 

Miles-davisjazz-at-the-plaza-vol-i  

 
『Kind of Blue』を産んだメンバーのライヴ演奏ではあるが、この時点では、演奏はハードバップ一本槍。モードのかけらも無い。しかし、録音状態が悪い中、メンバーそれぞれの素晴らしいパフォーマンスは、しっかり記録されている。「マイルスの考えるハードバップ」のライヴ音源。聴き答えは十分。15年の時を経て、録音状態が悪いにも関わらす、リリースに踏み切った関係者の気持ちが良く判る。

マイルスはもちろん素晴らしい。スタジオ録音の妙など関係無し、ライヴでもマイルスが一番引き立っている。コルトレーンとキャノンボールは、でっかい音で高速フレーズを吹きまくる。エヴァンスはお得意の独特の音の重ね方で、バップなピアノを弾きまくる。コブはバシャッバシャッと独特のオフビートでフロントを鼓舞し、演奏全体のベースラインをポルチェンのベースがしっかりキープする。

マイルス・バンドの正式盤で唯一、丸々1枚、ビル・エヴァンスが参加している嬉しいアルバムでもある。マイルスをはじめとする演奏メンバーそれぞれの個性と特徴をしっかり把握していてこそ、このライヴ盤を楽しんで聴けるという、ジャズ者中堅、マイルス者中堅の方々に、是非、聴いて頂きたい好ライヴ盤です。
 
 

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2023年12月 2日 (土曜日)

『Round About Midnight』雑感

Miles Davis『'Round About Midnight』(写真左)。1955年10月26日、1956年9月10日の2セッションからの選曲。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), John Coltrane (ts), Red Garland (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)。マイルス・デイヴィスの「1950年代の黄金のクインテット」である。

この盤は、その印象的なジャケットと共に「名盤中の名盤」とされる。しかし、ハードバップを楽しく聴ける、聴いて楽しいマイルス盤ではないだろう。この盤はマイルスの諸作の中で、かなりハードボイルドで、ストイックで、ロマンチックな面は皆無。純粋ジャズ者、ジャズが大好きな人たちにとっては、この盤を聴いて「いいなあ」と思うだろうが、ジャズ者初心者駆け出しの方には、ちょっと早いかな、とも思う。

この盤は「マイルスの考えるハードバップ」の最終形だと思っている。大手CBSレコードでの録音である。当然、十分なリハーサルは積めたと思う。演奏のまとまりは素晴らしい。そして、アレンジが素晴らしい。

この盤については、マイルスの大のお気に入りアレンジャー、「音の魔術師」と異名を取るギル・エヴァンスのアレンジを積極採用している。このギルの他にない、マイルス好みのアレンジがこの「マイルスの考えるハードバップ」の最終形を「大名盤」たらしめている、と感じている。

コルトレーンはまだまだ発展途上。力感溢れるブロウは、マイルスの美的感覚あふれるクールで繊細なトランペットと好対照だが、テクニック、フレーズ共に発展途上。故に、諸手を挙げて、この盤でのコルトレーンは最高、という訳にはいかない。
 

Roundaboutmidnigh_1

 
マイルスはソニー・ロリンズを採用したかったみたいだが、確かにそれは「グッド・チョイス」。しかし、プレッシャーのかかる本番にちょっと弱そうで、他のメンバーに気を遣ってしまう傾向のあるマイルスが、このセッションで、その実力を遺憾無く発揮できたかといえば、ちょっと疑問符が付く。

コルトレーンは「能天気」なところがあるので、リーダーがマイルスだろうが、レジェンド級のジャズ・ジャイアントだろうが関係なく、あっけらかんと実力以上のブロウを披露してしまうところがある。この盤ではその「能天気」な面が良い方向に出ている。つまり、コルトレーンは「ついていた」。

ガーランドはマイルスの要求通り「アーマッド・ジャマル」の様に弾く。マイルスは元々は、アーマッド・ジャマルのピアノを招聘したかったみたいだが、ジャマルはシカゴを離れることを嫌いマイルスとの共演は実現しなかった。やむなくガーランドのピアノをチョイスした訳だが、これはこれで「瓢箪からコマ」。ガーランドはガーランドのスタイルをマイルスの下で確立した訳で、ガーランドにとっては損のないマイルス・バンドへの参加だった。

ポール・チェンバースのベースとフィリー・ジョー・ジョーンズのドラムによる「リズム隊」は、バップなリズム&ビートを、ダンディズム溢れる、ダイナミックでクールなリズム&ビートに昇華させている。テクニックに走ることなく、シンプルにビートを刻みまくる。それも、マイルスの吹きやすく、である。この二人のリズム隊の招聘は「マイルス大正解」だった。

「マイルスの考えるハードバップ」の最終形な、この『'Round About Midnight』。大手CBSレコードとの契約、そして、この盤の録音を契機に、マイルスが「超一流」なトランペッターとして、ジャズのイノベーターとして、ジャズ界に君臨していく。そして、付いたニックネームが「ジャズの帝王」。そんなジャズの帝王が考えるハードバップの最終形がこの盤に記録されているのだ。
 
 

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2023年11月20日 (月曜日)

マイルス『Quintet/Sextet』再聴

1955年7月、ニューポート・ジャズ・フェスティバルへの出演時、批評家からも観客からも高評価を得て、大手レコード会社のCBSと契約したのが、1955年10月。このCBSとの契約以降、マイルスは「ジャズの帝王」の道を歩き始める訳だが、それまでは、プレスティッジ・レーベルがメインの「インディーズ・ジャズの大将」って感じだった。

Miles Davis and Milt Jackson『Quintet / Sextet』(写真左)。1955年8月5日の録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Milt Jackson (vib), Jackie McLean (as), Ray Bryant (p), Percy Heath (b), Art Taylor (ds)。アルト・サックスのマクリーンは故あって、全4曲中、「Dr. Jackle」「Minor March」の2曲にしか入っていない。

フロントが、マイルスのトランペット、マクリーンのアルト・サックス、バグス(ミルト・ジャクソン)のヴァイブの3人。バックのリズム隊は、ブライアントのピアノ、ヒースのベース、テイラーのドラム。リズム隊についてはザッと集めた感が濃厚。

このトリオ演奏は他に見たことが無い。プレスティッジらしいといえば、プレスティッジらしい(笑)。ブライアントのピアノは右手がシンプルで間を活かしたラウンジ・ピアノっぽいところがあるので、マイルスは「まあ、それはそれで良いか」と考えたのだろう。

マイルスとバグスの共演については、両者とも耽美的でリリカルなフレーズが身上、トランペットは力強くブリリアント、ヴァイブは繊細で透明度が高い。その対比が「クールでヒップな」、マイルス曰く「女を切々と口説くような」、極上のアーバンでジャジーでブルージーな音世界を創り出す。マイルスとバグスの対比は、マイルスにとって必要なものだった様に感じるが、バグスはMJQへの参加を決めていて、マイルスとバグスの共演は、この盤が最後になった。

この盤は「マイルスの考えるハードバップ」の完成形を聴くことが出来る。プレスティッジの録音セッションなので、ろくにリハーサルもせずに、いきなり本番に臨んだ節があるので、演奏のまとまりや精度について、100%満足できるものでは無いが、演奏全体の展開、アドリブの取り回し、聴かせるアレンジなど、ハードバップに必要な要素が、全て「マイルス色」に染め上げられて、ずらりと勢揃いしている。
 

Miles-davis-and-milt-jacksonquintet-sext

 
プレステッィジ・レーベルが故の、リハーサル不足、マクリーンの途中脱退、ほぼ初見のリズム隊。当然、演奏全体のレベルについては、いろいろ不足なところはあるだろう。しかし、収録曲からして、マイルスは一曲も書いていないが、他のジャズマンが書いた曲はなかなかの内容で、これがブルーノートの様にしっかりとリハーサルを積んで演奏されていたら、かなりの好演奏になっていたのでは、と推測する。

とにかく、この盤は「マイルスの考えるハードバップ」の完成形であり、マイルスは、この盤以降、この盤の成果を基に「マイルスの考えるハードバップ」を発展&昇華させていくことになる。そういう意味で、この盤は演奏そのものについては課題が残るが、これはプレスティッジに良くあることなので仕方がない。それより、「マイルスの考えるハードバップ」の完成形を聴くことが出来る点に注目すべきだろう。

ちなみにマクリーンが途中退場した理由については、マイルスの自叙伝を紐解くと、以下の通りらしい。

「Bitty Ditty」録音時、ドラムスのテイラーが繰り返し失敗。ただ、テイラーは繊細なタイプで、萎縮しないよう、マイルスはあまり強く当たらなかった。それを見たマクリーン、えこ贔屓されていると感じたのか、「俺には強く当たるのに、テイラーには優しいのか」とマイルスに詰め寄る。

まあ、なんてマクリーンは子供なんだ、というところなんですが、マクリーンは当時、既に24歳。録音時、かなり「かかった」演奏をしていたので、ヤクでもやっていたんでしょうか。そして、マイルスがそれに応じて、「どうしたんだお前、小便でもしたいのか」ときつく叱責。怒り狂ったマクリーンは楽器を片付けて帰ってしまった、とのことらしい。現場放棄のマクリーン。これ以降、マイルスとの共演は無い。

この盤のジャケの酷さについても、いろいろ揶揄されているが、プレスティッジ・レーベルなので、これくらいの酷さは当たり前と言えば当たり前。これはもう仕方がないと思っている。マイルスもこの録音は、プレスティッジとの契約の穴埋め的録音と解釈していた節があり、ジャケにもこだわることは無かったのだろう。まあ、マイルスとしては「要は中身」なんだろう。

まとめると、このマイルスの『Quintet / Sextet』、一部で言われるほど、そんなに悪い内容の盤では無いと思う。名盤『'Round About Midnight』(1956年)の「露払い的位置付けの」アルバムとして捉えた方が、この盤の内容理解が進むのでは、と思う。
 
 

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2023年11月16日 (木曜日)

クリスマスの喧嘩セッション再び

ジャズには、伝説めいた「逸話」が沢山ある。それぞれ、関係者や当事者の証言から「真実」とされる逸話もあれば、関係者や当事者の証言が全く違う「作り話」な逸話もある。それでも、それぞれの「逸話」は、ジャズならではの話がほとんどで、ジャズやジャズに関係する人達が、いかに人間っぽくて温かでユニークなのか、が良く判る。

マイルス・ディヴィスの、そんな「逸話」の筆頭に「クリスマス・セッションでの喧嘩セッション」という話がある。マイルスが先輩のモンクに「俺のバックでピアノを弾くな」と言い放ち、モンクはそれが面白くなくて途中でバッキングを取り止め、スタジオ内では一触即発の雰囲気に包まれたという伝説。「マイルスとモンクの喧嘩セッション」としても有名だったんだが、当の本人や当時の関係者の証言から、この話は全くの作り話ということで落ち着いている。

『Miles Davis And The Modern Jazz Giants』(写真左)。1954年12月24日の録音。3曲目の「'Round Midnight」だけが、1956年10月26日の録音。かの有名なプレスティッジ・レーベルでの「マイルスのマラソンセッション」の音源からの1曲。これが、このアルバムのど真ん中に配置されている。演奏内容は当然良いのだが、他の「マイルスとモンクのクリスマス・セッション」の演奏とは全く雰囲気が異なる。プレスティッジらしい「暴挙」である。

全5曲中、3曲目の「'Round Midnight」を除く4曲が1954年12月24日の録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Milt Jackson (vib), Thelonious Monk (p), Percy Heath (b), Kenny Clarke (ds)。これって、先にご紹介した『Bags' Groove』の、タイトル曲のTake1, Take2と同じ。

つまり、「Bags' Groove」のTake1, Take2と、この『Miles Davis And The Modern Jazz Giants』から「'Round Midnight」を除いた残り4曲が1954年12月24日の録音。この6曲が「真のクリスマス・セッション」になる。

結論から言うと、このマイルスとモンクのクリスマス・セッションについては、「Bags' Groove」のTake1, Take2が突出して出来が良く、次いで、モンク自身の作で、マイルスも気合を入れて吹いている「Bemsha Swing」。この3曲が良い。

問題の「The Man I Love (Take 2)」。この録音に入る前に、マイルスはモンクに、彼が作曲した「ベムシャ・スイング」以外は、自分の即興パートでのピアノのバッキングはやめてくれと言ったという。モンクはそれを忠実に守っただけ。そう解釈すると、この演奏は名演である。
 

Miles-davis-and-the-modern-jazz-giants

 
とにかく、冒頭のイントロ部分から、ミルトの透明感溢れる、耽美的でジャジーなヴァイブがテンションを高め、テーマを奏でるマイルスのクールでリリカルなトランペットが素晴らしい。バックキングをつける、モンク=ヒース=クラークのリズム隊も、テンションの高い、ブルージーで堅実なリズム&ビートを刻む。

ここでもモンクのコンピングは、いかにもモンクらしくて、とてもユニ0区。ただ、このモンクらしいコンピングがバックに付くと、あまりにコンピングがユニークすぎて、この耽美的なバラードにおけるアドリブ・パートが吹き難い。

マイルスの判断は正しかった。この「The Man I Love (Take 2)」でのマイルスのアドリブ・パートのクールな吹奏は素晴らしい。そんなマイルスのアドリブがクッキリ浮かび出る。

「Bemsha Swing」も良い。モンクの手になる曲が故に、モンクは活き活きとバッキングする。そのモンクの活き活きとした個性的なピアノをバックに、リリカルでクールなマイルスとミルトの流れるようなフレーズが展開される。この違和感漂う不思議な演奏が実に魅力的。

逆に、ラストに入っている「The Man I Love (Take 1)」は出来はイマイチ。これはアルバムに収録しなくてもよかったのでは、と思う。名演の「The Man I Love (Take 2)」の前の練習テイク的位置づけの演奏。これは無くても良かったなあ、と思う。

それより、この「The Man I Love (Take 1)」を除いて、「マイルスとモンクのクリスマス・セッション」と呼ばれる音源で固めて、『Bags' Groove』のタイトル曲の2テイクと、『Miles Davis And The Modern Jazz Giants』の「The Man I Love (Take 2)」「Swing Spring」「Bemsha Swing」の5曲で、ミルト・ジャクソンを含む「マイルスとモンクのクリスマス・セッション」を一枚のアルバムとしてまとめてリリースしなかったのかが不思議。

『Miles Davis And The Modern Jazz Giants』は、同一パーソネルの『Bags' Groove』のタイトル曲の2テイクと合わせて聴くと、このセッションが如何に優れた内容のセッションなのかが良く判る。但し、『Miles Davis And The Modern Jazz Giants』のど真ん中にいる「'Round Midnight」は必ず「除いて」、である(笑)。
 
 

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