2022年12月28日 (水曜日)

マイルスのブルーノート録音・1

マイルス・デイヴィスのリーダー作は、どの盤も「奥が深い」。まず、駄盤、凡盤の類が無い。各リーダー作には、それぞれ、録音時の「音の背景」とか、録音時の「音の志向」とか、が必ずあって、マイルスのリーダー作は、それぞれの盤毎に必ず「意味や意義」が存在する。マイルスは立ち止まったり、振り返ったりすることが無い。そして、マイルスには「適当に」という言葉は存在しない。

『Miles Davis Volume 1』(写真左)。1952年5月9日, 1953年4月20日の録音。ブルーノートの1501番。ちなみにパーソネルは、1952年5月9日:Miles Davis (tp), J. J. Johnson (tb), Jackie McLean (as), Gil Coggins (p), Oscar Pettiford (b), Kenny Clarke (ds)。1953年4月20日:Miles Davis (tp), J. J. Johnson (tb), Jimmy Heath (ts), Gil Coggins (p), Percy Heath (b), Art Blakey (ds)。どちらもセクステット編成。

1949年-1950年録音の『Birth of the Cool』の後、ブルーノートへの初録音と第2回目の録音から選曲された12-inch LP仕様のアルバム。当初は10-inch LP3枚に分けてリリースされたものを、12-inch LPへの移行時、2枚のLPに再編したものの最初の1枚である。

録音当時、マイルスは重度の麻薬禍に陥っており、録音も激減していたのだが、ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンは、マイルスの才能を高く評価していて、重度の麻薬禍の状態にあったマイルスに録音の機会を与えている。マイルス自体、麻薬禍から何とか立ち直りたいと努力していた時期でもある、ライオンはそんなマイルスに救いの手を差し伸べた訳である。
 

Miles-davis-volume-1_1

 
マイルスはそんなライオンの恩義に報いるかの様に、麻薬禍の真っ只中にありながら、素晴らしい録音をブルーノートに残している。時代はビ・バップの流行が下火になり、ハードバップの萌芽を感じられる録音がちらほら出だした頃。マイルスは、ブルーノートの録音に、いち早く、ポスト「ビ・バップ」な、後のハードバップの先駆けとなる音を残している。

まだ編成楽器によるインタープレイは無いにしろ、演奏を「聴くこと」を意識したアーティスティックなアレンジ、聴き手に訴求する為のアドリブ展開におけるロング・プレイ、ビ・バップの熱気溢れる演奏志向からクールでヒップな演奏志向への変化は、既にこの1952年5月9日, 1953年4月20日の録音で、マイルスは「ものにしている」。

収録曲については、1952年5月9日録音は「How Deep Is the Ocean?」「Dear Old Stockholm」「Chance It」「Yesterdays」「Donna」「Woody 'n' You」の6曲、1953年4月20日録音は「Tempus Fugit」「Kelo」「Enigma」「Ray's Idea」「C.T.A」「C.T.A" (Alternate Take)」の6曲。

1952年5月9日録音の演奏の方が、ちょっと「くすんだ様な」大人しい演奏でクール度が高い。1953年4月20日録音の演奏の方は、溌剌とした度合いが高く、フレーズも明るめで健康的。でも、そんなに大きな変化は無くて、総じて、流麗で張りのある力強い演奏で統一されている。特にマイルスのトランペットは素晴らしい。当時のジャズ・シーンの中で、最高レベルのトランペットである。

マイルスは、ライオンの恩義に報いるように、ブルーノートに「ハードバップの萌芽」を感じさせ、トランペッターとして最高レベルのブロウを残したのだ。決して、やっつけの録音では無い、しっかりリハーサルされ、しっかり集中して演奏された素晴らしい録音の数々。やはり、当時から「マイルスは只者では無かった」のだ。
 
 

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2021年11月 2日 (火曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・9 『The Legendary Prestige Quintet Sessions』

マイルス・デイヴィスは僕のジャズの「最大のアイドル」である。マイルスの足跡、イコール、ビ・バップ以降のジャズの歴史でもある。ジャズの演奏スタイルについては、揺るぎない「信念」があった。フリー、スピリチュアル、フュージョンには絶対に手を出さない。マイルスはアコースティックであれ、エレクトリックであれ、いつの時代も、メインストリームな純ジャズだけを追求していた。

Miles Davis Quintet『The Legendary Prestige Quintet Sessions』(写真左)。1955年11月16日(The New Miles Davis Quintet)と1956年5月11日、10月26日(マラソン・セッション)の録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), John Coltrane(ts), Red Garland (p), Paul Chambers(b), Philly Joe Jones(ds) 。

マイルス・デイヴィス・クインテットのマラソン・セッション4部作『Cookin'』『Relaxin'』『Workin'』『Steamin'』と、デビュー盤『The New Miles Davis Quintet』のプレスティッジ・レーベルに残したスタジオ録音の音源を録音順に並べたもの(と思われる)と、NYのBasin Streetでのライヴ音源(1955年10月18日)と フィラデルフィアのライヴ音源(1956年12月8日)を収録。

マラソン・セッション4部作『Cookin'』『Relaxin'』『Workin'』『Steamin'』の音源が録音順に並んでいる(と思われる)のが、この企画ボックス盤の良いところ。マラソン・セッションの録音の流れとスタジオの雰囲気が追体験出来るようだ。4部作は、プレスティッジお得意の仕業、アルバム毎の収録曲については、曲と演奏の雰囲気だけで、てんでバラバラにLPに詰め込んでいる。アルバムとしては良いのだろうが、録音時期がバラバラなのはちょっと違和感が残る。
 

The-legendary-prestige-quintet-sessions_

 
さて、このマラソン・セッション4部作『Cookin'』『Relaxin'』『Workin'』『Steamin'』の音源は、CBSからリリースされた『'Round About Midnight』と併せて、「マイルスの考えるハードバップ」の完成形である。全てが一発録り、アレンジは既に用意されていたようで、それまでに、ライブ・セッションで演奏し尽くしていた曲ばかりなのだろう。

今の耳で聴いても、相当にレベルの高い演奏である。即興演奏を旨とするジャズとしては、この一発録りが最良。マイルスはそれを十分に理解して、このマラソン・セッションを敢行したと思われる。細かいことは割愛するが、一言で言うと「非の打ち所」の無い、珠玉のハードバップな演奏である。これぞジャズ、という演奏の数々。素晴らしい。

1955年10月から1956年12月に渡って、録音順に並んだ音源集なので、振り返ってみるとたった1年2ヶ月の短期間だが、マイルス・デイヴィス・クインテットのバンドとしての成熟度合いと、コルトレーンの成長度合いが良く判る。

バンド・サウンドとしてはもともとレベルの高いところからスタートしているが、段階的に深化、成熟していくのが良く判る。コルトレーンについては、たった1年2ヶ月であるが、最初と最後では全く別人といって良いほどの「ジャイアント・ステップ」である。

マラソン・セッション4部作『Cookin'』『Relaxin'』『Workin'』『Steamin'』をアルバム毎に分けて聴くも良し、録音順に追体験風に聴くも良し、これら「マイルスの考えるハードバップ」の完成形は、ジャズとして「欠くべからざる」音源である。ジャズ者としては、絶対に聴いておかなければならない音源である。
 
 
 
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2021年10月 6日 (水曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・6

僕なりのジャズ超名盤研究の6回目。超名盤の類は、僕の場合、基本的にジャズを聴き初めて4〜5年以内に聴いている。ジャズ盤紹介本に絶対にその名が出る、いわゆる「エヴァーグリーン」な盤ばかり。演奏内容、演奏メンバー、そして、ジャケット、どれもが「ジャズ」を強烈に感じさせてくれる優れた盤ばかりである。

Miles Davis『'Round About Midnight』(写真左)。1955年10月26日、1956年9月10日の2セッションの記録。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), John Coltrane (ts), Red Garland (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)。マイルス・デイヴィス、1950年代「黄金のクインテット」である。

マイルス・デイヴィスは、ジャズを本格的に聴き始めるまでに、既に大のお気に入り。特に、この盤はジャズを本格的に聴き始めて、2ヶ月目くらいに手に入れた。まず、ジャケットが格好良い。スタイリストなマイルスの面目躍如。いまにも、冒頭の名曲「'Round About Midnight」のイントロ、マイルスのクールでアーバンなミュート・トランペットが聴こえてきそうなジャケット。

内容的には、1955年というハードバップの初期から中期に差し掛かる時期に、既に完成された、当時の最先端を行くハードバップな演奏がギッシリ詰まっている。クールで限りなくシンプルなハードバップ。それでいて、演奏内容はかなり高度なテクニックと小粋なアドリブが満載。聴き易くクールでダンディズム溢れる、マイルス・ミュージックがこの盤に展開されている。
 

Round-about-midnight

 
マイルスのトランペットは申し分無い。というか、当時のベスト・プレイだろう。マイルスのトランペットはクール、そして色気タップリである。「マイルスは下手だ」なんていう評論家がいたが、とんでもない。即興を旨とするジャズにおけるトランペットとしては「ハイ・テクニシャン」の部類だ。

そもそもクラシックのトランペットと比べること自体がナンセンス。そもそも吹き方、表現方法が全く異なる。ジャズに限定すると、マイルスのトランペットは優秀だ。特にミュート・トランペットは絶品。その絶品もミュート・トランペットが、冒頭の1曲目、タイトル曲の「'Round About Midnight」で堪能出来る。

この時期のコルトレーンは「下手くそ」なんて言われていたが、とんでもない。荒削りではあるが、音の存在感、ストレートな吹き味、オリジナリティー溢れるアドリブ展開は、既に他のサックス奏者と比べて突出している。そして、ガーランド+チェンバース+フィリージョーのリズム隊の安定度の高さと伴奏上手なテクニックは特筆もの。マイルスのトランペットを更に引き立たせる「マスト・アイテム」。

収録された全ての演奏が「超優秀」。この『'Round About Midnight』という盤は、マイルスが「超一流」なトランペッターとして、ジャズのイノベーターとしての第一歩を記した、歴史に永遠に残る超名盤だろう。いわゆるハードバップ・ジャズの「基準」であり「試金石」的なアルバム。聴く度に「脱帽」である。
 
 
 

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2017年7月21日 (金曜日)

プレスティッジには気を付けろ

プレスティッジ・レーベルほど、いい加減なジャズ・レーベルはないのではないか。手当たり次第、暇なジャズメンに声をかけて、スタジオで繰り広げるジャム・セッション。リハーサル無しの一発勝負の録音。録音時期の整合性を無視したフィーリングだけを頼りにした「寄せ集め的なアルバム編集」。しかも、LPを大量生産する為に、LP両面合わせて、収録時間が30〜40分までの短いトータル時間。

Miles Davis & Lee Konitz『Conception』(写真左)。PRLPの7013番。この盤ほど、プレスティッジ・レーベルらしい盤は無いのではないか。やっつけの一発勝負の録音、フィーリングだけの録音時期の整合性を無視した「寄せ集めなアルバム編集」。この盤はそういう意味では「凄い内容」である(笑)。

まず、このアルバムのリーダーがあのマイルス・デイヴィスとリー・コニッツである。クール・ジャズの双璧、マイルスとコニッツ。この二人がガップリ組んでセッションを繰り広げる、そんな期待を十分に持たせてくれる、そんな二人の名前が並んでいるのだ。で、聴き始めると激しい違和感に襲われる。

冒頭から「Odjenar」「Hibeck」「Yesterdays」「Ezz-Thetic」までは、マイルス・デイヴィスとリー・コニッツとがガップリ組んだセッションが繰り広げられる。だけど、5曲目からの「Indian Summer」「Duet for Saxophone and Guitar」になると、あれれ、という感じになる。コニッツのアルトとバウアーのギターのデュオ。あれれ、マイルスは何処へ行った(笑)。
 

Miles_konitz_conception

 
しかも、だ。7曲目のタイトル曲「Conception」と続く「My Old Flame」、マイルスはいるんですが、コニッツ、どこにもいないんですが(笑)。しかも特徴のあるテナーって誰だっけ、どっかで聴いたことあるなあと思ったら、ロリンズやないですか。でも、コニッツ、アルトのコニッツ、どこに行ったんですか。

しかも、だ。続く9曲目の「Intoit」そして「Prezervation」に至っては、なんとマイルスもコニッツもいなくなる(笑)。テナーはスタン・ゲッツ、バックのリズム・セクションは西海岸中心。もはや音の雰囲気が全く異なっている。凄い凄いぞ、プレスティッジ・レーベル。

そして、ラスト前の「I May Be Wrong」からラストの「So What」は、西海岸中心のスモール・コンボな演奏。もはや、マイルスとコニッツの影なんぞ全く無い。ラストに至っては、そもそも最初の頃は何を聴いていたんだっけ、という感じに襲われる。最初の4曲だけが、アルバムの額面通り。5曲目以降は、完全な寄せ集め。どう思うと、こういう究極いい加減なアルバム編集になるのか、不思議である。

プレスティッジ・レーベルには気を付けろ。時々、こういうアルバムが混じっている。リーダー名やタイトルに惑わされることなかれ。プレスティッジ・レーベルを聴き進めるには、カタログを手にして、どういうアルバムなのか、事前調査が必須だろう。でないと、時々、とんでもない「駄盤」を掴まされることになる。でも、それがまた楽しいんだけど、プレスティッジ・レーベルって(笑)。

 
 

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2016年10月30日 (日曜日)

ハードバップの萌芽の記録です

小川隆夫さんの『マイルス・デイヴィスが語ったすべてのこと——マイルス・スピークス』を読んでいる。以前より、ジャズの関連本は一通り目を通すようにしている。ジャズの関連本からは、音を聴くだけでは判らない、そのミュージシャンの背景、考え方が理解出来たり、そのアルバムの内容や時代毎のジャズのトレンドに関する知識などの「情報」を入手することが出来る。

小川隆夫さんのジャズに関する本はどれも読んでいて楽しい。特にマイルスに関するものは、どれもが含蓄に富んでいる。マイルスに関する書籍については、小川さんの著書が一番だ。客観的にマイルスを分析し、ある時は一ファンとしてマイルスを語る。特に、いかなるジャズメンに対しても、リスペクトの念を忘れないところに共感を覚える。

当然、読みながらのBGMは「マイルス」である。今日は久し振りに、Miles Davis『Dig』(写真左)を聴く。1951年10月の録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Jackie McLean (as), Sonny Rollins (ts), Walter Bishop, Jr. (p), Tommy Potter (b), Art Blakey (ds)。まだ、マイルスがメンバー固定の自前のバンドを持つ前の頃の録音。

このアルバムに記録されたセッションは「ハードバップの萌芽」を記録したものとされる。1951年と言えば、まだジャズの演奏のトレンドは「ビ・バップ」。ビ・バップは、最初に決まったテーマ部分を演奏した後、コード進行に沿った形でありながらも、自由な即興演奏(アドリブ)を順番に行う形式が主となる。テクニック優先のアドリブ芸を競うことが最優先とされた。

しかし、これでは演奏のメロディーや旋律の展開を楽しめない。いわゆる鑑賞音楽としてアーティステックな切り口を有しつつ、ポップス音楽として、多くの人々にも聴いてもらいたい。そういう欲求を踏まえて、ビ・バップの後を継ぐトレンドとして、ハードバップが定着した。つまりは、ハード・バップにはビ・バップの自由さとリズム&ブルースが持つ大衆性の両方が共存しているという訳。
 

Miles_davis_dig

 
確かにそういう情報を基に、このマイルスの『Dig』を聴くと、なるほどなあ、と思う。1951年言えば、まだジャズのトレンドは「ビ・バップ」。そんな時代背景の中、この『Dig』の演奏は、確かにビ・バップでは無い。ビ・バップよりロングプレイなアドリブ展開の中に、旋律がもたらす雰囲気・味わいをしっかり織り込もうとしていることが良く判る。

ビ・バップよりも音数を少なくして、旋律がもたらす雰囲気・味わいを感じ取れる様にしつつ、テクニックは高度なものを要求するフレーズを紡ぎ出す。いきおいアドリブ部の演奏の長さは長くなる。そのロングプレイの中で、芸術性溢れるフレーズを展開為なければならない。テクニックと音楽の知識をしっかり持ったジャズメンでないと太刀打ち出来ない。

この『Dig』の演奏では、そんなハードバップのコンセプトを一生懸命に「実験」しているジャズメン達の様子がしっかりと記録されている様に感じる。なるほど、このアルバムに記録されたセッションが「ハードバップの萌芽」を記録したものとされる所以である。

さすがは「ジャズの革新性」を重んじるマイルス。既に1951年にして、ハードバップなコンセプトにチャレンジしている。もう一つのハードバップの萌芽の記録とされる、ブルーノートの名盤『A Night at Birdland』のライブ録音が1954年だから、如何にマイルスが先進性に優れていたか、が良く判る。僕はそういうマイルスが大好きだ。
 
 
 
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2013年3月20日 (水曜日)

あの喧嘩セッションは無かった

アコ・マイルスの聴き直しは、昨日の『Nefertiti』で一旦完了したんだが、今日は早速、その落ち穂拾いを・・・。

2013年2月14日のブログ(左をクリック)でご紹介した、Miles Davis『Bags' Groove』。このアルバム、タイトル曲以外は全く別セッションで固められている。つまり、マイルスとヴァイブのミルト・ジャクソンの共演セッションは、このタイトル曲の異なるバージョンの2曲以外、聴くことが出来ない。

では、他のセッション音源は何処にいったのか。つまり、1954年12月24日の録音の残りの演奏は『Miles Davis And The Modern Jazz Giants』(写真左)としてリリースされている。つまり、かの有名な「マイルスとモンクのクリスマス・セッション」と呼ばれる1954年12月24日の録音は、2枚のアルバムに跨がって収録されていることになります。

さらに話をめんどくさくさせているのは、この『Miles Davis And The Modern Jazz Giants』の収録曲。このアルバムに収録された演奏は以下の通り。

1. The Man I Love (Take 2)
2. Swing Spring
3. 'Round Midnight
4. Bemsha Swing
5. The Man I Love

この5曲の中で、3曲目の「'Round Midnight」だけが演奏内容が異質。聴けば直ぐ判るのだが、簡単に言うと、ヴァイブのミルト・ジャクソンのヴァイブの音が聴こえない。それもそのはずで、この1曲だけ、1956年10月26日の録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), John Coltrane (ts), Red Garland (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)。

ん〜っ、このパーソネル、この録音日。これって、かの有名なプレスティッジ・レーベルでの「マイルスのマラソンセッション」の音源では無いのか? そう、この3曲目の「'Round Midnight」だけ、「マイルスのマラソンセッション」からの収録なんですね。なんで、こんなめんどくさい、紛らわしいことをするんやろ。これやから、プレスティッジ・レーベルのアルバムは困りもの。
 

Miles_modern_jazz_giants

 
で、話を戻すと、この3曲目の「'Round Midnight」以外の残り4曲は1954年12月24日の録音、かの有名な「マイルスとモンクのクリスマス・セッション」と呼ばれる音源です。なんで、先の「Bags' Groove」と合わせて、ミルト・ジャクソンを含む「マイルスとモンクのクリスマス・セッション」を一枚のアルバムとしてまとめてリリースしなかったのかが不思議です。

「マイルスとモンクのクリスマス・セッション」のエピソードは、あちらこちらのジャズ本に語られ尽くされているので、ここでは深く追求しませんが、簡単に言うと、マイルスが先輩のモンクに「俺のバックでピアノを弾くな」と言い放ち、モンクはそれが面白くなくて途中でバッキングを取り止め、スタジオ内では一触即発の雰囲気に包まれたという伝説です。「マイルスとモンクの喧嘩セッション」としても有名だったんですが、当の本人や当時の関係者の証言から、この話は全くの作り話だったようです。これもまた紛らわしい。

さて、この「マイルスとモンクのクリスマス・セッション」の演奏、確かに、マイルスとミルト・ジャクソンのヴァイブの相性は抜群なのですが、モンクのピアノのバッキングとは、どうも雰囲気が合わない。全く合わないという訳じゃないんですが、なんとなく合わないという感じですかね。モンクかマイルス、どちらかが譲って、自分の演奏スタイルを相手の雰囲気に合わせて、マイナー・チェンジすれば、きっと素晴らしい演奏として残ったとは思うのですが、そういうところは、マイルスもモンクも譲らない様ですね(笑)。

確かに、「マイルスとモンクの喧嘩セッション」のネタとして有名になった演奏である冒頭の「The Man I Love (Take 2)」でのモンクは弾きにくそうにしていて、遂には演奏を中断してしまいます。どうも、マイルスとミルトの相性があまりに合いすぎていて、モンクのちょっと異質なピアノはどうも具合が悪かったのでしょう。モンク自ら、具合の悪さが気になって演奏を止めた様に感じます。

でも、僕は、このマイルスとミルトの美しきリリカルなフレーズに対する、モンクの異質なピアノのバッキング。この水と油の様な個性のぶつかり合いが意外と好きだったりします。それは、4曲目のモンク作曲の「Bemsha Swing」を聴く度に思います。モンクの手になる曲が故に、モンクは活き活きとバッキングします。そのモンクの活き活きとした異質なピアノをバックに、リリカルでクールなマイルスとミルトの流れるようなフレーズが展開される。この違和感漂う不思議な演奏が実に魅力的です。

まあ、このアルバム『Miles Davis And The Modern Jazz Giants』は、是非とも聴いておかなければならないアルバムとは言いませんが、ジャズにおいては「水と油の様な個性でも魅力的でアートな演奏になる」という一つの例として体験するに値する盤ではあるでしょう。

しかし、プレスティッジのアルバムの曲の構成には戸惑うことが多い。このアルバムでも、3曲目の「'Round Midnight」の扱いにとても困ってしまいます(笑)。

 
 

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2013年2月14日 (木曜日)

バグスとマイルスのグルーヴ感 『Bags' Groove』

ジャズ・ヴァイブの第一人者ミルト・ジャクソン。あだ名は「バグス」。眼下の弛みにちなんでこう呼ばれていた。「バグス」と言えば、ミルト・ジャクソン本人作の「Bags' Groove」という名曲がある。日本語に訳すと、バグスの「ノリ」。つまりは、ミルト・ジャクソンの「ノリ」。

「Bags' Groove」は今やジャズでの名スタンダード化しており、ミルトが参加していたMJQの十八番でもあり、ミルト自身、ソロで活動していた折にも、この「Bags' Groove」を好んで演奏していた。シンプルさが際立つ、ブルージーでファンキーな旋律が心地良いFのブルース。

この「Bags' Groove」が、とてもアーティスティックにジャジーにブルージーに演奏されているアルバムが、Miles Davis『Bags' Groove』(写真左)。このマイルスがリーダーとなって吹き込んだ「Bags' Groove」が、僕にとっては一番の「Bags' Groove」。

アルバム全体の収録曲は以下のようになっている。このアルバム、プレスティッジ・レーベルからのリリースとなっているんだが、曲の収録は、プレスティッジお得意の寄せ集めとなっている。このアルバムでは、2つのセッションからの寄せ集めとなっており、1・2曲目の「Bags' Groove」と、3曲目以降の演奏とは、演奏メンバーも異なれば、演奏日も異なる。

1. Bags' Groove (Take 1)
2. Bags' Groove (Take 2)
3. Airegin
4. Oleo
5. But Not For Me (Take 2)
6. Doxy
7. But Not For Me (Take 1)

1・2曲目の「Bags' Groove」は、1954年12月24日の録音。パーソネルは、Miles Davis (tp), Milt Jackson (vib),  Thelonious Monk (p), Percy Heath (b), Kenny Clarke (ds)。

ミルトの参加していたMJQ(Modern Jazz Quartet)のメンバーから、ピアノのジョン・ルイスをセロニアス・モンクに代えたもの。このセロニアス・モンクの参加が、この「Bags' Groove」を、とてもアーティスティックにジャジーにブルージーに仕立て上げている。
 

Bags_groove

 
ちなみに、この1954年12月24日の録音の残りの演奏は、別のアルバム『Miles Davis And The Modern Jazz Giants』としてリリースされています。つまり、かの有名な「マイルスとモンクのクリスマス・セッション」と呼ばれる1954年12月24日の録音は、2枚のアルバムに跨がって収録されていることになります。面倒くさいことをしてくれたものです。

しかし、ここでの「Bags' Groove」は素晴らしい。マイルスのクールでリリカルな抑制の効いたトランペット、ミルトのブルージーでそこはかとなくファンキーで端正なヴァイブ、堅実なパーシー・ヒースのベースに、バップなリズムが魅力のケニー・クラークのドラム。特に、MJQ以外では自由奔放なソロを取る傾向のあるミルトが結構、抑制の効いたソロを聴かせてくれるところが「聴きどころ」。

そして、何よりも増して素晴らしいのが、モンクのピアノ・パフォーマンス。木訥とした不規則なタイム感覚のフレーズに、微妙で不思議な間。どこにも無い、聴いたことの無い独特のフレーズの積み重ね。シンプルさが際立つ、ブルージーでファンキーな旋律が心地良いFのブルースが、アーティスティックな名演となって生まれ変わっている。

この「Bags' Groove」は、Take1とTake2と、2つのテイクが収録されていて、即興の音楽芸術とされるジャズの醍醐味を十分に味わうことが出来ます。どちらが良いか、って。どちらも良いです(笑)。

曲目の「Airegin」以降は、「Bags' Groove」の収録から遡ること、なんと半年ほど前の1954年6月29日の録音で、しかもパーソネルがガラリと替わります。これはもう「別物」ですね。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Sonny Rollins (ts), Horace Silver (p), Percy Heath (b), Kenny Clarke (ds)。ピアノがファンキーなホレス・シルバー。ピアノが違えば、リズム・セクションの雰囲気はガラリと変わります。

若きソニー・ロリンズの自由奔放なテナーが魅力ですが、先の「Bags' Groove」の演奏内容とは「水と油」で、2つのセッションからの寄せ集めという事情を知らないと、初めてこのアルバムを通して聴いた時、かなりの違和感が残ります。

ジャケット・デザインも、玉成混交としているプレスティッジ・レーベルとしては優秀な部類で、タイポグラフィーが実に魅力的です。アルバム・タイトル通り、このアルバムは、冒頭2曲の「Bags' Groove」を愛でる為にあるアルバムと極言しても良いかと思います。
 
 
 
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2012年10月 9日 (火曜日)

モードジャズの目指すべき姿『E.S.P.』

待望の新「音楽監督」のウェイン・ショーターを迎え入れての、久々のスタジオ録音になる。1963年4月の『Seven Steps To Heaven』関連のスタジオ・セッション以来、約2年ぶりのスタジオ録音である。待ちに待ったショーターの参加である。

ウェイン・ショーター参加後のアルバムとしては2枚目になる。先に、1964年9月にライブ録音が実現し、『Miles in Berlin』のタイトルでリリースされている。

このお披露目ライブの中心人物のショーターのテナーはどうかと言えば、まだまだ革新的とは言い難いものだった。切れ味の鋭い、間を活かしたマイルス好みのコルトレーンという風情で、1964年の時点で、マイルス・クインテットにコルトレーンが在籍していたら、きっとこういうブロウをしただろうなあ、と強く思わせるコルトレーン・ライクなブロウ。

待望のショーターを迎えてのスタジオ録音盤のタイトルは『E.S.P.』(写真左)。改めてパーソネルは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)。1965年1月20日の録音になる。

このスタジオ録音盤の内容は素晴らしい。ハードバップの演奏ルーティンを総括し、ハードバップが獲得したグループ・サウンズとしての表現、アレンジを総括し、モード・ジャズの演奏スタイルの「目指すべき姿」を指し示した、当時のジャズのみならず、現代のジャズにおいても、メインストリーム・ジャズの「最終形」としての一つを表現した、「目標となるべき演奏の形態」がギッシリと詰まっている。

この名盤においては、バックのリズム・セクションが素晴らしく「革新的」。ショーターが参加するまで、ライブ中心に鍛えに鍛えた革新的なリズム・セクション。メインストリーム・ジャズの「最終形」としての一つを表現した、「目標となるべき演奏の形態」を表現する為の「特別なリズム・セクション」。
 

Miles_davis_esp

 
トニー・ウィリアムスの超高速レガートを核とした「モーダルなドラミング」が、演奏全体の雰囲気を引っ張る。そこに、ハードバップ時代のピアノの要素を集約し、そこにトリスターノ流のクールでパルシブなタッチを織り交ぜた、これまた、当時として「革新的」な、ハービー・ハンコックのピアノが絡む。

が、このアルバムで一番「革新的」なのは、ロン・カーターのベース。ハードバップ時代、ベースの基本スタイルとなったウォーキング・ベースを全く排除し、トニーのパルシブなビートに呼応するような、細かく刻まれたシーツ・オブ・サウンドの様なベース。トニーのパルシブなドラムとロンのパルシブなベースが、音の「間と伸び」を活かした、マイルスやショーターのフロント楽器のモーダルな演奏にベスト・マッチするのだ。

ショーターのテナーは確実に進化していて、徐々に「ショーター」らしいテナーの響きを獲得しつつある。まだまだ、コルトレーン・ライクな響きが演奏全体の半分くらいを占めるが、後の半分は、しっかりと「ショーター」した音が実にユニーク。これが、後に「宇宙人」的フレーズ、などど評される、ショーター独特のモーダルな響きである。それまでのジャズ・テナーのスタンダードだった、コルトレーン的な音、ロリンズ的な音とは全く異なる「第三極的」なテナーとなるショーターの音。

しかし、やっぱり、このアルバムの演奏の中で、一番、格好良くて、一番に良い良いところも持って行くのは「マイルス」。モーダルな演奏を最大に惹き立たせるリズム・セクションを得て、マイルスのモーダルなトランペットが、自由自在に変幻自在に、切れ味良く、爽快に浮遊していく。このアルバムでのマイルスのトランペットは成熟の極み。

さすがはマイルス。メインストリーム・ジャズは「かくあるべし」という雰囲気のアルバムは神々しくもあります。冒頭のタイトル曲「 E.S.P. 」の出だしのフレーズを聴くだけで、ハードバップの延長線上では無い「新しいメインストリーム・ジャズ」の響きを感じます。マイルス者中級者必須の名盤です。

ちなみに、ジャケット写真で、マイルスが見上げている女性は、当時の奥方のフランシス。なんとなく仲睦まじそうですが、なんと、この写真が撮られた1週間ほど後にフランシスは家を出て、2人の結婚生活は破綻するんですね。「マイルスは小説より奇なり」です(笑)。
 
 
 
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2012年8月24日 (金曜日)

Miles Davis『Miles In Tokyo』

マイルス・デイヴィス、1960年代伝説のクインテットのリズム・セクションを得て、後は、フロント楽器の片割れ、サックス奏者を招き入れるだけとなった、マイルスの1963年。しかし、お目当てのテナー奏者が、アート・ブレイキーとの契約が先になって、お預けとなる。そのテナー奏者とは、ウェイン・ショーター。

理想的なリズム・セクションに恵まれたが、肝心のフロント楽器のパートナーが来ない。仕方が無いので、まずは、ジョージ・コールマンを招き入れる。ジョージ・コールマンのテナーは、ジョン・コルトレーンそっくり。ちょうど、マイルスの下から独立した、アトランティック・レーベル時代のコルトレーンの音にそっくり。

このジョージ・コールマン、マイルスのお気に入りリズム・セクションの中の、ドラムのトニーが全く気に入らなかった様で、どうも上手くマイルス・クインテットに馴染まなかった。でも、マイルスにとっては問題無い。当時、マイルスにとっては、ウェイン・ショーターこそが唯一無二のフロント・パートナーなのだ。

そして、この『Miles In Tokyo』(写真)においては、ジョージ・コールマンが脱退し、替わって、サム・リバースがフロント・パートナーのテナー奏者の位置に座る。ちなみにこの『Miles In Tokyo』、1964年7月14日、新宿厚生年金会館でのライブ録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp) Sam Rivers (ts) Herbie Hancock (p) Ron Carter (b) Tony Williams (ds)。

このサム・リバースは、ドラムのトニーの推薦。しかしなあ、トニー。このサム・リバースもコルトレーンのそっくりさん。このサム・リバースは、インパルス・レーベルに移籍した頃のコルトレーンの音にそっくり。そっくりというか、コルトレーンよりも、音がこなれていて聴き易い。 でも、マイルスにとっては問題無い。当時、マイルスにとっては、ウェイン・ショーターこそが唯一無二のフロント・パートナーなのだ。

ウェイン・ショーターが来ない間は、フロント楽器のパートナーは、よっぽどおかしなサックス奏者でなければ良い。逆に、圧倒的な若輩者、トニーの意見を抵抗なく取り入れて、サム・リバースを入団させる、マイルスの「太っ腹」。大らかに構えるマイルスの、将来ジャズ背負って経つ優れた人材であるトニーへの「活きた教育」。
 

Miles_in_tokyo

 
つまりは、マイルスは、コルトレーンの幻影など追い求めてはいない。マイルスの「間を活かした」、モーダルでクールなハード・バップな表現には、もはやコルトレーンは必要が無かった。トニーは、まだそれを理解していなかった。それをマイルスは、トニーに身を持って体験させた。その成果が『Miles In Tokyo』の音世界である。

トニー、ハービー、ロンのマイルスにとって最高なリズム・セクションに乗りつつ、インプロビゼーションを展開するフロント・テナーの音は、サム・リバースでは無い、ということが、『Miles In Tokyo』を聴き通すことで判る。他の同時期のブートの音源を聴いても思う。つまりは、このサム・リバースは、コルトレーンのそっくりさんではあるが、コルトレーンを越えるものでは無い。そんな唯一無二では無い個性は、当時のマイルスの下では必要が無かった。

とにかく、この時点で、マイルスにとっては、ウェイン・ショーターこそが唯一無二のフロント・パートナーなのだ。もはや、ウェイン・ショーターがマイルスの下に参入してこない限り、マイルスにとっては、テナー奏者は誰でも良いのだし、興味の対象外なのだ。当時のマイルスは、ウェインが来たる日の為に、トニー、ハービー、ロンのマイルスにとって最高なリズム・セクションをマイルス好みに鍛え上げるだけが楽しみだったと推察する。

でも、この『Miles In Tokyo』でのマイルスのトランペットは輝いている。本当にマイルスのトランペットは味が合って「上手い」。そして、トニー、ハービー、ロンのリズム・セクションは、マイルスにとって最高なリズム・セクションである。この『Miles In Tokyo』を聴いていて、それが良く判る。

『Miles In Tokyo』は、マイルスにとっては「旧世界」。ハード・バップの時代からの延長線上で、ハード・バップな演奏を煮詰めに煮詰めて来た、そして、理想的なリズム・セクションに恵まれて、マイルスの究極の「ハードバップな」表現の究極なイメージが、この『Miles In Tokyo』に詰まっている。確かに、この『Miles In Tokyo』の内容以上のハードバップな表現イメージは他に無い。

この『Miles In Tokyo』は、1950年代のハードバップ時代から積み上げてきた「マイルスの最高到達地点の音」の記録である。 
 
 
 
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2012年6月15日 (金曜日)

マイルスの『My Funny Valentine』

昨日が『Four & More』なら今日はこれ。バラードやスローなブルース中心のマイルスも、これまた「格好良い」。Miles Davis『My Funny Valentine: Miles Davis in Concert』(写真左)。

『Four & More』と同じ、1964年2月12日のライブ録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp) George Coleman (ts) Herbie Hancock (p) Ron Carter (b) Tony Williams (ds)。60年代伝説のクインテットの一歩手前。まだ、テナーがウェイン・ショーターでは無い。ここでのテナーは、ジョージ・コールマン。 

『Four & More』は、アグレッシブでハードボイルドで、ハードバップでモーダルな、とにかく尖った、疾走感あふれるマイルス・バンドなんだが、この『My Funny Valentine』は、その全く逆。クールでセンシティブで、限りなくフリーでモーダルな、とにかく繊細で耽美的なマイルス・バンドである。

収録されたどの曲も素晴らしいんだが、このアルバムを代表する名演は、やっぱり冒頭のタイトル曲「My Funny Valentine」。1956年のマラソン・セッションでの『Cookin'』での「My Funny Valentine」が決定的名演のひとつとして挙げられるが、その『Cookin'』の「My Funny Valentine」を超えた構築美が、この1964年のライブ盤にある。
 

My_funny_valentine

 
1950年代のハードバップの先を行く、当時、最先端の演奏スタイルである「限りなくフリーでモーダル」な演奏が素晴らしい。この『My Funny Valentine』は、バラードやスローなブルース中心ばかりで構成される。

プロデューサー、テオ・マセロの編集の腕が冴えまくる。同一日のライブ録音の中から、アグレッシブでハードボイルドで、ハードバップでモーダルな、とにかく尖った、疾走感あふれる演奏を『Four & More』に、クールでセンシティブで、限りなくフリーでモーダルな、とにかく繊細で耽美的な演奏を『My Funny Valentine』に集中させ、マイルスの持つ2面性を的確に表現する。う〜ん、テオ・マセロの慧眼恐るべし。

フロントのテナーのジョージ・コールマン、ピアノのハービー、ベースのロン、ドラムのトニー、いずれも素晴らしい演奏を繰り広げてくれる。これは『Four & More』と全く同じ。しかしながら、とりわけ、ハービーのピアノは、このバラードやスローなブルース中心の演奏の方が、より素晴らしいインプロビゼーションを展開する。緩やかな演奏を得意とするハービーの面目躍如。

良いアルバムです。『Four & More』とペアで聴くことが必須のこの『My Funny Valentine』。優しく緩やかなバラードやスローなブルース中心の収録曲の構成ではありながら、それでも、ちょっとハードボイルドでハードバップでモーダルな演奏ではあるのですが、基本的には、聴き易く入り易い、マイルス入門盤に最適な一枚です。
 
 

 
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