2023年5月 7日 (日曜日)

テイラー良好、リズム隊が平凡

プレスティッジ・レーベル(Prestige Label)は、 1949 年、ニューヨークでボブ・ウェインストック(Bob Weinstock)によって設立されたジャズ・レーベル。モダン・ジャズ全盛期を記録したハードバップの宝庫であるが、その内容は、録音姿勢の問題もあって、玉石混交とている。

売れそうなジャズマン、暇そうなジャズマンをパッと集めて、殆どまともなリハーサル無しにパッと録音させる。そして、録音した音源は大した理由も無く、複数のアルバムに分断されることが多く、セッションとしての統一感に欠ける盤が多い。それでも、ハードバップ全盛期の録音なので、ジャズマンの力量は並外れていて、場当たり的なセッションでも、当たればその内容は素晴らしいものになっていた。故に、モダン・ジャズの名盤も多く存在する。

Billy Taylor『A Touch of Taylor』(写真左)。1955年4月10日、Van Gelder Studioでの録音。プレスティッジのPRLP 7001番。ちなみにパーソネルは、Billy Taylor (p), Earl May (b), Percy Brice (ds)。知性派バップ・ピアニスト、ビリー・テイラーがリーダー、アール・メイ、パーシー・ブライスとの、当時のレギュラー・トリオによる録音。ハードバップ名盤の宝庫であるプレスティッジの7000シリーズ(12"LP)第一弾。以前、一度、当ブログで扱っているが、今の耳で聴いた印象が当時と変わっているので再掲である。

ビリー・テイラーは、ディジー・ガレスピーやリー・コーニッツのグループで活躍、DJやテレビ番組の司会にも活躍、ジャズ・ピアノのみならず、多彩な活躍をした知性派ピアニスト。高等教育を受け、ダウンビート誌に寄稿したり、ロングアイランド大学で教鞭をとったり、エール大学のデューク・エリントン特別研究員でもあったり。アメリカ国内では、「Dr. Taylor(テイラー博士)」と呼ばれている。
 

A_touch_of_taylor_1

 
我が国では全く人気が無く、米国ですら「過小評価されている最たるジャズメンの一人」などという評価に甘んじている。それでも、リーダー作は結構な数を出している、という不思議なジャズ・ピアニストである。

このトリオ盤を聴くと、左手のブロックコード、右手のシングルトーンが個性。テクニックは上等、小気味好く端正でリリカルな弾き回し。でも、歌心溢れるバラードな展開や上品で端正なインテリジェンス溢れる展開は一目置ける個性。

我が国のベテラン・ジャズ者の方々が、ジャズに求める「崩れた魅力」は皆無で、耽美的でリリカルな弾き回しや、黒いファンクネス溢れる弾き回しとは無縁。どうも、この辺が、我が国で受けの悪いところなんだろう。

それでも、今の耳で聴くと、テイラーのピアノは意外と内容充実で聴き応えがある。どうも、この盤の物足りない点は、無名に近いベースとドラムのリズム隊にあるのだろう。聴いていて破綻は無いのだが、意外と平凡で単調。このリズム隊が充実しておれば、この盤、意外と名盤扱いされてたのでは無いか、と感じる。

この辺が、プレスティッジ・レーベルの残念なところで、ブルーノート・レーベルに比べて、プロデュース力に問題がある。ビリー・テイラーのピアノは申し分無い。このテイラーのピアノの個性を活かしきれない、リズム隊のブッキングがこの盤に最大の弱点だろう。実に惜しいプレスティッジ・レーベルの7000シリーズ(12"LP)第一弾である。
 
 

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2020年5月25日 (月曜日)

ながら聴きマイ・フェア・レディ

My Fair Lady(マイ・フェア・レディ)は有名なミュージカル。オードリ・ヘップバーン主演で映画化もされているので、日本でもかなり有名なミュージカルである。このミュージカルの挿入歌はジャズ化に向いているようで、結構な数、ジャズ化カヴァーされている。一番有名なのが、シェリー・マンのバージョン。ピアノのアンドレ・プレヴィン、ベースのルロイ・ヴィネガーとのピアノ・トリオでの名演である。

地味ではあるが、ジャズ・ピアノのレジェンド、オスカー・ピーターソンも、ベースのレイ・ブラウン、ドラムのジーン・ガメイジとのピアノ・トリオでの好盤である。が、何故か人気が無い。恐らくドラムの差だろう。

Billy Taylor『My Fair Lady Loves Jazz』(写真左)。1957年1ー2月の録音。ちなみにパーソネルは、Billy Taylor (p), Ernie Royal (tp), Don Elliott (tp, mellophone, vibes, bongos), Jimmy Cleveland (tb), Jim Buffington (French horn), Don Butterfield, Jay McAllister (tuba), Anthony Ortega (as, ts), Charlie Fowlkes (bs, b-cl), Al Casamenti (g), Earl May (b), Ed Thigpen (ds)。

このビリー・テイラーの「マイ・フェア・レディ」は、テイラーのトリオをメインにはしているが、Quincy Jones(クインシー・ジョーンズ)が、アレンジと指揮を担当。ビッグバンドの伴奏をバックにしていて、アルバム全体の印象は、ビッグバンド仕様の「マイ・フェア・レディ」。このクインシーのアレンジが絶妙で、アルバム全体に思いっ切り効いている。
 
 
My-fair-lady  
 
 
もともとビリ−・テイラーのピアノは典雅で流麗。バップなピアノではあるが、メロディアスで、どこかイージーリスニング志向の響きがする。この流麗で粒立ちの良いピアノは、クインシーのゴージャズで流麗なアレンジとの相性が良い。違和感無く、テイラーのピアノが溶け込んでいる。「マイ・フェア・レディ」の挿入歌は、どれもメロディアスなものが多いので、このクインシーのアレンジがバッチリ合う。

冒頭の「Show Me」から「"I've Grown Accustomed to Her Face」を聴くと、ハードバップでスインギーなジャズ仕様というよりは、流麗でメロディアスなビッグバンド仕様という感じ。といって、ビッグバンドの音はあくまでシンプルで、ビリー・テイラーのピアノを惹き立てる役割に徹している。典雅で流麗なテイラーのピアノが殊更に映える。

このビッグバンドの伴奏、ちょっとユニークな音をしていて、チューバやフレンチ・ホルン、バス・クラリネットの音色を上手く活かしている。これがストリングスだったら、ちょっと俗っぽいイージーリスニング風のジャズになっていたのだが、ストリングスを採用しないところが、アレンジの職人、クインシーの面目躍如たるところ。このクインシーの独特のアレンジがこの盤を特別なものにしている。

でも、このビリー・テイラーの「マイ・フェア・レディ」も、我が国で人気が無いんだよな。実は僕も、21世紀に入って、インパルス・レコードのカタログを眺めていて、その存在に気がついたくらいだ。でも、ビッグバンド仕様のお洒落なイージーリスニング・ジャズ志向の「マイ・フェア・レディ」として聴きどころは満載。ながら聴きに向く、イージーリスニング・ジャズ志向の好盤だと思います。
 
 
 

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2017年7月31日 (月曜日)

アーティスティックなビ・バップ

暑いですね〜。今年は特に蒸し暑い。これだけ蒸し暑いと体力を奪われて、もう音楽を聴くどころの騒ぎでは無い(笑)。でも、ジャズは聴きたい。これだけ蒸し暑いと、ジャズを聴くのにエアコンは欠かせません(笑)。

ということで、エアコンを効かせた涼しい部屋で聴くジャズ。ピアノ・トリオが良い。最近、この人のピアノ・トリオをちょくちょく選盤して聴いている。シンプルで聴き易い。でも、我が国ではとんと人気が無い。ジャズ雑誌やジャズ盤紹介本で、このピアニストの名前が挙がることは僅少。

それでも、この人のピアノは聴き易い。アーティスティックなビ・バップである。他のビ・バップなピアニストの様に、テクニックを最高レベルに見せつつ、アクロバティックにアドリブ展開し、拍手喝采を獲得するような、エネルギッシュに弾き倒すビ・バップなピアノでは無い。ちょっとアーティスティックに洒脱なビ・バップなフレーズを弾く、お洒落なビ・バッパーである。
 

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そんな彼のピアノが堪能できる盤がこれ。Billy Taylor『At The London House』(写真左)。1956年1月の録音。ちなみにパーソネルは、Billy Taylor (p), Percy Brice (b), Earl May (ds)。ビリー・テイラー以外、ベースもドラムも知らない名前。どうも、ビリー・テイラーは、僕達が聴いていたジャズとは少し外れたところに居た様に思う。

ビリー・テイラーは、1921年7月27日、ノース・キャロライナ生まれ。2010年に鬼籍に入っている。ジャズメンの中ではかなりの古手。年齢的に、ビリー・テイラーの身に染みたメインのスタイルは「ビ・バップ」。アメリカ国内では、数々の音楽的功績から「Dr. Taylor(テイラー博士)」と敬意を表され、逆に我が国では「うまい人だが、学者っぽくて何故かあまり面白みが無い」と揶揄された。

しかし、そんな我が国での揶揄は「聴かず嫌い」の典型的な例。まずは聴くこと。アーティスティックで粋なビ・バップ・ピアノが堪能できる。テクニックも確か、アーティスティックで洒脱なアドリブ展開が見事だ。加えて、演奏のアレンジが意外と洒落ている。黒人のコッテコテ、ファンキーなジャズとは対極にいるような、洒脱なビ・バップなフレーズ。なかなかの個性です。

 
 

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