2024年10月 2日 (水曜日)

向谷ならではのフュージョン盤

我が国を代表するクロスオーバー&フュージョン・バンドである「カシオペア」。結成時から1989年までの野呂一生・櫻井哲夫・向谷実・神保彰によるメンバーでの活動の第1期の中、常にカシオペアはグループとしての活動を優先した為、1985年〜1986年、当初から期間を厳格に定めてソロ活動を展開したが、そのソロ活動も各自のソロアルバムを制作するだけに留めている。

向谷実『Welcome To Minoru's Land』(写真左)。1985年の録音、1986年のリリース。ちなみにパーソネルは、向井実がただ一人。向谷が、YAMAHA KX88, YAMAHA DX7, TX816×2, RX11, QX1, グランド・ピアノ, ROLAND TR-707, SBX-80, KORG SUPER PERCUSSION,MINI MOOG,EMULATOR II などを担当し、一人多重録音で制作した、向谷のソロ・アルバム第一弾。

当時最新のシーケンサーとリズムマシンを組み合わせての一人多重録音のアルバム。これをクロスオーバー&フュージョン・ジャズの範疇の音楽と認識した良いか、という議論があったが、採用されたリズム&ビートは、打ち込みであれ、ジャズを基本としたものなので、クロスオーバー&フュージョン・ジャズの範疇として、僕は取り扱っている。
 

Welcome-to-minorus-land

 
ややもすれば、カシオペア・サウンドの中で埋もれがちだった、向谷の持つ音楽性とキーボード・テクニックの高さ、そして、シンセサイザー及びシーケンサー、リズムマシンに対する理解度と応用力の高さが、音となって示された、ユニークなソロ・アルバム。当時の電気楽器は、デジタルに対応したばかりで音が薄く、無機質な音質傾向にあったが、その弱点を克服する多重録音のテクニックと、木琴やピアニカ等の楽器を活用し、アナログ的な温かみを感じさせる工夫は見事である。

カシオペアの音世界の雰囲気を漂わせつつ、カシオペア・サウンドよりもポップでシンプルで柔軟な音とフレーズで、向谷独自のサウンドを展開している。2曲目の「ASIA」では、東南アジアをメインとした各国の音をサンプリングして、多重録音で音のコラージュを聴かせてくれる。3曲目の「Take The SL Train」は、鉄道ファンである向谷の面目躍如的な名演で、SLの音をサンプリングして、走行時のレールのつなぎ目音をリズムの基本にした音作りには思わず「ニンマリ」。

サンバ・フュージョンの「Road Rhythm」、アンビエントな「Kakei」、向谷と二人の子供達の会話を交えた、ほんわかアットホームでポップなフュージョン曲「Family Land」。一人多重録音で、ポップでシンプルで柔軟な向谷独自のサウンドに彩られた演奏が聴いていて、とても楽しい。向谷ならではのユニークなクロスオーバー&フュージョンの好盤だと思います。
 
 

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  ・『AirPlay』(ロマンチック) 1980

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2024年9月30日 (月曜日)

増尾好秋 ”Sunshine Avenue”

フュージョン・ジャズ全盛時代の1970年代後半、増尾好秋の『Sailing Wonder』、『Sunshine Avenue』、『Good Morning』の3枚のアルバムは、勝手に「増尾好秋のフュージョン3部作」と呼んで愛聴していた。机に向かって勉強するにも、麻雀するにも、いきつけの喫茶店で寛ぐにも、この「増尾好秋のフュージョン3部作」をヘビロテにしていた時期があった。

増尾好秋『Sunshine Avenue』(写真)。1979年の作品。ちなみにパーソネルは、Yoshiaki Masuo (el-g, ac-g, solina, perc), Victor Bruce Godsey (ac-p, el-p, clavinet, vo), T.M.Stevens (el-b, piccolo bass), Robbie Gonzales (ds), Charles Talerant (perc), Papo "Conga" Puerto (congas), Jorge Dalto (ac-p), Shirley Masuo (perc), Michael Chimes (harmonica)。

前作『Sailing Wonder』が、クロスオーバー&ジャズロック志向の素敵なアルバムだった。そして、次作『Good Morning』は、フュージョン・ジャズに傾倒した名盤だった。この間に位置する『Sunshine Avenue』は、増尾好秋の考える「ジャズ・ファンク、ジャズロック、R&B志向のフュージョン」が、ごった煮に収録されている。

ボーカル入りの演奏もあったりして、とっ散らかった雰囲気もあるのだが、増尾のギターの音色、フレーズに一貫性があって、この増尾のギターが、とっ散らかし気味の音志向の中で一本筋を通していて、この増尾のギター一本で、アルバム全体の統一感を司っているのだから、増尾のギターは、決して「隅におけない」。
 

Sunshine-avenue 

 
バックのメンバーは、『Sailing Wonder』の様な、フュージョン・ジャズの名うての名手達を集った、オールスターの「一過性」のセッション・メンバーでは無く、バンド・メンバーとして、一定期間、恒常的に活動し、共にバンド・サウンドを育み、バンド・サウンドを成熟させるメンバーを厳選した様である。

この『Sunshine Avenue』でのバンド・メンバー、T.M.スティーヴンス (b)、ヴィクター・ブルース (key)、ロビー・ゴンザレス (ds)、シャーリー増尾 (perc) は、次作『Good Morning』に、ほぼ継続されている。

VictorI Bruce Godsey (ac-p, el-p), T.M. Stevens (el-b, piccolo-b),Robbie Gonzales (ds, congas), Shirley Masud (perc), Dele (hammond-org), Margaret Ross (harp), Josan (back-vo)。

この厳選したバンド・メンバーで、当時のエレ・ジャズのトレンドであった「ジャズ・ファンク、ジャズロック、R&B志向のフュージョン」をやってみた、というのが、このアルバムの内容では無いだろうか。ちなみに、この『Sunshine Avenue』で培ったフュージョン・ジャズな音志向を、次作『Good Morning』にしっかり引き継いでいる。

興味深いのNY録音で、NYのメンバー中心の演奏なんだが、出てくる増尾好秋の考える「ジャズ・ファンク、ジャズロック、R&B志向のフュージョン」は、どれもが、ファンクネスは限りなくライト、歌心が溢れまくる流麗でキャッチャーなメロディー、軽めのオフビートとグルーヴなど、和フュージョン・ジャズの個性と特徴をしっかりと押さえていること。増尾のプロデュース力が、この盤でも存分に発揮されていて立派だ。
 
 

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2024年8月28日 (水曜日)

増尾好秋 ”Sailing Wonder”

増尾好秋。 1946年10月12日生まれ。今年で78歳。我が国の和フュージョンの代表的ギタリストの一人。渡辺貞夫に認められ、1968年から1971年まで、渡辺貞夫のグループに在籍。1971年に渡米。1973年から1976年までソニー・ロリンズのバンドに在籍したのは有名。

1980年代なかばから2008年まで、ニューヨークのソーホー地区に本格的なレコーディングスタジオ The Studio を所有し、プロデューサーとしても活躍。2008年より演奏活動に完全復帰。2012年6月より、日本での本格的なバンド活動を再開している。

増尾好秋『Sailing Wonder』(写真左)。1978年の作品。ちなみにパーソネルは、増尾好秋 (g, synth, perc),Eric Gale (g), Dave Grusin (synth), Richard Tee(p, org, key), Mike Nock (synth), Gordon Edwards (b), T.M. Stevens (b), Steve Gadd (ds), Howard King (ds), Al Mack (ds), Bachiri (perc), Warren Smith (perc), Shirley Masuo (vo), Judy Anton (vo)。

先に3枚のリーダー作をリリースしているが、この盤は実質上の増尾の初リーダー作と捉えても差し支えないだろう。キングレコード傘下のフュージョン・レーベル、エレクトリック・バードの第一弾アーティストとして契約しての、エレクトリック・バードとしての第1作。

当時、NYに在住していたこともあって、いやはや、錚々たるパーソネル。NYのクロスオーバー&フュージョン・ジャズの「名うて」のミュージシャン達が大集合といった風情である。これだけの「一国一城」的な一流ミュージシャンを集めると、意外とそれぞれ「我が出る」のだが、そうなっていないところが素晴らしい。
 

Sailing_wonder1

 
タイトルやジャケから想起される様に、「海」をテーマにコンセプト・アルバムである。が、それを意識させないくらい、収録された個々の演奏が素晴らしい。曲調もさまざまな増尾のオリジナル曲がメインで、増尾の作曲能力の高さとアレンジのアイデアの豊かさが感じ取れる。

クロスオーバー&フュージョン志向のエレ・ジャズだが、1曲目のタイトル曲「Sailing Wonder」だけ、フュージョンっぽい演奏だが、2局目以降は、どちらかといえば、クロスオーバー・ジャズな音志向が強い。クロスオーバー&ジャズロックとして良いかもしれない。

バンド全体、完成度の高い演奏で、聴いていて、とても清々しい気分になれる。躍動感と爽快感が半端ない。伝説のフュージョン・バンド「スタッフ」からもメンバー参加もあって、アルバム全体に、そこはかとないファンキーなグルーヴ感が漂うところもグッド。フュージョン者の我々からすると「たまらない」。

増尾好秋のギター・テクそのもの、作曲&アレンジの才能など、増尾好秋が持つ「個性と才能」の全てが感じ取れる、「増尾好秋のショーケース」の翼な優れた内容。増尾好秋の代表作の一枚です。

2015年6月23日のブログ記事「増尾好秋のフュージョン名盤」を全面的に改稿しました。
 
 

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2023年5月 5日 (金曜日)

懐かしの『Grand Cross』です

最近、Electric Birdレーベルのアルバムを漁っては聴いている。1970年代後半にキングレコードが立ち上げた、純国産のフュージョン専門レーベル。目標は「世界に通用するフュージョン・レーベル」。ちょうど、フュージョン・ブームのピークに近い時期に立ち上げられたレーベルで、リアルタイムで聴いてきたフュージョン者の我々としては、とっても懐かしいレーベルである。

David Matthews『Grand Cross』(写真)。1981年の作品。Electric Birdレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、David Matthews (el-p, arr), Michael Brecker (ts), David Sanborn (as), Randy Brecker (tp, flh), John Tropea, Larry Carlton (el-g), Cliff Carter (el-p. syn), Marcus Miller (b), Steve Gadd (ds), Sammy Figueroa (perc)。プロデューサーも、デイヴィッド・マシューズが担当している。当時のフュージョン畑の一流ミュージシャンが一堂に会したオールスター・セッションの様な内容。

冒頭のタイトル曲「Grand Cross」のイントロから凄い。一糸乱れぬ、スピード感溢れる、高テクニックなユニゾン&ハーモニー。そして、アドリブ展開部に入って、疾走感溢れる切れ味の良い、サンボーンのアルト、マイケル・ブレッカーのテナー、そして、ランディ・ブレッカーのトランペット。ファンクネス度濃厚なジャズ・ファンク。う〜む、これは「ブレッカー・ブラザース」の音。否、ブレッカー・ブラザースより重厚で爽快。

そして、マーカス・ミラーのベース、ガッドのドラムの重量級リズム隊がガンガンに、ファンキーなリズム&ビートを供給する。この冒頭の1曲だけでも、この盤は楽しめる。こんなに濃密な内容のジャズ・ファンクは、そうそう聴くことは出来ない。マシューズのプロデュース、恐るべし、である。マシューズのキーボードもファンク度が高い。
 

David-matthewsgrand-cross

 
この盤、レゲエ〜ラテン〜アフロなフュージョン・サウンドが楽しいのだが、特に、レゲエを基調とした楽曲が3曲ほどあって、これが良いアレンジ、良い演奏で楽しめる。当時、流行のビート「レゲエ」。

2拍子のユッタリしたレゲエのオフビートは、演奏力が低いと冗長、冗漫になって、間延びした聴くに堪えない演奏になったりするのだが、さすがにこの当時のフュージョン畑の一流ミュージシャン面々、絶対にそうはならないところが凄い。特に、リアルタイムでこの盤を聴いていた僕達にとっては、このレゲエ調の楽曲って馴染みが深くて懐かしい。

カールトンとトロペイのエレギが良い音を出している。特に、レゲエ調の曲でのカッティングや、ジャズ・ファンク調の曲でのファンクネス溢れるソロなど、惚れ惚れする。カールトンもトロペイもフレーズを聴けば、すぐにそれと判る個性的な弾きっぷりで勝負しているところが実に高感度アップである。ほんと良い音だすよね。

デヴィッド・マシューズのアレンジ優秀、プロデュース優秀。これだけのメンバーを集めて、単なるオールスター・セッションにならずに、演奏の志向をきっちり共有化して、まるでパーマネント・グループの様なサウンド志向の統一感と演奏の一体感が発揮しているのは、やはりマシューズの統率力の「たまもの」だろう。

和製のフュージョン・ジャズとしての優秀盤、エレクトリック・バードの代表盤として、この盤は外せない。とにかく「痛快」な内容である。
 
 

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2023年4月29日 (土曜日)

本多の『Easy Breathing』再び

和フュージョンの専門レーベルとして有名なのは「ERECTRIC BIRD(エレクトリック・バード)」。世界に通用するフュージョン・レーベルを目標に、1970年代後半にキングレコードが立ち上げた、フュージョン専門レーベルである。この専門レーベルが持つ和フュージョンの音源が続々とリイシューされている。これが、僕にとっては実に懐かしいリイシューとなっている。

Toshiyuki Honda(本多俊之)『Easy Breathing』(写真)。1979年9-10月の録音。1980年、ERECTRIC BIRDからのリリース。ちなみにパーソネルは、本多俊之 (sax), 和田アキラ (el-g), 大徳俊幸 (key), 渡辺健 (el-b), 奥平真吾 (ds)。Seawindの Jerry Hey (tp, Flh), Larry Hall (tp, Flh), Bill Reichenbach (tb), Larry Williams (ts, fl, ac-p), Kim Hutchcroft (ts, bs), いわゆる「シーウィンド・ホーン・セッション」と、Paulinho Da Costa (perc)がゲスト参加。

帯紙のコピーを見れば「耳を澄ましてごらん。L.A.のそよ風が歌ってる。俊之とシーウィンドの友情溢れる再会セッション」とある。前半の「耳を澄ましてごらん〜」は思わず歯が浮くような、気恥ずかしいキャッチコピーだが、後半の「シーウィンドの...再会セッション」には思わず目を見張る。そうか、バックのブラスの充実度が高いのは、シーウィンド・ホーン・セッションのメンバーがバックアップしているからか、と納得。
 

Toshiyuki-hondaeasy-breathing

 
帯紙のコピーは続く。「アドリブ誌選出「日本のクロスオーバー・ベスト・レコード」2年連続受賞に輝く、サックスの俊英、待望の第3作!」。そう、この盤は、本多俊之のリーダー作『Barning Wave』『Opa! Com Deus』に次ぐリーダー作第3弾であった。本多俊之が初めて自身のバンド、自身のアレンジでL.A.レコーディングに臨んでいる。

当時の和フュージョン盤らしい曲揃えで、「あるある」のブラジリアン・フュージョンの2曲目「Samba Street」、乾いたグルーヴ感が心地良く浮遊感漂う3曲目「Loving You Slowly」、和フュージョンぽくて格好良いタイトル曲の5曲目「Easy Breathing」、ジャズ・ファンクの6曲目「Living In The City」は、メロウでドープなフレーズが粋。和フュージョン盤の傑作として、なかなか魅力的な演奏が詰まっていて楽しい。

海外のクラブシーンでも評価の高い本多俊之だが、このリーダー第3作目の『Easy Breathing』も聴き直してみて、なかなかの傑作だと思う。どうも、以前より、我が国ではフュージョン・ジャズが未だに正統に評価されないところがあるのだが、最近の和フュージョンの名盤・好盤の相次ぐリイシューで、そろそろ再評価の機運が高まってくるのかもしれない。
 
 

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