ユッコ・ミラー『Ambivalent』
ユッコ・ミラー。我が国の若手女子の実力派サックス奏者。エリック・マリエンサル、川嶋哲郎、河田健に師事。19歳でプロデビュー。 2016年9月、キングレコードからファーストアルバム「YUCCO MILLER」を発表し、メジャーデビュー。「サックスYouTuber」としても爆発的な人気を誇る。
そんなユッコ・ミラーのサックスがお気に入りである。特に、ながら聴きのフュージョン系ジャズとしていい感じ。ユッコ・ミラー自身のアルト・サックスの音がとても良い。アクがなく、すっと素直に伸びで、変に捻ることなく、ストレートにフレーズを紡ぐ。音は明るく軽くブリリアント。テクニックは確か。印象にしっかり残るが、決して耳障りではない。
ユッコ・ミラー『Ambivalent』(写真)。2023年11月のリリース。ちなみにパーソネルは、ユッコ・ミラー (as, vo, bs), 曽根麻央 (p, key, tp), 馬場桜佑 (tb)、中村裕希 (b)、山内陽一朗 (ds)。ユッコ・ミラーの6枚目のリーダー作になる。収録曲を見渡すと、まず、チャレンジングなカバー曲が目を引く。
4曲目の「KICK BACK」は、米津玄師の手になるアニメのテーマ曲。バリバリ、シャウト系ハードロックっぽいボーカル曲なんだが、この原曲の持つ雰囲気を上手くアルト・サックスで再現している。トロンボーンとトランペットとサックスというブラス・セクションが大活躍。曲の旋律をなぞるだけではない、原曲のコード進行を拝借して、正統派ジャズのごとく、しっかりとしたアドリブを展開する。
もう一曲は、7曲目の「可愛くてごめん」。日本のクリエイターユニット・HoneyWorksの楽曲。TVアニメ『ヒロインたるもの!〜嫌われヒロインと内緒のお仕事〜』のキャラクターソング。これまた、今年大流行りのJ-Pop曲を曲想に合った「可愛らしい」アレンジでガンガン、ジャズしている。しかも、アドリブ部は「可愛くない」アレンジ(笑)。うむむ、ユッコ・ミラー恐るべし、である。
正統派フュージョン・ジャズの楽曲っぽい、5曲目の「Morning Breeze」 は、MBSお天気部秋のテーマ曲。そして、ソフト&メロウなフュージョン・ジャズにおける代表的名曲、グローヴァー・ワシントン・ジュニア & ビル・ウィザースの「Just the Two of Us(クリスタルの恋人たち)」をカヴァっている。これがまた、コッテコテのソフト&メロウなアレンジで「攻めに攻める」。
ユッコ・ミラーの素晴らしいところは、この様な、フュージョン・ジャズ全盛期の名曲や、J-Pop系のアニメ関連の主題歌やキャラクターソングといった「チャレンジングなカバー曲」を、ラウンジ・ジャズっぽく、楽曲の持つ有名な旋律をなぞるだけでなく、それぞれの曲が持つコード進行を拝借して、しっかりと即興演奏っぽく、正統派ジャズっぽいアドリブを展開するところ。
そういう「意欲的」なところが全面に押し出されているからこそ、ユッコ・ミラーのアルバムは決して「ラウンジ・ジャズ」にはならない。どころか、バックの優秀なリズム隊の、切れ味の良い、躍動感あふれるリズム&ビートを得て、高度な内容の「現代のフュージョン・ジャズ」を展開している。そう、聴き手やレコード会社に迎合することなく、しっかり「ジャズ」しているところが凄い。
ユッコ・ミラーが、雑誌インタビューで「すごく幅広いし、それが面白いし、まったく飽きないアルバムになりました」と語っているが、全くその通りだと思う。ユッコ・ミラーの自作曲も内容充実。
チャレンジングなカバー曲と相まって、とてもバラエティーに富んだ、表情豊かな、実に人間っぽいアルバムに仕上がっている。アルバム・タイトルの「Ambivalent」は言い得て妙。ながら聴きに最適な「爽やかな」内容の好盤です。
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