2023年9月22日 (金曜日)

ザイトリンのソロ・ピアノ集

この3日間、中京地区に逗留していた訳だが、往き帰りの新幹線の中は、またとない「ジャズ盤傾聴」の機会。意外と新幹線の車内は静かで、ジャズ盤がしっかり聴き込むことが出来る。今回もソロピアノを中心に聴き込んだのだが、これがまたなかなか内容のある盤ばかりでご満悦である。

デニー・ザイトリン(Denny Zeitlin)は、「医師とジャズ・ピアニスト」という二足の草鞋を履く異色の人物。しかも、医師は医師でも精神科医。本業である精神科医の仕事をこなす傍ら、プロのピアニストとしての活動も続けてきた「異色中の異色なジャズ・ピアニスト」である。

Denny Zeitlin『Crazy Rhythms・Exploring George Gershwin』(写真左)。2018年12月7日「Piedmont Piano Company, Oakland」での録音。ちなみにパーソネルは、Denny Zeitlin (p) のみ。「異色中の異色なジャズ・ピアニスト」であるデニー・ザイトリンのソロ・ピアノのライヴ録音。現時点でのザイトリンの最新作になる。

ザイトリンは、この2018年に開かれたコンサートでアメリカの偉大な作曲家「ジョージ・ガーシュイン」のトリビュートとして、このソロ・ピアノのライヴ盤を録音している。が、このソロ・ピアノのパフォーマンス、ザイトリンのピアノの個性が手に取るように判るパフォーマンスがしっかり記録されていて、ザイトリンの個性を確認するのに最適なライヴ盤になっている。
 

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前のブログで「ザイトリンのピアノは、ビル・エヴァンスのピアノから、翳りを除いて硬質で明快なタッチに置き換えた様な、明るい弾き回し。しかし、音の重ね方やヴォイシングはエヴァンスより複雑で個性的」と書いたが、このザイトリンのピアノの特徴が、このソロ・ピアノのライブ盤でとても良く判るのだ。

冒頭の「Summertime」。この手垢の付いた「超スタンダード」な楽曲なのだが、冒頭の弾き回しを聴いていると「あれ、ビル・エヴァンスかな」と思うんだが、聴き進めると、まず音の重ね方が違う。エヴァンスよりも複雑で陰影が濃い。そして、タッチが違う。ザイトリンの方が硬質で調高速な弾き回しに破綻が無い。そもそも、ビル・エヴァンスは、こんな超高速な弾き回しはしない。そして、ヴォイシングが違う。そもそも音の選び方が、聴いて直ぐ判るくらいに違う。

加えて、アレンジが秀逸。演奏されるどの曲もひと味もふた味も違うアレンジが施されているのだが、特に「The Man I Love」など、今までの「The Man I Love」のアレンジはしっとりとしたバラード調のものばかりだったが、ザイトリンのアレンジは、アグレッシブでスクエア。まるで流麗な「モンク」が弾き進めている様な音作り。この辺が、ザイトリンのアレンジの個性的なところである。

全編聴き通すと、確かに「エヴァンス派」と呼べなくはないのだが、弾き回しのニュアンスが似通っているだけで、後は皆、違う個性なのだから、ザイトリン独特の個性として認めても良いのでは無いか、と思う。それほど、このライヴ盤ではザイトリンの個性が際立っている。
 
 

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  ・四人囃子の『Golden Picnics
 

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2023年9月19日 (火曜日)

デニー・ザイトリンの2nd.盤。

我が国では、余り人気が無いのだが、好きな人はトコトン好きな、いわゆる「マニア好み」「玄人好み」のピアニストが幾人かいる。そんなピアニストの1人が「デニー・ザイトリン(Denny Zeitlin)」。

僕はこの「デニー・ザイトリン」のピアノがお気に入りで、時々、思い出しては聴いている。聴くと「やっぱりええなあ、ザイトリンのピアノ」となる訳で、今でも、ザイトリンのリーダー作が出る度に、ダウンロードしては聴いている。

Denny Zeitlin『Carnival』(写真左)。1964年10月の録音。ちなみにパーソネルは、Denny Zeitlin (p), Charlie Haden (b),  Jerry Granelli (ds)。ビル・エヴァンスやセロニアス・モンクからも絶賛されたという、隠れた名ピアニスト、デニー・ザイトリンのセカンド盤である。

ザイトリンのピアノは、ビル・エヴァンスのピアノから、翳りを除いて硬質で明快なタッチに置き換えた様な、明るい弾き回し。しかし、音の重ね方やヴォイシングはエヴァンスより複雑で個性的。ザイトリンのピアノは一言で「エヴァンス派」で片付けられていたが、聴けば直ぐ判るのだが、エヴァンスのピアノとは個性の部分で根本的に違う。
 

Denny-zeitlincarnival

 
ピアノの基本はモード。ハードバップな弾き回しにも長けており、とても素姓の良いジャズ・ピアノである。アップテンポの曲は迫力満点の弾き回し。バラードはエヴァンスに習っているが、先にも書いたが、音の重ね方やヴォイシングが全く異なる。スタンダード曲については、その解釈がユニークで、アレンジが個性的。

デビュー盤では「適度に端正で、適度にアブストラクトで、適度にモーダルなピアノ」だったが、それを少し修正して、聴き易さを優先している。逆にそれが功を奏して、このセカンド盤はリラックスして楽しく聴ける内容になっている。それでいて、要所要所でザイトリンの個性はシッカリ「爪痕を残している」のだから、それはそれで立派ある。

ザイトリンは1938年生まれ。今年で85歳。まだまだ現役で、最近、またまたリーダー作をリリースしたと聞く。このセカンド盤は、ザイトリンが26歳の時の録音。若さに溢れるキラキラ明るい、それでいてどこか複雑な、個性的なピアノが聴ける。良いピアノ・トリオ盤です。
 
 

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2022年4月 9日 (土曜日)

コンテンポラリーなデュオ演奏

Denny Zeitlin(デニー・ザイトリン)。「医師とジャズ・ピアニスト」という二足の草鞋を履く異色の人物。しかも、医師は医師でも精神科医。これは異色中の異色な存在。本業である精神科医の仕事をこなす傍ら、プロのピアニストとしての活動も続けてきたザイトリン。しかも双方の仕事において、それぞれ一流の域に達していたと言うのだから凄い。ザイトリンは1938年の生まれ。今年で84歳になる。もはやベテラン中のベテラン、伝説の域である。

ザイトリンのタッチは深く、しっかりと端正に弾きまくる様はエバンス・ライクな個性なんだが、アドリブ・フレーズが全く異なる。アドリブ・フレーズが流麗では無いというかメロディアスでは無い。ザイトリンのアドリブ・フレーズはゴツゴツしていて変幻自在。柔軟性が高く、幾何学模様の様なカクカクしたフレーズ。セロニアス・モンクの様な、ちょっとアウトドライブする突飛なフレーズ。エバンスのアドリブ・フレーズは流麗だが、ザイトリンのアドリブ・フレーズは幾何学模様。

Denny Zeitlin & George Marsh『Telepathy』(写真左)。2021年8月のリリース。ちなみにパーソネルは、Denny Zeitlin(p, hardware & virtual, synth, key), George Marsh(ds, perc)。ザイトリンとマーシュのデュオ演奏。そんなデュオ演奏について、2014年〜2019年に録音された音源を集めた盤。2人が共演した「The Moment (2015) 」『Expedition (2017)』に続く3作目のアルバムになる。
 

Telepathy_denny-zeitlin-george-marsh

 
パーカッションやドラムセット、アコースティック・ピアノや多くのキーボード、シンセサイザー、コンピューター等の電子機器を使用した、コンテンポラリーな「ニュー・ジャズ」志向のデュオ演奏は、新しい響き、新鮮な響きが満載。アコースティックに拘らない、21世紀の現時点での「楽器」を駆使した、新しい響きのデュオ演奏は聴き応えがある。アルバムの宣伝キャッチには「即興エレクトロ・ミュージック」とあるが、確かに「言い得て妙」である。

電子楽器を駆使した即興デュオが素晴らしい。特に、マーシュのドラム&パーカッションがデュオ演奏のリズム&ビートを積極的にコントロールしている。そのリズム&ビートの上をザイトリンのキーボードが様々な表現をもって即興展開する。アドリブ・フレーズが幾何学模様に展開するところなどは圧巻ですらある。シンセサイザーをはじめとするキーボード系の電子楽器が、これほどの表現力を持っているとは、改めて感心した。ザイトリンの電子楽器に関する理解力が相当に深いのだろう。

緩んだところや冗長なところが全く無い、適度にテンションを張った、切れ味の良い即興デュオ演奏である。スピード感も適度にあって、収録曲14曲があっという間。デュオ演奏なので、お互いに出す技やフレーズが枯渇して、曲が進むにつれ、マンネリに陥ることがあるが、このデュオ演奏にはそれが全く無い。イマージネーション豊かで多彩な技を備えた極上のデュオ演奏である。
 
 

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  ・『AirPlay』(ロマンチック) 1980

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  ・遠い昔、懐かしの『地底探検』

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  ・四人囃子の『Golden Picnics』

 
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2021年2月 8日 (月曜日)

ザイトリン、80歳過ぎてなお盛ん

Denny Zeitlin(デニー・ザイトリン)が元気だ。「精神科医とジャズピアニスト」という二足の草鞋を履く異色のジャズマン。本業である精神科医の仕事をこなす傍ら、プロのピアニストとしての活動も続けてきたザイトリン。しかも双方の仕事において、それぞれ一流の域に達していたと言うのだから凄い。

Denny Zeitlin『Live At Mezzrow』(写真左)。2019年3月3ー4日、NYのGreenwich Villageにあるクラブ「Mezzrow」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Denny Zeitlin (p), Buster Williams (b), Matt Wilson (ds)。ピアノのザイトリンをリーダーとした「ピアノ・トリオ」盤である。リリースは昨年の5月。ザイトリンは1938年生まれなので、82歳での録音になる。

タッチは深く、しっかりと端正に弾きまくる様はエヴァンス・ライクな個性なんだが、フレーズの作りが異なる。流麗というよりドライブ感豊か。フレーズはゴツゴツしていて変幻自在。柔軟性が高く、幾何学模様の様なカクカクした、セロニアス・モンクの様なちょっと突飛なフレーズ。エヴァンスのフレーズは流麗だが、ザイトリンのフレーズはドライブ感溢れる幾何学模様。
 
 
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とても82歳のパフォーマンスとは思えない、エネルギッシュな弾き回しにちょっとビックリ。現代の新しいバップ・ピアノを聴くようだ。タッチは硬質で溌剌としていていて明確。左手はハンマー奏法の様に低音を「ガーン、ゴーン」とは弾かない。右手のドライブ感をサポートする、低音を活かした躍動感溢れるベースラインは見事。何度も言うが、これが82歳のパフォーマンスとは思えない。

ドライブ感は豊かだが、追い立てられるような切迫感は皆無。少しだけユッタリと「間」を活かした、ほどよい余裕のある弾き回しが適度なグルーヴを生み出している。弾き回しは正統派でモーダルなハードバップだが、要所要所でユニークで典雅な和音が飛び交い、アブストラクトなアプローチが飛び出してくる。ザイトリンのピアノの個性全開の弾き回しに思わずニンマリする。

ウィリアムスのベースとウィルソンのドラムのリズム隊も、このザイトリンの「現代の新しいバップ・ピアノ」にしっかりと追従し、しっかりとサポートしていて立派だ。そう言えば、2018年の作品『Wishing On the Moon』(2018年6月18日のブログ参照)も良い出来だった。ザイトリン、80歳過ぎてなお盛ん、である。
 
 
 

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  ・『The More Things Change』1980

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  ・The Band『Stage Fright』

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  ・僕達は「タツロー」を聴き込んだ
 

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2020年8月19日 (水曜日)

ジャズ喫茶で流したい・184

ライブラリを眺めていて、久し振りにこのピアニストの名前に出くわした。Denny Zeitlin(デニー・ザイトリン)。「医師とジャズピアニスト」という二足の草鞋を履く異色の人物。医師は医師でも精神科医。これは異色も異色、大異色である。

ザイトリンは1938年の生まれ。今年で82歳になる。もう大ベテランというか、レジェンドの域である。本業である精神科医の仕事をこなす傍ら、プロのピアニストとしての活動も続けてきたザイトリン。しかも双方の仕事において、それぞれ一流の域に達していたと言うのだから凄い。

Denny Zeitlin & Charlie Haden『Time Remembers One Time Once』(写真)。1981年7月、サンフランシスコのライブハウス「Keystone Korner」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Denny Zeitlin (p), Charlie Haden (b)。

ジャケットを見ながら、どこのレーベルからのリリースかしら、と思って調べてみたら、なんとECMレーベルからのリリースである。もちろん、プロデューサーは Manfred Eicher(マンフレッド・アイヒヤー)。

ザイトリンがECMレーベルからアルバムをリリースしていたことは全く知らなかった。実はこのライヴ盤を聴く前、どのレーベルからのリリースか全く知らず、ジャケットを見ても判らず、ザイトリンのピアノの音を聴いていて、なんだかECMレーベルっぽい音やなあ、とボンヤリ思っていた次第。ピアノにかかっているエコーがECMらしいのだ。ザイトリンのピアノをグッと引き立てている。
 
  
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ザイトリンのピアノは耽美的でリリカル。タッチは硬質で明確、フレーズはちょっとクラシックっぽい。ファンクネスは皆無、どちらかと言えば、欧州的なピアノである。ビル・エヴァンスを欧州風にした様な感じ、とでも形容したら良いか。流麗でエッジの効いた聴き味満点のジャズ・ピアノである。

そんなザイトリンのピアノに絡むヘイデンのベース。このヘイデンのベースが素晴らしい。ソロでも唄うが如く、流麗で力強い骨太のベースが鳴り響くのだが、そんなヘイデンのベースがザイトリンのピアノに絡むと、これまた素晴らしい、硬軟自在、濃淡自在、緩急自在のインタープレイが展開される。

ヘイデンのベースはどちらかと言えば、前に前に出る、主張するベースなのに、決して、ザイトリンのピアノの邪魔にならない。どころか、ピアノのフレーズの良さを増幅している。ザイトリンの紡ぎ出すフレーズを明確に浮き立たせている様だ。デュオの達人、チャーリー・ヘイデンの面目躍如。

ジャズ盤紹介本やジャズ雑誌で採り上げられたことは滅多に無いデュオ盤ですが、これがまあ、素晴らしい内容です。ザイトリンとヘイデン、相性バッチリです。そんなザイトリンとヘイデンの「一期一会」なデュオ演奏。ECMレーベルからのリリースということもあって、とても硬派な、そして欧州的な純ジャズ盤に仕上がっています。お勧めの好盤です。
 
 
 

《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館》の更新状況
 

 ★ AORの風に吹かれて    【更新しました】 2020.08.04 更新。

  ・『Your World and My World』 1981

 ★ まだまだロックキッズ     【更新しました】 2020.08.04 更新。

  ・『Music From Big Pink』

 ★ 松和の「青春のかけら達」 【更新しました】 2020.08.04 更新。

  ・太田裕美『Feelin’ Summer』



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2018年6月18日 (月曜日)

ザイトリン80歳のトリオ好盤

ジャズの新盤を眺めていて、1960年代から活躍する大ベテランのジャズメンの名前を見つけるのが楽しみである。この5年ほど前から、どんどん鬼籍に入っていく「馴染みのベテラン・ジャズメン達」。長年、リアルタイムで彼らのパフォーマンスを感じてきただけに、寂しいことこの上無い。逆に、大ベテランのジャズメンの名前を見つけると、とっても嬉しくなる。

Denny Zeitlin『Wishing On the Moon』(写真左)。今年の5月のリリース。ちなみにパーソネルは、Denny Zeitlin (p), Buster Williams (b), Matt Wilson (ds)。2018年4月に80歳を迎えたベテラン・ピアニスト、デニー・ザイトリン(Denny Zeitlin)のリリシズム溢れる「入魂のピアノ・トリオ」。これが80歳の音か、とビックリのトリオ好盤。

デニー・ザイトリン。「医師とジャズピアニスト」という二足の草鞋を履く異色の人物。医師は医師でも精神科医。本業である精神科医の仕事をこなす傍ら、プロのピアニストとしての活動も続けてきたザイトリン。しかも双方の仕事において、それぞれ一流の域に達していたと言うのだから凄い。デビューした時から、そのピアノの響きとフレーズは新しい響きに満ちて、「新主流派」のトレンドを先取りした様な先進的なピアニストであった。 
 
 
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ピアノの響きはエバンス派と解釈されるが、和音とフレーズの響きは、エバンス派のそれとは全く異なる。和音の作りはセロニアス・モンクを端正にした様な、やや不協和音がかった個性的な和音。フレーズは、高速モーダル・ピアノ。エバンス派と解釈されつつ、ザイトリンの感覚は全く異質なピアノ。1960年代の新主流派のピアノであるが、ザイトリンのタッチは冷静であり、典雅であり、理知的である。

この盤でも、そんなザイトリンのピアノの個性はしっかりと確認出来る。というか、以前よりも洗練された、典雅な響きがより強調されている気がする。ベースにバスター・ウィリアムスの名が確認出来るのが嬉しい。このトリオは2001年以来、ずっと同じメンバーで活動を続けている。この盤を聴いて思うのは、このトリオは熟練の賜である、ということ。ザイトリンにとっても特別なトリオなんだろう。

このトリオ盤を聴いて、ザイトリンのピアノだと見破るジャズ者の方はまずいないでしょう。タッチが明確で瑞々しい分、それでいて、熟練の香りのするトリオ・パフォーマンスから、40〜50歳代の中堅ピアニストの演奏と感じて、それでいて、思いっきり新主流派のど真ん中を行くピアノに「誰だこれ」となること請け合い(笑)。ザイトリンのこれが80歳の音か、とビックリのトリオ好盤です。

 
 

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2014年10月31日 (金曜日)

ジャズ喫茶で流したい・58

Denny Zeitlin(デニー・ザイトリン)。「医師とジャズピアニスト」という二足の草鞋を履く異色の人物である。今週の月曜日のブログ(左をクリック)でご紹介したのはデビュー盤。そして、今日、ご紹介するのは今年の7月にリリースされた最新作。

その最新作とは、Denny Zeitlin『Stairway to the Stars』(写真左)。最新作とは言っても13年前、2001年11月、カルフォルニアでのライブ録音。ちなみにパーソネルは、Denny Zeitlin (p), Buster Williams (b), Matt Wilson (ds)。なかなかのベースとドラムを従えた、ベテランピアニストのザイトリンである。

ザイトリンはデビュー盤の時から、彼の個性は完成されていた。ジャズ・ピアノのハードバップからモーダルなピアノへの、そしてその先のコードとモードの効果的使い分けの1970年のネオ・ハードバップへの進化という、時代を先取りした響き。

和音の作りはセロニアス・モンクを端正にした様な、やや不協和音がかった個性的な和音。フレーズは高速モーダル・ピアノ。エバンス派と解釈されつつ、ザイトリンの感覚は全く異質なピアノ。

そのデビュー盤が1964年の録音だったから、それから37年経っての、このライブ盤『Stairway to the Stars』である。ザイトリンのタッチは冷静であり、典雅であり、理知的である。そんなタッチの個性は、37年経ってのこのライブ盤でも、遺憾なく発揮されている。
 

Zeitlin_stairway_to_the_stars

 
逆に、若き日、1964年の録音では時々顔を出していたアブストラクトな面は、今回のこの2001年のライブ盤では、綺麗さっぱり一掃されている。リリカルで豊かな響きのザイトリンのピアノは、エバンス派のピアニストという印象をより強くさせている。

それでも、やや不協和音がかった個性的な和音、フレーズは高速モーダルな展開については、ところどころ見え隠れするところが面白い。単純なエバンス派では無い。ちょっと捻くれたエバンス派である(笑)。

ザイトリンは、1938年米国シカゴ生まれなので、この『Stairway to the Stars』をライブ録音した時、既に還暦を過ぎた63歳である。枯れた味わいでは無いが、落ち着いた、冷静沈着かつ理知的なザイトリンのピアノは、若き日と比べて、ダイナミックでは無いにしろ、緩やかではあるが、しっかりと進化、変化している。

クリヤーで明確なタッチとスイング感がとても心地良い。21世紀のザイトリンの指針ともなるべき、佳作だと思います。録音も良く、ザイトリンの冷静であり、典雅であり、理知的なピアノが堪能出来ます。選曲もスタンダード曲が中心でとても聴き易く、親しみ易い。

2001年の録音と既に13年前の録音ではあるが、ザイトリンの晩年期の佳作としてお勧めです。上質なピアノ・トリオ盤としても、ジャズ者初心者の方々にもお勧め。ザイトリンを愛でるに格好の一枚です。
 
 
 
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2014年10月27日 (月曜日)

ジャズ喫茶で流したい・57

僕はこのピアニストが好きだ。昔から時々、何枚かのアルバムを引っ張り出して来ては聴く。基本的には寡作のピアニストである。

そのピアニストとは、Denny Zeitlin(デニー・ザイトリン)。「医師とジャズピアニスト」という二足の草鞋を履く異色の人物である。医師は医師でも精神科医。本業である精神科医の仕事をこなす傍ら、プロのピアニストとしての活動も続けてきたザイトリン。しかも双方の仕事において、それぞれ一流の域に達していたと言うのだから凄い。

そのザイトリン、デビューした時から、そのピアノの響きとフレーズは新しい響きに満ちて、「新主流派」のトレンドを先取りした様な先進的なピアニストであった。

ザイトリンのデビュー盤が、Denny Zeitlin『Cathexis』(写真左)。1964年2月と3月の録音。ちなみにパーソネルは、Denny Zeitlin (p), Cecil McBee (b), Frederick Waits (ds)。ザイトリンがリーダーを張る。ベースのセシル・マクビーは、当時、新鋭のベーシスト。フレデリック・ウエイツは・・・知らない(笑)。

ザイトリンはGeorge Russell門下。ピアノの響きはエバンス派と解釈されるが、和音とフレーズの響きは、エバンス派のそれとは全く異なる。和音の作りはセロニアス・モンクを端正にした様な、やや不協和音がかった個性的な和音。フレーズは、高速モーダル・ピアノ。エバンス派と解釈されつつ、ザイトリンの感覚は全く異質なピアノ。

当時、頭角を現していた新主流派、例えばハービー・ハンコックの様なピアノではありながら、ハービーと比べて、もっとアグレッシブで、もっと疾走感溢れる、もっと端正なフレーズが特徴。モーダルで高速フレーズとくれば、マッコイ・タイナーと同質かと想像するが、タッチは全く異なる。ザイトリンのタッチは冷静であり、典雅であり、理知的である。
 

Denny_zeitlin_cathexis

 
このデビュー盤『Cathexis』を聴けば、それが良く判る。1964年のデビュー盤でありながら、そのピアノの響きは先取性に溢れたもの。1964年当時のジャズピアノ・シーンで、恐らく、このザイトリンの個性は、当時のジャズピアノの先端の部分で、その響きは明らかに新しい。

ぼんやり聴いていると、この適度に端正で適度にアブストラクトで適度にモーダルなピアノは、1970年前半のECMレーベルのジャズピアノを先取りした様な、先取性溢れる新しい響きに満ちている。これがデビュー盤であることに驚く。

セシル・マクビーとフレデリック・ウエイツのリズム&ビートも新しい響き。このリズム・セクションが新しいビートをバンバン叩き出し、フレーズを取るピアノのザイトリンは更に新しい響きを付け加えていく

ジャズ・ピアノのハードバップからモーダルなピアノへの、そしてその先のコードとモードの効果的使い分けの1970年のネオ・ハードバップへの進化という、時代を先取りした響きに思わず驚く。

「Cathexis」とは対象にある感情や関心を注ぐこと、とのこと。精神科用語の様で、さすが精神科医との二足の草鞋を履くピアニストならではのタイトルの付け方。

この『Cathexis』を聴いていて、思わず「栴檀は双葉より芳し」という諺を思い出した。このデビュー盤の『Cathexis』で、ザイトリンの個性は完成していたのだ。
 
 
 
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2014年6月 2日 (月曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・41

Denny Zeitlin(デニー・ザイトリン)というピアニストがいる。「医師とジャズピアニスト」という二足の草鞋を履く異色の人物である。医師は医師でも精神科医。これは異色も異色、大異色である。

ザイトリンは1938年の生まれ。今年で76歳になる。もう人生の大ベテランである。本業である精神科医の仕事をこなす傍ら、プロのピアニストとしての活動も続けてきたザイトリン。しかも双方の仕事において、それぞれ一流の域に達していたと言うのだから凄い。

今を去ること35年前。僕が大学生の時、例の秘密の喫茶店で、そんなザイトリンに出会った。Denny Zeitlin『Live At The Trident』(写真左)というアルバムである。1965年3月、当時、レギュラー出演していたクラブ「トライデント」でのライブ録音。ちなみにパーソネルは、Denny Zeitlin (p), Charlie Haden (b), Jerry Granelli (ds)。 ベースの哲人チャーリー・ヘイデンが参加が目を惹く。

ザイトリンは「エヴァンス派のピアニスト」と評されるが、どうなんだろう。この『Live At The Trident』を聴く限り、エヴァンス派のピアニストとするには無理があるように思う。確かに、タッチは深く、しっかりと端正に弾きまくる様はエバンス・ライクな個性なんだが、アドリブ・フレーズが全く異なる。

アドリブ・フレーズが流麗では無いというかメロディアスでは無い。ザイトリンのアドリブ・フレーズはゴツゴツしていて変幻自在。柔軟性が高く、幾何学模様の様なカクカクしたフレーズ。セロニアス・モンクの様な、ちょっとアウトドライブする突飛なフレーズ。エバンスのアドリブ・フレーズは流麗だが、ザイトリンのアドリブ・フレーズは幾何学模様。
 

Denny_zeitlin_trident

 
なるほどなあ、と思う。このザイトリンのアドリブ・フレーズの個性は「ありそうで無い」。どっかで聴いたことがありそうな感じがするんだが、アドリブ・フレーズを少し聴き進めるだけで、これは「ワン・アンド・オンリー」なものだということが判る。とにかく、ザイトリンを「エヴァンス派のピアニスト」とするには無理がある。

選曲もちょっと変わっている。冒頭が、かのソニー・ロリンズの大傑作「St. Thomas」。この曲を白人のザイトリンがピアノ・トリオでやるなんて、ザイトリンとはかなり度胸のあるピアニストである。6曲目はフリー・ジャズの雄、オーネット・コールマンの名曲「Lonely Women」。この選曲だけでも変わっている。

「Carole's Waltz」や「Spur Of The Moment」「Where Does It Lead」など、ザイトリンの自作曲もなかなか良い。ザイトリンは自作曲においては、より伸び伸びと個性的なアドリブ・フレーズを繰り広げる。スタンダード曲も「My Shining Hour」や「What Is This Thing Called Love」など、ちょっと変わった選曲をしているところなどは、さすがザイトリンらしい。

バックにベースの哲人チャーリー・ヘイデンが控えているところもこのトリオ盤の魅力。野太く思索的なヘイデンのベースは、幾何学模様のザイトリンのアドリブ・フレーズとの相性は抜群。ジェリー・グラネリのドラムは堅実。ヘイデンの哲人ベースと共に、柔軟性が高い、幾何学模様の様なカクカクとしたザイトリンのフレーズをガッチリと支える。

何気なく聴いていて、じんわりと効いてくる、実に渋い玄人好みのピアノ・トリオ盤です。ありそうで無い、独特の個性を放つザイトリンのピアノ。全くスインギーじゃ無いし、ファンクネスとは無縁。それでもタッチは深く端正で、柔軟性が高く、幾何学模様の様なカクカクしたフレーズは、繰り返し聴くうちに「クセ」になる。不思議な魅力を持ったライブ盤である。
 
 
 
★大震災から3年2ヶ月。決して忘れない。まだ3年2ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、復興に協力し続ける。 

Never_giveup_4

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2009年6月 4日 (木曜日)

ジャズ喫茶で流したい・2

ちょっと捻りを効かせた、聴いているジャズ者の方々が、「これ、何て言うアルバム」って、ジャケットを見に来るような、そんなアルバムを、ジャズ喫茶では流したい。ジャズ者の皆さんが、買うのに躊躇う、手に入れるのに悩む、でも、実のところ、ジャズとしてなかなかの内容のアルバム。そんなアルバムを、ジャズ喫茶で流したい。

このアルバムも、もし僕がジャズ喫茶のマスターだったら、さりげなく流したいアルバムの一枚である。 Denny Zeitlin(デニー・ザイトリン)の『Tidal Wave』(写真左)。

Denny Zeitlin(デニー・ザイトリン)とは、1938年シカゴ生まれのピアニスト。大学時代は、なんと医学を専攻。並行して、作曲と音楽理論を学んだという、ジャズ界の知的エリート。流石に、リーダー・アルバムなどは僅少、かなり寡作なジャズ・ピアニストです。

でもって、そんな寡作な、精神科医と掛け持ちのジャズ・ピアニストが、なぜ、ジャズ者の世界の中で、名前を留め続けることが出来るのか。それは、彼の端正で硬質でダイナミックなピアノにある。

一聴した時は誰だか判らない。でも、聞き終えた後、何故か心に残る。これが、デニー・ザイトリンのピアノの特徴。何故だか詳しいことは判らないんだけどね。本当に、何故か心に残る、ザイトリンのピアノ。

そのザイトリンが、1983年に残したアルバム。パーソネルは、Charlie Haden (b), Denny Zeitlin (p), John Abercrombie (g), Peter Donald (ds)。特に、John Abercrombieとのコラボが素晴らしい。
 

Tidal_wave

 
唯一ソロによる演奏の「Billie's Bounce」で、ザイトリンのピアノの特徴が判る。端正で硬質でダイナミックなピアノ。加えて、ぎりぎりフリーキーな、それでいて、ジャズの伝統の範囲内にしっかりと留まった理知的な演奏。この知的、理知的という部分が、ザイトリンのピアノ最大の特徴。

John Abercrombieのギターは、エフェクトを「ガッツリ」効かせた、捻じれに捻れた、プログレッシブなジャズ・ギター。暴力的な感じではあるが、実は繊細なフレーズの積み重ねが実に素晴らしく、John Abercrombieって、こんなに機微を心得た、陰影、起伏溢れるギタリストだったのか、と感動を覚える位の素晴らしい演奏です。

その変幻自在、プログレッシブなギターを支える、ザイトリンの伝統的で端正で硬質でダイナミックなピアノ。加えて、Charlie Hadenのタイトで重量感のあるベースが支える。そして、Peter Donaldのフリーなドラミングが、他のメンバーの演奏により自由を与え続ける。

このアルバムって、相当水準が高いと思います。1983年、フュージョンの時代が去った、ジャズの「踊り場」の時代。そんな時代に、この高水準な純ジャズの存在。いや〜、ジャズって、本当に懐の深い音楽ジャンルだと、改めて感心することしきり。

こんなアルバムの演奏が、ジャズ喫茶のスピーカーから「さり気なく」流れている。そんな仮想のジャズ喫茶を想像するだけで、なんだかドキドキしてしまいます。もし、このアルバムの存在を知らない頃だったら、僕は、絶対にマスターに思わず訊きにいきますね。「あの〜、このアルバム、誰の何て言うアルバムですか?」。
 
 
 
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