2023年2月12日 (日曜日)

ベツレヘムのハードバップ名盤

ベツレヘム・レーベルの聴き直しをしていて、ハードバップのインスト盤がユニークで内容があって、隠れ名盤的なアルバムが意外とある。名盤は言い過ぎでも、ハードバップ時代の優秀盤レベルが、ベツレヘムのカタログの中の、ここかしこに転がっている。

Paul Quinichette & Charlie Rouse『The Chase Is On』(写真)。1957年8月29日、9月8日の録音。ベツレヘム・レーベル~のリリース。ちなみに、Charlie Rouse, Paul Quinichette (ts), Hank Jones (p, tracks 2 & 5), Wynton Kelly (p, tracks 1, 3, 4 & 6-8), Freddie Green (g, tracks 2 & 5), Wendell Marshall (b), Ed Thigpen (ds)。

ハードバップ時代の中でも意外と珍しい編成でのセッションの記録。チャーリー・ラウズとポール・クイニシェットのテナーがフロント2管、2曲にギターが入る、変則クインテット編成。このラウズとクイニシェットのテナー・バトルが「聴きもの」のハードバップ名盤である。

とにかく、ラウズとクイニシェットのテナーの音が良い。力強く骨太でダンディズム溢れるテナー。音が太くて大きくグイグイくる方がラウズ、ちょっと繊細さが見え隠れするストレートな方がクイニシェットかな。
 

Paul-quinichette-charlie-rousethe-chase-

 
タイトルにある様に、チェイス、そして、ユニゾン&ハーモニーが心地良い。お互いに相性が良くて、タイミングが合いやすいのだろう。そんな2人が渋いスタンダード曲を吹きまくる。悪かろうはずが無い。

バックのリズム・セクションも良い音を出している。ピアノは、端正なバップ・ピアノのハンク、流麗でファンキーなケリーを使い分け、マーシャルの堅実ベースとシグペンの職人ドラミング。

そして、カウント・ベイシー楽団のリズム・セクションの「オール・アメリカン・リズム・セクション」の最重要人物、フレディ・グリーンのギターが2曲に参入。こういった強者揃いの選りすぐりなリズム・セクションがバックに控える。当然、フロント2管は気兼ねなく溌剌と吹きまくる。

1957年のハードバップ成熟期に、ハードバップ初期の様なジャム・セッション風の演奏だが、演奏するメンバーが、ハードバップ期を生き抜いて来た強者ぞろいで、演奏内容は濃く、出てくる音は「絶品」。

少し柔らかだがしっかりと芯が入っていて、活き活きとした録音も魅力的。ベツレヘムのハードバップ盤は隅に置けないものばかりである。
 
 

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2023年2月11日 (土曜日)

ベツレヘムならではの企画盤

ベツレヘム・レーベルのハードバップなインストの優秀盤は、他のレーベルに比べて、ちょっとユニーク。米国東海岸ジャズと西海岸ジャズの要素がほどよく融合して、独特の雰囲気のハードバップが成立している。例えば、この企画盤に詰まってる音は、ベツレヘムならではの音作りになっていて、とても面白い。

『Winner's Circle』(写真)。1957年9月,10月の録音。ちなみにパーソネルは、以下の通り。

奇数曲(1957年9月録音)ー Art Farmer (tp), Rolf Kühn (cl), Eddie Costa (vib), Kenny Burrell (g), Oscar Pettiford (db), Ed Thigpen (ds)。

偶数曲(1957年9月録音)ー Donald Byrd (tp), Frank Rehak (tb), Gene Quill (as, 2.のみ), John Coltrane (ts), Al Cohn (bs), Eddie Costa (p), Freddie Green (g, 2.のみ), Oscar Pettiford (db), Ed Thigpen (ds, track:2 を除く), Philie Jo Jones (ds, track:2 only)。

Winner's Circle。競馬用語では「勝ち馬表彰式場」。直訳だと「勝者の輪」。この盤の制作経緯を読むと、ダウンビート誌が1957年に発表した批評家の投票結果を基にメンバー選定して録音に臨んだ企画盤とのこと。

ただし、各楽器毎の一位のジャズマンばかりが選ばれている訳では無い。この盤でその存在がクローズアップされるジョン・コルトレーンはテナー・サックス部門で2位。ベース部門では、オスカー・ペティフォードが1位。ペティフォードは全8曲に参加していて、この企画盤、ペティフォード名義でも良かったのでは、とも思う。

冒頭「Lazy Afternoon」の演奏を聴けば、米国西海岸ジャズか、と思うだろう。エディ・コスタの硬質で透明感溢れるヴァイブのフレーズが心地良い。アート・ファーマーもトランペットもリリカルで流麗。ケニー・バレルのギターは漆黒アーバンでファンキーな響き。アレンジもシンプルで秀逸。しっかりアレンジされた、聴かせるジャズ。米国西海岸ジャズの雰囲気濃厚である。
 

Winners-circle  

 
2曲目の「Not So Sleepy」は、フロント楽器の担当が東海岸のメンバーがメイン。でも、出てくる音は、どちらかと言えば、西海岸ジャズの雰囲気濃厚。お目当てのコルトレーンは、ゆったりしたミッドテンポに乗って、演奏の西海岸ジャズの雰囲気に似使わない、ゴツゴツとした硬いフレーズに終始する。

この盤でのコルトレーンは8曲中の4曲のみ参加、かつ、フロント4管構成の1つなので出番は極めて少ない。大凡は「普通の何の変哲も無いフレーズ」を吹いていく。この盤でのコルトレーンは発展途上と聴いた。聴きどころは殆ど無い。が、LP時代、日本のレコード会社は、この企画盤をコルトレーン名義として発売している。呆れた商業主義である(笑)。

それでも、コルトレーン以外のメンバーは、西海岸ジャズの雰囲気に乗って、情感豊かでリリカルなフレーズを紡ぎ上げている。演奏全体の雰囲気は良い。

以降、ラストの「Turtle Walk」まで、ミッドテンポが中心の、米国西海岸ジャズの雰囲気濃厚な演奏が続く。演奏自体はハードバップ。アレンジ良し演奏良し、聴かせるジャズ、聴いて楽しいジャズが小粋に展開されている。

「Winner's Circle(勝者の輪)」なんてタイトルが付いているので、批評家の投票結果の上位者が集まって、丁々発止とバトルを繰り広げるジャム・セッション集かと思ったら、米国西海岸ジャズの雰囲気濃厚な、しっかりアレンジされた、聴かせるジャズが展開されているので、初めはちょっと面食らう。

米国の東海岸と西海岸の両方にオフィスを構え、東海岸と西海岸、どちらに偏ることも無く、双方のジャズマンのリーダー作をリリースしていたベツレヘム・レーベルならではの優秀盤といえるだろう。ベツレヘムのハードバップはユニークなものが多い。
 
 

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2023年2月10日 (金曜日)

ベツレヘムのブレイキー好盤

ベツレヘム・レーベルのアルバムを聴き直している。ベツレヘムにはボーカルのアルバムが多いのだが、ハードバップ系のアルバムにも優れた内容のアルバムが多くある。ベツレヘムのアルバムについては、あまりジャズ盤紹介本やジャズ雑誌の特集記事に上がることが無いので、いわゆる「隠れ名盤」化しているものがほとんど。

Art Blakey & The Jazz Messengers『Hard Drive』(写真左)。1957年10月 9,11日の録音。ちなみにパーソネルは、Art Blakey (ds), Bill Hardman (tp), Johnny Griffin (ts), Junior Mance (p), Sam Dockery (p, track 3のみ), Spanky DeBrest (b)。

1950年代のジャズ・メッセンジャーズの「停滞の時代」のアルバムである。翌年、ブルーノート・レーベルに移って、大名盤『Moanin'』で再起〜躍進を遂げるわけだが、それまでは、ホレス・シルバーと袂を分かって以降、既存のジャズマンでメンバーを編成し、メンバーも流動的で、決定打に欠ける時代が続いた。

しかし、内容的にはそんなに悪い訳では無かった。既存のジャズマンのチョイスがまずまずで、ハードバップとして、意外と整った内容のアルバムを量産している。ただ、何かが足りない。決定打に欠ける。そんな「停滞の時代」だった。
 

Art-blakey-the-jazz-messengershard-drive

 
この『Hard Drive』もそんなアルバムの1枚。内容的には意外と充実している。まず、テナーのグリフィンが良い。バリバリ吹きまくっている。全編に渡って溌剌としたグリフィンが実に良い。トランペットのハードマンも健闘はしている。グリフィンに煽られているが、何とか、バリバリ吹きまくっている。

ジュニア・マンスがピアノを担当している。ファンキー・ピアノのマンスのドライブ感溢れる弾き回しが、この盤の「ハードバップらしさ」を増幅している。ファンクネスを湛えつつ跳ねるようなタッチでバリバリ弾きまくる。マンスのピアノが意外と良い雰囲気を醸し出している。

当然、ブレイキー御大もバッシバッシ叩きまくる。ブレイキー独特のアクセントで叩きまくるファンキー・ドラム。ただ、代名詞の「ナイアガラ・ロール」や、カカカカカッという個性的なリムショットは、まだ表舞台に出てきていない。そんなところが「何かが足りない」と感じる所以だろう。

2曲目の「Right Down Front」などは、ゴスペル風のファンキー・チューンで、翌年以降、流行となる「ファンキー・ジャズ」の先駆け的な演奏が素敵だ。他のハードバップ・チューンも粒が揃っていて、なかなかのもの。だけど、どこか、決定打に欠ける雰囲気が漂う。それでも、内容的には「ハードバップな優秀盤」で、これはこれで聴き応えは十分ある。ベツレヘムのジャズ・メッセンジャーズは聴く価値あり、だ。
 
 

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2022年12月26日 (月曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・20

ジャズ盤には、我が国のジャズ者だけにウケて、他国では全く知られていない盤が結構ある。例えば、ブルーノートの「女性の足元ジャケ」で有名な、Sonny Clark『Cool Struttin'』がそうで、我が国のジャズ者の方々の中では知らぬ者はいない位の人気盤だが、本場米国では全く知られていない。そもそも、リーダーのピアニスト、ソニー・クラーク自体がマイナーな存在。

このエピソードはジャズ雑誌で読んで、最初は「眉唾」と思っていたのだが、実際に米国にビジネス出張に行った折、先方のキーマンの1人が大のジャズ好きで、通訳を通して色々な話をさせて貰ったのだが、確かに、Sonny Clark『Cool Struttin'』については「?」だった。そして、Mal Waldron『Left Alone』もそうだった。しかし、その後、彼もこの2枚を聴いたらしく、「どちらも、なかなか良いハードバップ盤だ、ありがとう」という電子メールが届いたのを覚えている。

Mal Waldron『Left Alone』(写真左)。1959年2月24日の録音。ちなみにパーソネルは、Mal Waldron (p), Jackie McLean (as :track 1のみ), Julian Euell (b), Al Dreares (ds)。マル・ウォルドロンのビリー・ホリディ追悼盤。基本はピアノのマルがリーダーのトリオ。1曲目の「Left Alone」のみ、アルト・サックスのジャッキー・マクリーンが客演している。

我が国ではこのマルの『Left Alone』は大人気盤で、ジャズ初心者向けのジャズ名盤紹介には必ずといっていいほど、この盤のタイトル名が上がってくる。しかし、である。それぞれの評論文を読むと、1曲目のタイトル曲「Left Alone」の「泣きのマクリーン」だけが絶賛されていて、この1曲だけで名盤扱いされているフシがある。確かにマクリーンのアルト・サックスは情感溢れ力強く、聴き応えのあるブロウなのだが、この盤のリーダーはマルであり、マルはピアニストである。

まず、この有名なタイトル曲「Left Alone」では、伴奏上手なマルのピアノが堪能出来る。なるほど、かの伝説の女性ジャズ・ボーカリスト、ビリー・ホリディがマルを伴奏者に指名したのが良く判る。情感を込めて唄う様にアルト・サックスを奏でるマクリーンに対して、絶妙なバッキングで応えるマル。この「伴奏のマル」は聴きもの。
 

Mal_left_alone_1

 
2曲目以降はマルがリーダーのピアノ・トリオの演奏になる。2曲目の「Catwalk」は名演だろう。なぜか、ジュリアン・ユールのベースとマルのピアノの絡みが良い感じなのだ。アル・ドリアースのドラムはあまり目立たないのだが。そうそう、「Catwalk」は曲自体も良い感じ。マルの作曲能力の高さを感じる。

が、である。3曲目の「You Don't Know What Love Is」から「Minor Pulsation」、演奏ラストの「Airegin」まで、内容的に悪くは無いんだが、なんだか演奏が重い。もう少し溌剌と、もう少し躍動感があっても良いと思うのだが、どうも良くない。この盤については、ベースとドラムのリズム隊のパフォーマンスに物足りなさを感じるのだが、このリズム隊がマルのピアノに上手く反応出来ていないというか、マルのピアノについていっていないのが惜しい。

そして、ラストのトラックには、マルが最晩年のビリー・ホリデイの伴奏者だったこともあってか、ビリー・ホリディの思い出についての「マルの語り」が収録されている。マルがとうとうとビリーについての思い出を語っているのだが、当然、英語で語っているので、ほとんど何を語っているのかが判らない。日本盤についても「対訳」が付いている訳でも無い。LP時代、この盤を入手して初めて聴いた時、このラストの「マルの語り」が出てきた時はビックリした(笑)。

このMal Waldron『Left Alone』について、名盤扱いされているのは、冒頭のタイトル曲「Left Alone」でのジャッキー・マクリーンのアルト・サックス、いわゆる「泣きのマクリーン」の素晴らしさだけがその理由で、マルの名盤、名演については他に沢山ある。

確かに、冒頭の「Left Alone」については、「泣きのマクリーン」の素晴らしさ故、ジャズ者であれば一度は聴いておく必要はあるかとは思う。しかし、2曲目以降については、決して、マルの代表的なパフォーマンスでは無いことを考慮しておく必要がある。ちょっと「こまったちゃん」な盤である。
 
 

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2022年12月18日 (日曜日)

ユニークなAJQのセカンド盤

ベツレヘム・レーベルにあって、他のジャズ・レーベルに無いのが、オーストラリアン・ジャズ・カルテット(AJQ)の存在。このオーストラリア出身のカルテットは実にユニークな存在。ベツレヘムはカタログ順に集めたいがAJQは除きたい、というジャズ者の方々もいるくらい、この東海岸でも西海岸でも欧州でも無い、この「オーストラリア出身」のジャズの音は好き嫌いが分かれるところ。

『The Australian Jazz Quartet』(写真)。1955年10月、NYでの録音。ベツレヘム・レーベルの BCP-6003番。ちなみにパーソネルは、Dick Healey (fl), Erroll Buddle (bassoon), Jack Brokensha (vib), Bryce Rohde (p), Jimmy Gannon (b), Nick Stabulas (ds)。AJQの2枚目のアルバム。10インチLPの12インチLPでの再発の後、間髪入れずにリリースしている。

AJQのオリジナル・メンバーの4人は、オーストラリア人のエロール・バドル (bassoon, ts担当), ブライス・ローデ (p担当), ジャック・ブローケンシャ (vib, ds担当) と米国人の ディック・ヒーリー (as, cl, fl, b担当) の4人。ブローケンシャがヴァイブを弾いている時はドラムが、ヒーリーがリード楽器を吹いている時はベースが担当出来ない為、Jimmy Gannon (b), Nick Stabulas (ds) のリズム隊はサポート・メンバー。
 

The-australian-jazz-quartet_2

 
オーストラリアン・ジャズ・カルテットと言いながら、パーソネルにジャズマンが6人名前を連ねているのはそんな理由から。もともとはオリジナル・メンバーのカルテットで演奏していたのだが、バズーン、フルート、ビブラフォンをフィーチャーすることになって、ベースとドラムが同時演奏出来ないので、サポートに2人のリズム隊を追加したというところだろう。

6002番の先行リリースの『The Australian Jazz Quartet/Quintet』から8ヶ月後の録音になるが、音の内容は変わらない。ただ、バズーン、フルート、ビブラフォンをフィーチャーがより明確になった様には感じる。ジャズとして聴くと、ファンクネスは希薄、演奏の形態はハードバップ、アレンジはそこそこでラウンジ風。音楽的には整然とまとまったカルテット&クインテットの演奏。

カンガルーをあしらったジャケットも当時の米国ジャズ・シーンからすると異質でありユニーク。しかし、当時、米国ではウケたのだろう、この後もベツレヘム・レーベルにおいて、オリジナル・アルバムのリリースは続くのだ。確かに、黒人ジャズに無い、クラシック音楽で使用されている、ジャズでは珍しい楽器が入ったジャズとして、今の耳で聴けば、ユニークな存在ではある。
 
 

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2022年12月17日 (土曜日)

オーストラリア出身のカルテット

ベツレヘム・レーベルのアルバムを、Bethlehem 6000 series (12 inch LP)」のカタログから、カタログ番号順に聴き直すと、このレーベル独特のグループやジャズ・ミュージシャンの名前に出くわすので、思わず面食らう。

ベツレヘム・レーベルの創始者、ガス・ウィルディは、他社とは違うことをやらなければ、レコード・ビジネスで勝負していけない、と思っていたそうで、そういう面から、他の有名ジャズ・レーベルとは異なる、ユニークなジャズ・ミュージシャンやグループ、そして、将来有望そうな新人をチョイスしては、リーダー作を録音させている。すると、ジャズ者の我々からすると「こんなジャズ・ミュージシャン、グループ名って聞いたことがない」と反応して、思わず敬遠してしまうのだ。

『The Australian Jazz Quartet』(写真左)。1955年10月、NYでの録音。ベツレヘムのBCP-6003番。ちなみにパーソネルは、Errol Buddle (ts, bassoon), Dick Healey (ts, as, fl, piccolo fl, cl, b), Bryce Rohde (p), Jack Brokensha (vib, ds), Nick Stabulas (ds)。

オーストラリア出身のグループ、オーストラリアン・ジャズ・カルテット(AJQ)のデビュー盤である。AJQはオーストラリア人3名、米国人1名が基本構成。このグループは、従来のジャズ楽器であるサックス、ピアノ、ベース、ドラムに加えて、バズーン、フルート、ビブラフォンをフィーチャーしていたという点で珍しい存在。活動期間は1954〜58年と短いが、室内楽的な味わいが魅力で、米国では当時、結構、人気のカルテットだったみたい。
 

The-australian-jazz-quartet

 
この盤はタイトルは「カルテット」だが、中身はカルテット演奏とクインテット演奏がチャンポンしているが、音の志向は変わらない。聴けば、興味深いサウンドで、演奏の基本はハードバップなんだが、ジャジー&ファンキーな雰囲気は希薄、といって、聴き手を意識したアレンジとアンサンブルを基本としている訳でも無い。つまり、当時の東海岸ジャズでも無ければ、西海岸ジャズでも無い。といって、クラシックな雰囲気を宿した欧州ジャズでも無い。いわゆる当時の「第三世界」でのジャズである。

個々の演奏者の個性は薄い。バズーン、フルート、ビブラフォンを交えたジャズ演奏が耳新しく響く。室内楽的ではあるが、モダン・ジャズ・カルテットの様に、クラシックの技法を積極的に導入した本格的なものでは無い。黒人ジャズに無い、クラシック音楽で使用されている、ジャズでは珍しい楽器が入ったジャズとして、当時は米国ではウケたのだろう。

ジャズとして聴くと、ファンクネスは希薄、演奏の形態はハードバップ、アレンジはそこそこでラウンジ風、メンバーはいずれも音楽関係の学校で正規な教育を受けていることから、音楽的には整然とまとまったカルテット&クインテットの演奏。佇まいを正して演奏と対峙する様な、ストイックでシビアな演奏では無い。どちらかと言えば「ながら聴き」に向くジャズだろうか。

ベツレヘム・レーベルは、ジャケット・デザインも良い、と聞くが、この盤のカンガルー4匹横並びのジャケットはちょっと「引く」(笑)。このジャケだと、AJQの存在を知らないジャズ者の方々は、絶対に触手は伸びないだろう(笑)。でも、中身については、東海岸でも西海岸でも無い「第三世界」のジャズの音が詰まっていて、一聴には値する。
 
 

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2022年12月12日 (月曜日)

ベツレヘム・レーベルの特色

ジャズの有名レーベルのひとつに「ベツレヘム・レーベル」がある。カタログを見渡すと、他の有名レーベル、ブルーノートやプレスティッジ、ヴァーヴ、インパルス、リヴァーサイドなどとはちょっと異なる、ユニークなラインナップが面白いレーベルである。

ベツレヘムは1953年、株のディーラーだったガス・ウィルディという人物とプロ・ドラマーだったジェームズ・クライドがNYにて設立した「ポップスのシングルを扱うレーベル」。しかし、設立の翌年、1954年には早々にジャズ専門レーベルへと衣替え。

このレーベルの一番の特色は、米国の東海岸と西海岸の両方にオフィスを構え、偏ること無く、双方のジャズマンのリーダー作をリリースしたこと。ハードバップ期の黒人中心の東海岸ジャズと、白人中心の西海岸ジャズを偏ること無くピックアップし、記録していった珍しいジャズ・レーベルといえます。カタログを見渡せばそれがハッキリ判る。

活動期間は1953~61年と短いのだが、ちょうど、ハードバップ初期から60年代のハードバップ多様化が始まった頃まで、ハードバップ期をほぼ網羅した活動期間なのも興味深い。今回、このベツレヘム・レーベルのアルバムを「Bethlehem 6000 series (12 inch LP)」のカタログから、カタログ番号順に聴き直していこう、と思い立った。

K+ J.J.『East Coast Jazz/7』(写真)。1955年1月26日、NYでの録音。ベツレヘムのBCP-6001番。ちなみにパーソネルは、J.J. Johnson, Kai Winding (tb), Dick Katz (p), Wendell Marshall (b), Al Harewood (ds)。2人の名ジャズ・トロンボーン奏者、カイ・ウィンディングとJ.J.ジョンソンとの最初期の双頭リーダー・アルバム。パーソネルを見渡すと、東海岸でも西海岸でも無い。東と西のハイブリット的なメンバーチョイスである。
 

East-coast-jazz_7

 
この双頭リーダーの2人、2人ともトロンボーン奏者であり、それぞれ黒人と白人である。当時のジャズ・シーンの中では、ベツレヘム・レーベルならではと言える、実にユニークな取り合わせ。

ボワンとしたトロンボーン独特な音色が作り出すユニゾン&ハーモニーが、実にほのぼのとした心地よさ。双方のアドリブの、かたやファンクネス濃厚で黒い雰囲気、かたやスマートでシュッとした小粋な雰囲気、正反対の個性も楽しい響き。

タイトルが「East Coast Jazz」なんだが、出てくる演奏は東と西のハイブリット的な音の志向。しっかりアレンジが施され、2本のトロンボーンのフロントに立てた「ユニークなフレーズとアドリブ」を前面に押し出す思慮深いプロデュース。この音の傾向は「ウエストコースト・ジャズ」。しかし、演奏される音色と雰囲気にはファンクネスが漂い、音はアーバンで黒い。この音の傾向は「イーストコースト・ジャズ」。

いみじくも「Bethlehem 6000 series (12 inch LP)」のカタログの最初の1枚目のこのK+ J.J.の双頭リーダー作が、ベツレヘム・レーベルの特色を具体的に音にしているなあ、と感じる。

ジャズ盤紹介本やジャズ雑誌のアルバム紹介に、まず、そのタイトルが上がることを見たことが無い地味なアルバムだが、聴けば、そのユニークな内容に思わず、一気に聴き込んでしまう。この盤を聴くだけでも、ベツレヘム・レーベルは侮れない、と思わず構えてしまう(笑)。
 
 

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  • まだまだロックキッズ(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のロック」盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代ロックの記事を修正加筆して集約していきます。
  • 松和の「青春のかけら達」(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のJポップ」、いわゆるニューミュージック・フォーク盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代Jポップの記事を修正加筆して集約していきます。           
  • AORの風に吹かれて(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    AORとは、Adult-Oriented Rockの略語。一言でいうと「大人向けのロック」。ロックがポップスやジャズ、ファンクなどさまざまな音楽と融合し、大人の鑑賞にも堪えうるクオリティの高いロックがAOR。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、AORの記事を修正加筆して集約していきます。  

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