2024年9月 4日 (水曜日)

ポール・ウィナーズの第4弾です

昨日、ご紹介した、当時の楽器別ジャズ人気投票で1位(Poll Winner)を獲得した3人が、テンポラリーなトリオ、ポール・ウィナーズ・トリオ。

このトリオは、1957年から1960年の3年間で、全4枚のアルバムを出している。最初が『The Poll Winners』、2枚目が『The Poll Winners Ride Again!』、3枚目が昨日、ご紹介した『Poll Winners Three!』。せっかくなんで、最後の一枚を今日、取り上げる。

The Poll Winners『Exploring the Scene!』(写真)。1960年8,9月、ロスでの録音。ちなみにパーソネルは、Barney Kessel (g), Ray Brown (b), Shelly Manne (ds)。楽器別ジャズ人気投票で1位を獲得した3人の「職人芸的トリオ演奏」の4作目。ポール・ウィナーズ・トリオとして、一旦、打ち止めのアルバムである。

冒頭の「Little Susie」を聴けば、演奏の洗練度合い、テクニックの精度とバリエーション、小粋なフレーズ回しなど、前3作に比べて、格段にレベルが上がっていて、もうこれ以上の演奏はないだろう、そして、この演奏レベルをコンスタントに維持し続けるのは難しい、との判断での「ポール・ウィナーズ・トリオとしての最終作」だと推察する。
 

The-poll-winnersexploring-the-scene

 
それほどまでに、トリオ演奏のレベルは高い。米国西海岸ジャズのレベルの高さ、テクニックの高さ、アレンジの優秀度の高さがこの盤を通して、ビンビンに感じる。東海岸ジャズとは趣きが異なる、西海岸ジャズ独特の個性が、この盤にギッシリ詰まっている。とにかく、米国西海岸ジャズを代表するジャズマン3人の演奏内容は、実にインクレディブルである。

選曲については、当時の「ミュージシャンズ・チューン」を中心に選んでいて、ファンキーな「Little Susie」や「Doodlin」「This Here」が、軽妙なアレンジで小粋に演奏されている。マイルスの「So What」のアレンジはいかにも西海岸ジャズらしい。こんなに小洒落て小粋で捻りの効いたアレンジの「So What」は聴いたことがない。

「The Golden Striker」のレイ・ブラウンのベースのボウイングによる旋律演奏も味がある。メインの演奏部の疾走感も半端ない。バラード曲「Misty」の味わい深い、耽美的かつリリカルな演奏には、思わずじっくり聴き入ってしまう。

米国東海岸ジャズには「無い」トリオ演奏。このポール・ウィナーズ・トリオの諸作は、洒脱で小粋で流麗な、「聴かせる」米国西海岸ジャズの特徴・特質がてんこ盛り。1980年代後半まで、我が国では、米国西海岸ジャズは過小評価されてきたが、このポール・ウィナーズ・トリオの演奏をしっかり聴けば、その過小評価は無くなるだろう。もっともっと広く聴かれるべきポール・ウィナーズ・トリオである。
 
 

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2024年9月 3日 (火曜日)

ポール・ウィナーズの第3弾です

台風10号が迷走し、その影響が関東地方にまで及んで、天気が不安定なこと極まりない。天気を見ながら、散歩に行くことはあるが、雨模様の日は、一日、しっかり引き篭もり。猛暑が少しだけ和らいだと思ったら、天気不安定で、再び引き篭もりである。

引き篭もりの部屋で聴くのはジャズ。酷暑の夏にハードなジャズはしんどいので、軽妙なボサノバ・ジャズなんぞを聴き流していたのだが、気がつけば、なんと9月である。9月になれば、もはやボサノバ・ジャズも無いよな、ということで、ライトで小粋なジャズをということで、米国ウエストコースト・ジャズに走ることにする。

『Poll Winners Three!』(写真)。1959年11月2日、ロスでの録音。ちなみにパーソネルは、Barney Kessel (g), Ray Brown (b), Shelly Manne (ds)。当時の楽器別ジャズ人気投票で1位(Poll Winner)を獲得した3人が、テンポラリーなトリオ、ポール・ウィナーズ・トリオを組んで録音した企画盤の第3弾。第3弾だからと言って、マンネリな雰囲気は全く無い。
 

Poll-winners-three

 
第1作、第2作と比べて、収録されたスタンダード曲が、一部を除いて、なかなか渋い、マニアックな選曲になっている。が、それがとても良い。この「隠れ名曲」っぽい、渋いスタンダード曲を、聴かせるアレンジを施しつつ、小粋に演奏する様は実に軽妙。加えて、3人それぞれのテクニックが途方もないレベルで、しかし、耳障りにならない流麗さで、歌心満点に演奏する様は実に爽快。

ジャジーによく唄うケッセルのギターには思わず聴き惚れる。唄うが如くの流麗なフレーズを弾きまくるブラウンのベースには思わず、そば耳を立ててしまう。そんな二人の弾き回しを鼓舞し、ブラウンのウォーキング・ベースと共に、演奏全体のリズム&ビートを仕切るマンのドラムには、思わず感嘆の声を上げる。ほんと、この3人、上手い、の一言。

米国ウエストコースト・ジャズの良いところがギッシリ詰まった、素晴らしいトリオ演奏。洗練された三人の絶妙なインタープレイ、効果的にアレンジされたユニゾン&ハーモニー、3者3様の途方もない演奏テクニック。どれをとっても、前の2作より、さらに深化したパフォーマンスがてんこ盛りの秀作。いいアルバムです。
 
 

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2024年6月 3日 (月曜日)

聴かせる好企画盤『カルメン』

シビアで硬派で「即興が命」の純ジャズを聴き続けた合間、耳休めにウエストコースト・ジャズを聴くことが多い。

ウエストコースト・ジャズは、1950年代後半から1960年代全般にかけて、米国西海岸、ロスアンゼルス、サンフランシスコを中心に流行ったジャズの演奏トレンド。ハイテクニックを駆使して流麗で聴き心地の良いパフォーマンス、聴き手に訴求するキャッチーなアレンジ。「聴かせる」ジャズを旨とした、ジャズの演奏トレンドの一つ。

Barney Kessel『Modern Jazz Performances From Bizet's Opera Carmen』(写真左)。1958年12月の録音。ちなみにパーソネルは、Barney Kessel (g, arr), André Previn (p), Victor Feldman (vib), Joe Mondragon (b), Shelly Manne (ds)。ここに、8人編成の管楽器がメインのコンボが付く。ジャズ白人3大ギタリストの一人、ウエスコースト・ジャズの代表的ギタリスト、バーニー・ケッセルのリーダー作。

ウエストコースト・ジャズを代表するメンバーで、オペラでお馴染みビゼーの「カルメン」をカヴァーした作品集である。ビゼーの「カルメン」からの編曲は、ケッセル自身が行っている。収録曲は以下の通り。

1)闘牛士の歌(Swingin' The Toreador)
2)セギディーリャ(A Pad On The Edge of Town)
3)お前、おれが好きなら(If You Dig Me)
4)恋は野の鳥(Free As A Bird)
5)行進曲(Viva El Toro!)
6)花の歌(Flowersville)
7)あんたのために踊るは(Carmen's Cool)
8)母の様子を教えておくれ(Like There's No Place Like)
9)ジプシーの歌(The Gypsy's Hip)
 

Barney-kesselcarmen  

 
こうやって、ジャズ化された曲を並べてみると、このビゼーの「カルメン」には、キャッチーなメロディーを持った、魅力的な曲が沢山あることが判る。また、これらをジャズに編曲した、ケッセルのアレンジ能力も素晴らしい。

演奏全体の雰囲気は明るくて楽しい内容。どこかで聴いたことのある、親しみのある、キャッチーなメロディーがジャズに乗って、演奏される。結構、俗っぽいメロディーを持った楽曲もあるのだが、優れたアレンジと演奏で、そんな俗っぽさをカバーしている。

この「カルメン」のカヴァー盤は、あくまで、ギターがメインの、ギターがフロントのパフォーマンス。管楽器のコンボがバックに付くが、ケッセルのギターの音は骨太でメロディアスなので、管楽器のコンボの音に、ケッセルのギターの音が埋もれることは無い。

プレヴィンのピアノの伴奏フレーズの妙が素晴らしい。フェルドマンのヴァイブは流麗で躍動感溢れメロディアス。マンの職人芸的、変幻自在のドラミング。バッキングを受け持つ、ウエストコースト・ジャズの名うての名手たちの演奏も優秀だが、あくまで、ケッセルのギターをサポートし、引き立てる役に徹していて立派だ。

1950年代には、米国の東西ジャズで、ミュージカルやクラシック、映画スコアのジャズ化が行われ、我が国では「キワモノ」として、硬派なジャズ者の方々からは敬遠される向きもあるが、このケッセルの『カルメン』は、キワモノとして、聴かず嫌いで敬遠するには惜しい、充実した内容をキープしている。

印象的なイラストのジャケットも良し。ハイテクニックを駆使して流麗で聴き心地の良いパフォーマンス、聴き手に訴求するキャッチーなアレンジ。「聴かせる」ジャズを旨とした、ジャズの演奏トレンド、ウエストコースト・ジャズの「好例」の一枚として、一聴をお勧めしたい好企画盤です。
 
 

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2024年4月25日 (木曜日)

「聴かせる」ジャズの真骨頂な盤

米国ウエストコースト・ジャズは、洒脱に小粋に「聴かせる」ジャズである。

この盤では、米国のウエストコースト・ジャズの真骨頂を聴く様な、どこから聴いても「ウエストコースト・ジャズ」な演奏がズラリと並んでいる。洒落たアレンジ、響きの美しいアンサンブル、テクニック溢れる洒脱なアドリブ展開、グループサウンズ優先の整った演奏。そんな、ウエストコースト・ジャズの個性をバッチリ反映した演奏がこの盤に詰まっている。

Barney Kessel『Music to Listen to Barney Kessel By』(写真左)。1956年8, 10, 12月の録音。1956年の3セッションからの選曲。ちなみにパーソネルは以下の通り。

1956年8月6日の録音は、Barney Kessel (g), Buddy Collette (fl, alto-fl, cl), Junie Cobb (oboe, English horn), George W. Smith (cl), Justin Gordon (cl, b-cl), Howard Terry (cl, b-cl, bassoon), André Previn (p), Buddy Clark (b), Shelly Manne (ds) で、2曲目「Makin' Whoopee」, 9曲目「Gone with the Wind」, 11曲目「"I Love You」, 12曲目「Fascinating Rhythm」を演奏。

1956年10月15日と12月4日の録音は、Barney Kessel (g), Ted Nash (fl, cl), Jimmy Rowles (p), Red Mitchell (b), Shelly Manne (ds) で、1曲目「Cheerful Little Earful」, 3曲目「My Reverie」, 4曲目「Blues for a Playboy」, 5曲目「Love Is for the Very Young」, 6曲目「Carioca」, 8曲目「Indian Summer」, 10曲目「Laura」を演奏。

ちなみに、1956年12月4日の録音の7曲目「Mountain Greenery」だけ、ピアノが Claude Williamson (p) に代わっている。
 

Barney-kesselmusic-to-listen-to-barney-k

 
演奏形態の基本は、ギター、フルート/クラリネット、ピアノ、ベース、ドラムのクインテット編成。ギターはケッセル、ドラムはシェリー・マンが全曲固定。フルート/クラリネット、ピアノ、ベースがセッション毎に担当が代わっている。加えて、1956年8月6日の録音には、クラリネット、バスクラ、バズーン、イングリッシュ・ホルンなどの木管楽器4本が追加で入って、重厚でウォームなアンサンブルを醸し出している。

選曲も良い。ウエストコースト・ジャズの洒脱で優れたアレンジが効果的に映える小粋なスタンダード曲が中心で、ウエストコースト・ジャズのジャズマン達の小粋な演奏が効果的に響く。

特に、この盤では、フルート/クラリネット、バスクラ、バズーンの木管楽器の存在がポイントで、この木管楽器が入ったアンサンブル、木管楽器のソロが、演奏全体をアーバンで洒落た「聴かせる」ジャズに仕立て上げている。逆に、柔らかな音質の木管楽器のアンサンブルをバックにすると、ケッセルの端切れ、切れ味の良いギターの音がグッと浮き上がってくる。良く考えて練られたアレンジ。さすが、ウエストコースト・ジャズ全盛期の作品である。

ウエストコースト・ジャズの「聴かせる」ジャズについては、ピアノ、ベース、ドラムのリズム・セクションの出来が重要になるが、この盤については、当時のウエストコースト・ジャズの名うての名手たちが集っているので、全く問題が無い。特に、全曲ドラムを担当しているシェリー・マンのドラミングは見事。ベースを担当するバディ・クラーク、そして、レッド・ミッチェルも職人気質で堅調なベースラインを供給して見事。

全編、ウエストコースト・ジャズの「聴かせる」ジャズな演奏なので、ポップで聴き易く、心地良い響きがどこかイージーリスニング風に聴こえることがあるが、曲のアレンジ、奏でられるアンサンブル、演奏者個々の高度な演奏テクニックなど、立派なモダン・ジャズである。ウエストコースト・ジャズの実力のほどが、この盤の演奏から垣間見える。ウエストコーストのハードバップな秀作です。
 
 

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2024年4月17日 (水曜日)

好盤 『Kessel Plays Standards』

バーニー・ケッセルのギターは、チャーリー・クリスチャンを源とするビ・バップ・ギターを洗練させ、ビ・バップ・ギターの奏法を取りまとめて、ひとつのスタイルとして完成させたもの。コード弾きを織り交ぜたシングル・トーンの旋律弾き、伴奏に回った時のクールなコード弾きのカッティング、太いトーンでホーンライクに弾きまくるアドリブ・フレーズ。

バーニー・ケッセルのギター奏法は、源にチャーリー・クリスチャンのモダン・ジャズ・ギターが見え隠れする。このバーニー・ケッセルのギターは、モダン・ジャズ・ギターの原型のひとつだと感じる。同じオリジンのギタリストにウェス・モンゴメリーがいるが、ウェスのギターは硬派で骨太で豪快でストイック。ケッセルのギターは温和でフレーズが小粋でキャッチー。

Barney Kessel 『Kessel Plays Standards』(写真左)。1954年6月4日、7月1日、1955年9月12日の録音。ちなみにパーソネルは、以下の通り。

1954年6月4日の録音は、1曲目「Speak Low」、3曲目「On a Slow Boat to China」、8曲目「Prelude to a Kiss」、9曲目「A Foggy Day」。パーソネルは、Barney Kessel (g), Bob Cooper (ts, oboe), Claude Williamson (p), Monty Budwig (b), Shelly Manne (ds).。

1954年7月1日の録音は、2曲目「Love Is Here to Stay」、4曲目「How Long Has This Been Going On?」、7曲目「Barney's Blues」、12曲目「64 Bars on Wilshire」。パーソネルは1954年6月4日の録音と同じ。

1955年9月12日の録音は、5曲目「My Old Flame」、6曲目「Jeepers Creepers」、10曲目「You Stepped Out of a Dream」、11曲目「I Didn't Know What Time It Was」。パーソネルは、Barney Kessel (g), Bob Cooper (ts, oboe), Hampton Hawes (p), Red Mitchell (b), Chuck Thompson (ds)。

選曲が振るっている。タイトル通り、この盤はスタンダード曲集なんだが、いわゆる「皆がよく知っている」有名スタンダードは殆ど選曲されていない。
 

Barney-kessel-kessel-plays-standards

 
洒落た小粋な隠れた名曲的なスタンダード曲を選曲しているのに感心する。さすがウエストコースト・ジャズ。洒落た聴かせるアレンジを施すと、さらにその曲の魅力が増す様な、洒落た小粋な隠れた名曲的なスタンダード曲がずらり。

パーソネルを見渡せば、3セッションとも、米国ウエストコースト・ジャズの精鋭達が勢揃い。演奏全体の雰囲気は明らかに「米国ウエストコースト・ジャズ」。洒落た聴かせるアレンジ、その聴かせるアレンジに乗って、バーニー・ケッセルが、小粋で疾走感溢れるギターをバリバリ弾きまくる。

曲の旋律を弾くケッセルのギターに、寄り添う様にユニゾン&ハーモニーの相棒を務める「不思議な」音のする楽器が目立つ。この「聴き慣れない」楽器の音は、なんとオーボエ。主楽器がテナー・サックスのボブ・クーパーが、このオーボエを吹いている。

恐らく、ギターとユニゾン&ハーモニーをする際、テナーだとテナーの音が勝ってしまって、ギターの音が隠れてしまうのを防ぐ為だったかもしれない。でも、このオーボエ、ユニークな音なのだが、ちょっとテクニックが拙くて、別に無くても良かったのになあ、と思ってしまう。とにかく、拙いオーボエの音が気になって、どうもいけない。

ケッセルのギターは申し分無い。コード弾きを織り交ぜたシングル・トーンの旋律弾き、伴奏に回った時のクールなコード弾きのカッティング、太いトーンでホーンライクに弾きまくるアドリブ・フレーズ。ウエストコースト・ジャズを代表するバップ・ギター。小粋でキャッチーな「聴かせる」フレーズをバンバン弾きまくる。

バックのリズム隊は2編成存在するが、どちらも米国ウエストコースト・ジャズの精鋭達が担当しているので、音の雰囲気に違和感は無い。小粋で洒落た、クールで聴かせるリズム&ビートを供給、フロントのケッセルのギターを鼓舞し、ガッチリとサポートする。

ケッセルの代表盤に挙がることが少ない初期のリーダー作だが、内容の充実度は高い。ケッセルのギターの個性と特徴が、洒落た小粋な隠れた名曲的なスタンダード曲の演奏を通じて、クッキリと浮かび上がる。ボブ・クーパーのオーボエの存在だけがマイナス要素だがクーパーに罪は無い。このオーボエだけを気にせず聴くと、このスタンダード曲集、なかなかの好盤だと思うのだがどうだろう。
 
 

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2020年4月29日 (水曜日)

西海岸の「逆・ジャケ買い」盤 『Some Like It Hot』

さすがにこのジャケットでは「ジャケ買い」は無い。「ジャケ買い」とは、ジャケットがデザイン良く洒落ていて、リーダーや内容を確認せずに買うこと。ジャズにおいては「ジャケ買い」で好盤に当たる確率が高い、と言われる。まあ、このジャケットであれば「逆・ジャケ買い」盤と言えるかな。

Barney Kessel『Some Like It Hot』(写真左)。1959年3ー4月の録音。ちなみにパーソネルは、Barney Kessel (g), Joe Gordon (tp), Art Pepper (as, ts, cl), Jack Marshall (g), Jimmy Rowles (p), Monty Budwig (b), Shelly Manne (ds)。3曲目と11曲目が、ケッセルのギターとバドウイッグのベースのデュオで、他はケッセルをリーダーにしたセプテット構成。

この盤は、タイトルからピンときたら、あなたは米国コメディ映画マニア、ビリー・ワイルダー監督のコメディ映画「お熱いのがお好き」(マリリン・モンロー、トニー・カーティス、ジャック・レモン出演の有名コメディ映画)のタイトル曲をはじめ、この映画に使われた曲をピックアップして収録した企画盤である。
 
 
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パーソネルを見渡すと、さしずめ米国西海岸ジャズのオールスターズの面持ちで、これは内容的にかなり期待出来る。しかも、アルト・サックスに、アート・ペッパーが担当している。しかも、ペッパーはクラリネットも吹いていて、ペッパー・マニアには貴重な録音になる。ロウルズ、バドウイック、マンのリズム・セクションも玄人好みに粋な人選である。

内容と言えば、リーダーのバーニー・ケッセルをはじめ、各メンバーがとってもご機嫌な演奏を繰り広げている。スインギーで洒落ていて、米国西海岸ジャズのサウンドが盤全体に充満している。スインギーで洗練されたギタースタイルで鳴らしたケッセルが好調に弾きまくっている。ペッパーが舞い上がるようなアルト・ソロをとる「Runnin' Wild」と「By The Beautiful Sea」も聴きもの。

アレンジ良好、軽妙なスイング感が心地良く、さすが「聴き手」を意識した、聴き応えのあるジャズを展開している。この盤のジャケットは、どう見てもジャズ盤のジャケットには見えない。何かのミュージカルの楽曲集ぐらいにしか見えないのだが、これが、真っ当で内容確かなジャズ盤なのだから恐れ入る。
 
 

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 ★ AORの風に吹かれて     【更新しました】2020.04.29更新。

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 ★ まだまだロックキッズ       2020.04.19更新。

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 ★ 松和の「青春のかけら達」   2020.04.22更新。

  ・チューリップ 『TULIP BEST』
  ・チューリップ『Take Off -離陸-』
 
 
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2019年11月 5日 (火曜日)

西海岸ジャズの入門盤の一枚 『Easy Like』

米国西海岸ジャズでは、ジャズ・ギターの活躍の場が多いような気がする。西海岸ジャズは演奏全体がしっかりアレンジされていて、そのアレンジの中で洒脱でアーバンな雰囲気を創り出す際、ギターの音色が欠かせないのではないか、と睨んでいる。そんな西海岸ジャズの代表的なギタリストと言えば「バーニー・ケッセル(Barney Kessel)」。

西海岸ジャズのアルバムを聴いていて「洒脱でクールで端正」なハイテク・ギターが出てきたら、ほぼ間違い無く「バーニー・ケッセル」である。トーンも明瞭で耳当たりの良いエッジの立ち具合。ウォームではあるが、音の芯はしっかりと聴き取れる、王道を行くギターの音色。西海岸ジャズの中では、バーニー・ケッセルが「ファースト・コール」なギタリストである。

Barney Kessel『Easy Like』(写真)。1953年は11月14日と12月19日、1956年は2月23日の録音。ちなみにパーソネルは、Barney Kessel (g), Buddy Collette, Bud Shank (as, fl), Arnold Ross, Claude Williamson (p), Harry Babasin, Red Mitchell (b), Shelly Manne (ds)。こうやって、パーソネルの顔ぶれを見ると、西海岸ジャズの名手達、大集合である。
 
 
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バーニー・ケッセルは米国西海岸ジャズを代表するギタリストの一人。洒脱でクールで端正。演奏全体がしっかりアレンジされていて気持ち良く聴けるが、決してイージーリスニングには陥らない。ケッセルはこの盤で、一躍有名になった。小粋な西海岸ジャズ・ギターというキャッチがバッチリ合う、お洒落でウォームで和みのあるギターの音。人気が出て然るべき、である。

この盤に詰まっている演奏自体が「米国西海岸ジャズ」。言い換えると「ウエストコースト・ジャズ」。ジャズ・ギターの小気味良いフレーズ、爽やかに典雅に響くフルート、お洒落にアレンジされ聴き心地抜群な、ギターとアルト・サックスとピアノのユニゾン&ハーモニー。控えめではあるがしっかりと骨太なベース。洒脱なテクニックで「聴かせてくれる」ドラム。出て来る音は明らかに「西海岸ジャズ」。

バーニー・ケッセルは1947〜1960年までの間、各ジャズ雑誌の年間最優秀ジャズ・ギタリストに幾度も選出されている。この雰囲気のギターである。人気が出るのも頷ける。そんなケッセルのリーダー作の中でも、この『Easy Like』は出色の出来。この盤は『Gerry Mulligan Quartet Vol.1』と同様、どこから聴いても「米国西海岸ジャズ」。米国西海岸ジャズの入門盤の一枚である。
 
 
 
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2016年10月26日 (水曜日)

こんなアルバムあったんや・69 『Live At The Jazz Mill』

こういう音源がいきなり「コロッ」と出てくるから、ジャズは隅に置けない。必ず、ジャズ情報誌やネットでのジャズCDのリリース情報、それも国内だけでは無く、米国やドイツなど、海外の情報もしっかりとチェックしておく必要がある。

Barney Kessel『Live At The Jazz Mill』(写真左)。今年いきなり、こんな「未発表音源」がリリースされた。ジャズ・ギターのレジェンドの一人、バーニー・ケッセルのライブ音源。1954年の録音。当時ジャック・ミラーというジャズ・ファンがテープ・レコーダーに残していたもの。

ちなみにパーソネルは、Barney Kessel (g), Pete Jolly (p), Gene Stoffell (b), Art Kile (ds)。米国西海岸のジャズメン中心のチョイスと見える。まだ、時代は1954年。ハードバップの萌芽期。バックのリズム・セクションは、ビ・バップの「リズム&ビートを刻み続ける役割」を忠実に果たしている。
 

Barney_kessel_live_at_the_jazz_mill

 
このライブ盤では、明確にギターのバーニー・ケッセルだけが突出している。テープ・レコーダーでの録音なので、音は中の下程度。ちょっと「もやって」いて、音の輪郭もぼけている。それでも、ケッセルの弾き出すアドリブ・フレーズは迫力満点。音はイマイチではあるが、これだけケッセル節を楽しめる盤はなかなか無い。

バーニー・ケッセルのギターは、チャーリー・クリスチャンの延長線上にある、とジョンスコは言った。このライブ盤の高速アドリブ・フレーズを聴きながら、そんなジョンスコの「ケッセル評」を思い出した。確かに、ケッセルのギターの基本は「ビ・バップ」。しかし、その「ビ・バップ」に留まらない、イマージネーションと展開の妙を演奏のそこかしこに感じる。

Arizona州 Phoenixのライブ・ハウス「The Jazz Mill」での私蔵ライブ音源。音は「イマイチ」だが、ケッセル節は堪能できる、そんなジャズ者中級盤。ジャケットもオールディーズな雰囲気で「マル」。久し振りに「ケッセル節」を堪能させてもらいました。
 
 
 
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2015年11月 9日 (月曜日)

このライブ盤のケッセルは凄い 『On Fire』

バーニー・ケッセル(Barney Kessel)は、モダン・ギターの開祖チャーリー・クリスチャン直系のギタリスト。しかし、ケッセルのギターはシンプルで判り易い。テクニックも確かではあるが、そのテクニックに頼ること無く、流麗で判り易いフレーズを聴かせてくれる。

そんなケッセルではあるが、1961年、コンテンポラリーへの録音後はスタジオ・ミュージシャンとして多忙な日々を送っていた。まあ、ケッセルのツアー嫌いが原因ではあるが、ジャズ・シーンからすっかり遠のいていた。が、何を思ったか、1966年、ライブ盤を録音する。

そのライブ盤とは、Barney Kessel『On Fire』(写真左)。ハリウッドのジャズクラブ「PJ’S」でライブ録音されたもの。ちなみにパーソネルは、Barney Kessel (g), Jerry Scheff (b), Frankie Capp (ds)。Emerald という超マイナー・レーベルからのリリースで、その希少性から「幻の名盤」として注目されてきた。

1980年代の初めにLPで復刻された時は酷い音質だったらしい。マスターテープが行方不明で、ディスク(LP)から直接ダビングしたことが原因なんだが、1980年当時の機材でそれは乱暴以外の何物でも無い。そりゃ〜あかんやろう。その話を雑誌で読んでいたので、CDで復刻された時もまずは「敬遠」。雑誌やネットでの評判を聞いて、やっとのことで購入。

しかし、なんとまあ、派手派手しい、チープな香りがプンプンする思いっきり俗っぽいジャケットである。このジャケットを見れば、まず、触手を伸ばすことは無いだろうな。このアルバムの内容を知ってしか、このジャケットを持つアルバムに手を出すことは無いだろう。
 

On_fire

 
現在リイシューされているCDを聴くと、まずは「まあまあ」の音質にホッとする。確かにちょっと霞がかかったような、音の抜けの悪さはあるが、1940年代後半の録音と思えば、まずまず納得出来る音質。十分に鑑賞には耐える。マスターテープが行方不明なのは相変わらずみたいだが、最近の機材の進歩によって、リミックスやノイズ処理が上手くなされているのだろう。

で、その内容はと言えば、アルバム・タイトル通り「On Fire!」(笑)。火の出るような、活き活きとしたギターを聴かせる。このライブ盤でのケッセルは実にアグレッシブで、流麗で判り易いフレーズではあるが、実にダイナミックでポジティブなソロに思わず身を乗り出して聴いてしまう。

熱いテクニックにビックリの「Slow Burn」から始まり、「いそしぎ」や「リカード・ボサノバ」というポピュラーなボサノバ曲が、ライトで親しみ易いアクセントを醸し出し、味のあるフレーズ満載の「Who Can I Turn To」でグッと耳を奪いつつ、ラテン・タッチの「One Mint Julep」で楽しくエンディングという流れ。この収録曲の流れもこのライブ盤の魅力。

バーニー・ケッセルのギターの「真の実力」をバッチリと感じることが出来る好盤です。最近のリイシュー盤は音質もまずまずで、最近のリイシュー盤に限って、ジャズ者万民にお勧めです。まあ、ジャケットのチープさは大目に見てやって下さい(笑)。
 
 
 
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2015年11月 6日 (金曜日)

ケッセルの本質を楽しむ 『To Swing or Not to Swing』

ジャズ・ギターを聴き続けて来て、最近、やっとこういうシンプルで枯れた、木訥な味わいのジャズ・ギターがお気に入りになったのは、つい最近のことである。

それまでは、若かりし頃、ロックからジャズに入った経緯と、エレクトリック・ジャズがお気に入りだったこともあって、どうしても、アタッチメントを駆使して様々な音色を紡ぎつつ、目眩く万華鏡のようなエレギが大好きで、どうも、1950年代以前の木訥な味わいのジャズ・ギターが、どうにも退屈だった。

でも、今ではそんなことは無い。木訥な味わいのジャズ・ギターの中に、味わいのある高度なテクニックとシンプルなギターの音の中にそこはかとなく滲み出る「侘び寂び」が、なんとも心地良く感じる様になったのだ。どうしてかなあ。まあ、歳をとるということはそういうことかもしれない(笑)。

そんなシンプルで枯れた、木訥な味わいのジャズ・ギターの中で、お気に入りの一枚が、Barney Kessel『To Swing or Not to Swing』(写真左)。1955年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Barney Kessel (g), Harry Edison (tp), Georgie Auld, Bill Perkins (ts), Jimmy Rowles (p), Al Hendrickson (g), Red Mitchell (b), Irv Cottler, Shelly Manne (ds)。
 

To_swing_or_not_to_swing

 
タイトルに「Swing」の文字が目に付くが、このアルバムに詰まっている音は「スイング・ジャズ」の音である。パーソネルもスイング・ジャズの名手達が集っているように感じる。1955年のハードバップ初期の時代に、米国西海岸ジャズの中での「スイング・ジャズ」。なんともはや「粋」である。

コンテンポラリー・レーベルに残されたケッセルの作品の中でも、かなりトラディショナルな内容なので、モダン・ジャズのファンからはあまり注目されないアルバムではあるんですが、このスイング・ジャズな雰囲気のジャズ・ギターはなかなかに味わいがあります。ケッセルのルーツを感じる上でも、重要な位置づけのアルバムですね。

ケッセルのギターの基本は「スインギー」。この『To Swing or Not to Swing』を聴けば納得の一枚です。ちなみにタイトルを直訳すると「スイングするか、スイングしないか」。これって、ハムレットの「To be, or not to be(生きるべきか、死ぬべきか)」のもじりでしょうね。お後がよろしいようで(笑)。
 
 
 
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