2023年7月 9日 (日曜日)

タル独特のバップ・ギターを聴く

去年の11月から、タル・ファーロウのジャズ・ギターを聴き進めている。これが殊の外、楽しい。しかし、タル・ファーロウについては、我が国では意外と人気が薄い。

ジャズ・ギタリストとしては、ギターのスタイリストの1人として、そのテクニックの高さと合わせて一流。巨大な手を一杯に広げて縦横無尽にフレーズを紡ぎ出す様は「オクトパス・ハンド」と呼ばれるのだが、このダイナミックな高速フレーズの拡がりもタルならではの個性。

歴代のジャズ・ギタリストの中でも、抜きんでている存在だと思うのだが、どうにも我が国ではタルの話はあまり聞いたことが無い。ネットを見渡すと、米国でもタルの扱いはちょっと低い。ネットで十分に記事に扱われていないリーダー作も散見される。

恐らく、1960年代に入った途端に引退状態となり、それから約10年間、引退状態が続き、カムバックした時は既にジャズ界は、クロスオーバー&フュージョン・ジャズの時代に突入していた。タルのバップなギターが「ウケる」聴き手は数少なくなっており、実質上、忘れ去られた存在になっていたのが大きな理由だろう。加えて、タルのギター・スタイルのフォロワーが現れ出でなかったこと、これも人気の薄い理由のひとつだと僕は思っている。

しかし、タルのリーダー作に凡作は無い。どのアルバムを聴いても、タル・ファーロウの硬質でハイテクニックなギターを堪能することが出来る。
 

Tal-farlowthis-is-tal-farlow

 
Tal Farlow『This Is Tal Farlow』。1958年2月17, 18日の録音。ちなみにパーソネルは、Tal Farlow (g). Eddie Costa (p). Bill Takas (b, #1-4), Knobby Totah (b, #5-8), Jimmy Campbell (ds)。この盤では、前の『Tal』『The Swinging Guitar Of Tal Farlow』 とは違って、ドラムが加わってリズム&ビートが増強されている。

このキャンベルのドラムが好調で、リズム&ビートが増強される中、タルはアドリブ・フレーズの弾きまくりに専念している様に聴こえる。「オクトパス・ハンド」と呼ばれるダイナミックな高速フレーズに更に磨きがかかっている。収録曲は相変わらずスタンダード曲中心の選曲だが、パッキパキ高速でテクニカルなフレーズで、しかし、しっかり流麗にスイングした疾走するフレーズ。

バックのリズム・セクション、特に、エディ・コスタのピアノが良い。硬質なタッチ、叩く様なフレーズ。タルの硬質ギターにぴったり合った雰囲気のピアノ。このコスタのピアノがタルのギターのリズム&ビートを支え、タルのアドリブ・フレーズに自由なスペースと余裕を与えている。タルの凄く弾きやすい雰囲気が伝わってくる様だ。

録音年の1958年はハードバップが成熟した時代。しかし、この盤でのタルは、それまでのビ・バップやハードバップのギターの「常套句」をなぞってはいない。これがタルの一番優れたところ。この盤では、タルならではの、タル独特のバップ・ギターのフレーズと語法をしっかりと聴き取ることが出来る。好盤です。
 
 

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2023年4月 4日 (火曜日)

ウエストコースト・ジャズのタル

ジャズ・ギターのスタイリストの1人、タル・ファーロウを聴いている。超絶技巧な高速弾き回し、巨大な手を一杯に広げて縦横無尽にフレーズを紡ぎ出す様を形容した「オクトパス・ハンド」によるダイナミックなフレーズの拡がり。ピッキングも力強く、音は硬質。しかし、出てくる音は歌心満点。とても聴き応えのある純ジャズ志向のギターである。

『A Recital By Tal Farlow』(写真左)。1955年8月の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Perkins (ts), Bob Gordon (bs), Bob Enevoldsen (tb), Tal Farlow (g), Monty Budwig (b), Lawrence Marable (ds)。ピアノレス。ウエストコースト・ジャズにおける、3人の実力派ホーン奏者と共演したタルのリーダー作。

ウエスト・コーストでのセッションになるので、当時の「お洒落なアレンジで聴かせるジャズ」が、この盤に詰まっている。まず、中低音域のテナー・サックス、バリトン・サックス、ヴァルブ・トロンボーンが織り成す豊かなユニゾン&ハーモニーが良い。そのお洒落で聴き応えのあるホーン・アレンジをバックに、切れ味の良いシングル・トーンのタルのギターが浮き出てくる。
 

A-recital-by-tal-farlow

 
テナー、バリトン、ボーンの低音中心の三管編成というところが、この盤のアレンジの「キモ」。ウエストコースト・ジャズの良いところが満載。実に雰囲気ある、聴き応えの良い演奏に仕上がっている。ウエストコースト・ジャズのバック演奏は流麗そのものなのだが、この流麗なバックの下、タルが訥々としたシングルトーンの、バキバキで骨太なギターで、超絶技巧に弾きまくる。

ルンバ調が楽しい「アウト・オブ・ジ・ノーホエア」、ブルージーでバップな名曲「ウォーキン」、溌剌と躍動感溢れる「ウィル・ユー・スティル・ビー・マイン」など、どの曲のアレンジは良好、タルのギターは絶好調である。タルがバッキングに回った時のコード・プレイも見事。

ジャケット・デザインも良好。ジャズ盤紹介本やジャズ雑誌のアルバム紹介記事にはまず、この盤のタイトルが上がったのを見たことがない。タルのリーダー作紹介ですら、この盤のタイトルが上がるのを見たことが無いのだが、この盤、ウエストコースト・ジャズにおけるタルのリーダー作として、とても良い出来だと思います。好盤。
 
 

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2023年3月12日 (日曜日)

タルのドラムレスのトリオ名盤

CDの時代になって、アルバム1枚単位の収録時間が、LP時代よりも飛躍的に長くなった。それに伴って、LP時代には収録されなかった、お蔵入りの演奏や他のセッションでの演奏を「ボーナストラック(略してボートラ)」として収録されることが多くなった。

すると、困ったことが起きる訳で、LP時代のオリジナル盤に収録されていなかった演奏が追加収録されて、全く違った内容のアルバムになってしまうのだ。これが厄介で、オリジナル盤の「オリジナリティー」が全く損なわれる訳で、このボートラの存在は全くの「必要悪」だと僕は思っている。未収録の演奏は未収録だけを集めた別のアルバムにしてリリースすべきだろう。

Tal Farlow『Tal』(写真左)。1956年3月、NYでの録音。ちなみにパーソネルは、Tal Farlow (g), Eddie Costa (p), Vinnie Burke (b)。前作まで、ピアノ入りのカルテット編成で「聴かせる」パフォーマンスだったが、この盤では、ちょっと珍しい、ドラムレスのギター・トリオの演奏になっている。

さて、デビュー当時のリーダー作でのトリオ演奏では、速弾き過ぎて多少拠れようが、難度の高いフレーズを弾き切ってしまう強引さが魅力だったが、この『Tal』では、さすがにスタジオ録音では、リーダー作の5枚目。トリオ演奏に戻しても、タルはデビュー当時の強引さを封印して、余裕のある、テクニカルな弾き回しで、スタンダード曲を魅力的に聴かせてくれる。
 

Tal-farlowtal

 
しかし、タルのフレーズは、スケールの幅が広くて、よく指が届くなあ、と感心する。いわゆる「オクトパス奏法」が炸裂、タルのギターの個性と特徴が最大限に活かされた、スタンダート曲集になっている。ベンドやエフェクターを使用しない、リアルなピッキングが、スタンダード曲の持つ美しい旋律をより一層引き立たせている。

バックのリズム隊、エディ・コスタのピアノ、ヴィニー・バークのベースも良い味を出していて、ドラムがいない分、コスタのピアノが上手くリズム&ビートの供給役をこなしていて、バーグのベースが、演奏全体のベースラインをしっかりと押さえている。ドラムレスということが全く気にならない、全く意識させない、素晴らしいピアノ+ベースのリズム隊である。

このタル・ファーロウの名盤の誉れ高い『Tal』も、CDリイシュー時(2010年だったと思う)、7曲の未収録曲が追加されて、大混乱に陥った。ドラムレスのギター・トリオの傑作、というのが、この『Tal』の定評だったが、追加された未収録曲は、1958年2月NY録音のカルテットの演奏が追加されていたのだ。初めてこのCDリイシューの『Tal』を聴いた人は、それまでの『Tal』の評論文を読んで、かなり戸惑ったのではないか。

もともとのLP時代のオリジナル盤は、先頭の「Isn't It Romantic?」から「Broadway」までの全8曲が、正式な収録曲になる。この8曲が、1956年3月、NYでの録音。そして、以前より名演と言われる「ドラムレスのギター・トリオの演奏」になる。オリジナル盤同様、この8曲に絞ったCDリイシュー、サブスク音源もあるので、『Tal』を純粋に鑑賞しようというのであれば、このオリジナル盤と同じ収録曲、曲順のものが良いだろう。

 

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2023年3月10日 (金曜日)

グループ・サウンズ重視のタル盤

タル・ファーロウを聴いている。パッキパキのシングルトーンがなのだが、ファンクネスは控えめ。バップでリリカルな疾走感のあるテクニカルなギターが身上。この辺が他の黒人系のギタリストと一線を画すところ。とにかく、シュッとしていて切れ味の良いシングルトーンでバリバリ弾きまくる。一転、バラード演奏は味のあるシングルトーンのフレーズを響かせて、印象的に唄い上げていく。

『The Interpretations Of Tal Farlow』(写真左)。1955年1月7日、ロサンゼルスでの録音。Tal Farlow (g), Claude Williamson (p), Red Mitchell (b), Stan Levey (ds)。タル・ファーロウのVerveレーベルからの第3弾。バックのピアノ・トリオは、米国ウェストコースト・ジャズの精鋭達で編成されている。演奏の基本は「ウエストコースト・ジャズ」。いわゆる「洒落たアレンジで聴かせるジャズ」である。

スタンダード曲中心の選曲。これが実に良い。これまでのタルのリーダー作3枚は、どちらかと言えば、タルの弾きまくり、タルの高速テクニック、バップなフレーズがメインだったが、このリーダー作4作目『The Interpretations Of Tal Farlow』は、それまでのリーダー作と趣きが違う。バックのリズム隊が、ウィリアムソンのピアノ、ミッチェルのベース、レヴィーのドラムと、ウエストコースト・ジャズを代表するピアノ・トリオ、という影響もあるのだろうか。
 

The-interpretations-of-tal-farlow

 
この盤でのタルは、バリバリ弾くというよりは「じっくり味わい深く」弾いている。速いフレーズもゆったりとしたフレーズも、じっくり味わい深く弾き進めている。もともとテクニックに優れ、歌心を備えたギタリストである。そんなギタリストが腰を据えて「じっくり味わい深く」スタンダード曲を弾くのだ。良いに決まってる(笑)。

この盤の「キモ(肝)」は、バックのリズム隊。ウィリアムソンのピアノが効いている。タルのギターとの相性が良い様で、タルのバックに回って、タルのギターを引き立て、タルのギターの良き相棒の如く、心地良いユニゾン&ハーモニーを奏でている。そこに、西海岸の職人ベーシストのミッチェルが演奏の底を支え、西海岸の技のドラマー、レヴィーが演奏全体のリズム&ビートをリードする。この西海岸の精鋭リズム隊をバックに、タルは気持ちよさそうにギターを弾き進めている。

ジャケットもお洒落で良い。アレンジ良し、演奏良し、ジャケット良し。ジャズ・ギターの紹介本や紹介記事に、あまりそのタイトル名が上がることがほどんど無いアルバムだが、タルのギターで、グループ・サウンド重視でスタンダード曲を聴くのに最適なアルバムだと思う。タルのギターが少し引っ込むが、その分、グループ・サウンズ・トータルとして内容が充実したアルバムでしょう。
 
 

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2022年11月27日 (日曜日)

タル・ファーロウのサード盤

タル・ファーロウは、ブルーノートでの初リーダー作から、そのギターの個性は完成されていた。超絶技巧の限りを尽くした「弾きまくりバップ・ギター」。初リーダー盤から次作のセカンド盤は、歌心溢れるバラード・プレイも素晴らしかったが、とにかく、超絶技巧の弾きまくりギターが目立ちに目立っていた。

Tal Farlow『The Artistry Of Tal Farlow』(写真左)。1954年11月15日、LAでの録音。ちなみにパーソネルは、Tal Farlow (g), Gerry Wiggins (p), Ray Brown (b), Chico Hamilton (ds)。

ヴァーヴ・レコードからのタルのリーダー作第2弾。米国ウエストコースト・ジャズの人気ジャズマンのトリオをバックに、超絶技巧で余裕溢れるバップ・ギターを弾きまくった、タル初期の名盤。

さすがに、3枚目のリーダー作で、大手ジャズ・レーベルのヴァーヴからの2枚目のリーダー作。収録されたそれぞれのギター・プレイには、濃厚な「余裕」が感じられて、超絶技巧なパフォーマンスにせよ、歌心溢れるバラード・プレイにせよ、程良いテンションの下、アドリブ・フレーズにも、どこか柔らかな「余裕」が感じられて、超絶技巧なタルのプレイが、更に迫力を持って迫ってくる。
 

Tal-farlowthe-artistry-of-tal-farlow
 

特に、僕は「歌心溢れるバラード・プレイ」の代表的パフォーマンスとして、3曲目の「Autumn In New York(ニューヨークの秋)」を愛して止まない。1本の弦を1オクターヴ低く調律して低音域を広げて、豊かな表現の幅を拡げたソロ・プレイが素晴らしい。ギターの一本弾きをメインにして、このタルの豊かな表現力は驚異的。この1曲だけでも、このタルのリーダー作の3作目は名盤に値する。

超絶技巧なパフォーマンスも素晴らしい。ギンギンにテンションを張った超絶技巧な弾き回しも聴き応えがあるが、ちょっと「疲れる」。しかし、この盤でのタルの超絶技巧な弾き回しには「余裕」が感じられて、その「余裕」が豊かな表現力に直結していて、カッ飛ぶ高速な弾き回しでも歌心は満点。

冒頭の「I Like To Recognize The Tune」から「Strike Up The Band」の余裕ある超絶技巧なプレイは聴き応え満点。ラストの「Cherokee」など、高速な弾き回しには、しっかりした歌心が宿っていて、これまた聴き応え満点。

安定した高速弾き回しと「余裕」が感じられるアドリブ・パフォーマンスの下、超絶技巧なパフォーマンスと歌心溢れるバラード・プレイが良好に共存しているこの盤は、タルの初期の名盤として良い内容だと思う。
 
 

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2022年11月26日 (土曜日)

タル・ファーロウのセカンド作

純ジャズ系のギター盤を聴く上で、タル・ファーロウのアルバムは避けて通れない。と言って、何処から聴いたらよいか、ということになるが、タルのリーダー作の場合は、ビ・バップ時代の鍛錬が効いていて、1954年、ブルーノートに吹き込んだ初リーダー作にして、タルのギターの個性は完成していたので、初リーダー作から順に聴き進めて行くのが良いだろう。

『The Tal Farlow Album』(写真左)。1954年6月2日、NYでの録音。Norgranレコード(後のVerveレコード)からのリリース。ちなみにパーソネルは、Barry Galbraith, Tal Farlow (g), Oscar Pettiford (b), Joe Morello (ds)。編成的には、ブルーノートの初リーダー作(1954年4月11日の録音)と同じ。タル・ファーロウとバリー・ガルブレイスの2ギター+ピアノレス、変則カルテットの編成。

演奏形態がブルーノートの初リーダー作と同じなので、音的にはそれと変わらない。ただ、リーダーとしてセカンド盤なので慣れてきたのか、タルは硬さが取れて、ちょっとリラックスして弾いている様に感じる。卓越した超越技巧なソロ弾きは、さらに流麗になり、流れるが如く軽快。タルのパッキパキなフレーズが映えに映える。
 

The-tal-farlow-album_1

 
有名スタンダード曲が中心の選曲なので、他のギタリストのパフォーマンスと比較し易くて良い。結論から言うと、タルのギターって、そのテクニックの高さについては、純ジャズ系ギタリストの中では最高峰の1人だろう。速いバップな曲もバラードの曲も、簡単そうに「そつなく」弾きまくる。ピッキングも力強く、音は硬質。しかし、出てくる音は歌心満点。とても聴き応えのある順ジャズ系ギターである。

ガルブレイスとのユニゾン&ハーモニーも流麗で、ガルブレイスのリズムギターも良い感じ。それでも、ガルブレイスのギターに負けること無く、埋もれること無く、タルのギターは、音が太くとピッキングが協力なので、くっきりハッキリ浮き出てくる。力強く流麗で超絶技巧な弾きっぷり、チャーリー・クリスチャン直系と評されるのは納得。

CDリイシュー時にボートラで追加された、9曲目~12曲目の4曲は、1955年4月25日、ロサンゼルス録音でギター、ピアノ、ベースのトリオ編成で録音されたもの。オリジナルLPには収録されていないものなので注意が必要。ピアノレスで聴くと、タルの個性がとても良く判る。『The Tal Farlow Album』としては、1曲目〜8曲目の前半8曲で鑑賞されたい。
 
 

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2022年11月25日 (金曜日)

タル・ファーロウの初リーダー作

僕のジャズ盤週集で、一番後回しになった楽器が「ギター」。もともと、アルバム蒐集はロックから入ったので、ロックギターの派手派手しいフレーズがお気に入りになっていて、純ジャズのギターは、コード弾きと一本弾きのシンプルというか、地味なものだったので、どうしても、純ジャズ系のギターの盤には触手が伸びなかったのが正直なところ。

それでも、年齢を重ねて、ジャズを聴き始めて20年位経った頃、やっと純ジャズ系のギターのシンプルさが良い方向に聴こえる様になってきて、一本弾きのアドリブ・フレーズが、実は超絶技巧、小粋に唄うものだ、ということが判った瞬間、ジャズ・ギター盤の蒐集が本格的に始まった。以来、ジャズ・ギターの週集もやっと、人並みになったかなあ、と思う今日この頃。

『Tal Farlow Quartet』(写真左)。1954年4月11日の録音。ブルーノートの5042番。ちなみにパーソネルは、Don Arnone, Tal Farlow (g), Clyde Lombardi (b), Joe Morello (ds)。

純ジャズ・ギターの最高テクニシャンの1人、タル・ファーロウの初リーダー作。何故か、タル・ファーロウとドン・アルノーンの2ギター+ピアノレスの変則カルテットの編成。それでも、ピアノが無い分、ギターのパフォーマンスが十分に楽しめる。

2ギターの意味が聴けば判る。ドン・アーノンをサイド・ギターに据え、タルの縦横無尽のソロ・プレイの妙技を全面に押し出した恰好。
 

Tal-farlow-quartet

 
なるほど、時にソロ、時にコード弾きとなると、タルのソロのテクニックの部分が薄まるので、サイド・ギターを据えて、基本的にはリズム(コード弾き)を担当させて、タルには、心ゆくまでソロを弾きまくらせるプロデュース。さすがはブルーノートである。

聴けば聴くほど、その超絶技巧さに舌を巻くタルのギター・ソロ。チャーリー・クリスチャン直系、ビ・バップあがりの驚異的な速さソロ・フレーズのスピード。この速さで、ハードバップの特徴の1つである「ロングなアドリブ・ソロ」をやるのだから圧巻である。

冒頭の「Lover」の高速弾き回しを聴くだけで、思わず「ごめんなさい」(笑)。2曲目のバラード「Flamingo」の、ハーモニクスを効果的に活かしつつ、情感溢れる正確無比な弾き回しに、これまた思わず「ごめんなさい」(笑)。以降、胸が空くような圧倒的速弾きパフォーマンス。いや〜、聴いていて思わず感動して「頭が下がる」。

タルの弾き回しの特徴の1つ、巨大な手を一杯に広げて縦横無尽にフレーズを紡ぎ出す様は「オクトパス・ハンド」と呼ばれるのだが、このダイナミックなフレーズの拡がりもこの盤で堪能出来る。

もともと10インチ盤でのリリースなので、曲数は6曲、トータル24分と短いが、そんなことは全く気にならない。圧倒的な超絶技巧、かつダイナミックなタルの純ジャズ・ギターの弾き回しである。
 
 

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2018年11月18日 (日曜日)

ジャズ喫茶で流したい・133

ジャズ・ギターについてはムーディーでソフトなギターより、パッキパキ、ピッキピキの硬質なギターが好きである。ムーディーでソフトなギターは、どうも聴き続けていると眠くなる。不謹慎ではあるが仕方が無い。硬質なギターの方がアドリブ・フレーズの詳細を追い易い気がするし、演奏の強弱、メリハリを感じやすい様な気がする。

『The Swinging Guitar of Tal Farlow』(写真左)。1956年5月の録音。ちなみにパーソネルは、Tal Farlow (g), Eddie Costa (p), Vinnie Burke (b)。ドラムレスのギター・トリオ編成。僕はこのアルバムに出会って、ギタリストのタル・ファーロウ(Tal Farlow)がお気に入りになった。なんせ、このパッキパキ、ピッキピキの硬質ギターが実に良い。もう快感の域である。

タル・ファーロウは米国ノースカロライナ州出身のギタリスト。1954年に初リーダー作を発表後、1958年まで活動。何枚かの好盤をリリースしたが、結婚を機に地元に戻り、演奏活動からは退く。しかし、その10年後、1968年のニューポート・ジャズ・フェスティバルで復帰。その後は地道に活動を継続し、1998年7月、NYにて逝去している。
 

The_swinging_guitar

 
タル・ファーロウのリーダー作に凡作は無い。どのアルバムを聴いても、タル・ファーロウの硬質ギターを堪能することが出来る。この盤も例に漏れず、タル・ファーロウの硬質ギターが素晴らしい。まず、テクニックが優秀。どの演奏を取ってみても、流麗かつダイナミック。しかもアドリブ・フレーズが印象的。ファンクネスを適度に押さえ、それでいて、アーバンでジャジーな硬質ギターは特筆もの。

が、この『スウィンギング・ギター』は他のどのリーダー作よりも、タル・ファーロウのギターを楽しむ事が出来る。というのも、ピアノのエディ・コスタのピアノが、タルに負けずに硬質で、パッキパキ、ピッキピキのピアノなのだ。このコスタのピアノがタルの硬質ギターとの相性抜群で、タルの硬質ギターがコスタの硬質ピアノのバッキングで増幅されて、とても心地良く響くのだ。

この『スウィンギング・ギター』については、タル・ファーロウのギターの素晴らしさはもとより、このエディ・コスタのピアノも素晴らしい。実によくドライブする硬質ギターが軸となって、アルバム全体にスウィンギーな演奏がギッシリ詰まっている。アドリブ・フレーズは流麗にして難解。難解なんだがあまりに流麗なので、簡単なフレーズを弾き回している、と勘違いしてしまうほど。ジャズ・ギターの入門盤としても最適でしょう。好盤です。
 
 
 
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  • まだまだロックキッズ(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のロック」盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代ロックの記事を修正加筆して集約していきます。
  • 松和の「青春のかけら達」(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のJポップ」、いわゆるニューミュージック・フォーク盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代Jポップの記事を修正加筆して集約していきます。           
  • AORの風に吹かれて(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    AORとは、Adult-Oriented Rockの略語。一言でいうと「大人向けのロック」。ロックがポップスやジャズ、ファンクなどさまざまな音楽と融合し、大人の鑑賞にも堪えうるクオリティの高いロックがAOR。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、AORの記事を修正加筆して集約していきます。  

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