2024年8月 9日 (金曜日)

夏はボサノバ・ジャズ・その32

今年の夏は特別に「暑い」。いわゆる酷暑日が連日続く。朝の9時を過ぎると、朝の日差しが灼熱化して、もう外出するのが憚られる。というか、外出すると「危険」な暑さ。これだけ暑いと「シビアなジャズ」を聴く気力がなくなってくる。フリー・ジャズなんてもってのほか(笑)。ハードバップだって、なんだか暑苦しい。

ということで、やっぱり、夏はボサノバ・ジャズ、である。ここバーチャル音楽喫茶「松和」では、以前「夏はボサノバ・ジャズ」のシリーズ記事を継続していた。2020年8月20日の「その31」まで記事化してきたが、当時、そこでネタ切れで休止した。が、この4年で記事ネタも再収集を完了。この酷暑ゆえ、今年、復活します。

The Dave Brubeck Quartet『Bossa Nove USA』(写真左)。1962年1, 10月の録音。ちなみにパーソネルは、Dave Brubeck (p), Paul Desmond (sax), Eugene Wright (b), Joe Morello (ds)。名盤『Time Out』を産んだ、ブルーベックの「最強のカルテット」によるボサノバ・ジャズ集である。

ブルーベック・カルテットは「リズム&ビートに強い」。名盤『Time Out』で変則リズムにいとも容易く適応する「最強のカルテット」である。ボサノバのビートに対応するのもお手のもの。全く違和感無く「ブルーベック・カルテットらしい」ボサノバのリズム&ビートを、モレロの切れ味良いドラムとライトの堅実にスイングするベースが供給する。
 

The-dave-brubeck-quartetbossa-nove-usa

 
そして、ブルーベック・カルテットは「作曲&アレンジが秀逸」。ボサノバの名曲のアレンジ、ブルーベックによるボサノバ曲、どちらも聴き味良く、良質のボサノバ・ジャズを提供してくれる。アレンジについては、ボサノバ曲における、硬質でスクエアにスイングするブルーベックのピアノと、流麗でウォームだが、しっかり芯の入ったデスモンドのアルト・サックスの使い分けが絶妙。

ブルーベック・カルテットは、ボサノバ曲の雰囲気に安易に流されず、安易にコピーせず、カルテット独自のボサノバのリズム&ビートの解釈と、ボサノバ曲の要素を「ジャズ」に取り込み、カルテットならではのボサノバ・ジャズに、きっちりアレンジし切っているところが素晴らしい。

1960年代、米国ジャズの中で、大量のボサノバ・ジャズ盤が作成されリリースされたが、その内容的には、このブルーベック・カルテットの『Bossa Nove USA』は、屈指の出来、と言える。

我が国では、ブルーベックのボサノバ盤というだけで、スルーされる傾向にあるが、ボサノバを安易になぞるのではない、あくまで、ボサノバの要素を取り込んで、上質のジャズ化を実現している、この『Bossa Nove USA』は、優れた硬派なボサノバ・ジャズ盤だと僕は思う。
 
 

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2024年5月16日 (木曜日)

”A&Mのデスモンド” の傑作盤

故あって、A&Mレコードの3000 series のアルバムを聴き直している。A&Mレコードの3000 series の諸作は、クロスオーバー・ジャズの範疇だと思うが、それぞれのアルバムのパーソネルを見渡すと、大方、ハードバップ時代から活躍してきた一流ジャズマンを起用している。

ハードバップ時代から活躍してきた一流ジャズマンが、優れたアレンジに乗って、エレ・ジャズをバックに、ジャズオケをバックに、聴き心地の良い、聴き応えのある、イージーリスニング志向のジャズをやる。しかし、イージーリスニング志向だからと言って、聴くに優しい、甘々のジャズかと言えば、そうでは無い。

さすが、ハードバップ時代から活躍してきた一流ジャズマンである。それぞれの演奏のレベルは高く、一本しっかりと筋が通っている。意外と硬派な「イージーリスニング志向のコンテンポラリー・ジャズ」を展開しているから隅に置けない。特に、A&Mレコードの3000 series のアルバムを聴いてみると、それがよく判る。

Paul Desmond『Summertime』(写真左)。Paul Desmond (as), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Leo Morris = Idris Muhammad (ds) がコア・メンバー。ここに、曲毎にゲストが入る。主だったところでは、Mike Mainieri (vib), Joe Venuto (marimba), Airto Moreira (perc), ギターはリズム楽器に徹している。そして、ホーンがメインのジャズオケがバックに控える。アレンジは、Don Sebesky。

「Someday My Prince Will Come」や「Autumn Leaves」など、有名スタンダード曲が選曲され、レノン=マッカートニーの「Ob-La-Di, Ob-La-Da」のカバーがあったりで、これだけで、甘々のイージーリスニング・ジャズと判断して聴くのを止めてしまうジャズ者の方もいるだろう。
 

Paul-desmondsummertime  

 
しかし、聴けば判るが、有名スタンダード曲については、耳新しい、新鮮なアレンジが施され、手垢が付いた感じが全くない。そんな優れたアレンジの下、デスモンドの柔らかで硬派なアルト・サックスが、唄うが如く、囁くが如くの素敵なフレーズを吹き上げる。

レノン=マッカートニーの「Ob-La-Di, Ob-La-Da」のカバーだって、囁くが如くのテーマ部のアレンジも秀逸、アドリブ部については、メインストリーム・ジャズのど真ん中を行く、素晴らしいアドリブ・パフォーマンスを展開する。これは、イージーリスニング志向では全く無い。これは「純ジャズ」なアドリブである。

ラストの、これまた、有名スタンダード曲、タイトル曲の「Summertime」については、これが凄い。バックのリズム・セクションに、ハンコックのピアノ、ロンのベース、モリスのドラム。そこに、フロント1管で、デスモンドのアルト・サックス。そして、出てくる演奏は、ストイックな変拍子&モード・ジャズ。

ハンコックのモーダル・ピアノが迫力満点、そこに、ロンのベースが呼応するように追従する。モリス(イドリス・ムハンマド)のドラムが切れ味の良い変拍子を叩き出す。そこに、耳新しい、モーダルなアルト・サックスのデスモンドが吹きまくる。この『Summertime』は、立派な「メインストリームな純ジャズ」である。

全編に漂う雰囲気は「硬派なイージーリスニング志向のコンテンポラリー・ジャズ」、時々「メインストリームな純ジャズ」。収録曲の曲名見ると、ちょっと聴くのをためらってしまうかもしれないが、この盤、デスモンドの傑作の一枚だと思う。
 
 

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2022年12月23日 (金曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・18

ジャズを本格的に聴き始めた頃、この盤の存在が不思議だった。ジャズの評論からすると、概ね、ディブ・ブルーベックというピアニストは「イモ」なピアニストという評価だった。やれスイングしないだの、やれ歌心が無いだの、そして、酷いなあと思ったのは「下手くそ」や「イモ」という評価。ジャズ者初心者として、これは下品やなあ、と思いつつ、ブルーベックの諸作については、なかなか手が伸びなかった。

しかし、である。ジャズ初心者向けのジャズ盤紹介には、必ずと言って良いほど、この盤のタイトルが上がる。ハワイ出身の S・ニール・フジタがデザインを手掛けた、前衛的な模様の絵をあしらったジャケットが印象的で、ジャズ初心者向けのジャズ盤ならば、とジャズを聴き初めて2年目位にゲットしている。

Dave Brubeck Quartet『Time Out』(写真左)。1959年6月の録音。ちなみにパーソネルは、Paul Desmond (as) Dave Brubeck (p) Gene Wright (b) Joe Morello (ds)。変則拍子ジャズの定盤中の定盤。ジャズで定番のビート、4ビートと2ビート以外を「Time Out(変拍子)」と呼んでいる訳だが、この盤は、その「変拍子の演奏ばかりを集めたアルバム」である。

1曲目の「Blue Rondo A La Turk(トルコ風ブルーロンド)」は「9分の8拍子」。スイングしないピアノとして、一部で忌み嫌われるブルーベックのピアノが印象的な旋律を奏でる。2+2+2+3拍子という刻み。これでは横揺れのスイングは出来ない。ちなみに、ブルーベック・カルテットでは、ブルーベック十八番の「スクエアなスイング」で、この「9分の8拍子の曲」をノリの良い演奏に仕上げている。
 

Time_out_1

 
3曲目のタイトル曲が、かの有名な「Take Five」。「5分の4拍子」の変拍子ジャズで、3+2拍子という刻み。これも横揺れスイングは無理。この「5分の4拍子」の曲も、ブルーベック・カルテットは「スクエアなスイング」で乗り切っている。ジョー・モレロのドラミングの巧みさ。それを支えるブルーベックのピアノのコンピング。

「変拍子の演奏ばかりを集めたアルバム」とは良く言ったもので、前述の1曲目が「9分の8拍子」、3曲目が「5分の4拍子」で完璧な変拍子。他の曲は「3分の4拍子」や「12分の8拍子」といった「3拍子」が主体の曲。5曲目の「Kathy's Waltz」は、6分の8拍子をインテンポで4分の4拍子に強引に被せている様で、これもある意味「変拍子」。

但し、「変拍子の演奏ばかりを集めたアルバム」だと難解になりがちなんだが、ブルーベック・カルテットはそうならない。ブルーベック・カルテットの演奏はどのアルバムも、どの演奏も「判り易い」。この「判り易さ」がブルーベック・カルテットの特徴であり、最大の長所。この『Time Out』がジャズ初心者向けのジャズ盤紹介に上がるのも、この「判り易さ」があるからだろう。

まず優れたアレンジがベースにあって、カルテットのメンバーの演奏能力とテクニックが高いこと。そこに、ブルーベックの理知的でスクエアなノリのピアノが演奏全体を統率し、ウォームで丸く力強いデスモントのアルト・サックスがフロントを担い、破綻の無い抑制の効いた、クールなインプロを展開する。これが「判り易さ」に繋がっている。ジャズにとって「判り易さ」は大切な要素。

しかし、「判り易い」からと言って、この変則拍子の「Take Five」が、1987年、アリナミンVのCMのバックで流れた時には驚きました。「ジャズはお洒落」なんていう、バブル期の産物なんでしょうが、よくこんな変則拍子のジャズ曲をCMに採用したもんです。今でも感心します。
 
 

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2022年12月19日 (月曜日)

「ブルーベック4」初期の傑作盤

Dave Brubeck(ディブ・ブルーベック)のリーダー作の「落ち穂拾い」をしている。

もともと、ブルーベックのピアノが好きなので、当ブログでは、ブルーベックのリーダー作はかなりの数、記事にしてアップしている。が、ブルーベックはキャリア上、リーダー作については「多作の人」。ブルーベックを語る上で、重要と思われる盤もスポッと抜けていたりして、もう少し、充実させる必要があるなあ、と感じた次第。

Dave Brubeck Quartet『Jazz At Oberlin』(写真左)。1953年3月2日、米国オハイオ州のOberlin Collegeでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Dave Brubeck (p), Paul Desmond (as), Lloyd Davis (ds), Ron Crotty (b)。ブルーベック=デスモンドの「大学巡回ライヴ」の中の「とりわけ優れた」1枚である。

収録曲は全て「有名な」スタンダード曲。しかし、全曲、ブルーベックのアレンジが秀逸で、他の同一曲の演奏とは異なる、オリジナリティ溢れる「ブルーベック=デスモンド」ならではの個性的な演奏に仕上がっている。

スタンダード曲の持つ流麗なテーマ部は、はっきりとそれと判る、判り易いフレーズで印象付け。アドリブ展開では、ブルーベック独特のスクエアにスイングする、現代音楽の様な硬質タッチのピアノと、流麗に優しく語りかける様に、ソフト&メロウな、デスモンドのアルト・サックスとが対比する様な、独特な雰囲気を醸し出すインタープレイが見事。
 

Dave-brubeck-quartetjazz-at-oberlin

 
以降の「ブルーベック=デスモンド」のカルテット演奏の個性は、この時点で完全に確立されている。

横揺れにスイングすることは無く、ファンクネスは皆無。それでも、このカルテット演奏は「ノリ」が良い。そして、出てくるフレーズがキャッチャーで流麗。ブルーベックの硬質タッチのピアノのフレーズは実に捉えやすく、流麗で柔らかなデスモンドのアルト・サックスは聴いていて、とても心地良い。その2人のパフォーマンスを支えるリズム隊は堅実で破綻が無い。

つまりは「ブルーベック=デスモンド」のカルテット演奏は判り易く、親しみ易いのだ。聴き手にしっかり訴求する「ブルーベック=デスモンド」のジャズ。聴衆もそれをしっかり感じて、ノリノリで演奏を楽しんでいる様子が良く判る。

僕がジャズを聴き始めた1970年代後半、我が国におけるブルーベックの評価は甚だ悪かった。やれスイングしないだの、やれ歌心が無いだの、そして、酷いなあと思ったのは「下手くそ」という評価。

しかし、僕は「秘密の喫茶店」で、この「大学巡回ライヴ」の中の「とりわけ優れた」1枚を聴かせてもらって、ブルーベックのピアノのファンになった。ジャズを本格的に聴き始めた良い時期に、ブルーベックの「真の演奏」を聴くことが出来、ブルーベックのピアノを「聴き誤らなかった」のは幸いだった。やっぱり、ジャズは自分の耳で聴いて、自分の耳で判断するのが一番だ。
 
 

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2022年12月13日 (火曜日)

ブルーベックとデスモンドの融合

ジャズの楽器の中ではピアノが一番好きである。もともと、子供の頃、中学生まで、クラシック・ピアノを習っていたこともあって、ジャズ・ピアノは「聴く」ばかりでなく、及ばずながら「弾く」側の気持ちやテクニックを慮って、鑑賞することが出来る。

ジャズ・ピアニストはあまたあれど、お気に入りのピアニストは数十名。その中に「デイブ・ブルーベック」がいる。ブルーベックと言えば、僕がジャズを本格的に聴き始めた頃、評論家筋を中心に「スイングしないピアニスト」だの「ファンクネスが無い」だの「白人だからジャズじゃない」だのケチョンケチョンに書くものだから、本当に我が国では人気がイマイチだった。

しかし、21世紀、ネットの時代になって、我が国のジャズ者の方々の中にも、ブルーベックのピアノがお気に入り、という意見もちらほら見る様になった。米国ではデビュー当時から、人気のピアニストである。魅力が無ければ人気は出ない。やっと我が国でも、ブルーベックのピアノの本質を、個性を直接感じて評価するジャズ者の方々が出てきたということ。頼もしい限りである。

Dave Brubeck Quartet『Jazz at the College of the Pacific』(写真左)。1953年12月14日、カリフォルニア州ストックトン「College of the Pacific」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Dave Brubeck (p), Paul Desmond (as), Ron Crotty (b), Joe Dodge (ds)。ブルーベック・カルテットの「大学巡回ライヴ」の音源のひとつ。

ブルーベックの「大学巡回ライヴ」には、『Jazz at Oberlin』をはじめとして名盤揃い。この「College of the Pacific」でのライヴも、ちょっと音質に難があるが、同様に内容は充実している。ブルーベックの硬質のスクエアにスイングするピアノ、暖かくてクールなアルト・サックスの個性は、この1953年のライヴで完成しているのが判る。
 

Dave-brubeck-quartetjazz-at-the-college-

 
ブルーベックのピアノを聴いていると、もともとブルーベックのピアノはスイングしようとはしていない。そもそもオフビートでは無い、ブルージーなキーを多く使わない、クラシックのテクニックをアレンジに反映する。

なるほど、これでは、スイング・ジャズ時代から培われた「横揺れスイング」をしようにも出来ない。しかし、ビートにはしっかり乗っている。リズムはスクエアに乗っている。「スクエアなグルーヴ感」。「スクエアにスイングする」のがブルーベックのピアノであり、ブルーベックの専売特許なのだ。

そんな硬質でスクエアのスイングするピアノに、全く正反対の個性で相対するのが、デスモンドのアルト・サックス。デスモンドのアルト・サックスは「丸い」。暖かく「丸い」。そして、よくよく聴くと、ブルーベックの「スクエアにスイングする」ピアノに乗って、デスモンドのアルト・サックスは「丸くスクエアにスイング」している。

このブルーベックのピアノとデスモンドのアルト・サックスの「正反対の個性の融合」こそが、このカルテットの「肝」。その「正反対の個性の融合」が、このライブ盤にしっかりと記録されている。

聴衆もノリノリ。このブルーベック初期の時代に既に人気は高かったことが窺い知れる。「スクエアなスイング感」が不思議と心地良い。なにも「横揺れスイング」だけが全てでは無い。
 
 

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2017年11月 8日 (水曜日)

ジャズ喫茶で流したい・113

ジャズには、一流ジャズメン達がリーダーになって、気合いを入れて創作するアルバムもあるが、気心知れたジャズメン達が、ちょっと集まって、ジャムセッション風に録音して制作するアルバムもある。そして、意外に、この気心知れたジャズメン達がちょっと集まって録音したアルバムが、実に滋味に富んだ、実に心地良いモダン・ジャズなアルバムになっていたりするから面白い。

例えば、Paul Desmond『First Place Again』(写真)。1959年9月の録音。ちなみにパーソネルは、Paul Desmond (as), Jim Hall (g), Percy Heath (b), Connie Kay (ds)。ピアノの代わりにギターが入ったカルテット構成。この構成とこのパーソネルを見るだけで、この盤に詰まっている音が期待出来る。

ポール・デスモンドは、デイブ・ブルーベックのカルテットに参加して人気のアルト奏者。そこに、ジャズ・ギターの名手ジム・ホールが加わり、ベースとドラムは、モダン・ジャズ・カルテットから、パーシー・ヒースとコニー・ケイが参加。いや〜、当時、人気の一流ジャズメンばかり、しかもバリバリの中堅。粋で渋い、聴くからにジャズらしい音を出す4人である。
 

First_place_again

 
選曲も渋くて、スタンダード曲かトラディショナル曲で占められる(CD再発の時にデスモンド作が入るがオリジナルLPには無い)。冒頭のコール・ポーター作の「I Get a Kick Out of You」や、ジョン・ルイス作の「Two Degrees East, Three Degrees West(2度東3度西)」など、聴いていて惚れ惚れする。典型的なモダン・ジャズ、典型的なハードバップである。

ここまで来ると、もう理屈やないなあ、と思ってしまう。優秀な一流ジャズメン達が、ちょっと集まって録音すると、きっと適度にリラックスした演奏になるんだろう、本当に和やかで優れた内容である。聴く側も適度にリラックスして、微笑みを湛えながら、ちょっと足でリズムを取りながら、首は左右に微かに触れてスイングする。そんな雰囲気の演奏が実に心地良い。

ポール・デスモンドのアルトが興味深い。ブルーベック・カルテットの時には、丸くて和やかで温和なアルトを吹いているのだが、ブルーベック・カルテットを離れて、一人で他流試合に参加した時には、結構、力強いアルトを吹く。どちらが彼の本質なのか、聴いていてとても興味深い。最初から最後まで、心地良いモダン・ジャズがてんこ盛り。隠れ好盤です。
 
 
 
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2016年2月17日 (水曜日)

ベテラン達のクロスオーバー化

1970年代に入ると、商業ロックやポップスの波が大衆の耳を捉え、ジャズはポップスのジャンルの片隅へ片隅へと押しやられていった。時に、1970年当時の純ジャズのトレンドは「フリー・ジャズ」。これでは大衆の耳を取り戻すことは出来ない。

しかし、それではジャズメンは皆、お飯の食い上げである。なんとか食いつないでいく為に、ジャズとロックやポップスの融合を図って、大衆の耳をジャズに繋ぎ止めようとした。そのトレンドが「クロスオーバー・ジャズ」である。

「クロスオーバー・ジャズ」は、ヴァーブのプロデューサーであったクリード・テイラーが1967年に立ち上げた「CTIレーベル」を中心に発展する。ちなみにCTIは「Creed Taylor Issue」の略である。

このCTIレーベルに、当時の有名ベテラン・ジャズメンがこぞって移籍した。電気楽器を交えたジャズとロックの融合ジャズ、クロスオーバー・ジャズに手を染めた訳である。しかし、今の耳で振り返ると、このCTIレーベルの音は意外とジャズに留まっている。

ソフト&メロウなフュージョン・ジャズまではポップに洗練されてはいない、まだまだオフビート濃厚、ファンクネス漂うジャズの感覚がしっかりと残っている。つまり、今の耳で聴き直すと、意外とCTIレーベルのアルバム達は「ジャズ」しているのだ。

例えば、このアルバムなどはその好例だろう。Paul Desmond『Skylark』(写真左)。1973年の録音。ちなみにパーソネルは、Paul Desmond (as), Bob James (p, el-p), Gabor Szabo, Gene Bertoncini (g), George Ricci (cello), Ron Carter (b), Jack DeJohnette (ds), Ralph MacDonald (per), Don Sebesky (arr)。
 

Paul_desmond_skylark

 
パーソネルを見渡せば良く判る。ほとんどが当時の純ジャズのベテラン達ではないか。まず、リーダーがポール・デスモンド。あのデイブ・ブルーベックとの双頭バンドを長年運用してきたベテラン・アルト奏者である。その他、ベースのロン・カーター、ドラムのジャック・デジョネット、パーカッションのラルフ・マクドナルドなど、ベテラン純ジャズメンである。

しかし、演奏される音世界は、クロスオーバーの人、キーボードのボブ・ジェームス、ギターのガボール・ザボ、アレンジのドン・セベスキーを中心に展開されている。明らかに「クロスオーバー・ジャズ」な音世界。このアルバムの音の雰囲気、アレンジの仕掛け、選曲の妙、それぞれが「クロスオーバー・ジャズ」のそれである。

電気楽器がメインに展開される。ビートは8ビート。2曲目の「Romance de Amor」は、映画音楽で有名な「禁じられた遊び」。あの素人でも弾きこなせるギターの大衆曲を生真面目にクロスオーバー・ジャズ化している。この生真面目さが可愛い。ジャズ化には絶対に合わない「禁じられた遊び」だが、本当に生真面目に演奏している。大衆の耳をジャズに繋ぎ止めようとした努力が滲み出ている。

それでも、冒頭の「Take Ten」や「Skylark」などは、現代ジャズから見れば、十分に「メインストリーム・ジャズ」化していて、意外と聴き応えがあって「おっ」と思う。最近、強く思うのだが、CTIレーベルのアルバムって、どれもが意外と聴き応えがあって隅に置けない。最近は結構な頻度でCDプレイヤーのトレイに載っていたりするのだ。
 
 
 
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2015年10月 8日 (木曜日)

こんなアルバムあったんや・50 『Bridge Over Troubled Water』

1960年代以降、ジャズの世界で、米国ポップスやロックの有名曲をカバーすることが多くなった。代表的なのは「ビートルズ」。1964年2月の米国上陸の前後から、猫も杓子もビートルズをカバー、ってな状況になったようで、結構な数のビートルズ・カバー集が出ている。

他には、エルトン・ジョン、ジョニ・ミッチェル、レッド・ツェッペリン、キャロル・キングなどがジャズでカバーされているが、ビートルズが圧倒的である。で、今回「こんなカバーあったんや」とビックリしたのが、サイモン&ガーファンクルの楽曲のカバー集。

Paul Desmond『Bridge Over Troubled Water』(写真左)。1969年の録音。サイモン&ガーファンクルの人気がピークの頃のリリースである。ちなみにパーソネルは、Paul Desmond (as), Herbie Hancock (el-p), Ron Carter (b), Jerry Jemmott (b), Airto Moreira, Bill Lavorgna, Joao Palma (ds), Gene Bertoncini, Sam Brown (g)。Don Sebeskyのアレンジである。

アルバム・タイトルが、サイモン&ガーファンクルの名曲「明日に架ける橋」である。でも、だからと言って、このアルバムが全編に渡って、サイモン&ガーファンクルのカバー集になっているなんて思ってもみない。「へぇ〜、デスモンドもちょっと変わったカバー曲を演奏するんやな」と、僕は最初、この「明日に架ける橋」は、アルバム収録曲の中の1曲だと思っていた。

なので、このアルバムには全く触手が伸びず、21世紀になっても暫く触手が伸びず、何時だったか、このアルバムの内容をネットで確認するに至り、思わず「何だこのアルバムは」。ちなみに収録曲は以下の通り。

  1. El Condor Pasa
  2. So Long, Frank Lloyd Wright
  3. The 59th Street Bridge Song (Feelin' Groovy)
  4. Mrs. Robinson
  5. Old Friends
  6. America
  7. For Emily, Whenever I May Find Her
  8. Scarborough Fair/Canticle
  9. Cecilia
10. Bridge over Troubled Water
 

Paul_desmond_bridge_over_troubled_w

 
ふぇ〜、サイモン&ガーファンクルの楽曲の有名どころがズラリ。僕はサイモン&ガーファンクルの楽曲については、かなり精通しているつもりなんだが、サイモン&ガーファンクルの楽曲って、ジャズでカバーできるのだろうか。

「America」なんて名曲中の名曲だが、これってジャズになるのか。「Scarborough Fair」ってどうやってジャズにするのか。「So Long, Frank Lloyd Wright」や「Old Friends」なんて思いっきり渋い曲もあるが、これも、どうやってジャズにアレンジするのか。とにかく興味津々、とにかく期待感大。

で、聴いてみると、やっぱりちょっと苦しいなあ。ドン・セベスキーが必死にアレンジしている様子が手に取るように判るが、残念ながら成功しているとは思えない。滑らかでウォームなアルトが売りのデスモンドも、カクカクして実に吹きにくそう、窮屈そう。全くスイングしていないし、ジャズならではの流麗さがかなり損なわれている。

う〜ん、エレピのハービー、ベースのロンの参加も影が薄いし、アイアート・モレイラをはじめとするリズム隊も存在感が薄い。豪華なパーソネルな割に、特徴の無い、ふつ〜な演奏に終始しているのが惜しい。

はっきり言って、このアルバムは凡作に近い。でも、そのチャレンジ精神には拍手を送りたい。なおざりに流されるまま適当に売りやすいビートルズの楽曲をカバるよりは、ずっと高尚だし、ずっと志が高い。確かにこのアルバムでは苦戦しているが、もうちょっと工夫すれば、もしかしたら上手くいくのでは、とも思える部分もある。

今一度、このサイモン&ガーファンクルの楽曲をジャズでカバーする「剛のアレンジャー」、誰かいませんかね〜。
 
 
 
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2014年9月27日 (土曜日)

ブルーベック4のライブ演奏です

1950年代から1960年代、米国のジャズ・シーンでは、このバンドは大人気だったようだ。そのバンドとは、デイブ・ブルーベック・カルテット。時期によって、パーソネルは異なるが、リーダーでピアノとデイブ・ブルーベックとアルトのポール・デスモンドは不動のメンバー。

このブルーペックのピアノとデスモンドのアルトが、米国での人気の秘密なんだが、日本ではスイングしないジャズ・ピアノとして、デイブ・ブルーベックは敬遠され、このデイブ・ブルーベック・カルテットにしたって、柔らかでスイングするアルトのポール・デスモンドのみがクローズアップされ、ブルーベックはほとんど無視、という感じだった。

ブルーベックのピアノはスイングしないというより、間を活かしたスクエアなノリが特徴で、横揺れ4ビートのスイング感とは全く無縁。しかし、確かにスクエアのノリは顕著で、スイングしないのはスイングしないんだが、ジャズ特有の「ノリ」については、独特の個性があって、一旦気に入ってしまえば、どんどん癖になる。

デスモンドのアルトは、その音は暖かで柔らか、ほんわりホノボノとする音色で、ビ・バップやハードバップでの切れ味鋭い吹きまくりアルトとは一線を画すもの。口の悪いジャズ者の方々からは「軟弱アルト」なんて呼ばれたりする。でも、よく聴くと、暖かで柔らか、ほんわりホノボノとする音色は、しっかりと「芯」の入ったブロウで、テクニックも高いレベル。芯の部分は意外と硬派なアルトである。

そんなブルーベックのピアノとデスモンドのアルトをライブ音源で楽しめるアルバムがある。Dave Brubeck And Jay & Kai『At Newport』(写真左)である。1956年7月6日、かの有名な、米国はロードアイランド州のニューポート・ジャズ・フェスティバルでのライブ音源である。
 

Dave_brubeck_jay_kai

 
ちなみにパーソネルは、Dave Brubeck,  Dick Katz (p), Paul Desmond (as), J.J. Johnson, Kai Winding (tb), Bill Crow, Norman Bates (b), Joe Dodge, Rudy Collins (ds)。Dave Brubeck Quartet, The Featuring Paul Desmondとして4曲、Jay And Kai Quintetとして3曲、当時の人気カルテットのライブ演奏のカップリング盤である。

カップリング盤ではあるが、ブルーベック・カルテットのこのニューポート・ジャズ・フェスティバルのライブ演奏はなかなかに味がある。純粋に、素のままのブルーベックのピアノとデスモンドのアルトが楽しめる。

ライブ演奏だけあって、その演奏はストレートなもの。現代音楽風に、とか対位法を取り入れるとか、スタジオ録音の場合は、チャレンジや実験が入るブルーベックではあるが、このライブ演奏ではストレートに、モダンなジャズ・ピアノとして演奏している。洒落たクールなバップ・ピアノという風情で、このブルーベックのピアノは単純に楽しめる。

デスモンドのアルトもそうだ。確かに暖かで柔らか、ほんわりホノボノとする音色なんだが、ライブ演奏では、バッチリと音に「芯」が入っている。意外とハードなデスモンドのアルト。疾走感も適度にあり、このデスモンドのアルトも単純に楽しめます。

やっぱり、ジャズはライブやな〜、という思いを改めて想起させてくれる、なかなかに素敵なライブ盤です。カップリングされている、後半のJay And Kai Quintetの演奏も楽しくて、手っ取り早く、米国はロードアイランド州のニューポート・ジャズ・フェスティバルの雰囲気を味わえる「お徳用盤」です。

 
 

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2014年9月 4日 (木曜日)

この組合せは意外と絶妙である

確かに、この組合せは意外と思いつく。例えば、Dave Brubeck Quartetの『Time Out』を聴きながら、ポール・デスモンドの柔らかでリリカルでスインギーなアルトの音を聴きつつ、Moden Jazz Quartet(MJQ)の『Django』を聴いて、MJQの典雅な響きと硬派でスインギーな演奏を聴いて、このデスモンドとMJQと組み合わせたら「どうなんだろう」と想像する。

そんな想像に対する具体的な答えの様なアルバムがある。『The Only Recorded Performance of Paul Desmond With Modern Jazz Quartet』(写真左)。邦題は『MJQ・ウィズ・ポール・デスモンド』。1971年12月25日、NYのタウンホールでのライブ録音。ちなみに、パーソネルは、Paul Desmond (as), John Lewis (p), Milt Jackson (vib), Percy Heath (b), Connie Kay (ds)。

ポール・デスモンドのアルトはスインギー、MJQの演奏もスインギー。スインギーつながりで絶対のこの組合せは「合う」。このライブ盤の冒頭の「Greensleeves」の出だしを聴けば、これはやっぱり「合う」ということを確信する。

クラシックな要素を取り入れたり、フロント楽器がヴァイブだったりして、ちょっとソフト&メロウでムーディーな演奏が特徴と誤解してしまう傾向が強いが、もともとMJQは硬派な演奏が身上。ピアニストのジョン・ルイスのアレンジは流麗だが、カルテットの4人の演奏は、それぞれ硬派でスインギー。

そういう意味で、そんな硬派でスインギーなカルテットをバックに、デスモンドのアルトが実に映える。MJQの演奏をバックにすると、ポール・デスモンドの柔らかでリリカルでスインギーなアルトの音が一層際立つ。そして、両者の共通項は「スインギー」。デスモンドとMJQは「スインギー」という共通項のもと、最適にコラボする。

1. Greensleeves (Traditional)
2. You Go To My Head
3. Blue Dove
4. Jesus Christ Superstar
5. Here's That Rainy Day
6. East Of The Sun
7. Bag's New Groove
 

Mjq_desmond

 
収録曲は上記の通り。実に魅力的ですね。トラディショナルの「グリーンスリーブス」でのデスモンドのアルトとMJQの演奏との対比が素晴らしい。柔らかいデスモンドのアルトに対する硬派な演奏のMJQ。そんな対比が際立つアレンジも聴きどころのひとつ。もともと甘い旋律を持つ「Greensleeves」なんだが、意外と硬派な響きにちょっとビックリ。

ジャズ・スタンダード曲中心に収録曲が選曲されていますが、4曲目の「Jesus Christ Superstar」の存在に思わずニヤリとします。映画にもなったロック・オペラのテーマ曲なんですが、これがジャズとして演奏されるなんて思いもしませんでした。この曲はさすがにジャズにはならんだろう、と思っていたのですが、これがまあ、堂々の「ジャズ」。アレンジの勝利とアドリブ力の勝利ですね。

さて、CDの音源としては、現在入手できるものは、Paul Desmond & The Modern Jazz Quartet『Live In New York 1971』(写真右)というアルバムの前半7曲が、この『MJQ・ウィズ・ポール・デスモンド』の音源とイコールです。もともとの『MJQ・ウィズ・ポール・デスモンド』のLPやCDはなかなか手に入らないので注意が必要です。

とにかく聴いて楽しい組合せ。このデスモンドとMJQの組合せは、このアルバムが唯一。意外ですね。まあ、1971年という時代、商業ロックと米国ポップスの興隆というジャズを取り巻く環境を鑑みると、仕方の無いことでしょうか。柔らかでリリカルで硬派でスインギーなジャズは、当時はポップス音楽として大衆的に受けが悪かったと思います。

たしか、日本での初出は1981年であったような記憶があります。このアルバムを手にして初めて聴いた時は、ちょっと刺激が足らないなあ、良いジャズだけど何となく古いなあ、と感じました。今は違いますよ。こんな小粋で素敵なライブ盤はなかなかありません。組合せの妙ということで、ジャズ者の皆さんに世代を問わずお勧めです。
 
 
 
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