やっとのことで『Footloose !』
このところ、ポール・ブレイを掘り下げている。ポール・ブレイは、ブルースやファンキーな雰囲気が全く皆無な、現代音楽的な硬質で切れ味鋭いタッチと幾何学的で切れ切れなフレーズが特徴のピアニスト。2016年1月に惜しくも鬼籍に入ってしまったが、ブレイのピアノはユニーク。
基本は「余白」を活かしたリリカルで耽美的なピアノであるが、アドリブ部はモーダルに展開、突如フリーキーに転換し、アブストラクトにブレイクダウンする。この「落差」が堪らない。このダイナミックな展開が「即興演奏の魅力」に直結し、ブレイ独特の個性の発露に繋がる。
フレーズの作りは「幾何学模様的」で、スイングやブルースなどとは全く無縁。どちらかといえば、現代音楽に通じる雰囲気が強く、即興演奏の妙と、モーダル時々フリーなフレーズ展開が無ければ、ジャズのジャンルには入らないのでは、と思うくらい、従来のジャズからはちょっと離れたところにある。
例えば、セロニアス・モンク、ハービー・ニコルス、オーネット・コールマンなど、従来の4ビート・ジャズの基本から大きく外れた、それでいて「即興演奏と自由度の高い展開と唯一無二の個性」という点で、しっかりジャズのど真ん中にいる「異端なジャズマン」が存在するが、ポール・ブレイは、そんな「異端なジャズマン」の一人である。
Paul Bley『Footloose !』(写真左)。1962年8月17日、1963年9月12日の録音。Savoyレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Paul Bley (p), Steve Swallow (b), Pete LaRoca (ds)。50年以上に渡るブレイのキャリアの中で、ほぼ初期の、ブレイのピアノの個性と特徴がとても良く判るトリオ演奏。
冒頭の「When Will The Blues Leave」から、「異端なジャズマン」のピアノ全開。演奏フォーマットはハードバップだが、出てくるピアノのフレーズは、従来の4ビート・ジャズの基本から大きく外れた、ブレイのピアノの特徴である「美しくリリカルな」ものと、その合間に「激しいアブストラクトなブレイクダウン」と「思索的で静的なフリー・ジャズ」の交錯が展開される。
トリオ演奏自体はハードバップ風だが、出てくる音は、従来のハードバップな音からは大きく逸脱する。プレイのピアノは先にも述べた様に、基本は「余白」を活かしたリリカルで耽美的なピアノであるが、幾何学模様的なノリで、アドリブ部は突如フリーキーに展開し、アブストラクトにブレイクダウンする。そして、そのブレイの個性的な弾き回しを理解して、スワローが、これまた幾何学的なベースラインを叩き出す。
そして、特筆すべきは、ラロカのドラミング。ブレイのフレーズやリズム&ビートにクイックに反応しつつ、幾何学模様的なポリリズミックなドラミングを叩き出す様は痛快ですらある。このあまりに個性的な、どこかモーダルなドラミングはラロカのドラミングの独特の個性。しかも、そのラロカの独特な個性のドラミングが、ブレイのピアノにバッチリ合っている。
この『Footloose !』、ジャズ盤紹介本やブレイのリーダー作紹介に、ちょくちょくタイトル名が上がる、意外と有名なアルバムなんだが、Savoyレーベルからのリリースなのに、なかなかCDリイシューされない、サブスク・サイトに音源アップされないアルバムで、中古LPはあまりに高額。僕もなかなか音源が確保できなかったが、やっと最近、音源をゲットできた。
ブレイのピアノの個性と特徴が良く判るトリオ盤。やっとのことで、収録曲全部を聴くことが出来て、やっと溜飲が下がった。ブレイのピアノは「異端なジャズマン」のピアノが故に、一度ハマったら「クセになる」。ブレイのピアノを語る上では避けて通れない、ブレイのキャリア初期のトリオ名盤でしょう。良いアルバムです。
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