2025年12月15日 (月曜日)

エリック・ミヤシロを認識する

エリック・ミヤシロは、1963年7月13日、米国のハワイ州生まれのトランペット(フリューゲルホルン)奏者。ミヤシロのトランペットの個性の一つ「ハイノート・ヒッター」としても知られる。また、ビッグバンドのEMバンドのリーダーでもある。2000年から2010年まで、リーダー作は5作。

Eric Miyashiro『Blue Horizon』(写真左)。2025年9月のリリース。ちなみにパーソネルは、エリック・ミヤシロ (tp), 本田雅人 (as), 中川英二郎 (tb), 川村竜 (b), 山本真央樹, 川口千里 (ds), 中川就登 (p) 等。スペシャル・ゲストも数多く参加。エリック・ミヤシロの15年ぶり通算6作目となる作品。

エリック・ミヤシロの名は、ほとんど覚えがない。なんせ、聞けば15年ぶりのリーダー作。その前作「Skydance」についても、どうにも耳にした覚えが無い。バークリー音楽大学出身にて、ミヤシロのトランペットの素性は確かなもののはず。冒頭のタイトル曲「Blue Horizon」を聴いて、そのミヤシロのトランペットの素性は、やはり、確かなものと確信する。

基本はしっかりとしたビッグバンド・アレンジの演奏の数々。ホーン・セクションがエネルギッシュで迫力抜群、整然としたユニゾン&ハーモニー。規律が取れ、それぞれの参加メンバーの高い演奏レベルで、切れ味の良いパフォーマンス。
 

Eric-miyashiroblue-horizon

 
ほど良いテンションが、演奏全体を引き締め、爽快感を醸し出している。とにかく、迫力がある割に、聴き易いバンド・サウンド。冒頭「Blue Horizon」から、7曲目「Back Stage Pass」まで、全曲、エリック・ミヤシロの自作曲。ラストの「Spain」だけ、チック・コリアの名曲のカヴァー。

自作曲の曲&アレンジが良好なので、ビッグバンド志向のバンド・パフォーマンスが映えに映える。チックの「Spain」のカヴァーも、ホーン・セクションを前面に押し出したアレンジが良好で、ダイナミックな曲想にしっかりと応えている。

ホーン・セクションのダイナミズムとスピード感がメインの、ビッグバンド志向の音作りは、他にありそうで無いユニークな内容。演奏全体の印象は、コンテンポラリーな「フュージョン・ビッグバンド」な音作り。エリック・ヤシロ本人は「ジャズ・オーケストラ」という表現をしているらしい。

ホーン・セクションが主役の「フュージョン・ビッグバンド」な音世界は、聴いていて流麗、聴いていてダイナミック、適度に耳に刺激が心地良く、意外と「ながら聴き」に適した佳作である。気軽に聴いて良き「フュージョン・ビッグバンド」な音である。
 
 

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2025年11月20日 (木曜日)

新生カシオペア・サウンド降臨

デビュー当時のキャッチコピーである「スリル・スピード・スーパーテクニック」をモットーに、1979年の鮮烈なレコードデビュー以降、45年もの間、日本を代表するクロスオーバー&フュージョン・バンドでありつづける「カシオペア」。その「カシオペア」のニュー・アルバムが登場している。

CASIOPEA『True Blue』(写真左)。2025年の作品。ちなみにパーソネルは、野呂一生 (g), 安部潤 (key), 鳴瀬喜博 (b), 今井義頼 (ds)。12年間のカシオペア・サウンドを担っていた大髙清美が昨年暮れに卒業、2025年5月、新メンバーに安部潤を迎え、これを機に第5期グループ名をオリジナル表記の「CASIOPEA」に戻し、再出発した最初のアルバム。

まず、初期のCASIOPEAを思い出すようなサウンドになっている。1979年、デビュー当時は、若さ故の溌剌さ、尖ったエッジ、前掛かりのバカテク・フレーズが「ウリ」だったが、今回の新生「CASIOPEA」のサウンドは、サウンドのイメージとしては、確かにデビュー当時のイメージだが、演奏の質としては、明るくポジティヴ、音のエッジはほど良く角が取れていて、バカテク・フレーズには「余裕」が感じられる。
 

Casiopeatrue-blue

 
エレギとキーボードの音が同列でフロントを担うサウンドのアウトフレームは変わらない。キーボードが大高清美から安部潤に交代しているので、大高の独特の個性だった「プログレ色」は交代し、カシオペア初期のクロスオーバー・ジャズ志向の音に戻っている。これが「初期のCASIOPEAを思い出すようなサウンド」になっている大きな理由だろう。

収録曲全7曲、いずれも出来が良い。それと、サウンドがカラフルになった気がする。キーボード担当の安部潤は、ピアノやエレクトリックピアノなどがメインの音づくり。オルガン特有の歪みが無くなった分、キーボードの音がカラフルに響く。野呂一生のエレギはいつも通り。パワフルでバカテクで歌心があって、カシオペア・サウンドの大本をしっかりとグリップしている。

久し振りに新生カシオペアとなり、男性正規メンバー4人ユニットとなっての一枚目のアルバム。初期のカシオペア・サウンドが返って来た、と、旧来のファンからすると、諸手を挙げての大歓迎ムードだが、このままだと、懐古趣味に陥る危険性もある。次作以降、今度はどんなサウンドの変化が待っているのか、いないのか。次作である。次作こそが、新生「カシオペア」の真価が問われる、と僕は思っている。
 
 

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2025年11月12日 (水曜日)

T-SQUARE ”TURN THE PAGE!”

T-SQUAREは、1976年11月に結成。1978年アルバム『Lucky Summer Lady』を発表し本格的に活動を開始。以降、一昨年リリースの「VENTO DE FELICIDADE 〜しあわせの風〜」までで50枚のアルバムをリリース。和クロスオーバー&フュージョン・バンドの草分けであり、代表格の一つであり、レジェンドでもある。ファーストアルバムのリリース以降、47年間、バンド・サウンドを都度、深化させているのは「見事」と言うほか無い。

T-SQUARE『TURN THE PAGE!』(写真左)。2025年の作品。ちなみにパーソネルは、伊東たけし (as, NuRAD), 亀山修哉 (g), 長谷川雄一 (p, key), 田中晋吾 (b), 坂東慧 (ds)。T-SQUAREの2年振り、51枚目のアルバム。 2025年6月4日にリリース。プロデューサーとして元キーボーディストの河野啓三が参加している。

タイトルの「TURN THE PAGE!」は「過去のことを整理して新たに始める」という意。この盤には、従来の「T-SQUARE」サウンドがてんこ盛り。冒頭の「君と歩こう」の出だしの数フレーズだけで、従来の「T-SQUARE」色の音と確信する。それほどまでに、個性的で、他が真似出来ない、真似しない、「T-SQUARE」固有の、唯一無二のサウンド。
 

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リズム&ビートのテンポも「T-SQUARE」らしい、ミッド・テンポが中心。音の傾向は、クロスオーバー&フュージョン。どちらかというと、ファンクネス皆無、ロック寄りのクロスオーバー&フュージョン。これも「T-SQUARE」らしい音傾向。特にキーボード・ワーク、そして、ベース&ドラムのリズム隊は「ロック志向のサウンド」がメイン。しかし、フロント楽器、サックス+ウィンド・シンセ、そして、エレギについては、クロスオーバー&フュージョン・ジャズ志向。これが、従来の「T-SQUARE」らしさ。

冒頭の「君と歩こう」は、新生T-SQUARE の、イントロで5人それぞれ登場という趣向の「名刺代わり」の1曲。2曲目の「Marmalade!」の爽快感はT-SQUAREならではのもの。3曲目の「琥珀色の時」は泣きのサックス大活躍のバラードだが、ファンクネスは皆無。5曲目の「Front Runner」は、明らかにロックからジャズへのアプローチ。ロック志向のクロスオーバー・サウンド。7曲目の「ULTRA」では、T-SQUARE のテクニックの高さを再認識等々、全曲、T-SQUAREらしさが満載。

メンバー編成については、本作から、ベースに田中晋吾、キーボードに長谷川雄一、ギターに亀山修哉が正式メンバーとして加入。バンド形態及び5人体制が復活。使用楽器については、伊藤たけしが、30年以上にわたってウィンド・シンセにEWIを使用していたが、このアルバムから、NuRAD(ニューラッド)を使用。バンドとしての「T-SQUARE」が、再び充実し始めている。目新しい何かがある訳では無いが、T-SQUARE の更なる深化がビンビンに感じられる秀作である。
 
 

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2025年11月 9日 (日曜日)

鈴木茂”White Heat”を久々に聴く

鈴木茂(すずき・しげる)。日本のギタリスト・レジェンドの1人。はっぴいえんど、ティン・パン・アレーなどのメンバーとしてギターを担当し、1975年には米国のミュージシャンを起用、ロスで録音した初ソロ盤『Band Wagon』dでソロ・デビュー。ソロ・デビュー当初から、ボーカル入り(これがあまり、でねえ・笑)のAOR志向の和フュージョンを追求していたが、1979年、このアルバムで、オール・インストルメンタルの「和フュージョン・ジャズ」なアルバムをリリースして、我々を驚かせた。

鈴木茂『White Heat』(写真左)。1979年の作品。ちなみにパーソネルは、鈴木茂 (g), 村岡建, 砂原俊三, Jake H.Concepcion (sax), 数原晋 (tp), 新井英治(tb), 坂本龍一, 佐藤準, 矢野顕子 (key), 小原礼, 後藤次利 (b), Robert Brill, 高橋幸宏 (ds), 浜口茂外也 (perc, fl), ペッカー (perc), ラリー寿永 (perc), Salita Escobar (vo)、バックに、The Ohno Strings (strings) が入る。ビクター期における、唯一のインストルメンタルを中心とした作品になる。

当時、自身でも「ギターのインストゥメンタルやってると煮詰まってくる」と語っていたのだが、この盤はインストルメンタルを中心とした作品。明らかに、大流行していて、フュージョン・ジャズの「ギター・フュージョン」をやって、一発当てようと思ったのか、どうなのか。とにかく、収録曲の質も良く、和フュージョン独特のアレンジも良好。鈴木茂のギターも大活躍とあって、このインストルメンタルを中心とした作品、なかなかの「和フュージョン」の秀作に仕上がっている。
 

White-heat 

 
冒頭「Hot Blooded」のギターの前奏から、このインストは米国系では無いと感じる。ファンクネス皆無な乾いたオフビート、独特なエコーとサスティーンが効いたギターの音色。米国にはない、フュージョン・テイストのインストで、しかも録音が良い。これは「和フュージョン」それも、1970年代後半から1980年代初頭の音作りと当たりを付ける。エレギの音色が独特で個性全開。これは鈴木茂、と確信する。

全体の音作りは、当時のソフト&メロウなフュージョン・サウンド。耳当たり、聴き心地の良い、上質のイージーリスニング志向のソフト&メロウなフュージョン・サウンド。フレーズがどこか米国フュージョンのイメージを借りてきている雰囲気なので、今の耳にはちょっと古さを感じるのが残念。それでも、鈴木茂のエレギは鳴りに鳴っているから、これだけでも、この盤は「買い」だろう。

バックのミュージシャンも、曲者優秀どころがズラリ。特に個性の強い、高橋幸宏のドラム、坂本龍一のキーボード、小原礼、後藤次利のベースは印象的に響く。1曲1曲の収録時間が4分前後、フェードアウトの多用が玉に瑕だが、それ以外は、水準以上の演奏で、和フュージョンの秀作の1枚、として問題無い、聴き甲斐のある、和フュージョンな1枚である。
 
 

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2025年11月 4日 (火曜日)

野田ユカ『カリブの夢』を聴く

和フュージョンは、米国とは全く異なる、独特の深化を遂げていく。リズム&ビートは、ファンクネス希薄なロック寄りのオフビート。楽器はシンセサイザーを始めとする鍵盤楽器が活躍する。米国では、フュージョンはスムースへと進化するが、我が国では、フュージョンは、ばりばり硬派な正統派フュージョンを突き進むか、イージーリスニング&ヒーリング志向のライトでポップなフュージョンに枝分かれするか、のどちらかだった。

野田ユカ『カリブの夢』(写真左)。1989年の作品。ちなみにパーソネルは、野田ユカ (key), 塚山エリコ (produce, key), 土岐英史 (sax), 萩谷清 (g), 加瀬達 (b), 渡辺直樹 (b), 市原康 (ds), 岡本郭男 (ds), 鳴島英治 (perc), 木村 "キムチ" 誠 (perc)。副題が「ライト・フュージョン・ファンタジー」の、和フュージョン志向のインスト盤。

リーダーの野田ユカは、現在はピアニスト・鍵盤ハーモニカ奏者。しかし、彼女は、エレクトーンフェスティバル'81全日本大会入賞の実績を持つ。このアルバムは、野田ユカが、ヤマハ音楽振興会のエレクトーンプレイヤーだった89年に発表したソロアルバム。副題からも判る様に、あっけらかんと明るい、ファンタジーな、イージーリスニング&ヒーリング志向のライトでポップな和フュージョン。
 

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和フュージョンの深化の特徴として、鍵盤楽器の積極的活用がある。この盤でも、当然、主役はエレクトーンからシンセサイザーをはじめとする鍵盤楽器が大活躍。ギターとサックスは、その鍵盤楽器が活躍する中での「口直し」というか「耳直し」的な役割を果たしている。このイージーリスニング&ヒーリング志向のライトでポップなフュージョンのメインは「鍵盤楽器」。テクニックは極上、歌心もあって、演奏のレベルは高い。舐めてはいけない。

ベタな潮騒の音から始まる、ライトでポップなフュージョン・チューン、タイトル曲の「カリブの夢」。隠し味に、カリビアンなリズム&ビートが見え隠れするところが、良いアクセントになっている。キャッチーなエレクトーンの調べがキュートで印象的な「Manhattan Blue」。チャイニーズ&テクノポップなアレンジが和フュージョンらしい「Clip My Heart」。全体的にカリビアン、ラテン、テクノの音要素を融合しつつ、海辺のアーバンな雰囲気を醸し出したソフト&メロウな音作り。

とにかく、あっけらかんとして、翳りのない、海の香りがする、アーバンな、イージーリスニング&ヒーリング志向のライトでポップな和フュージョン。じっくりとスピーカーに対峙して聴き込む系の硬派なフュージョンでは無いが、ながら聴きとして、イージーリスニングとして、BGMとして、リラックスして聴くには最適な和フュージョン盤。硬派なフュージョン者の方々からすると「ありえない」盤かもしれないが、イージーリスニング&ヒーリング志向の和フュージョンとしては良い内容の盤だと思います。
 
 

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2025年11月 2日 (日曜日)

ジャズ喫茶で流したい・304

プリズム(PRISM)は、和田アキラ(ギター)と渡辺建(ベース)を中心に1975年に結成された、クロスオーバー&フュージョン・バンド。今となっては、マイナーな存在に甘んじているが、結成当時は人気のバンド。インスト重視、高い演奏レベル、ロックをベースに、ジャズ、エスニカン・ミュージック、プログレッシブ・ロックなどを取り込んだ、ロックからアプローチしたクロスオーバー&フュージョン志向の音世界は、唯一無二な個性だった。

PRISM『SURPRISE』(写真左)。1980年の作品。ちなみにパーソネルは、和田アキラ (g), 佐山雅弘(p, key), 渡辺建 (b), 青山純(ds)。プリズムの、ライヴ盤含めて、デビュー以来、4枚目のアルバム。このアルバムから、ピアノ、キーボードに佐山雅弘、ドラムに青山純が参加している。プリズムの音がダイレクトに伝わってくる、プリズムのキャリア上、最高傑作の誉れ高い秀作である。

プリズムの音が特徴的。リズム&ビートの雰囲気を聴くとクロスオーバー&フュージョン・テイストなんだが、フロントのエレギの音はロック・テイスト。バックの演奏の雰囲気がイニシアチヴを取ると演奏全体の雰囲気はクロスオーバー&フュージョン志向になるが、フロントの和田のエレギがイニシアチヴを取り出すと、途端に演奏全体の雰囲気はロック志向になる。
 

Prismsurprise

 
そして、リズム&ビートが、確実に「和クロスオーバー&フュージョン」仕様。ロックからアプローチした、クロスオーバー&フュージョン・ジャズでありながら、米国のクロスオーバー&フュージョン・ジャズに特徴的な「ファンクネス」が感じられないスンナリ&スッキリした、乾いたオフ・ビートが特徴的。明らかに、プリズムは、日本仕様のクロスオーバー&フュージョン・ジャズ・バンドの代表的存在のひとつなのだ。

そんなリズム&ビートが醸し出す独特のグルーヴ感が堪らない。そんな独特のグルーヴに乗って、和田アキラのバカテク・ギターが疾走する、佐山雅弘のキーボードが飛翔する。和田のギターは当初通りロック・テイスト優先なんだが、佐山雅弘のキーボードはジャジーで、この佐山のジャズ志向のフレーズが、プリズムのクロスオーバー&フュージョン志向を色濃くしている。ロック志向の和田のギター、ジャズ志向の佐山のキーボード。この二者のインタープレイが、このアルバムの音世界を決定付けている。

このプリズムの圧倒的な演奏テクニックと整然としたバンド・アンサンブルは、明らかに日本のフュージョン・バンドの個性。このロックからアプローチしたクロスオーバー&フュージョン志向の音世界は、プリズム独特の音世界。ロック・インストの良いところと、クロスオーバー&フュージョン・インストの良いところを併せ持った音世界は、和ジャズの真骨頂。良いアルバムです。
 
 

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2025年10月27日 (月曜日)

清水靖晃『案山子』を再聴する

1980年代の和フュージョンは聴いていて面白い。1970年代は、米国フュージョンのフォロー的音作りからスタートしたが、1980年を迎える頃には、米国フュージョンとは違う、明らかな、和フュージョン独特の個性を発揮し始める。シンセサイザーの多用、テクノ&ニューウェーヴとの融合、希薄なファンクネス。今一度、再聴に値する、個性的なアルバムが多くリリースされている。

清水靖晃『案山子』(写真左)。1982年10月の録音。ちなみにパーソネルは、清水靖晃 (sax, cl, ds, perc, vo), 笹路正徳 (key), 土方隆行 (g), 渡辺モリオ (b), 山木秀夫 (ds), 以上、マライア・メンバー。ゲストとして、スペクトラムの兼崎順一 (tp) 等が参加。1980年代、独特の深化を遂げた「和フュージョン」の傑作の一枚。

2ヶ月後に完成するマライアの傑作『うたたかの日々』(ここをクリック)のプロトタイプ的な内容。ジャズ、フュージョン、ハード・ロック、プログレッシブ・ロック、テクノ、ニューウェーヴといった要素を融合した、我が国独特の「和フュージョン・ジャズ」志向な傑作。マライアの音世界に比べて、ニューウェーヴ&テクノ志向が強く出ている。
 

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最初、聴いた時は、テクノ・ポップか、YMOか、と思った。聴き進めて行くと、高橋ユキヒロ的な音世界が広がり、続いて、細野晴臣流人力ループ風ミニマルな音世界が出てきて、即興演奏風のパートでは、欧州のニュー・ジャズ志向のスピリチュアルな音世界が広がる。縦ノリ均一ビートは、やはり、テクノの影響が大。

6曲目「夢では」の、ニュー・ジャズ風の縦ノリ均一ビートに乗った、スピリチュアルでフリーな展開はジャジー&エレクトロ。途中、ボーカルが入ってくると、たちまち、その音世界は「ジャジーなニューウェーヴ&テクノ志向」に変換していく。それでも、管楽器のユニゾン&ハーモニーはジャジー。テープ操作によるギミックも小気味良く、和フュージョンならではの「融合音楽」の成果がこの1曲に詰まっている。

全くもって、摩訶不思議な音世界である。恐らく、和フュージョンだけかもしれない。ジャズ、フュージョン、ハード・ロック、プログレッシブ・ロック、テクノ、ニューウェーヴといった要素を融合した音世界。和フュージョンならではの音楽成果。音楽ジャンルを全く気にせず、「良い音楽」として、再評価したい、清水靖晃『案山子』である。
 
 
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2025年10月26日 (日曜日)

野力奏一『Noriki』を再び聴く

日本のフュージョン・ジャズは、決して、米国のフュージョン・ジャズのフォローでは無かった。米国フュージョンのエッセンスを取り込みつつ、独自の深化を遂げている。ファンクネスの希薄さ、純ジャズ・テイストの折り込み、クロスオーバー・ジャズ志向の継承。AORとの融合。米国フュージョン・ジャズに無い、独特の個性で、日本のフュージョン・ジャズは深化し続けている。

野力奏一『Noriki』(写真左)。1983年の作品。ちなみにパーソネルは、野力奏一 (key), 酒井春雄 (sax), 田附透,中井浩二 (el-g), 久末隆二 (el-b), 今泉正義 (ds)。ゲストミュージシャンとして、数原晋 (tp), 平内保夫 (tb), 斉藤ノブ (perc), イブ, 国分友里恵 (vo)。

本多俊之&バーニング・ウェイブ、山下達郎ツアーへの参加、阿川泰子、伊藤君子、チャリート等、数多くのアーティストのアルバムにピアニスト、アレンジャーとして参加で名を馳せた、野力奏一の初リーダー作。

明らかに、日本のフュージョン・ジャズらしい音世界。日本のフュージョン・ジャズの個性である「ファンクネスの希薄さ、純ジャズ・テイストの折り込み、クロスオーバー・ジャズ志向の継承、AORとの融合」がしっかりと反映されている。当然、演奏テクニックのレベルは高く、レベルの高い演奏は、カラッとした「爽快感」を醸し出している。
 

Noriki  
 

収録されたどの曲も良い曲ばかり、そんな好曲に恵まれて、野力奏一の軽快なピアノが唄いまくっている。とにかく、歌心満点でテクニカル、爽快に疾走する野力のピアノは聴き応え抜群。

酒井のサックスも、そんな野力のピアノに触発されたのか、ブリリアントに唄いまくっている。久末&今泉のリズム隊も、タイトで堅実で爽やか。クロスオーバー・ジャズの志向を弾き継いで、AORなソフト&メロウを溶け込ませている。

冒頭の「You Need Me」は歌モノ、格好良いフュージョン・ソウル。3曲目「Black Duck」は、スラップ・ベースが炸裂するファンキー・ブギー。4曲目「Cozy's Melody」は極上のAOR志向のアーバンな雰囲気が芳しいインスト・ナンバー。そして、ラス前「Do What You Do」は、ソフト&メロウなフュージョン・ブギー、歌モノ「Do What You Do」。和フュージョン独特の雰囲気を宿したナンバーが目白押し。

この野力奏一『Noriki』は、日本のフュージョン、いわゆる「和フュージョン」の深化の完成形の一つを音にした、和フュージョンの秀作の一枚である。なかなかCDリイシューされなかったが、昨年11月、やっと、CDリイシューが実現、現在では、ストリーミング・サイトでも、気軽に聴くことが出来る様になった。良い時代になったものである。
 
 

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2025年10月23日 (木曜日)

シンセサイザーのフュージョン

日本のフュージョン・ジャズは、米国とも欧州とも違う、全く、独自の独特の深化を遂げたと思っている。まず、ビートが独特で、ファンクネスはほぼ皆無。ジャズ・ファンクをやっても、ビートは乾いていて粘りは無い。テクニックは優秀。特にキーボードの使い方が秀逸で、シンセサイザーの使い方は世界的に見ても群を抜いていると思う。

Logic System『Venus』(写真左)。1981年の作品。YMOの4人目のメンバーとも言えるシンセサイザーのプログラマー、松武秀樹によるユニットの2作目。フュージョン・ジャズを想起させる様な「縦ノリ・スインギー」な音世界が特徴。これをアナログ・シンセサイザーで演奏しまくる。圧巻のシンセサイザー・フュージョンである。

ロジック・システム(Logic System)とは、当時、イエロー・マジック・オーケストラのマニピュレーター、松武秀樹が結成した音楽ユニット。一般的には「テクノ・ポップ」のジャンルになっているが、演奏を聴いてみると、冬至のフュージョン・ジャズ・インストルメンタルとテクノ・ポップの融合の様な音世界。どこか、欧州のシンセサイザー・ミュージックを彷彿とさせる、幽玄で神秘的で、どこかクラシックの香りがする、端正な音世界。
 

Logic-systemvenus

 
元来ジャズ好きだった松武秀樹である。作曲者に、トッド・ラングレンズ・ユートピアの一員だったロジャー・パウエルや、米国フュージョン畑のドン・グルージンなどを迎えて、シンセサイザーで演奏表現するフュージョン・ジャズ〜AOR演奏集。ユニークなところでは、当時のニューミュージックの人気グループだったオフコースの「I Love You」のカヴァーまでやっている。

当時は、シンセサイザーで作ったフュージョン〜AORな演奏、ということだけが話題になって、シンセサイザーはここまで出来る、とか、ビートに人間味が無い、とか、音に歌心が無い、とか、そんなシンセサイザーを使った演奏に対しての評価に終始していた。演奏自体の音楽性とか、音作りに対する深掘りとか、本質的な評価は無かったが、今の耳で聴くと、これは、シンセサイザーで作ったフュージョン〜AORな演奏として、十分「アリ」。

シンセサイザーの特性を全面的に活かした、恐らく、我が国でないと為し得なかった、シンセサイザーによるフュージョン・ジャズであり、テクノ・ポップとジャズの融合の音世界なんだと、この盤を聴き直して、改めて感動した。ペーター佐藤によるイラストがジャケット含めアートワークの全面にフィーチャーされているのもグッド。我が国独特のフュージョンとして再評価したい。
 
 

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2025年10月22日 (水曜日)

三宅純の和フュージョン名盤

しかし、素晴らしいリイシューである。とにかく懐かしい。1983年の和フュージョンの名盤である。当時「ジャズ・トランペットの貴公子」ともてはやされた三宅純。日野皓正の一番弟子というだけあって、三宅のトランペットは日野皓正のフォロワーの音。師匠より、エッジが丸くて滑らかなところ、フレーズの作りがポップなところが、三宅のトランペットの個性。

Jun Miyake『June Night Love』(写真左)。1983年の作品。ちなみにパーソネルは、三宅純 (tp, flh), 清水靖晃 (ts), 宮本大路 (ss, ts), 野力奏一(key), 内田浩誠(ac-p, el-p), 秋山一将, 北島健二, 是方博邦 (el-g), 高水健司(el-b), 河原秀夫(ac-b), 日野元彦, 村上秀一 (ds), イヴ (cho) 他。我が国の当時のフュージョン畑の強者が大集結。日野皓正の一番弟子、三宅純のデビュー盤である。

冒頭の「A thoughtful touch」から、タイトで硬派で和フュージョンらしい、極上のフュージョン・ジャズが展開される。1970年代の正統派フュージョンな音作り。決してブラコンに交わらず、決してダンサフルを追求しない。オフビートの8ビートがメインなのに、ファンクネスは限りなく希薄。テクニック優秀。テクニックだけ捉えれば、当時のウェザー・リポートや、チック・コリア・エレクトリック・バンドと引けを取らない。
 

Jun-miyakejune-night-love

 
2曲目の「Could it be real?」などは、和フュージョンの特徴が良く判る演奏で、基本はジャズ・ファンクな演奏なんだが、粘りのあるファンク・ビートは皆無。乾いたファンク・ビートで、切れ味良くカラッとしていて、どちらかと言えば、デジタルチックなビート。テクニックは優秀、歌心もある。1970年代のフュージョン・ジャズの良いところをそのままキープして、和フュージョンの個性を織り込んだ、そんな演奏の数々。

そして、この盤の演奏の面白いところは、曲が進むにつれ、ソフト&メロウなフュージョン色がだんだん薄れていき、ストレート・アヘッドな、メインストリーム志向のコンテンポラリーなエレ・ジャズになっていくところ。ラスト3曲辺りは、エレクトリックでコンテンポラリーな純ジャズといったイメージになっていて、聴き応えがある。素姓確かな硬派なメインストリーム・ジャズ。和フュージョンの懐の深さが窺い知れる。

アンディ・ウォーホル出演のTV-CMに使用されたことで一世を風靡した「Could it be real?」を収録している(2曲目)。1983年から約1年間放送されていたTDKビデオテープのCM。三宅純が音楽を手がけたビデオ/カセットテープのCMは、今も名作として語り継がれている。しかし、当時の和フュージョンのレベル、相当に高い。今回、この盤、聴き直して、改めて感心した。
 
 

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