2022年9月23日 (金曜日)

進取の気性に富む「バロン」

いろいろと「小粋なジャズ」盤を求めて物色していると、あれっ、こんな盤あったんや、と聴いたことの無い、新しい盤との出会いがちょくちょくある。

そういう意味ではジャズの裾野は広い。長年積み上げてきた、ジャズ盤のリリースされた数って膨大なんだなあ、と改めて思う。特に、ネットの時代になってから、こういう「素敵な出会い」が多くなった。

Kenny Barron『Green Chimneys』(写真)。1983年7月9日と1987年12月31日の録音。ちなみにパーソネルは、Kenny Barron (p), Buster Williams (b), Ben Riley (ds)。1983年7月9日はトリオ演奏の7曲。1987年12月31日はバロンのソロ・ピアノの3曲。

総合力勝負のバップ・ピアニスト、ケニー・バロンがリーダーのトリオ&ソロ演奏。総合力勝負が個性のジャズ・ピアニストの個性を感じるに相応しい演奏形式である。

オリジナル盤の発売は1994年。1980年中盤、純ジャズ復古がなって、新伝承派、M-BASE派が中心となって、新しいハードバップ、いわゆる「ネオ・ハードバップ」を創造〜展開していった。そんなネオ・ハードバップ初期の頃に、このバロンのトリオ&ソロ盤がリリースされている。

10曲中、7曲が1983年の録音、3曲が1987年の録音。録音当時、バロンは40歳と44歳。いわゆる「中堅」である。新伝承派やM-BASE派は20〜30歳代の若手中心のムーヴメントだったので、バロンは影響範囲外ではある。

もともと新伝承派は1960年代モード・ジャズの焼き直し〜深化を狙いとし、M-BASE派は、その新伝承派の「アンチテーゼ」的な新しいハードバップを志向していた。

この時期に録音〜リリースされたこのバロン盤は、演奏を聴くと良く判るが、新伝承派、M-BASE派、どちらも「気にしていない」。あくまで、バロンは我が道を往く弾きっぷりである。潔いし、バロンの矜持をビンビンに感じるし、爽快ですらある。
 

Kenny-barrongreen-chimneys

 
冒頭の有名スタンダード曲「Softly, as in a Morning Sunrise」を聴けば、バロンが明らかにバップ・ピアノに端を発しているのが良く判る。左手のリズム&ビートの出し方、右手のフレーズの作り方、どちらも聴いてみても、バップ・ピアノである。例えば、マッコイ・タイナーやハービー・ハンコックの様な「モーダルなピアノ」では無い。

1950年代〜60年代のバップ・ピアノの焼き直しでもなければ深化でもない。1983年と1987年時点での、バロンが考える新しい弾き回しと響きをベースとした、新しいバップ・ピアノなフレーズがそこかしこに感じられるところが非常に「ニクい」。

トリオ演奏の7曲については、後のネオ・ハードバップなピアノ・トリオを先取りした、先進的な内容のピアノ・トリオである。先進的ではありながら、1950年代後半から60年代における、耽美的でリリカルな表現を借用して、新しい響きを付加したりして、しっかり「温故知新」しているところもバロンらしい。

ピアノ・ソロの3曲を聴けば、バリバリとメリハリ良く、ポジティヴに弾きまくるバップ・ピアノが基本でありながら、耽美的でリリカルで繊細な表現にも長けていることが良く判り、改めて、バロンは「総合力勝負のピアニスト」であることを認識させてくれる。

総合力勝負が個性のジャズ・ピアニストは「テクニックが皆、優秀」。先進的なフレーズを弾きこなすにしても、温故知新的なフレーズを弾きこなすにしても、相当に高いテクニックが求められる。総合力勝負のジャズ・ピアニストの面目躍如である。

バックのリズム隊、バスター・ウィリアムスのベース、ベン・ライリーのドラム、双方、テクニックよろしく、ガッチリとバロンをサポートする。特に、速いテンポの曲での流れる様なベースライン、短く高速に刻むビートが超絶技巧なドラミングは見事である。良いリズム隊に恵まれて、バロンは縦横無尽、緩急自在に弾きまくる。

意外と硬派で聴き応えのあるピアノ・トリオ&ソロ盤。こんな聴き応えのあるピアノ・トリオ&ソロ盤が、1983年と1987年のネオ・ハードバップの黎明期に録音されていたとは恐れ入る。

純ジャズ復古以来、それまでのモダン・ジャズを焼き直し〜深化して来たのは、なにも、新伝承派、M-BASE派ばかりでは無い。優れた「進取の気性」を持つ、意欲的なジャズ・ミュージシャンは、皆、モダン・ジャズを焼き直し〜深化に貢献していたのだ。
 
 

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2022年6月14日 (火曜日)

ケニー・バロンの隠れライヴ名盤

先日、6月9日がケニー・バロンの誕生日だったそうで、Twitter上でバロンの様々なリーダー作について、結構沢山、ツィートされていた。ケニー・バロンって、世界的に見ると意外と人気の高いピアニストだったんやなあ、と改めて驚いた。ちなみに、僕にとっては暫く忘れていたピアニストだったのだが、その誕生日を境に、バロンのリーダー作の聴き直しを始めた。

Kenny Barron『Imo Live』(写真左)。1982年6月9日、東京の中野南口の「Imo House(いもはうす)」でのライヴ録音。1983年のLPでのリリース時は「Whynotレーベル」から、CDリイシュー時は「PJL(Polystar Jazz Library)」からのリリース。我が国のジャズ・レーベル発のライヴ盤である。ちなみにパーソネルは、Kenny Barron (p), Buster Williams (b), Ben Riley (ds)。

ケニー・バロンが49歳、ベースのバスター・ウィリアムスが42歳、ドラムのベン・ライリーが48歳、トリオを編成する3人、皆、中堅の一流どころ。全編に渡って、テクニック優秀、充実したライヴ・パフォーマンスが展開されている。3人それぞれが「達人」の域なので、聴き応えのある、ダイナミックでメリハリの効いたインタープレイを聴くことが出来る。
 

Kenny-barronimo-live

 
癖が無く端正なところがバロンのピアノの個性。平均的に素晴らしいプレイを聴かせるところが、いわゆるピアニストとしての総合力の高さが個性。その「総合力」全開、バロンはガンガン弾きまくる。ウィリアムスのベースが、しっかりと演奏のベースラインをしっかりと押さえ、ライリーのドラムが演奏のリズム&ビートをしっかりと供給する。そんな優れたパフォーマンスが、このライヴ盤を通じて、しっかりと伝わってくる。

ケニー・バロン作が1曲、残り3曲はスタンダード曲。特にスタンダード曲は「Manha Do Carnaval(Black Orpheus)」「Rhythm A Ning」「Someday My Prince Will Come」と、ボサノバあり、モンク曲あり、ディズニー曲あり、様々な曲想のスタンダード曲を、総合力で勝負するピアニストのバロンは、その「総合力」を駆使して、見事に弾き分けている。スタンダード曲こそが、総合力勝負のピアニストの得意とするところなんだろう。

演奏のスタイルはハードバップだが、それまでに無い、新しい響きを聴くことが出来る。後のネオ・ハードバップの萌芽を確認することが出来る、なかなか内容のあるライヴ盤である。ジャケットも優秀、我がヴァーチャル音楽喫茶『松和』では、ケニー・バロンの隠れライヴ名盤として、長年愛聴しています。
 
 

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2022年6月10日 (金曜日)

ジャズ喫茶で流したい・238

先日の6月9日は、ジャズ・ピアニストのケニー・バロン(Kenny Barron)の誕生日だったそうだ。Twitterなどでは、誕生日のお祝いで、ケニー・バロンのリーダー作がいろいろ紹介されていた。ケニー・バロンって意外と人気ピアノストなんだなあ、と改めて感心した。

というのも、癖が無く端正なところがバロンのピアノの個性。「これ」といった特徴や癖に欠けるが、平均的に素晴らしいプレイを聴かせてくれる、つかみ所の無い、意外と判り難いピアニスト。平均的に素晴らしいプレイを聴かせるところ、いわゆるピアニストとしての総合力の高さが個性、というのが僕の評価。Twitterで、ケニー・バロンのリーダー作をいろいろご紹介している人が多いのに、ちょっとビックリした次第。

Kenny Barron『Live At Bradley's』(写真左)。1996年4月3ー4日、NYのUniversity Placeのバー「Bradley's」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Kenny Barron (p), Ray Drummond (b), Ben Riley (ds)。ケニー・バロン、52歳の春の「寛ぎ」のライヴ・パフォーマンスの記録である。
 

Kenny-barronlive-at-bradleys

 
バロンは気合いが入ると、意外と尖った、シビアなピアノを弾く。切れ味鋭く、バリバリとバップなピアノを弾き回し、時にアブストラクトに時にフリーに展開する。Enjaレーベルでの諸作に、そんなバロンのピアノを聴くことが出来る。が、このライヴ盤では、バロンはとても「寛いで」いる。余裕を持って、じっくりとフレーズ展開のバリエーションを楽しむ様な、リラックスした弾き回しがとても良い雰囲気を醸し出している。リラックスした弾きっぷりにこそ、バロンの「総合力勝負の個性」が引き立つ。

そんな「寛いだ」バロンに対して、スインギーに緩やかにバッキングを仕掛けるレイ・ドラモンドのベースとベン・ライリーのブラシが心地良い。とても機微に富んだリズム隊で、バロンの寛ぎに合わせて、柔らかいリズム&ビートで対応し、バロンの弾き回しにバリエーションにクイックに反応する。じっくり耳を傾ければ傾ける程に、このリズム隊の懐の深さを強く感じる。とても良好なリズム隊。

バロンの寛ぎのパフォーマンスは聴き応え十分。難しいことは一切やっていないが、フレーズ展開のバリエーションの変化や、寛ぐほどに度合いを増す「千変万化」なタッチと弾き回し。総合力勝負のピアニスト、ケニー・バロンの面目躍如なライヴ盤である。「ジャケ買い」に十分耐えるジャケットも良い。実はこのライヴ盤、我がバーチャル音楽喫茶『松和』の長年の「息の長いヘビロテ盤」である。
 
 
 

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2021年3月28日 (日曜日)

素晴らしいテクの連弾ジャズ

ジャズ・ピアニストは「弾き方やタッチ、和音の重ね方に独特の個性を持ち味とする」タイプと「端正でリリカルな弾き回しで、突出した個性は無いが、ピアニストとしての総合力を持ち味とする」タイプと2つのタイプに分かれると思う。どちらのタイプもそれが、それぞれのピアニストの特徴なので、どちらが優れているとか、優劣をつけるレベルではない。

前者の代表例は、セロニアス・モンク、バド・パウエル、ウィントン・ケリー、キース・ジャレット、チック・コリアなどがそうで、1曲聴けば、ほぼ誰が弾いているのかが判るほどの「他には無い独特の個性」を発揮するタイプ。

後者の代表例は、トミー・フラナガン、ケニー・ドリュー、マルグリュー・ミラー、ケニー・バロンなどがそのタイプで、暫く聴かないと判別できないのだが、その弾きっぷりは総じて「端正でリリカル」。アドリブ・フレーズの弾き回しなどに、そこはかとなく個性が発揮される。

以前は我が国では、どちらかと言えば「他には無い独特の個性」を発揮するタイプがもてはやされたが、今ではそれは是正されたと感じている。ジャズの世界でも「偏った聴き方」は本当に少なくなった。聴き手の方も成熟〜深化しているのだろう。

 
Together-tommy-flanagan-kenny-barron

 
Tommy Flanagan & Kenny Barron『Together』(写真左)。1978年の作品。日本のジャズ・レーベル「DENON」が企画・制作。ちなみにパーソネルは、Tommy Flanagan (p), Kenny Barron (p) のみ。ピアノの連弾によるデュオである。クラシック・ピアノにも連弾はある。ジャズ・ピアノにも連弾はあるが、即興演奏を旨とするジャズでは、アドリブ展開時の音の衝突の回避など、ややこしいことが色々あるので、あまり多くは無い。

良く似たタイプ、先に挙げた「端正でリリカルな弾き回しで、突出した個性は無いが、ピアニストとしての総合力を持ち味とする」タイプの代表的ピアニスト2人での連弾デュオである。聴けば確かに良く似た弾きっぷりで、最初は判別がつかない。聴いていると、演奏をリードしているのがトミフラで、それに神妙に追従しているのがバロンかと思う。トミフラの方がファンクネスの度合いが少し濃い。バロンのタッチの方が跳ねるようでシャープ。

ある談話でバロンは、トミフラがバロンの中学生時代からのアイドルだと語っていた。それを見て思うのは、神妙に追従してはいるが、その弾きっぷりは実に嬉しそうであり、楽しそうなのだ。リードするトミフラのピアノは連弾相手の音を良く聴き、優しく柔軟にリードしている様だ。音がぶつかることも重なることも無い、素晴らしいテクニックの連弾ジャズである。
 
 
 

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2021年3月 7日 (日曜日)

控えめに言っても見事なデュオ

ジャズの演奏フォーマットで、聴き応えのあるフォーマットが「デュオ」。ジャズマンが一対一で、タイマンで対峙して即興演奏を繰り広げるもの。双方の演奏技術の高さは必須条件で、お互いの音を聴きながら、お互いが邪魔すること無く、それぞれがその高度な演奏技術を駆使して、即興演奏を繰り広げる。これが聴き応え十分で、実にスリリングなパフォーマンスなのだ。

George Robert & Kenny Barron『Peace』(写真)。2002年8月、ジュネーヴでのライブ録音。ちなみにパーソネルは、George Robert (as, ss), Kenny Barron (p)。テナーとピアノのデュオ演奏である。アルト・サックスは、スイス出身のジョルジュ・ロベール。ピアノはデュオ演奏の名手、ケニー・バロン。

このデュオ盤は全くのノーマーク。10年ほど前、当時のiTunes Storeで、ジャズのデュオ盤を探していて引っ掛かってきた。調べてみると、1990年代以降、商業主義に陥ったスウィング・ジャーナル誌のゴールドディスクに選定されているではないか。これは全く期待出来ない(笑)。ハードディスクにキープはしたものの暫く聴くことも無かった。
 
Peace-george-robert-kenny-barron
 
が、5年ほど前、ピアノがケニー・バロンというのが気になった。ケニー・バロンといえば、スタン・ゲッツの歴史的デュオ好盤をものにした「デュオ演奏の名手」。一度聴いてみるか、というノリで聴いてみたら、あらまあ、素晴らしい内容のデュオ演奏ではありませんか。サックスのジョルジュ・ロベールについては全く知らなかったが、なかなか堂々とした吹きっぷりに2度、ビックリ。

ジャケットのイメージそのままの霧が深くかかる森の中に響く、透明度の高い、耽美的でリリカルなクールな演奏。丁々発止とした手に汗握る様な熱い演奏では無い。切れ味の良い伸びやかなサックスに、リリカルでクールなピアノがしっかりと絡む。欧州ジャズらしく、ファンクネスは皆無。それでいて、ジャジーなノリが良く、クールな躍動感がこのデュオ演奏を引き締めている。

そして、要はケニー・バロンのピアノ。デュオ演奏の名手として、そのテクニックを遺憾なく発揮している。なかなかの好演のサックス奏者ジョルジュ・ロベールについては、2016年、56歳の若さで逝去している。残念なことであった。最後に、この盤のフィル・ウッズの解説の一節を。「控えめに言っても実に見事な作品である」。
 
 
 

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2016年4月23日 (土曜日)

こんなアルバムあったんや・61

癖が無く端正なところがバロンのピアノの個性。平均的に素晴らしいプレイを聴かせるところが、いわゆるピアニストとしての総合力の高さが個性。ハードバップから当時、純ジャズ復古の時代まで、こういうピアニストはいなかった。何かしら強烈な個性を持ったピアニストは多く存在した。しかし、バロンの様な、総合力で勝負する、癖が無く端正な個性を持ったピアニストは珍しかった。

リリカルではあるが耽美的では無い。切れ味鋭いが鋭角な鋭さでは無い。奇をてらった革新的な響きは皆無。アブストラクトな展開にも無縁。とにかくバリバリに弾きまくる。ネオ・ハードバップにつながる正統派な展開。癖が無い。流麗かつ端正である。テクニックは優秀。ファンクネスは希薄。それでいてドライブ感は旺盛。グイグイ弾きまくる力強さはある。逆に繊細な表現も出来る。とにかく器用なピアニストである。

とまあ、あれこれ書いたが、ケニー・バロンのピアノは「癖が無く端正」が個性。これが良い。加えて、バロンはそういうピアニストなので「駄作」が無い。どのアルバムも平均点以上の出来で、これはこれで素晴らしいことだ。どのアルバムを聴いても、期待を裏切られることは無い。

このアルバムもそうだ。Kenny Barron『Landscape』(写真)。1984年10月の録音。ちなみにパーソネルは、Kenny Barron (p), Cecil McBee (b), Al Foster (ds)。日本発のレーベル、Baystateからのリリース。

いわゆる日本発の企画盤である。加えて、収録曲に「Kojo No Tsuki(荒城の月)」と「Ringo Oiwake(りんご追分)」が入っている。「荒城の月」と言えば「春高楼の花の宴・・・」で始まる滝廉太郎作曲の名曲。「りんご追分」といえば「リンゴの花びらが〜風に散ったよな〜」で始まる、美空ひばりの歌唱で有名な名曲。この2曲がジャズになる。これって「際もの」やん(笑)。
 

Kenny_barron_landscape

 
ということで、このアルバムがリリースされた時は「敬遠」。思い切って購入に踏み切ったのがリリースされた10年後。「際もの」2曲には目を瞑って、他のスタンダード曲「Hush-A-Bye」や「Dear Old Stockholm」に惹かれて思い切って、というのが購入の動機。「癖が無く端正」な正統派ピアニストが弾くスタンダード曲は魅力だ。

で、この『Landscape』、日本発の企画盤の割に意外と内容が良い。まずスタンダード曲が良い。ベースのセシル・マクビー、ドラムのアル・フォスター、そしてピアノのバロン。この組合せ、相性が良いのだろう。実に良い雰囲気のピアノ・トリオの演奏を聴かせてくれる。端正で余裕のあるアドリブ。メロディアスで柔和な展開。

そして、「際もの」と思い込んでいた「荒城の月」と「りんご追分」についてはこれが意外と良い。恐らく、バロンを始め、マクビー、フォスター共に原曲の雰囲気に馴染みがないのであろう、それが良い方向に作用している。日本人だったら、この2曲の雰囲気は直ぐに思い出す。どちらもマイナー調。日本人だったら原曲の雰囲気をドップリ引き継いでジャズにするんで、恐らく「これはあかんわ〜」となると思われる。 

しかし、このトリオはそうはならない。原曲のマイナーな部分を上手く採り上げて、アドリブの展開に回している。アドリブの展開になった途端、原曲の雰囲気を全く引き摺らない。原曲のコード進行を上手く借用して、実に純ジャズなアドリブ展開に昇華している。アドリブ部だけ聴いたら、原曲が「荒城の月」もしくは「りんご追分」なんて全く思いもつかない。

意外と良いアルバムです。「荒城の月」と「りんご追分」については「際もの」と決めつけずに、柔軟な耳で聴けば、ほとんど気になりません。ちなみにジャケット・デザインは2種類あるんですが、僕の馴染みは「写真左」のイラスト・バージョン。こういうのって、最初に購入して初めて聴いた時の盤のジャケットが一番印象に残るようです。
 
 
 
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2016年2月 2日 (火曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・50

僕はケニー・バロン(Kenny Barron)のピアノが良く判らなかった。癖が無い。流麗かつ端正である。テクニックは優秀。ファンクネスは希薄。それでいてドライブ感は旺盛。グイグイ弾きまくる力強さはある。逆に繊細な表現も出来る。とにかく器用なピアニストである。

つまりは「これ」といった決定打に欠けるが、平均的に素晴らしいプレイを聴かせてくれる、僕にとってはつかみ所の無い「不思議なピアニスト」だった。でも、バロンのプレイを聴き始めると、じっと聴き入ってしまう。そういう魅力のあるピアノである。僕はそんなバロンに初めて出会ったアルバムがこれ。

Kenny Barron『Scratch』(写真左)。1985年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Kenny Barron (p), Dave Holland (b), Daniel Humair (ds)。ケニー・バロンは1943年生まれだから、バロンが42歳の時の録音。円熟期に差し掛かる前の、中堅時代の録音になる。

バリバリに弾きまくるバロンが聴ける。デイブ・ホランドのベースのサポートも重厚。ダニエル・ヒューメイヤーのドラムの疾走感も魅力だ。思いっきりスインギーで、インプロビゼーションの弾き回しはモダン。それまでにありそうで無かった弾き回しと音の重ね方は新しい響きだった。
 

Kenny_barron_scratch

 
リリカルではあるが耽美的では無い。切れ味鋭いが鋭角な鋭さでは無い。奇をてらった革新的な響きは皆無。アブストラクトな展開にも無縁。とにかくバリバリに弾きまくる。ネオ・ハードバップにつながる正統派な展開。でも、このアルバムを初めて聴いた1993年の頃には、このバロンの魅力が理解出来なかった。

しかし、今は判る。癖が無く端正なところがバロンのピアノの個性。平均的に素晴らしいプレイを聴かせるところが、いわゆるピアニストとしての総合力の高さが個性。ハードバップから当時、純ジャズ復古の時代まで、こういうピアニストはいなかった。何かしら強烈な個性を持ったピアニストは多く存在した。しかし、バロンの様な、総合力で勝負する、癖が無く端正な個性を持ったピアニストは存在しなかった。

この『Scratch』を聴けば、その「個性」の一端を十分に感じていただけると思います。これだけ端正で流麗な、それでいてドライブ感のあるピアノはなかなか他に無い。冒頭の「Scratch」から、ラストの「And Then Again」まで一気に聴き通してしまいます。迫力あるバロンのピアノ。聴き応え十分。

現代的なイラストをあしらったアルバム・ジャケットも魅力的。バロンのピアノの個性をとても良く表していると思います。エンヤ・レーベルからのリリースなのも魅力的。ホレスト・ウェーバーのプロデューサーの手腕も冴えまくっています。良いピアノ・トリオ、良いアルバムです。
 
 
 
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2012年7月20日 (金曜日)

素敵なブラジリアン・テイスト 『Canta Brasil』

ボサノバ・ジャズは今や「夏の定盤」となったが、ボサノバ・ジャズとなると、どうしてもボーカル・アルバムになりがちで、ちょっと食傷気味なのだが、そんな中、久し振りに、ベテラン・ピアニスト、ケニー・バロン(Kenny Barron)の素敵な「ブラジル・テイスト」のアルバムを選択。

そのアルバムの名は『Canta Brasil』(写真左)。2002年2月の録音。ちなみにパーソネルは、Kenny Barron (p), Nilson Matta (b), Duduka da Fonseca (ds), Romero Lubambo (ac-g), Anne Drummond (fl), Valtinho (per), Maucha Adnet (vo)。

ケニー・バロンといえば、歌伴で優れたピアニストで有名だし、趣味の良いピアノ・トリオのアルバムを多数リリースしていることでも有名。特に、テナーのスタン・ゲッツとのデュオは語り草。しかしながら、今回のアルバム『カンタ・ブラジル』は、「ブラジル」をコンセプトにしたアルバムで、ケニー・バロンのアルバムの中では、結構、異色。

ブラジルをコンセプトにしているだけに、このアルバムには、ボサノバあり、サンバあり、とにかく「ラテン音楽の坩堝」的なとてもノリが良くて楽しいアルバムに仕上がっている。
 

Canta_brasil

 
しかも、単に、ブラジルというコンセプトに流されることなく、それぞれの演奏で、バロンは、ジャズ・ピアニストとして、その素晴らしいインプロビゼーションの数々を、惜しげもなく披露してくれる。ブラジル音楽の雰囲気をベースに、しっかりとジャズ・ピアノしている様は、とても好感が持てるし、耳を傾けていてとても楽しい。そう、このアルバムは、聴いていて「楽しい」のだ。

冒頭の「ズンビ」(題名からしてブラジルだよな)は、実にリズミックで力強い、このアルバムのオープニングに相応しい「熱い」演奏。2曲目はうってかわって、美しいスローなナンバー。でも、しっかりと、ラテンの雰囲気は継承される。

3曲目の「パラティ」はブラジリアン・フュージョン調のナンバー。そんな中で、バロンのピアノは実に映える。ルボンバのギターも凄い。4曲目の「アンティル・ゼン」は、ミディアム・テンポのジャズ・ボッサ。そして、ラスト前の7曲目「ディス・ワン」は、かなり複雑なリズムを持つ演奏だが、ジャズとサンバが気持ちよくブレンドされて秀逸だ。

ボサノバ・ジャズの新譜が、おおよそ女性ボーカルばかりで食傷気味の僕の耳に「グッ」とばかりにガッツをくれた、そんな素敵なアルバムです。
 
 
 
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  • まだまだロックキッズ(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のロック」盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代ロックの記事を修正加筆して集約していきます。
  • 松和の「青春のかけら達」(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のJポップ」、いわゆるニューミュージック・フォーク盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代Jポップの記事を修正加筆して集約していきます。           
  • AORの風に吹かれて(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    AORとは、Adult-Oriented Rockの略語。一言でいうと「大人向けのロック」。ロックがポップスやジャズ、ファンクなどさまざまな音楽と融合し、大人の鑑賞にも堪えうるクオリティの高いロックがAOR。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、AORの記事を修正加筆して集約していきます。  

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