2024年5月29日 (水曜日)

自在で多様性溢れるトリオ演奏

今までなら中堅どころだった、40〜50歳代の「ニューフェース」。ヴィジェイ・アイヤー(Vijay Iyer)もそんな「ニューフェース」の一人。

ヴィジェイ・アイヤーは、1971年10月生まれ。初リーダー作が1995年。アイヤーが24歳の頃。以降、アイヤーのリーダー作は、20枚以上を超える。が、我が国では、なかなか人気が出ない。僕は全く知らなかった。アイヤーの名前を知るようになったのは、2014年からはECMレーベルに移籍して、ECMからのリリースで、アルバム音源がサブスク・サイトにアップされ、ネットにも、アイヤーのニューリリースの記事が出だしてからである。

2014年といえば、アイヤーが43歳。ECMレーベルの前の、ACTレーベルの時でさえ、リーダー作をリリースしたのが2009年だから、アイヤーが38歳の頃。スティーヴ・キューン、キース・ジャレットなどの「耽美的でリリカルで現代音楽風なジャズ・ピアノ」の系譜をしっかりと受け継いだヴィジェイ・アイヤー、全くの遅咲きのピアニストである。

Vijay Iyer『Compassion』(写真左)。2022年5月、NYでの録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Vijay Iyer (p), Linda May Han Oh (b), Tyshawn Sorey (ds)。ECMでの2019年リリースの前作、トリオ作『Uneasy』と同じ面子でのトリオ編成。ヴィジェイ・アイヤー、51歳時の録音になる。

ピアノはヴィジェイ・アイヤーで米国出身、ベースにマレーシア出身のリンダ・メイ・ハン・オー(1984年生まれ)、ドラムスにニュージャージー出身のタイショーン・ソレイ(1980年生まれ)という国際色豊かなトリオ。ベースとドラミは、アイヤーと10歳以上離れている。それでも、リンダ・メイ・ハン・オーは録音当時、38歳、タイショーン・ソレイは録音当時、42歳。アイヤーが51歳だから、全く脂の乗り切った、中堅どころの名手のトリオ演奏になる。
 

Vijay-iyercompassion

 
ほぼ、レギューラー・トリオに近い演奏なので、聴いていて安心感がある。硬軟自在、変幻自在、緩急自在なインプロビゼーションが素晴らしい。打てば響く、丁々発止としたインタープレイも見事。そんなリズム隊をバックに、アイヤーは様々なニュアンス、様々なバリエーションのピアノを弾き進める。

アイヤーのピアノは耽美的でリリカルだが、その展開はダイナミックでメリハリがあるのが個性。このダイナミズム溢れる耽美的でリリカルなピアノで、様々な曲想の楽曲を自由自在に弾き回す。自作曲を弾きまくるキース・ジャレットに似ているか、とも思うんだが、キースよりも演奏が流麗で、音のエッジがキースよりラウンドしていて温かみがある。

フレーズを弾き回しや、右手の硬質なタッチは、その流麗さ、現代音楽に通じる切れ味は、キースというよりは、チック・コリアやミシェル・ペトルチアーニに近い。チックやペトのピアノからラテン・フレーヴァーとロマンチシズムを差し引いた感じ、とでも形容したら良いか。

スティービー・ワンダー作の名曲「Overjoyed」では、チックの残したピアノを弾いて、故チックに敬意を表している。「Maelstrom」「Tempest」「Panegyric」は、コロナ禍のパンデミックの犠牲者のイベントのために書かれた曲。リリカルで耽美的なモーダルな演奏もあれば、フリーでアヴァンギャルドな展開もあり、静的なスピリチュアルな響きもそこかしこに感じる。

ピアノ・トリオのパフォーマンスとしては、現代ジャズの最高峰の位置に近い、色彩豊かな、バリエーション豊かな演奏が素晴らしい。聴けば聴くほど、様々な感じ方、様々な発見があって、なかなか奥の深い、濃い内容が詰まった好トリオ盤。

ヴィジェイ・アイヤー、良いですね。そろそろ、キャリアを遡って、リーダー作を聴いてみたいと思っています。
 
 

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2022年8月 6日 (土曜日)

ボーダーレスなジャズの一端

今年で設立53年を迎えた、ドイツの老舗ジャズ・レーベルECMからリリースされた、21世紀の注目アーティストをラインナップした「21世紀のECM」キャンペーンが展開されている。対象アルバムは全20タイトルなんだが、1990年以降に活動をスタートさせた注目アーティストをボーダーレスに選定している。これが意外に、21世紀の「今」のジャズのトレンドの大きな幾つかの切り口を示唆していて、実に興味深い。

その注目のアーティストの中に、ヴィジェイ・アイヤー(Vijay Iyer)がいる。アイヤーは、1971年10月米国生まれ。今年で51歳の中堅ピアニスト。リーダー作は、1995年の初リーダー作以来、20枚以上を数える。2014年からはECMレーベルからのリリースに絞っている。もともと、アイヤーのピアノは、耽美的でリリカルなピアノが個性なので、ECMレーベルの「音のカラー」にはピッタリのピアニストではある。

Vijay Iyer『Break Stuff』(写真左)。2014年6月、NYでの録音。ちなみにパーソネルは、Vijay Iyer (p), Stephan Crump (b), Marcus Gilmore (ds)。スティーヴ・キューン、キース・ジャレットなどの「耽美的でリリカルで現代音楽風なジャズ・ピアノ」の系譜をしっかりと受け継いだヴィジェイ・アイヤーのトリオ盤。メンバー全員が米国出身のジャズマンで固められている。

最初、耽美的でリリカル、オリエンタルな雰囲気が仄かに漂う個性的なピアノ・トリオのパフォーマンスが印象的だった。てっきり、アイヤーはイスラエル〜東欧辺りの出身かな、と思ったんだが、米国出身だった。
 

Vijay-iyerbreak-stuff

 
ベースもドラムも米国出身。オール・アメリカンなピアノ・トリオなんだが、出てくる音は、米国ジャズから一番遠かった、ECMレーベルの代表的な音そのものの限りなく欧州的な耽美的でリリカルな音。

ファンクネスは皆無、スインギーな4ビートとは無縁。それでいて、ジャジーなリズム&ビートの下、目眩く即興演奏の数々。ほの暗く重厚なユッタリとした「Starlings」から始まり、ダイナミックな展開の「Chorale」など、アイヤーの自作曲はどれもが白眉の出来。

しかし、アイヤーのピアノの個性は、ミュージシャンズ・チューンなスタンダード曲で顕著になる。セロニアス・モンク作の「Work」は、幾何学模様的にフレーズがリリカルに展開し、コルトレーン作の「Countdown」は、耽美的でリリカルなフレーズでモーダルな展開を表現する。そして、アイヤーのピアノ・ソロで静謐に奏でるストレイホーン作の「Blood Count」は、アイヤーのピアノの個性の象徴的なソロ・パフォーマンスだ。

しかし、この耽美的でリリカルで現代音楽風のピアノ・トリオが、オール・アメリカンなピアノ・トリオで演奏されているのを知った時には、かなりビックリした。21世紀のジャズは「ボーダレスな時代になる」と思った。

そのボーダーレスなジャズが、ECMレーベルの下に集結しつつある。北欧、東欧、イスラエル、米国、日本などの「多国籍」なジャズが、ECMレーベルの音世界の下に集結している。そんなボーダーレスなジャズの一端が、このアイヤーのピアノ・トリオ盤で実感出来るのだ。
 
 

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  ・四人囃子の『Golden Picnics』
 
 
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2022年5月31日 (火曜日)

ジャズ喫茶で流したい・235

欧州では、1970年代からの「ニュー・ジャズ」志向の音世界がしっかりと継承されていて、耽美的でリリカルなジャズ・ピアノについては、欧州で深化している。ピアニストの個性としては、現代音楽風、現代クラシック風の透明度の高い、硬質なタッチで、耽美的でリリカルなピアノを志向するタイプが多い、

Vijay Iyer『Uneasy』(写真左)。2019年12月、ニューヨーク州マウントバーノンの「OktavenAudioStudio」での録音。ちなみにパーソネルは、Vijay Iyer (p), Linda May Han Oh (b), Tyshawn Sorey (ds)。現代ジャズの哲人、ニューヨーク州アルバニー出身の中堅ピアニスト、ヴィジェイ・アイヤーのピアノ・トリオの新作になる。

Vijay Iyer(ヴィジェイ・アイヤー)は、1971年10月生まれ。今年で51歳の中堅ピアニスト。リーダー作は、1995年の初リーダー作以来、20枚以上を数える。2014年からはECMレーベルからのリリースに絞り、今回のトリオ新作もECMからのリリースになる。もともと、アイヤーのピアノは、耽美的でリリカルなピアノが個性なので、ECMレーベルの「音のカラー」にはピッタリのピアニストではある。

今回のトリオは、ベースにマレーシア出身のリンダ・メイ・ハン・オー(1984年生まれ)、ドラムスにニュージャージー出身のタイショーン・ソレイ(1980年生まれ)という国際色豊かなトリオ。この新作の録音まで、1年間、活動を共にしてきたとのこと。トリオ演奏の息はピッタリ。硬軟自在、変幻自在、緩急自在なトリオ演奏が素晴らしい。

この新作については、メインはアイヤーのピアノなのだが、アイヤーのピアノは耽美的でリリカルだが、その展開はダイナミックでメリハリがあるのが個性。このダイナミズム溢れる耽美的でリリカルなピアノで、様々な曲想の楽曲を自由自在に弾き回す。
 

Vijay-iyeruneasy

 
ファンクネスは極小、耽美的でリリカルであるがダイナミズム溢れる弾きっぷりは、どこかチック・コリアやミシェル・ペトルチアーニを彷彿とさせる。が、アイヤーの弾きっぷりは端正でクラシック・ピアノのマナーに通ずるものがあり、米国出身でありながら、欧州ジャズ・ピアノの志向を根強く踏襲しているようだ。

静謐な雰囲気からスタートし、段々に盛り上がっていく1曲目「Children Of Flint」。後半、アイヤーのダイナミックなピアノが炸裂する。耽美的でリリカルなピアノが印象的な、2曲目「Combat Breathing」。ゆったりとした演奏のビートを支えるのは、リンダのベース。リズムを色彩豊かにするのは、タイショーンのドラム。

3曲目「Night And Day」は、少しかかったような、スピード感溢れる演奏。トリオのテクニックの高さをビンビンに感じる。4曲目「Touba」は、地に足が着いたような、アーシーで力感溢れるピアノ。魅力的なベースライン、キャッチャーでどこかエスニックな雰囲気を醸し出すメロディーライン。素敵な演奏だ。冒頭からの4曲で、このトリオ演奏のレベルの高さと歌心溢れる流麗な演奏内容が聴いてとれる。

我が国ではどうにも知名度が低いィジェイ・アイヤーだが、国際的には、次世代のジャズ・ピアノを担う中堅ピアニストの1人として認知されている。今回のトリオ新作も実に濃い内容で、トリオ演奏のレベルも高い。不思議と繰り返し聴きたくなるピアノ・トリオの秀作です。
 
 

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