トニーの考えるモード&フリー
このアルバムは、若い頃に聴いた時には、フリー・ジャズだと感じた。年を経て、10年くらい前に聴き直した時には、これは、フリー・ジャズだけではない、と感じた。加えて、モード・ジャズがしっかりとある、と感じた。
この様に「ジャズを聴く耳」も、時代と共に、年齢と共に成熟していく。いわゆる「耳が良くなって」くることを強く感じる今日この頃である。
Tony Williams『Spring』(写真左)。1965年8月12日の録音。ちなみにパーソネルは、Tony (Anthony) Williams (ds), Wayne Shorter (ts, 1, 3, 5), Sam Rivers (ts, 1, 3-5), Herbie Hancock (p, 3-5), Gary Peacock (b, 1 & 3-5)。テナー・サックス2本がフロントの、ハンコック=ピーコック=トニーのリズム隊のクインテット編成。
このトニー・ウィリアムスの2枚目のリーダー作には、当時のマイルス・クインテットの3人、トニー、ハンコック、ショーターがパーソネルに名を連ねる。マイルスは別格なので置いておいて、ベースのロンがいない。代わりにピーコックが入っている。
録音時期の1965年といえば、マイルス・バンドの下に、待望のウェイン・ショーターが加入、遂に、1960年代のマイルス黄金のクインテットが成立した年で、マイルスのモーダルな名盤『E.S.P.』の録音が1965年の1月。そして、このトニーの『Spring』の録音が、1965年の8月、『E.S.P.』の7ヶ月後の録音である。
マイルスのモーダルな1960年代の黄金のクインテットの音楽監督は「ウェイン・ショーター」。しかし、このトニーがリーダーの『Spring』のモーダルな音は、ショーターが参加しているにも関わらず、「ショーターのモード」では無い。
「ショーターのモード」は、フレーズが捻れに捻れ、音が流麗に飛びまくる。モードこれに極まれり、といった雰囲気の、完璧にモード奏法を組み入れたものだが、このトニーのアルバムのモードはそれでは無い。
テナーのフレーズが流麗でストレートでシンプル。捻れは無い。シャープで切れ込む様なトニーのドラミングがしっかりと印象に残る、これは「トニーの考えるモード」だろう。ピーコックのベースのモーダルなフレーズも、流麗でストレートでソリッド。「トニーの考えるモード」に合致するベース・ワーク。
そして、興味深いのはショーターのテナー。「トニーの考えるモード」に則ったテナーを、リヴァースと一緒に吹きまくる。リヴァースは明らかに「トニーの考えるモード」にぴったりのモードで、フレーズが流麗でストレートでシンプル。「トニーの考えるモード」そのものなリヴァースのテナー。
そして、このアルバムには「トニーの考えるモード」に加えて、「トニーの考えるフリー」が展開される。「トニーの考えるフリー」は、「トニーの考えるモード」の延長線上にあるイメージ。「トニーの考えるモード」の自由度をどんどん高めていって、ついにはモードの決め事が無くなる直前のイメージが「トニーの考えるフリー」だと感じる。
あくまで、伝統のモダン・ジャズのイメージを残しつつ、「トニーの考えるモード」の自由度をどんどん高めていって、ついにはモードの決め事が無くなる直前のイメージで、楽器相互のインタープレイを展開する。それまでにない、新しいイメージのフリー・ジャズ。それが「トニーの考えるフリー」であり、それがこの盤に詰まっている。
当時のジャズとしては、相当に尖った、相当に実験的な内容で、商用ジャズとは全く無縁。しかし、ブルーノート・レーベルは、何のためらいも無く、この「トニーの考えるモード」&「トニーの考えるフリー」がてんこ盛りのアルバムを制作し、リリースしている。そこがブルーノートたる所以であり、そこがブルーノートに一目置く所以なのだ。
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