2024年10月19日 (土曜日)

僕なりの超名盤研究・34

今日で「僕なりのジャズ超名盤研究」シリーズの三日連続の記事化。小川隆夫さん著の『ジャズ超名盤研究』の超名盤を参考にさせていただきつつ、「僕なりのジャズ超名盤研究」をまとめてみようと思い立って、はや3年。やっと第1巻の終わりである。

ジャズを本格的に聴き始めたのが1978年の春。フュージョン・ジャズの名盤の何枚かと、純ジャズのアルバム、MJQ『Pylamid』、 Herbie Hancock『Maiden Voyage』を聴かせてもらって、フュージョン・ジャズのアルバムも良かったが、特に、純ジャズの2枚については、いたく感動したのを覚えている。

そして、友人の家からの帰り道、久保田高司「モダン・ジャズ・レコード・コレクション」を買い求めて、ジャズ盤コレクションの道に足を踏み入れた。ハービー・ハンコックについては、FMレコパルの記事でその名前は知っていたので、まずはハンコックのアルバムの収集を始めた。

そこで、まず最初に手にしたのが、Herbie Hancockの『V.S.O.P.』。アコ・ハンコックとエレ・ハンコックの2つの側面をLP1枚ずつにまとめた名盤なのだが、僕はこの「アコースティックな純ジャズ」の演奏が実に気に入った。

このアコ・ハンコックのユニットは「V.S.O.P.」=「Very Special Onetime Performance」と命名された。ニューポート・ジャズ・フェスティバルに出演の折、ハービー・ハンコックがマイルスの黄金クインテットを再現することで、マイルスのカムバックを促す予定が、直前で肝心のマイルスがドタキャン。仕方なく、フレディ・ハバードを迎えて結成したこのV.S.O.P.クインテット。本来一1回きりの結成のはずが、予想外の好評に継続して活動することになる。

V.S.O.P.『Tempest in the Colosseum』(写真)。邦題は『熱狂のコロシアム』。1977年7月23日、東京の田園コロシアムでのライブ録音。ちなみにパーソネルは、Herbie Hancock (p), Wayne Shorter (ts, ss), Freddie Hubbard (tp), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)。伝説の「V.S.O.P.」ユニットである。
 
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V.S.O.P.名義のアルバムは、他に2枚、V.S.O.P.『The Quintet』(1977年7月録音)、V.S.O.P.『Live Under the Sky』(1979年7月26日、27日録音) があるが、この『Tempest in the Colosseum』の出来が一番良い。USAツアーの後の日本公演だけに、メンバーそれぞれの演奏もこなれて、十分なリハーサルを積んだ状態になっているようで、この日本公演のライヴ録音の内容は秀逸である。

ライヴアルバムとしての編集も良好で、この『Tempest in the Colosseum』が一番ライヴらしい、臨場感溢れる録音〜編集をしている。演奏自体も変に編集することなく、トニー・ウィリアムスの多彩なポリリズムが凄まじい長尺のドラムソロや、ロン・カーターのブヨンブヨンとしているが、高度なアプローチが素晴らしい長尺のベースソロも、しっかり余すことなく収録されているみたいで、ライヴそのものを追体験できる感じの内容が秀逸。

演奏自体も内容は非常に優れていて、この「V.S.O.P.」の演奏が、ノスタルジックな「昔の名前で出ています」風に、1960年代中盤〜後半の演奏をなぞった「懐メロ」な演奏になっていないところが良い。この演奏メンバー5人の強い矜持を感じる。当時として、モードの新しい響きがそこかしこに見え隠れし、この5人のメンバーは、マイルス後も鍛錬怠りなく、確実にモード・ジャズを深化させていたことを物語る。

収録されたどの曲も内容のある良い演奏だが、特にラストのハバード作「Red Clay」が格好良い。ジャズ・ロック風のテーマに対して、インプロビゼーション部になると、メンバー全員が「モード奏法」で襲いかかる。凄い迫力、凄いテンション、そして、印象あるフレーズの連発。

このライヴ盤は、1970年代後半の純ジャズが、どれだけ高度なレベルで維持されていたか、ということが如実に理解できる内容になっている。この「V.S.O.P.」ユニットが切っ掛けとなって、純ジャズが「復古」し始める。

この「V.S.O.P.」ユニットは、純ジャズ復古のムーブメントの「最初の第一歩」となった伝説にユニットである。このユニットの演奏には、現代につながる「新しい」モード・ジャズの要素が散りばめられている。名盤である。
 
 

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2024年9月27日 (金曜日)

ライフタイムの「フリーの成熟」

そういえば、トニー・ウィリアムスって、フリー・ジャズが好きだったな。そんな思い出がある。マイルス楽団にいた頃も、親分マイルスのいないところで、フリーなドラミングに走ったり、自らのリーダー作では、公然とフリー・ジャズを展開して、とにかく「ブイブイ」言わせていた。

The Tony Williams Lifetime『(Turn It Over)』(写真左)。1970年7月の録音。ちなみにパーソネルは、Tony Williams (ds, vocals on "This Night This Song", "Once I Loved", "A Famous Blues"), John McLaughlin (g, vocals on "A Famous Blues"), Larry Young (org), Jack Bruce (b, lead vocals on "One Word")。

そんなトニー・ウィリアムスが主宰する「ライフタイム」の第2弾。内容的には、先のライフタイムのデビュー作の、電気エフェクトがかかったエレギとオルガンをフロントにした「先進的なフリー・ジャズ」は変わらない。というか、グッと洗練された「成熟イメージ」。

ベース・ラインの強化を狙ったのか、英国の伝説のブルース・ロック・グループ「クリーム」から、ジャック・ブルースをベーシスト兼ボーカル担当として招聘している。

確かに、デビュー作では、ベース・ラインはオルガンのラリー・ヤングが担当していたのだが、まず、右手でフリーなフレーズを弾きながら、定型のベース・ラインを供給するなんて出来ないので、実は影が薄かった、というか、放棄されていたイメージがある。
 

The-tony-williams-lifetimeturn-it-over

 
この2作目では、ジャック・ブルースがエレベで定型のベース・ラインを供給しているので、トニー+マクラフリン+ヤングのフリーな展開の底に、どっしりとした安定感がある。この辺りが、グッと洗練された「成熟イメージ」として、耳に響くのだろう。

しかし、ロック畑のブルースが、よくここまで、フリーな演奏のベース・ラインを弾きこなせるなあ、と感心する。英国では「ロックとジャズの境界が曖昧」だが、ブルースのエレベのプレイを聴いていて、それが良く判る。

この盤の特徴として、ボーカル入りのナンバーが多く採用されていること、があげられる。ボーカルの雰囲気は「サイケデリック」

。当時、流行だったサイケデリック・ロックからの影響だろうが、フリー・ジャズにサイケデリック、当時、米国で、若者中心に人気のあった「フリーとサイケ」の組み合わせ、そのものを反映しているところが、なんだか「抜け目が無い」。が、先進的なフリー・ジャズが、信条の「ライフタイム」としては、あまり成功しているとは思えない。

この盤は、トニー・ウィリアムスが主宰する「ライフタイム」の音世界である、電気エフェクトがかかったエレギとオルガンをフロントにした「先進的なフリー・ジャズ」の成熟を聴くことが出来る。逆に言うと、これ以上の発展は難しいくらいの成熟度である。実際に、次作ではメンバー構成がガラッと変わることになる。
 
 

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2024年9月26日 (木曜日)

トニーの先進的なフリー・ジャズ

トニー・ウィリアムスのドラミングがお気に入りだった。純ジャズのドラミングも、クロスオーバーでのドラミングも、どちらも僕にとっては「お気に入り」。超ハイテクニックで叩きまくるが、どれだけ速く叩こうが、複雑に叩こうが、リズム&ビートはしっかりとキープされ、独特のデジタルチックなグルーヴもしっかり確保されている。フロント楽器によって、叩き方、叩く内容を変化させる器用さも素晴らしい。

The Tony Williams Lifetime『Emergency!』(写真左)。1969年5月の録音。ちなみにパーソネルは、John McLaughlin (g), Tony Williams (ds, vo), Larry Young (org)。早逝のウルトラ・テクニカルなレジェンド・ドラマー、トニー・ウィリアムスが立ち上げたトリオ「Lifetime」のデビュー盤。

ギターに、ジョン・マクラフリン。マハヴィシュニヌ・オーケストラを立ち上げる前の「ライフタイム」への参加である。オルガンに、ラリー・ヤング。「オルガンのコルトレーン」と形容された、オルガンで、シーツ・オブ・サウンドとモーダルなフレーズを弾きまくる猛者である。ドラムには、もちろん、トニー・ウィリアムス。

ところで、この盤、「フュージョン・ジャズの先駆け」とか、「クロスオーバー・ジャズの発祥」などと評価されているが、僕は違うと思う。

まず、聴き手のニーズに合わせて、ソフト&メロウを基調とした、R&Bなどと融合したフュージョン・ジャズの先駆け、とは全く異なる内容だと思う。このライフタイムの演奏は、ソフト&メロウなんて論外だし、R&Bの影のかけらもない。何をもって、フュージョン・ジャズの先駆けと評価するのか、全く理解できない。

そして、基本ジャズとロックの融合がメインのクロスオーバー・ジャズの発祥、については、エレギを使用しているところはロックに似ているが、演奏全体のリズム&ビートは「ジャズ」の域を出ていない。それぞれの楽器のフレーズだって、ロックっぽいものは全く無い。ジャジーなフレーズがてんこ盛りである。
 

The-tony-williams-lifetimeemergency

 
冒頭のタイトル曲「Emergency」を聴くと、この演奏って、フュージョン・ジャズでもなければ、クロスオーバー・ジャズでも無い。この演奏は、電気エフェクトがかかったエレギとオルガンをフロントにした「先進的なフリー・ジャズ」である。

トニー・ウィリアムスのフリーなドラミングには、一定のリズム&ビートとグルーヴがキープされていて、このトニーのドラミングのビートに乗ってフリーに演奏することが「最低限のルール」のようで、トニーのドラミングがしっかりしているので、意外とフリー・ジャズな演奏に聴こえないのだが、この盤全体の演奏は「フリー・ジャズ」である。

そして、そんなトニーのドラミングに乗って、ギターのマクラフリンも、オルガンのヤングも「フリー・ジャズな演奏」を展開するが、二人のフリーな演奏は、限りなく自由度の高いモーダルなフレーズからスタートして、その延長線上の先でフリーに展開する手法に則っているので、意外とメロディアス。聴き通すことに「苦痛は伴わない」。

激情に駆られて、無手勝流に吹きまくる、馬の嘶きの様なフリーキーな吹奏とは一線を画する、マクラフリンとヤングならではのユニークなもの。

フリー・ジャズな演奏が基本なのだが、ビートとグルーヴがしっかりしているのと、フロント楽器のフレーズがモードから派生してフリーに展開する手法をとっているので、「聴かせる音楽」として成立しているのが、このライフタイムのフリー・ジャズの特徴であり個性である。

しかし、当時、これだけ尖った内容の電気エフェクトがかかったエレギとオルガンをフロントにした「フリー・ジャズ」をアルバム化したなあ、と感心する。

そして、このアルバムを制作&リリースしたのは、1950年代から、聴き手のニーズに合わせて「聴かせるジャズ」「聴いて楽しいジャズ」を制作してきた、大手ジャズ・レーベルの「ヴァーヴ」というから、驚きである。

しかし、よくヴァーヴがこんなに尖ったフリー・ジャズな盤を制作したなあ。当時の「時代」がそうさせたのだろうか。
 
 

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2021年6月 9日 (水曜日)

渡辺貞夫 with GJTのライヴ盤 『Carnaval』

このアルバムのリリースは1983年。当時からこのジャケット・デザイン、むっちゃチープで、ロン・カーター名義だったので、ジャケットにある参加ミュージシャンの名前も見ずにスルーしていた。どうやったら、こんなチープなデザインになるのかが判らない。で、最近、このジャケットにある参加ミュージシャンを見たら「SADAO WATANABE」とある。

他のメンバーの名前も書かれており、あれ、これって「グレート・ジャズ・トリオ(GJT)」じゃないの、と思い立った。貞夫さんとGJTと言えば、1970年代後半に幾つかの共演盤があって、もしかしたらその流れで録音されたのでは、と思い始めた。しかし、1983年のリリース。その近辺で貞夫さんとGJTの共演ってあったのかしら、と考えたが、思い当たる節が無い。

Ron Carter, Hank Jones, Sadao Watanabe, Tony Williams『Carnaval』(写真左)。1978年7月30日、東京田園コロシアムで開催された「Live Under the Sky」でのライヴ録音である。ちなみにパーソネルは、Sadao Watanabe (as), Hank Jones (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)。なんと、1978年の「ライヴ・アンダー・ザ・スカイ」での、渡辺貞夫 with GJT のライヴ録音である。
 

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ジャケットにビビらずに、ちゃんと聴けば良かった、と反省しながら一気聴きしたのだが、さすがに「渡辺貞夫 with GJT」である。趣味の良いハードバピッシュな「ワン・ホーン・カルテット」。決して懐古趣味に走らない、1970年代後半での「最先端」のハードバップな演奏がここに記録されている。

ライヴ・フェスだからといって、安易に聴衆に迎合していないのが、この「ワン・ホーン・カルテット」の隅に置けないところで、収録された曲が実に渋い。バップなアルト・サックスが根っこにあるフロントの貞夫さんを、GJTがしっかりフィーチャー出来る楽曲が並んでいる。演奏のテンポもライヴ・フェスなら、アップテンポのノリノリの演奏になりがちだが、この盤では地に足着いた堅実なテンポで、メンバーそれぞれが素敵で印象的なソロ・パフォーマンスを繰り広げている。

1970年代後半のライヴ・フェスなので、ピアノの音がエレピっぽかったり、ロンのベースがアタッチメントで電気的に増幅されて「ブヨンブヨン」と緩んだ音を出していたりするが、演奏されるフレーズは確かなもの。いやはや、なかなか充実した内容のライヴ盤である。完全に、このチープなジャケットに騙されたなあ(笑)。
 
 
 

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【更新しました】 2021.03.06 更新。

  ・Journey『Infinity』1978

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  ・Yes Songs Side C & Side D
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  ・浪花ロック『ぼちぼちいこか』
 
 
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2017年11月 2日 (木曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・65 『At The Village Vanguard』

The Great Jazz Trio (略してGJT)は、ハンク・ジョーンズがリーダーのピアノ・トリオのバンド名。1976年に結成、2010年5月、ハンク・ジョーンズが91歳で亡くなるまで続いた。ドラムのトニー・ウィリアムスの発案だったそうだ。ベースがロン・カーターなのは良く判る。ロンはトニーの親代わりであり兄貴分だからだ。しかし、なんでピアノはハンク・ジョーンズだったんだろう。

ハンク・ジョーンズは、スイングの時代からピアニスト。1918年生まれであるから、トニー・ウィリアムスと比べたら、37歳も歳の開きがある。これはもはや「親子」である。トニーやロンは当時、新主流派のメイン・ジャズメンで、演奏のスタイルも感覚も、ハンクとは全く異なった筈である。ぱっと見、完全なミスマッチだと思ってしまう。

が、これが全く違った。GJTは、1975年、ニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードでデビュー。そして『At The Village Vanguard』(写真左)と『At The Village Vanguard Vol.2』(写真右)をリリースする。このライブ盤こそが、僕の「The Great Jazz Trio」との初めての出会いであった。1977年2月19-20日、NYの"Village Vanguard"でのライブ録音。

改めて、パーソネルは、Hank Jones (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)。まずは、トニー・ウィリアムスの圧倒的迫力のドラミングに耳を奪われる。圧倒的な技術から生み出される高速ドラミング。バスドラを強調した力強い響き。そして、ロン・カーターの変幻自在、夢幻幽玄なベース・ワークがそれに絡む。新しい、時代の最先端を行くリズム&ビート。明らかに個性的。一度聴けば、これはトニーとロンと直ぐ判る。
 

At_the_village_vanguard

 
しかし、このライブ盤では、この二人が主役では無い。この若手の優秀な、ジャズの明日を担う人材は、自らの演奏力をリーダーのハンク・ジョーンズのピアノを惹き立たせる為に活用する。献身的なバッキング、献身的なリズム&ビート。そんな素晴らしいバックを得て、当時、ほぼ還暦を迎えつつあったハンク・ジョーンズが、彼の典雅で流麗で歌心満点、しっかりとしたタッチでのピアノが、当時、先端を行くモーダルなフレーズを叩き出して行くのだ。

爽快である。ファンクネス漂う、黒く典雅なハンクのピアノ。そこに、トニーとロンのリズム隊が当時の新しいジャズの息吹を吹き込む。このライブ音源では、完全に「良い方向での化学反応」が起きまくっている。それまでには全く無かったピアノ・トリオのパフォーマンスがこのライブ音源にぎっしりと詰まっている。聴いていて惚れ惚れする、新しい感覚のハンクのピアノ。

僕がこのライブ盤を手に入れたのは、ジャズを本格的に聴き始めて2年目。1980年のこと。LPに針を降ろした瞬間にスピーカーから出てくるトニーの攻撃的なドラミングに度肝を抜かれた。そして、変幻自在なロンのベースに耳を奪われる。しかし、最後には、ハンクのファンクネス漂う、黒く典雅なピアノに耳を持っていかれる。

改めて、今の耳で聴いてみると、1977年の時代に、これだけ先端を行く、思いっきり尖ったピアノ・トリオのパフォーマンスが存在したということに驚く。今の時代にでさえ、これだけテンション高く、ポジティブでアクティブなピアノ・トリオの演奏は、ほぼ見当たらない。それだけ、この時代のGJTは「良い方向での化学反応」を起こしまくっていた。好盤中の好盤である。
 
 
 
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2017年6月28日 (水曜日)

トニーを忘れてはならない 『Native Heart』

このところ、ジャズ・ドラムの個性について振り返っている。ロイ・ヘインズ、アート・ブレイキー、そして、エルヴィン・ジョーンズ。そうそう、そう言えば、この人のドラミングも個性的だ。シンバル・ハイハットを多用、凄まじいスピードで刻まれるビート。怒濤の様なバスドラ、高速の4ビート。圧倒的なハイテクニック。

トニー・ウィリアムスである。マイルス率いる1960年代黄金のクインテットのドラマー。疾走するハイハット。高速4ビート。60年代後半はフリー・ジャズ、70年代はロックに傾倒し、そのドラミングは「神」の域に達する。迫力満点、手数の多い、疾走感と切れ味が拮抗する、限りなく自由度の高いリズム&ビート。

トニー・ウィリアムスは、アート・ブレイキーやマイルス・ディヴィスと同様、有望な若手ジャズメンを自らのバンドに引き入れ、育成することに力を入れた。1980年代後半から、新生Blue Noteレーベルから立て続けにメインストリーム指向のアルバムをリリース、この中で、有望な若手を育て上げている。

Tony Williams『Native Heart』(写真左)。1989年9月の録音。ちなみにパーソネルは、Tony Williams (ds), Ira Coleman, Bob Hurst (b), Mulgrew Miller (p). Wallace Roney (tp). Bill Pierce (ts, ss)。今から振り返ってパーソネルを見渡すと、いや〜錚々たるメンバーですなあ。
 

Native_heart

 
内容的には、1960年代マイルス・クインテットの音世界を、テクニック的にグッとステップアップして、限りなく自由度の高い、モーダルな純ジャズを展開している。凄まじい内容である。ジャズという音楽ジャンルの表現バリエーションがこんなに「複雑で深く広い」ということに思わずビックリする。しかも「判り易い」。

リーダーのトニーのドラミングが凄い。派手なパフォーマンスを経て、このアルバムでは、普通にバックに控えてフロントを盛り立てる役割に徹しているが、この余裕ある状況でのトニーのドラミングは殊の外、素晴らしい。余裕ある中で限りなく自由度の高いリズム&ビートを叩き出し、高速の4ビートで疾走する。

そんなトニーにリズム・セクションの一員として追従する、ピアノのマルグリュー・ミラーが良い。煌びやかなアドリブ・フレーズを醸し出しながら、左手のブロックコードでビートの底をガーンと押さえる。このミラーのピアノが白眉。僕はこの人のピアノが大好きで、これが聴きたいから、この頃のトニー・ウィリアムスのバンドのアルバムを聴き漁ったものだ。

そんなトニーは、1997年、胆嚢の手術の後の心臓発作により死去(51歳)、そして、マルグリュー・ミラーも、2013年、脳卒中を起こして入院していた病院で死去(57歳)。どちらも、あまりに若すぎる死であった。しかし、この『Native Heart』には、二人の素晴らしいプレイが残されている。好盤である。
 
 
 
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2015年9月 4日 (金曜日)

ドラマーがリーダーの盤って・4 『Foreign Intrigue』

ジャズ・メッセンジャーズを率いるリーダーであり、このメッセンジャーズを母体に、若手の有望株を育てていくという「道場」の様な役割を果たした「アート・ブレイキー(Art Blakey)。バンドのリーダーとしての役割がピッタリであった。

そんなバンドのリーダーとして若手の有望株を育て、サポートしていくという役割を引き継ごうとしたのが、ドラムの神童、トニー・ウィリアムス(Tony Willams)だろう。

その狼煙を上げたのが、このアルバムである。Tony Williams『Foreign Intrigue』(写真左)。1985年6月の録音。ちなみにパーソネルは、Tony Williams (ds), Wallace Roney (tp), Ron Carter (b), Donald Harrison (as), Bobby Hutcherson (vib), Mulgrew Miller (p)。

ベテランと新鋭、入り乱れてのパーソネルは実に興味深い。ベテラン組は、リーダーのトニーを筆頭に、ベースのロン、ヴァイブのハッチャーソン。新鋭組は、トランペットのウォレス・ルーニー、アルトのドナルド・ハリソン、ピアノのマリュグリュー・ミラー。

新鋭組のメンバーは皆、当時、若き純ジャズの精鋭達。新伝承派と呼ばれ、伝統的なフォービート・ジャズやモーダルな限りなくフリーなジャズを得意とする、純ジャズ復古の先鋭メンバーである。それに相対するのが、トニー&ロンのリズム隊に、ヴァイブのハッチャーソン。

それまでのトニーは、リーダー作においては、他のメンバーよりも前で出る、前へ出まくる。もともと音が大きく高速ドラミングのトニーである。リーダーになっては、当然、録音の中心になる。もともと音が馬鹿でかいのだ。他のメンバーとのバランスが悪くなるくらい、トニーのドラミングが前へ出る、前へ出まくる。

しかし、このリーダー作『Foreign Intrigue』では、決して前へ出過ぎることは無い。ロンとしっかりリズム&ビートを刻みながら、フロントの若手の精鋭部隊、ペットのルーニー、アルトのハリソンを鼓舞する。ルーニーとハリソンの新伝承派独特の、時代の先端を行くハードバップな、そしてモーダルなアドリブ・フレーズが乱舞する。 
 

Foreign_intrigue

 
そこに新伝承派の個性ピアノ、マリュグリュー・ミラーが、伝統的なハードバップでは無い、伝統的なモーダルなジャズでも無い、新しい響きが新鮮な「音の彩り」を添える。このマリュグリュー・ミラーのピアノが実に良い響きなのだ。それまでのジャズ・ピアノの世界にありそうで実は無い、彼独特のアドリブ・フレーズと音の重ね方が実に良い。

そして、このアルバムの音を決定づけるのが、ハッチャーソンのヴァイブ。ルーニーとハリソンの新伝承派の音に、ハッチャーソンのヴァイブの音が混ざり合って、伝統的なジャズの響きがグッと濃くなる。ややもすれば、テクニック優先の頭で考えたような音になりがちな新伝承派の音が、しっかりと地に足が付いた伝統的な純ジャズの音を宿したクールでモダンなフレーズに変化する。

そして、クールでモダンなフレーズに変化しつつ、フロントのルーニー、ハリソンは、抑制の効いた先鋭的ではありながら、しっかりとジャズの伝統の部分をキープした、上質の「新伝承派の音」を供給する。これは、やはり、リーダーのトニー・ウィリアムスの成せる技であろう。

滋味溢れる良いアルバムです。若手精鋭部隊を見守りつつ鼓舞するトニー・ウィリアムスのドラミングが実に優しい。ちなみに、最後の作品となった『Young at Heart』(2015年3月4日のブログ・左をクリック)も聴いて欲しい。バンドのリーダーとして若手の有望株を育て、サポートしていくという役割がピッタリのトニーのドラミングを聴くことが出来る。

しかし、1997年、胆嚢の手術の後の心臓発作により急逝してしまう。まだ51歳の若さであった。恐らく、本人としても無念であったろう。我々、ジャズ者としても無念であった。生きていたら、このトニー・ウィリアムスのバンドは、どうなっていたのだろう。恐らく、第二のジャズ・メッセンジャーズになっていたんでしょうね。実に無念なトニーの急逝でした。
 
 
 
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2015年4月25日 (土曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・45 『Milestones』

まず、ジャケットが良い。高速道路の標識のようなデザイン。そこに、トリオ名とアルバム・タイトルがあしらわれている。一言で言うと「格好良い」。スッキリ格好良いジャケットに惚れ惚れする。ジャズにおいて、ジャケットが優れているアルバムに駄盤は無い。

このアルバムは、The Great Jazz Trio『Milestones』(写真左)。1970年代後半、一世を風靡したピアノ・トリオ、グレート・ジャズ・トリオのスタジオ録音盤。1978年4月5日の録音。パーソネルは、当然、Hank Jones (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)の3人。

収録曲は以下の通り。有名なジャズ・スタンダード曲から、ミュージシャンズ・チューンの玄人好みの曲から、ボサノバの名曲まで、耳当たりの良い曲がズラリと並ぶ。うるさ型のジャズ者ベテランの型からすれば、この収録曲を見ただけで、通り一遍のどこにでもあるような、ジャズ・スタンダードをピラピラ弾き回すピアノ・トリオの企画盤を想起して、この盤はパスするだろうな。

1. Milestones
2. Lush Life
3. Wave
4. Eighty-One
5. I Remember Clifford
6. Hormone
7. Mr. Biko
 

Gjt_miletones

 
しかし、このグレード・ジャズ・トリオは、そんな通り一遍な、どこにもであるようなトリオ演奏はしない。冒頭の「Milestones」を聴けば、それが良く判る。有名なコード・イントロのテンションからして、普通のトリオ演奏とは違う。トニーのドラミングのテンションが半端では無い。そこに、ハンクのピアノのコード・イントロが被さる。ハンクのタッチのテンションも半端では無い。

アドリブ部の展開になると、これがまた、創造力豊かな展開に思わず「唸る」。ピアノのタッチは典雅、ドラミングはテンション高く、ベースはガッチリとアドリブ展開の底を支える。このトリオ演奏は「Milestones」の演奏の最高のもののひとつだろう。5分18秒があっと言う間に過ぎ去る。 

甘くなりそうな、ボサノバ名曲の「Wave」も凛としていて聴き応え十分。ウェットでベタベタな「I Remember Clifford」も、ピアノ・トリオで、こういうアレンジでやれば、静謐感と繊細感が増して、良い意味でセンシティブな展開に思わず「おおっ」と身を乗り出す。

良いピアノ・トリオ盤です。いままで、唯一、1回だけ見たことがありますが、優秀なピアノ・トリオ盤の紹介に、この盤の名前が挙がることは殆どありません。有名なジャズ・スタンダード曲から、ミュージシャンズ・チューンの玄人好みの曲から、ボサノバの名曲まで、耳当たりの良い曲で占められているからでしょうか。

でも、それは「聴かず嫌い」としか言いようがありません。やはり、ジャズは自分の耳で聴いて、自分の感性で判断することが大切ですね。
 
 
 
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2015年4月 3日 (金曜日)

ジャズ喫茶で流したい・60 『New Wine In Old Bottles』

ジャズのアルバムには、歴史的名盤とか定盤なんかでは無いんだけれど、ジャズの紹介本とか雑誌の名盤コーナーに、その名が挙がったりはしないんだけど、何故かその内容が気に入って、何故かずっと愛聴しているアルバムがある。 

僕にとってのそんな一枚がこれ。Jackie McLean With The Great Jazz Trio『New Wine In Old Bottles』(写真左)。1970年代、メインストリーム・ジャズを扱った日本の伝説的レーベル「East Wind」からのリリース。 1978年4月の録音。ちなみにパーソネルは、Jackie McLean (as), Ron Carter (b),  Tony Williams (ds), Hank Jones (p)。

1970年代後半、一世を風靡したメインストリーム・ジャズ・トリオ、ハンク・ジョーンズ率いる「グレイト・ジャズ・トリオ」をバックに、アルトのジャキー・マクリーンが吹きまくるという、いわゆる企画盤。しかも、1978年という、フュージョン全盛期の中でのメインストリーム・ジャズ。

これがまあ、実に気持ちの良い内容なんですね。懐古趣味が前提のメインストリーム・ジャズでは無いところが素晴らしい。このアルバムを制作した4人のジャズメンの矜持を強く感じる。まずはリズム・セクションを司る「グレイト・ジャズ・トリオ」の音が新しい。1970年代後半、最先端のメインストリーム・ジャズの響きを感じる。

そして、フロントのワンホーン、アルトのマクリーンが良い。最初の「Appointment In Ghana Again」でのマクリーンはちょっと大人しい。しかも、1950年代後半から1960年代のちょっとピッチが外れたストレートな音で、バリバリ吹きまくる姿とはちょっと違った、お行儀の良い、ピッチのほぼあったマクリーンがここにいる。
 

New_wine_in_old_bottles

 
マクリーン、衰えたかと危惧するが、どうして、2曲目の「It Never Entered My Mind」から走り始める。お行儀が良くなった、と感じるのは、年齢相応の落ち着きが備わったから。ピッチがほぼ合った感じなのは、テクニックが備わり、端正なインプロビゼーションが展開できる様になったから。アルト奏者として成熟したマクリーンを感じることが出来るのだ。

この成熟した落ち着いたマクリーンを「カンが戻らずにイマイチ」という評価もあるが、それはちょっと違うだろう。1950年代後半から1960年代のマクリーンは、若さと勢いに任せて、ピッチが少し外れようが、ポジティブにバリバリ吹きまくった。それはそれで良いことなんだが、じゃあ、それがマクリーンの絶対的スタイルかと言えば、そうでは無い。

1970年代後半、マクリーンのアルトは成熟した。落ちついた余裕のある吹き回しが、実に魅力的なんだが、そんな成熟したマクリーンのアルトを、この『New Wine In Old Bottles』では、心ゆくまで堪能することが出来るのだ。

バックを司る「グレイト・ジャズ・トリオ」のパフォーマンスは申し分無い。「グレイト・ジャズ・トリオ」の演奏としては、彼らのキャリアの後期に位置する、トリオとして十分にこなれた、十分に成熟したパフォーマンスである。じっくりと聴けば聴くほど、その良さがどんどん深く広く理解出来る、実に味のあるパフォーマンスである。

アルバム・ジャケットも魅力的。港の桟橋、お洒落な街灯、真っ赤なウィンチ。計算されたような桟橋の配置、海の部分と桟橋の部分との割合。どれもが新しいデザイン・コンセプト。そして、その盤の中に詰まっているジャズは、1978年当時の最先端のメインストリーム・ジャズ。良い盤です。
 
 
 
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2015年3月26日 (木曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・44 『Direct From L.A.』

こういうアルバムは聴いていて、文句無しに楽しい。加えて音が良い。これまた、文句無しに楽しい。しかも、こんな純ジャズなアルバムが、1977年10月に録音されていたんだから、米国の音楽シーンは懐が深い。

そのアルバムとは、The Great Jazz Trio『Direct From L.A.』(写真左)。The Great Jazz Trio(以下GJTと略す)は、Hank Jones (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds) の3人の名うてのジャズ職人で構成されたピアノ・トリオ。

新主流派の最先端を走っていたベースのロンとドラムのトニーはともかく、この当時ジャズ界の先端を行くピアノ・トリオの主役、ピアノを担うのが、当時、既にベテランの域に達していたハンク・ジョーンズである。このGJTの演奏を聴く前には、どう想像したって、ハンクのピアノは時代遅れの音なんだろうな、って思ってしまう。

それじゃあ、なんで新主流派の最先端を走っていたベースのロンとドラムのトニーが、このベテラン、ハンク・ジョーンズと組んで、ピアノ・トリオとして演奏を繰り広げたのか、が判らない。日本のジャズレーベル独特の、ギャラを積んで一流ジャズメンを呼んだ、趣味の悪い企画セッションなのかと勘ぐったりする。

しかも、このアルバムの収録曲が「Night In Tunisia」「Round Midnight」「Satin Doll」「My Funny Valentine」の4曲。それも超有名なジャズ・スタンダード曲ばかり。これだけ超有名なジャズ・スタンダード曲を並べられると、胡散臭さに拍車がかかる。大丈夫なのか、このアルバムとも思う。
 

Gjt_direct_from_la

 
しかし、一旦、このアルバムを聴き始めると、まずは思わずビックリ。聴き耳を立て始め、1曲目の「Night In Tunisia」のアドリブ部の展開の頃には、ドップリとこのアルバムの演奏に聴き入っている。

まず、時代遅れの音なんでしょう、と思っていたハンクのピアノが素晴らしく創造的で先鋭的。実に尖った当時最先端のモダンジャズなピアノの響きである。確かにタッチはハンクの典雅なタッチ。しかし、そのインプロビゼーションの展開はダイナミックで緊張感溢れる先鋭的なもの。

逆にそんな先鋭的なハンクのピアノに煽られて、ロンのベースがモーダルにブンブン唸りを上げ、トニーのドラムがマシンガンのように打ち付けられ、時にハイハットが飛翔する。凄まじいばかりのリズム&ビートのうねり。その「うねり」に乗じて、ハンクのピアノがスリリングなアドリブ・フレーズを展開する。

恐らく、この『Direct From L.A.』というアルバム、GJTのスタジオ録音の中でも出色の出来でしょう。収録時間は、LP時代のダイレクト・カッティングのアルバムなので、全体で29分弱と短いが、そんな短さが全く気にならない位に、このアルバムに収録された演奏は相当に充実している。

疾走感とスイング感を両立させつつ、ダイナミックな表現とセンシティブな表現を共存させる。そんな大変モダンなピアノ・トリオを実現しているところが凄いですね。全くもって脱帽です。ピアノ・トリオの常識を覆す斬新な演奏は今の耳にも新鮮に響きます。
 
 
 
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