良い, Senri Oe『Class of ’88』
大江 千里(おおえ せんり、英語: Senri Oe)、1960年9月生まれ。今年で64歳。1983年に、シンガーソングライターとしてプロ・デビュー。「十人十色」「格好悪いふられ方」「Rain」「ありがとう」などのシングルがヒット。Jポップの世界でメジャーな存在となる。
が、2008年ジャズピアニストを目指し渡米、NYのTHE NEW SCHOOL FOR JAZZ AND CONTEMPORARY MUSICに入学。2012年、1stアルバム「Boys Mature Slow」でジャズ・ピアニストとして本格デビューを果たしている。以降、6枚のオリジナルジャズアルバムをリリース。そして、昨年の5月、大江千里デビュー40周年記念アルバムをリリース。
Senri Oe『Class of '88』(写真左)。2023年5月のリリース。NYブルックリンの「The Bunker Studio」での録音。Senri Oe "大江千里" (p), Matt Clohesy (b)、Ross Pederson (ds)。
ピアノの大江千里をリーダーにした、ピアノ・トリオ編成の、デビュー40周年記念アルバムである。ジャケ担当は江口寿史。素晴らしいジャケ・イラスト。この大江千里のアルバムの内容に直結している様なイメージで秀逸。
宣伝文句には「Jポップ時代の名曲のセルフカバーと新曲が収録された作品」とあるが、それがこのトリオ盤の評価には直結しないだろう。「Jポップ時代の名曲のセルフカバー」が、当アルバムの「売り」なんだろうが、このアルバムをしっかり聴けば良く判るが、「Jポップ時代の名曲のセルフカバー」など、あまり関係がないことに気が付く。
収録されたどの曲も、印象的なフレーズを伴った、流麗な曲ばかり。どれが「Jポップ時代の名曲のセルフカバー」で、どれが自作曲なのか、ほとんど関係が無い。とにかく「良い曲」がズラリと並んでいる。
そんな「良い曲」を「良いアレンジ」で料理して、ピアノ・トリオ演奏で聴かせる。ジャズ・ピアニスト大江千里の面目躍如な想像の成果。「Jポップ時代の名曲」は、ピアノ・トリオ演奏の素材でしかない。
ミッドテンポがメインの、耽美的でリリカルでスピリチュアルなフレーズ。温和で温厚で耽美的なスピリチュアルな響きが印象的。これが、大江千里のピアノの個性と理解する。今までのジャズ・ピアノの歴史の中に無かった、「温和で温厚で穏やか」な、耽美的スピリチュアル・ジャズな響き。大江千里のピアノは、どれもが普遍的に「温和で温厚で穏やか」。これが意外と癖になる。
この盤の大江千里のジャズ・ピアノを聴けば、彼が「彼なりの個性」と「彼ならではの響き」を獲得していることに気づく。この盤には、Jポップ時代のシンガーソングライターの大江千里は全く存在しない。存在しているのは、努力の結果、自分なりの個性と響きを獲得した、ジャズ・ピアニストの大江千里。
この盤は、デビュー40周年記念アルバムとはいえ、現時点での、リアルタイムでの「ジャズ・ピアニストの大江千里」を愛でる盤である。
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