2024年9月10日 (火曜日)

良い, Senri Oe『Class of ’88』

大江 千里(おおえ せんり、英語: Senri Oe)、1960年9月生まれ。今年で64歳。1983年に、シンガーソングライターとしてプロ・デビュー。「十人十色」「格好悪いふられ方」「Rain」「ありがとう」などのシングルがヒット。Jポップの世界でメジャーな存在となる。

が、2008年ジャズピアニストを目指し渡米、NYのTHE NEW SCHOOL FOR JAZZ AND CONTEMPORARY MUSICに入学。2012年、1stアルバム「Boys Mature Slow」でジャズ・ピアニストとして本格デビューを果たしている。以降、6枚のオリジナルジャズアルバムをリリース。そして、昨年の5月、大江千里デビュー40周年記念アルバムをリリース。

Senri Oe『Class of '88』(写真左)。2023年5月のリリース。NYブルックリンの「The Bunker Studio」での録音。Senri Oe "大江千里" (p), Matt Clohesy (b)、Ross Pederson (ds)。

ピアノの大江千里をリーダーにした、ピアノ・トリオ編成の、デビュー40周年記念アルバムである。ジャケ担当は江口寿史。素晴らしいジャケ・イラスト。この大江千里のアルバムの内容に直結している様なイメージで秀逸。

宣伝文句には「Jポップ時代の名曲のセルフカバーと新曲が収録された作品」とあるが、それがこのトリオ盤の評価には直結しないだろう。「Jポップ時代の名曲のセルフカバー」が、当アルバムの「売り」なんだろうが、このアルバムをしっかり聴けば良く判るが、「Jポップ時代の名曲のセルフカバー」など、あまり関係がないことに気が付く。
 

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収録されたどの曲も、印象的なフレーズを伴った、流麗な曲ばかり。どれが「Jポップ時代の名曲のセルフカバー」で、どれが自作曲なのか、ほとんど関係が無い。とにかく「良い曲」がズラリと並んでいる。

そんな「良い曲」を「良いアレンジ」で料理して、ピアノ・トリオ演奏で聴かせる。ジャズ・ピアニスト大江千里の面目躍如な想像の成果。「Jポップ時代の名曲」は、ピアノ・トリオ演奏の素材でしかない。

ミッドテンポがメインの、耽美的でリリカルでスピリチュアルなフレーズ。温和で温厚で耽美的なスピリチュアルな響きが印象的。これが、大江千里のピアノの個性と理解する。今までのジャズ・ピアノの歴史の中に無かった、「温和で温厚で穏やか」な、耽美的スピリチュアル・ジャズな響き。大江千里のピアノは、どれもが普遍的に「温和で温厚で穏やか」。これが意外と癖になる。

この盤の大江千里のジャズ・ピアノを聴けば、彼が「彼なりの個性」と「彼ならではの響き」を獲得していることに気づく。この盤には、Jポップ時代のシンガーソングライターの大江千里は全く存在しない。存在しているのは、努力の結果、自分なりの個性と響きを獲得した、ジャズ・ピアニストの大江千里。

この盤は、デビュー40周年記念アルバムとはいえ、現時点での、リアルタイムでの「ジャズ・ピアニストの大江千里」を愛でる盤である。
 
 

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2021年10月 7日 (木曜日)

大江千里の新作『Letter to NY』

コロナ禍になってから、ジャズの新作の録音環境も厳しい状況になった。録音スタジオ内の環境は基本的に「密」だし、管楽器は息を強く吹き出すので、ツバなどの飛沫が飛びやすい。コロナ禍の初期、音楽の新作の録音作業は全面的にストップした。当然、ライヴ活動も全面的に停止。それでも、昨年の10月以降、徐々に新作が録音されるようになってきたことは喜ばしいことである。

大江千里(おおえせんり)。1960年9月生まれ。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー、2007年末までに45枚のシングルと18枚のオリジナルアルバムを発表。我が国を代表するJポップ・ミュージシャンの1人だったが、2008年以降、国内での音楽活動を休止し、ニューヨークに在住。2012年にジャズ・ピアニストに転身。そして今年、ジャズ・ピアニストに転身後の7枚目のリーダー作をリリースした。

大江千里『Letter to N.Y.』(写真左)。2021年7月のリリース。全曲ニューヨークの自宅でのセルフレコーディング。コロナ禍の中での新作の制作について、大江は自宅での巣籠レコーディングを敢行。全て大江一人の演奏と録音により完成させたトラックを日本に持ち込んでミックス&マスタリング作業を行い、アルバムを完成させている。
 

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収録曲は全10曲。エレ楽器を織り交ぜた、コンテンポラリーなフュージョン・ジャズな雰囲気を色濃く宿した楽曲ばかり。どの曲もキャッチャーで印象的な主題を持っていて、こういうところに、元シンガーソングライターの才能が活かされている様に感じる。音の重ね方、リズムの割り振り方にも、ただならぬ「センス」感じる。肩肘張らずにリラックスして聴き進めることが出来る魅力盤である。

セルフ・インストルメンタルな打ち込みの音楽であり、サンプリング志向の作品ではあるが、リズム&ビートと音の展開はしっかりとジャズしている。ユッタリとしたスインギーな曲あり、静的なスピリチュアルな曲あり、ライトでエレ・ファンクな曲あり、日本人の「大江千里」ならではのコンテンポラリーなフュージョン・ジャズが、なかなかに「格好良い」。

大江千里のジャズの「新境地」となるか、という強い期待感を持たせてくれる、なかなかにユニークな新盤である。「大江千里の考えるフュージョン・ジャズ」のサンプルがこの盤に詰まっている様に感じている。次作は、現代フュージョン系のミュージシャンを集めて、この「新境地」の延長線上にある新作を聴かせて欲しい。僕はこの「大江千里の考えるフュージョン・ジャズ」の音世界、お気に入りです。
 
 
 
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