2024年1月 7日 (日曜日)

ケニーGの新盤『イノセンス』

ジャズは「純ジャズ」ばかりでは無い。「純ジャズ」に8ビートを導入、ロックの要素を融合したクロスオーバー・ジャズ、そこから、ソフト&メロウ、そして、アーバンな要素を加えて一世を風靡したフュージョン・ジャズ。そして、フュージョン・ジャズの流麗さ、聴き心地の良さを強調したスムース・ジャズ。

ジャズ盤を聴いて楽しむのは、基本、純ジャズがメインなんだが、ここバーチャル音楽喫茶『松和』は、クロスオーバー&フュージョン・ジャズもバッチリ守備範囲で、その延長線上にあるスムース・ジャズも嗜む。純ジャズを聴いて疲れたら、もしくは、何かの作業のバックに流れる「ながら聴きジャズ」は、クロスオーバー&フュージョン・ジャズ、そして、スムース・ジャズになる。

Kenny G『Innocence』(写真)。2023年12月のリリース。ケニーGの通算20枚目になるスタジオ盤は、「エーデルワイス」「虹の彼方に」「ロック・ア・バイ・ベイビー」など、「子守唄」をテーマにした企画盤。アルバム全体の雰囲気は、絵に描いた様な「スムース・ジャズ」。さすが、現代のスムース・ジャズの第一人者の音世界である。
 

Kenny-ginnocence

 
ケニーGのアルバムを聴いて、常に思うのは「ソプラノ・サックスがいい音出しているなあ」と言うこと。しかも、ケニーGにしか出せない独特の音色。ブリリアントでブラスの輝く様な響きが豊か、音が適度に大きくスッと伸びる。そんなケニーG独特の音色で「子守唄」を唄い上げていく。めっちゃ聴き味の良い、流麗なソプラノ・サックスの音世界。

ケニーGはソプラノ・サックスの名手。スムース・ジャズの範疇でありながら、スピーカーに対峙して、じっくりとその音を味わえる質の高さ。もちろん、上質のイージーリスニングとして、「ながら聴きジャズ」に最高に適した、耳障りでは全くない、ながらを邪魔することなく、スッと耳に入ってくる心地良さ。

スムース・ジャズの範疇の究極の「イージーリスニング」。現代のイージーリスニング・ジャズの優秀盤と評価して良いと思う。即興の妙とは無縁だが、1960年代からある「イージーリスニング・ジャズ」の現代版。純ジャズの合間の「耳休め」に、何かしながらの「ながら聴き」に最適の、ケニーGの上質のスムース・ジャズです。
 
 

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 ★ AORの風に吹かれて 

  ・『AirPlay』(ロマンチック) 1980

 ★ まだまだロックキッズ    【New】 2024.01.07 更新

    ・米国西海岸ロックの雄、イーグルス・メンバーのソロ盤。

 ★ 松和の「青春のかけら達」

  ・四人囃子の『Golden Picnics
 

Matsuwa_billboard

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2023年11月21日 (火曜日)

小沼ようすけ『Jam Ka』再聴

「オーガニック・ジャズ」という用語を目にすることが多くなってきた様な気がする今日この頃。「オーガニック」と言えば、すなわち有機栽培や添加物無しの食品のことを指すものと思ってきたが、最近、音楽の世界で「オーガニック・ジャズ」なんて感じで使われ出している。

どうも、音楽の世界における「オーガニック」とは、「コンピューター・プログラミングではなく人力の演奏の重視」、「アコースティック楽器をメインに使うこと」、「デジタルな音加工を極力避けること」。つまり、オーガニック・ジャズとは、生楽器がメインで、人力の演奏で、音の加工や多重録音などを排除したジャズを指すのだろう。

小沼ようすけ『Jam Ka(ジャム・カ)』(写真左)。2010年の作品。ちなみにパーソネルは、小沼ようすけ (el-g、ac-g), Reggie Washington (el-b、ac-b), Milan Milanovic (p, Rhodes, Wurlitzer), Olivier Juste (Ka)、Arnaud Dolmen (Ka)、Stephanie Mckay, Joe Powers (hca)。

演奏全体の雰囲気はスムース・ジャズに近い。分かりやすく、聴いていて心地の良いアレンジ。人力の演奏オンリー、生楽器がメイン、音の加工は一切無しのシンプルな演奏。こういうジャズ演奏のイメージを「オーガニック・ジャズ」というのだろう。つまりは「オーガニック・スムース・ジャズ」。
 

Jam-ka

 
とにかく聴いていて心地良い。リズム&ビートが耳慣れない、それでいて魅惑的な、ワールド・ミュージック系ジャズが好きなじジャズ者にはたまらない響き。それは耳慣れない打楽器のリズム&ビートが醸し出す響き。

カリブ海の島・グアドループの伝統的な太鼓、カ(ka)から生み出されるグォッカのリズム&ビートが耳に新しい。ワールド・ミュージック系のスムース・ジャズといった雰囲気がぷんぷんする。カリビアンなフレーズ、音の響きが心地よく、このアルバムの演奏から想起する風景は「海と海岸」。それも、その「海」はカリブ海。

カルテット編成にカリブの民族楽器「カ(ka)」が加わって、常夏の海に面したカントリーで流れているにピッタリな、カリビアンな雰囲気。そこに、小沼のリラックス感満載な、オーガニックなギターの音が入ってきて、これがまた、クールでスマートなグルーヴを醸し出して、心地よいことこの上ない。

「海と海岸=カリブ海」を想起するカリビアンなスムース・ジャズ。ハーモニカの奏でるフレーズがこれまた「ワールド・ミュージック」風の音世界を増幅する。日本人がメインのワールド・ミュージック系の「オーガニック・スムース・ジャズ」。録音も良く、アルバムの完成度は高い。現代の「和スムース・ジャズ」の佳作。
 
 

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 ★ AORの風に吹かれて 

  ・『AirPlay』(ロマンチック) 1980

 ★ まだまだロックキッズ    【New】 2022.12.06 更新

    ・本館から、プログレのハイテク集団「イエス」関連の記事を全て移行。

 ★ 松和の「青春のかけら達」

  ・四人囃子の『Golden Picnics
 

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2022年8月 9日 (火曜日)

スティックス・フーパーの新盤

1970年代、フュージョン・ジャズの中で一世を風靡したジャズ・ファンクなバンドが「クルセイダーズ(The Crusaders)」。ポップでファンキーなフュージョン・ジャズが素敵なバンドで、僕は大好きだった。

オリジナル・メンバーは、テキサス州のハイスクールで同級生だったウェイン・ヘンダーソン(トロンボーン)、ウィルトン・フェルダー (テナー・サックス)、ジョー・サンプル(キーボード)、スティックス・フーパー (ドラム)の4人。ベーシストはゲストだった。

このオリジナル・メンバーのうち、ドラム担当のスティックス・フーパー以外、既に逝去してしまった。スティックス・フーパーも、1938年8月生まれなので、今年で84歳になる。ここ10年以上、フーパーの名前を聞かないので、クルセイダーズ・サウンドって、もう歴史的な音になってしまったなあ、と思っていたら、スティックス・フーパーが突然、2010年以来、12年振りにリーダー作をリリースした。これはもう「ポチッとな」である(笑)。

Stix Hooper『Orchestrally Speaking』(写真左)。今年4月のリリース。ちなみにパーソネルは、お馴染みのレジェンド Hubert Laws (fl), ロシア出身のEugene Maslov (p), スウェーデン出身のAndreas Oberg (g), 米国ニューオリンズ出身のJamelle Adisa (tp), 米国NY出身のScott Mayo (sax), 米国ロス出身のDel Atkins (b)。インターナショナルなボーダーレスのメンバー選定。
 

Stix-hooperorchestrally-speaking

 
大ベテランがリーダー作を録音する際にありがちな、旧知の仲良しメンバーが集ったセッションでは無く、インターナショナルなメンバー選定というところに、フーパーの「やる気」を強く感じる。

さて、出てくる音といえば、クルセイダーズ・サウンドからファンクネスを薄めて、フュージョン・ジャズではなく、スムース・ジャズ寄りのアレンジを加えた感じの音世界。それでも、ファンクネス漂うグルーヴ感は一貫して、それぞれの演奏の底にあって、このグルーヴ感こそが、クルセイダーズ・サウンドのグルーヴ感に通じるもので、それは、取りも直さず、フーパーのドラミングが醸し出しているのだ。

フーパーのドラミングは、スムース・ジャズっぽくなってはいるが、その叩き方、リズム&ビートの傾向は、クルセイダーズ時代の頃と変わらない。フーパーが1983年に脱退して以来、20年弱が経過しているが、クルセイダーズのフーパーのリズム&ビートは健在である。多国籍なバック・バンドの演奏も内容の濃い、素敵な演奏で、リーダーのフーパーの標榜する「スムース・ジャズなクルセイダーズ」な音をしっかりと現実のものとしている。

今年4月のリリースなんだけど、ネットを見渡すと、ワールドワイドで、このスティックス・フーパーの新盤は話題になっていない。フーパーって過去の人扱いなのかな。でも、知らないジャズマンのリーダー作だったとしても、この新盤を聴くと、この盤、意外といける、って感じること請け合い。クルセイダーズのファンだった方々には、特に一聴をお勧めしたい「小粋なスムース・ジャズ」盤です。
 
 

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 ★ AORの風に吹かれて        【New】 2022.03.13 更新。

      ・『AirPlay』(ロマンチック) 1980

 ★ まだまだロックキッズ     【New】 2022.03.13 更新。

  ・遠い昔、懐かしの『地底探検』
 
 ★ 松和の「青春のかけら達」 【New】 2022.03.13 更新。

  ・四人囃子の『Golden Picnics』
 
 
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2022年6月 5日 (日曜日)

スムース・ジャズ化のT-SQUARE 『WISH』

1978年、「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」としてデビューしてから44年。2021年11月、伊東たけし、坂東慧のユニット形態として活動を始めた「T-SQUARE alpha」。ポップでロックなフュージョン・ジャズから、ポップでロックなスムース・ジャズに変化してきた様だ。

T-SQUARE『WISH』(写真左)。2022年5月のリリース。そんな「T-SQUARE alpha」での初オリジナル盤。ちなみにパーソネルは、伊東たけし (sax), 坂東慧 (ds) が「T-SQUARE alpha」。そこにゲスト・ミュージシャンとして、様々なメンバーが参加している。「T-SQUARE alpha」は、素晴らしいサポートメンバーを交えたT-SQUAREという意味合いだろう。

そんなサポート・メンバーを思いつくままに列挙すると、まず、T-SQUAREの必須サポートである、田中晋吾 (b), 白井アキト (key), 佐藤雄大 (key)。ゲスト・ギタリストとして、渡辺香津美、是方博邦。20数年ぶり、T-SQUAREへのゲスト参加となった本田雅人 (sax), 松本圭司 (key)。

加えて、ホーン・セクションとして、エリック・ミヤシロ (tp), 西村浩二 (tp), 中川英二郎 (tb), 半田信英 (tb)。他にもいると思うが、とにかく、我が国の優れものジャズマン達が、こぞってサポート・メンバーとして参加しているから凄い。
 

Tsquarewish

 
もともと、デビュー当時からのT-SQUAREの音の志向が「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」だったので、他の我が国のフュージョン・バンドと比して、ジャズ度は軽く、ポップス度、ロック志向が強い。今回の「T-SQUARE alpha」の音は更にそれが進んで、今までは辛うじて「フュージョン・ジャズ志向」の範疇に留まっていたが、今回は「スムース・ジャズ志向」に完全に変化した様な音世界である。

もともとフュージョン・ジャズというのは、エレギの音がそのフュージョン・バンドの音の「カギ」を握っていたケースが多く、T-SQUAREは「ギター・バンド」の印象が強かった。そんな「ギター・バンド」から、結成当時から不動のメンバーとして君臨していたギターの安藤正容が抜けたのだから、バンド・サウンドがガラッと変わっても不思議では無いのだが、案の定、今回「T-SQUARE alpha」の音はガラッと変わった。

以前は「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」とは言っても、ジャズ度はほどよく漂い、演奏のフレーズには、どこかジャズ・ライクな捻りや「引っ掛かり」があったりして、ポップでロックな雰囲気はあるが、基本的にはフュージョン・ジャズの音志向を貫いていたと思う。

アルバムの出来はそつなく優秀、よく聴けば、T-SQUAREらしさは押さえられている。しかし、今回の「スムース・ジャズ志向」の耳当たりの良いサウンドは、恐らく「賛否両論」だろう。
 
 

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  ・遠い昔、懐かしの『地底探検』

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2022年3月17日 (木曜日)

デイヴィッド・ベノワの新作です

ここバーチャル音楽喫茶『松和』は、ジャズのアルバム鑑賞がメインなんだが、ジャズの演奏ジャンルについては、全方向OKが個性。1970年代半ばから1980年代前半に大流行したフュージョン・ジャズもしっかりと守備範囲に入っている。意外と年配の硬派なジャズ評論家からは忌み嫌われるフュージョン・ジャズだが、ちゃんと聴いてみると、テクニック、アレンジ、演奏内容、どれもが一流のものが多くある。

ジャズのどこに重きを置いて鑑賞するかによって、フュージョン・ジャズの評価は変わるのだろうが、 フュージョン・ジャズは「商業ジャズ」で、ジャズのスピリッツが宿っていないなどという変な論理で、フュージョン・ジャズ盤を十把一絡げに「聴くに及ばず」とするのはちょっと乱暴だろう。事実、1970年代半ばから1980年代前半には、一般大衆から支持され、大いに聴かれたのだから、なにか響くものがあったはずである。

David Benoit『A Midnight Rendezvous』(写真左)。2022年2月のリリース。ちなみにパーソネルは、David Benoit (p), Eric Marienthal, Sal Lozano (as), Gordon Goodwin (ts), Jay Mason (bs), Wayne Bergeron, Dan Fornero, Dan Rosenblum (tp), Francisco Torres (tb), Charlie Morillas (b-tb), Roberto Vally (b), Dan Schnelle (ds)。フュージョン〜スムース・ジャズを代表するピアニスト、デヴィッド・ベノワの最新作になる。
 

A-midnight-rendezvous_david-benoit

 
冒頭の「A Midnight Rendezvous」から、ベノワ節が全開。リリカルで耽美的。タッチは確かで流麗。ファンクネスは意外と希薄で、どこか米国の自然の風景を、原風景をイメージするような、ネイチャーな響きとフレーズが特徴。決して、アーバンでアダルトでは無い。この「ベノワ節」が僕は大好きなんです。そして、この盤には、ラストの「Cabin Fever」まで、ベノワ節満載。金太郎飴的、と言ってしまえばそれまでですが、ここまで熟達した個性であれば、これはこれでアーティスティックだと思います。

基本は、フュージョン〜スムース・ジャズ基調のビッグバンド仕立て。オフビートではあるが、ファンクネスは薄い。耽美的で流麗なフレーズが基本だが、グルーヴ感は強い。ビートがしっかり効いている分、どの曲にもメリハリが効いていて、聴いていて飽きることは無い。それより、ベノワの紡ぎ出す印象的なフレーズが、しっかりと耳に残って、聴いていてとても心地良い。

フュージョン〜スムース・ジャズの好盤です。テクニック、アレンジ、演奏内容、いずれも充実しているので、しっかりと聴き込むのも良し、何かをしながらの「ながら聴き」するのも良し、フュージョン〜スムース・ジャズ畑のベテラン・ミュージシャンが紡ぎ出す珠玉の10曲。純粋に音楽として聴くと、意外と「フュージョン〜スムース・ジャズもええなあ」と思ってしまうかもしれません。
 
 
 
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2022年2月21日 (月曜日)

神保彰『SORA』を聴いて思う

我がバーチャル音楽喫茶『松和』は、メインストリームな純ジャズのみならず、フュージョン・ジャズも結構聴く。特に、フュージョン・ジャズについては、僕が本格的にジャズを聴き始めた1970年代後半は、フュージョン・ジャズ全盛期。純ジャズの名盤を集めつつ聴きながら、フュージョン・ジャズ盤は、軍資金が底を突かないよう貸レコードを活用して、積極的に聴いていた。

ちなみに1970年代後半は、ロックの世界では、我が国独特の表現にはなるが、AOR(Adult Oriented Rock)=「大人のロック」の全盛時代。従来のロック盤と同様、アルバム中心主義で、ロック・ビートに乗った、聴いていて心地よい、落ち着いて、洒落ていて、小粋なサウンドがメインのロックが流行していた。

神保彰『SORA』(写真左)。2021年12月のリリース。ちなみにパーソネルは、Jimbo Akira "神保彰" (ds), Jeff Lorber (p), Patrice Rushen (p, vo), Nathan East (e-b, vo), Freddie Washington (e-b)。フュージョン・ジャズの名うての名手達が参加。しかし、ジェフ・ローバーやネイザン・イーストが参加して、日本のフュージョン・ジャズのアルバムが制作されるなんて、夢の様である。
 

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このアルバムは、一言で言うと「AORな雰囲気満載の日本発のフュージョン・ジャズ」。テクニックは優秀だが、テクニックに走ること無く、余裕ある大人のフュージョン〜スムース・ジャズがこの盤の個性。しかも、ジャジーな雰囲気を失うこと無く、真摯にジャズの雰囲気を残しつつ、ファンクネスが限りなく希薄な、「日本発」独特のフュージョン・ジャズがこの盤の中で展開されている。

そんな「日本発」独特のフュージョン・ジャズの中で、神保のドラミングがクッキリと前面に出て、しっかりと演奏全体をコントロールしている。じっくり聴くと、神保のドラミングが凄い。スティーヴ・ガッドに匹敵する縦ノリ・ビート、粘りの無いクリアなアタック音、表現豊かなポリリズム。とっても素敵なフュージョン・チックなドラミングである。この神保のドラミングを聴いているだけで幸せな気分になれる。

AORの往年の名曲「アントニオの歌(Antonio’s Song)」(1977年)と、パトリース・ラッシェン「Forget Me Nots」(1982年)のカヴァーをヴォーカル入りで収録している。こういう「日本発」独特のフュージョン・ジャズが神保の好みだとすると、確かに「CASIOPEA 3rd」の音はちょっと違うな。「CASIOPEA 3rd」については、サポートメンバーに徹しているのが、何となく判る、神保彰の好みが反映された、日本発のフュージョン・ジャズの好盤である。
 
 
 
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  ・The Brothers Johnson『Light Up the Night』&『Winners』

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  ・『ヘンリー8世と6人の妻』を聴く

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  ・伝説の和製プログレ『四人囃子』

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2022年2月 9日 (水曜日)

ボブ・ジェームスの最新ライヴ盤

ボブ・ジェームス(Bob James)は、長年の僕の「フュージョン・ジャズ畑のアイドル」の1人。ボブ・ジェームスの音に出会って、かれこれ48年になる。初めて聴いた盤が『Bob James One』。彼の弾くエレピに惚れ惚れし、彼のアレンジに感じ入った。そして、演奏するミュージシャンは、フュージョンの一流どころ。そんなハイレベルな演奏にウットリである。

Bob James『Feel Like Making LIVE!』(写真左)。2022年2月のリリース。ちなみにパーソネルは、Bob James (p, key), Michael Palazzollo (b), Billy Kilson (ds)。ボブ・ジェームスによくある、ジャズの大編成の楽団を従えた豪華な演奏では無く、ボブ・ジェームスのトリオによる、シンプルなスタジオ・ライヴ録音になる。

ボブ・ジェームスのライヴ盤と言えば『All Around the Town』(1981年)なんだが、これがあんまし良い出来では無くて、人気絶頂だったボブ・ジェームスのライヴ音源を無理矢理リリースした感じで、ボブ・ジェームスのライヴ盤については、あまり良い思い出がない。今回、新たなライヴ盤が出る、というニュースを聞いても、あまり触手は伸びなかった。
 
が、ボブ・ジェームスは、長年の僕の「フュージョン・ジャズ畑のアイドル」の1人。やっぱり聴きたくなるのが人情ってもので、今回、じっくりと聴いてみた。冒頭の「Angela」は、懐かしいアルバム『Touchdown』に収録された名曲。シンプルにスムースに、ボブ・ジェームスのトリオは演奏を進めるが、ちょっと調子が出ないみたいで、昔のライヴ盤の悪しき思い出が胸をよぎる。
 

Feel-like-making-live

 
しかし、2曲目「Rocket Man」。エルトン・ジョン「ロケット・マン」のカヴァー。これが名演でアレンジ良好、シンプルで流麗なトリオ演奏で、エルトン・ジョンの名曲を朗々と弾き進めていく。この「ロケット・マン」から、ボブ・ジェームスのトリオも調子を出してきて、極上のフュージョン・トリオの演奏が繰り広げられていく。

選曲も充実していて、目立ったところでは、ジャズ・スタンダード曲から「Misty」「Nardis」が演奏されていて、これがまた味のある演奏。これらスタンダード曲をストレート・アヘッドな演奏では無く、あくまで、上質のフュージョン・アレンジで演奏するところが、フュージョン・ジャズの大御所、ボブ・ジェームスの面目躍如。

そして、ボブ・ジェームスの過去のアルバムの中から、懐かしいセルフ・カヴァーである「Nautilus」「Feel Like Making Love」(アルバム『One』収録)、「Night Crawler」(アルバム『Heads』収録)、「Westchester Lady」(アルバム『Three』収録)が演奏されていて、充実の演奏で、在りし日の懐かしさが甦る。

昔のライヴ盤の悪しき思い出を過去のものとした、内容の濃いスタジオ・ライヴ盤です。ボブ・ジェームスは今年83歳。しかし、この今回のライヴ盤からは、年齢から来る衰えは全く感じ無い。どころか、スムースな響きのする今様のフュージョン・ジャズを披露するところなどは、まだまだ現役バリバリである。脱帽である。
 
 
 
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  ・The Brothers Johnson『Light Up the Night』&『Winners』

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2022年1月22日 (土曜日)

「高中」流のフュージョンの傑作

高中正義は日本のギタリストのレジェンド。日本の既成の音楽ジャンルに収まらないボーダーレスでクロスオーバーのギターが個性。加えて、ハイ・テクニック。音の志向の個性として特徴的なのは、マンボやサンバなど、ラテン・ミュージックに造詣が深いこと。そんな高中正義のアルバムが、ほぼ全部、サブスク解禁になったようで、めでたいことである。

高中正義『Saudade(サダージ)』(写真左)。1982年9月10日にリリースされた、高中の9枚目のオリジナルアルバムである。キャッチコピーは「身体(からだ)が揺れて心も揺れて…」。何ともこそばゆい、バブルの入口の時代の成せるキャッチコピーである。ちなみにパーソネルは、高中正義 (g), Joaquin Lievano (g), Narada Michael Walden (ds), T.M. Stevens (b), Frank Martin (key), Sheila Escovedo (perc)。プロデューサーにドラムも担当している、ナラダ・マイケル・ウォルデンを起用している。

時代はフュージョン・ジャズの流行後期。この盤の音世界はフュージョン・ジャズ、時々、スムース・ジャズな雰囲気で、エコーがタップリ効いている分には、スムース・ジャズ的な傾向が強い。しかし、ビートがしっかり立った楽曲については、スピード感も豊か、演奏テクニックも「バカテク」で、この辺は、当時、流行真っ只中のフュージョン・ジャズど真ん中。
 

Saudade_masayoshi_takanaka

 
冒頭の「A Fair Wind」は、エコーがたっぷり効いた、爽快でキャッチャーなフレーズが心地良い「スムース・ジャズ」志向の演奏。メンバーそれぞれの演奏のテクニックも素晴らしく、とても端正で整った演奏には、思わず聴き入ってしまう。いつもの高中盤と雰囲気がちょっと違うのは、プロデュースを他人に任せて、高中自身は「1人のフュージョン・ギタリストに徹している」ところだろう。高中はギター小僧よろしく、喜々としてエレギをアコギを弾きまくっている。

スチール・パンやパーカッションが活躍して、雰囲気は「カリビアン」なのに、出てくる旋律はマイナー調で、和風な哀愁感がそこはかとなく漂うタイトル曲「Saudade」は、いかにも和風なフュージョン・ジャズ」といったもので、これぞ高中の音世界らしい演奏。その他、ディスコ・チューンあり、ジャム・ナンバーな曲あり、ラストの「Manifestation」では、高中がロックなエレギをギンギンに弾きまくっている。

この盤、「高中正義」流のフュージョン・ジャズの傑作盤だろう。音の要素はジャズあり、ロックあり、ディスコあり、カリビアンあり、ラテン調あり、シャッフルあり、高中が得意とする音楽ジャンルをごった煮して、ギターを弾きまくった傑作。米国西海岸フュージョンの強烈なリズム隊に乗って、高中のギターが唄いまくっている。
 
 
 
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  ・The Brothers Johnson『Light Up the Night』&『Winners』

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  ・『ヘンリー8世と6人の妻』を聴く

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2021年8月19日 (木曜日)

コッテコテにスムースなジャズ盤

1970年代後半から1980年代前半にかけて大流行したフュージョン・ジャズ。フュージョン・ジャズの音の大きな特徴である「ソフト&メロウで心地良い響き」をメインに、電気楽器中心のコンテンポラリーなジャズに仕立て上げたのが「スムース・ジャズ」。聴き心地の良いキャッチャーなフレーズとバカテクな演奏力が「命」の「スムース・ジャズ」である。

Dave Koz & Cory Wong『The Golden Hour』(写真左)。2021年6月のリリース。この新盤のキャッチ・コピーが「LA コンテンポラリー・ジャズ界の重鎮サックス奏者=デイヴ・コーズと、注目を集めるギタリストのコリー・ウォンがコラボ」。久々のコッテコテ「スムース・ジャズ」な盤である。

コリー・ウォンがプロデュースを担当していて、バックバンドもコリー・ウォンのバンドをメインにしているので、イメージ的には、コリー・ウォンのバンドにディヴ・コーズが客演したイメージかと思う。プリンスのチーフ・ホーン・アレンジャーであるマイケル・ネルソンによるホーン・アレンジを担当していて、コーズのサックスをしっかりとフューチャーしている。
 

The-golden-hour-1

 
全編に渡って、ロック・ビートに乗りつつ、ジャジーな雰囲気を醸し出すパフォーマンスが実に「スムース・ジャズ」らしい。このジャジーな雰囲気が「ソフト&メロウで心地良い響き」を演出していて、ロック・ビートで演奏全体の躍動感を醸し出している。出てくるフレーズもキャッチャーで心地良く、とても良く出来たコンテンポラリー・ジャズだな、という印象を持つ。

スムース・ジャズだからといって、ただ単純に「聴き心地の良さ」だけを追求しているのでは無いのが、この盤のニクいところ。アドリブ・フレーズは良く練られており、アレンジもとても良く考えられているなあ、という印象。演奏を聴いていて、印象に残るフレーズ、テクニック、アレンジが散りばめられていて、全編、飽きることが無い。

我が国では「キワモノ」扱いされている「スムース・ジャズ」であるが、どうして、フュージョン・ジャズの発展形として、十分に鑑賞に耐える「演奏のトレンドのひとつ」として、これはこれで「コンテンポラリーなジャズの一形態」であると思う。避けて通るには惜しい、充実した内容であると僕は思う。ジャケットはシンプル過ぎて、ちょっと「オヨヨ」ではあるけれど...(笑)。
 
 
 
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