2021年7月11日 (日曜日)

「One For All」というグループ

我が国の場合、日本のレコード会社が提携している海外レーベルのアルバムについては、優秀なもの、売れ筋なものは、日本のレコード会社の販売戦略に乗って、日本の中でも人気盤になったり、話題盤になったりするのだが、全く提携関係の無い海外レーベルのアルバムについては、内容が優秀だろうが、我が国の中ではその情報が流通することが無かった。

しかし、1990年代終わり辺りから、インターネットの普及によって、日本のレコード会社が全く関係しない海外のジャズ・レーベルのアルバムについての情報が、リアルタイムに近い形で入手出来る様になった。そして、音楽音源のサブスク・サイトにその音源がアップされる様になって、海外レーベルの優秀盤を比較的容易に愛でることが出来る様になった。

One For All『What's Going On?』(写真左)。2007年5月29日、NYでの録音。Venus Recordsからのリリース。ちなみにパーソネルは、Elic Alexander (ts), Jim Rotondi (tp), Steve Davis (tb), David Hazeltine (p), John Webber(b), Joe Farnsworth (ds)。

エリック・アレキサンダーのテナー・サックス、ジム・ロトンダディのトランペット、スティーヴ・デイヴィスのトロンボーンが3管フロントのセクセット編成。録音時点で、メンバーは皆、30歳台の若手バリバリで、ネオ・ハードバップな演奏ながら、演奏の展開としては新しい響きをこれでもか、という感じで繰り出していて爽快感抜群。昔のハードバップの音の響きを懐かしむこと無く、21世紀のハードバップな演奏・解釈は一聴に値する。
 

Whats-going-on-one-for-all

 
One For Allは、1997年にこのパーソネルのメンバーで結成された「ネオ・ハードバップ」専門のグループ。大変優れたメンインストリーム志向の純ジャズ・グループなんだが、我が国ではあまり馴染みが無い。日本のレコード会社の販売戦略に乗らなかったことが主原因なのだが、この大変優れたメンストリーム志向の純ジャズ軍団の音に触れていないのは、ちょっと残念なのことだと僕は思う。

あのヴィーナス・レコードからのリリースとなる『What's Going On?』であるが、従来のヴィーナス・レコードの音傾向を全く無視して、しっかりと One Fot Allの音を前面に押し出している。構成メンバー全員が当時にして「一国一城の主」的存在の若手中堅がメインで、テクニック優秀、ハードバップ的な音を意図的に出しつつ、スマートなオリジナリティーを発揮している様は頼もしい。

アレンジが実に良い。アレンジが良いから、メンバー各々のハイテクニックも活きる。タイトル曲の「What's Going On?」は、ソウル・ミュージックの雄、マーヴィン・ゲイの名曲なのだが、このソウルフルな名曲が、スインギーで4ビートなハードバップな演奏でカヴァーされるなんて思ってもみなかった。思わず「降参」。むっちゃ格好いいアレンジ。

ヴィーナス・レコードの音志向とはちょっと異なるのだが、そんなことお構いなしに、ひたすらネオ・ハードバップな演奏を繰り広げていく。あのヴィーナス・レコードでのアルバムからして、この新しくてコッテコテ「ネオ・ハードバップ」な内容は、メンバー相互の相性の良さと、お互いに切磋琢磨する前向きなスタンス、そして、メンバー全員の自信の賜だろう。
 
 
 
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2018年9月10日 (月曜日)

聴いて楽しいネオ・ハードバップ

アート・ブレイキーの『バードランドの夜』を久し振りに聴いた。やっぱりハードバップはええなあ、と感じ入る。ということで、今日は「ハードバップが聴きたい日」。といって、1950年代のバリバリど真ん中のハードバップ盤を聴いても当たり前やしなあ。と思いつつ閃いたのが「そうだ、1990年代以降のネオ・ハードバップ盤を聴こう」。

One For All『Too Soon to Tell』(写真左)。1997年2月25日の録音。同年、結成されたネオ・ハードバップ・バンド「ワン・フォー・オール」のデビュー盤である。One For Allのメンバーは、Eric Alexander (ts), Jim Rotondi (tp), Steve Davis (tb), David Hazeltine (p), John Webber (b), Joe Farnsworth (ds)。テナー+トランペット+トロンボーンの3管フロントのセクステット構成。

ワン・フォー・オールは、ニューヨークのライブハウス「Samlls」で結成された。メンバーの名前を今の目で見れば、これは絶対に良い音を出す、ネオ・ハードバップなバンドだ、と確信する。今では中堅ジャズメンとして活躍しているメンバーばかりである。当然、それぞれの持つテクニックは素晴らしく、バンド全体の演奏力はかなり高い。このデビュー盤を聴けば、それが直ぐに判る。
 

One_for_all_too_soon_to_tell

 
このアルバムには、“ワン・フォー・オール・フィーチャリング・エリック・アレキサンダー”とクレジットされている。このデビュー盤の一番の聴きどころはアレキサンダー。全編に渡って、模範的なジャズ・テナーを展開している。しかし、その音は、テナーマンといえばほとんどがそうであった「コルトレーンのフォロワー」では無い。コルトレーンの様なストレートなブロウの底に、オールド・スタイルな音が潜んでいて、喩えて言うなら「温故知新」なジャズ・テナーである、

ジム・ロトンティのトランペットも良い音を出している。このトランペットもジャズとしてオーソドックスな音で、この徹頭徹尾、オーソドックスなところがロトンディのトランペットの良いところ。スティーブ・デイヴィスのふくよかなトロンボーンは3管フロントの効果的なアクセント。そう、この盤の3管フロントは、そのテクニックの高さを駆使してのユニゾン&ハーモニーが半端無い。アレンジもバッチリ決まっている。

リズム・セクションは「デヴィッド・ヘイゼルタイン・トリオ」。耽美的ではあるが、芯のあるバップなピアノをコアに、堅実かつダイナミック、そして多彩な表現力が素晴らしいベース&ドラムが絡んだ、ネオ・ハードバップなピアノ・トリオ。そう、このワン・フォー・オールのデビュー盤には、ネオ・ハードバップな「新しい音」がギッシリと詰まっている。聴いて楽しい「ネオ・ハードバップ盤」である。
 
 
 
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2016年6月23日 (木曜日)

ながら聴きのジャズも良い・6

何かをしながらの「ながら聴き」のジャズも「オツなもの」である。良い録音で流麗な演奏。そんな中、ちょっと印象的でキャッチャーなアドリブ・フレーズが耳を駆け抜ける。それでも「ながら」の邪魔をすることは無い。逆に「ながら」を支えるリズミカルで流れる様なジャズ。

今年5月リリースの最新作である。One for All『The Third Decade』(写真左)。ジャズ界の精鋭部隊が大集合。ちなみにパーソネルは、Jim Rotondi (tp, flh), Eric Alexander (ts), Steve Davis (tb), David Hazeltine (p), John Webber (b), Joe Farnsworth (ds)。

ニューヨークのライブハウス、Samllsで結成されたOne For All。1997年がデビュー作だったから、もうかれこれ10年位、活動していることになる。結成当時は「有望若手〜中堅が大集合」だったが、今では「充実した中堅〜ベテランが大集合」の様相。

音もデビュー当時は「ピッチピチな若さ溢れ、勢いある」演奏、今は「しっかりとツボを押さえた余裕ある」演奏。歳を重ねる毎に魅力がどんどん積み重ねられ、テクニックはどんどん高みに登っていく。成長と充実がしっかりと感じられるOne for Allの演奏は「ながら聴き」に最適。
 

One_for_all_the_third_decade

 
ジャズのスタイルとしては「ネオ・ハードバップ」というか「ネオ・モード」である。モード・ジャズもここまで極めることが出来るんやなあ、と単純に感心する。凄く滑らかで朗々としたフレーズが心地良い。ハイテクニックであるが故に淀みの無いモードなアドリブが朗々と展開される。

とにかく耳に優しい。滑らかなアドリブ・フレーズが心に優しい。何かやりながら聴いていても、決して邪魔にならない。それでいて、印象的なフレーズや演奏テクニックが出たら、「おおっ」と感じて手を止める。そして、少し演奏に聴き入って、また、ながら聴きに戻る。そんなシチュエーションにぴったりの、実に高度な「ネオ・モード」なジャズです。

モード・ジャズと言えば、1950年代後半から1960年代前半に、マイルス・デイヴィスやビル・エバンスが中心に展開したジャズの演奏スタイルなので、進歩が無いと言えば進歩が無い。マイルスが生きていたら怒りそう(笑)。しかし、変化し続けるのもジャズだが、スタイルを維持し続けるのもジャズ。これはこれで立派な演奏である。

良いジャズです。ジャズ喫茶で、何気なく流して「ながら聴き」するのに良い「ネオ・モード」なジャズ。とにかく高度な演奏、流麗なジャズ。聴いていて心地良いことこの上無し。好盤です。
 
 
 
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