2026年5月 3日 (日曜日)

ライオネル・ハンプトン健在

1982年と言えば、フュージョン・ジャズが全盛期を越えて、下降線を辿り始めた頃。それでも、その人気はまだまだ維持されていて、純ジャズ、ましてや、スイング・ジャズの入り込む余地は無かった。が、フージョン・ジャズの全盛のアンダーグラウンドで、純ジャズは生き存えていた。そして、このライヴ・アルバムでは、スイング・ジャズもしっかりと継承されていたことが確認出来る。

Lionel Hampton And His Orchestra『Made In Japan』(写真左)。1982年6月1日は新宿厚生年金会館、6月3日は渋谷公会堂でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは以下の通り。スイング・ヴァイブの雄、ライオネル・ハンプトン率いるジャズ・オーケストラの東京のおけるライヴ録音。

Lionel Hampton (vib), John Colliainni (p), Todd Coolman (b), Duffy Jackson (ds), Sam Turner (perc)。以下はブラス・セクション、Glen Wilson, Yoshi Malta, Paul Jeffrey, Ricky Ford, Tom Chapin (sax), Trombone – Charles Stephens, Chris Gulhaugen, John Gordon (tb), Trumpet – Barry Ries, John Marshall, Johnny Walker, Vince Cutro (tp)。

ハンプトンの十八番である「Air Mail Special」や、ハンプトンおなじみのメドレー「Stardust - Moonglow」、フレディ・ハバード作曲の難曲「Jodo」を高速テンポで演じ切ったり、素晴らしいパフォーマンスがてんこ盛り。
 

Lionel-hampton-and-his-orchestramade-in-

 
それほどまでに内容の濃い、ライオネル・ハンプトンのヴァイブを始めとするスイング・ジャズの名演の数々がこのライヴ盤に記録されている。さらに素晴らしいのは、パーソネルを見渡すと、若手実力派を揃えたビッグバンドを率いていること。当時若手だった リッキー・フォード や、日本を代表するサックス奏者の MALTA(ヨシ・マルタ)、トム・チェイピンらが参加している。

当時70代半ばだったハンプトンであるが、その演奏は驚くほどパワフル。一糸乱れぬビッグバンドのアンサンブルと相まって、素晴らしいパフォーマンスを披露している。

若手実力派を揃えたビッグバンドということもあって、伝統的なスイングだけに留まらず、ハードバップやモードなど、当時として、モダンなジャズの感覚も反映されていて、懐古趣味などどこ吹く風、当時として、現代的でモダンなスイング志向のビッグバンドの音が実に良い。

単なる「ベテランの来日記念盤」を超えた、単なる来日記念公演という「お祭り騒ぎ」に留まらない、スイング志向の、モダンな感覚を融合させたビッグバンド・ジャズの傑作として評価して良い内容。かつてハンプトン率いるオーケストラが世界中を席巻した「スウィングの力」が、衰え知らずなことを証明した好ライヴ盤です。
 
 

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2026年4月13日 (月曜日)

ライトでポップなロニー・スミス

イージーリスニング志向のジャズ・オルガンの名手、ロニー・スミスが、トランペットのリー・モーガン、トロンボーンのジュリアン・プリースター、テナーサックスのベニー・モーピン、ギターのメルヴィン・スパークス、ドラムのイドリス・ムハンマドと組んだ、セクステット編成。

Lonnie Smith『Turning Point』(写真左)。1969年1月3日の録音。ブルーノートの4313番。ちなみにパーソネルは、Lonnie Smith (org), Lee Morgan (tp), Bennie Maupin (ts), Julian Priester (tb), Melvin Sparks (g), Idris Muhammad (ds)。ロニー・スミスのオルガンがメインの、ファンキー&ソウル・ジャズ志向のジャズ・ファンク。

とてもスッキリした内容のジャズ・ファンク。ファンキー&ソウル・ジャズの雰囲気濃厚なジャズ・ファンクは、緩やかでダンサフル。しかし。踊りまくるというグルーヴではない。イージーリスニング志向のライトでポップなジャズ・ファンクで、ながら聴きに最適なオルガン・ジャズでもある。
 

Lonnie-smithturning-point

 
ロニー・スミスのオルガンは、端正で明瞭。癖がなく、音は真っ直ぐに伸びる。テクニックはそこそこ、しかし、聴き心地は良好。そんなロニー・スミスのオルガンが、アレサ・フランクリンもカヴァーしたドン・コヴェイの「シー・ソー」、レノン=マッカートニーの「エリナー・リグビー」などのポップス曲をカヴァーする。良い雰囲気だ。

途中出てくるトランペットが只者では無い。誰だろうと聴き耳を立てたら、これはリー・モーガンでした。さすがのバイタルでブリリアントなトランペット。そして、切れ味良い、新主流派っぽいテナーが魅力のモウピンのテナー、ソウルフルでR&B志向のエレギが堪らない。このメンバーでのライトでポップなジャズ・ファンク。切れ味良く、輪郭の良いオルガン・ジャズを演出する。

抽象的なジャケット・デザインとは正反対の、正統派で硬派な、ライトでポップなオルガン・ジャズ。ファンキー&ソウル・ジャズ志向の音作りがクール。従来のオルガン・ジャズとはことなる、新しいタイプのオルガン・ジャズ。さすが、オルガン・ジャズに強いブルーノート・レーベルの成果である。
 
 

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2026年4月12日 (日曜日)

”エラの歌唱力に舌を巻く” 盤

僕のジャズ・ヴォーカルの好みは偏っている。基本、旧来の伝統的なジャズ・ヴォーカルのマナー、こってこてのオールド・スタイルのフェイクやヴィブラートの入った歌唱が苦手。ストレートでポップな唄いっぷりが好みで、ヴォーカル盤はたまにしか聴かなかった、のだが、最近、何故か、ちょくちょく聴く様になった。歳を取ったせいだろうか(笑)。

Ella Fitzgerald『The Sunshine of Your Love』(写真左)。1968年10月、サンフランシスコのフェアモント・ホテル、ベネチアン・ルームでのライヴ録音。MPSレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Ella Fitzgerald (vo), バックバンド=Tracks 1–6:Ernie Hecksher's Big Band、Track 7–12 Tommy Flanagan Trio、Tommy Flanagan (p), Frank DeLaRosa (b), Ed Thigpen (ds)。

収録曲の大部分は、1960年代後半の現代的なポップ・ソングのジャズ・カヴァー。女性ジャズ・シンガーの最古参の一人、レジェンドのエラ・フィッツジェラルドが、1960年代後半の現代的なポップ・ソングを唄う。旧来の伝統的なジャズ・ヴォーカルのマナーで唄うのかな、とあまり期待して無かったのだが、冒頭のレノン=マッカートニーの「Hey Jude」を聴いて、これは、と思わず引き込まれる。
 

Ella-fitzgeraldthe-sunshine-of-your-love  

 
続くタイトル曲が「The Sunshine Of Your Love」は、当時、人気のロック・グループ「クリーム」のヒット曲。ジャック・ブルースとエリック・クラプトンの作。これがまた、見事にジャズ・ボーカル曲に変身している。ベースがブルースという有利な点はあるにせよ、先の「Hey Jude」を含めて、マーティ・ペイチのアレンジが素晴らしい。

他の曲、バカラックの名曲や、ディオンヌ・ワーウィックやアレサ・フランクリンの歌唱でお馴染みの「This Girl's in Love With You」、映画音楽のスタンダード曲の「Watch What Happens」や「Give Me The Simple Life」など、ポップな曲を、エレは難なく、モダンに、ポップに、ロックに唄い上げる。エラの歌唱力に脱帽である。エラは、どんなポップ曲もスインギーなジャズ・ボーカルに変身させる。

実は、僕は高校時代、FMで、エラの「Hey Jude」と「The Sunshine Of Your Love」を聴いて、この2曲はエアチェックして愛聴していた。この2曲、どのアルバムに入っているんだろう、と思いながら、大学時代、例の秘密の喫茶店のママさんがこのライヴ盤を教えてくれた。それ以来、ジャズ・ヴォーカルが苦手な僕の愛聴盤の一枚になった。思い出深いエラのライヴ盤である。
 
 

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2026年4月11日 (土曜日)

ジャズ喫茶で流したい・320

フランク・シナトラとカウント・ベイシー楽団の共演ライヴ・アルバム。シナトラの歌唱力素晴らしさとカウントベイシーの演奏力の素晴らしさが、確実に「化学反応」を起こしている、見事な内容のジャズ・ボーカル盤である。シナトラにとって初のライブ・アルバムであり、その後、シナトラと最も強く結びつく楽曲の決定的な演奏が数多く収録されている。聴き応え抜群である。

Frank Sinatra『Sinatra At the Sands』(写真左)。1966年1月と2月、ラスベガスのザ・サンズ・ホテル&カジノのコパ・ルームでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Frank Sinatra (vo), Count Basie (p), Bill Miller (p), and The Count Basie Orchestra、そして、Quincy Jones (arr, cond)。

シナトラの歌唱が絶品。ダンディズム溢れる、魅力的でセクシーな中低音ボーカル。ポジティヴに語りかける様に、耳元で囁きかける様に、硬軟自在、緩急自在、変幻自在にシナトラはボーカルをコントロールする。そう、シナトラはボーカルを「支配」している。クールにジェントルにダイナミックに唄いまくる様は見事である。

冒頭「Come Fly with Me」から始まり「I've Got a Crush on You」「I've Got You Under My Skin」「The Shadow of Your Smile」「Street of Dreams」「One for My Baby」と続く熱唱に次ぐ熱唱。そして、7曲目「Fly Me to the Moon」。僕はこのシナトラの「Fly Me to the Moon」が大好き。何回何十回聴いても良い。シナトラのこの曲の歌唱が好きで、遂には曲自体までもが好きになってしまった。
 

Frank-sinatrasinatra-at-the-sands

 
バックを司るカウント・ベイシー楽団の演奏も素晴らしい。加えて、アレンジがクインシー・ジョーンズ(略して「Q」)。この「Q」のアレンジに乗って演奏するカウント・ベイシー楽団、アーバンで洒落て、良い意味でポップなビッグバンド・サウンドに変化していて、シナトラの歌唱を効果的にバッキングし、シナトラの歌唱の個性を映えに映えさせる。これだけ、フロントのボーカルにぴったりあったビッグバンドのバッキングも珍しい。

ライヴ録音としての臨場感も良い。聴き始めると、自宅のリスニング・ルームが、たちどころに、ラスベガスの「ザ・サンズ・ホテル&カジノのコパ・ルーム」に変わるような、そんな臨場感が心地良い。これぞ、ライヴ盤という雰囲気は、シナトラのボーカルとカウント・ベイシー楽団の演奏に思わず集中してしまうほどの臨場感。

シナトラのしゃべりをそのまま収録しているところが凄い。これがまた、長々しゃべってるんですが、シナトラはMCの名手で、観客は笑いっぱなし。シナトラは早口でペラペラまくしたてるんで、何を言っているか、ほとんど判らないんですが、観客の洒落た笑いと楽しそうな雰囲気がダイレクトに伝わってきて、思わず、こちらも口元を緩めながら聞いてしまう。

シナトラは、僕が小学五年生、親父のラジオをくすねて、NHK第一放送の『夜のしらべ』で、シナトラの歌唱を聴いて以来、ずっとお気に入りの男性ボーカルである。シナトラは、1998年5月に亡くなっているのだが、つまりは、僕は1970年代から亡くなるまで、シナトラをリアルタイムで聴いていたことになる。これは、実に光栄なことであった。この『Sinatra At the Sands』を聴く度に、そんなことをつらつらと思い出す。
 
 

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2026年4月 9日 (木曜日)

”less is more” なステイシー盤

ステイシー・ケント(Stacey Kent)は、高い人気を誇る米国出身のジャズ・シンガー。繊細でキュートな歌声と、ボサノヴァやフレンチ・ポップなどを織り交ぜた、ならではの「クロスオーバー志向」の歌唱内容が個性。夫君はサックス奏者のジム・トムリンソン。ステイシーのアルバムのプロデューサーも務めている。

Stacey Kent『A Time For Love』(写真左)。2026年4月のリリース。ちなみにパーソネルは、Stacey Kent (vo), Jim Tomlinson (ts, ss, fl, cl, perc, back-vo, producer), Art Hirahara (p, key)。アート・ヒラハラのピアノとのデュオを基調としつつ、数曲で夫であるジム・トムリンソンのサックスやフルートが加わるシンプルな構成のボーカル盤。

エヴァーグリーンな楽曲の数々を取り上げた、収録曲のラインナップが魅力的。バーンスタインがミュージカル『オン・ザ・タウン』のために書いた「Lucky To Be Me」から始まり、映画『いそしぎ』のテーマ曲「The Shadow Of Your Smile」、フランス語で歌われるセルジュ・ゲンスブールの「La Javanaise」、バート・バカラック作曲の「Trains And Boats And Planes」など、聴いて「ああ、あの曲か」と判る位の、長く親しまれている楽曲がズラリ。
 

Stacey-kenta-time-for-love

 
ステイシーの低音域の温かな響きが心地良い。フレーズ取り回しや、絶妙な「間」が独特で、聴いていて、ああ、その唄声はステイシーやなあ、と確認できる。「La Javanaise」で見せる仏語での歌唱の美しさにちょっと嬉しい驚き。堂々として、確信を持った、繊細でキュートな唄声は、ジャズ・ボーカルの「ニュー・タイプ」の代表格の貫禄を感じる。

このアルバムで「これ一曲」を挙げて欲しいと請われたら、僕は、スティーヴィー・ワンダーの名曲「As」を推す。恐らく、今の若いジャズ者の方達は知らないかもしれないが、フュージョン時代、数々の名カヴァーを生んだスティービーの名曲。この曲の雰囲気をずばりキーボードで表現したヒラハラのキーボード・ワークに惚れ惚れ。ステイシーの歌唱も「名カヴァー」と称えたくなる、曲の個性と歌詞を踏まえた、素晴らしい歌唱。

このアルバムは、前作『Summer Me, Winter Me』に次ぐ名作として、評価されるべきボーカル好盤。現代のジャズ・ボーカルの最良のひとつとして、全てのジャズ者の方々にお勧めしたい「現代の女性ジャズ・ボーカルの優秀盤」の一枚。「Less is more(少ないほど、豊かである)」の形容がピッタリなボーカル盤である。
 
 

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2026年4月 6日 (月曜日)

ジョーダンの ”Flight to Japan”

デューク・ジョーダン(Duke Jordan)。バップ・ピアノの名手であり、名作曲家出会ったが、デビュー以来、NYの時代は不遇の時代。とにかく売れない。1960年代半ばにはニューヨークでタクシー運転手をしていた時期もあった。しかし、973年北欧のスティープルチェイスに移籍、欧州での「ハードバップ・リバイバル」の流行に乗って、ジョーダンは人気ピアニストに。

Duke Jordan『Flight to Japan』(写真左)。1976年9月25日、東京の「Victor Studios」での録音。ちなみにパーソネルは、Duke Jordan (p), Wilbur Little (b), Roy Haynes (ds)。東京・吉祥寺にあるクラブ「サムタイム」に出演した後、翌日の深夜2時にスタジオ入りし、夜明けまでにレコーディングを終了したという逸話の残る、ピアノ・トリオの佳作。

ジョーダンのピアノは明らかに「哀愁」が漂う。ジャズってマイナー・キーが多用されるのだから、誰が弾いたって「哀愁」が漂うでしょうが、と思われるのだが、これが違う。ジョーダンのピアノだけが突出して「哀愁」が漂うのだ。ブルージーで哀愁漂う「オン・ビート」のバップ・ピアノ。この「オン・ビート」の弾き回しが、最大の個性だと僕は思っている。
 

Duke-jordanflight-to-japan  

 
この盤、ジョーダンのオリジナル曲がほとんど。さすが、ジャズの名作曲家の一人。良い曲ばかりで、自作曲であるが故、アドリブ展開なんかも、スムーズで魅力的なフレーズをバンバン叩き出している。しかし、6曲目の「I Can't Get Started」だけがスタンダード曲なのだが、この演奏が、このトリオ盤の中で白眉の出来。さすが、バップ・ピアニストの第一人者の一人、スタンダード曲の解釈については、一目置くところがある。

曲目をみると「Love Hotel」や「The Bullet(Shinkansen)」なんていう曲もあって、思わず苦笑するが、曲としては良い曲、良い演奏だからまあいいか(笑)。「Lullaby of the Orient」は、日本滞在中に作ったジョーダンのオリジナルで、クミコという若い女性ファンの為に書かれたそう。「Stone Wall Blues」では、冒頭、当時、国鉄の車内放送のジングル「汽笛一声新橋を」から始まるユニークなアレンジ。

1970年代に、スティープルチェイス・レーベルに残したリーダー作は良好盤ばかりで駄盤が無い。スティープル・チェイスの総帥ディレクター、ニルス・ウィンターがデューク・ジョーダンの才能を高く評価していたこと、そして、なにより、双方の相性が相当良かったのだろう。この『Flight to Japan』もその例に漏れない。高レベルを維持したジョーダンの佳作。
 
 

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2026年3月 6日 (金曜日)

ジム・ホールの ”ベルリン”名盤

このところ、ジャズの「エヴァーグリーンな」名盤・好盤が再リマスタリングされてリイシューされている。CDが普及していく過程で、CD化する際にリマスタリングする時に何か問題があって、CD化したにも関わらず、音質が良くない名盤・好盤が散見されたのは残念なことだった。

それから、21世紀に入って、デジタル録音・記録の技術が飛躍的に進歩し、リマスタリングをやり直して再リイシューする名盤・好盤が出てくる様になった。当然、ウエルカムである。

Jim Hall『It's Nice to Be with You: Jim Hall in Berlin』(写真左)。1969年6月27&28日、西ドイツ、ベルリンの「Teldec Studio」での録音。ちなみにパーソネルは、Jim Hall (g), Jimmy Woode (b), Daniel Humair (ds)。燻し銀ギタリストのジム・ホールlが、1969年の欧州ツアー中に録音し、 MPSレーベルからリリースしたアルバム。

シングル・トーンで味のあるフレーズ。地味なようで、ツボを押さえたアドリブ。アドリブ・フレーズは、意外とプログレッシブで展開に思わず聴き耳を立ててしまう。そんな、玄人の玄人による玄人の為のギター、それが、ジム・ホールのギター。

そんなジム・ホールのギターの良さをしっかり記録した好盤がこの『It's Nice to Be with You』。最初、このアルバムを聴いたのはLP時代。初めて聴いたときは、なんだか地味でパッとしない、音も籠もった様な温和しいギターで「なんだ、このギターは、たいしたことないな」なんて思ってしまった。
 
Jim_hall_in_berlin_  
 
が、CDリイシューされた時、地味でパッとしない、音も籠もった様な温和しいギターに聴こえるが、これはそもそも録音が悪いんじゃないか、加えて、マスタリングが悪いんじゃないか、と思い始めた。もう一度、リマスタリングして、再リイシューされないかしら、と思っていたら、やっと「出た」。

今回の、再リイシューされた、再リマスタリングされた音源でしっかり耳を傾けると、そのフレーズは実にエグい。当時として「プログレッシヴ」という形容がピッタリな、純ジャズ志向の正統派ジャズ・ギターだということに気付く。しかも聴けば聴くほどに「深みとコク」が出てくる。そして、どこかブルージーでファンキーな雰囲気が漂う。

冒頭の「Up, Up and Away」を聴けば、音質が向上したことが判る。明らかに躍動感が増したし、トリオの楽器の音の分離が良くなった。最良とまではいかないが、干渉に耐える音質になったのは確か。熱い熱いギターがスピーカーから流れてくる。ジム・ホールのプログレッシヴでオフェンシヴなギターが明確になる。

ベースのウッドもドラムスのヒューマイヤーはマイナーな存在。ベルリン界隈のローカル・ミュージシャンなんだが、音質が改善されて、この2人、なかなか健闘していることが良く判る。図太いベースライン、繊細でかつダイナミックで多彩なドラミング。このバックの2人が、ホールのギターアドリブを盛り上げ、映えに映えさせる。

今回の再リマスタリングのお陰で、まずまず鑑賞に耐える音質になったと思う。喜ばしいこと。でも、これ以上の音質向上は望めない様な、音に「改善のノリしろ」が少ない様な音。恐らく、MPSの録音自体が良く無かったのだろうか。それもして、ジム・ホールのギターはプログレッシヴ。パット・メセニーが敬愛するのも良く判る。
 
 

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2026年2月10日 (火曜日)

1950年代ジャマルのトリオ演奏

レコード・コレクターズ2026年2月号の特集「この曲のピアノを聴け! ジャズ/フュージョン編」。日本の演奏家も含めて、ジャズ/フュージョンを代表するピアノの名演をまとめて紹介するというものだが、有名な名盤からちょっとマニアックな好盤から、ジャズ・ピアノの個性という切り口でチョイスし紹介している、好感の持てる企画記事である。

『Ahmad Jamal At The Pershing: But Not for Me』(写真左)。1958年1月16日、シカゴの「Pershing Hotel」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Ahmad Jamal (p), Israel Crosby (b), Vernel Fournier (ds)。シカゴ在住メンバーで固めた、ラウンジ風ハードバップ・ジャズなピアノ・トリオのライヴ・パフォーマンスの記録。

ジャス・ピアノの代表的名盤といえば、このアルバムは必ず出てくる。ハードバップ時代のトリオ演奏におけるピアノの代表的個性のひとつ。ジャマルは「年代によって異なる顔を持つ」ジャズ・ピアニスト。1950年代は、「間」を活かし、弾く音を限りなく厳選し、シンプルな右手のフレーズと合いの手の様に入る左手のブロックコードが特徴のジャマルのピアノ。
 

Ahmad-jamal-at-the-pershing-but-not-for-

 
そんな1950年代ジャマルの小粋なピアノが満載。ライヴ録音なので、適度な緊張感あって、ラウンジ風のピアノ・トリオではあるが(実際、ホテルのラウンジでの録音)、タッチに力強さもあり、音を厳選する中で、印象的なアドリブ・フレーズを小粋に弾き進めている。とても趣味の良い、聴き心地の良いピアノ。端正で崩れが無いので「面白く無い」という向きもあるが、テクニックのレベルも高く、これも、ジャズ・ピアノの代表的な個性のひとつだろう。

今の耳で、じっくり聴き進めてみると、ジャマルのトリオは、ビ・バップのピアノ・トリオのパフォーマンスを下敷きに、弾く音を限りなく厳選し、左手のブロックコードをシンプルな右手のフレーズと合いの手の様に入れている様に聴こえる。ベースとドラムがリズム・キープに徹しているところも「ビ・バップ」基調だし、少なくとも、このトリオには「インタープレイ」という概念は無い。

上質の、内容のある、ラウンジ風ハードバップ・ジャズなピアノ・トリオだろう。この1950年代ジャマルの、「間」を活かし、弾く音を限りなく厳選し、シンプルな右手のフレーズと合いの手の様に入る左手のブロックコードを、マイルスは評価した。ジャマルのピアノを伴奏に、トランペットを吹けば、トラペットのフレーズがとりわけ映えるだろう。ジャマルを勧誘したマイルスの気持ちが良く判る。
 
 

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2026年2月 2日 (月曜日)

ファーマーのハッピーな好盤です

2月に入って、そろそろ「立春」。暦の上では「これ以上寒くなることはない」。冬来たりなば、春遠からじ、というが、まだまだ寒さ、冷えは続く2月。ジャズ盤の鑑賞は、暖房のしっかり入った部屋で、冬寒の外の風景を見ながらの、ちょっと内省的な鑑賞スタイルになったりする。

Art farmer Quintet『The Time and the Place』(写真左)。1967年2月8日の録音。ちなみにパーソネルは、Art Farmer (flh), Jimmy Heath (ts), Cedar Walton (p), Walter Booker (b), Mickey Roker (ds)。もともとライブ・アルバムとして扱われていたが、実際にはスタジオで録音され、観客の拍手やざわめきはオーバーダビングされた「擬似ライヴ盤」。確かに、観客の拍手などは人工的な感じがする。

決して、有名盤でも無いし、エヴァーグリーンな名盤でも無い。それでも、この盤は、ソウルフルでハッピーな演奏が特徴のファンキー・ジャズの好盤だと僕は思う。演奏自体がシンプルなハードバップ〜ファンキー・ジャズで占められていて、それでいて、懐古趣味的雰囲気は全く無い。どちらかといえば、1967年という録音年の先、1970年代のハードバップを志向している様な雰囲気で、古さは全く感じ無い。
 

Art-farmer-quintetthe-time-and-the-place

 
ジャズ・ロック「The Time and the Place」、ボサノヴァ「One for Juan」、カリプソ「Nino's Scene」と、さすが、ハードバップの多様化を経ての1960年代後半の録音。バラエティーに富んだ曲想、演奏志向で、聴き手として、とても良い変化を付けた演奏の数々が「イケてます」。

フロントの相棒のヒースのテナーも趣味良く快調、ピアノのウォルトンが率いる、ブッカーのベース、ローカーのドラムの1960年代ハードバップ志向のリズム・セクションも、シャープで小粋なリズム&ビートを供給する。このリズム・セクションの叩き出すリズム&ビートも懐古趣味のかけらもない。1960年代後半のトレンドど真ん中のリズム&ビートが洒落てます。

ジャズ盤紹介には、まず上がって来ないアルバムで、ライブ仕様にするため、無理矢理加えた聴衆の拍手のわざとらしさが、このアルバムの評価を下げているようですが、アート・ファーマー・カルテット自体の演奏としては良好なもので、ジャズ者初心者からベテランまで、どのレベルのジャズ者の方々も、それぞれの感覚で楽しめる好盤だと思います。
 
 

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2026年1月31日 (土曜日)

ジョージ・ベンソン ”白いうさぎ”

唄って弾きまくるレジェンド・ギタリスト、ジョージ・ベンソンの「異色盤」。ターニング・ポイントとなった「唄って弾きまくる」までの、初期の「弾きまくり」ベンソンは、R&B志向のソウルフル&ジャズファンクなパフォーマンスがメイン。しかし、このアルバムは、ベンソンのリーダー作の中では「異端」で、基本が「スパニッシュ・タッチ」。CTIサウンドを創り上げた天才アレンジャー、ドン・セベスキー色が強く出た「異色盤」。

George Benson『White Rabbit』(写真左)。1971年11月の録音。CTIからのリリース。ちなみにパーソネルは、George Benson (el-g), Earl Klugh (ac-g : 5), Jay Berliner (Spanish-g), Herbie Hancock (el-p), Ron Carter (el-b : 1, 3, ac-b :2, 4, 5), Billy Cobham (ds), Airto Moreira (perc, vo), Phil Kraus (vib, perc), Gloria Agostini (harp)。ここに、木管楽器とブラス・セクションが加わっている。

タイトル曲は、グレイス・スリックによるジェファーソン・エアプレインの名曲のカヴァー。「California Dreamin'」は、ママス&パパスのヒット曲のカヴァー。そこに、有名サウンド・トラックの「"Theme from Summer of '42(おもいでの夏)」があり、エイトル・ヴィラ=ロボスの「ブラキアナス・バシレイラス第2番」からのブラジルの古典曲「リトル・トレイン」のジャズ・アレンジ・バージョンなど、良好なアレンジでの優秀なカヴァーが目白押し。
 

George-bensonwhite-rabbit

 
これだけカヴァー曲が並ぶと、イージーリスニング志向のクロスオーバー・ジャズな内容か、と構えてしまうが、ベンソンのギター・パフォーマンスが、ジャズ・ファンクの様なダイナミズムは控えめだが、印象的で硬派なフレーズを弾きまくっていて、まずはベンソンのギターが堪能出来る、そして、次にカヴァー曲のアレンジの妙に感じ入る、という内容が、しっかり軸足が「ジャズ」に留まっているところが好印象。

バックを固めるメンバーも錚々たるもの。フェンダー・ローズの響きが懐かしいハービー・ハンコック、エレベとアコベの両刀遣いで、曲毎に雰囲気を変えるロン・カーター、クロスオーバーでポップな8ビートを叩きまくるビリー・コブハム、スパニッシュ・タッチなパーカッションが小粋なアイアート・モレイラといったリズム隊が、これまた、本人達にとって異色ではあるが、かなりのレベルで充実している。

オリジナル・ジャケットについては、南アフリカで撮影したポンド族の女性の写真が掲載されている。これも、CTIレーベルのジャケ志向からすると「異色」。しかし、このジャケットが、このアルバムの内容を表しているかの様で、ベンソン自身いわく、プロデューサーのクリード・テイラーがベンソンの写真をカバーに使わなかったことが「このアルバムの成功につながった要因だった」と認めている(笑)。そんなジャケのエピソードはともかく、この盤はクロスオーバー・ジャズの好盤である。
 
 

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