2024年12月 2日 (月曜日)

この盤もグリーン後期の傑作

パッキパキ硬質でファンクネスだだ漏れなシングル・トーンのギターが個性のグラント・グリーン。グリーンの後期のギターの特色は「ファンクネスさらに濃厚」。とりわけファンキーなシングル・トーンで、彼独特のグルーヴを叩き出す。そんなグリーンの後期のリーダー作も好盤がどっさり。

Grant Green『The Final Comedown』(写真左)。1971年12月13–14日の録音。ちなみにパーソネルは、Grant Green (g), IPhil Bodner (fl, piccolo, as, oboe), Harold Vick (as, ts), Irving Markowitz, Marvin Stamm )tp, flh), George Devens (vib, timpani, perc), Richard Tee (p, org), Cornell Dupree (g), Gordon Edwards (el-b), Grady Tate (ds), Ralph MacDonald (conga, bongos), Warren Smith (marimba, tambourine)。ここに、ヴィオラ、チェロの弦楽器とハープが入る。

ブラックスプロイテーション(黒人による黒人のための映画)のサウンドトラック盤。グラント・グリーンとしては異色中の異色作になる。映画のサウンドトラックなので、あまり大きな音で目立つことはできない。バックの音と程よいバランスをとった、グリーンのギター。あまり目立たないが、ここ一発というところでは、ハッとするような、ファンクネスだだ漏れでソウルフル濃厚なパフォーマンスを聴かせてくれる。「抑制の美」である。

ピアノ、オルガンにリチャード・ティー、サイド・ギターのコーネル・デュプリー、エレベにゴードン・エドワーズ。ここにドラムのスティーヴ・ガッドがいれば、伝説のフュージョン・バンド「スタッフ」になる。グラディ・テイトのドラムも、叩き出すリズム&ビートは「縦乗り」で、どこかガッドに似ているドラミングが良い。
 

Grant-greenthe-final-comedown

 
バックのリズム・セクションが「ほとんどスタッフ」なので、演奏全体がファンキーでソウルフルで、うねるようなグルーヴを湛えたリズム&ビートが、「ファンクネスさらに濃厚」な、パッキパキ硬質なシングル・トーンのグリーンのギターにバッチリ合っている。うねる様なグルーヴに、ファンクネス濃厚なシングル・トーンのギターがよく似合う。

映画のサントラということで、ソロイストの音は控えめ、それが「抑制の美」に繋がって、演奏メンバー誰もが、逆に凄みのあるクールでヒップなフレーズを叩き出している。ゴードン・エドワースのエレベがブンブン唸り、デュプリーのサイド・ギターがファンクネスを撒き散らし、テイトのドラムがビートを刻む。バラード曲での絶妙の伴奏を披露するティーのキーボード。この「ほとんどスタッフ」のリズム・セクションが、グリーンのギターのグルーヴ感を2倍にも3倍にも増幅する。

「Father's Lament」のソフト&メロウなバラードでの、ファンクネス濃厚なグリーンのシングル・トーンなソロ演奏、ティーのソウルフルなグルーヴ濃厚なオルガンが凄まじく良い。「Afro Party」でのブラスの響き、グリーンのファンキーでソウルフルな伴奏弾き、エドワーズのソリッドな重低音が響く、グルーヴ撒き散らしのエレベ。サントラ的な小曲の間に、絶妙なファンキー&ソウルフル&ブラコンなキラーチューンが入っているから堪らない。

1971年の録音だが、後のフュージョン・ジャズを先取りした、ソフト&メロウ、ソウルフルでグルーヴ感満載なジャズ・ファンクな演奏はどの曲も聴きもの。映画のサントラ盤なので、イージーリスニング志向で、甘い演奏かと思いきや、意外と硬派でファンクネス濃厚、グルーヴ感満載な演奏がギッシリ詰まっているのには、ちょっとびっくり。この盤も、グラント・グリーンの活動後期の傑作だと思います。
 
 

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2024年11月30日 (土曜日)

プレヴィンの爽快ライヴ盤

ジャズとクラシックの「2足の草鞋を履く男」、アンドレ・プレヴィンのピアノを聴き直している。クラシック・ピアノをベースにした、流麗で端正でダイナミックでドライブ感溢れるスインギーなピアノは、プレヴィンの身上。クラシック出身のピアノでありながら、出てくる音は実に「ジャジー」。聴いていて、スッキリ爽快な気分になれる極上の「米国ウエストコースト・ジャズ」なジャズ・ピアノ。

Andre Previn『Live at the Jazz Standard』(写真左)。2000年10月のライヴ録音。Deccaレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、André Previn (p), David Finck (b)。ドラムレス、ピアノとベースのデュオ。プレヴィン71歳での録音になる。レジェンドの域に達した「2足の草鞋を履く男」の絶妙で爽快なジャズ・ピアノを聴くことが出来る。

NYでのライヴ録音。タイトル通り、従来のジャズ・スタンダート曲と、ミージシャンズ・チューンなスタンダード曲で固められた、小粋なライヴ録音。プレヴィンのジャズ・ピアノは、トリオ演奏が多いのだが、このライヴ盤では、デヴィッド・フィンクのベースとのデュオ演奏になっている。ドラムがいない分、プレヴィンのピアノがパーカッシヴなリズム楽器を代替していて、プレヴィンのジャズ・ピアノとしての能力の高さがよく判る。
 

Andre-previnlive-at-the-jazz-standard

 
プレヴィン独特の「クラシックとジャズの両性具有」の様なピアノを存分に楽しめる。プレヴィンのピアノは、ジャズをやる場合、あくまで「ジャズ・ピアノ」なフレーズを叩き出すのだが、速い弾き回しで流麗に展開する時、クラシックのタッチ&弾き回しが、ひょっこり顔をだす瞬間がある。これが、意外と「たまらない」のだ。他のジャズ・ピアニストにはない、プレヴィン独特の個性である。

スタンダード曲集とはいえ、全12曲中、超有名なスタンダード曲は「My Funny Valentine」「Chelsea Bridge」「I Got Rhythm」くらいしかない。残りは、どちらかと言えば「玄人好み」のスタンダード曲が選ばれている。が、超有名なスタンダード曲について穂、玄人好みのスタンダード曲についても、アレンジが秀逸で、とにかく全曲、聴いていて、とても楽しい。

とても趣味の良いジャズ・ピアノが主役のライヴ音源。ファンクネスは希薄、オフビートはしっかりジャジーなプレヴィンのピアノが良い方向に作用して、スッキリとした爽快感溢れる弾き回しで、演奏そのもの、楽曲そのものを、リラックスして楽しめる、極上のジャズ・ピアノのライヴ盤に仕上がっている。良い意味で耳あたりが良いので、ながら聴きにも最適。好ライヴ盤です。
 
 

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2024年11月29日 (金曜日)

ウエストサイド物語の良カヴァー

アンドレ・プレヴィンは、作曲家、編曲家、映画音楽、ジャズ・ピアニスト、クラシック・ピアニスト、指揮者。どちらかと言えば、クラシックに軸足がある。2019年2月に惜しくも89歳で逝去。我が国への関わりは、2009年から3年間、NHK交響楽団の首席客演指揮者として活躍。そんなクラシックな演奏家が、こんな洒落た小粋なハードバップ・ジャズをピアノ・トリオでやるなんて。彼の経歴をライナーノーツで読んだ時、とにかく驚いたことを覚えている。

「二足の草鞋を履く男」。アンドレ・プレヴィンは、クラシック・ピアニストであり、ジャズ・ピアニストでもある。そして、どちらのパフォーマンスも一流のレベルで、こんな音楽家はそうそういない。ここでは、ジャズ・ピアニストのアンドレ・プレヴィンにフォーカスを当てる。プレヴィンは、米国ウエストコースト・ジャズを代表するピアニストでもあるのだ。

André Previn『West Side Story』(写真左)。1959年8月24–25日の録音。ちなみにパーソネルは、André Previn & His Pals = André Previn (p), Red Mitchell (b), Shelly Manne (ds)。アンドレ・プレヴィンのピアノがメインのピアノ・トリオ編成。ベースに名手レッド・ミッチェル、ドラムに名手シェリー・マンが担当している。米国ウエストコースト・ジャズの最強のリズム隊である。

タイトル通り、レナード・バーンスタインのミュージカル「ウエストサイド物語」のオリジナルスコアから8曲を選び、ジャズ風にアレンジしている。これがまあ、なんと絶品。「ウエストサイド物語」のジャズ・ピアノ・トリオによるカヴァーは、オスカー・ピーターソンのものが有名だが、そのピーターソンのカヴァーよりも、このプレヴィンの方が内容が濃い。

プレヴィンのピアノは、強烈なドライブ感が身上なのだが、クラシック出身が故、ファンクネスは希薄。しかし、ジャジーなオフビート、ジャジーなコード進行はしっかりと存在する。タッチは切れ味よく硬質、速いフレーズも難なく破綻なく弾きこなす。
 

Andre-previnwest-side-story

 
ピーターソンとプレヴィンの違いは「ファンクネス」の濃淡とオフビートの強弱。ピーターソンのピアノは、ファンクネス濃厚、オフビートが強烈。その他の特徴はプレヴィンと同じなんだが、この「ファンクネス濃厚、オフビートが強烈」なところが、ミュージカル曲の様な流麗な旋律を持つ楽曲のカヴァーについては邪魔になる。流麗な旋律の「流麗さ」が、濃厚なファンクネスと強烈なオフビートに掻き消されてしまうのだ。

その点、プレヴィンのピアノは「ファンクネスは希薄、オフビートはしっかりジャジー」なので、ミュージカル曲の様な流麗な旋律を持つ楽曲のカヴァーに向いている。この「ウエストサイド物語」のプレヴィン盤を聴くとそれがよく判る。流麗な旋律を持つ「ウエストサイド物語」の挿入曲達のフレーズが、キラキラと輝くように耳に入ってくる。

そして、そんなプレヴィンのピアノを、名手レッド・ミッチェルのベース、名手シェリー・マンのドラムがガッチリ支える。これがまあ、素晴らしいベース&ドラムなのだ。ベースはブンブン胴鳴りし、弦はブンブン鋼の響き。ドラムは切れ味良く、弾ける様なパーカッシヴな打音。

しかも、さらに素晴らしいのは、この名手のベース&ドラムが、プレヴィンのピアノの邪魔に全くなっていない。逆に、プレヴィンのピアノが前面に浮かび上がってくるよう。米国ウエストコースト・ジャズのファースト・コールなベーシスト&ドラマー、恐るべしである。

「ウエストサイド物語」のジャズによるカヴァーとして、加えて、米国ウエストコースト・ジャズのピアノ・トリオとして、純粋に楽しめる名盤だと思います。プレヴィンのピアノ、ほんと、長年のお気に入りなんですよね〜。他のアルバムも聴き直したくなりました。
 
 

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2024年11月28日 (木曜日)

「CTIサウンド」のワンダレイ

今年はジャズ・レーベル毎の名盤・好盤を聴きなおすことをしているのだが、昨日から、その流れで「A&M, CTIレーベル」の名盤・好盤の聴き直しを進めている。A&Mレーベルから、CTIレーベル、いわゆる「クリード・テイラー」印のクロスオーバー&フュージョン・ジャズ盤には、今の耳で聴くと、意外と聴きもののアルバムが多くある。

Walter Wanderley『Moondreams』(写真左)。March 11, 12 & 13, 1969年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Walter Wanderley (org, el-harpsichord), Bernie Glow (tp, flh), Marvin Stamm (flh), Danny Bank, Hubert Laws, Romeo Penque, Jerome Richardson, Joe Soldo (fl), Jose Marino, Richard Davis, George Duvivier (b), João Palma (ds), Lulu Ferreira, Airto Moreira (perc), Flora Purim, Linda November, Stella Stevens, Susan Manchester (vo), Eumir Deodato (arr)。

ボサノヴァ・オルガンの第一人者、ワルター・ワンダレイの、『When It Was Done』(1968年) に続く、CTIレーベルでのリーダー作の第2弾。この盤でも、ワンダレイのボサノヴァ・オルガンが炸裂。CTIレーベルとして、ジャズ・オルガンをイージーリスニング・ジャズに応用して、聴き応えのある、ジャジーなラウンジ・サウンドをものにしている。

ワンダレイは、オルガンに加え、ハープシコードも駆使しながら、極上のボサノヴァ・オルガンを繰り広げる。ワンダレイのオルガンの音は「正統派」の音。イージーリスニング・ジャズ志向だからと言って、聴きやすく甘い音色で俗っぽい音にはならず、正統なハードバップ基調のオルガンで弾きまくっているところがこの「CTIのワンダレイ」の良さ。
 

Walter-wanderleymoondreams

 
ワンダレイのバックには、当時のクロスオーバー&フュージョン・ジャズ畑の優れたメンバーが大集合して、極上のクロスオーバー&フュージョンなパフォーマンスでワンダレイの演奏を支えている。ストリングスとフルートを上手く使って、ソフト&メロウな雰囲気を醸し出し、従来のクロスオーバー系のエレ・ジャズとは異なる、いわゆる「聴かせるエレ・ジャズ」を演出している。

アレンジはあの「デオダート」。ワンダレイのボサノヴァ・オルガンによるクロスオーバー&フュージョン・ジャズを、ラウンジ音楽に陥りそうなギリギリのところで、ジャズに軸足を留めている。

意外と以前より指摘されていないが、この盤でのデオダートのアレンジは、クリード・テイラーの標榜する「CTIサウンド」を、具体的に忠実に音にした一例だと感じている。いわゆる「CTIサウンド」の源の一つと言って良いだろう。録音は、あの伝説のレコーディング エンジニア、ルディ・ヴァン・ゲルダーの手によるもの。ソフト&メロウなイージーリスニング・ジャズでありながら、意外と骨太な音、適度で趣味の良いエコー。いわゆる、これも「CTIサウンド」の重要な一要素である。

イージーリスニング・ジャズを認めたくないと言う、ジャズ者の方々には決してお勧めしないが、このワンダレイ盤、イージーリスニング・ジャズ盤としては内容もしっかりした、極上のものである。「CTIサウンド」がお気に入りのジャズ者の方には一聴をお勧めしている。
 
 

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2024年11月21日 (木曜日)

これも名盤『Shades of Green』

ブルーノート・レーベルを代表するギタリスト、グラント・グリーン。彼のキャリアの晩年は、イージーリスニング・ジャズ志向の優れたリーダー作を連発している。

バックに、のちのクロスオーバー&フュージョン時代の有名みゅーじしゃんを配し、優れたリズム・セクションの演奏をバックに、骨太でパッキパキのシングル・トーン+ファンクネスだだ漏れのエレギをガンガンに弾きまくっている。

Grant Green『Shades of Green』(写真左)。1971年11月の録音。ちなみにパーソネルは、Grant Green (g), Billy Wooten (vib), Emmanuel Riggins (el-p, clavinet), Wilton Felder (el-b), Nesbert "Stix" Hooper (ds), King Errisson (conga), Harold Cardwell (perc), Wade Marcus (arr, orchestra arrange)。

冒頭、ジェームス・ブラウンのメドレー「Medley: I Don't Want Nobody to Give Me Nothing (Open Up the Door I'll Get It Myself) / Cold Sweat」がキマッている。3曲目はアソシエーションの、1967年のヒット曲「Never My Love」、4曲目には、マイケル・ジャクソンの1971年のデビュー・ソロ・シングル「Got to Be There」、6曲目には、スティーヴィー・ワンダーの1971年のヒット曲「If You Really Love Me」と、R&Bの秀曲のカヴァーがズラリと並ぶ。
 

Grant-greenshades-of-green

 
もともと、グラント・グリーンは、骨太でパッキパキのシングル・トーン+ファンクネスだだ漏れのエレギ弾きである。R&B系、ソウル系の楽曲のカヴァーは得意中の得意。全編、充実度抜群の、ライトなジャズ・ファンク志向のイージーリスニング・ジャズが満載。全編、もう前のめりにノリノリである(笑)。

バックのリズム隊には、クルセイダーズから、ウイルトン・フェルダーのベース、スティックス・フーパーのドラムが参加している。粘りのある、重心低め、切れ味の良い、ファンクネス濃厚なリズム&ビートを叩き出していて、この二人を中心にコンガなどのパーカッションが絡んで、絵に描いた様な、ジャズ・ファンクなグルーヴを供給している。

そこに、グラント・グリーンの、パッキパキのシングル・トーン+ファンクネスだだ漏れのエレギが、曲の旋律を骨太に奏で、アドリブ・フレーズをファンクネスだだ漏れで弾きまくる。伴奏上手のバックのジャズ・ファンクなグルーヴが優れている分、グリーンのギターが、くっきり前面に映えに映える。

ジャケはもはや、以前のブルーノートの面影はなく、訳のわからんブランデー・グラスのイラストで損をしているが、この盤はれっきとしたブルーノート・レーベル盤で、内容的にもしっかりしていて、演奏自体もそのレベルは高く、ブルーノートの「ブランドの音」はしっかりと維持されている。この盤も、グラント・グリーンのライトなジャズ・ファンク志向のイージーリスニング・ジャズの名盤として良いかと思う。
 
 

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2024年11月20日 (水曜日)

グリーン後期の名盤『Visions』

ブルーノートのハウス・ギタリストだったグラント・グリーン。グリーンの活動後期は、ウエス・モンゴメリー同様、イージーリスニング・ジャズ志向のリーダー作をリリースしていた。

が、ウエスほど、というか、ウエスに全く及ばない人気の低さだった。ウエスは大手レーベルのヴァーヴ、グリーンは斜陽の中小レーベルのブルーノート、レーベルの営業力の差がそのまま人気の度合いに反映されたのかもしれない。

Grant Green『Visions』(写真左)。ブルーノートの4373番。1971年5月21日の録音。ちなみにパーソネルは、Grant Green (g), Billy Wooten (vib), Emmanuel Riggins (el-p), Chuck Rainey (el-b), Idris Muhammad (ds), Ray Armando (conga), Harold Caldwell (ds, perc)。

『I Want to Hold Your Hand』(1965年3月の録音)辺りから、当時のポップス&ロックや、R&B、ソウルのヒット曲のカヴァーを十八番としていたグリーン。この曲でも、人気の米国ブラス・ロック・バンド、シカゴの1970年のヒット曲「Does Anybody Really Know What Time It Is?(いったい現実を把握している者はいるだろうか?)のカヴァーを冒頭に持ってきている。

と思いきや、3曲目には「Mozart Symphony #40 in G Minor, K550, 1st Movement」、モーツアルト「交響曲第40番ト短調K.550 第1楽章」のカヴァー。有名クラシック曲のカヴァーを、パッキパキ硬質なシングルトーンで、ファンクネスダダ漏れてやるのだから、これは珍カヴァーといえば珍カヴァー。しかし、アレンジを含め、演奏の出来は上々だから面白い。
 

Grant-greenvisions

 
4曲目「Love on a Two-Way Street」は、1968年のR&Bのヒット曲のカヴァー。6曲目には、カーペンターズの1970年のヒット曲「We've Only Just Begun(愛のプレリュード)」のカヴァー。7曲目「Never Can Say Goodbye」はグロリア・ゲイナーの1971年のヒット曲。と、かなりリアリタイムに近い、ポップス&ロックや、R&B、ソウルのヒット曲のカヴァーを収録している。リアルタイムに近いにも関わらず、カヴァー・アレンジはどの曲も良好。

バックのリズム隊は、のちのクロスオーバー&フュージョン・ジャズにおける、定番ミュージシャンが担当していて、従来の4ビートメインのリズム&ビートでは無く、8ビートメインのファンキーでソウルフルなリズム&ビートを叩き出している。このクロスオーバー&フュージョン志向のリズム隊が、グラント・グリーンの、パッキパキ硬質なシングルトーンでファンクネスダダ漏れのエレギの音を引き立て、大いに映えさせる。

改めて聴き直してみて、内容良好のイージーリスニング・ジャズ。グリーンのギターはシングル・トーンでありながら、音がとても太いので、バックのリズム隊のリズム&ビートに負けることなく、逆に、バックのリズム隊のリズム&ビートに乗って、それぞれの曲の持つ旋律をくっきり浮き立たせ、アドリブ・パフォーマンスに耳を傾けさせる。

この盤の録音の際に、ルディ・ヴァン・ゲルダーが「こんな凄いプレイをするグリーンはいまだかつて見たことがない…」と呟いたとか。まさにその通り、この盤での、特にカヴァー曲での、グリーンのギターは素晴らしい。

ジャズに馴染みのない、ポップス、ロック、R&B、ソウルの楽曲の旋律をいとも容易く弾きこなし、ポップな8ビートに違和感なく乗る、キレキレのリズム感は見事と言う他ない。カヴァー曲メインに「引く」ことなく、耳にしてほしいグリーンの活動後期の名盤である。
 
 

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2024年11月11日 (月曜日)

実質の「マイルス盤」が第3位!

レココレ 2024年11月号」に掲載された「ブルーノート・ベスト100」。この「ブルーノート・ベスト100」は、創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった、1968年までにリリースされたアルバムから、レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」が掲載されている。この「ベスト100」のアルバムを1位から順に聴き直していこう、と思い立っての3日目。

Cannonball Adderley『Somethin' Else』(写真左)。1958年3月9日の録音。ブルーノート・レーベルの1595番。ちなみにパーソネルは、Cannonball Adderley (as), Miles Davis (tp), Hank Jones (p), Sam Jones (b), Art Blakey (ds)。アルト・サックスの個性的な達人、キャノンボール・アダレイのブルーノートでの唯一のリーダー作である。

が、実質のリーダーは、ジャズの帝王「マイルス・デイヴィス」。この「実質のリーダー」の件には訳がある。

歴史を遡ること、1950年前後、マイルスは「ジャンキー」であった。マイルスは麻薬中毒の為、レコーディングもままならない状態に陥っていた。しかし、彼の才能を高く評価していたブルーノートの総帥プロデューサーのアルフレット・ライオンは彼を懇切にサポート。1952年より1年ごとに、マイルスのリーダー作を録音することを約束。実際、1952年〜1954年の録音から、2枚のリーダー作をリリースしている。

しかし、1955年、麻薬中毒から立ち直ったマイルスは、大手のコロムビア・レコードと契約をした。契約金が半端なく高額だった。生活がかかっていたマイルスについては、このコロムビアとの契約は仕方のないところ。しかし、この契約により、ブルーノートへの録音は途切れることになる。
 

Somethinelse_1

 
が、マイルスは「ライオンの恩義」を忘れていない。自らがオファーして、このキャノンボールのリーダー作にサイドマンとして参加したのである。当然、ライオンは狂喜乱舞。当時の録音テープには「マイルス」の名前を記していたという。

この盤は、先にご紹介した、ブルーノートでの唯一盤『Blue Train』のコルトレーンと同じく、プロデュースはライオンだが、メンバー選びや選曲などはマイルスに一任されている。が、マイルスの対応は一味違う。マイルスは「ライオンの音の好み」を勘案して、メンバーを選んでいる。

他のレーベルとの専属契約があったので、ブルーノートでの録音は、したくても叶わなかったであろう、当時、新進気鋭のアルト・サックス奏者のキャノンボール・アダレイを選出。ピアノに流麗なバップ・ピアノの名手、ハンク・ジョーンズ。ベースに堅実骨太のサム・ジョーンズ。ドラムに名手アート・ブレイキー。このリズム・セクションの人選が渋い。

内容の素晴らしさについては、既に様々なところで語り尽くされているので、ここでは書かない。が、この盤は、恩人アルフレッド・ライオンに向けての、マイルス・ディヴィスがプロデュースの「ブルーノート盤」であることは確かである。

コーニー(俗っぽい)な曲を嫌い、コーニーな演奏を嫌うライオンに対して、マイルスは、冒頭、実に俗っぽい有名スタンダード曲「「枯葉(Autumn Leaves)」を持ってきている。しかし、この「枯葉」の演奏が絶品かつ、素晴らしくブルーノートっぽい演奏なのだ。ブルージーでファンキーで気品溢れる、アーティステックなアレンジと演奏。これには、恐らく、ライオンも感嘆したに違いない。この1曲だけでも、この盤は「ブルーノートらしい」。

この盤が「ブルーノート・ベスト100」の第3位である。キャノンボール・アダレイの唯一のブルーノートでのリーダー作だが、実質リーダーはマイルス・ディヴィスと言う「変化球」の様な超名盤。ブルーノートらしさは色濃いが、徹頭徹尾、ストレートにブルーノートらしいか、と問われれば、ちょっとひいてしまう。が、そこは、人情味溢れる、義理堅いマイルスに免じて、これは明確に「ブルーノートのアルバム」と言って良いだろう。
 
 
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2024年11月 7日 (木曜日)

隅に置けないウエスの名盤の一枚

僕のジャズ・ギタリストの大のお気に入りの一人、必殺オクターブ奏法のギター・レジェンド、ウエス・モンゴメリー。ウエスの単独名義のリーダー作の聴き直しもあと3枚となった。昨日に続いて今日も、ヴァーヴ・レコードに移籍後の「イージーリスニング・ジャズ」の時代のウエスのリーダー作の名盤を聴き直す。

Wes Montgomery『Goin' Out of My Head』(写真左)。1965年11,12月の録音。ちなみにパーソネルは、Wes Montgomery (g) に、リズム・セクションとして、Herbie Hancock, Roger Kellaway (p), George Duvivier (b), Grady Tate (ds), Candido Camero (congas). そして、バックにサックス4本 (Phil Woodsなど), トランペット4本 (Donald Byrdなど), トロンボーン4本 のブラス・セクションが付く。アレンジは、Oliver Nelson(オリヴァー・ネルソン)。

演奏の編成は、ヴァーヴ・レコード移籍後から変わらない「イージーリスニング・ジャズ」仕様。今回はバックにブラス・セクションが付いていて、弦は付いていない。それもそのはずで、R&B/Soul・ボーカル・グループ、リトル・アンソニー・アンド・ザ・インペリアルズの、1964年のヒット曲である「Goin' Out of My Head」を冒頭に収録している。つまり、R&B/Soulのジャズ・カヴァーに弦はいらない、ということだろう。
 

Wes-montgomerygoin-out-of-my-head

 
この盤は、R&B/Soulから、ブルースから、ボサノバ、ムード音楽まで、様々なジャンルの曲をカヴァーしている。ごった煮の収集のつかないイージーリスニング盤ではないのか、という懸念が頭をよぎるが、聞いてみてよく判るが、前作で確立した「ウエスのオクターヴ奏法による、切れ味の良い、スリリングなテーマ提示と、バックのブラス・セクションをリズム&ビートの供給に特化させ、その上をウエスがバップなギターを弾きまくる」という、ウエスのジャズ・ギターを最大限に活かすアレンジが踏襲されている。

いわゆる、メインストリームで硬派なイージーリスニング・ジャズに仕立て上げられている。今回はブラス・セクションをリズム&ビートの供給に特化させているところが、バッチリはまっていて、演奏全体の雰囲気はジャジーでファンキー。ウエスのギターは「バップなギター」で弾きまくる、いわゆるイージーリスニング志向の純ジャズな演奏に昇華しているところが一番の聴きどころ。

この盤は大ヒットし、100万枚近い売り上げを記録したとのこと。ビルボード誌のR&Bチャートで最高位7位。第9回グラミー賞では 『Goin' Out of My Head』が最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム(個人またはグループ)を受賞している。確かに、良質のモダン・ジャズの雰囲気をしっかり踏まえたイージーリスニング・ジャズで、今の耳で聴いても古さは感じない。逆に新しい発見があったりして、21世紀になっても隅に置けないウエスの名盤の一枚である。
 
 

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2024年11月 6日 (水曜日)

ヴァーヴ時代のウエスの好盤。

必殺オクターブ奏法のギター・レジェンド、ウエス・モンゴメリー。彼のキャリアは20年弱と短かったが、大きく2つに分けて、一つはリバーサイド・レコードでの「バップ・ギタリスト」の時代。もう一つは、ヴァーヴ・レコードに移籍後の「イージーリスニング・ジャズ」の時代。どちらの時代も、ウエスの、超絶技巧、歌心抜群、必殺「オクターヴ奏法」の3点セットで弾きまくるギターは変わらない。

Wes Montgomery『Bumpin'』(写真左)。1965年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Wes Montgomery (g), Bob Cranshaw (b), Grady Tate (ds), Roger Kellaway (p), Candido Camero (bongos, congas), のコンガ入りクインテットに、ストリングスとハープが入る。アレンジと指揮はドン・セベスキー(Don Sebesky)が担当している。ヴァーヴ移籍後、2枚目のリーダー作である。

ヴァーヴのウエスは「イージーリスニング・ジャズ」の時代。しかし、その内容は「甘くない」。ストリングスとハープが入っているので、聴き始めは「イージーリスニングかぁ」と身構えるのだが、ウエスのギター・フレーズが出てくると、思わずノリノリで聴き込んでしまう。この盤でも、ウエスの、超絶技巧、歌心抜群、必殺「オクターヴ奏法」の3点セットで弾きまくり、は健在。
 

Wes-montgomerybumpin

 
セベスキーによるアレンジなれど、譜面通りに弾く必要があった。しかし、ウエスは生粋の「バップ・ギタリスト」。譜面通りに弾く窮屈さに大苦戦。しかし、そこは名アレンジャーのセベスキー、ウエスの「オクターヴ奏法」による、切れ味の良い、スリリングなテーマ提示と、弦楽器をリズム&ビートの供給に特化させ、その上をウエスが「バップなギター」を弾きまくる、という、名アレンジを確立させる。

そんなウエスのバップ・ギターを最大限に活かしたアレンジの好例が、「The Shadow Of Your Smile(いそしぎ)」の名曲・名演に聴くことが出来る。イージーリスニング・ジャズ志向の演奏なんだが、テーマ部は骨太な切れ味の良い「オクターヴ奏法」が炸裂する。そして、アドリブ部がちゃんと用意されていて、弦によるリズム&ビートに乗って、ウエスがバップなギターでバリバリとアドリブを展開する。

加えて、このヴァーヴ時代のウエスは、骨太なイージーリスニング・ジャス志向の演奏に、アーバンなブルース感覚を織り交ぜていて、これが「大人のムーディーさ」というか、節操のない、聴き心地だけが良い、俗っぽいイージーリスニングに陥ることなく、一本筋の入った、硬派で骨太なイージーリスニング・ジャズとしているところが見事である。ヴァーヴ時代のウエスを侮ることなかれ。イージーリスニング・ジャズの名盤です。
 
 

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2024年11月 2日 (土曜日)

「元曲」の良さで盤の魅力倍増

米国ウエストコースト・ジャズは「聴かせる」ジャズである。優れたアレンジをしっかり踏まえ、聴き味の良い、流麗な弾き回しとアンサンブル。クールで小粋なアドリブ・パフォーマンス、切れ味よく端正なリズム&ビート。このウエストコースト・ジャズは、例えば、優れたフレーズを持つミュージカル曲やドラマの挿入曲を「元曲」にジャズをすれば、その個性と特徴がさらに輝きを増す。

『Shelly Manne & His Men Play Peter Gunn』(写真左)。January 19 & 20, 1959年1月19, 20日の録音。ちなみにパーソネルは、Shelly Manne (ds), Conte Candoli (tp), Herb Geller (as), Victor Feldman (vib, marimba), Russ Freeman (p), Monty Budwig (b), Henry Mancini (arr)。

「Peter Gun」とは、アメリカの古いTV番組で、1958年から61年にかけて毎週月曜日の夜9時から放送されていた「探偵もの」のドラマ。ドラマの挿入音楽は有名なヘンリー・マンシーニが担当、内容は立派なジャズ・ベースな楽曲だったそうで、その楽曲を、シェリー・マン率いるヒズ・メンが、ウエストコースト・ジャズとしてカヴァーする企画盤がこの盤である。
 

Shelly-manne-his-men-play-peter-gunn

 
もともとマンシーニの作曲&編曲の「元曲」が、ジャズ志向の佳曲ばかりで、ジャズ志向の佳曲を、当時流行していたウエストコースト・ジャズ流のアレンジで、マンシーニ自身が再アレンジして、良好な内容のハードバップっぽい演奏に仕上げている。元曲の良さを活かしつつ、ウエストコースト・ジャズのアレンジの個性が、元曲の良さをさらに引き出している様な演奏は聴き応えがある。否、元曲を知らなくても大丈夫。純粋にウエストコースト・ジャズの好演として聴いても全く違和感は無い。

マンの、様々なニュアンスのリズム&ビートを叩き出しながら、しっかりフロントを引き立て、クールに鼓舞する、「聴かせる」ウエストコースト・ジャズに最適なドラミングは相変わらず。トランペットがコンテ・カンドリ、アルト・サックスがハーブ・ゲラー、ヴァイブがヴィクター・フェルドマン。その3人のフロントの演奏が、マンのドラミングに乗り、鼓舞されて、なかなか充実した、ウエストコースト・ジャズらしからぬ、ホットなアドリブを展開している。

「元曲」の良さがそうさせるのだろう。ウエストコースト・ジャズの個性と特徴はしっかり踏まえつつ、いつになく、ウエストコースト・ジャズらしからぬ、ちょっとホットな演奏は聴き応え十分。クールで端正で流麗、聴き心地の良いユニゾン&ハーモニーはそのままに、少し「熱い」インプロビゼーションを繰り広げる。モダン・ジャズの好盤です。
 
 

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