ジャズ・ベース2本のデュオ名盤
技巧派ジャズ・ベーシストがよくやる裏技に「ボウイング」がある。「ボウイング」とは、弦楽器で弓を弦に当てて上げ下げして音を出す演奏技法。旋律楽器として、旋律を取りにくいベースという楽器で、滑らかな旋律を取る方法の一つ「ボウイング」。
しかし、この「ボウイング」が曲者で、かなり高度なテクニックと音感を要する。つまり、技巧派ジャズ・ベーシストのボウイングについては、押し並べて「良くない」。クラシックのチェロやコントラバスのボウイングの旋律は、ピッチが合っていて、ボウイングのテンポが合っている。これが「ボウイング」なのだが、ジャズ・ベーシストのボウイングは、ピッチが合っていなくて、ボウイングのテンポが外れている。
それなのに、技巧派ジャズ・ベーシストは「ボウイング」をやりたがる。思いついただけでも、ポール・チェンバース、ロン・カーター、この二人のボウイングは酷い。レイ・ブラウンについては可もなく不可もなく。ニールス=ヘニング・エルステッド・ペデルセン、ジョージ・ムラーツなど、欧州系のジャズ・ベーシストは、クラシックの影響もあるのだろう、ボウイングはまずまず良好。
とはいえ、総じて、ジャズ・ベーシストのボウイング、どう聴いても、クラシックのそれと比べて、あまりにも見劣りがする。
Christian McBride & Edgar Meyer『But Who's Gonna Play The Melody?』(写真左)。2024年の作品。ちなみにパーソネルは、Christian Mcbride, Edgar Meyer (b, p)。クリスチャン・マクブライドとエドガー・メイヤー、2 人のグラミー受賞ベーシストによる、ベーシストだけのジャズ演奏。
タイトルが良い。「But Who's Gonna Play The Melody?」=「だれがメロディを弾くんだい?」。ベーシスト2人だけのデュオ・パフォーマンス。ベーシスト二人、それぞれがピアノを弾くが、それも全15曲中、それぞれ2曲だけ。残り11曲は、純粋にベース2本だけのパフォーマンス。
ベース2本だけのパフォーマンスとしては、Niels-Henning Ørsted Pedersen & Sam Jones『Double Bass』(2012年7月11日のブログ記事・左をクリック)が浮かぶが、かなり珍しいデュオ・フォーマットであることは間違いない。
しかし、である。これが絶品なのだ。恐らく、ジャズ・ベーシストがメインのパフォーマンスの極上のもの。タイトル「But Who's Gonna Play The Melody?」=「だれがメロディを弾くんだい?」の問いに応える様に、マクブライドとメイヤーの2人が、ピッチ奏法でリズム&ビートを弾き出し、アルコ奏法(ボウイング)で旋律を奏でる。
二人とも、とりわけ優れたベーシストであり、ピッチ奏法は極上なのは当たり前。しかし、この盤で素晴らしいのは、二人のベーシストのボウイング。ピッチはバッチリ合っていて、ボウイングのテンポもバッチリ合っている。その上、弾き出されるリズム&ビートは躍動感溢れ、グイグイと推進力抜群。そして、ボウイングの旋律は歌心溢れ流麗至極。クラシックのボウイングと比べても全く遜色無い。
これだけ、優れた内容のジャズ・ベースのボウイングは聴いたことが無い。今回のこのアルバムが、ジャズ・ベーシストのパフォーマンスの中で、ピカイチの内容のボウイングだろう。いわんや、ピチカートによる旋律のつまびきについても絶品極まりない。バックに回ったウォーキング・ベースも素晴らしい推進力。
いやはや、素晴らしいベース2本のデュオ。両者ともテクニック、歌心、イマージネーション、いずれをとっても遜色ない。現代のジャズ・ベースのバーチュオーゾ二人の極上のパフォーマンス。ジャズ・ベースがリーダーの名盤として、上位にランクしても良い傑作だと思う。
タイトルの問い「But Who's Gonna Play The Melody?」=「だれがメロディを弾くんだい?」。その答えは、このデュオ盤そのものの中にある。
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