2024年11月17日 (日曜日)

ブルーノートらしい「バレル盤」

創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった1968年までにリリースされたアルバムから、レコード・コレクターズ誌の執筆陣が選んだ「ブルーノートのベスト100」。レコード・コレクターズ 2024年11月号に載った特集記事なんだが、これがなかなかに興味深くて、順に聴き直してみようと思い立った。今日は「第5位」。

Kenny Burrell『Midnight Blue』(写真左)。1963年1月8日の録音。ブルーノートの4123番。ちなみにパーソネルは、Kenny Burrell (g), Stanley Turrentine (ts), Major Holley (b), Bill English (ds), Ray Barretto (conga)。リーダーのバレルのギターとタレンタインのテナーがフロント2管の、コンガ入り、キーボードレスのクインテット編成。

やっと「第5位」で、何から何までブルーノート・レーベルらしいアルバムがランクインした。まずタイトルの「Midnight Blue」と、このタイトルを印象的なタイポグラフィーであしらった、デザイン・センス抜群のジャケット。タイトルもジャケットもとにかく、とても「ブルーノートらしい」。

アルフレッド・ライオンがブルーノートの総帥プロデューサーだった時代、ブルーノートのアルバムには必ず「ブルース曲」が入っていた。ライオンの指示である。ブルーノートの音の基本は「ブルース」。
 

Kennyburrellmidnightblue_1

 
このケニー・バレルのリーダー作には、「洗練されたブルース・フィーリング」が横溢している。そして、そのブルース・フィーリングが、伝説の録音技師、ルディ・ヴァン・ゲルダーの手になる「ブルノート仕様の音」に映えに映える。

ブルージーでアダルト・オリエンテッドなファンキー・ジャズ。バレルの漆黒ギターとタレンタインの漆黒テナーが、アーバンな夜の雰囲気を醸し出す。コンガが良いアクセントとなった小粋な曲もあって、アルバム全体を通して、大人のファンキー・ジャズをとことん楽しむ事が出来る名盤。

ブルーノートのハウス・ミュージシャンの二人、バレルのギターとタレンタインのテナーの相性が抜群で、このフロント2管の相乗効果で、漆黒ファンクネスがだだ漏れ。どこか洗練された都会的な雰囲気が底に流れている。都会の深夜のブルージーで漆黒な雰囲気がアルバム全体を覆っている。

ブルーノートらしい演奏良し、ブルーノートらしい録音良し、ブルーノートらしいジャケット良し。「三方良し」のブルーノートらしい、ブルーノートらしさ満載のケニー・バレルの名盤。「ブルーノートのベスト100」の第5位は納得、である。
 
 

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2024年1月 6日 (土曜日)

「バレル & コルトレーン」再聴

コルトレーンの共演盤はフリー&スピリチュアル志向のものは「それなり」に評価されているが、ハードバップ時代の共演盤については評価が芳しくない傾向にある。特に、20世紀の我が国の評論にその傾向が強い。どうも、コルトレーンには「共演」が許されていない感じなのだ(笑)。

『Kenny Burrell & John Coltrane』(写真左)。1958年3月7日の録音。ちなみにパーソネルは、Kenny Burrell (g), John Coltrane (ts), Tommy Flanagan (p), Paul Chambers (b), Jimmy Cobb (ds)。ケニー・バレルのギターとジョン・コルトレーンのテナーが2管フロントのクインテット編成。

そもそも、ギターとテナー。音の線の細いギターと音が太くて力感のあるテナー。そもそも、フロントとして相立ち、相入れることが出来るのか。漆黒ブルージーでアーバンなバレルのギターと、豪快でエモーショナルで光速切れ味の良いコルトレーンのテナー。ムードで聴かせるバレルとテクニックで聴かせるコルトレーン。聴く前は、合わないよなあ、と感じる。

冒頭の1曲目「Freight Trane」では、いつもより音量を上げたバレルのギターを全く気にせず、我が道を往くテナーのコルトレーン。この曲ではまだ「良好な一体感」は無い。しかし、これは「我が道を往来たがる」コルトレーンの性格によるものではないか。

2曲目の「I Never Knew」、3曲目の「Lyresto」と聴き進めていくと、コルトレーンがバレルに歩み寄るのが判る。コルトレーンが、シーツ・オブ・サウンド風に光速に吹きまくるのでは無く、、歌心溢れるブルージーなテナーとなって、ブルージーなバレルの漆黒ギターに合わせ始める。いい感じの共演フロントになってくる。
 

Kenny-burrell-john-coltrane

 
そして、4曲目の優しいバラード曲「Why Was I Born?」。この演奏、コルトレーンとバレルのデュオなのだが「絶品」。いつもより音量を上げて音が太くなった、漆黒ブルージーでアーバンなバレルのギターの伴奏に乗って、コルトレーンが歌心溢れる優しいテナーを奏でる。

すると、代わって、漆黒ブルージーでアーバンなバレルのギターが、いつになく「しっとり」と語りかける。「絶品」。この演奏を聴くだけの為に、このアルバムを手に入れても良い位の名演である。

以前、ジャズ盤紹介本で、この盤ってミスマッチの極致の様に書かれていた記憶があるが、本当に自分の耳でしっかり聴いた上での評論だったのだろうか。頭で考えるとバレルとコルトレーンはミスマッチの様に感じるが、聴いてみると実は相性は良い。

バレルとコルトレーン、どちらも優れた一流ジャズマン。フロントに相立ったら、相手の音をしっかり聴きながら、良好なマッチングに持ち込もうとするのがプロと言うものだ。このバレルとコルトレーンの共演盤は正式にリリースされている。アマチュアの我々が聴いて「ミスマッチの極致」などとは決して思わない。

このバレルとコルトレーンの共演盤。バレルとコルトレーンの相性は良いです。迷うことなく聴くことをお勧めします。こういう、フロントのパートナーに寄り添うコルトレーンも聴き応え十分です。
 
 

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2023年9月14日 (木曜日)

ジャズ喫茶で流したい・265

この盤はジャズ者初心者の頃、バイト代を叩いて買った思い出の「名盤」。

当時、ブルーノートのLPは値が張った。他のレーベルでは「廉価盤」と銘打って、LPの通常の値段の千円ほど安い、手に入れやすい価格の盤があったのだが、ブルーノートにはそれが無い。

学生時代のバイト代では、ブルーノートのLPは1ヶ月に1枚がせいぜい。他のLPも買いたいので、これは「廉価盤」で数枚買う、という感じで、ブルーノートのLPは、ジャズ者初心者の僕にとっては、特別な存在だった。

Kenny Burrell『Midnight Blue』(写真左)。1963年1月8日の録音。ブルーノートの4123番。ちなみにパーソネルは、Kenny Burrell (g), Stanley Turrentine (ts), Major Holley (b), Bill English (ds), Ray Barretto (conga)。

リーダーのバレルのギターとタレンタインのテナーがフロント2管の、コンガ入り、キーボードレスのクインテット編成。バレルのギターとタレンタインのテナーの相性が抜群で、2つの楽器の相乗効果で、漆黒ファンクネスがだだ漏れ。
 

Kenny-burrellmidnight-blue

 
ブルージーでアダルト・オリエンテッドなファンキー・ジャズ。バレルの漆黒ギターとタレンタインの漆黒テナーが、アーバンな夜の雰囲気を醸し出す。コンガが良いアクセントとなった小粋な曲もあって、アルバム全体を通して、大人のファンキー・ジャズをとことん楽しむ事が出来る名盤。

とにかく、バレルのギターが良い。ブルージーでファンクネス濃厚。そして、どこか洗練された都会的な雰囲気が底に流れている。タイトルの「Midnight」が言い得て妙。都会の深夜のブルージーで漆黒な雰囲気がアルバム全体を覆っているのだ。

この盤は理屈で、蘊蓄で聴く名盤では無い。この盤は雰囲気で、直感で聴くべき名盤である。

特に、CDリイシュー時のボートラ含め、1963年1月8日のセッションの全てを欲しい。セッション全曲、捨て曲無し。充実仕切ったバレル・クインテットのセッションの全てを味わい尽くして欲しい。

この盤は、ジャズ者初心者、ジャズを聴き始めて2年位で手に入れた盤だが、まず、このジャケットに惚れた。そして、LPに針を落として、冒頭の名演「Chitlins con Carne」でドップリ感じ入り、そのまま、一気に聴き切った後、直ぐにA面の戻して、繰り返し聴き直した思い出のある名盤。

ジャズ者初心者でもこの盤の良さが直ぐに判る、ジャズ者初心者にとても優しいジャズ名盤である。
 
 

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2021年6月 5日 (土曜日)

バレルを心ゆくまで愛でる盤

ケニー・バレルというギタリスト、僕は大好きである。最初に彼のギターを聴いたのは、1980年頃、『Guiter Forms(ケニー・バレルの肖像)』だったと思う。邦題通り、様々な編成でバレルのギターの魅力を引き出した好盤なのだが、このバレルのギターが良かった。僕は「漆黒ファンキーなアーバン・ギター」と形容している。

Kenny Burrell With Art Blakey『On View At The Five Spot Cafe』。1959年8月25日、NYの「Five Spot Cafe」でのライヴ録音。ブルーノートの4021番。ちなみにパーソネルは、Kenny Burrell (g), Art Blakey (ds), Bobby Timmons (p), Roland Hanna (p), Tina Brooks (ts), Ben Tucker (b)。 リーダーはギターのバレルとドラムのブレイキーの双頭リーダー盤。バレルのギター、ブルックスのテナーの2人がフロントのクインテット編成。

パーソネルを見渡すと、とても個性の強いメンバーが集められている。漆黒ファンキーなアーバン・ギターのバレルに、大胆かつ繊細なドラマーのブレイキー、どっぷりとブルージーなテナーのブルックス、ハードバップ・ベースの名手のタッカー。そして、ピアノは、明快なファンキー・ピアニストのティモンズと、典雅なピアノ職人のハナの2人を使い分けている。
 

On-view-at-the-five-spot-cafe
 

このメンバーはとってもブルーノートらしいラインナップ。そして、ブルーノートらしいブルースなサウンドが充満している。バレルのギターはファンネス溢れ、滴るようにブルージー。どのソロ・パフォーマンスも申し分無し。ピアノが明快なファンキー・ピアニストのティモンズだと、バレルの「ファンクネス」が強調され、ピアノが典雅なピアノ職人のハナだと、バレルの「アーバン」な雰囲気が強調されるのが面白い。

双頭リーダーのブレイキーについては、その「ドラミングの妙」に感心する。このライブでのバンド・サウンドの要である「ファンクネス」と「アーバン」そして「ブルージー」をしっかり踏まえて、ドラミングを最適化している。決して仰々しくフロントを鼓舞することは無い。逆に趣味良く粋なドラミングで、バンド・サウンド全体をしっかりとコントロールしているように感じる。

「Birk's Works」におけるバレルのギターとティモンズのピアノの「ファンクネス」な絡み、バレルの自作曲「36-23-36」のアーバンでブルージーな展開が良い感じ。テナーのブルックスも好調で、タッカーのベースは盤石。ジャケット・デザインも、バレルの横顔のアップを半分切り取った印象的なもので「グッド」。バレルの「漆黒ファンキーなアーバン・ギター」を心ゆくまで愛でることが出来る好ライヴ盤です。
 
 
 

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2021年3月10日 (水曜日)

正統なオールスター・セッション

ブルーノート・レーベルには、他のレーベルにある「オールスター・セッション」が無い。他のレーベルでは、時間の空いているジャズマンをワッと集めて、適当に打ち合わせさせて、即本番に入ってテープを回し、著しい破綻が無ければギャラを払って「はい終わり」、そしてそれを即アルバム化。という「オールスター・セッション」があるのだが、ブルーノートには無い。

Kenny Burrell『Blue Lights: Vol.1 & Vol.2』(写真左)。1958年5月14日の録音。ブルーノートの1596番、1597番。ちなみにパーソネルは、Kenny Burrell (g), Louis Smith (tp), Tina Brooks, Junior Cook (ts), Duke Jordan (p, vol.1), Bobby Timmons (p, vol.2), Sam Jones (b), Art Blakey (ds)。

パーソネルを見渡せば、ブルーノート・レーベルのお抱えジャズマンばかり、オールスター・セッションの様相である。演奏を聴けばそれが良く判る。ギターのケニー・バレルがリーダーだが、演奏内容はメンバーそれぞれが持ち回りでメインを張っている感じ。バレルのギターはどちらかと言えば、バックに控えて、しっかりとフロントを支えている雰囲気なのだ。

 
Blue_lights

 
演奏内容をじっくり吟味すれば、ブルーノートの十八番である「しっかりとリハーサルを積んだ」ことが窺い知れる。アレンジもしっかりとしている。個々のアドリブ・パフォーマンスも充実している。総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンがしっかりとセッションの手綱をコントロールしているイメージなのだ。これは、他のレーベルによくある「お気楽なオールスター・セッション」などでは無い。

しかし、面白いのは演奏全体の雰囲気が「アーバンで夜の雰囲気で、とてもジャジー」。そこはかとなく、クールなファンクネスも漂う。これって、バレルのギターの雰囲気そのもの。そういう意味では、リーダーがバレルなのは妥当なところかも。この「バレル」チックな雰囲気の中で、ルイ・スミス、ティナ・ブルックス、ジュニア・クックが元気に吹き上げ、ジョーダン、ティモンズのピアノがクールにフロントをバッキングする。

他のレーベルの「オールスター・セッション」とはスタンスとアプローチが全く異なる、ブルーノート・レーベルならではの、由緒正しき正統な「オールスター・セッション」。内容充実、聴き応え十分。さすがはブルーノート、さすがは総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオン、である。
 
 

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2020年11月11日 (水曜日)

ミスマッチのようで実は相性抜群

ジャズって面白いもので、演奏者の組み合わせを見て、そのそれぞれの演奏スタイルを思い浮かべて、どう考えてもミスマッチで「こんな組み合わせは聴きたく無いな、聴いたってロクなことは無い」と思うことがたまにある。が、意外と実はそんな組み合わせにこそ「組み合わせの妙」的な好盤が生まれることがある。ジャズには先入観って危険。まずは自分の耳で聴いてみることが大事である。

『Kenny Burrell & John Coltrane』(写真左)。1958年3月7日の録音。ちなみにパーソネルは、Kenny Burrell (g), John Coltrane (ts), Tommy Flanagan (p), Paul Chambers (b), Jimmy Cobb (ds)。素敵なメンバーでのクインテット構成。特にリズム・セクションに「名盤請負人」トミフラのピアノと「燻し銀ドラマー」のコブが配置されているところがミソ。まあ、プレスティッジからのリリースなので、この素敵なメンバー構成も偶然なんだろうけど(笑)。

さて、このプレスティッジの企画盤『ケニー・バレル&ジョン・コルトレーン』って、シーツ・オブ・サウンドが「ウリ」のエモーショナルで切れ味の良いコルトレーンのテナーと、夜の雰囲気が良く似合うブルージーな漆黒ギターのバレル、どう考えたって「合う訳が無い」と思うのだが、これが実は「合う」んですよね。
 
 
Kenny-burrell__john-coltrane
 
 
出だしの1曲目「Freight Trane」は「あ〜やっぱり合わないな」なんて、コルトレーンとバレルのミスマッチの予感を実際に確認して、直感は当たっていた、とほくそ笑んだりする。が、2曲目の「I Never Knew」、3曲目の「Lyresto」と聴き進めていくと、「ん〜っ」と思い始める。コルトレーンがバレルに合わせ始めるのだ。シーツ・オブ・サウンドで吹きまくるコルトレーンでは無く、ブルージーなバレルの漆黒ギターに合わせて、歌心溢れるブルージーなテナーに変身し始めるのだ。

そして、4曲目の優しいバラード曲「Why Was I Born?」。この演奏、コルトレーンとバレルのデュオなのだが「これが絶品」。ブルージーで黒くて優しくて骨のあるバレルの漆黒ギターの伴奏に乗って、コルトレーンが、それはそれは歌心溢れる優しいテナーを奏でる。すると、代わって、黒くて優しくて骨のあるバレルの漆黒ギターが「しっとり」と語りかける。この演奏を聴くだけの為に、このアルバムを手に入れても良い位の名演である。

こんな時、ジャズって柔軟な音楽だなって、改めて感心する。昔、ジャズ盤紹介本で、この盤ってミスマッチの極致の様に書かれていた記憶があるが、パーソネルを見ただけで評価したのではないだろうか。ようは「如何に相手の音をしっかり聴いて、最適の音でしっかり返すか」である。つまりはバレルとコルトレーン、ミスマッチのようで実は相性抜群。なんだかジャズの世界って、人間の男女の仲に良く似ている。
 
 
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  ・『Middle Man』 1980
 
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  ・The Band の「最高傑作」盤

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  ・僕達はタツローの源へ遡った


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2019年3月15日 (金曜日)

ブルーノートの「純ジャズ復古」

ブルーノート・レーベルは、ジャズ界最大のジャズ・レーベル。ブルーノートのカタログには幾つかのシリーズがある。一番有名なのが、1500番台、4000番台など、カタログ番号を基本としたシリーズ。それから、カタログの分類記号を基本としたシリーズ。例えば「BN-LA」シリーズや「LT」シリーズがそれに当たる。どれもが好盤のオンパレードで、どのシリーズを聴いても、ジャズの醍醐味が味わえるところがブルーノート・レーベルの凄いところである。

そんなブルーノート・レーベルのシリーズの中で「85100」シリーズというのがある。1985年から1987年まで、僅か3年のシリーズで41枚の短期間のシリーズであった。しかし、このシリーズ、ちょうど1980年代半ばからの「純ジャズ復古」のムーヴメントの時代にリリースされたシリーズなのだ。どのアルバムも「純ジャズ復古」や「初期ネオ・ハードバップ」な雰囲気の演奏が詰まっていて、実は意外となかなか面白いシリーズなのだ。

Kenny Burrell & Grover Washington Jr.『Togethering』(写真左)。1984年4月の録音。ちなみにパーソネルは、Grover Washington Jr. (ts, ss), Kenny Burrell (g), Ron Carter (b), Jack DeJohnette (ds)。Blue Note 85100シリーズの BT 85106番。ワシントンJr.はこの録音の2年前に、アルバム『Winelight』でヒットを飛ばしている。
 

Togethering

 
ワシントンJr.のアルバム『Winelight』は、典型的なフュージョン・ジャズの好盤。ソフト&メロウな雰囲気と電気楽器を活用した8ビート主体の演奏は当時、受けに受けた。そんなフュージョン・ジャズのサックス奏者のワシントンJr.がフロントを担当するこのアルバム、僕は最初、フュージョン・ジャズのアルバムだと思った。が、聴いてみたら、新しい雰囲気のする、ライトなハードバップな演奏がギッシリ詰まっているではないか。

ロンのベースは往年のモードライクなベース。デジョネットのドラムは新しい感覚のポリリズム(この頃、デジョネットはキースと「スタンダーズ」を結成している)。ギターのバレルは明らかに新しい感覚のハードバップなギター。旧来のハードバップのギターをフュージョン・ジャズの手法で焼き直した雰囲気が聴いていて実に新しい。そして、ワシントンJr.のサックスも、聴き易いフュージョン・テナーの良い部分を踏襲した新しい感覚のハードバップなサックス。

全編に渡って、なかなか聴き応えのあるネオ・ハードバップな演奏です。これが1984年の録音。フュージョン・ジャズが衰退を始めて、純ジャズが見直され始めた頃。そんな微妙な時期に「純ジャズ復古」を先取りした様な、新しい感覚のハードバップな演奏。さすがブルーノート・レーベルだな、と感心することしきり。
 
 

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2016年2月29日 (月曜日)

音楽喫茶『松和』の昼下がり・31

決して、ジャズの入門盤やジャズの歴史的名盤に名を連ねることは無い。それでも、聴けばとってもジャズを感じて、ついつい聴き耳を立てながら、身体でオフビートのリズムをこっそりと取ってみたりする。そんなジャズを感じさせてくれる、聴いて楽しいアルバムは沢山ある。

例えば、このKenny Burrellの『All Day Long』(写真左)と『All Night Long』(写真右)。このアルバム2枚は、ジャズの名盤の類でも無ければ、ジャズ者初心者向けの入門盤でも無い。どちらかと言えば、このアルバムに詰まっている「ジャズ」を楽しむことが出来る様になったジャズ者中級から上級者向け。

まずは、Kenny Burrell『All Day Long』。1957年1月4日の録音。プレスティッジ・レーベルお得意のジャム・セッション形式の一発録りである。ちなみにパーソネルは、Kenny Burrell (g), Tommy Flanagan (p), Donald Byrd (tp), Frank Foster (ts), Arthur Taylor (ds), Doug Watkins (b)。フロントがギター、トランペット、テナーの六重奏団編成。

お次の、Kenny Burrell『All Night Long』。1956年12月28日の録音。こちらもプレスティッジ・レーベルお得意のジャム・セッション形式の一発録り。ちなみにパーソネルは、Kenny Burrell (g), Donald Byrd (tp), Hank Mobley (ts), Jerome Richardson (ts, fl), Mal Waldron (p), Doug Watkins (b), Art Taylor (ds)。こちらはフロントがギター、トランペット、テナー、フルートの七重奏団編成。

『All Day Long』と『All Night Long』とはたった1週間しか違わない録音。内容としてはどちらも同じ雰囲気で、この2枚は兄弟盤と言っても良い。典型的なハードバップな演奏。ジャム・セッション形式の一発録りなのでアレンジも展開もシンプル。アーティスティックな面でちょっと割を食うが、演奏の内容は一流。面白いのは、どちらもドラムとベースとトランペットは変わらないこと。 
 

All_day_long_all_night_long

 
『All Day Long』は、ほのぼのとした雰囲気が漂う、ちょっとダルなハードバップが良い。フラガナンのピアノが典雅で、演奏全体にほんのりと気品が漂う。バードのトランペットがやけに元気。フランク・フォスターのテナーがほのぼのしていて、アルバム全体の雰囲気決めに貢献している。

逆に『All Night Long』は、切れ味の良い活発な雰囲気が気持ち良いハードバップ。バードのトランペットはここでも元気。ハンク・モブレーの元気一杯のテナーは珍しい。ジェローム・リチャードソンのフルートが効いている。こちらはマル・ウォルドロンのピアノが切れ味良く、アルバム全体の雰囲気決めに貢献している。

『All Day Long』も『All Night Long』も、ジャズの楽しさを体感できる好盤です。聴いていてとにかく心地良い。リズム隊もノリノリで、ちょっとラフなオフビートはスイング感抜群。一発勝負のジャム・セッションの割にテクニックも優秀で、ミスや破綻がほとんど無いのもこの2枚の良さ。

ジャズ喫茶の昼下がり、食後の珈琲を飲みながら耳を傾けるのにピッタリな好盤の2枚です。そして、アドリブを聴きながら、身体でオフビートのリズムをこっそりと取りつつ、昼ご飯で満たされた満腹感も手伝って、ついつい「微睡み」の中へ。そんな「微睡み」を誘う心地良いリズム&ビートが魅力です。

そんなちょっとダルで適度な緩みが心地良い、意外と内容のあるジャム・セッションの記録。ジャズの入門盤やジャズの歴史的名盤に名を連ねることは無い。それでも、聴けばとってもジャズを感じて、ついつい聴き耳を立てながら、身体でオフビートのリズムをこっそりと取ってみたりする。そんなジャズを感じさせてくれる、聴いて楽しいアルバムである。

 
 
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2015年8月 5日 (水曜日)

実に粋なギターアルバムである

暑い。酷暑である。たまらない。我慢できない。でも、かといって騒いだからと言って暑さが和らぐ訳では無い。あと1ヶ月もすれば、きっと少しは涼しくなっている。

ということで、暑いからと言って、ジャズを聴かないということは無い。なんせ我々にはエアコンという文明の利器がある。エアコンの効いた部屋の中では、十分にジャズは聴ける。というか、意外とエアコンの効いた静かな部屋の中で聴くジャズって、なかなか良い感じなのだ。

今日は相当久し振りにこのアルバムを聴いた。Kenny Burrell『Blue Moods』(写真)。渋い渋いジャズ・ギター中心のアルバム。1957年2月の録音。初出の時のアルバムタイトルは『Kenny Burrell』。いわゆるデビュー盤っていうことかな。 『Blue Moods』というタイトルは、このアルバムがリイシューされた時に付けられたタイトル。

太く明確でブルージーで黒いギターのケニー・バレル。ファンクネスたっぷりのアーバンな雰囲気濃厚なジャズ・ギター。むっちゃ粋であり、むっちゃムーディーである。冒頭の「Don't Cry Baby」から聴き進めていくにつれ、バレルのギターの音色とフレーズに惚れ惚れする。
 

Kenny_burrell_blue_moods

 
ちなみにパーソネルは、Kenny Burrell (g), Cecil Payne (bs), Tommy Flanagan (p), Doug Watkins (b), Elvin Jones (ds)。今から思えば凄いメンバーだ。特に、バリトン・サックスのセシル・ペインの参加がユニークである。何を狙ってのバリトン・サックスの参入なのかは良く判らないんだけど(笑)。

名盤請負人の誉れ高い「いぶし銀ピアニスト」、トミー・フラナガンがいる。太っとくしなるような「しなやか」ベースのダグ・ワトキンス。そして、ポリリズムとはこれだ的なドラミングが素敵なエルビン・ジョーンズ。このリズム・セクションが凄い。実に躍動感溢れる、硬軟自在、変幻自在、遅速自在な柔軟性溢れるリズム&ビートを繰り出す。

このリズム・セクションを従えてのケニー・バレルのギターである。悪かろう筈が無い。とっても素敵な「ひととき」を提供してくれる。至高の5曲「Don't Cry Baby」「Drum Boogie」「Strictly Confidential」「All of You」「Perception」の37分弱があっと言う間である。

録音時期は1957年。ハードバップの最盛期。そんな充実した環境の中で、実に趣味の良い、実に粋なギターアルバムがリリースされていた。なかなかジャズ紹介本や入門本には載らないアルバムであるが、これは好盤である。初心者からベテランまでジャズ者のあらゆる方々にお勧めです。
 
 
 
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2015年6月10日 (水曜日)

バレルの個性が際立つ 『Kenny Burrell Vol.2』

ケニー・バレルは、米国ミシガン州デトロイトの出身。バレルのギターは、しっかりと芯のある太さがあって硬質な音。硬質の音でありながら、紡ぎ出すフレーズはしなやか。そして、黒くてブルージーな質感が特徴。これぞジャズ・ギターの音、って感じです。

バレルのギターは、ジャジーで硬派で、しかも「アーバン」。都会の夜中の雰囲気がしっくりくる、ニューヨークの漆黒な夜のディープな雰囲気が漂うバレルのギター。しかも、歌心があって、聴いていて楽しく、聴いていてしみじみする。そんなジャジーなギターが良い。

そんな雰囲気を十分に感じさせてくれるバレルのアルバムがこれ。Kenny Burrell『Kenny Burrell Vol.2』(写真左)。1956年3月の録音。ビ・バップからハードバップへの移行期の録音。そんなことをビンビンに感じさせてくれる音世界である。

米国西海岸ジャズの洒脱で小粋なギターというよりは、硬派で太くてアーバンなギター。なるほど、米国東海岸ジャズの個性がプンプン漂う雰囲気が良い。
 

Kenny_burrell_vol2

 
冒頭の「Get Happy」。スイング時代からのスタンダードでちょっと宗教的な感じの歌詞をもった曲です。ピアノがトミー・フラナガン、ベースがポール・チェンバース、ドラムがケニー・クラーク、そしてキャンディドのコンガ。内容的にはハードバップですが、さすがにアーバンなバレル。歌心満点のエンタテインメントなフレーズが実に都会的です。

ジャケットはアンディー・ウォーホル、単純な線画ながら非常に印象的なイラスト。このジャケットの雰囲気がこれまた良い。いかにもブルーノート・レーベルという感じで、このジャケットだけでも買いです。

大きさ的には、LPサイズが最高。ウォーホルの線画の良さを堪能できます。RVGシリーズの紙ジャケCDも丁寧に作られていて、雰囲気があって良いです。プラケースはちょっとなあ(笑)。

ハードバップなジャズを十二分に感じされてくれるバレルのギター。意外とスピード感もあって、速いフレーズも聴き応え満点。録音も良好、音の響きは明らかにブルーノート・レーベル。録音技師ルディ・バン・ゲルダーの腕が冴えてます。
 
 
 
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