2024年9月11日 (水曜日)

チック&オリジンの ”Change”

確かに、チックって、いつも、質の良い「ジャズの新しい何か」を提示してくれるのだが、世の中に受けないと思ったら、一旦、さっさと撤収することが多いので、このチックの提示する「ジャズの新しい何か」に違和感を感じた方々は、やっぱりチックもそう思って引っ込めた、と勘違いしているきらいがある。

Chick Corea & Origin『Change』(写真左)。1999年1月の録音。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p, marimba), Bob Sheppard (b-cl, fl, bs, as, ss, ts), Steve Wilson (cl, fl, as, ss), Steve Davis (tb), Avishai Cohen (b), Jeff Ballard (ds), チック・コリア&オリジンとしては初のスタジオ録音。

リード楽器 x2+トロボーンのフロント3管のセクステット編成。まるで、1960年代のジャズ・メッセンジャーズの様な編成である。しかし、出てくる音は全く異なる。今回、改めて聴いてみて、21世紀に入って、その演奏トレンドが顕著となる「ネオ・ハードバップ」の走りの様な内容に、ちょっとビックリ。

モード&コードのごった煮な展開は1960年代と同じだが、限りなくフリーに展開しているところが耳に新しい。それも、激情に任せた、本能に赴くままの展開ではなくて、あくまで理知的に、あくまでクールに、限りなくフリー&スピリチュアルに展開しているところが新鮮。
 

Chick-corea-originchange

 
モードな展開も、コードな展開も理知的でクール。出てくるフレーズはファンクレス。欧州の純ジャズ的な透明度の高い、理路整然としたクールな展開。米国出身のジャズマンが中心のセクステットで、欧州の純ジャズ的な展開をする。この辺りは、21世紀に入って、ECMレーベルが標榜した「メインストリーム・ジャズのボーダーレス化」に通じるものがある。

米国ジャズの面々が欧州な純ジャズをやるのだから、この盤がリリースされた当時は、皆、違和感を感じたのだろうな。故に、このチック・コリア&オリジンは全く話題にならなかったどころか、チックはもう終わった、なんて揶揄されたものだ(笑)。

このチックがオリジンで提示した「ジャズの新しい何か」は、最終的に、トリオ演奏に焼き直されて、2006年の『Super Trio』で再提示され、今度は世の中から受けに受け、評価されるのだから、面白いといえば面白いし、当時、チックはもう終わった、なんて揶揄した方々については、意外と無責任やなあ、とも思ったりする。

チックのピアノのフレーズはどこから切っても「チック流」の響きが満載だし、リズム隊としては、ジェフ・バラードの変幻自在、硬軟自在なドラミングは、後の「ネオ・ハードバップ」の響きが満載。オリジンとしての個性的なグループサウンズの響きはしっかりとキープされていて、スタジオ盤として、良好な出来だと思う。
 
 

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2024年8月24日 (土曜日)

ホーニグの「ネオ・ハードバップ」

21世紀に入ってはや丸23年。21世紀に入って頭角を現した、将来有望なジャズマンを追いかけていくと、ライヴ情報などで、サイドマンで活躍する、新たな将来有望なジャズマンに出会う。これが楽しい。

新たなジャズ盤に出会って、そのパーソネルなど情報を確認すると、またまた新たな将来有望なジャズマンに出会う。これがまた楽しい。この2024年になって振り返ると、将来有望な中堅ジャズマンがかなりの数、出揃った感がある。

Ari Hoenig 『NY Standard』(写真左)。2015年9月の録音。2018年のリリース。ちなみにパーソネルは、Ari Hoenig (ds), Tivon Pennicott (ts), Gilad Hekselman (g), Tigran Hamasyan (p #2), Shai Maestro (p #4,6), Eden Ladin (p #3,5), Orlando le Fleming (b)。フロントにテナーとギター、曲により注目のピアニスト3人をフィーチャーした、クインテット編成。

アントニオ・サンチェスと並んで、NYジャズ最重要ドラマーの一人、アリ・ホーニグのリーダー作の9枚目。アントニオ・サンチェスは、デビューした頃からずっと追いかけてきたが、このアントニオ・サンチェスを通じて、アリ・ホーニグの名前を知った。そして、リーダー作を当ブログの記事にするのは初。ドラマーのリーダー作なので、リーダーのドラマーの志向するジャズが展開されている。
 

Ari-hoenig-ny-standard

 
アリ・ホーニングのドラムは、変幻自在な表現豊かなドラミング。自由度の高いリズム&ビートの変化、ドラムの音色のバリエーションの豊かさが存分に楽しめる。クールに熱いドラミングが見事。ホーニングのドラムのコントロールの下、ネオ・ハードバップ、ネオ・モード、ゴスペル&フォーキーなど、ジャズの演奏トレンドを融合した、内容の濃いパフォーマンスを繰り広げている。

ティグラン・ハマシヤン、シャイ・マエストロ、エデン・ラディンの3人のピアニストの曲のイメージに応じて、上手く使い分けている印象。ブルージーでゴスペルチックなハマシヤン、耽美的でリリカルなマエストロ、モーダルで変幻自在なラディン3者3様、ホーニングのドラムのリズム&ビートに乗って、鼓舞され、サポートされながら、気持ちよさそうに、印象的なピアノを弾きまくる。

フロントを張る、ヘクセルマンのギターが良い。モーダルで限りなく自由に、個性的なギターの音色で、個性的なフレーズを弾きまくる。このヘクセルマンのギターに効果的に絡み、効果的にソロを展開するティヴォン・ペンニコットのテナーも良い感じ。

地元NYの「スモールズ」などで繰り広げられている、現代NYを代表する中堅ジャズマンによる、「今」のスタンダード曲の解釈が楽しめる。現代のネオ・ハードバップとネオ・モード。録音年は2015年。まだまだ、ジャズは深化している。
 
 

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2024年8月 7日 (水曜日)

ビル・オコンネルの初ライヴ盤

ビル・オコンネルは、1953年8月、NY生まれのジャズピアニスト。ラテン・ジャズやハードバップとの関わりが最も深い。教育者でもあり、ニュージャージー州ラトガース大学ニューブランズウィックキャンパスのメイソングロス芸術学校でジャズピアノを教えている。リーダー作については寡作。1970年代に1枚、1980年代に1枚、1990年代に3枚。21世紀に入ってからは、2015年以降、やや頻繁に、1〜2年に1枚に割合でリーダー作を出している。

Bill O’Connell Quartet & Quintet『Live in Montauk』(写真左)。2021年8月15日、NYモントークの「Gosman's Dock」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Bill O’Connell (p), Craig Handy (ts), Santi Debriano (b), Billy Hart (ds), スペシャル・ゲストとして、Randy Brecker (tp、tracks 1 & 7)。オコンネルの長い活動期間の中で、初めてのバンド・ライヴ盤。

ハンプトンズ・ジャズ・フェストでのセッションがライヴ音源として収録されている。リーダーのオコンネルのピアノ、テナー・サックス担当のクレイグ・ハンディ、ベーシストのサンティ・デブリアーノ、ドラムのビリー・ハートがメインとなるカルテット編成。1曲目の「Do Nothing till You Hear from Me」と、7曲目の「Tip Toes」だけ、ファンキー・トランペットのレジェンド、ランディ・ブレッカーが客演している。
 

Bill-oconnell-quartet-quintetlive-in-mon

 
スタイルを塗り替えたり、何か、ジャズのライヴの歴史になるような「派手な何か」があるライヴ盤ではないのだが、端正で切れ味の良いネオ・ハードバップな演奏が魅力。硬派な4ビート曲あり、ゆったりしたファンキー・ジャズな演奏あり、バンドの実力の高さが窺い知れる。躍動感もあり、スピード感も十分、整った内容のネオ・ハードバップな演奏が心地良い。

オコンネルのピアノは「総合力勝負」のピアノ。端正で適度にファンキー、破綻無くタッチは深く、少し速めのフレーズで指がよく回る。他にありそうでない、ネオ・バップな、オコンネル独特の弾き回し。ファンキー&ラテンなフレーズが魅力のオコンネルのピアノはなかなか聴き心地が良い。リーダー作は寡作のピアニストではあるが、オコンネルのピアノは一級品。聴き応え十分である。

テナーのハンディ、ゲスト・トランペットのランディのフロント2管は、躍動感溢れる、バップな吹き回しが見事。リズム隊のデブリアーノのベース、ハートのドラムも堅実で柔軟。オコンネルのピアノは、そんなフロントとリズム隊をサポートし鼓舞、ソロのフレーズは「総合力勝負」なピアノで、硬派にファンキーに、余裕の響きで弾き回す。良いネオ・ハードバップなライヴ盤。意外とヘビロテ盤。朝に昼に夜に、どんなシチュエーションにもマッチする万能なネオ・ハードバップ盤。好盤です。
 
 




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2024年8月 5日 (月曜日)

コーエンの「温故知新」な好盤

コロナ禍の影響だろうか、2021年以降、ジャズの新盤で、ソロやデュオの演奏が多くみられる傾向にある。ソロやデュオだとスタジオに入っても、あまり「密」な状態にはならず、感染防止に最適な演奏フォーマット、という判断もあったのだろう。そうそう、自宅のスタジオでも、いわゆる「宅録」のアルバムも結構あったなあ。コロナ禍は、ジャズの演奏フォーマットにも影響を及ぼしている。

Emmet Cohen & Houston Person『Masters Legacy Series, Volume 5: Houston Person』(写真左)。2023年の作品。ちなみにパーソネルは、Emmet Cohen (p), Houston Person (ts), Yasushi Nakamura (b), Kyle Poole (ds)。ピアニストのエメット・コーエンがレジェンドとプレイするレガシー・シリーズの5作目。レジェンドに、サックス奏者、ヒューストン・パーソンを選んでの録音である。

エメット・コーエンは、1990年、米国フロリダ州マイアミの生まれ。今年33歳のバリバリ若手のジャズ・ピアニストである。2011年に初リーダー作『In the Element』をリリース。以降、1年に1枚のペースでコンスタントにリーダー作をリリースしている。今年34歳、期待の中堅ピアニストの一人である。

コーエンはクラシック音楽にも造詣が深く、コーエンのピアノを聴いていると、確かにクラシックの影響が垣間見える。誰かに似ているなあ、と思ったら、そうそう、米国西海岸ジャズで、クラシックとジャズの「二足の草鞋」で活躍した、アンドレ・プレヴィンを想起した。だが、プレヴィンよりブルージーな響きで、ジャジーに弾き回す。

ヒューストン・パーソンは、1934年、米国サウスカロライナ州フローレンスの生まれ。米国ジャズのジャズ・サックス奏者で音楽プロデューサー。今年で90歳になる「現役のレジェンド」である。スウィングやハード・バップのジャンルで演奏し続け、1960年代以降、ソウル・ジャズの中で活躍した。リーダー作は相当数にのぼる。

しかし、我が国ではほとんど無名。リーダー作が1966年以降と、ジャズが斜陽になっていった時期のリリースで、恐らくセールスにならない、と安易に判断したのだろう。僕だって、21世紀に入ってから、このヒューストン・パーソンと出会い、その名を知ったのは、音楽のサブスク・サイトだった。
 

Emmet-cohen-houston-personmasters-legacy

 
そんなエメット・コーエンのピアノ・トリオが、1管フロントにヒューストン・パーソンに迎えたのが、今回のこの盤。特色ある小粋な音色と、表現力に富んだテナー・サックスが聴き心地満点。そんな硬派で正統派、メインストリームなパーソンのテナーを、コーエンのピアノが素敵に流麗にサポートする。

冒頭、パーソンの温かで印象的なテナーが魅力のゆったりとした「Why Not?」で始まる。流麗でバップな弾き回しで、パーソンのテナーをスッポリと包むようにサポートするコーエンのピアノ。決して古くない、新しい響きを宿した、伝統的なハードバップ演奏が実に良い。

4曲目の「Just The Way You Are(素顔のままで)」は、ビリー・ジョエルの名曲のカヴァー。原曲の美しい旋律をデフィルメすることなく、素直でシンプルなテナーでカヴァーするパーソンのテナー。アドリブ展開で「ジャズらしさ」を担うのは、コーエン・トリオのアドリブ展開。原曲のコード進行を借用しつつ、モーダルな展開で、この盤にネオ・ハードバップ志向の「新しい響き」を醸し出している。

5曲目のオールド・スタイルなバップ演奏を展開する「I Let A Song Go Out Of My Heart」。これが絶品。古き良き時代の4ビート・ハードバップを踏襲しながら、出てくる音は「新しい」。決して、懐メロに陥らない、コーエンのピアノのフレーズと、それにしっかりと乗っかるパーソンのオールド・スタイルなテナー。緩やかなミッド・テンポのリズム&ビートに乗ったインタープレイが見事である。

続く6曲目の「All My Tomorrows」の、パーソンのバラード・テナーが実に心地良い。そして、バッキングに回ったコーエンの耽美的で流麗でリリカルなピアノは聴きもの。パーソンの魅力的でオールド・スタイルなテナーを最大限に引き立てる。伴奏にも長けたコーエンの才能が、この演奏で確認できる。

4ビート・ジャズがメインの、ピアニストのエメット・コーエンがレジェンドなテナー奏者、ヒューストン・パーソンとプレイするレガシー・シリーズの5作目。これって古くないか、と聴く前に懸念を感じるのだが、その懸念は見事に裏切られる。新しい響きを宿した伝統的なハードバップ演奏。古さを感じさせない演奏とアレンジは立派。この盤を聴いていて「温故知新」という四字熟語を思い出した。
 
 

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2024年8月 4日 (日曜日)

初めて、エスコフェリーを聴く

Smoke Sessions Records は、コンスタントに、現代のネオ・ハードバップ、現代のコンテンポラリー・ジャズの好盤をリリースしている。今まで、影の存在に甘んじていた、優れた資質を持つジャズマンをスカウトして、専属のリーダー人材とするのに長けている。

今まで、Smoke Sessions Records からリリースされたアルバムのリーダーの中で、この人は誰、というジャズマンも多くいた。しかも、その、それまで無名に近かったジャズマンがリーダーを張ったアルバムについて、どれもが水準以上の優れた内容なのだから隅におけない。Smokeからの新盤については、折につけ、しっかりと内容確認をしている。

Wayne Escoffery『Like Minds』(写真左)。2022年3月31日、NYの「Sear Sound Studio」での録音。ちなみにパーソネルは、Wayne Escoffery (ts, ss), David Kikoski (p), Ugonna Okegwo (b), Mark Whitfield Jr (ds) のワンホーン・カルテットが基本。ゲストに、Gregory Porter (vo, on 4, 5), Tom Harrell (tp, on 2, 4),
Mike Moreno (g, on 1, 3, 8, 9), Daniel Sadownick (per, on 5), が入っている。
 
Wayne Escoffery(ウエイン・エスコフェリー)は、1975 年イギリスにて生まれ、後にアメリカに移住。
以降ニューヨークで活動し、グラミー賞受賞歴もあるサックス奏者/作曲家。リーダー作は、2001年の『Times Change』を手始めに、今回の2023年の『Like Minds』まで、11枚を世に出しているのだが、僕は彼のリーダー作に触れたことが無かった。
 

Wayne-escofferylike-minds

 
この新作『Like Minds』は、現代のネオ・ハードバップど真ん中な内容。非常に充実した、硬派で正統派な演奏内容は好感度アップ。リーダーのアルト・サックス担当のエスコフェリー、ピアニストとして評価の高いキコスギ、堅実ベースのウゴナ・オケゴ、躍動感溢れるドラミングで、演奏全体を鼓舞するマーク・ホワイトフィールドJr。まず、カルテットのメンバーが充実している。

エスコフェリーのアルト・サックスは、正統派でテクニック良好、突出した個性は無いが、総合力勝負の優れたもの。録音時47歳。テクニック優秀な中堅アルト・サックス奏者である。まず、このエスコフェリーのアルト・サックスが全編に渡って、良い味を出している。聴き応え十分のブリリアントで流麗で大らかなアルト・サックス。

キコスギのピアノが効いている。キコスギの柔軟度の高い、適応範囲の広い、現代のネオ・バップなピアノが良い。要所要所で、気の利いたフレーズを弾き回して、フロントのエスコフェリーのアルトを支え、オケゴのベース、ホワイトフィールドJrのドラムと共に、演奏全体のリズム&ビートを変幻自在に供給する。

ゲストの存在も良いアクセントになっている。現代のレジェンド級のバップ・トランペッターであるトム・ハレル、革新的なギタリストの マイク・モレノ、上質パーカッションの ダニエル・サドーニック、そして、 グラミー級ボーカリストの グレゴリー・ポーター。これらのゲストが、要所要所で極上にパフォーマンスを提供していて、このエスコフェリーのリーダー作の内容を更に充実させている。

4ビートを含むコンテンポラリ系の演奏がメインの、充実した内容のネオ・ハードバップ盤。特に現代のモード、ネオ・モーダルな演奏が秀逸です。破綻の無い、力感溢れ、流麗でコンテンポラリーな内容の演奏は、聴いていてとても心地の良いもの。本盤も、Smoke Sessions Recordsからの好盤の一枚です。
 
 

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2024年8月 3日 (土曜日)

ファンズワースのスモーク第3弾

Smoke Sessions Records。1999年、ニューヨークのアッパーウエストにオープンしたジャズクラブ「Smoke」のオーナーが2014年に設立したジャズ専門レーベル。

そのジャズクラブ「Smoke」に出演している人気アーティスト、特に、実績のある中堅〜ベテランのジャズマンをリーダーにしたアルバムをメインにリリースしているのだが、その内容は「昔の名前で出ています」的な旧来のハードバップな演奏を懐メロ風にやるのでは無く、しっかりと現代の「ネオ・ハードバップ」や「コンテンポラリーなメインストリーム系ジャズ」な演奏に果敢に取り組んでいる。

そんなSmoke Sessions Recordsの実績のある中堅〜ベテランのジャズマンの中に「Joe Farnsworth(ジョー・ファンズワース)」がいる。ファンズワースは、1968年マサチューセッツ州生まれの、今年で56歳になる中堅ドラマー。テナー・サックスのエリック・アレクサンダーのサイドマンとしての実績が主で、あまり目立った存在では無かったが、Smoke Sessions Records専属になってから、充実のリーダー作をリリースする様になり、サイドマンとしても充実のサポートを提供している。

Joe Farnsworth『In What Direction Are You Headed?』(写真左)。2022年8月31日、NYの「Sear Sound Studio C」での録音。ちなみにパーソネルは、Immanuel Wilkins (as), Kurt Rosenwinkel (g), Julius Rodriguez (ac-p, el-p), Robert Hurst (b), Joe Farnsworth (ds)。Smoke Sessions Recordsから放つ約1年半ぶりのリーダー3作目。

現代ジャズ・ギターの雄、カート・ローゼンウィンケルと切れ味良いアルト・サックスのイマニュエル・ウィルキンスがフロントを張るクインテット編成。この編成の顔ぶれを見れば、単純に現代のネオ・ハードバップはやらないよな、と思って、ワクワクしながらのアルバム鑑賞である。
 

Joe-farnsworthin-what-direction-are-you-

 
冒頭の「Terra Nova」から、非4ビートの現代のコンテンポラリー・ジャズ志向、アメリカーナ系の牧歌的フォーキーでリリカルで流麗な演奏が繰り広げられる。新しい感覚と新しい響き。良い。ネイチャーな音風景が心地良い。

2曲目「Filters」では、ローゼンウィンケルのギターがバリバリ、高速モダールなフレーズを吹きまくり、ウィルキンスのアルト・サックスが相対する。素晴らしいアドリブ・フレーズのバトル。そこに、ロドリゲスのアコピが高速な弾き回しで応戦する。この2曲だけで、このアルバムは隅に置けない、素晴らしい内容のアルバムであることを確信する。

現代版の「70年代ジャズ・ロック」な小粋でグルーヴィーな演奏もあれば、硬派で正統派な現代のネオ・ハードバップな演奏もあり、ダンディズム溢れる硬派なエレ・ジャズもありと、バラエティー溢れる内容だが、どの演奏も「現代のコンテンポラリー・ジャズ志向」で統一されている。とっ散らかった感は全く感じられないのが素晴らしい。

そんな「現代のコンテンポラリー・ジャズ志向」をガッチリ保持し、バンド全体に波及させ、フロントを鼓舞しているのは、リーダーのファンズワースのドラミングである。ファンズワースのドラミングは、コンテンポラリー感が半端無く、今までに聴いたことのない、アグレッシヴでポリリズミック、変幻自在で硬軟自在なドラミングで、現代のコンテンポラリー感を増幅している。

決して古さを感じさせない、現代のネオ・ハードバップの最先端の音の一つを聴かせてくれる充実した内容は見事。ローゼンウィンケルのギターとウィルキンスのアルト・サックス、そして、リーダーのファンズワースのドラムが、とりわけ「新しい」。このクインテット、パーマネント化されるのだろうか。僕はパーマネント化を望みたい。そして、同一メンバー、同一志向での次作を早く聴きたい。
 
 

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2024年8月 2日 (金曜日)

レイ・ギャロンの個性的なピアノ

ジャズを長年聴いてきて、ある日突然、コロッと魅力的な内容の盤が出てきて、リーダーは誰かな、と思って見たら、今までに聴いたことが無い名前で、調べてみたら、長年、米国でジャズマンとしてプレイしてきた、意外と実績のあるジャズマンだったりして、改めて、ジャズの裾野の広さと深さに呆れたり、感心したりすることがある。

Ray Gallon, Ron Carter & Lewis Nash『Grand Company』(写真左)。2022年5月20日、Van Gelder Recording Studioでの録音。ちなみにパーソネルは、Ray Gallon (p), Ron Carter (b), Lewis Nash (ds)。リーダーは、ピアニストのレイ・ギャロン。 ギャロンは、30年以上にわたって活躍しているニューヨーク出身のピアニスト。この盤は、2021年の『Make Your Move』以来の2枚目のリーダー作。

レイ・ギャロンというピアニストの名前は、2021年の初リーダー作『Make Your Move』で初めて知った。資料によると、なんと30年以上にわたって活躍しているニューヨーク出身のピアニストとのことなんだが、ギャロンの経歴は不明なところが多く、1958年、NYで生まれた様で、それが正しいとすると、今年66歳になる、大ベテランの域に達したピアニスト、ということになる。

共演歴としては、ライオネル・ハンプトンやロン・カーター、グラディ・テイト、ジョージ・アダムス、ハーパー・ブラザーズなどとの共演歴があり、スタジオ・ミュージシャンとしても活躍してきた、とある。僕は全く知らなかった。ただ、この2枚目のリーダー作を聴くと、ギャロンのピアノは個性的で素性確かなもの、ということを十分に理解する。

この盤を聴くと、ギャロンのピアノはとても個性的。ビバップとブルースを基調としていることは明らか、スイング感はスクエア、どこか、セロニアス・モンクに通じる幾何学的なスクエアなスイング感も見え隠れする。
 

Ray-gallon-ron-carter-lewis-nashgrand-co

 
どう聴いても、オーソドックスなハードバップ志向のピアノでは無い。キレのある硬質なタッチ、鋭角的な音のエッジ、凹凸のある流麗さ、自然とモーダルに展開する柔軟性、パーカッシヴなブロックコード等々、かなりユニークなピアノが展開される。

エリントンの「Drop Me Off in Harlem」や、ビル・エヴァンスの「Nardis」、スタンダード曲「 If I Had You」「Old Folks」を聴けば、そんなギャロンのピアノのユニークさが良く判る。

オーソドックスな4ビート演奏ではあるが、速弾きすること無く、ミッド・テンポな丁寧な弾き回しで、ギャロンの個性的なピアノが鳴り響く。右手のシングルトーンでフレーズを唄い上げながら、絶妙に挿入される左手のブロックコードは小粋で絶妙な、ギャロン独特のグルーヴ感を醸し出している。

そんな個性的なピアノを弾き回すギャロンをサポートする、ロン・カーターのベースと、ルイス・ナッシュのドラムは見事。カーターに関しては近年のプレイと同様、ここでも音程のズレは無く、安定&安心のベースで、独特のグルーヴ感溢れるベースラインをブンブンはじき出す。ギャロンのピアノのフレーズの「底」をガッチリ押さえた、素晴らしい「脇役ベース」を聴かせてくれる。

ナッシュのドラミングは硬軟自在、変幻自在、緩急自在、多彩なドラミングのニュアンスを繰り出して、ギャロンの個性的なピアノのリズム&ビートをガッチリサポートしている。ナッシュの職人芸的ドラミングは素晴らしいパフォーマンスである。

最近の若手〜中堅ジャズマンが展開する「ネオ・ハードバップ」な4ビートなピアノとは明らかに一線を画したギャロンの個性的なピアノは、意外と聴き応えがある。ピアノ・トリオとしてのまとまりも良く、各人の個性もきちんと発揮されている、なかなかに充実した内容のピアノ・トリオ盤である。Takao Fujiokaのイラストをあしらったジャケも良い感じ。好盤です。
 
 

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2024年7月12日 (金曜日)

マイケルの新「オルガン・ジャズ」

マイケル・ブレッカーは早逝して、絶対、損をしたと思っている。生前は、特に我が国では「コルトレーンのフォロワー」のレッテルを貼られて、マイケルの個性をかなり誤解されていたきらいがある。21世紀に入って、ネット上での正しい情報に触れることのできる環境になって、マイケルのテナーな正当な評価を獲得したと思っている。

Michael Brecker『Time Is of the Essence』(写真左)。1999年の作品。ちなみにパーソネルは、Michael Brecker (ts), Larry Goldings (org), Pat Metheny (g), Elvin Jones (ds, tracks 1, 4, 9), Jeff "Tain" Watts (ds, tracks 2, 5, 7), Bill Stewart (ds, tracks 3, 6, 8)。

マイケルのテナー、ゴールディングスのオルガン、メセニーのギターまでが全曲で演奏、ドラムだけ、エルヴィンとワッツとスチュワートの3人で分担している。ベースはゴールディングスがオルガンで兼任している。

前作『Two Blocks from the Edge』で、コルトレーンが確立した、サックスがメインの「モーダルなメインストリーム志向の純ジャズ」を二段も三段も深化させた、1997年時点での新しい「モーダルなネオ・ハードバップ」を提示したマイケル。

次はどうするんだろう、と思っていたら、前々作『Tales From the Hudson』から、ギターのパット・メセニーが帰ってきて、コールディングスのオルガンが新規参入。

オルガン・ジャズの編成なので、ファンキー色の強いジャズ・ファンクな内容かと思いきや、コンテンポラリーなメインストリーム志向の純ジャズ路線は変わらず、オルガンとギターを入れたことによって、コンテンポラリー色とポップ度が増した、ネオ・ハードバップなオルガン・ジャズな内容になっている。4ビート・ジャズとは全く無縁のモーダルでコンテンポラリー志向のネオ・ハードバップが炸裂している。
 

Michael-breckertime-is-of-the-essence

 
メセニーのギターも、PMGでのフォーキーで浮遊感溢れる流麗なフレーズや、ソロでのオーネット・コールマン風のフリーなフレーズを封印し、マイケルの音楽性に合わせた弾き方になっていて、さすが。

ゴールディングスのオルガンも変にファンク色に偏らず、マイケルのテナーの音質に合わせた、軽快でポップで、そこはかとなくファンクネス漂う音色の「現代風」のオルガンになっているのも、さすが。

曲想によって、ドラマーを替えているところが、これまた成功している。エルヴィン、ワッツ、スチュワート、それぞれ、持ち味の異なるドラマーなのだが、曲想にあったドラミングを叩き出しているので、ドラマーが替わることによる違和感は全く無い。エルヴィンなど、野生味溢れ、思いのままに叩きまくる、従来のエルヴィンのドラミングを封印し、マイケルの音世界に合わせたドラミングを披露しているところなど、さすが。

コンテンポラリー色とポップ度が増した、ネオ・ハードバップなオルガン・ジャズを前提としたマイケルのテナーは、もはやマイケルの個性のみのテナーになっていて、この盤でのマイケルのテナーを聴いて、コルトレーンのコピー、何ていう評価をするのは、全くもって「的外れ」。マイケルのオリジナル度が増したテナーはこの盤での最大の「聴きどころ」。

演奏全体がオルガン・ジャズのアレンジになっていて、過去の「モーダルなメインストリーム志向の純ジャズ」の雰囲気に引きずられなくなったのが、この盤の良いところ。マイケルの音世界の個性が弾けた、マイケルの傑作だと思う。
 
 

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2024年7月11日 (木曜日)

マイケルの創る「モード・ジャズ」

さて、ブログを再開です。東四国を旅している間のジャズ盤は何故か「マイケル・ブレッカー(Michael Brecker)」。

Michael Brecker『Two Blocks from the Edge』(写真左)。1997年12月20–23日の録音。ちなみにパーソネルは、Michael Brecker (ts), Joey Calderazzo (ac-p), James Genus (b), Jeff 'Tain' Watts (ds)。マイケル・ブレッカーがフロント1管のワンホーン・カルテット。

もちろん主役はマイケル。しかし、バックのリズム隊には、当時、まだまだ若手駆け出しのジョーイ・カルデラッツォがピアノを担当、復活後のブレッカー・ブラザースでベースを担当したジェームス・ジーナス、そして、ドラムには実績十分、中堅のポリリズミック・ドラマーのジェフ・ティン・ワッツ。当時としては、「抜擢」レベルのリズム隊をバックにマイケルがテナーを吹きまくる。

前々作『Now You See It... (Now You Don't)』で、素敵な内容のコンテンポラリーな「マイケルの考えるエレ・ジャズ」を提示したマイケルだが、前作の『Tales From the Hudson』では、コンテンポラリーではあるが、メインストリームな純ジャズ路線に軌道修正、この『Two Blocks from the Edge』も、そんな「コンテンポラリーでメインストリームな純ジャズ路線」を踏襲している。

せっかく、前々作『Now You See It... (Now You Don't)』で、復帰後マイルスのエレ・ジャズのコンセプトをベースにした、マイケルならではのエレ・ジャズを世に問うたのに、前作の『Tales From the Hudson』ではメインストリームな純ジャズ路線へ軌道修正。これはあまりに面白くない展開なんだが、所属していたレコード会社が大手のVerveだったので、売れ筋の「メインストリームな純ジャズ路線」を余儀なくされたのかもしれない。
 

Michael-breckertwo-blocks-from-the-edge

 
マイケル・ブレッカーがフロント1管のワンホーン・カルテットなので、当時、我が国では「コルトレーンの二番煎じ」などと揶揄する向きもあったが、マイケルのテナー自体が既にコルトレーンの影響下から脱して、マイケルならではのテナーの個性を振り撒いているので、二番煎じなどと揶揄される謂れは無い。

カルデラッツォがピアノがマッコイ・タイナーそっくりだ、なんて揶揄されたこともあったが、今の耳で聴き直しても、どこがタイナーそっくりなのか判らない。確かに、タイナーやハンコックのモーダルなピアノの「いいとこ取り」している風に聴こえないことも無いが、そこは、要のタッチやフレーズについては、カルデラッツォならではの個性で弾きまくっているので問題ない。

ジェフ・ティン・ワッツのドラムだって、エルヴィンそっくりと言うジャズ者の方もいたが、ワッツのドラミングは、自由奔放の様でいて、意外と理知的で自己コントロールが行き届いている。野生味溢れ、思いのままに叩きまくるエルヴィンとはそこが違う。

以上の様な聴いた印象でまとめると、コルトレーンが確立した、サックスがメインの「モーダルなメインストリーム志向の純ジャズ」を二段も三段も深化させた、1997年時点での新しい「モーダルなネオ・ハードバップ」がこの盤で提示されている、と考えるのが妥当だろうと思う。

1960年代のモード・ジャズを焼き直してマイナー・チェンジを施した、懐古趣味的な新伝承派のアプローチとは全く異なる、マイケル率いるワンホーン・カルテットが提示してくれる「モーダルなメインストリーム志向の純ジャズ」の深化の音は、当時の新伝承派のモード・ジャズよりも、新鮮で思索に富んでいる。現代につながるネオ・ハードバップの良質な音がこの盤に詰まっている。
 
 

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2024年7月 6日 (土曜日)

1990年代のチックの純ジャズ

僕の永遠のお気に入りのピアニストの一人、チック・コリア。ラジオのFMから聴こえてきた「Now He Sings Now He Sobs」。なんだこれは、このピアノは何だ。これがチック・コリアのピアノとの出会いである。今を去ること半世紀前。

チックが2021年2月に急逝して早3年。この世にいなくなっても、チックの音は残っている。リーダー作の記事化のコンプリートを目指しているが、まだ10数枚が残っている。

今、1990年代以降のリーダー作の落穂拾いをしているが、この時代のチックのリーダー作は押し並べて、評論家筋からは評価が低い。しかし、何を基準にして評価が低いかがよく判らない。よって、自分の耳で聴いて、その真偽を明らかにしていきたい。

Chick Corea『TIme Warp』(写真左)。1995年8月のリリース。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p), John Patitucci (b), Gary Novak (ds), Bob Berg (sax)。マイケル・ブレッカーを迎えた1981年のスタジオ録音『Three Quartets』以来、14年ぶりのホーン入りカルテットの録音になる。

チックが考案した「Time Warp」というストーリーに基づくコンセプト・アルバム。1960年代末から1970年代半ばの「プログレッシヴ・ロックのアルバムによくあったもので、ジャズの世界では珍しい。が、意外とこれがよくまとまっているから、チックの作曲&アレンジ能力の高さに、毎度ながら驚く。

チックはアコースティック・ピアノのみでガンガン攻めている。ベースには、当時の盟友、ジョン・パティトゥッチ、ドラムには、セッション・ドラマーのゲイリー・ノヴァクが参加している。
 

Chick-coreatime-warp

 
ドラムがセッション・ドラマーなので、このチックのリズム・セクションってどうなのかなあ、と、聴く前に不安になったのだが、それは杞憂だった。十分にハイテクニックで流麗、バッチリ尖った硬質のリズム&ビートが良い。ノヴァクのドラミング、良い。

そして、そんなチックのリズム隊をバックに、ボブ・バーグがネオ・ハードバップなサックスを吹きまくる。もともと、新しい感覚のネオ・ハードバップな吹奏が個性のボブ・バーグだが、この盤では、その「新しい感覚」と、ネオ・モーダルな、新しいイメージのモーダルなアドリブ・フレーズをブイブイ言わせている。ボブ・バーグのベスト・プレイの一つがこの盤に記録されている、と言って良いかと思う。

このボブ・バーグの新しい感覚のサックス・プレイを引き出しているのが、チック率いるリズム・セクションであり、チックの繰り出す「鼓舞するフレーズ」の嵐である。

と言って、ガンガン、フロントを攻めるのではない、フロントの個性をより輝かせ、新しい個性を引き出す様な、新しい感覚のバッキング。チックの繰り出す創造的なフレーズが、フロントのボブ・バーグのサックスを良い方向に刺激している。

このコンセプト・アルバム、イラストのジャケットの印象が、クロスオーバー&フュージョン志向のジャズを想起させるので、確実に損をしているが、この盤に詰まっているのは、1990年代のネオ・ハードバップであり、ネオ・モードであり、バッキングに優れたチックのパフォーマンスであり、それに応えるボブ・バークのベスト・プレイ。

1990年代のチックのディスコグラフィーの中で、この盤だけが突出した「メインストリーム志向のコンテンポラリーな純ジャズ」。4ビートなノリは皆無だが、1990年代のチックの考えるネオ・ハードバップ盤として、十分、評価できる佳作だろう。
 
 

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