2021年1月14日 (木曜日)

聴き心地優先のスインギーな盤

1970年代〜1980年代前半に活動し、様々な成果を挙げた和ジャズの老舗レーベル、トリオ・レコード。時代の最先端のメインストリーム・ジャズをベースに、日本人ジャズマンのリーダー作や、米国ジャズの玄人好みのジャズマンのリーダー作を多数リリースして、硬派な和製ジャズ・レーベルとして一世を風靡した。が、そんな尖った硬派な盤の中に、ジャズを音楽として、楽しんで聴くのに相応しい、聴き心地優先のスインギーな盤も存在した。この辺りが、トリオ・レコードの懐の深いところだと感心している。

増田一郎クインテット『頬に頬よせて 〜アービング・バーリン・ソング・ブック』(写真左)。1978年の作品。トリオ・レコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、増田一郎 (vib), 潮先郁男 (g), 根本慶子 (p), 小林陽一 (b), 猪俣猛 (ds)。リーダーの増田一郎は、日本ジャズにおけるヴァイブの名手。また敏腕プロデューサーとしても活躍した。

アーヴィング・バーリン(1888年5月11日~1989年9月22日)は、帝政ロシア(現・ベラルーシ)生まれのアメリカの作曲家。「ホワイト・クリスマス」に代表される、G.ガーシュインをして「アメリカのシューベルト」と言わしめた美しいメロディを持った楽曲が印象的。この盤は、そんなアーヴィング・バーリンの楽曲を取り上げた、ユニークな企画盤になる。
 
 
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ヴァイブの名手、増田一郎によるアメリカン・ソングブック三部作の1枚。まず、この「アーヴィング・バーリン」に着目したところに、リーダー増田のセンスの良さを感じる。バーリンの楽曲はいかにも米国ポップスらしい、美しくシンプルなメロディーがてんこ盛りで、実に判りやすい。このシンプルで判り易い楽曲って、意外とジャズにアレンジし難いものだ。

が、どの曲もアレンジがとても行き届いているように感じた。演奏の基本は、ハードバップの手前の「スウィング」と言って良いかと思う。左右にユッタリと揺れるスインギーな4ビートに乗った、ほどよくアレンジされたバーリンの楽曲の数々。ハードバップ以降のスリリングでテクニカルな側面は無いが、聴いてほのぼのする、聴いてしみじみする様なモダン・ジャズの響きが心地良い。

アーヴィング・バーリンの楽曲の持つ美しいメロディーは、耽美的なヴァイブの音に実に映える。潮先郁男のギターと根本慶子のピアノが美しいフレーズでバッキングしていく。ジャズ史に残る様なアーティスティックな無い様では無いが、ジャズを音楽として、楽しんで聴くのに相応しい好盤だと思う。時には、こういう聴き心地の良いモダン・ジャズがあっても良い。
 
 
 

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2021年1月 6日 (水曜日)

トロンボーンの和ジャズ好盤

今年は「和ジャズ」をしっかり聴き直そうか、と思っている。この2〜3年で、優れたジャズ盤を供給していた和ジャズのジャズ・レーベルの再発も進んで、聴き直す環境がほぼ整ったように感じている。例えば「トリオ・レコード」「TBMレーベル」「EWレーベル」などがそれに当たるかと思う。

福村 博『Live -First Flight-』(写真左)。1973年8月27日、日本都市センター・ホールでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、福村博, 向井滋春 (tb), 田村博 (p), 岡田勉 (b), 守新治 (ds)。トロンボーン2本がフロントの変則クインテット編成。こういう変則な編成は、意外と「和ジャズ」の得意とするところ。

千代田区平河町にあった、懐かしの「都市センターホール」でのライヴ録音。時は1973年、クロスオーバー・ジャズが台頭してきてはいたが、我が国ではまだまだ先進的なメインストリーム・ジャズがメイン。そんな環境の中、なかなか先進的でチャレンジブルな変則クインテットの演奏である。フロント管がトロンボーン2本。速いフレーズなど、大丈夫なのかと心配になる。
 
 
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が、このライヴ盤を聴けば、それが杞憂なのが良く判る。福村と向井のトロンボーンはテクニック優秀。速いフレーズも難なくこなしつつ、ゆっくりめの演奏も、伸びの良いトロンボーンの音が心地良く響く。適度に緊張感を保った、リラックス出来る吹奏は見事。そして、アレンジも行き届いていて、トロンボーン2本のユニゾン&ハーモニーが、ブルージーでファンキーでとても良い。

冒頭「Waltz for M」はゆったりとしたテンポの、トロンボーンならではの暖かな演奏。続く「Nancy」は印象的なバラード演奏。続く3曲目は「The Shadow of Your Smile(いそしぎ)」。しっとりとしたテーマから、ちょっとアブストラクトにエモーショナルに展開するトロンボーンは実にアーティスティック。そして、ラストの「Mother Some Place」は、ブラジリアン・フレーヴァーが横溢する活力あるブロウ。

バックを務める「田村-岡田-守」のリズム・セクションも目立たないが、味のある、かなり絶妙なサポートを供給している。トロンボーンの絶妙のアンサンブルとソロ・パフォーマンスがとにかく見事。トロンボーンで、これだけ躍動感溢れる活力あるパフォーマンスが展開されるなんて、このライヴ盤を初めて聴いた時「唖然とした」。ジャズ・トロンボーンの好盤です。
 
 
 

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2015年3月 3日 (火曜日)

日本男子もここまで弾く・1

日本ジャズ界の若手は女性上位である。というか、若手については、女性ジャズ・ミュージシャンがほとんどである。男性ジャズ・ミュージシャンは何をしているんや、と思って探してみても、右手に一杯くらいしかいない。おいおい、どうなってんの、と思ってしまう。まあ、ジャズの世界に男女の差は無いので憂慮すべきことではないのだが、なんだかバランスが悪い。 

おかしいなあ。時代が時代だったせいもあるが、1960年代から1970年代については、ジャズ・ミュージシャンと言えば男性がほとんど。日本女子のジャズ・ミュージシャンと言えば「穐吉敏子」くらいだった。ジャズ以外の音楽ジャンルでは、既に女性が結構な数が活躍していた訳で、ジャズ、と言えば男子上位の世界だった。

日本ジャズ界において、最近ではめっきり減ったというか、絶滅危惧種に選定されても良い「若手男性ジャズ・ピアニスト」。1960年代から1970年代にかけては、有望若手な「男性ジャズ・ピアニスト」がごちゃまんといた。ということで、「日本男子もここまで弾く」というテーマで、日本男子ジャズ・ピアニストの好盤を幾枚か、暫く定期的にご紹介したいと思う。

と言うことで、第一弾は、本田竹曠の『THIS IS HONDA』(写真左)。1972年4月、東京イイノ・ホールでのレコーディング・セッションを記録した好盤。ちなみにパーソネルは、本田竹曠 (p), 鈴木良雄 (b), 渡辺文男 (ds)。伝説の「トリオ・レコード」からのリリース。プロデュースは、これまた伝説の「菅野沖彦」。

ジャケットからして、良い意味で日本のジャズ離れしている。実に迫力あるモノクロのジャケットは、その盤に詰まった音を想起させてくれる。この盤には、きっと硬派で痺れるようなメインストリーム・ジャズが詰まっている。
 
 
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冒頭の「You Don't Know What Love Is」から、その期待にばっちりと応えてくれる。端正で正確でドライブ感溢れる、タッチも硬質で切れ味の良い本田竹曠のピアノに、グッと心を掴まれる。鈴木良雄のベースがブンブンと唸りを上げる。渡辺文男のドラムは、本多のピアノを鼓舞し続ける。むっちゃ硬質でダイナミックなバラードだ。

2曲目の「Bye Bye Blackbird」は、ちょっと軽やかな演奏にホッとする。軽やかで明るいテンポの「Bye Bye Blackbird」はとても魅力的だ。それでも、鈴木良雄のベースはブンブン唸りを上げ続け、渡辺文男のドラムは、よりダイナミックなドラミングを展開する。軽やかな演奏の中に、しっかと硬派で粋なメインストリーム・ジャズが居座っている。

3曲目の「Round About Midnight」はピアノ・ソロ。適度なテンションの中、むっちゃ硬質でダイナミックなソロ・ピアノが展開される。この曲はセロニアス・モンク作曲の名曲ではあるが、確か「難曲」であったような記憶がある。そんな「難曲」を端正かつ正確、ドライブ感溢れ、硬質で切れ味の良いタッチで、ドラマチックに弾き進めていく。迫力満点な「Round About Midnight」。

4曲目の「Softly As In A Morning Sunrise」以降、ピアノ・トリオに戻り、よりダイナミックな演奏になっていく。曲が進むにつれて、より高みに、よりダイナミックな展開にどんどん昇華していって、ラストの「Secret Love」など、もはや大団円な展開。

いや〜、日本男子もここまで、ジャズ・ピアノを弾くんやね。素晴らしいピアノ・トリオである。収録時間が38分50秒と、ちょっと短いが、LP時代、通常の盤質のLPで高い音質を供給するには、これくらいの収録時間がベストだった。確かにこの盤は音が良い。スイングジャーナル誌ジャズディスク大賞の最優秀録音賞を受けたというのも頷ける。
 
 
 
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