2021年1月 5日 (火曜日)

敏子=タバキンBB『インサイツ』

今日も、秋吉敏子=ルー・タバキン ビッグバンド(Toshiko Akiyoshi-Lew Tabackin Big Band、1973年-1982年)の話題を。

デビュー盤『孤軍』については、よく聴いた。ジャズについては、まだ本格的に聴いていない時期だったが(プログレ小僧でした・笑)、何故かNHK-FMでよくかかっていて、これ幸いとエアチェックして繰り返し聴いていた。恐らく、これが僕の「ビッグバンドをしっかり聴いた」初めての機会だと思う。完璧に統制のとれた、一糸乱れぬアンサンブルが凄く印象に残った。

そして、そのビッグバンドの存在を全く忘れた頃に「第5弾」が届く。これも、NHK-FMでかかっていたのを偶然聴いたのが切っ掛け。

Toshiko Akiyoshi - Lew Tabackin Big Band『Insights(インサイツ)』(写真)。1976年6月22-24日 ハリウッド、RCAスタジオ"A"での録音。敏子=タバキンBBの5th.盤になる。この盤も何故か、NHK-FMでよくかかったので、エアチェックして結構聴いた思い出がある。

この盤については、前作よりもソロイストの演奏パートが拡大されて、ソロイストのパフォーマンスがフィーチャーされている。デビュー盤『孤軍』は「アンサンブル」が印象に残ったが、今回は「ソロ・パフォーマンス」が印象に残る。そういう意味では、従来のビッグバンドらしさが備わって、よりスタンダードとなり得るビッグバンドに進化したと見て良いかと思う。
 
 
Insights  
 
 
さて、この盤でも、賛否両論だった「日本人のアイデンティティ」がしっかり反映されている。LP時代、B面全てを費やした、21分を超える大作「Minamata(ミナマタ・水俣)」がそれに当たる。「公害」という社会問題を題材にした曲。その中で、日本的な童謡が差し込まれ、「能」の調べ、日本の舞踏民謡に似たフレーズが引用される。

これを是とするか否とするか。この盤の「日本人のアイデンティティ」については、この盤を問題作と捉え、議論の的になっていた。俗っぽく、明らかに米国での「ウケ狙い」と聴くか、純粋に「融合」が個性のジャズの一フレーズと聴くか。ジャズに、日本の童謡、能の調べ、舞踏民謡のフレーズを織り込むことに意味があるのか、無いのか。永遠の課題だろう。

ルー・タバキンのテナー・サックスとフルートが大活躍。先鋭的でバイタルなテナー・サックスは、2曲目の「Transience」でふんだんに聴くことが出来る。エモーショナルで伝統的、重心が低くダイナミックなテナー・サックスは素敵だ。

フルートは、次の3曲目「Sumie(墨絵)」で聴ける。ちょっとだけ「尺八」に似た音色のフルートが実に印象的。フレーズの「拡がり」と「間」で、タイトルの「墨絵」を表現しているイメージ。

賛否両論だった「日本人のアイデンティティ」を差し引いても、この盤もビッグバンドのアルバムとしては上質なもの。敏子=タバキンBBの個性が明確に反映された盤として、大いに評価されて然るべき好盤である。
 
 
 

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2021年1月 4日 (月曜日)

敏子=タバキンBBのデビュー盤

ジャズ盤をコレクションし、聴き進めて行く上で、ビッグバンドは結構、後回しになった。深い理由は無い。パッと思いついたバンド名が、デューク・エリントン楽団とカウント・ベイシー楽団の2つ。どちらもスイング時代から第一線で活躍する老舗ビッグバンドで、聴き進める上でなんだか敷居が高く感じて、ずっと敬遠した。後回しのそれが真相だろう。

それでも、ジャズを聴き始めた頃、結構、お気に入りになって聴き進めたビッグバンドがある。秋吉敏子=ルー・タバキン ビッグバンド(Toshiko Akiyoshi-Lew Tabackin Big Band、1973年 - 1982年)である。1973年、穐吉敏子(秋吉敏子)と夫ルー・タバキンによって、ロサンゼルスで結成されたビッグバンドである。

当時、日本人がリーダーのビッグバンドなんて、米国で認められる訳が無いと思っていた。ジャズは米国のものであり、とりわけビッグバンドは米国のもので他国のものは認めない。1970年代に入ってもそんな風潮が強かった。秋吉敏子=ルー・タバキンビッグバンドとて、例外では無かった。一部の評論家からは「ケチョンケチョン」で、心ない評論が後を絶たなかったことを覚えている。

Toshiko Akiyoshi-Lew Tabackin Big Band『Kogun(孤軍)』(写真)。1974年4月、ハリウッド、セイジ&サンド・スタジオでの録音。秋吉敏子=ルー・タバキン ビッグバンドのデビュー盤。この盤で、このビッグバンドを知った。当時、プロモーションも兼ねてだろう、NHK-FMで良く流れていた。

冒頭の「Elegy」を聴けば、このビッグバンドのコンセプトが良く判る。冒頭、秋吉敏子のビ・バップ・マナーのピアノが鳴る。そして、その後、完璧に統制のとれた、一糸乱れぬアンサンブルが疾走する。ファンクネスは控えめ、切れ味の良いビ・バップを聴く様な、疾走感溢れるビッグバンドのアンサンブル。ビ・バップの音の個性をビッグバンドに置き換えた様な演奏。
 
 
Kogun  
 
 
演奏の特徴のもう1つは「間」を活かした演奏である、ということ。「間」と「空間」を活かした演奏が、このビッグバンドのもう1つの個性。ハイ・テクニックなビッグバンドが故に出来る、ピタッとカミソリで切ったような音の「間」。そして、無を想起する「空間」。この特徴は、米国のビッグバンドには聴かれなかったもので、今でも耳に新しい響きを感じる。

そして、当時、賛否両論だった「日本人のアイデンティティ」。タイトル曲「Kogun(孤軍)」の冒頭に出てくる、「ヨ~、ポンッ」といった「能」の調べの引用。ラストの「Henpecked Old Man」に出てくる、例えば「八木節」の様な、日本の舞踏民謡に似たフレーズの引用。これを「どう聴くか」によって、この盤の評価は分かれていた様な思い出がある。俗っぽく、明らかに米国での「ウケ狙い」と聴くか、純粋に「融合」が個性のジャズの一フレーズと聴くか。

資料には「タイトル曲の「孤軍」は当時ルバング島で発見された小野田少尉をモチーフとしたもので、日本人である自分がアメリカという異国でジャズを創作して演奏するという苦闘をそこに重ねている」とある。そんな完全アウェー、「孤独」な環境の中で、自らの実力を認めさせるには、「日本人のアイデンティティ」の引用が必要だったのかも知れない。

そんな「日本人のアイデンティティ」の引用を全て差し引いても、このビッグバンドの音は素晴らしい。完璧に統制のとれた一糸乱れぬアンサンブルと、完全にコンロールされた途方も無いドライブ感、そして、疾走感。このビッグバンドには、他のビッグバンドに無い、特別な個性が溢れている。
 
 
 

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