2022年2月23日 (水曜日)

TRIXの「アニソン」カヴァー盤

以前から思うんだが、1970年代以降のポップス曲などで、ジャズの新しいスタンダード曲になるものが、なかなか出てこない。ジャズやフュージョンでカヴァーはされるんだが、アレンジがチープで、それ軽音楽やん、ってツッコミたくなるような、平凡な演奏が多くて、そのまま21世紀に突入してはや20年。

AABAの形式ソングが、ジャズ・スタンダードになり易いかと思うんだが、確かに、1970年代以降のJポップの曲は、ちょっと複雑な形式の曲が多くて、ジャズ・スタンダードになりにくい。加えて、一番の問題はアレンジだと思う。カヴァー元の原曲の著名なメロディーにこだわるあまり、1曲まるまる、フロンド楽器にそのメロディーを忠実に演奏させてしまうので、全く以て「軽音楽」な演奏になって、おおよそ、ジャズやフュージョンにはならないことが多かった。

TRIX『CoverX』(写真左)。ちなみにパーソネルは、熊谷徳明 (ds), 須藤満 (b), 佐々木秀尚 (g) に、スペシャルサポートとして、宇都圭輝 (key) が加わる4人編成。結成以来、オリジナル曲をメインに演奏してきたTRIXの初のオール・カヴァー・アルバムになる。しかも、なんと「アニソン」をカヴァーしているのだ。その収録曲は以下の通り。

01. ルパン三世のテーマ‘78 (TVアニメ「ルパン三世」オープニング・テーマ)
02. 廻廻奇譚(TVアニメ「呪術廻戦」第1クールOPテーマ)
03. 残酷な天使のテーゼ(TVアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」OPテーマ)
04. となりのトトロ(映画「となりのトトロ」エンディング・テーマ)
05. はじめてのチュウ(TVアニメ「キテレツ大百科」主題歌)
06. ウィーアー!(TVアニメ「ワンピース」OPテーマ)
07. Cagayake! GIRLS(TVアニメ「けいおん!」OPテーマ)
08. 摩訶不思議アドベンチャー!(TVアニメ「ドラゴンボール」OPテーマ)
09. CHA-LA HEAD-CHA-LA(TVアニメ「ドラゴンボールZ」OPテーマ)
10. ようこそジャパリパークへ(TVアニメ「けものフレンズ」OPテーマ)
 

Coverx-trix

 
いやはや、選曲自体が実に良い。しかも、アレンジが抜群に良い。ちゃんとジャズしている。テーマが来て、テーマのコード進行に則った、楽器毎のアドリブ展開が来て、再びテーマが来て終わる。そんなジャズとして、基本的な演奏展開がしっかりとアレンジされている。つまり、アニソンをカヴァーしているのだが、フュージョン・ジャズの演奏として聴いていても、違和感が全く無い。

そんな優れたアレンジを基に、テクニック抜群のTRIXのメンバーが演奏しまくるのだから、どの曲も聴いていて爽快感抜群。カヴァー元の原曲の著名なメロディーを弾くにしても、一捻りも二捻りした魅惑のフレーズを捻りだし、元曲のメロディーに新しい彩りを添えているところがニクい。盤全体を聴き終えて「スカッ」とする。Jポップ曲のフュージョン系のカヴァーは、軽音楽風になってしまって「あ〜あ」と残念に思う演奏が多かったのだが、今回のこのTRIXのアニソン・カヴァーは違う。

ジャズ&フュージョンの新たなスタンダード曲化の切り口に「アニソン」がある、というのは「目から鱗」であった。確かにイケそう。メロディーもいろいろアレンジ出来そうだし、可能性はまだまだある。とにかく、この企画盤は面白い。この盤を聴いて「元歌へのリスペクトが感じられない」というのなら、元歌だけを聴いておけばよろしい、かと思う。
 
 
 
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2020年8月28日 (金曜日)

ナチュラルなエレ・フュージョン

TRIX(トリックス)は、熊谷徳明(元CASIOPEA)、須藤満(元T-SQUARE)、AYAKI、佐々木秀尚からなるフュージョン・ジャズバンド。2004年にバンド名をTRIXに固定しアルバムをリリースするなど定期的な活動を開始。バンド名「TRIX」の由来については、楽曲にコミカルな要素があったり、ライヴに仕掛け的要素が多い面を強調して、英単語の「TRICK」をもじって「TRIX」と名付けらしい。

TRIX『PRESENT』(写真左)。今月リリースされたてのホヤホヤ。改めてメンバーは、 熊谷徳明 (ds), 須藤満 (b), AYAKI (key), 佐々木秀尚 (g)。この盤の内容は一言で言うと、テクニック優秀、パワー全開のエレ・フュージョンである。今回の『PRESENT』は、2004年発表のファースト作『INDEX』以来、17年連続リリースとなる最新アルバムになる。
 
熊谷徳明が元CASIOPEA、須藤満が元T-SQUARE。このバンドを語る上で、絶対に出てくるフレーズが「我が国のフュージョン・シーンの2トップ、カシオペアとTスクエア両方の DNA を受け継いで、その王道をひた走るフュージョン・バンド」。確かに、音作りは、日本のエレ・フュージョンの2トップの音作りを踏襲している、というか、メンバー編成はほぼ同じなので、エレ・フュージョンをやったら、その音は自ずと似てきてしまう。
 
 
Present-trix  
 
 
リーダーの熊谷がこのバンドを「ハイパーテクニカル・コミック・フュージョン・サービス団体」と称しているが、納得の内容である。エレ・フュージョンな音世界だが、CASIOPEAやT-SQUAREに比べて、あっけらかんとしていて明るいサウンドである。特にこの新盤については、シンプルでスッキリとしたナチュラルな音作りになっている。

もともとこのバンド、テクニックは素晴らしいのだが、そのハイ・テクニックを前面には押し出していない。あくまで、メロディーとアドリブの「流れと展開」重視の演奏内容が好ましい。演奏の「圧」は強力で、どの曲もポジティヴなフレーズでグイグイ押してくる。が、切れ味良く、フレーズがメロディアスなので、耳が疲れることは無い。聴いていて、何だか心が明るくなる様な、良心的な「圧」が、このバンドの個性かな。

CASIOPEAでもなければ、T-SQUAREでもない。我が国のエレ・フュージョン・バンドの3つ目の個性「TRIX」。コロナウィルスの件で、まだまだ大変な状況は続いているが、そんな環境下で、今回の新盤は、コミカルな要素を極力控えた、ストレートでナチュラルなエレ・フュージョンな音が爽快である。暫くヘビロテ盤の予感。好盤です。
 
 
 




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