2024年11月 8日 (金曜日)

プログレとクロスオーバーの融合

聴くたびに思うんだが、英国では、プログレッシヴ・ロック(プログレ)とクロスオーバー・ジャズの境目が実に曖昧である。プログレも変則拍子や即興演奏はお手のもので、プログレの有名ミュージシャンが、結構、内容のあるクロスオーバー・ジャズのバンドのリーダーをやったり、演奏をやったり。当時、プログレのミュージシャンのテクニックは優秀で、クロスオーバー・ジャズでも、全く問題なく対応できた。

Bill Bruford『One Of A Kind』(写真左)。1979年1-2月の録音。EGレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Bill Bruford (ds, perc), Allan Holdsworth (g), Dave Stewart (key, syn), Jeff Berlin (b)。プログレの有名バンド、イエス、キング・クリムゾンのドラマーを務めた、ビル・ブルーフォードのリーダー作。

Bill Bruford(ビル・ブルーフォード)。僕たちがイエスやキング・クリムゾンなどの有名プログレ・バンドをリアルタイムで聴いていた頃は「ビル・ブラッフォード」というカナ読みだった。しかし、2012年に発行された自伝「Bill Bruford The Autobiography」の日本語版で、「ブルーフォード」の表記が採用されたことで、以降「ブルーフォード」が正式カナ読みとなった。実際の発音も同じ響きだそうだ。
 

Bill-brufordone-of-a-kind

 
閑話休題。このアルバムは、クロスオーバー&フュージョン・ジャズ。決して、プログレではない。リズム&ビートが明らかにジャジーで、オフビートが強調されている。ホールズワースのギターは、エレもアコも超絶技巧フュージョンの流れを汲むものだし、ジェフ・ベルリンのベースのビートはジャズ。しかし、スチュワートのキーボード、特にシンセサイザーの使い方は、どこかプログレしていて、この盤は、一言で言うと「プログレとクロスオーバーの融合」なアルバムと形容することが出来る。

全編に渡って、ブルーフォードのドラミングが効いている。お得意の変則拍子ドラミング、ポリリズミックなドラミングが炸裂する。ブルーフォードのドラミングは重心が低く重厚。決して高速なドラミングではないが、芯の入った重心の低い、密度の濃いドラミングで、演奏全体のボトムが堅牢で、演奏全体がとても分厚く感じる。そこに切れ味良い、疾走感溢れるホールズワースのエレギが乱舞し、スチュワートのシンセが、キーボードが練り歩く。

プログレの要素を色濃く湛えた、ジャズロックというよりは「プログレとクロスオーバーの融合」によるクロスオーバー&フュージョン。ジャズロックとするほど単純ではない、意外と自由奔放で複雑な音作り。このバンドの音世界は、英国の音楽シーンだからこそ成し得た、プログレ)とクロスオーバー・ジャズの境目が曖昧だからこそ成し得た、独特の個性的な融合サウンドである。一聴の価値はある。
 
 

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2024年8月23日 (金曜日)

ステーシーの酷暑の夏向き好盤

酷暑の8月。毎日の様に「熱中症警戒アラート」時々「熱中症特別警戒アラート」が出まくり、それも朝からのアラート発報なので、朝から終日「命を守るための引き篭もり」をせざるを得ない日々が続く。

エアコンをつけた部屋で、ブログを更新したり、天体写真の画像処理をしたり、録画を見たり、本を読んだりしているのだが、バックに流れる音楽は、やはり「ジャズ」。エアコンをつけていても、なんとなく、外からの熱気は感じるので、爽やかなイメージの「ボサノバ&サンバ・ジャズ」や「女性ボーカル」、「フュージョン・インスト」のアルバムを選ぶことが多い。

Stacey Kent『Summer Me, Winter Me』(写真左)。2019年5月6日(英国)、8月2日(NY)、12月12日(NY)の3セッションからの収録。ちなみにパーソネルは、Stacey Kent (vo), Jim Tomlinson (ts, fl, cl, g, perc, key), Art Hirahara,Graham Harvey (p), Tom Hubbard,Jeremy Brown (b), Anthony Pinciotti, Joshua Morrison (ds) に「弦楽四重奏」がバックに入っている。

米国出身、英国在住の「現代ジャズの歌姫」ステイシー・ケントの、コンサートで唄った「どのアルバムにも収録されていない曲」をピックアップして収録した企画盤。「その曲はどのアルバムに載っていますか?」という、コンサートの後に、よく訊かれる質問がきっかけとなって企画されたアルバムとのこと。なるほど、ファンからの「リクエスト」に応えた、ファン・サービス的な企画盤なのね。
 

Stacey-kentsummer-me-winter-me

 
選曲傾向がちょっとバラバラやなあ、と感じた理由は良く判った。それでも、ステイシー・ケントのキュートで少しコケティッシュなボーカルと、夫君のジム・トムリンソンのテナーに、音志向に一貫性があって、アルバムとしての統一感はしっかり担保されているところはさすが。

確かに、コンサートで聴いて、あの曲って、どのアルバムに入っていたのか、「もう一度聴きたい」と思わせる様な、曲が、ステイシー・ケントの歌唱が選曲されている。

ミッシェル・ルグランが作曲した映画 「 おもいでの夏 」 のテーマ曲 「Summer Song」 に、アラン&マリリン・バーグマン夫妻が後付けの歌詞を書いた、タイトル曲「Summer Me, Winter Me」、トム・ジョビンのボサノバ名曲 「Corcovado」 、映画「マイ・フェア・レディー」の印象的な挿入歌「Show Me」をはじめとして、全11曲、良い曲ばかりがズラリと並ぶ。

ジャズ界のおしどり夫婦、ステーシー・ケントとジム・トムリンソンの好盤。特にステーシー・ケントのキュートでチャーミングで、少しコケティッシュなボーカルがとても印象的。トムリンソンのテナーも伴奏上手。酷暑の夏に清涼感を呼び込む、好ボーカル盤です。
 
 

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2024年7月27日 (土曜日)

マクラフリンの初期の名盤です

ジャズ・エレギのイノベーター&レジェンドの一人、ジョン・マクラフリン。彼は、ギタリストのキャリアの中で、何度か、そのスタイルを大きく変えている。いわゆる「進化」するタイプのギタリストで、その「進化」の跡は、後継に対して、一つの「スタイル」として定着している。

John McLaughlin『My Goal's Beyond』(写真)。March 1971年3月、NYでの録音。John McLaughlin (ac-g), Charlie Haden (b), Jerry Goodman (vln), Mahalakshmi (tanpura), Dave Liebman (fl, ss), Billy Cobham (ds), Airto Moreira (perc), Badal Roy (tabla)。

マクラフリンのソロ3作目。全編アコースティック・ ギターによる演奏がメイン。アルバム構成としては、LP時代のA面は、インド音楽への傾倒を露わにした、マクラフリンの新しいスタイルの演奏。マクラフリンの精神的指導者であるインドの導師、 シュリ・チンモイに捧げられている。B面は、マニアックなミュージシャンズ・チューンや自作曲を演奏している。

まず、当時のマクラフリンの最初の「進化」である、インド音楽への傾倒。とはいえ、完全にインド音楽している訳では無くて、インド音楽とジャズロックの「クロスオーバー」な演奏と形容するのがしっくりくる。ただ、ジャズロックがメインの演奏に、インド音楽のフレーズとビートが濃厚に漂い、インド音楽とジャズロックの融合は「成功」している。

ジェリー・グッドマンのバイオリン、デイヴ・リーブマンのフルート&ソプラノ・サックスが効果的に、深淵で幽玄なスピリチュアルな響きを撒き散らし、バダル・ロイのタブラがインド音楽志向のリズム&ビートを一手に引き受ける。ヘイデンのベース、コブハムのドラム、モレイラのパーカッションが、ジャズロックなリズム&ビートをしっかりとキープする。
 

John-mclaughlinmy-goals-beyond

 
そんなインド音楽とジャズロックの「クロスオーバー」な演奏をバックに、マクラフリンのアコギがスピリチュアルに飛翔する。インド音楽のストレンジな響きに流されない、切れ味の良い、スピリチュアルなマクラフリンのアコギの響き。このマクラフリンのアコギがこのインド音楽の雰囲気濃厚な演奏をジャズロックに仕立て上げている。

LP時代のB面の演奏も実に興味深い。最初の1曲目「Goodbye Pork Pie Hat」は、英国ロックのオールド・ファンは懐かしさに駆られると思う。あのジェフ・ベックの名演の基になったであろう、このマクラフリンのアコギのパソーマンス。アレンジが後のジェフ・ベックの演奏とほとんど同じ。アコギでの切れ味良いスピリチュアルな弾き回しは、明らかにジェフ・ベックのエレギの演奏を上回る。

LP時代のB面は、2〜3分の小品ばかりだが、マクラフリンのアコギのパフォーマンスは申し分ない。このB面のアコギのパフォーマンスの優れた内容がマクラフリンの基本的個性であり、マクラフリンがジャズロック&クロスオーバー・ジャズのギター・レジェンドである所以だろう。ところどころ、コブハムによる様々なシンバルのアクセントが効果的に加わるところもなかなか「ニクい」アレンジである。

このアルバムでのジャズロック&クロスオーバー・ジャズでの「バイオリン」の導入は、英国のプログレッシヴ・ロックにも影響を与えた様で、ロバート・フリップ率いる、第3期キング・クリムゾンのバイオリンの導入にも繋がっている、と言われる。それも納得の「効果的なヴァイオリンの導入」も見事。

マクラフリンのエフェクトを駆使したエレギよりも、この盤でのアコギのパフォーマンスに、とことん感じ入ります。インド音楽への傾倒も興味深い内容ですが、僕は、この盤でのマクラフリンのアコギのパフォーマンスに、ギター・レジェンドとしての「凄み」をビンビンに感じます。
 
 

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2024年7月26日 (金曜日)

サイケデリックなジャズ・ロック

ジョン・マクラフリンのエレギは、ジャズに軸足をしっかり残した、先鋭的で革新的なエレギで唯一無二。ジャズ色の強いクロスオーバーなエレギなので、何故か我が国では人気は高くないが、ジャズ・エレギのイノベーターの一人として、絶対に無視できない。

John McLaughlin『Devotion』(写真左)。1970年2月の録音。ちなみにパーソネルは、John McLaughlin (el-g), Larry Young (org, el-p), Billy Rich (b), Buddy Miles (ds, perc)。ジョン・マクラフリンのソロ・リーダー作の2作目になる。

パーソネルを見渡すと、お気に入りのプログレッシヴなオルガン奏者、ラリー・ヤング。そして、ジミ・ヘンドリックスと共演歴のあるビリー・リッチ。ジミ・ヘンドリックスのバンド・オブ・ジプシーのドラマーであった、バディ・マイルス。ジミヘンゆかりのリズム隊が目を引く。

そして、この盤を聴くと、思わずニヤリ。これって「ジミヘン」やん。マクラフリン流のジミヘン・フレーズの嵐。演奏の基本は「サイケディック・ロック」をベースとしたクロスオーバー・ジャズ。

ジミヘンと共演歴のあるベースとドラムのリズム隊が「バンド・オブ・ジプシー」風のリズム&ビートを叩きまくって、演奏全体のサイケ色、ジミヘン色を色濃くしている。
 

John-mclaughlindevotion

 
1970年2月の録音なので、まだ、ジミヘンは存命していた時期の録音になる(ジミヘンは1970年9月にオーヴァードーズが原因で急逝している)。そういう意味では、この盤は、マクラフリンによる「ジミヘンへのオマージュ」を表明した企画盤とも解釈出来る。

さすがはマクラフリンといったエレギの弾き回しで、ジミヘンのオマージュ的な音作りではあるが、ジミヘンそっくりでは全く無い。ギターの基本テクニックはマクラフリンの方が上。

ロック的なグルーヴはジミヘンだが、マクラフリンはジャズロック的なグルーヴで応戦している。マクラフリンの弾き回しは端正で規律的。ジミヘンの弾き回しは適度にラフで直感的。アタッチメントによる音の加工も、両者、似て非なるもの。

マクラフリンのエレギとヤングのオルガンのフレーズは完全に「モード」。サイケ色に彩られたモーダルなフレーズをマクラフリンとヤングは弾きまくる。マイルスのアルバムやトニー・ウィリアムスのライフタイムでブイブイ言わせていた「呪術的でアブストラクトに捻れた」切れ味の良い、サイケデリックなフレーズの嵐。

適度なテンションも張っていて、サイケ色が強いながら、演奏全体は整っていて、理路整然としている。カッチリまとまった、しっかり作り込まれたサイケデリック・ジャズロックである。

音の雰囲気はいかにも「英国的」。ブリティッシュなサイケデリック・ロックの音の雰囲気や、プログレッシヴ・ロックの音の雰囲気をしっかりと漂わせている。こういうところが、英国のジャズロック、クロスオーバー・ジャズならでは個性であり、僕はとても気に入っている。
 
 

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2024年7月24日 (水曜日)

プログレッシヴなジャズ・ロック

John McLaughlin(ジョン・マクラフリン)。英国出身のジャズ・ギタリスト。ジャズ・ロック〜クロスオーバーなエレギを基本とするテクニシャンで、ジャズ・ギタリストの歴史の中でも、重要なポジションを占めるバーチュオーゾである。

マイルスの「In a Silent Way」から「On the Corner」まで、エレギ中心に参加、当時の「エレ・マイルス」のビートを形成する上で、重要な役割を担ったギタリストである。

この人のエレギは凄い。とにかくテクニックがもの凄い。そして、音色のバリエーションが凄い。そして、出てくるフレーズの自由度が相当に高い。アル・ディ・メオラと並んで、ジャズ・ロックなエレギの最高峰。

John McLaughlin『Extrapolation』(写真)。1969年1月18日、ロンドンの「Advision Studios」での録音。ちなみにパーソネルは、John McLaughlin (g), John Surman (bs, ss), Brian Odgers (b), Tony Oxley (ds)。

ジャズロックなギタリストの鬼才、ジョン・マクラフリンの初リーダー作。マクラフリンが、トニー・ウィリアムス・ライフタイムに参加する為に渡米する前にロンドンで録音され、当時の英国における先鋭的な若手のジャズ・ロックなミュージシャンが参加している。
 

John-mclaughlinextrapolation

 
米国ジャズには絶対に無い「先鋭的」な音世界。元々、ロックとジャズの境界線が曖昧な英国ジャズ・シーン、この盤は、ジャズから表現した「プログレッシヴ・ロック」。マクラフリンのエレギの音は、当時、プログレッシヴ・ロックで活躍していたギタリストが奏でる音と同質なもの。

ただ、出てくるフレーズは、モードであり、フリーであり、バップ。この辺りが「ジャズ」に軸足が乗ったジャズロックなギタリストと形容される所以だろう。サウンドの質は実に英国的。ソフト・マシーンや、キング・クリムゾンを聴いている様な、渋い黄昏色のキラキラした、湿度の高い、哲学的でスピリチュアルな「音の色」。

バリサク&ソプラノ担当のジョン・サーマン、ベースのブライアン・オッジス、ドラムのトニー・オックスレイという、当時の英国における先鋭的な若手のジャズ・ロックなミュージシャンが、幾何学的に8ビート的に強烈にスイングする。バップから、シーツ・オブ・サウンドからモードと、当時の先進的なジャズの演奏トレンドをジャズロックでガンガンやるのだから堪らない。

主役のマクラフリンのギターは、それはそれは凄まじいもの。サーマンのサックスとの超高速ユニゾンをはじめ、ソロの弾き回しやカッティングも、切れ味鋭く、相当にスリリング。テクニックは相当に高度、速弾きをしても破綻は全く無い。

バンド全体のサウンドは、プログレッシヴなジャズ・ロック。フレーズやリズム&ビートは、モードであり、フリーであり、バップ。いかにも英国ジャズらしい音世界。そして、マクラフリンのギタリストとしての「途方も無い力量」が良く判る秀作である。
 
 

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2024年4月15日 (月曜日)

Brufordの『Feels Good to Me』

ジャズを本格的に聴き出す前は「ロック小僧」だった。高校に入って、いきなりプログレッシブ・ロック(略して「プログレ」)に嵌った。EL&Pから始まって、イエス、キング・クリムゾン、ピンク・フロイド、フォーカス、ジェネシス、ムーディー・ブルース等々、クラブの先輩達とガッツリ聴きまくった。

このプログレ好き、バカテク+インスト中心の楽曲好きが昂じて、即興演奏がメインのインストの「ジャズ」に興味が移行した訳で、今でも自分では、プログレについては造詣が深いと思っている。

Bill Bruford 『Feels Good to Me』(写真左)。1977年8月の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Bruford (ds, perc), Allan Holdsworth (el-g), Dave Stewart (key), Jeff Berlin (b)。ゲストに、Kenny Wheeler (flh, on tracks 3, 7, 9), Annette Peacock(vo), John Goodsall (rhythm-g)。英国の人気プログレ・バンドのイエス、キング・クリムゾンのドラマーを歴任したビル・ブルーフォードの初ソロ・アルバムである。

プログレのドラマーがジャズをやるの、と訝しく思われる方もいるかと思うが、もともと英国の音楽シーンでは、ロックとジャズの境界が曖昧。ロック畑のミュージシャンがジャズをやったり、ジャズ畑のミュージシャンがロックをやったりして、特にプログレとクロスオーバー・ジャズ、ジャズ・ロックの境界線は他の国と比べて圧倒的に曖昧である。

このブルーフォードの『Feels Good to Me』も、聴けば判るが、プログレ・フレーヴァー満載の「クロスオーバー・ジャズ&ジャズ・ロック」である。決して、プログレでは無い。演奏の根っこは、あくまで「クロスオーバー・ジャズ&ジャズ・ロック」である。

ブルーフォードのドラミングに個性は、驚異の「変則拍子」ドラミング。プログレ・バンドのイエス、キング・クリムゾンの時代から、綿々と叩きまくっているブルーフォード独特の「変則拍子」。
 

Bill-brufordfeels-good-to-me

 
この「変則拍子」は他のジャズ・ドラマーには無い。基本的に2拍目4拍目の「裏」にスネアのアクセントがストンストンと入って、ブルーフォード独特のグルーヴ感を生み出す。これが意外と快感で病みつきになる。

冒頭の「Beelzebub」の変則拍子を聴くと「来た来た〜」と思わず嬉しくなる。全編に渡って、このブルーフォードの変則拍子ドラミングが独特のグルーヴ感を醸し出して、他のジャズ・ロックやクロスオーバー・ジャズに無い音世界を形成している。

そして、このブルーフォードの変則拍子ドラミングにバッチリ乗ってエレギを弾きまくるのが、ジャンルを跨いだ英国の奇才ギタリスト、アラン・ホールズワースである。このホールズワースのエレギが大活躍。このホールズワースの変態捻れギターが、この盤の音世界の「クロスオーバー・ジャズ&ジャズ・ロック」志向にしている。

ゲスト・ミュージシャンを見渡せば、ECMのニュー・ジャズ系トランペッターのケニー・ホイーラーがジャジーなトランペットを聴かせる反面、女性ボーカリストのアーネット・ピーコックが、いかにもプログレっぽい、怪しい雰囲気のイコライジングがかかったボーカルを聴かせてくれる。

アルバム全体の音志向は「クロスオーバー・ジャズ&ジャズ・ロック」だが、どこか英国カンタベリー・ミュージック風の音作りも見え隠れして、もしかしたらプログレ、なんて思ったりする瞬間があるから、この盤、聴いていてとても面白い。

演奏陣のテクニックも申し分なく、英国独特のロックとジャズの境界線が曖昧な、かなりハイレベルのクロスオーバー&ジャズ・ロックを確認することが出来る。そんな中で、ブルーフォードの驚異の「変則拍子」ドラミングだけが突出して目立っていて、この盤を凡百のクロスオーバー&ジャズ・ロック志向に留めていないところが素晴らしい。

演奏内容と共演メンバーを活かすも殺すもドラマー次第、というが、この盤でのブルーフォードのドラミングはその典型的な例の一つだろう。
 
 
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2023年10月24日 (火曜日)

ゴーゴー・ペンギンの進化の途中

「踊れるジャズ」として、従来のピアノ・トリオの特徴であった「三者三様の自由度のあるインタープレイ」は排除。クラシック的な印象的なピアノにアグレッシブなベースとドラム。

演奏の中に感じ取れる「音的要素」は、クラシック、エレクトロニカ、ロック、ジャズと幅広。マイルスの開拓した「エレ・ジャズ」に、エレクトロニカを融合し、ファンクネスを引いた様な音。疾走感、爽快感は抜群。聴いていて「スカッ」とする。

英国マンチェスター出身のアコースティック・エレクトロニカ・トリオである「GoGo Penguin(ゴーゴー・ペンギン)」の音世界。オリジナル・メンバーは、ピアノのクリス・アイリングワースとドラムスのロブ・ターナー。2013年初旬にベーシスト、ニック・ブラッカが加わる。そして、ドラムがジョン・スコットに交代。所属レーベルも移籍し、心機一転、久々にフル・アルバムをリリースした。

GoGo Penguin『Everything Is Going To Be Ok』(写真左)。2022年7月の録音。ちなみにパーソネルは、Chris Illingworth (p), Nick Blackas (b) Jon Scott (ds)。アコースティック・ピアノにベース、ドラムの伝統的なピアノ・トリオ編成と思いきや、音の志向としては「エレクトリック・ジャズ」。英国出身のバンドゆえ、音の響きは「欧州的」。
 

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いかにも欧州的な、いかにも英国的な、洗練されたエレ・ジャズである。欧州的な響きとしては、どこか北欧ジャズの響きを宿していて、クラシック的な響きのする、印象的にエコーのかかったアコピとシンセ。ファンクネスは皆無。軽くエコーのかかった粘りのあるビート。どこか黄昏時の黄金色の輝きを見るような寂寞感漂うフレーズ。ゴーゴー・ペンギンの音はどこまでも「欧州的」であり「英国的」。

これまでのゴーゴー・ペンギンのアルバムよりも、ジャケットのイメージ通り、スカッと抜けた爽快感がより強くなり、音の質感がどこか「明るく抜けている」質感がメインになっている。温かみと明るさが増して、躍動感と疾走感が全面に押し出されている。

初期の頃のゴーゴー・ペンギンの音世界は着実に、ポジティヴな方向に変化している。そして、テクニック最優先の演奏構成から、バンド全体のグルーヴとビートを重視する演奏構成に変化しており、その分、シンプル感がアルバム全体を覆う。

スインギーな純ジャズ・トリオとは全く異なる、現代の「ダンス・ミュージック」的な、新しいイメージの「ピアノ・トリオ」。しんせを追加して正解。シンセのようなディストーションのかかったニックのベースと相まって、エレ・ジャズ感は増幅している。そこに「人力」の切れ味の良い、ウォームなビートを供給するスコットのドラムが絡む。

他のピアノ・トリオには無い響き。フュージョンでもなく、スムースでも無い。少なくとも、現代の踊れるエレ・ジャズ。この盤は、そんな「現代の踊れるエレ・ジャズ」の進化の途中を捉えた、ドキュメンタリーの様なアルバムである。次作がとても楽しみだ。
 
 

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2023年4月15日 (土曜日)

キット・ダウンズと再び出会う

21世紀のECMレーベルに録音するミュージシャンは「多国籍」。以前は北欧、ドイツ、イタリアがメインだった様に記憶するが、21世紀に入ってからは、範囲を拡げて、イギリス、東欧、中近東、そして、ジャズの本家、米国出身の若手〜中堅ミュージシャンの録音を積極的に推し進める様になった。

Kit Downes『Dreamlife of Debris』(写真左)。2018年11月、英ウェストヨークシャーのハダースフィールド大学「St. Paul's Hall」でのライヴ録音。ECMの2632番。

ちなみにパーソネルは、Kit Downes (p, org), Tom Challenger (ts), Stian Westerhus (g), Lucy Railton (cello), Sebastian Rochford (ds)。ピアノ&オルガンのキット・ダウンズがリーダーの、チェロ、ギター入り、ドラムのみ、ベースレスの変則クインテット編成。

Kit Downes(キット・ダウンズ)は、英国のジャズおよびクラシックの作曲家、ピアニスト&オルガニスト。 1986年5月生まれなので、今年で37歳になる中堅ジャズマン。英国では、ピアニストのジョン・テイラーが、1970年代以降、ポスト・バップなニュー・ジャズ志向のモーダルなピアノを展開したが、ダウンズはこの「ポスト・バップなニュー・ジャズ志向」のピアニストの1人になる。

英国のジャズと言えば、メインストリーム志向の純ジャズについては、ビ・バップ至上主義が長く続いて、どちらかと言えば、旧来のジャズの枠に留まった中間派ジャズを中心に発展した様に思う。しかし、21世紀に入って、急速にポスト・バップ志向、ニュー・ジャズ志向の展開が出てきて、ダウンズの様に、英国ジャズの枠を越えて、グローバル化に走るジャズマンも出てきた。
 

Kit-downesdreamlife-of-debris

 
さて、この『Dreamlife of Debris』であるが、出てくる音は、従来の「英国ジャズ」の雰囲気は皆無。ECMジャズ志向の耽美的でリリカル、透明度が高く、音の拡がりと間を活かしたニュー・ジャズな音志向が強く出ている。

ピアノはリリカル、ファンクネスは皆無、音の透明度が高い欧州ジャズ志向の純ジャズ・ピアノが、変幻自在、硬軟自在に、音のエコーと拡がりと間を活かして、時に耽美的に、時にスピリチュアルに変化していく様には、思わず真剣に聴き耳を立てたりする。

このクインテット演奏でユニークなのは、ダウンズ自身が弾くオルガンの音とルーシー・レイルトンの奏でるチェロの音。このオルガンとチェロの音自体が、ECMジャズのニュー・ジャズ志向を増幅し、このオルガンとチェロの音の拡がりが、ECMジャズ志向の音世界に不思議な変化を醸し出す。

特にオルガンの音は、ECMジャズにとっては「不意打ち」に近いイメージなんだが、これはこれで良い感じ。ECMジャズにオルガン、これ「目から鱗」です。

どこか「アンビエント・ミュージック」を彷彿とするフレーズも満載で、ECMジャズの美意識そのものの音世界は結構、癖になる。当然、即興演奏がメインとなった展開で、クールで静的な展開ではあるが、時にフリーに展開する部分もあり、丁々発止とインタープレイを展開する部分もあり、欧州ジャズの秀作として、しっかりと楽しめる内容になっている。

これも「ジャズ」である。21世紀に入って、ジャズの裾野はどんどん広がっていく。
 
 

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2022年5月16日 (月曜日)

Simon Phillips『Protocol V』

ホールズワースの初リーダー作や、マクラフリンのライブ盤を聴いていて、ふと、ギタリストがリーダーでは無いが、ホールズワースやマクラフリンの様な「ハードなクロスオーバー&ジャズロック」なバンドの存在を思い出した。ドラムのレジェンド、サイモン・フィリップスのソロ・プロジェクト 「プロトコル」である。

この「プロトコル」は、1988年から続いているのだが、これまでに4枚のアルバムをリリースしている。どれもが「ハードなクロスオーバー&ジャズロック」で、聴いていて、ホールズワースやマクラフリンの音世界を彷彿とさせる。そんなサイモン・フィリップスのソロ・プロジェクトが、今年の3月、前触れなく、5枚目のアルバムをリリースしたのだから、思わずビックリした。

Simon Phillips『Protocol V』(写真左)。2022年3月のリリース。ちなみにパーソネルは、Simon Phillips (ds), Otmaro Ruiz (key), Jacob Scesney (sax), Alex Sill (g), Ernest Tibbs (b)。

2017年の『プロトコルIV』以来、約5年振りとなる新盤。ドラマーのサイモン・フィリップスがリーダーのアルバムながら、内容は、エレギとサックスとキーボードがメインの「ハードなクロスオーバー&ジャズロック」である。

もともとはロック畑のドラマーで、マイケル・シェンカー・グループ、ホワイトスネイクやザ・フーといった錚々たるグループで活躍してきたサイモン・フィリップス。ベースのアーネスト・ティブスは、前作にも参加した、サイモン・フィリップスの良き相棒。
 

Simon-phillipsprotocol-v

 
キーボードのオトマロ・ルイーズは、元ジョン・マクラフリン・バンドのメンバー。サックスのジェイコブ・セスニーは、ロベン・フォードやクリスチャン・スコットと共演し、ポストモダン・ジュークボックスにも参加している逸材。ギターのアレックス・シルは期待の若手。

サイモン・フィリップスは、今年で65歳。もうレジェンド級のドラマーなのだが、この新盤の音世界はとことん「尖っている」。まず、ギターのアレックス・シルの、とにかくプログレッシヴ・ロックっぽく、ハードでほどよく捻れたクロスオーバー風のエレギが「尖っている」。

同じフロントを担う、ジェイコブ・セスニーのサックスも、プログレッシヴ・ロックっぽく、ハードで捻れたクロスオーバー風のサックスが「尖っている」。ルイーズのキーボードは、しっかりと「クロスオーバー・ジャズ」に軸足をしっかり置いた、ジャジーなもの。決して、プログレッシヴ・ロック志向では無い。

そんなエレギとサックス、キーボードをサイモン・フィリップスのドラムが鼓舞し、リードする。サイモン・フィリップスのドラムはジャズロック。ジャジーでロックっぽい。フィリップスのドラムがジャジーになると、演奏全体はクロスオーバー志向となり、フィリップスのドラムがロックになると、演奏全体はロック志向になる。演奏全体をフィリップスのドラムがコントロールしているのが良く判る。

さすが、サイモン・フィリップスは、英国ロンドン出身のドラマー。この『Protocol V』の音は、プログレッシヴ・ロックとクロスオーバー・ジャズとの境界が曖昧な英国ジャズロックの音世界そのものであり、それがこの「プロトコル」の最大の個性。僕はこの音世界が意外と気に入っていて、意外とこの『Protocol V』、緩やかなヘビロテ盤になっている。
 
 

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2022年4月 3日 (日曜日)

最近出会った小粋なジャズ盤・2

Ben Webster(ベン・ウェブスター)は、スイング時代からハードバップ時代を経て、1960年代のジャズ多様化の時代まで、長く活躍したテナー・サックス奏者であった。彼のテナーのスタイルは、ジョニー・ホッジスに影響を受けた、しっかりヴィブラートを効かせた完璧な「オールド・スタイル」。生涯、彼はこのテナーのスタイルを変えることは無かった。

ジャズ界は、サックスのスタイルについては、1950年代には「チャーリー・パーカー」、1960年代には「ジョン・コルトレーン」といった強烈なスタイリストが出現したが、スイング時代からの「オールド・スタイル」を貫いたが故、1950年代のハードバップ時代にも、1960年代のジャズ多様化の時代にも、ウェブスターは独特なポジションを確保し続けた。

Ben Webster『In A Mellow Tone』(写真左)。1965年5月14日, 15日、英国はロンドンの「Ronnie Scott's Club」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Ben Webster (ts), Alan Branscombe (p), Lennie Bush (b), Jackie Dougan (ds)。ベン・ウェブスターのテナーがフロント1管の「ワン・ホーン・カルテット」。サイドメンは、皆、クラブの地元の英国のジャズ・ミュージシャン達である。
 

In-a-mellow-tone_ben-webster

 
ウェブスターのテナーは「オールド・スタイル」。とにかく「渋くてクール」。若い時にはピンと来なかった「渋さ」が実に心地良い。「I Got Rhythm」で好調に飛ばすウェブスターも、「Old Folks」のユッタリとした、情感豊かなウェブスターも基本的に「渋くてクール」。タイトル曲「In a Mellow Tone」のスイング感も抜群に心地良い。モダン・ジャズの「心地良い」部分が、このライヴ盤に散りばめられている。

地元英国のリズム・セクションも好演している。ブランズコムのピアノがとてもモダンで良い。タッチも明確、フレーズは淀みなく、正統派なもの。ブッシュのベースも素姓は確か。ピッチが合った流麗なロング・ソロは印象的。ドゥーガンのドラムは、このライヴ・パフォーマンスの「肝」。ウェブスターのサックスを支え、鼓舞し、リズム隊の要として、ジャジーでブルージーな「リズム&ビート」を叩き出している。

録音当時56歳。脂の乗りきったベテラン・ジャズマン、ウェブスターの好演。モダンでジャジーでブルージーなウェブスターのテナーが心ゆくまで楽しめる好ライヴ盤。英国のリズム隊も好演で、実に聴き応えがある。聴いていて「ああ、ジャズってええなあ」とつくづく思ってしまう。こういう盤を「小粋なジャズ」盤と言うのだろう。
 
 

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