D.バードの最後の純ジャズ志向
ドナルド・バードは「機を見て敏なる」トランペッター。テクニックは優秀、端正でブリリアントで理知的な吹奏。破綻無く、激情に駆られて吹きまくることなく、理知的な自己コントロールの下、常に水準以上のバップなトランペットを吹き上げる。そして、その時代その時代のジャズの演奏トレンドへの適応力が抜群。ハードバップ、ファンキー・ジャズ、ジャズ・ロック、ソウル・ジャズ、それまでのジャズの演奏トレンドに完全適応する。
Donald Byrd『The Creeper』(写真左)。1967年10月5日の録音。ブルーノートのLT1096番。ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Sonny Red (as, tracks 1, 3–7), Pepper Adams (bs, tracks 1, 3–7), Chick Corea (p), Miroslav Vitouš (b), Mickey Roker (ds)。
ドナルド・バードのトランペット、ソニー・レッドのアルト・サックス、ペッパー・アダムスのバリトン・サックスがフロント3管のセクステット編成。バックのリズム隊には、新チック・コリアのピアノ、ミロスラフ・ビトウスのベース、という、新進気鋭の「ポスト・新主流派」なメンバーが座り、ミッキー・ローカーのドラムがリズム隊をガッチリ支えている。
出てくる音はといえば、当時、ドナルド・バードが追求していたジャズ・ロックでもなければ、ソウル・ジャズでも無い。ましては、ジャズ・ファンクでは全く無い。聴けば判るが、実に硬派な、当時の最先端を行く、メインストリーム志向の純ジャズ、モーダルなフレーズをメインとした新主流派の一歩先を行く、「ポスト・新主流派」な音が詰まっている。これには、とにかくビックリである。
まず、バックのリズム隊の新進気鋭の二人のバッキングがエグい。モーダルなフレーズで攻めに攻めているのだが、それまでのモーダルなフレーズとは似ても似つかない、新しい響きに満ちたバッキング。この二人の新進気鋭な、新しいモーダルなバッキングを得て、バンド全体が新しい響きに満ちたモーダルな演奏に仕上がっているのだから、ジャズって、本当に面白い。
なんせ、ハードバップ全盛期から第一線を走ってきた、ソニー・レッドのアルト・サックス、ペッパー・アダムスのバリトン・サックスがフロント3管が、こってこてなハードバップらしさをかなぐり捨て、ポスト・バップでモーダルなユニゾン&ハーモニーを吹き上げ、どこか新しい響きのするモーダルなアドリブ・フレーズを展開している。一流のジャズマンって懐が深い。ハードバップの第一線で活躍してきたにも関わらず、こんなにモーダルな演奏にも完全適応するのだ。
しかし、1967年当時は、ドナルド・バードからして、ジャズ・ロックからソウル・ジャズをメインに好盤を連発していた頃。この『The Creeper』の音世界は、完全ストイックで、当時の最先端を行く、メインストリーム志向の純ジャズ、モーダルなフレーズをメインとした新主流派の一歩先を行く、「ポスト・新主流派」な音。あまりに落差がありすぎる。
恐らく、それが、録音当時「お蔵入り」になった理由かもしれない。実はこの『The Creeper』、録音時点では、ブルーノートお得意の「理由が判らない、なぜかお蔵入り」盤。発掘リリースされたのは1981年。しかもしばらく再発されなかった。しかし、内容は素晴らしい。ドナルド・バードの、新進気鋭のメンバーを交えた、渾身の最後の純ジャズ志向盤。一聴の価値のある好盤である。
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