スティープルチェイスのデックス 『The Apartment』
Steeplechase(スティープルチェイス)・レーベルのアルバムの聴き直しを再開である。スティープルチェイスは、マイルス・コレクターとして有名なデンマークのニルス・ウインターが、1972年立ち上げたジャズ・レーベル。1970〜80年代を中心に、ジャズ史に残る名盤を数多く生み出した欧州ジャズ・レーベルの老舗。
このレーベルは欧州のレーベルとしては、比較的、米国系のレーベルに近い演奏の色や雰囲気を持っていて、ハードバップ系の演奏に秀作が多い。さしずめ欧州の「ブルーノート」と言っても良い「欧州発ハードバップ」の宝庫。カタログを追ってみると、1960年代後半から欧州、特に、この北欧コペンハーゲン界隈に移住した米国ジャズマンの秀作が多い。
Dexter Gordon『The Apartment』(写真左)。1974年5月24日 & 1974年9月8日、デンマークはコペンハーゲンのRosenberg Studioでの録音。Steeplechaseレーベルの「SCS1025番」。
ちなみにパーソネルは、Dexter Gordon (ts), Kenny Drew (p), Niels-Henning Ørsted Pedersen (b), Albert Heath (ds)。テナー・サックスのレジェンド、デクスター・ゴードン(愛称:デックス)が1管フロントの「ワンホーン・カルテット」編成。デンマーク出身のベースのペデルセン以外、デックス、ドリュー、ヒースの3人は、ハードバップ期に活躍した一流ジャズマンの「渡欧組」。
デックスは、1962年8月に『A Swingin'Affair』を録音後、渡欧。主にパリとコペンハーゲンに住み、14年間、欧州を活動拠点としていた。この『The Apartment』は、そんなデックスの欧州時代後半の録音になる。パーソネルにある、ピアノのケニー・ドリュー、ドラムのアルバート・ヒースも渡欧組。ベースのペデルセンは、スティープルチェイスの地元デンマーク出身のベース・レジェンド。
冒頭のタイトル曲から、デックスのテナーがガツンと出てくる。全編、往年の「こってこてハードバップな」演奏が展開される。デックスのアドリブが絶好調で、引用含めてご機嫌に吹き進めていく。あまりの躍動感にこの盤、最初聴いた時はライヴ音源かと思った。続いて、ドリューのピアノも絶好調。バリバリ、典雅でバップなピアノを弾きまくる。
ヒースのドラミングもスインギーで、演奏全体のリズム&ビートを牽引する。ペデルセンの鋼質ブンブンなスイング・ベースは、デックスのサックスの歌心の「底」をしっかりと支える。7曲中3曲がデックスの自作曲。残り4曲がスタンダード曲。とりわけ、このスタンダード曲の出来が良い。
もともとデックス自体が以前より過小評価されているのと、スティープルチェイス・レーベルの盤自体が、1970年代から1980年代にかけて入手し難かったこと、そして、一見するとブート盤の様なシンプル過ぎるジャケット、この3つの要素が絡み合って、これだけ内容のあるハードバップな快作でありながら、我が国では全くマイナーな存在に甘んじているのが残念。再評価すべきデックスの好盤である。
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