2024年10月 6日 (日曜日)

ブラウニーのジャム・セッション

ブラウン~ローチ・クインテットの始動後、『Clifford Brown & Max Roach』と『Brown and Roach Incorporated』の直後、同一日、同一メンバーでのジャム・セッションの『Clifford Brown All Stars』と『Best Coast Jazz』は、ブラウニー(クリフォード・ブラウンの愛称)にとって、1954年8月のロスでの、怒涛の「名演の録音月間」の成果であった。

Clifford Brown『Jam Session』(写真)。1954年8月14日、ロスでのライヴ録音。1954年のリリース。ちなみにパーソネルは、Clifford Brown, Maynard Ferguson, Clark Terry (tp), Herb Geller (as, tracks 1, 3 & 4), Harold Land (ts), Junior Mance (p, tracks 1, 3 & 4), Richie Powell (p, track 2), Keter Betts, George Morrow (b), Max Roach (ds), Dinah Washington (vo, track 2) 。

ブラウニーの短い活動期間の中、この怒涛の「名演の録音月間」である1954年8月。『Best Coast Jazz』は、名演の録音月間」でのライヴ録音である。演奏形式は、トランペット3管、アルト・サックス1管、テナー・サックス1管、そして、ピアノ・トリオのリズム隊。ゲストに1曲だけ、女性ボーカルが入る「ジャム・セッション」形式。

ブラウニーはジャム・セッションに強い。相当なテクニックと音の大きさで相手を圧倒しようとするのでは無く、相手の音をしっかり聴きつつ、相手の音に呼応し、相手の優れたパフォーマンスを引き出す様な、リードする様なパフォーマンスを繰り広げる。
 

Clifford-brownjam-session

 
よって、ブラウニーとジャム・セッションに勤しむフロント管は、皆、活き活きと優れたパフォーマンスを披露する。そんなブラウニーのジャム・セッションの「流儀」が脈々と感じ取れる、内容の濃いジャム・セッションの記録である。ちなみに、このライヴ盤の音源は、Dinah Washington『Dinah Jams』と、同一日、同一メンバーでのライヴ・セッション。

この盤では、ブラウニーのトランペットが絶好調なのはもちろん、トランペットのファーガソン、クラーク、そして、アルト・サックスのゲラー、テナー・サックスのランド、皆、ブラウニーの素晴らしいパフォーマンスに引きずられて、素晴らしいパフォーマンスを繰り広げている。

そして、このジャム・セッションは、米国ウエストコースと・ジャズのメンバーがメインでのジャム・セッションで、東海岸と比べると、どこかアレンジが整っていて、アドリブ展開のブロウ爽快感抜群なのが特徴。そんなどこか爽快なジャム・セッションの中で、ブラウニーは自由闊達にトランペットを吹きまくる。

ダイナ・ワシントンがボーカルを取る2曲目のスローバラード「Darn That Dream」も絶品。このライヴ盤は、ウエストコースト・ジャズ全盛期の、優れたジャム・セッションの記録。しかし、よくライヴ録音をし、よくアルバム・リリースしましたね。エマーシー・レコードのお手柄です。
 
 

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2024年10月 5日 (土曜日)

好盤 ”Clifford Brown All Stars”

関東地方はやっと涼しくなってきた。最高気温23〜25度の日もあれば、30度に届く日もあるが、連日35度前後という酷暑の毎日からすると、グッと涼しくなった。これだけ、涼しくなってきたら、連日、耳を傾けるジャズも、耳当りの良い爽やかなもの一辺倒から、熱気溢れるハードバップものに変わってくる。

『Clifford Brown All Stars』(写真)。1954年8月11日、ロスでの録音。ちなみにパーソネルは、Clifford Brown (tp), Herb Geller, Joe Maini (as), Walter Benton (ts), Kenny Drew (p), Curtis Counce (b), Max Roach (ds)。1954年の録音だが、ブラウニー(クリフォード・ブラウンの愛称)の急死後、1956年にEmArcyレーベルからリリースされた未発表音源。

ブラウン~ローチ・クインテットの始動後、『Clifford Brown & Max Roach』『Brown and Roach Incorporated』の直後、『Best Coast Jazz』と同一日、同一メンバーでのジャム・セッション。この後の『Best Coast Jazz』のライヴ録音を含め、1954年8月のロスでの、怒涛の「名演の録音月間」である。
 

Clifford-brown-all-stars

 
当然、ブラウニーのトランペットのパフォーマンスは素晴らしいの一言に尽きる。何かに取り憑かれたかの様に、高速フレーズをいとも容易く吹きまくるブラウニーは迫力満点。これだけ高速なフレーズを連発しつつも、余裕ある雰囲気が伝わってくる。どれだけテクニックに優れ、どれだけ強力な肺活量なんだろう。とにかく「凄い」の一言に尽きる。疾走する「Caravan」、歌心溢れる「Autumn in New York」。この2曲だけでも、聴いていて惚れ惚れする。

米国ウエストコースト・ジャズにおける一流どころが集っているので、フロントを分担するアルト&テナー・サックスのパフォーマンスも、最高とは言えないまでも、そこそこ充実したブロウを披露している。厳しい評価をする向きもあるが、ブラウニーのパフォーマンスと比較すること自体、ちょっと乱暴な気がする。アルト&テナー、意外と健闘しています。

リズム・セクションは「充実&安定」の一言。ブラウニーのかっ飛ぶトランペットをしっかり支え、しっかりとリズム&ビートを供給していて立派。当時の米国ウエストコースト・ジャズにおけるハードバップなジャム・セッションの記録として、しっかりとした内容の好盤だと思います。
 
 

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2022年3月16日 (水曜日)

Brown and Roach 5 の最終盤 『at Basin Street』

最近、クリフォード・ブラウン(Clifford Brown・愛称 : ブラウニー)関連のアルバムを聴き直している。当ブログでも、ブラウニー関連のアルバムのレビューについては、主要なリーダー作については、ほぼアップした、と思っていたら、幾つか「抜け」があったので、今回はそれを補填していきたい。

『Clifford Brown and Max Roach at Basin Street』(写真左)。1956年1月4日、2月16ー17日の録音。ちなみにパーソネルは、Clifford Brown (tp), Sonny Rollins (ts), Richie Powell (p, celesta), George Morrow (b), Max Roach (ds)。テナー・サックスが、旗揚げ盤の『Clifford Brown & Max Roach』から『Study in Brown』まで、ハロルド・ランドだったのだが、当盤ではソニー・ロリンズに交代している。

1956年6月26日に、ブラウニーは交通事故にて急死しているので、この盤は「Brown and Roach クインテット」での最終作となってしまっている。1956年3月22日には、同一メンバーで、ソニー・ロリンズ名義の『Sonny Rollins Plus 4』を録音しており、「Brown and Roach クインテット」へのロリンズの加入は正式に決まっていたのだろう。
 

At-basin-street

 
さすがに、ソニー・ロリンズの加入の効果は大きい。もともと、Brown and Roach クインテットは「バップで流麗な長尺演奏と熱気溢れるインタープレイ」がグループ・サウンドの個性なのだが、この個性がロリンズの加入で、より一層、確固たるものに、かつ、スリリングなものになっている。

ロリンズとしても、アレンジや奏法に工夫を凝らしたハードバップよりも、個々のジャズマンのパフォーマンスがメインのインタープレイが基本のバンド・サウンドの方が、自分の個性を発揮し易い。ブラウニーにしても、ロリンズにしても、ローチにしても、個々のジャズマンのパフォーマンスを尊重したインタープレイは願ったり叶ったりだったろうから、この『at Basin Street』の内容はとても充実している。

これほど、ブラウニーとロリンズがフロント・パートナーとしての相性が良いとは思わなかったので、ブラウニーの急死によって、この編成でのバンド活動が終了してしまったのは実に惜しいことであった。もともと、ブルーノート盤『バードランドの夜』で始まった「バップで流麗な長尺演奏と熱気溢れるインタープレイ」を、より具体化し、より洗練していった成果がこの盤に溢れている。
 
 

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  ・『AirPlay』(ロマンチック) 1980

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  ・遠い昔、懐かしの『地底探検』

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  ・四人囃子の『Golden Picnics』

 
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2021年8月23日 (月曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・5 『Helen Merrill With Clifford Brown』

僕なりの超名盤研究の5回目。40年以上、ジャズ盤を聴き続けてきて、今でも新盤は極力押さえて聴き続けている場合、こういう超名盤の類については、時間の関係上、なかなか聴き直すチャンスが無い。

この20年辺りはテーマを決めて、そのテーマに合致したジャズ盤を聴き直したり、リイシューされた初聴の盤や月毎にリリースされる新盤を聴いたりしている。超名盤を聴き直すまとまった時間がなかなか取れないのだ。よって、今回の「僕なりのジャズ超名盤研究」のシリーズって、超名盤を聴き直す「またとない機会」で、これはこれで実に楽しい時間を過ごさせて貰っている。

『Helen Merrill』(写真左)。別名『Helen Merrill With Clifford Brown』。1954年12月の録音。ヘレン・メリルの初リーダー盤。ちなみにパーソネルは、Helen Merrill (vo), Clifford Brown (tp), Danny Bank (b-cl, fl, bs), Jimmy Jones (p), Barry Galbraith (g), Milt Hinton, Oscar Pettiford (b), Osie Johnson, Bobby Donaldson (ds), Quincy Jones (arr, con)。

「ニューヨークの溜息」と謳われたヘレン・メリルの代表的名盤である。そして、早逝の天才トランペッター、クリフォード・ブラウンとの優れた共演でも有名。アレンジャーに、若手の優秀なアレンジャーとして活躍していたクインシー・ジョーンズを採用。

ヘレン・メリルは1930年生まれなので、この盤の録音時は24歳。クリフォード・ブラウンの起用も、クインシー・ジョーンズの起用も、ヘレンの意志だったというから凄い。
 

Helen_merrill

 
1950年代前半のジャズ・ヴォーカル盤としては、確かにアレンジが優れていて、とってもモダンなイメージがする。今の耳で聴いてもあまり古さを感じさせないアレンジは、さすが「Q(クインシー)」である。

この優れたモダンなアレンジに乗って、ヘレン・メリルの歌伴を担当するクリフォード・ブラウン(ブラウニー)のトランペットが凄い。ヘレンは肉声で唄い、クリフォードはトランペットで唄う。つとに有名なのは2曲目の「You'd Be So Nice to Come Home To(邦題:帰ってくれたら嬉しいわ)」のブラウニーだが、実は全曲全編に渡って、ブラウニーのトランペットが炸裂しまくっているから、これまた凄い。

しかも、今回、よく聴いてみると、ヘレン・メリルのヴォーカルを引き立て、ヘレン・メリルのヴォーカルに寄り添うべく、トランペットの音色を調節している。前奏・間奏時には、張りのある疾走感溢れるブリリアントな音色。ヘレン・メリルのヴォーカルに寄り添い、ユニゾン&ハーモニーを奏でる時は、柔らかで包み込む様なウォームな音色。ブラウニーのトランペットのテクニック、恐るべしである。

ヘレン・メリルのヴォーカルの素晴らしさは言うまでも無い。ニューヨークの溜息、ヘレンのボーカル全開。聴いていて爽やかで、聴いていてクール。判り易くて、聴き易いボーカル。「ニューヨークの溜息、日本の恋人」と形容されるのが、とても良く理解出来るヘレンのボーカルである。

凄く久し振りにこの超名盤を聴いたのだが、やっぱり「良いものは良い」。ヘレンの歌唱とクリフォードのトランペットとの「奇跡の邂逅」の記録である。
 
 
 
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  ・伝説の和製プログレ『四人囃子』

 
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2021年8月21日 (土曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・4 『A Night at Birdland』

「僕なりの超名盤研究」の第4回目。この盤については、どのジャズ盤紹介本でも「ジャズの代表的な演奏トレンドであるハードバップの始まりを記録した盤」としている。いわゆる「ハード・バップ誕生の瞬間」を記録した歴史的名盤と評価されている。が、売り文句としては実にキャッチャーな表現だが、この盤が記録したライヴ・パフォーマンスを境目に、ハードバップが一気に展開されていった訳ではない。

Art Blakey『A Night at Birdland Vol.1&2』。1954年2月21日、NYのライブスポット、バードランドでのライヴ録音。邦題『バードランドの夜』。ちなみにパーソネルは、Art Blakey (ds), Clifford Brown (tp), Lou Donaldson (as), Horace Silver (p), Curley Russell (b)。アナウンスは「Pee Wee Marquette」。バードランドの夜は、このピー・ウィー・マーケットの熱気溢れる紹介アナウンスから幕を開ける。臨場感抜群である。

さて、この『バードランドの夜』、この演奏がハードバップの萌芽とされる訳だが、聴いてみてどこがそうなんだか、特に、ジャズを聴き始めた頃、このライヴ盤を聴いても「さっぱり判らん」が正直なところ。

ところで「ハードバップ」とは何か、であるが、Wikipediaを紐解き、要約すると「アメリカ東海岸で、1950年代に始まり1960年代まで続いた演奏スタイル。一般的なジャズサウンドのイメージはこのスタイルと言える。アレンジなどにも工夫を凝らし、メロディアスで聴きやすいと同時に、演奏者の個性や情熱を表現することができ、大衆性と芸術性の共存を可能とした演奏スタイル」とのこと。

これでもまだ「良く判らん」なので、他の演奏スタイルと比較してみる必要がある。ハードバップに至るまでのジャズの演奏形式の変化である。これをやらないと、この『バードランドの夜』を聴いても、何が「ハード・バップ誕生の瞬間」を記録した歴史的名盤なのか、さっぱり判らないままである。
 

A-night-at-birdland

 
ハードバップの前の流行の演奏スタイルは「ビ・バップ」。最初に決まったテーマ部分を演奏した後、コード進行に沿いつつ、自由な即興演奏を順番に行う形式。演奏テクニックとアドリブ・フレーズの優秀性に重きが置かれ、スインギーな側面やメロディーを楽しむ側面はそぎ落とされ、アクロバティックな即興演奏だけが着目される演奏形式となった。音楽としての「聴き手」の嗜好を無視した内容に陥り易く、ジャズの大衆性が阻害され易い演奏形式ともいえる。

で、比較である。まず、ビ・バップの演奏の雰囲気は、Dizzy Gillespie『Groovin' High』(2015年7月28日のブログ参照)などで感じることが出来る。次に、ビ・バップからハードバップの過渡期の雰囲気は、Charlie Parker『The Genius Of Charlie Parker, #3 - Now's The Time』(2021年4月8日のブログ参照)、そして、ハードバップ初期の雰囲気はこの『A Night at Birdland Vol.1&2』で感じることが出来る。

特に面白いのは、ビバップからハードバップの過渡期の雰囲気を記録してパーカー盤。ビバップの祖の一人、パーカーがメインとなっているリーダー作だが、内容的には、ハードバップの特色である「アレンジなどにも工夫を凝らし、メロディアスで聴きやすいと同時に、演奏者の個性や情熱を表現する」部分の兆しがこの過渡期の盤に記録されている。確かにこのパーカー盤はビ・バップでは無い。

そして、今回の『バードランドの夜』。確かに、この盤の演奏は明らかに「アレンジなどにも工夫を凝らし、メロディアスで聴きやすいと同時に、演奏者の個性や情熱を表現する」部分が貫かれている。曲のコードをより細かく分けたり、テンポの速くして演奏をより複雑にしたり、演奏のニュアンス、バリエーション豊かにして、演奏の表現力を豊かにした、いわゆる「聴かせること」そして「アーティスティックなこと」を前面に押し出した演奏は聴き応え十分。

このライヴ盤には、ハードバップの要素がぎっしり詰め込まれている。しかも、このアルバムはスタジオ盤では無い、一発録りのライブ録音。つまり、1954年には、皆が皆では無いにしろ、このハードバップ的な演奏がライヴで、一発録りな雰囲気で行われていたのである。当時のジャズの演奏レベルの高さというものを改めて感じる。
 
 
 
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2019年12月22日 (日曜日)

西海岸ジャズのブラウニー 『Best Coast Jazz』

思い出した様に、最近、クリフォード・ブラウン(愛称「ブラウニー」)を聴き直している。今まで、散々聴き直したヘビロテ盤も聴き直しているが、今まで、数回しか聴いていなかった盤をメインに聴き直している。これが面白くて、以前、若い頃聴いた時の印象と全く違った印象が多々あって、以前と違って好意的な印象が多い。年齢を重ねると共に、若い頃、聴き取れなかった「何か」が聴きとれるようになったからだろうか。

Clifford Brown『Best Coast Jazz』(写真左)。1954年8月11日の録音。ブラウニーが事故によって急逝する約2年前の録音。ちなみにパーソネルは、Clifford Brown (tp), Herb Geller, Joe Maini (as), Walter Benton (ts), Kenny Drew (p), Curtis Counce (b), Max Roach (ds)。録音場所は「Capitol Studios, Los Angeles, California」とある。ブラウニーが西海岸ジャズのメンバーと録音した盤である。

ジャケット写真から感じる様に、スタジオでのジャム・セッションを一発録りで収録したもの。収録された曲も長尺の2曲のみ(LP時代のA面に1曲、B面に1曲の割り当て)。ジャム・セッションと言えば、印象的に「東海岸ジャズ」って感じがするので、若い頃、この盤に初めて出会った時、西海岸ジャズがメインのジャム;セッションか〜、なんて、あんまり気乗りがしない、ほとんど期待感無しに聴いた思い出がある。
 

Best-coast-jazz-1

 
まず、やっぱりブラウニーのトランペットは素晴らしい。ジャム・セッションの数々のパフォーマンスの中でも突出している。暫く聴いていると「ブラウニーやな」と明確に判る、ブリリアントで躍動感溢れ、流麗かつ繊細なトランペットは明らかにブラウニーだ。ウィントンにもマイルスにも出来ない、唯一無二な「トランペットがトランペットらしく鳴る」ブラウニーのプレイに思わず耳を奪われる。

ブラウニー以外の西海岸ジャズのメンバーも健闘しています。ドラムのマックス・ローチは別格として、当時、既に人気だったケニー・ドリューのピアノ、吹き込み直前まで日本に駐屯していたウォルター・ベントンのテナー、西海岸の黒人ベーシストのカーティス・カウンスなど、西海岸ジャズの名うてのジャズマン達が気持ち良く、アドリブ・フレーズを紡いでいます。そんなに悪くないですよ、ホント。

ジャケットは白黒写真で「やっつけっぽい」感じで、なんか胡散臭いんですが、内容はなかなかのもの。ジャム・セッションはジャズの醍醐味の1つですが、それぞれの楽器の即興演奏を気軽に楽しめる好盤です。特に、ブラウニーの「ユー・ゴー・トゥ・マイ・ヘッド」で繰り広げる超ロング・ソロが圧巻。やはり、このジャム・セッションの主役は圧倒的にブラウニー。
 
 
 
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2019年12月19日 (木曜日)

プレスティッジのメモリアル盤 『Clifford Brown Memorial』

暫く、クリフォード・ブラウンを聴いていないことに気がついた。クリフォード・ブラウン、愛称「ブラウニー」。ブラウニーのリーダー作は若い頃にかなり聴き込んだ。その反動だとは思うのだが、ここ10年ほど、ブラウニーのトランペットをほとんど聴いていない。しかし、ブラウニーのトランペットはジャズ・トランペットの基準である。やはり、たまにはここに戻らないとなあ、ということで盤を漁る。

Clifford Brown『Clifford Brown Memorial』(写真左)。Prestigeからのリリース。PRLP 7055。1953年6月11日にてNYでの録音、同年9月15日にてStockholmでの録音。ちなみにパーソネルは、NYでの録音は、Clifford Brown (tp), Benny Golson (ts), Idrees Sulieman (tp), Gigi Gryce (as), Herb Mullins (tb), Oscar Estell (bs), Tadd Dameron (p), Percy Heath (b), Philly Joe Jones (ds)。Stockholmでの録音は、Clifford Brown (tp), Art Farmer (tp), Arne Domnerus (as), Lars Gullin (bs), Åke Persson (tb), Bengt Hallberg (p), Gunnar Johnson (b), Jack Noren (ds)。

ブラウニーは自動車事故で1956年6月26日に急逝している。ブラウニー急逝の当時、ブラウニー追悼盤、いわゆる「メモリアル・アルバム」が急造された。ブラウニーは人気トランペッターであったが故、様々なレーベルから、ブラウニーの「メモリアル・アルバム」がリリースされている。この盤もその例に漏れず、で、プレスティッジ・レーベルが何とかブラウニーの追悼盤をだしたいなあ、と思っていて、この音源を発掘したんだと思っている。
 

Clifford-brown-memorial-prestige

 
追悼盤というには、あまりに唐突な録音年月日と録音場所である。ただし、聴いてみれば判るんだが、演奏されているハードバップについて、アレンジが良いのだ。いわゆる「聴かれること」を意識している録音で、調べてみたら、それもそのはず、Stockholmでの録音は「Quincy Jones」の監修、NYでの録音は「Ira Gitler」の監修。なるほど、やっつけ感皆無の、しっかり準備され仕込まれた録音という雰囲気が良い。

ブラウニーのトランペットはほぼ申し分無い。Stockholmでの録音はアート・ファーマーと組んだ地元のミュージシャンとの録音とNYでの録音はタッド・ダメロン・オーケストラ在籍時での録音なのだが、ブラウニーは録音を楽しむ様に、音数もいつもとは控えめに吹いている。が、それが良いのだ。バリバリに吹きまくらずに、音数を選んで旋律に忠実に余裕を持って吹く。ブラウニーのトランペットが説得力を持って耳に入ってくる。

この盤の良さは、ブラウニーのトランペットの良さを、判り易く温和な演奏の中で楽しめるところ。メモリアル・アルバムというには、どこか説得力に欠ける演奏内容ではあるが、ブラウニーのトランペットを愛でるには実に良い感じな盤なのだ。久し振りに聴いたのだが、気軽にブラウニーを楽しめる盤として、これから聴き続けるだろうなあ、と嬉しい予感のする盤である。
 
 
 
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2016年9月16日 (金曜日)

音楽喫茶『松和』の昼下がり・38 『The Complete Paris Collection Vol.1&2』

我が千葉県北西部地方。相変わらず湿度の高い日が続いているが、気温は知らない間に下がっている。朝夜は涼しく、当然、エアコン要らず。家にいてジッとしている分にはもう夏では無い、秋である。

涼しくなってくると、純ジャズが聴きたくなる。というか、純ジャズが落ち着いて聴ける様になる。暑いと純ジャズを聴き込むのは、精神的にちと辛い。純ジャズを聴き込むのはやはり秋から冬のシーズンが良い。そういう意味で、秋の気配を感じると、毎年、純ジャズを聴き込みたくなる。

特に、1950年代のレジェンドの残したハードバップな盤が良い。今日、選んだ盤は、Clifford Brown『The Complete Paris Collection Vol.1&2』(写真)。1953年10月の録音。ハンプトン楽団に帯同してヨーロッパ・ツアー中に、パリでバンドのメンバーと一緒にヴォーグに録音された好盤である。

録音された音自体、古さを感じさせる録音で、決してクリアな音源では無い。明らかに、1950年代前半の時代がかった音。中波のラジオを聴くような、エッジの丸い籠もった様な音。しかし、そんな良好では無い音の状態の中で、クリフォード・ブラウンのトランペットの音だけが突出している。
 

Paris_collection_vol12

 
輪郭クッキリ、ブラウニーのトランペットのフレーズが朗々と流れていく。そのアドリブ・フレーズは流麗かつメロディアス。ゴツゴツしたところが全く無い、考慮や思索が全く感じられない、自然体のアドリブ展開。中波のラジオを聴くような、エッジの丸い籠もった様な音のトーンの中で、音の輪郭がクッキリと見える。

ブラウニーとジジ・グライスとの双頭セクステットで、アンリ・ルノーなどフランスの名手を迎えたハードバップな演奏の数々。ハードバップといっても、成熟した頃の長時間の創造的なアドリブと揺るぎの無い整然としたユニゾン&ハーモニーでは無い。まだまだ、1940年後半のビ・バップの雰囲気を色濃く残した演奏である。

これがシンプルで良い。小難しくなく、ただただブラウニーのトランペットとジジ・グライスのアルト・サックスの明快な音の輪郭がしっかりと耳に残る。何の変哲も無いバップな演奏なんだが、聴いていて何だか心地良い。特にミディアム・テンポ以上の曲においては、ブラウニーのトランペットは無敵である。

音がちょっと悪くても、心地良く聴くことの出来るアルバムがある。この『The Complete Paris Collection Vol.1&2』は、そんなアルバムの好例である。
 
 
 
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2015年12月 2日 (水曜日)

ジャズ喫茶で流したい・70 『The Beginning And The End』

ジャズ喫茶では「これは誰だ」と確かめたくなるような、聴いたことが無い粋な盤をかけることもあるが、この「聴いたことが無い粋な盤」ばかりかけると、自信過剰なジャズ者の方々から「得意げに知らない盤ばかりかけるな」とお叱りを受ける(笑)。

やはり、たまにはジャズ者の方々が「これは知ってる」とか「これは誰が吹いているか知ってる」という盤をかけることが大事だと思う。とにかく「これは知ってる」とか「これは誰が吹いているか知ってる」という盤をかけると、ジャズ者の方々はパッと明るくなって得意げな顔になる。

このアルバムをかけた時が面白い。Clifford Brown『The Beginning And The End』(写真左)。伝説のトランペッター、クリフォード・ブラウンの最初期の音源(1952年3月21日、シカゴでの録音)と25才で事故死する数時間前に残された最後のセッションの音源(1956年6月25日、フィラデルフィアでの録音)。

最初期の音源は「I Come From Jamaica」と「Ida Red」の2曲。ジャズではなくR&Bのグループでのラテン曲での演奏。ラテン調の前奏に思わず「えっ」と思い、ラテンな演奏が繰り広げられて「ええ〜っ」と思い、ボーカルが入ってきて「これはなんだ〜」と思っていたら、スッとブリリアントなトランペットの音が滑り出てきます。ホッとする瞬間。

25才で事故死する数時間前に残された最後のセッションの音源は「Walkin'」「Night In Tunisia」「Donna Lee」の3曲。どれも、ビ・バップからハードバップの名曲ばかり。演奏の内容は完璧なハードバップ。 パーソネルはクリフォード以外、無名のジャズメンばかり。恐らく地元のジャズメンとのライブ・セッションだったのだろう。クリフォードのトランペットだけが傑出している。
 

The_beginning_and_the_end2

 
最初期の音源でも、25才で事故死する数時間前に残された最後のセッションの音源でも、クリフォードのトランペットは飛び抜けて素晴らしく、光輝く様なブリリアントなトランペットの音色は明らかに「クリフォードの個性」。クリフォードならではのトランペットのブリリアントな響きは明らかにそれと判る個性です。

最初期の音源で、スッと出てくるクリフォードのトランペットの響き、25才で事故死する数時間前に残された最後のセッションでのバリバリ吹きまくるクリフォードのトランペットの響き。

スピーカーからこの響きが出てくると、決まって、ジャズ者の方々はパッと明るくなって得意げな顔になる。そしてその得意げな顔がこう語る。「これ、クリフォード・ブラウンのトランペットやね」。

クリフォード・ブラウンのトランペットが、如何に初期の頃から完成されていたか、そして、そのテクニックは既に最初期の頃に備わっていたかが良く判る、クリフォードの天才の度合いの高さが良く判る、とても良く出来た企画盤です。そして、運命の悪戯というか、運命の残残酷さを改めて思い返させてくれる企画盤でもあります。

1956年6月26日、リッチー・パウエル(バド・パウエルの弟)の妻、ナンシーの運転する車にリッチーと共に便乗してフィラデルフィアからシカゴに向かう途中、ペンシルベニア・ターンパイクで交通事故死。25歳。事故当夜は雨が降っており、ナンシーを含めて3人全員がこの事故で亡くなった(Wikipediaより抜粋)。
 
 
 
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2015年2月10日 (火曜日)

『Brown and Roach Incorporated』

昨日は、ファッツ・ナヴァロを「勉強」した。このナヴァロのトランペットの奏法スタイルと音色、高いテクニックについては、後の天才トランペッター、クリフォード・ブラウンに多大な影響を与えたとされる。

それでは、今日はクリフォード・ブラウンを聴こうではないか、ということに相成った。クリフォード・ブラウン(以降、ブラウニーと呼ぶ)も早逝の天才トランペッターだった。1956年6月26日、弱冠26歳、交通事故でこの世を去ってしまった。よって、ブラウニーの音源もそんなに多くは残っていない。

そんな数少ない音源の中で、このブログでも幾枚かをご紹介している。ブログ右の「カテゴリ−」の「ジャズ・トランペット」の中にあるので、出来ればご一読いただければ、と思う。が、そんなブラウニーのアルバムの中で、意外と気に入っている一枚がある。そのアルバムは、未だこのブログでご紹介していないかと思う。

そのアルバムとは、Clifford Brown『Brown and Roach Incorporated』(写真左)。1954年8月の録音。ちなみにパーソネルは、Clifford Brown (tp), Max Roach (ds), Harold Land (ts), Richie Powell (p), George Morrow (b)。タイトルの「Incorporated(合併、結成)」の通り、ブラウン〜ローチ・クインテットの初のスタジオ録音作である。
 

Brown_roach_inc

 
初のスタジオ録音作ということで、メンバーそれぞれが、なかなか意欲的な演奏を展開している。そんな中で、やはりブラウン〜ローチ・クインテットの双頭リーダーである、ブラウニーのトランペットとマックス・ローチのドラムが目立っている。まあ、それは仕方ないか。双頭リーダーやもんな。

このアルバムでのブラウニーのトランペットは素晴らしい響きと輝きに満ちている。アドリブ・フレーズを数フレーズほど聴き通せば、確かに、ファッツ・ナヴァロの影響が感じてとれる。ファッツ・ナバロのトランペットの響きと輝きに、鋭さと切れ味を加味して、スピード感を上乗せした、そんなブラウニーのトランペット。

確かに、このアルバムはブラウン〜ローチ・クインテットの初のスタジオ録音作なので、まだまだ、ブラウニーのトランペットも荒削りではある。しかし、その底にあるトランペットの個性と輝きは、もうこのアルバムの中に充満している。

ブラウン〜ローチ・クインテットのグループ・サウンズとしてはまだまだ発展途上ではあるが、ブラウニーの個性は完成し、その個性は突出している。その個性は、ファッツ・ナヴァロの延長線上に、発展したイメージとしてここにある。

時々思うのだが、ファッツ・ナヴァロや、後にこのナヴァロに影響を受けたブラウニーがもっと長生きだったら、ジャズ・トランペットの世界はどうなっていただろう。残念なことに、ナヴァロもブラウニーも早逝の天才トランペッターだった。それが残念でならない。
 
 
 
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