バイラークのエヴァンス追悼盤
リッチー・バイラークはNY生まれ。当初、クラシック音楽とジャズの両方を学び始め、バークリー音楽大学に入学。1年後、バークリーを離れ、マンハッタン音楽学校に移り、彼はマンハッタン音楽学校を音楽理論と作曲の修士号を取得して卒業した才人。確かに、バイラークのアレンジは、学者然とした「理詰め」の雰囲気が強い。
ピアノの個性は、リリカルで耽美的、そして「多弁」。ハイテクニックを駆使して、多弁なフレーズを弾きまくる。音符を敷き詰めた様に「多弁」なフレーズを弾きまくる。タッチは「耽美的でリリカル」。しかし弾きっぷりは「シーツ・オブ・サウンド」と言って良いくらい「多弁」。
Richie Beirach Trio 『Elegy For Bill Evans』(写真左)。1981年5月12日、NYの「Sound Ideas Studios」での録音。日本のレーベル、トリオ・レコードからのリリース。邦題「エレジー ~ ビル・エヴァンスに捧ぐ」。ちなみにパーソネルは、Richie Beirach (p), George Mraz (b), Al Foster (ds)。
タイトルは「エレジー = 挽歌」。「挽歌」とは、死者をいたむ詩歌。1980年9月に他界したビル・エヴァンスを悼む、ビル・エヴァンスのトリビュート盤。
さぞかし、鎮魂歌の様な、センチメンタルで情感溢れる演奏なんだろうな、ということで最初は敬遠していた。が、ピアノを弾くのが、バイラークということで、どんな鎮魂歌を、どんな追悼歌を弾くのか、という興味が芽生えて、当時はLPで入手した。
収録曲だけを見れば、ビル・エヴァンスにまつわる有名曲ばかりがズラリと並んでいる。これは、やっぱり甘々な追悼盤なんだろうな、日本のレーベルの企画盤やしな、とあんまり期待せずに針を下ろしたら、あれまあビックリ。
耽美的でリリカルな弾きっぷりが似合う曲を、バリバリ「多弁」に弾きまくっている。センチメンタルな気分や、情感溢れる悲しみのフレーズなど、どこにもない。ビル・エヴァンスにまつわる有名曲を、ハイテンションで、硬派にストイックにシビアに、「多弁」なタッチで弾きまくる。「多弁」なタッチで耽美的でリリカルに弾きまくる、これがバイラークの考える「挽歌」なのか。
ビル・エヴァンスを想起させるフレーズやタッチは全く無い。徹頭徹尾、バイラークの「多弁」ピアノの音世界。ここまで、ビル・エヴァンスの追悼盤という企画に構うことなく、バイラークの個性だけで弾きまくる。もう、これは潔い、清々しい、爽快感抜群、である。
プロデュース的に、録音前から意図していたのかは判らないが、耽美的でリリカルなバップ・ピアノが個性のビル・エヴァンスにまつわる有名曲を、バイラークの個性だけで弾きまくることで、ビル・エヴァンスのピアノとの対比、という観点から、バイラークのピアノの個性、耽美的でリリカルで「多弁」なピアノがとても良く判る、そんな追悼盤になっているのが面白い。
ビル・エヴァンスの追悼盤だが、バイラークの個性が手に取るように判る、ということで、バイラークの代表作の一枚、バイラークの名盤の一枚としても良い、と僕は思う。
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