2026年6月 6日 (土曜日)

ジャズ喫茶で流したい・324

ハンク・モブレーの、ブルーノートに残した最後のリーダー・セッションとして知られるジャズ盤。フロント2管に、リーダーのハンク・モブレーのテナー、そして、新進気鋭の若手ウッディ・ショウのトランペット。リズム・セクションに、モード・プレイの雄シダー・ウォルトンがピアノを担当している。ギター、ベース、ドラムは当時の中堅〜若手のジャズマン。セクステット編成である。

Hank Mobley『Thinking Of Home』(写真)。1970年7月31日、Van Gelder Studioでの録音。リリースは1980年。ブルーノートの4367番。ちなみにパーソネルは、Hank Mobley (ts), Woody Shaw (tp), Cedar Walton (p), Eddie Diehl (g), Mickey Bass (b), Leroy Williams (ds)。1970年のブルーノートには珍しい、真摯実直、硬派ストレートアヘッドなポスト・バップなモード・ジャズ盤。

まず、モブレーのテナーは申し分ない。ストレートアヘッドな吹奏も、イージーリスニング志向のソフト&メロウな吹奏もどちらも水準以上。この盤でのモブレーは好調である。ウディ・ショウの瑞々しいトランペットやシダー・ウォルトンの堅実なピアノワークも優れたパフォーマンスで、モブレーのスモーキーで哀愁漂うサックスと見事に調和している。
 

Hank-mobleythinking-of-home

 
ギターの存在は、演奏全体がポスト・バップしすぎて大衆受けしないリスクを和らげる為に、イージーリスニング志向のギターを織り交ぜている様だ。演奏レベルとしては、ブルーノートの標準レベル以上をキープしている。1970年の録音ということを勘案すると、ブルーノートにおける「最後の価値あるハード・バップ・アルバムの一つ」と評価して良い内容の充実度である。

サイドマンとしては、やはり、ショウのトランペットが素晴らしい。ショウの放つエネルギッシュで瑞々しいソロは、モブレーの少しスモーキーで哀愁のあるサックスと最高のリリシズムを生み出している。ウォルトンのピアノも良い。モブレーの哀愁あるサックスや、ショウの鋭いトランペットの背後で、一切の無駄がない完璧なバッキングを聴かせる。知的なソロも素晴らしく、全体の音楽的な気品と統一感は、彼のピアノがコントロールしていると言っても過言ではない。

モブレーは15年間にわたりブルーノートの看板テナー・サックス奏者として活躍。本作はその最後を飾る隠れた名盤。録音後すぐに発売されず、1980年まで未発表だった為、当時のリアルタイムな評価こそ逃したものの、後年その完成度の高さから再評価が進んでいる逸品。とにかく、モブレーのテナーが好調で元気なのが良い。好盤である。
 
 

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2026年5月31日 (日曜日)

1970年の骨太なポスト・バップ

ジョン・コルトレーンの黄金のカルテットを支えたエルヴィン・ジョーンズが、1970年代の幕開けに提示したポリリズミックで豪快なポスト・バップの佳作。編成を見ると、当時の流行を感じるが、ピアニストをあえて入れず、フランク・フォスターとジョージ・コールマンの強力なサックス2本をフロント2管として、フロント管のインプロの自由度を広げている。

Elvin Jones『Coalition』(写真左)。1970年7月17日「Van Gelder, Englewood Cliffs, NJ」での録音。ブルーノートの4361番。ちなみにパーソネルは、Elvin Jones (ds), George Coleman (ts), Frank Foster (ts, b-cl), Wilbur Little (b), Candido Camero (conga, tambourine)。

ピアノの和音に縛られないため、自由でスピリチュアルなインプロが展開される、とされた、当時のポスト・バップの演奏における「編成のトレンド」を感じて、思わず苦笑い。ピアノレスであれば良い、ということではないんだけどなあ(笑)。

エルヴィンは特定の固定バンドを模索している過渡期で、この盤は、チャレンジ、若しくは実験の雰囲気がある。タイトルの「Coalition(連携・合同)」による化学反応を期待したのかもしれない。カウント・ベイシー楽団などで活躍した、当時、ベテランのフランク・フォスターと、マイルス・デイヴィス・クインテット出身の若手中堅のジョージ・コールマン、二人の世代の違うサックス奏者をコラボさせている。
 

Elvin-jonescoalition

 
エルヴィンの「アンビデクストラス(両利き)」な超絶ドラミングに徹している。右手でシンバルのキープをしながら、左手・左足(ハイハットやタム)で全く別の複雑な3連符のアクセントを叩き出す、コルトレーン時代に培ったポリリズムが完全に独立・進化している。

ここにキャンディド・カメロのコンガが加わり、エルヴィンをリズムをキープする役目から解放する。エルヴィンは「ドラムセット全体を使って対話(メロディを叩く)する」ような、より自由で凄まじい手数を繰り出して、第3のフロント楽器として、フロント2管のフォスターとコールマンのテナーに絡みまくる。

このドラムがフロントの一部となって、他のフロント楽器と絡むところがユニーク。エルヴィンの超絶技巧なテクニックだからこそ、これが出来る。

そして、絡まれた2管フロントであるが、ジョージ・コールマンの「正確無比なテクニックと、都会的でキレのあるハードバップ・スタイル」と、フランク・フォスター:の「太くブルース感あふれるトーンで、アーシー(大地っぽさ)やスピリチュアルなアプローチ」との音のコントラスト、時に美しくハモり、時に激しくバトルする姿は興味深い。

が、ポスト・バップとしての、限りなく自由度の高いモード時々フリーという演奏内容としては、今一歩ということろか。エルヴィンの自由度の高いドラミングが参入しての、3つのフロント楽器の、限りなくフリーに近いモーダルなインタープレイについては、発展途上というところか。今一歩の成熟を期待する、チャレンジブルな内容であることは事実。1970年の骨太なポスト・バップの一枚。
 
 

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2026年5月19日 (火曜日)

4300番台の純ジャズ志向な盤

リーダーはドラム担当のエルヴィン・ジョーンズ。ジョージ・コールマンとジョー・ファレル、ペッパー・アダムスがフロント3管のピアノレス、パーカッション入りセクステット編成。どちらかと言えば、ハードバップ寄りのメンバー編成だが、出てくる音は「ポスト・バップ」。典型的なモード・ジャズである。エルヴィンが敬愛するコルトレーンにやって欲しかったであろう、理路整然としたモード・ジャズである。

Elvin Jones『Poly-Currents』(写真左)。 September 26, 1969年9月26日、Van Gelder, Englewood Cliffs, NJでの録音。ブルーノートの4331番。ちなみにパーソネルは、Elvin Jones (ds), Fred Tompkins (fl :5), George Coleman (ts :1–4), Joe Farrell (ts, English horn, fl), Pepper Adams (bs :1–3), Wilbur Little (b), Candido Camero (congas :1–3)。

理路整然としたモード・ジャズではあるが、エルヴィンのリーダー作がゆえ、エルヴィンのポリリズミックな超人的ドラミングが基本、フィーチャーされている。演奏全体の雰囲気は明らかに「ポスト・バップ」。ただ、エルヴィンのドラミングをフィーチャーしているので、フロント3管のパフォーマンスは二の次、の様な、ちょっと未成熟で、ちょっととりとめのないアレンジなのが惜しい。
 

Elvin-jonespolycurrents

 
キューバ出身のパーカッション奏者キャンディド・カメロが参加。ドラムとコンガが激しく絡み合うことで、アルバムのタイトル(Poly-Currents=多層的な流れ)通りの、アフロ・カリビアン的な躍動感のあるグルーヴを生み出している。このドラムとパーカッションが絡む独特のグルーヴを損なわない為にピアノレスなんだろう。ここに、ピアノが打楽器として参加したら、折角の個性的なグルーヴが損なわれる。

冒頭「Agenda」は、アルバムの方向性を決定づける14分に及ぶ大作。冒頭からエルヴィンの重厚なドラムとキャンディドのコンガが火花を散らす様は見事。3曲目の「Mr. Jones」は、ケイコ・ジョーンズ(エルヴィンの妻でありマネージャー)の作曲。ポスト・バップの力強いグルーヴを持った、ストレート・アヘッドな名演。この曲でのフロント3管のパフォーマンスは、モーダルの響き芳しいパフォーマンスで聴き甲斐がある。

大手レコード会社の傘下に入って、売らんが為の「商業主義」に走った様なアレンジのアルバムが多い、ブルーノート4300番台の中で、このアルバムは、硬派でストレート・アヘッドで純ジャズ志向のアルバムとして、従来のブルーノートの矜持を反映した好盤だとは思う。アレンジがもう少し煮詰まっておれば、もっと凄いアルバムになっていただろうと、ちょっとだけ惜しい気持ちにさせる好盤である。
 
 

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2026年5月18日 (月曜日)

「ジャッキー&ロイ」の異色作

ジャッキー&ロイは、ジャス・ボーカルのデュオ。スインギーで軽快でポップなスタイルがメイン。しかし、このアルバムは、クロスオーバー・ジャズ志向のモーダルな演奏、ボーカルを基本とした「ポスト・バップ」な、実にジャズとして、アーティステックな内容を追求した、デュオ・ボーカルのアルバムになっている。これは、他にほどんと類を見ない。

Jackie Cain & Roy Kral『A Wilder Alias』(写真左)。1973年12月の録音。CTIレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Jackie Cain (vo), Roy Kral (vo, el-p arr), Roy Pennington (vib), Joe Farrell (ts, ss), Hubert Laws (fl), Harvie Swartz (b), Steve Gadd (ds)。いわゆる「ジャッキー&ロイ」の異色作である。

最もアヴァンギャルドで実験的な「異色作」。エレクトリック・ジャズをベースとしたスピリチュアル・ジャズ、そして、プログレッシヴなクロスオーバー・ジャズをベースとしたジャズ・ボーカルのチャレンジしている。加えて、米国ジャズっぽくない、欧州ジャズにも通じる浮遊感のある心地よいサウンドが耳に新しい。
 

Jackie-cain-roy-krala-wilder-alias   

 
そして、最大の特徴は、「声」を楽器として扱った、歌詞のない世界。実際の「歌詞」があるのは2曲目の「Niki's Song」のみ。それ以外の楽曲はすべて歌詞を持たない「スキャット(ワードレス・ヴォーカル)」で歌われている。この「声」を楽器として扱う「スキャット」で、クロスオーバー・ジャズ志向のモーダルなフレーズを唄い上げていく。

バック・バンドの演奏もふるっている。まず、ガッドのドラミングに耳を奪われる。正確無比でファンキーなドラムブレイク、さらに変拍子やラテンビートへの適応は素晴らしいの一言。限りなく自由度の高いモーダルな、ファレルのサックスとロウズのフルートが、ジャッキー&ロイのスキャットとスリリングに絡み合い、絶妙なインタープレイを繰り広げる。これがまあ「聴いたことがない」インプロの響き。「声」の楽器があまりにユニーク。

このアルバムの名義は「Jackie & Roy」という親しみやすいユニット名ではなく、あえて「Jackie Cain & Roy Kral」と本名をフルネームでクレジットした点も含め、これまでのポップなイメージを離れて、アーティステックな内容を追求したシリアスなアルバムを作る、という二人の強い意志と矜持を感じる。
 
 

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2026年5月12日 (火曜日)

1968年のマイルス再聴・その2

1968年から1971年のジャズは、ソウル・ジャズなアレンジ、R&B志向の音作り&ビート、聴き手に訴求するイージーリスニングな味付けがメイン。これはこれでジャズ、と認めてはいるが、ジャズの本質である「即興演奏」は二の次、丁々発止とした、手に汗握る様な「インタープレイ」は無い。とにかく「聴き心地」優先。ブルーノートの4300番台がズバリそのど真ん中で、カタログ順に聴き進めていて、ちょっと辛くなってきた。

1968年から1971年のジャズって、皆、そんな「売らんが為」のジャズばかりだったのか。例えば、マイルスはどうだったのか、ビル・エヴァンスはどうだったのか。ちょっと聴き直して、再確認したくなった。昨日から、先ずはマイルス・デイヴィス。1968年のマイルスをもう一度、聴き直してみた。

Miles Davis『Filles De Kilimanjaro』(写真左)。邦題『キリマンジャロの娘』。1968年6月のセッションのパーソネルは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (el-p), Ron Carter (el-b), Tony Williams (ds)。「Petits Machins (Little Stuff) 」「Tout De Suite」「Filles De Kilimanjaro」の3曲が演奏されている。

そして、1968年9月のセッション。パーソネルは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ts), Chick Corea (el-p), Dave Holland (b), Tony Williams (ds)。黄金のクインテットから、Herbie Hancock (el-p), Ron Carter (el-b)が抜けて、チックとホランドに代わっている。 「Mademoiselle Mabry」「Frelon Brun」の2曲が演奏されている。
 

Filles_de_kilimanjaro_2

 
エレ・マイルスの2枚目。前作で「電気楽器&8ビートと変則拍子の標準採用」によるメインストリームなエレ・ジャズを標榜したマイルス。このアルバムでは、それを完成・確立させている。まず、前作と同じメンバーで、その「電気楽器&8ビートと変則拍子の標準採用」でのメインストリームなエレ・ジャズによる、限りなく自由度の高いモード・ジャズを確立させている。「Petits Machins (Little Stuff) 」「Tout De Suite」「Filles De Kilimanjaro」の3曲である。

そして、黄金のクインテットから、Herbie Hancock (el-p), Ron Carter (el-b)が抜けて、チックとホランドに代わって、「Mademoiselle Mabry」「Frelon Brun」の2曲が演奏されている。面白いのは、アルバムの中で、黄金のクインテットの演奏と混在させて収録されていること。この「電気楽器&8ビートと変則拍子の標準採用」によるメインストリームなエレ・ジャズが、黄金のクインテットの専売特許でないことを表現している様に見える。

この盤は、マイルスによる「電気楽器&8ビートと変則拍子の標準採用」でのメインストリームなエレ・ジャズによる、限りなく自由度の高いモード・ジャズの確立の記録である。売らんが為のアレンジ、音作りなんて微塵も無い。ただただ自らが「メインストリームなジャズ」と信じるアレンジと音作り。妥協の無いストイックでシビアな音作り。マイルスのジャズマンとしての矜持をビンビンに感じる。

これが、1968年のマイルスの音世界。商業主義とは全く無縁。マイルスはマイルス、我が道を行く。頼もしいこと限りなし。こぞって商業主義に走っている様なジャズの世界で、「真のジャズ、ジャズの正しき姿」を体現しているジャズマンがいる。この1968年のマイルスを聴き直していて、何だか嬉しくなった。この「真のジャズ」を体現するマナー。現代のジャズにも、しっかりと弾き継がれている。
 
 

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2026年5月 5日 (火曜日)

ボーカル入りのハッチャーソン

ハッチャーソンのヴァイブはハードバップなヴァイブでは無い。ハッチャーソンのヴァイブは「新主流派」のヴァイブである。モーダルであり、フリーであり、アーティステックである。ハッチャーソンは意外と硬派なミュージシャンで、この「新主流派のジャズ・ヴァイブ」のスタイルを生涯貫き通した。が、このアルバムで、とんでもない寄り道をする。

Bobby Hutcherson『Now!』(写真左)。1969年10月3日 (#2–3)、11月5日(#1, 4–5) の録音。ちなみにパーソネルは、以下のとおり。2004年のCDリイシュー時、1977年8月13日の録音がボートラとして4曲追加されているが、今回は、オリジナルの5曲に絞ってのみ、この記事をまとめている。

1969年10月3日 (#2–3)は、Bobby Hutcherson (vib, marimba), Harold Land (ts), Kenny Barron (p), Wally Richardson (g), Herbie Lewis (b), Joe Chambers (ds), Candido Camero (congas), Gene McDaniels (lead vocals), Hilda Harris, Albertine M. Robinson, Christine Spencer (backing vocals)。

1969年11月5日(#1, 4–5) はBobby Hutcherson (vib), Harold Land (ts), Stanley Cowell (p, el-p), Wally Richardson (g), Herbie Lewis (b), Joe Chambers (ds), Candido Camero (congas, bongo), Gene McDaniels (lead vocals), Eileen Gilbert, Christine Spencer, Maeretha Stewart (backing vocals)。

このアルバムの最大の特徴は、ハッチャーソンのリーダー作として初めてボーカル(合唱)を全面的に取り入れたこと。というか、それまでの「新主流派」ヴァイブの雄、モード&フリーなヴァイブを誇ったハッチャーソンが、いきなりボーカルを取り入れた。
 

Bobby-hutchersonnow

 
それは、冒頭の「Slow Change」の出だしから始まる。いきなり、男性ボーカルが、それも、ソウルフルな、R&Bなボーカルが入って、ゴスペルな女声コーラスがバックで唄う。

しかし、バックの演奏はと耳を傾けると、ハッチャーソンのヴァイブ以下、ハロルド・ランドのテナーなど、かなり硬派は新主流派ジャズをやっている。モード、時々フリーなアドリブ部の展開は水準以上の優れた演奏。

それを思うと、そもそも、このアルバムにボーカルが必要だったのか、と思ってしまう。歌詞の内容は、社会的メッセージがメインで、当時のアフリカ系アメリカ人の権利意識や精神的連帯を反映していて、かなり直接的なアジテーションで、ジャズには向かないと僕は思う。

ボーカルが入ったお陰で、当時、流行中のスピリチュアル・ジャズな雰囲気や、サイケデリック・ジャズな音要素が吹かされてはいるが、ここまで、場違いなボーカルを充てられると、このアルバムをどう聴いてよいのかが判らなくなる。ただ、ラテン・パーカッションやファンキーな要素を融合させた「レア・グルーヴ」的な側面も持っているので、そちらの方面に興味が強いジャズ者の方々には興味深い内容になるだろう。

ただ4曲目の「The Creators」だけは、ハロルド・ランドのテナーとハッチャーソンのヴァイブ、スタンリー・カウエルのエレピが大活躍、モーダルでスピリチュアルな整然とした即興演奏的な展開で、ゴスペルチックな呪術的な女性コーラスと相まって、スピリチュアルなモード・ジャズの演奏として、抜群の成果を上げている。この1曲だけは聴き逃せない。
 
 

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2026年5月 1日 (金曜日)

ジャパン・ミーツ・ジャズの一枚

このアルバムの副題は「ジャパン・ミーツ・ジャズ」で、独のMPS(SABA)レコードの「ジャズ・ミーツ・ザ・ワールド」シリーズの一作である。いわゆる「和洋折衷ジャズ’の好盤。3人の琴奏者(白根きぬ子、野坂恵子、宮本幸子)を加え、日本の伝統楽器である「琴」を本格的にジャズへ取り入れた斬新な構成が特徴。

白木秀雄『Sakura, Sakura』(写真左)。1965年11月1日、ベルリンでの録音。MPS(SABA)レコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Hideo Shiraki (ds), Terumasa Hino (tp), Takeru Muraoka (ts, fl), Yuzuru Sera (p), Hachiro Kurita (b), Keiko Nosaka (koto : A1, A3, B1, B3), Kinuko Shurane (koto ; 曲: A1, A3, B1, B3), Sachiko Miyamoto (b-koto : 曲: A1, B1, B3)。

英語表記では「Hideo Shiraki Quintet + 3 Koto Girls」とある。フロント2管に、日野皓正のトランペット、村岡 建のテナー&フルート、リズム隊に、世良譲のピアノ、栗田八郎のベース、白木秀雄のドラム。この白木がリーダーのクインテットに、琴奏者が3人入った、オクテット編成。「琴」が前面的に入った、わが国のジャズ独特の、和楽器「琴」と洋楽器の融合、メインストリーム志向のクロスオーバー・ジャズである。
 

Sakura-sakura

 
琴を単なる「和の飾り」としてではなく、モダン・ジャズのアンサンブルに深く組み込んでいて、「琴」をジャズ楽器の一つとして扱ったアレンジは特筆に値する。: 琴の「間(ま)」を活かしつつ、4ビートの上で琴が即興演奏を繰り広げる展開は、当時のジャズ界でも類を見ない実験性を保っている。八城一夫による編曲が素晴らしい。良く書けている。フルートを尺八の代替として、似せた音色で吹くのもユニーク。

演奏の基本は「モード・ジャズ」。冒頭の「さくらさくら」を聴けば良く判る。琴のアルペジオから始まり、次第に熱を帯びるモーダルな展開。2曲目の「よさこい節」は、日本の土着的なリズムをジャズのグルーヴに上手く変換。4曲目の白木オリジナルの「祭りの幻想」は新アレンジ。日本の祭囃子のリズムとジャズの融合がユニーク。そして、5曲目「Alone, Alone and Alone」は日野のオリジナル曲。この曲では琴を省いた白木クインテットだけの演奏になる。

単なる和風ジャズの枠を超え、当時の世界のジャズシーンに対する「日本からの回答」とも言える歴史的一枚で、米国の日本贔屓のジャズ者には堪えられない内容ではないだろうか。和楽器を活用しているとはいえ、しっかりとジャズしているところは大いに評価しても良い。ただし、琴が参加する必然性については「疑問」に感じるのは否めない。そういう意味で、この盤は普遍的なジャズ盤では無く、企画盤であり実験作なんだろう。
 
 

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2026年4月30日 (木曜日)

ソウルフルなアンドリュー・ヒル

メロディーの断片、落ち着きなく変化する音階、濃密な多色和音、予測不能なリズム。自由度の限りなく高いモードからややフリー。突出した個性で、1960年代前半、遅れてきた鬼才ピアニストとして、記憶に残るピアニスト、アンドリュー・ヒル。そんな鬼才ピアニストが、1960年代終盤、ブルーノートの4300番台では、大変貌を遂げていく。

Andrew Hill『Lift Every Voice』(写真左)。1969年5月16日、Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ,での録音。ブルーノートの4330番。ちなみにパーソネルは、Andrew Hill (p), Woody Shaw (tp), Carlos Garnett (ts), Richard Davis (b), Freddie Waits (ds)。ここに、7人のボーカル&コーラスが入る。

ゴスペル風混声コーラスを導入した鬼才ピアニストのソウル・ジャズ&ジャズ・ファンク。それも、完璧に筋が通ったソウル・ジャズ&ジャズ・ファンクでは無い。ところどころ、我慢が出来なくなったのだろうか、ヒルのもともとのピアノの個性である、メロディーの断片、落ち着きなく変化する音階、濃密な多色和音、予測不能なリズム。自由度の限りなく高いモードからややフリーなピアノ、テナー、トランペットが出ては引っ込み、出ては引っ込む。

冒頭の「Hey Hey」で、ひっくり返る。アウト気味のテナーが出てきて、これは限りなくフリーなモーダルな展開かと思ったら、いきなり、ライトでゴスペルチックな混声コーラスが出てきてビックリ。これは、当時流行っていた「ライトなジャズ・ファンク」かと思ったら、またまたアウト気味のフリーキーなテナーが出てきて、モーダル&フリーなテナーを吹きまくり、そのうち、トランペットまで、同調したフレーズを吹きまくる。
 

Andrew-hilllift-every-voice

 
そして、ライトでゴスペルチックな混声コーラスがこれに絡む。バックで我関せずと、ヒルが、メロディーの断片、落ち着きなく変化する音階、濃密な多色和音、予測不能なリズム。自由度の限りなく高いモードからややフリーなピアノを悠然と弾きまくっていく。なんなんだ、この演奏は。

2曲目の「Lift Every Voice」に至って、これは従来のヒル・サウンドを踏襲したカルテット演奏、これは以前と変わらない、ヒル独特の「フリー、スピリチュアル、アバンギャルドなジャズ」を展開している。そこに、ライトでゴスペルチックな混声コーラスが絡んで、ソウル・ジャズ&ジャズ・ファンクな雰囲気を醸し出す、そんなアレンジの仕掛けになっているのが判る。

しかし、これなら、ライトでゴスペルチックな混声コーラスは要らないんじゃ無いか、とも思うんだが、録音年は1969年。ソウルフルな要素、ジャズ・ファンクな要素は、当時の大手ジャズ・レーベルからすると、必須の「サウンド要素」だっただろう。そうじゃないとアルバムが売れないと思い込んでいたフシがある。この盤だって、ライトでゴスペルチックな混声コーラスを当てることで、ソウル・ジャズ&ジャズ・ファンクな雰囲気を醸し出そうとしている。

しかし、メインストリームなジャズ、純ジャズ路線は不滅なんだから、ヒルのアルバムは、ヒルの個性のままで、制作〜リリースし続けても良かったのではないか。このライトでゴスペルチックな混声コーラスのお陰で、カルロス・ガーネットとテナー、ウッディ・ショウのトランペットの、アウト気味で限りなくフリーでモーダルな展開が心ゆくまで堪能出来ない。

このアルバム、しっかり聴くと、ヒルのカルテット演奏、ヒル独特の「フリー、スピリチュアル、アバンギャルドなジャズ」が素晴らしいだけに、このソウル・ジャズ&ジャズ・ファンクな雰囲気を醸し出そうとするアレンジが残念である。
 
 

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2026年4月14日 (火曜日)

ECMらしいテナー・トリオの記録

やっと春らしくなった、というか、今年の春は暖かい、というか、暑い(笑)。でも、部屋の中の雰囲気は、明らかに「春」で、少し窓を開けて、春風を入れながら聴くジャズは格別なものがある。そして、そんな「春」の昼下がりの雰囲気に合うジャズのひとつに「ECMジャズ」がある。そのECMジャズをカタログ番号順に記事にしてきて、今、「ECM Records Discography 1101-1199番」を走っている。

Paul Motian Trio『Dance』(写真左)。1977年9月の録音。ECMの1108)番。ちなみにパーソネルは、Charles Brackeen (ss, ts), David Izenzon (b), Paul Motian (ds, perc)。ECMの録音とはいえ、トリオの3人は米国出身。このトリオについては、ピアノレスのテナー、ベース、ドラムスのトリオ編成。リーダーはドラマーのポール・モチアンという異色作。

ハードバップ時代からの職人芸ドラマーのポール・モチアンがリーダー、サックス奏者のチャールズ・ブラッキーンとベーシストのデヴィッド・アイゼンゾンが参加してした、ピアノレス・トリオの演奏である。加えて、サックスのブラッキーンとベースのアイゼンゾンは、米国出身のジャズマンではあるが、マイナーな存在。そんな一種危うい編成のトリオ演奏なのだが、さすがはECM、なかなか内容の整った演奏内容に感心する。
 

Paul-motian-triodance

 
内容的には、限りなくフリーに近いモーダルな演奏がメインで時々フリー。メロディー・フレーズは、フロント管のチャールズ・ブラッキーンのサックスに依存するしか無いのだが、これがまずまず健闘している。凄まじくモーダルに展開する訳ではないのだが、欧州ジャズ的なクールな熱の入った、まずまずモーダルなサックスは合格点。そこに、アイゼンゾンのベースが、やはりモーダルに絡み、モチアンのドラムが演奏全体のトーンと展開をコントロールしている。

ピアノレスのテナー・トリオなんだが、ダレたり単調になったりするところが無いのは立派。3者3様のパフォーマンスを基に、適度なテンションを張ったインタープレイを展開しているところが、即興演奏をジャズとしている、ECMレーベルの音。モーダルなアイゼンゾンのベースは意外と良い。モーダル時々フリーな演奏を見事にコントロールするモチアンのドラムはさすがである。

僕がこのピアノレス・テナー・トリオの演奏を知ったのは数年前。トリオの3人とも米国出身なのに、出てくる音は欧州のECMジャズの音。ECMレーベルの録音についての音作りの個性、限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音と、ECMの総帥プロデューサー、マンフレート・アイヒャーの強烈なプロデュース力を再認識する。ECMらしい、ピアノレス・テナー・トリオの演奏の記録である。
 
 

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2026年3月21日 (土曜日)

1966年のマクリーン・その2

録音年月日、録音場所を見ると、昨日、当ブログでご紹介した『Dr. Jackle』と同一日、同一場所のライヴ音源になる。記録を見てみると、『Dr. Jackle』の収録曲からの流れで、この『Tune Up』の収録曲になっているみたい。記録によると、1966年12月18日、米国ボルチモアのジャズ・ソシエティ「Left Bank」でのライヴ音源は全11曲。そのうち、前半5曲が『Dr. Jackle』に、後半6曲が『Tune Up』に収録されている。

Jackie McLean『Tune Up』(写真左)。1966年12月18日、米国ボルチモアのジャズ・ソシエティ「Left Bank」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、SteepleChase Recordsから1979年のリリース。ちなみにパーソネルは、Jackie McLean (as), LaMont Johnson (p), Scotty Holt (b), Billy Higgins (ds)。

つまり、『Dr. Jackle』と、この『Tune Up』を併せて、1966年のジャキー・マクリーンのライヴ・パフォーマンスが体験出来るということ。こちらのパフォーマンスも、マクリーン流のモード・ジャズをガンガンに展開している。限りなくフリーに近いが、しっかりと秩序と統制がとれたモード。マクリーンの考える「限りなくフリーに近いモード」。マクリーンのオリジナルである。
 

Jackie-mcleantune-up

 
雰囲気的には、エリック・ドルフィーのパフォーマンスに類似性がある。ドルフィーは、フレーズが、セロニアス・モンクのピアノの様に「飛んだり跳ねたり」するが、マクリーンは流麗。しかし、二人とも、それぞれなりに「人が吹かないフレーズ」を吹きまくる。決して「フリー」ではない。あくまで、秩序があり、統制がとれた、クールで熱い吹奏である。

バックのリズム・セクションが、オーネットのバンド・メンバーというのも興味深い。オーネットのバンド・メンバーを借りてきているのであれば、オーネット流のフリーな吹奏を踏襲するのでは、と思いきや、マクリーンはそうなならない。あくまで、マクリーン流の「限りなくフリーに近いが、しっかりと秩序と統制がとれたモード」なフレーズを吹きまくる。

こういうところに、マクリーンの矜持を感じる。決して、人後に落ちない、あくまで、その時代その時代のジャズの演奏トレンドをいち早く押さえつつ、オリジナルな自分の個性的な吹奏を追求する。進化するアルト・サックス奏者、マクリーンの面目躍如的なライヴ・パフォーマンスがこの盤にも記録されている。録音が少し悪いが気にならない。マクリーンのパフォーマンスが圧倒的である。
 
 

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