2026年6月 7日 (日曜日)

早すぎた精神的ジャズ・ファンク

ブルーノートの4300番台。ここまでくると、胸を張って「ジャズ」とは言いにくい。しかし、バックの演奏は上質のジャズ・ファンク。本作は、1970年代初頭、ホレス・シルヴァーが展開した三部作プロジェクト『The United States of Mind』の「Phase 2(第2章)」にあたる意欲作。ファンキー・ジャズの巨匠がソウルやファンク、ボーカル・ジャズへと大胆に接近した、レア・グルーヴ視点から、極めて評価の高い好盤として評価されている。

Horace Silver Quintet/Sextet With Vocals『Total Response』(写真左)。1970年11月15日 (#1, 2, 6, 9), 1971年1月29日 (#3–5, 7, 8) の録音。ブルーノートの4368番。ちなみにパーソネルは、Horace Silver (el-p), Cecil Bridgewater (tp, flh), Harold Vick (ts), Richie Resnicoff (g), Bob Cranshaw (el-b), Mickey Roker (ds), Salome Bey (vo, 1, 2, 5–7, 9), Andy Bey (vo, 3, 4, 8)。

それまでのハード・バップ〜ファンキー・ジャズ路線から一転、シルヴァーがエレクトリック・ピアノ(フェンダー・ローズ)を本格的に導入、アンディ・ベイとサロメ・ベイという実力派シンガーを起用、メッセージ性の強い歌詞を歌わせて、瞑想や精神の統一といった精神世界、そして当時の米国社会へのメッセージが融合した、コンセプチュアルで政治的な時期の作品である。

冒頭「Acid, Pot or Pills」は、ドラッグ依存への警告。2曲目「What Kind of Animal Am I?」は、人間の本質への問いかけ。3曲目「Won't You Open Up Your Senses」は、五感の解放。4曲目「I've Had a Little Talk」は、内省と自己との対話。5曲目「Soul Searchin'」は、自己探求。
 

Horace-silver-quintetsextet-with-vocalst  

 
6曲目「Big Business」は、巨大企業・資本主義への批判。7曲目「I'm Aware of the Animal Within Me」は、人間の野蛮性の自覚。8曲目「Old Mother Nature Counts Her Children」は、大自然への回帰。9曲目の「Total Response」は、精神と肉体の完全なる調和。

シルヴァーのフェンダー・ローズは、浮遊感とサイケデリックな響き。しかし、伝統のファンキー・リフは健在。コードのボイシングには独特のジャジーな緊張感があり、単なるポップスに流されないジャズマンとしての矜持が演奏に表れているところが、やはり、この盤は「コンテンポラリーなジャズ」である。楽器として機能するベイ兄妹の圧倒的な歌唱も、単に「メロディを歌う」だけでなく、「アンサンブルの一部」として完璧に機能している。

クランショウのエレベと、ローカーのドラムのファンク・グルーヴがこれまた良い。レスニコフのカッティングと彩りを与えるギターの系かな推進力。ブリッジウォーターのトランペットと、ヴィックのテナーの2管フロントは、1960年代の爆発するようなハード・バップのソロ回しとは異なる、「楽曲のメッセージ(歌詞)を支えるための知的なアンサンブル」に徹して、これもまた見事。

アルバムのサブタイトルにある『The United States of Mind(人心連合)』とは、「人間の精神(Mind)の中にある様々な要素が、アメリカ合衆国(United States)のように一つに団結・調和しなければならない」というシルバー独自の哲学。1970年代初頭の混沌とした米国社会(ベトナム戦争、ドラッグの蔓延、物質主義の台頭)に対し、シルバーは「精神性の回復」「心と身体の健康」「平和」を音楽で訴えようとした。その成果の一つがこのアルバムである。
  
 

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2026年6月 3日 (水曜日)

尖ったジャズ・ファンクの萌芽

ジャズ・オルガン奏者ジョン・パットンが録音したソウル・ジャズ志向のオルガン・ジャズである。1970年に録音されながら、録音当時は「お蔵入り」。26年後の1996年に、初めて陽の目を見た「幻のセッション」である。伝統的なこってこてのソウル・ジャズやファンク、ブルースのグルーヴをベースにしつつ、当時の流行でもあった、実験的でアヴァンギャルドな要素(やや尖った「アウト」な演奏)を取り入れているのが特徴。

John Patton『Memphis To New York Spirit』(写真左)。1970年6月9日(tracks 6~8), 10月2日(tracks1~5), Van Gelder Studioでの録音。リリースは1996年。ブルーノートの2366番。ちなみにパーソネルは、Big John Patton (org), Marvin Cabell (ts, ss, fl), George Coleman (ts :tracks 6–8), James Blood Ulmer (g :tracks 1–5), Leroy Williams (ds)。

1970年10月2日のセッション(tracks1~5)については、マーヴィン・キャベルのサックスと、ジェームズ・ブラッド・ウルマーが、ところどころで、やや尖った「アウト」な演奏をしていて、ソウル・ジャズというよりは、ソウル・ジャズな雰囲気を借りた、温和なアヴァンギャルド志向のコンテンポラリー・ジャズといった雰囲気。ただ、その突っ込みと徹底が曖昧で、悪くは無い、水準以上の演奏なのだが、中途半端感が漂うのが残念。
 

John-pattonmemphis-to-new-york-spirit

 
中途半端感が漂うが、内容的には、アヴァンギャアルドなジャズ・ファンクという新しい演奏トレンドが芽生えているのが判る。アヴァンギャルドといえば「フリー・ジャズ」だったところに、ソウル・ジャズのファンクネスを強めて、アヴァンギャルドな演奏要素を取り入れるという大胆な演奏方針の変更をしているところが興味深い。ソウル・ジャズが最後に陥った「商業主義的なアプローチ」を全面的に払拭している。

1969年6月9日のセッション(tracks 6~8)では、テナーにジョージ・コールマンが入っていて、このセッションの3曲は、コールマンの十八番である「モーダルな」演奏がセッション全体に影響して、ソウル・ジャズに、当時の「新主流派」のモーダルなパフォーマンスを持ち込んだ、オルガンがメインのポスト・バップな、個性的な演奏が展開されている。モーダルに展開するジョン・パットンのオルガンは興味深い。

本作は当初、ブルーノートの「BLP 4364」というカタログ番号が与えられ、発売が2度も計画されながらも見送られた、ブルーノートお得意の「何故だか判らないお蔵入り盤」。時代の変化やレーベルの体制変更によりマスターテープ倉庫に眠り続け、録音の26年後、1996年にマイケル・カスクーナらの監修による『Blue Note Groove Series』の一環として世界で初めてCD化。「尖ったファンクグルーヴ」漂うユニークな内容は発掘されて良かったと思う。好盤である。
 
 

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2026年6月 2日 (火曜日)

極上ソウル・ジャズ・パーティー

米国のジャズ・オルガン奏者ルーベン・ウィルソン(Reuben Wilson)の、ソウルフルでファンキーなジャズ・ファンク盤である。全体の音的には、ソウル・ジャズというよりも、軽くアーシーなリズム&ビートをメインにしたジャズ・ロック&ジャス・ファンクという雰囲気で、1960年代のソウル・ジャズとは、グルーヴが縦ノリなのが特徴。

Reuben Wilson『A Groovy Situation』(写真左)。1970年9月18 & 25日、Van Gelder Studioでの録音。ブルーノートの4365番。ちなみにパーソネルは、Reuben Wilson (org), Earl Turbinton (as), Eddie Diehl (g), Harold White (ds)。滑らかでファンキーなグルーヴを湛えた、楽しいクロスオーバー・ファンキーなアルバムである。

ルーベン・ウィルソン自身、前作『Blue Mode』(1969年)の硬派な路線から、本作では意図的にポップで親しみやすい「コマーシャル・ルート」へと舵を切った、ということだろう。ジャズ者(ジャズ・マニア)に対してだけでは無く、幅広いリスナー層にアプローチを試みた、キャッチーな作品として評価できる。
 

Reuben-wilsona-groovy-situation  

 
ポップス&ソウルのカバーが中心で、当時のヒット曲に対して、大胆にジャズ・ファンクなアレンジを充てている。乾いた明るい粘り気のあるソウルフルな、そしてR&Bな音色と、タイトなリズム・セクションが融合して、このアレンジに乗って、滑らかでファンキーなグルーヴを醸し出している。ジャズ者御用達の濃厚なグルーヴではない、軽快で明るい傾向のグルーヴである。

4曲目「A Groovy Situation」は、メル&ティムの有名なシカゴ・ソウル名曲をカバーしたタイトル曲。5曲目「Happy Together」は、ポップロックなバンド、ザ・タートルズの代表曲をソウルフルなジャズ・ファンクへ大胆カバー。6曲目「Signed, Sealed, Delivered I'm Yours」は、スティーヴィー・ワンダーの大ヒット曲をジャズ・ファンクにアレンジ。

レーベル全体がジャズ・ファンクやソウル・ジャズ、そして商業的でキャッチーな路線へシフトしていく過渡期を象徴する、ファンクやR&B、ロックの要素を取り入れたサウンドが全盛の中での、ブルーノートの「コマーシャル路線」への挑戦の音である。難しいことを考えずに、純粋に、滑らかでファンキーなグルーヴを楽しむ盤だろう。ながら聴きに最適な好盤である。
 
 

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2026年6月 1日 (月曜日)

ジャズ喫茶で流したい・324

1960年代終盤、大手レコード会社の傘下に入ったブルーノートは、いわゆる、売らんが為の「明らかに聴き手に迎合した、売れ筋を意識した、ライトで聴き易いジャズ」の制作に舵を切る。イージーリスニング志向の「ファンキー&ソウル・ジャズ」、そして「軽快で優しいジャズ・ファンク」なアルバムを制作する。そんな中で、時折、メインストリーム志向のポスト・バップなアルバムも作ったりしていたけど。

Bobby Hutcherson Featuring Harold Land『San Francisco』(写真左)。1970年7月15日、ロサンゼルスの「United Artists Studios」での録音。ブルーノートの4362番。ちなみにパーソネルは、Bobby Hutcherson (vib, marimba, perc), Harold Land (ts fl, oboe), Joe Sample (p, el-p), John Williams (b, el-b), Mickey Roker (ds)。

1970年代に入って、ブルーノートのアルバム制作の方向性が変わっていく。大衆向けの「売れ筋を意識したライトで聴き易いジャズ」は控えめに、当時の音楽のトレンドであった、サイケデリック、スペーシー、アーシーな、ジャズ・ロック&ジャズ・ファンクなアルバムの制作に方向転換する。このアルバムはその最初の一枚といっていいかもしれない。

サイケデリック、スペーシー、アーシーな音要素を取り入れたことにより、単なるジャズ・ファンクに留まらない、スピリチュアルな深みを獲得している。その深みの中で展開される、限りなく自由度の高いモーダルなインプロビゼーションが、純ジャズっぽく、メインストリーム志向に映えに映える。
 

Bobby-hutcherson-featuring-harold-landsa

 
冒頭「Goin' Down South」では、アーシーでファンキーな演奏が展開される。まるで、1970年代前半のキース・ジャレットの様な、ゲイリー・バートンの様な、アーシーでファンキーな音世界。この演奏に「売らんが為」のバイアスは感じ無い。ハッチャーソンのヴァイブ、ハロルド・ランドのテナーのアドリブ展開はモードそのもの。アーシーなリズム&ビートを敬遠してはならない。1970年代を台憑依する、純ジャズの音世界の一つである。

2曲目の「Prints Tie」では、がらっと変わって、サイケデリックで、妖艶で耽美的、そして、スペーシーな「ニュー・ジャズ」な演奏が展開される。まるで、1970年代のECMレーベルの様な音世界。現代音楽的要素も見え隠れし、リズム&ビートの取り方は、あきらかにニュー・ジャズ志向。とても米国ジャズの音世界とは思えない、絶妙な名演である。

この冒頭からの2曲が、このアルバムの全体の雰囲気を決定付けている。1970年代の新しいジャズの音世界がこの盤に展開されている。ジャズ・レーベルの老舗、ブルーノート・レーベルの面目躍如。クルセイダーズ(当時はジャズ・クルセイダーズ)のメンバーとして知られるジョー・サンプルのエレピと、フェンダー・エレベースの使い手、ジョン・ウィリアムスのエレベのグルーヴが明らかに「新しい」。

この「新しい」リズム&ビートのグルーヴに乗って、ハッチャーソンのヴァイブと、ランドのサックスが飛翔し疾走する。モーダルに、限りなく自由に、時にフリーに展開するインタープレイは見事という他は無い。1970年代ジャズの「隠れ名盤」である。
 
 

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2026年5月30日 (土曜日)

ルーさんのジャズ・ファンク好盤

1960年代後半からドナルドソンが精力的に取り組んでいた、ソウル・ジャズ&ジャズ・ファンク路線のアルバムの中で、最もポップでイージーリスニング志向なアルバム。

後のフュージョン・ジャズのイージーリスニング志向盤と比べても、引けを取らない内容である。あまりに、ポップでイージーリスニング志向なので、硬派な純ジャズ者の方々からは毛嫌いされる傾向にあるが、後年のレア・グルーヴやヒップホップのサンプリング・ソースとしても非常に高く評価されている。

Lou Donaldson『Pretty Things』(写真左)。1970年1月9日、6月12日の録音。ブルーノートの4359番。ちなみにパーソネルは、Lou Donaldson (varitone-as, vo), Blue Mitchell (tp), Lonnie Smith (org, track 1), Leon Spencer (org, tracks 2–6), Melvin Sparks (g, track 1), Ted Dunbar (g, tracks 2–6), Jimmy Lewis (el-b, track 1), Idris Muhammad (ds)。

冒頭、パティ・ペイジなどの歌唱で有名な往年の名曲「Tennessee Waltz」を、ゆるゆるのブルース・ロック調のキャッチーなビートでのカバーが出てくるので面食らう。あまりに俗っぽくて、あまりにイージーなカバーなので、これはなあ、と思うんだが、じっくり聴いていると、演奏するメンバーが、ハードバップ後期から活躍する一流どころなので、意外と演奏自体は充実している。なので、演奏途中で飽きることは無い。
 

Lou-donaldsonpretty-things

 
逆に、こんなにポピュラーで俗っぽい曲をテーマに据えても、アドリブ部に入ると、上質な純ジャズ調のアドリブが展開されるからたまらない。この「上質な純ジャズ調のアドリブ展開」が、後のフュージョン・ジャズに欠けていくところなので、このルーさんの「テネシー・ワルツ」のカバー演奏は隅に置けない。

5曲目の「Pot Belly」の8分に渡る、イージーリスニング志向のソウル・ジャズ&ジャズ・ファンクな演奏が象徴的。イドリス・ムハマッドによる、タイトで重いドラム・ブレイクから始まり、ヴァリトーン・サックスのソウルフルな音色、ファンキーでパーカッシヴなオルガン、重低音溢れるジャズ・ファンクなエレベのライン。その独特な、ちょっとダルでサイケな部分が見え隠れする音世界は、ジャズ・ファンクの名演のひとつだろう。
 
ラストの「Love」は、ナット・キング・コールなどの歌唱で世界的に大ヒットしたポップ・ナンバー「L-O-V-E」のカバー。ハッピーで爽快なグルーヴ、メインストリーム志向のアドリブ展開、ブルー・ミッチェルのトランペットもブラスの響きがブリブリ輝いている。テッド・ダンバーの「ヘタウマ」ファンキーなエレギが、演奏全体のグルーヴ感を煽っている。

ルーさんのアルト・サックスは全編に渡って絶好調。当時流行していた電子エフェクターを通した「ヴァリトーン(Varitone)」サックスも演奏しており、よりディープで太いファンク・サウンドを響かせていて良好。ポップでイージーリスニング志向なアルバムだが、意外とメインストリームしていて、聴き応えがある。好盤。
 
 

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2026年5月29日 (金曜日)

サイケなジャズ・ファンク盤です

マクダフが1969年から1971年にかけてブルーノートに残した4枚のアルバムのうち、最後の作品。ソウル・ジャズ、ジャズ・ファンク、そしてサイケデリック・ジャズな要素がほどよく融合した、実験的な演奏内容がユニーク。そして、更にユニークなのが、楽曲提供とアレンジを、ハードバップ時代の変わり種ジャズマンの一人、チューバ奏者のレイ・ドレイパーが担当している。

Brother Jack McDuff『Who Knows What Tomorrow's Gonna Bring』(写真左)。1970年12月1–3日、ブルーノートの4358番。ちなみにパーソネルは、Brother Jack McDuff (org), Randy Brecker, Olu Dara (tp), Dick Griffin, John Pierson (tb), Paul Griffin (p), Joe Beck (g), Tony Levin (el-b), Donald McDonald (ds), Mike Mainieri (perc), Ray Draper (perc, vo, tuba, arr)。

全編に渡って、ポップ色豊かな、ライトで明るいジャズ・ファンクが展開され、その中で、怪しげなサイケデリック・ジャズな要素が忍ばされていたり、オルガンの弾きっぷりは、ジャズというよりは、ロックな響きと乾いた音色が大半を占めていたり、一風変わったファンクネスを伴いながら、スペーシーなポップ・ロックな音世界がユニーク。
 

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ジョー・ベックのエレギは、R&B志向+サイケデリック色なエレギで、ジャズ・ファンクというよりは、ファンク・ロック風の乾いたオフビートの粘らないファンクネスを前提としたエレギで、これはこれで、やっぱりユニーク。後にピーター・ガブリエル・バンドやキング・クリムゾン等で活動するトニー・レヴィンが、ジャズ・ファンクなベース・フレーズを弾きまくっているのもユニーク。

楽器の定位が浮遊するような不思議な音響ミックスがユニークで、従来のコッテコテなソウル・ジャズ(コテコテのオルガン+サックス+ギター)とは一線を画する。この浮遊感がサイケデリックな雰囲気に直結している。バックのサウンドには、サックスなどの木管楽器を一切排除し、トランペット、トロンボーン、チューバという金管楽器(ブラス)のみを配置して、アルバム全体に独特の「泥臭さ」と「重量感」を与えている。

なんか聴いていて、どこか「隅に置けない」好盤。従来のコッテコテなソウル・ジャズではない、サイケデリックな、ポップでロックで、どこか明るいジャズ・ファンクという雰囲気がとにかくユニーク。特にラストの「Wank's Thang」は、そんな雰囲気の代表的演奏だと感じていて、どこかディスコ調が漂う、マイルドでメロウなグルーヴが芳しい、マクダフのどこか哀愁あるオルガン・プレイが心地良い。
 
 

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2026年5月28日 (木曜日)

レア・グルーヴなキャンディド

キューバのジャズパーカッショニスト、カンディド・カメロのリーダー作。“千の指を持つ男(Thousand Finger Man)”と称された彼が、アフロ・キューバンの強烈なリズムと、当時のアメリカのソウル・ジャズ、ファンクの要素をスタイリッシュに融合させたレア・グルーヴの、後のフュージョン・ファンクを先取りした名盤である。

Candido『Beautiful』(写真左)。1970年10月20 & 27日の録音。ブルーノートの4357番。ちなみにパーソネルは、Candido Camero (conga, bongos), Bernie Glow, Pat Russo (tp), Alan Raph (tb), Joe Grimm (ss, bs), Frank Anderson (p, org), David Spinozza (g), Jerry Jemmott, Richard Davis (el-b), Herbie Lovelle (ds), Joe Cain (arr)。

ファンク系のフュージョン・ジャズの音作りと同傾向の「ジャズの即興演奏よりもダンスやグルーヴに重きを置く」音作りで、ファンキーなオルガン、エレキベース、そしてキャンディドの躍動感あふれるコンガが絡み合うソウル・ジャズ志向、ラテン・ファンク志向のエレ・ジャズ。後のフュージョン・ジャズの要素満載である。

キャンディドのパーカッションは勿論のこと、アフロ・キューバン・リズムの重鎮であるキャンディドを支える、ニューヨークのトップクラスのスタジオ・ミュージシャンたちによるタイトでハイレベルな演奏が素晴らしい。ファンキーなカッティングギター、うねるエレベのグルーヴなライン、パーカッションと完璧にシンクロする重厚なドラムが、キャンディドのパーカッションを逆に映えに映えさせている。
 

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ジョー・ケインのプロデュース&アレンジが抜群。ソウル・ジャズ志向、ラテン・ファンク志向のフュージョン・ファンクな音作りを小粋にお洒落にグルーヴにやっている。オリジナル曲だけでなく当時流行していたポップスやR&Bのカバーも含まれていて、このアレンジも優秀。

2曲目「Tic Tac Toe」は、Booker T. & the M.G.'sの名曲をカバーした、タイトなリズムのファンキーナンバー。初めて聴くと、この演奏は、1970年代後半のフュージョン全盛時代の優れたフュージョン・ファンクな演奏と錯覚するくらいの充実した、グルーヴィーなジャズ・ファンク・チューン。

3曲目の「Hey, Western Union Man」は、ジェリー・バトラーのR&Bヒット曲のカバー。洗練されたフィラデルフィア・ソウルと、アフロ・キューバンの熱いダイナミズムが見事にクロスオーバーした、アルバム随一のファンキー・トラック。分厚いホーン・アンサンブルとコンガの掛け合い、スピノザのカッティングギター、ジェモットによる重厚な「イカした低音」のエレベ。

キャンディドが主役でありながら、ソロで目立つのでは無く、「強力なニューヨークのバックバンドのキーマン」として、アンサンブルのグルーヴを、パーカッションで増幅させる役割に徹している。これが、このアルバムを「レア・グルーヴの名盤」化しているのだ。
 
 

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2026年5月22日 (金曜日)

アーバンなファンクネスとソウル

ジェームス・ブラウン風の泥臭いファンク、ストリート感溢れるジャズ、そしてアフリカ的なリズムを、彼の代名詞であるハモンドオルガン(B-3型)のカラフルな音色で包み込んだ、アーバンなファンクネスとソウルに満ちた内容である。

Lonnie Smith『Drives』(写真左)。1970年1月2日の録音。Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jerseyでの録音。ブルーノートの4351番。ちなみにパーソネルは、Lonnie Smith (org), Dave Hubbard (ts), Ronnie Cuber (bs), Larry McGee (g), Joe Dukes (ds)。

ジャズ・オルガン奏者ロニー・スミス(Dr. Lonnie Smith)のソウル・ジャズ/ファンク・ジャズの佳作。アーバンでウォーム、ソウルフルかつエモーショナルなグルーヴが蔓延している。オリジナル盤は全5曲で構成されており、ジャズのスタンダードから当時のR&B/ポップスのカバーまで幅広く収録されている。

1.Twenty-Five Miles(エドウィン・スターのファンク・ナンバー)
2.Spinning Wheel(ブラッド・スウェット&ティアーズの大ヒット曲)
3.Seven Steps to Heaven(マイルス・デイヴィスの名演曲をアレンジ)
4.Psychedelic Pi(ロニー・スミス自身のオリジナル楽曲)
5.Who's Afraid of Virginia Woolf?(ジミー・スミスの名演で知られる佳曲)
 

Lonnie-smithdrives

 
ロニー・スミスのオルガンをメインに、デイヴ・ハバードのテナーとロニー・キューバ―のバリサクの2管に加えてラリー・マギーのギター、ノリの良いタイトなドラムはマクダフ・バンドのジョー・デュークス。ジャズ・シーンを見渡した時、ロニー・スミス以外、あまり名の通ったメンバーでは無いが、出てくるグルーヴ感は一流。

ロニー・キューバーが奏でるバリトンサックスの太い低音ラインが、ロニーの操るフットペダル(足鍵盤)によるベースラインと効果的に絡み合い、ロック曲やファンク曲にも引けを取らない、小粋でヘビーなグルーヴを生み出している。

晴れ渡る青空のもと、当時の最新型高級車(1970年型リンカーン・コンチネンタル)のサンルーフから美女と共に顔を出すロニーの姿を捉えたジャケットは、「車の中で窓全開で聴くのに最高の音楽」というアルバムのコンセプトとのこと。

そういう意味では、このアルバムも商業主義に傾いた、売らんが為のイージーリスニング志向のオルガン・ジャズということになる。ただし、そこはブルーノート。演奏内容は及第点以上、アレンジもポップでファンキーで良好。アルバムの演奏自体のクオリティは高いと言える。
 
 

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2026年5月20日 (水曜日)

ジャズ喫茶で流したい・323

マクグリフのオルガンの個性満載。洗練されたブルース感覚、ゴスペルなど教会音楽の取り込み、抜群のタイム感が生み出す泥臭いグルーヴがマクグリフのオルガンの個性。彼独特のアーシー名音色、左手と足鍵盤による強烈なウォーキング・ベース、独特の「間」とパーカッシブな打鍵、そして、ドローバー(音色調整レバー)の見事なコントロール。マクグリフのオルガンは、その響き、音色、弾き回し、どれをとっても独特の個性。

Jimmy McGriff『Electric Funk』(写真左)。1969年9月、NYでの録音。ブルーノートの4350番。ちなみにパーソネルは、Jimmy McGriff (el-org), Blue Mitchell (tp), Stanley Turrentine (ts), Horace Ott (el-p, arr), Unknown (g), Chuck Rainey (el-b), Bernard Purdie (ds)。ギターが誰だか判らないセプテット編成。

ソウル・ジャズ/ジャズ・ファンクな演奏ではあるが、こってこてファンキーなグルーヴに乗って疾走するマクグリフのオルガンは、それまでの4ビート中心のハードバップではない、ジャズ志向のアレンジによる、8ビートの「オルガンで唄う」R&B=ソウル・ミュージックそのものである。なので、それまでのブルーノート4300番台のオルガン・ジャズ盤が陥り易かった、イージーリスニング志向のラウンジ風のオルガン・ジャズからは脱却している。
 

Jimmy-mcgriffelectric-funk

 
従来のメンストリーム系のモダン・ジャズとは全く異なるリズム&ビートを底に忍ばせている。ドラムの**バーナード・パーディーとベースのチャック・レイニーという、R&B/ソウル界屈指の黄金コンビがリズム&ビートを支えているところが、この盤の、8ビートのジャズ志向のアレンジによる、「オルガンで唄う」R&B=ソウル・ミュージックな雰囲気、を確実なものにしている。特にエレベの弾き出すベースラインはエグい。

ホレス・オットがアレンジするエネルギッシュなホーン・セクションの存在も大きい。「オルガンで唄う」R&B=ソウル・ミュージックの音世界を、より濃いものにしている。凄まじいファンク・グルーヴでカヴァーした、当時の大ヒットロックバンド、ブラッド・スウェット&ティアーズのヒット曲「Spinning Wheel」も、オットのアレンジに負うところが大きい。

このアルバムは、従来の4ビート&スインギーな純ジャズとは、一線を画すものではあるが、当時のソウル・ジャズ/ジャズ・ファンクの最大の成果の一つ。マクグリフのディスコグラフィーの中でも最高傑作の1つとして良いだろう。コッテコテでスマートで泥臭い、オルガン・グルーヴが全編にわたって炸裂している。ジャズ志向のアレンジによる、8ビートの「オルガンで唄う」R&B=ソウル・ミュージックとして聴けば違和感は全く無い。
 
 

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2026年5月15日 (金曜日)

ジャズ・ファンク3部作の最終盤

この盤の雰囲気、リズム&ビートからして、純粋なジャズとは言い難い。しかし、エレクトリック楽器やファンクのリズムを導入しつつも、ジャズの即興演奏に重きをおいたアレンジは、クロスオーバー・ジャズとしてのジャズ・ファンクとして聴けば違和感は無い。「ダンサフル、ファンクネス満載、グルーヴ感満載」で、後のレア・グルーヴ御用達盤である。

Joe Farrell『Canned Funk』(写真左)。1974年11-12月の録音。ちなみにパーソネルは、Joe Farrell (ts, ss, bs, fl), Herb Bushler (b), Joe Beck (g), Jimmy Madison (ds), Ray Mantilla (conga, perc)。ジョー・ファレルのCTIレーベルでの最後のリーダー作。ジャケットのぶっ飛んだデザインも強烈なインパクト。ファレルの考えるジャズ・ファンクの完成形。

冒頭のタイトル曲「Canned Funk」から、ファレルの考えるジャズ・ファンク全開。ファレルのサックスは、メインストリーム・ジャズ志向の正当派な吹きっぷりなんだが、バックのリズム&ビーとがエグい。ファンク度満点。そして、ベックのエレギがこれまたエグい。ベックの弾き出すファンクネスは半端無い。そして、ファレルとベックのユニゾン&ハーモニーから滴り落ちるファンクネスがこれまたエグい。
 

Joe-farrellcanned-funk

 
また、この盤でのグルーヴ感は特別で、当時CTIレーベルに多かった「スタジオで上品に作り込まれたフュージョン」とは一線を画した、当時のファレルのレギュラー・バンドによるライヴさながらの一発録りが、生々しいグルーヴ感を醸し出している。ファレルの正統派サックスとフルートが映えに映える録音は見事なもの。

この盤でも、ジョー・ベックのエレギの存在が大きく、ファンキーなカッティングから、ロック調の激しい歪み系ソロまで縦横無尽に弾きまくっている。そして、ベースのハーブ・バシュラーも、エフェクターを駆使したエレクトリック・ベースで強烈なうねりを創り出している。ジミー・マディソンのドラム、レイ・マンティーリャのパーカッションの「太鼓隊」の叩き出すグルーヴも半端ない。

3曲目の「Suite Martinique」などは、プログレッシブ・ロックやラテンジャズにアプローチした複雑な構成で、クロスオーバー・ジャズとしての面目躍如的な演奏。1作目"Penny Arcade" 、2作目 "Upon This Rock" 、3作目 "Canned Funk" の「ファレルの考えるジャズ・ファンク」シリーズの最終作。クロスオーバー・ジャズ志向のジャズ・ファンク盤としての佳作である。
 
 

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