2024年12月 2日 (月曜日)

この盤もグリーン後期の傑作

パッキパキ硬質でファンクネスだだ漏れなシングル・トーンのギターが個性のグラント・グリーン。グリーンの後期のギターの特色は「ファンクネスさらに濃厚」。とりわけファンキーなシングル・トーンで、彼独特のグルーヴを叩き出す。そんなグリーンの後期のリーダー作も好盤がどっさり。

Grant Green『The Final Comedown』(写真左)。1971年12月13–14日の録音。ちなみにパーソネルは、Grant Green (g), IPhil Bodner (fl, piccolo, as, oboe), Harold Vick (as, ts), Irving Markowitz, Marvin Stamm )tp, flh), George Devens (vib, timpani, perc), Richard Tee (p, org), Cornell Dupree (g), Gordon Edwards (el-b), Grady Tate (ds), Ralph MacDonald (conga, bongos), Warren Smith (marimba, tambourine)。ここに、ヴィオラ、チェロの弦楽器とハープが入る。

ブラックスプロイテーション(黒人による黒人のための映画)のサウンドトラック盤。グラント・グリーンとしては異色中の異色作になる。映画のサウンドトラックなので、あまり大きな音で目立つことはできない。バックの音と程よいバランスをとった、グリーンのギター。あまり目立たないが、ここ一発というところでは、ハッとするような、ファンクネスだだ漏れでソウルフル濃厚なパフォーマンスを聴かせてくれる。「抑制の美」である。

ピアノ、オルガンにリチャード・ティー、サイド・ギターのコーネル・デュプリー、エレベにゴードン・エドワーズ。ここにドラムのスティーヴ・ガッドがいれば、伝説のフュージョン・バンド「スタッフ」になる。グラディ・テイトのドラムも、叩き出すリズム&ビートは「縦乗り」で、どこかガッドに似ているドラミングが良い。
 

Grant-greenthe-final-comedown

 
バックのリズム・セクションが「ほとんどスタッフ」なので、演奏全体がファンキーでソウルフルで、うねるようなグルーヴを湛えたリズム&ビートが、「ファンクネスさらに濃厚」な、パッキパキ硬質なシングル・トーンのグリーンのギターにバッチリ合っている。うねる様なグルーヴに、ファンクネス濃厚なシングル・トーンのギターがよく似合う。

映画のサントラということで、ソロイストの音は控えめ、それが「抑制の美」に繋がって、演奏メンバー誰もが、逆に凄みのあるクールでヒップなフレーズを叩き出している。ゴードン・エドワースのエレベがブンブン唸り、デュプリーのサイド・ギターがファンクネスを撒き散らし、テイトのドラムがビートを刻む。バラード曲での絶妙の伴奏を披露するティーのキーボード。この「ほとんどスタッフ」のリズム・セクションが、グリーンのギターのグルーヴ感を2倍にも3倍にも増幅する。

「Father's Lament」のソフト&メロウなバラードでの、ファンクネス濃厚なグリーンのシングル・トーンなソロ演奏、ティーのソウルフルなグルーヴ濃厚なオルガンが凄まじく良い。「Afro Party」でのブラスの響き、グリーンのファンキーでソウルフルな伴奏弾き、エドワーズのソリッドな重低音が響く、グルーヴ撒き散らしのエレベ。サントラ的な小曲の間に、絶妙なファンキー&ソウルフル&ブラコンなキラーチューンが入っているから堪らない。

1971年の録音だが、後のフュージョン・ジャズを先取りした、ソフト&メロウ、ソウルフルでグルーヴ感満載なジャズ・ファンクな演奏はどの曲も聴きもの。映画のサントラ盤なので、イージーリスニング志向で、甘い演奏かと思いきや、意外と硬派でファンクネス濃厚、グルーヴ感満載な演奏がギッシリ詰まっているのには、ちょっとびっくり。この盤も、グラント・グリーンの活動後期の傑作だと思います。
 
 

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2024年11月21日 (木曜日)

これも名盤『Shades of Green』

ブルーノート・レーベルを代表するギタリスト、グラント・グリーン。彼のキャリアの晩年は、イージーリスニング・ジャズ志向の優れたリーダー作を連発している。

バックに、のちのクロスオーバー&フュージョン時代の有名みゅーじしゃんを配し、優れたリズム・セクションの演奏をバックに、骨太でパッキパキのシングル・トーン+ファンクネスだだ漏れのエレギをガンガンに弾きまくっている。

Grant Green『Shades of Green』(写真左)。1971年11月の録音。ちなみにパーソネルは、Grant Green (g), Billy Wooten (vib), Emmanuel Riggins (el-p, clavinet), Wilton Felder (el-b), Nesbert "Stix" Hooper (ds), King Errisson (conga), Harold Cardwell (perc), Wade Marcus (arr, orchestra arrange)。

冒頭、ジェームス・ブラウンのメドレー「Medley: I Don't Want Nobody to Give Me Nothing (Open Up the Door I'll Get It Myself) / Cold Sweat」がキマッている。3曲目はアソシエーションの、1967年のヒット曲「Never My Love」、4曲目には、マイケル・ジャクソンの1971年のデビュー・ソロ・シングル「Got to Be There」、6曲目には、スティーヴィー・ワンダーの1971年のヒット曲「If You Really Love Me」と、R&Bの秀曲のカヴァーがズラリと並ぶ。
 

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もともと、グラント・グリーンは、骨太でパッキパキのシングル・トーン+ファンクネスだだ漏れのエレギ弾きである。R&B系、ソウル系の楽曲のカヴァーは得意中の得意。全編、充実度抜群の、ライトなジャズ・ファンク志向のイージーリスニング・ジャズが満載。全編、もう前のめりにノリノリである(笑)。

バックのリズム隊には、クルセイダーズから、ウイルトン・フェルダーのベース、スティックス・フーパーのドラムが参加している。粘りのある、重心低め、切れ味の良い、ファンクネス濃厚なリズム&ビートを叩き出していて、この二人を中心にコンガなどのパーカッションが絡んで、絵に描いた様な、ジャズ・ファンクなグルーヴを供給している。

そこに、グラント・グリーンの、パッキパキのシングル・トーン+ファンクネスだだ漏れのエレギが、曲の旋律を骨太に奏で、アドリブ・フレーズをファンクネスだだ漏れで弾きまくる。伴奏上手のバックのジャズ・ファンクなグルーヴが優れている分、グリーンのギターが、くっきり前面に映えに映える。

ジャケはもはや、以前のブルーノートの面影はなく、訳のわからんブランデー・グラスのイラストで損をしているが、この盤はれっきとしたブルーノート・レーベル盤で、内容的にもしっかりしていて、演奏自体もそのレベルは高く、ブルーノートの「ブランドの音」はしっかりと維持されている。この盤も、グラント・グリーンのライトなジャズ・ファンク志向のイージーリスニング・ジャズの名盤として良いかと思う。
 
 

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2024年10月15日 (火曜日)

ゼロ戦『アスファルト』を語る

フュージョン・ジャズ時代、そのアルバムの成り立ちが変わっている例として、高中正義『オン・ギター』をご紹介した(2024年10月10日 のブログ記事・左をクリック)。この『オン・ギター』は、ギター教則本の付属レコードとして発表されたものだった。

ゼロ戦『アスファルト』(写真左)。1976年の作品。ちなみにパーソネルは、大谷和夫 (key), 長岡道夫 (b), 鈴木正夫 (ds), 佐野光利 (g), 菜花敦 (perc) 花野裕子 (vo)。バンド名が「ゼロ戦」。ユニークなバンド名なので、今でも記憶にある。なんせ、この「ゼロ戦」というバンド、そもそもが、オーディオ・システム・チェック・レコード向けに組まれた特殊プロジェクトである。

帯紙のキャッチが「録音、演奏技術の粋を集めた音高質を誇るアルバムついに完成 !!」。アルバムの頭に「オーディオ・コンポ・チェック・シリーズ」とある。そう、このアルバム、「いしだかつのり」を中心としたプロジェクト「ゼロ戦」の '76オーディオ・コンポ・チェック・レコード第一弾である。

この「ゼロ戦」のファースト盤は、友人が持っていた。「オーディオ・コンポ・チェック・シリーズ」だから。お前に貸すから、自前のオーディオ・システムをチェックしろ、と言う。学生時代、貧乏だったので、必要最低限のシステム・コンポだったが、この盤をかけてみたら良い音がした。そのまま、レコードを返すのは惜しいので、上等なカセットにダビングして返した。よって、この盤、フュージョン全盛期にリアルタイムで聴いている。
 

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オーディオ・システムのチェック用のアルバムとはいえ、内容は一級品。今回、CDで初めて復刻されたが、復刻のきっかけが「いわゆるクラブDJたちによって再評価が進んだ、レア・グルーヴ系フュージョン作品」の一部だったこと。確かに、この盤の音は、1976年当時に流行っていた、クロスオーバー&フュージョンとはちょっと違う、グルーヴ感豊かな、後のレア・グルーヴ志向の音をしていたように思う。

曲の冒頭から、タイトなドラム・ブレイク炸裂のジャズ・ファンク「サーキット」、叩きまくるドラム、ブンブン・ベースのラインが格好良いジャズ・ファンク「"スクランブル」、ミッド・テンポが心地よいフュージョン・チューン「スパニッシュ・フライ」、オーディオ・チェック用であろう、中盤のパーカッション・ブレイクが爽快な「ハンド・スラップ」、途中リズムがラテン調に変わる変則ラテン・フュージョンの「ペーパー・ドライバー」などなど。

サウンド的に、当時の和クロスオーバー&フュージョンとは一線を画した、ソフト&メロウとは全く無縁の、グルーヴ感溢れる強烈なサウンド。オーディオ・チェック用であろう、タイトで強靭なリズム&ビートが飛んだり跳ねたりのジャズ・ファンクがメインの音作りだが、ファンクネスが希薄な、乾いた切れ味の良いオフビートが、いかにも「和フュージョン」らしい。

「オーディオ・コンポ・チェック・レコード」ではあるが、単体のアルバムとして、十分に評価できる「和フュージョン」の好盤です。2017年にCDリイシューされた時はビックリしました。そして、今では、音楽のサブスク・サイトにも音源アップされているみたいで、良い時代になったもんです(笑)。
 
 

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2024年10月 8日 (火曜日)

A&Mでの ”Jey & Kai” の復活

「A&Mレコード」が牽引役を担ったのが、聴き易さと分かり易さと適度な刺激を追求した「クロスオーバーなイージーリスニング・ジャズ」。そのカラクリは「聴き易さと分かり易さと適度な刺激を追求した、ロック&ポップスとジャズとの融合」と考えると、A&Mの諸作は実に興味深く聴くことが出来る。

J. J. Johnson & Kai Winding『J&K: Stonebone』(写真左)。1969年9月の録音。1970年、日本限定のリリース。ちなみにパーソネルは、J. J. Johnson, Kai Winding (tb), Herbie Hancock, Bob James, Ross Tompkins (key), George Benson (g), Ron Carter (b), Grady Tate (ds)。すべてのA&M / CTIリリースの中で最も希少な作品。

1950年代に活躍した、2人のトロンボーン・ユニット「Jey & Kai」を、約20年の時を経て、A&Mレコードのクリード・テイラーが、聴き易さと分かり易さと適度な刺激を追求した「クロスオーバーなイージーリスニング・ジャズ」にて復活させた、エレクトリックなソウル・ジャズ&ジャズ・ファンク。

ルディ・スティーブンソンの「Dontcha Hear Me Callin' To Ya?」のエレ・ファンクなカヴァー。イージーリスニングなエレ・ジャズ風にアレンジされた、ジョー・ザヴィヌルの典型的なフュージョン曲「Recollections」。そして、ジョンソン作の魅力的な2曲「Musing」と「Mojo」の全4曲。
 

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聴き易さと判り易さと適度な刺激を追求した、ロック&ポップスとジャズとの融合の中で、収録された曲の全てに、トロンボーン・ユニット「Jey & Kai」のトロンボーンの響きと音色が映える、素敵なアレンジが施されている。 バックの演奏トーンは、エレクトリックがメインではあるが、旧来のハードバップな8ビートを採用していて、基本的に耳に馴染む。

電子キーボードは「ハンコック」がメイン(「Recollections」ではボブ・ジェームスとロス・トンプキンスが加わる)。ファンキーなフレーズを弾き始めている様子がよく判る。ギター参加の若き日のジョージ・ベンソンが、ロックっぽいジャジーなフレーズを弾きまくっている。ロン・カーターのベース、グラディ・テイトのドラムのリズム隊は、エレ・ファンクな8ビートに難なく対応、エモーショナルでファンキーなリズム&ビートを叩き出している。

ジェイジェイとカイのトロンボーンはファンキー。肉声のボーカルの如く、トロンボーンを吹き上げる。ブリリアントでエッジが丸い、柔らかだが芯の入った音色。そう、ジェイジェイとカイのトロンボーンは、ロックやポップスのボーカルの様に、トロンボーンを響かせている。

明らかに、ジェイジェイとカイのトロンボーンのフレーズは、ロック&ポップスの様に、シンプルで分かり易いキャッチャーなフレーズになっている。そして、エレピ・ベース・ドラムのリズム&ビートが、従来のジャズ風の8ビートでは無く、ロック&ポップス風の8ビートなリズム&ビートになっている。

A&Mレコードの音作りの「キモ」である、聴き易さと分かり易さと適度な刺激を追求した、ロック&ポップスとジャズとの融合、がとてもよく判る優秀盤です。1970年の初出以来、CDやストリーミングでの発売もなかったというレアな作品でしたが、今では、音楽のサブスク・サイトに音源がアップされていて、気軽に聴くことが出来る様になりました。
 
 

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2024年10月 4日 (金曜日)

Glassmenagerie名義のコブハム

ドラマー、トニー・ウィリアムスが率いる「ライフタイム」、クロスオーバー・エレギのレジェンド、ジョン・マクラフリンが率いる「マハヴィシュヌ・オーケストラ」。そして、ヴァイオリンを活かしたクロスオーバー・ジャズなんてことを書いていたら、ふとこのアルバムを思い出して、思わす再聴。

Billy Cobham's Glassmenagerie『Stratus』(写真左)。1981年3月18日、ロンドンでの録音。ちなみにパーソネルは、Billy Cobham (ds), Gil Goldstein (key), Tim Landers (el-b), Mike Stern (el-g), Michal Urbaniak (el-vln, Lyricon)。マイク・スターンのエレギとマイケル・ウルバニアクの電気バイオリンがフロントの、カルテット編成。

千手観音ドラマーのビリー・コブハムがリーダー。これは、トニー・ウィリアムスが率いる「ライフタイム」に通じる。電気バイオリンを活かしたエレ・ジャズ。これは、ジョン・マクラフリンが率いる「マハヴィシュヌ・オーケストラ」に通じる。しかし、このコブハム・バンドの音志向は「クロスオーバー・ファンク」。

ロンドンの録音とあって、ファンキーな音志向とは言え、この盤でのファンクネスは「乾いて粘りの無いシンプル」なファンクネス。1981年の録音なので、マハビシュヌの様に、1970年代の英国プログレとの融合は無い。

逆に、R&Bやソウルなど、ブラック・ファンクとの融合がそこかしこに感じられる。が、粘りが無い分、こってこてなファンクネスは感じられず、リズム&ビートは、コブハムの千手観音ドラミングがリードしていて、コンテンポラリーでジャジーなファンクネスが強く感じられるユニークなもの。
 

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演奏自体は「クロスオーバー・ファンク」だが、R&Bな要素のみならず、ロックな要素、フュージョンな要素、クラシックな要素もしっかり反映されていて、なかなか興味深い、コブハム・バンドならではの音世界はユニークであり、しっかりと聴き応えがある。

マイク・スターンのエレギは「ジャズっぽいが基本はロック」なエレギを弾きまくる。マイケル・ウルバニアクの電気バイオリンとリリコン(シンセ・サックス/ウインド・シンセサイザー)のフロントのフレーズが印象的。ギル・ゴールドスタインのキーボードは意外と正統派ジャズな音を出していて、フロントのエレギと電気バイオリン、そして、リリコンとの対比が面白い効果を生み出している。

コブハムの「千手観音ドラミング」は絶好調。というか、1970年代よりも、良い意味で落ち着きがあって、的確でブレの無い、爽快で乾いたファンキー・グルーヴを叩き出している。そして、ティム・ランダースのベースは、正統派クロスオーバー&フュージョン・ジャズなベースラインを供給して、このバンドの音の底をガッチリと支えている。

当時のクロスオーバー&フュージョン・ジャズの好盤として、コブハムの代表的好盤として、このアルバムのタイトルが上がることは無い。実際、僕は目にしたことが無い。以前、たまたま、コブハムのディスコグラフィーを整理していて、この盤の存在に気がついたくらいである。

しかし、中身は素性確かな、コブハムならではの「クロスオーバー・ファンク」な音世界がてんこ盛り。なかなか良い内容のアルバムだと思います。
 
 

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2024年9月18日 (水曜日)

ナットのエレ・ジャズ・ファンク

9月も半ばを過ぎたというのに「暑い」毎日である。熱中症を警戒の「引き篭もり」の日々がまだ継続中。確実に運動不足になりつつあるのでが、これはこれで仕方がない。涼しくなったら、せっせとウォーキングをしてリカバリーする予定。

「引き篭もり」の部屋の中で聴くジャズ。硬派な純ジャズをメインに聴き続けてきたら、流石に「飽きてきた」。ふっと思い出したのが「CTIジャズ」。純ジャズの耳安めに、8月中は「ボサノバ・ジャズ」を聴いていたが、9月に入って、流石にボサノバでもないよな、ということで止めた。そう、9月の純ジャズの耳休めは「CTIジャズ」である。

Nat Adderley『You, Baby』(写真)。1968年3, 4月、Van Gelder Studioでの録音。ちなみにパーソネルは、Nat Adderley (cornet), Jerome Richardson (ss, fl), Joe Zawinul (el-p), Ron Carter (b), Grady Tate (ds) が演奏のメインのクインテット。ナットのトランペットとリチャードソンのソプラノ&フルートがフロント2管。

そこに、以下の伴奏隊がつく。Harvey Estrin, Romeo Penque, Joe Soldo (fl), George Marge (fl, oboe), Al Brown, Selwart Clarke, Bernard Zaslav (viola), Charles McCracken, George Ricci, Alan Shulman (cello), Bill Fischer (arr, cond)。フルートが大活躍、オーボエの独特な音色、弦はチェロとヴィオラだけのユニークな編成。

聴いてズバリ、CTIサウンドによる「エレクトリック・ジャズ・ファンク」である。イージーリスニング志向でありながら、甘いサウンドでは無い。意外と硬派でしっかりと趣味の良いビートの効いたソフト&メロウなジャズ・ファンクである。
 

Nat-adderleyyou-baby

 
そんなビートの効いたソフト&メロウなジャズ・ファンクな雰囲気の中で、ナットの繊細で流麗な電気コルネットが、ファンクネスを漂わせながら、ソウルフルなフレーズを奏でていく。バリバリと吹くのでは無い、繊細に流麗にリリカルに電気コルネットを吹き上げる。このナットのコルネットのプレイが印象的。

エレピを担当するのは、ジョー・ザヴィヌル。ナットとは、兄のキャノンボールのバンドで一緒だったが「犬猿の
仲」だったらしい。しかし、この盤では、ザヴィヌルの流麗で耽美的でファンキーなエレピが実に良い雰囲気を醸し出している。このザヴィヌルのエレピの音色とフレーズが、この盤の「趣味の良いビートの効いたソフト&メロウなジャズ・ファンク」の音作りを決定付けている。

収録されたどの曲も「趣味の良いビートの効いたソフト&メロウなジャズ・ファンク」として良い雰囲気を醸し出しているが、2曲目のカントリーのヒット曲「By the Time I Get to Phoenix」や、3曲目のナット作「Electric Eel」や、4曲目のザヴィヌル作の「Early Chanson」辺りは聴き応え十分。

8曲目の「New Orleans」は、ソウルフルな演奏が印象的。9曲目「Hang On In」は8ビートの流麗なバラード、そして、ラストの「Halftime」は、マーチングを融合させたジャズ・ファンクで大団円。

ナットの吹くセルマー社の電化コルネットが実に効果的に響く、CTIの「エレクトリック・ジャズ・ファンク」の佳作の一枚。内容的に硬派なジャズ・ファンクなので、「スピーカーに対峙してジックリ聴き込む」にも十分に耐える好盤です。
 
 

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2024年6月19日 (水曜日)

ラスト盤の『Out of the Loop』

ブレッカー兄弟が立ち上げ、エレ・ジャズ・ファンクの代表的バンドとして、一世を風靡した「ブレッカー・ブラザーズ」。1994年にて活動を停止、2007年には、弟のマイケルが骨髄異形性症候群から進行した白血病によって逝去。このマイケルの逝去によって、「ブレッカー・ブラザーズ」は永久に活動停止となった。

The Brecker Brothers『Out of the Loop』(写真左)。1992年4月〜8月の録音。ちなみにパーソネルは、Michael Brecker (sax,,EWI), Randy Brecker (tp, Flh), George Whitty (key), Dean Brown (g), James Genus (b), Steve Jordan (ds), Steve Thornton (perc) 辺りが主要メンバー。ここに、Chris Botti (key), Eliane Elias (key, vo), Larry Saltzman (g), Armand Sabal-Lecco (b), Shawn Pelton (ds), and more が、ゲストとして入っている。

ブレッカー・ブラザーズの実質上の最後のアルバムになる。1982年に一旦、活動を停止し、ソロ活動を展開。しかし、1990年初頭に活動を再開、1992年に『Return of the Brecker Brothers』をリリース。そして、次いでリリースしたのが、この『Out of the Loop』になる。

活動再開後のブレッカー・ブラザーズの音志向は「硬派な大人のファンキー・フュージョン」。この『Out of the Loop』では、前作のファンキー・フュージョンな雰囲気から、メインストリーム・ジャズ志向が強くなって、ファンキー・フュージョンというより、ライトでポップ、クロスオーバー志向の「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」に深化している。
 

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聴いていて面白いのは、ランディのトランペットが入ってくると、思わず、1980年代の、マイルスのカムバック後の「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」を想起させる雰囲気にガラッと変わるところ。そこにマイケルのサックスが入ると、さらに、マイルスのカムバック後の「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」な雰囲気がより濃厚になる。

と言っても、マイルスのカムバック後の「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」は、硬派で純ジャズなエレ・ファンクなんだが、ブレッカー・ブラザーズの方は、1990年代仕様の、ライトでポップ、大衆的でクロスオーバー志向のエレ・ファンク。と言って、単純にフュージョン・ジャズでは括れない、コンテンポラリーで、メインストリーム志向のアレンジが実に硬派で正統派。

このアルバムは、最優秀コンテンポラリー・ジャズ・パフォーマンスと最優秀インストゥルメンタル作曲(African Skies)の2つのグラミー賞を獲得しているのも頷ける、洗練されたアーバンでポップな「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」志向の内容。1970年代のブレッカー・ブラザーズの発展形。

ブレッカー兄弟って、マイルスが好きだったんやないのかなあ、とこのアルバムを聴いていて、ふと思った。マイルスの逝去が1991年9月28日。この『Out of the Loop』の録音が1992年4月〜8月の録音。ブレッカー兄弟として、マイルスライクな「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」がやりたかったんやないかなあ。と僕は想像しています。
 
 

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2024年5月15日 (水曜日)

”CTIレコードのロン” の隠れ名盤

ジャズ・ベーシストの「生けるレジェンド」であるロン・カーター。1970年代は、クロスオーバー&フュージョン・ジャズの老舗レーベルであるCTIレコードに所属して、リーダーにサイドマンに大活躍。1970年代後半、ハービーの「V.S.O,P.」に参加、純ジャズに回帰するが、CTIレコードでの、クロスオーバー&フュージョン・ジャズのロンもなかなか良い。
 
Ron Carter『Blues Farm』(写真)。1973年1月10日の録音。ちなみにパーソネルは、Ron Carter (b, arr, cond), Billy Cobham (ds), Hubert Laws (fl, tracks 1, 5 & 6), Richard Tee (el-p, ac-p, tracks 1, 4 & 5), Bob James (ac-p, tracks 2, 3 & 6), Gene Bertoncini (g, track 5), Sam Brown (g, track 3), Ralph MacDonald (perc, tracks 1 & 4-6)。

ロン・カーターのCTIレコードでのリーダー作の第一弾である。パーソネルを見渡すと、不思議なことに気が付く。フロント楽器を司るサックス、トラペットが無い。辛うじて、ヒューバート・ロウズのフルートが存在するだけ。ギターについてはリズム楽器に徹している。それでは、このセッションでのフロントは誰が担っているのか。実は、ロンのベースとロウズのフルート、この2人だけでフロント楽器の役割、楽曲の旋律を演奏している。

アレンジと指揮はリーダーのロン自身が担当しているので、このベースとフルートのフロントはロンのアイデアだろう。しかし、これが、冒頭のジャズ・ファンク・チューンであるタイトル曲「Blues Farm」で、その効果を最大限に発揮する。

ロンはアタッチメントをつけて、アコベの音を電気的に増幅して、旋律のソロに対応する。これが意外とファンキーな音色で、ジャズ・ファンクなビートにピッタリ。そして、ロウズのフルートのエモーショナルな吹き上げが、これまた、爽やかなファンクネスを振り撒いている。

バックのリズム・セクションは、コブハムのファンキー・ドラムに、ティーのファンキー・アコピ、マクドナルドのファンキー・パーカッション。この手練れのメンバーがジャズ・ファンクなリズム&ビートを叩き出す。これが実に良い雰囲気で、ブルージー&ファンク。後の伝説のフュージョン・グループのキーボード担当、リチャード・ティーのアコピのファンクネスが半端無い。
 

Ron-carterblues-farm

 
2曲目の「A Small Ballad」は、なんと、ボブ・ジェームスのピアノ(!)と、ロンのベースのデュオ。このデュオ演奏は、クロスオーバー・ジャズでは無い。これは純ジャズである。3曲目の「Django」は、MJQのジョン・ルイスの名曲だが、フロントをロンのベースが取り仕切り、この名曲の旋律をベース一本でやり通す。アコベでありながら、ピッチも合っていて、ロンのベーシストとしてのテクニックがかなりのものだということを再認識する。

そして、僕が愛してやまないのが、4曲目の「A Hymn for Him」。ロンの作曲。極上のファンキー・バラードである。冒頭、ロンがフロントを取り仕切るのは変わらないが、このロンのアタッチメントをつけて、アコベの音を電気的に増幅したアコベの音がなかなかファンキーでいい感じ。ソロでのテクニックの高さと相まって、意外と聴き応えのあるロンのベース。

そして、リチャード・ティーのアコピ(フェンダー・ローズ)の、こってこてファンキーでキャッチーなバッキング。そして、ファンクネス滴る、ソフト&メロウなソロ・パフォーマンス。ティーのベストに近いフェンダー・ローズのパフォーマンス。もう惚れ惚れするばかり。さすがティー、さすがフェンダー・ローズの名手。しみじみと染み入り、思わず、心にグッとくる。

そして、エモーショナルで流麗でファンキー&メロウ、テクニック極上、歌心満点のロウズのフルート・ソロに、これまたグッとくる。極上のフュージョン・ジャズの一曲がここにある。

5曲目の「Two-Beat Johnson」は、ライトでポップでファンキーでご機嫌な小品。ラストの「R2, M1」は、アーシーでビートの効いた、ライトなジャズ・ファンク。ボブ・ジェームスのちょっとアブストラクトなピアノ・ソロが、このジャズ・ファンクな演奏を俗っぽい演奏にしていない。意外と硬派な、クロスオーバー・ジャズ志向のジャズ・ファンク。このリズム&ビートの軽快さが、ロンの考えるジャズ・ファンクの個性だろう。

アタッチメントをつけて、アコベの音を電気的に増幅して、旋律のソロに対応するロンについては、とかく批判的な意見が多いが、この盤のロンのパフォーマンスを聴いて判る様に、アコベのピッチが合っている分には問題無い。どころか、ジャズ・ファンクのリズム&ジャズ・ファンクのビートにピッタリな音色は意外と効果抜群。

自分の耳で聴いてみて初めて判る。このロンのCTIレコードでのリーダー作の第一弾、意外と「隠れ名盤」だと僕は思っている。
 
 

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2024年5月13日 (月曜日)

マンの傑作盤『Glory Of Love』

フュージョン・ジャズの源はどの辺りにあるのだろう。僕は、1960年代後半、A&Mレコードの諸作が、その源の一つだと思っている。

A&Mレコードは、元々は1962年にハーブ・アルパートとジェリー・モスが設立したレコード・レーベル。ジャズのジャンルについては、ファンキー&ソウル・ジャズのエレ化をメインに、当時、ポピュラーな楽曲のカヴァーなど、ポップでジャジーなフュージョン・ジャズの先駆けな音作りで人気を獲得した。

Herbie Mann『Glory Of Love』(写真左)。1967年7, 9, 10月の録音。ちなみにパーソネルは以下の通り。

Herbie Mann (fl), Hubert Laws (fl, piccolo), Ernie Royal, Burt Collins (tp, flh), Benny Powell (tb), Joseph Grimaldi (sax), Leroy Glover (p, org), Paul Griffin (p), Roland Hanna (org), Jay Berliner, Eric Gale (g), Ron Carter (b), Herb Lovelle, Grady Tate (ds), Teddy Sommer (vib, perc), Ray Barretto, Johnny Pacheco (perc), Earl May (b), Roy Ayers (vib)。

手練れの豪華絢爛なパーソネル。予算をしっかり充てた充実の録音セッション。出てくる音は、エレトリック&8ビートなファンキー&ソウル・ジャズ。アニマルズがヒットさせたポップス曲「The House of the Rising Sun」や、レイ・チャールズがヒットさせたソウル曲「Unchain My Heart」など、当時の流行曲を見事なアレンジでカヴァーしている。
 

Herbie-mannglory-of-love

 
ポップス曲のカヴァーと聞くと、イージー・リスニング志向のジャズか、と思うのだが、このマンのA&M盤は、演奏自体が実にしっかりしている。リズム&ビートは、切れ味良く、ジャジーでソウルフルでファンキー。このリズム・セクションのリズム&ビートはとても良く効いている。

そのジャジーでソウルフルでファンキーなリズム&ビートに乗って、ハービー・マンのソウルフルなフルートが、爽やかなファンクネスを湛えて飛翔する。「In and Out」でのヒューバート・ローズとのダイアローグはとても楽しげ。フランシスレイの「Love is stronger far than we」では、ムーディーなマンのフルートが印象的。この盤でのマンのパフォーマンスは素晴らしい。

当時のA&Mレコードのジャズについては「質の高いリラックス出来るBGM」がコンセプト。しかし、このマンのA&M盤はBGMどころか、イージー・リスニング志向のエレ・ジャズでも無い、ソウルフルでファンキーなコンテンポラリー・ジャズとして成立している優れた内容。

アルバム全体を覆う適度なテンション、切れ味の良いジャジーでソウルフルでファンキーなリズム&ビート。マンを始めとするソウルフルなフロント隊の演奏。この盤には、1960年代前半から進化してきた、ファンキー&ソウル・ジャズの成熟形を聴くことが出来る。ハービー・マンの傑作の一枚であり、最高傑作と言っても良いかもしれない。

クリード・テイラーの優れたプロデュースの下、アレンジも良好、録音はルディ・バン・ゲルダー手になる「良好な音」。この盤がほとんど忘れ去られた存在で、廃盤状態が長く続いている。実に遺憾なことであるが、最近、ストリーミングで聴くことが出来るようになったみたいで、これは喜ばしいことである。
 
 

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2024年4月27日 (土曜日)

コブハムが目指す「融合」ジャズ

『A Funky Thide of Sings』(1975)のリリース後、ブレッカー兄弟が抜けて、エレクトリックなジャズ・ファンクの橋頭堡が不在となったビリー・コブハムのバンド。クロスオーバーなエレ・ジャズ・ファンクを捨てて、次作では、いきなりハードで硬派なクロスオーバー・ジャズに転身した。

Billy Cobham『Life & Times』(写真左)。1976年の作品。ちなみにパーソネルは、Billy Cobham (ds, perc, syn), Dawilli Gonga (key), John Scofield (g), Doug Rauch (b)。コブハムのアトランティック・レコードでの最後のスタジオ盤になる。

パーソネルの中の「Dawilli Gonga」は、George Duke (key) の契約上の理由からの変装名。ギターのジョンスコはそのままに、新たに加わったキーボードのジョージ・デューク、エレベの元サンタナのダグ・ロウチと、リーダーのコブハムのドラムを交えたカルテット編成のクロスオーバー・ジャズである。

前作『A Funky Thide of Sings』までのホーン・セクションを配した、分厚いジャズ・ファンクな演奏をガラッと変えて、リズム&ビートを主体とする、コンパクトなメンバーでの、ジャズとロックの融合がメインのハードなクロスオーバーなエレ・ジャズを展開している。
 

Billy-cobhamlife-times

 
1970年代前半、マイルスが推し進めていたジャズ・ファンクなエレ・ジャズからファンクネスを差し引いて、ポップでキャッチーな音作りを加味したクロスオーバーなエレ・ジャズ。

シンセが唸りを上げ、エレギが捻れ響くインスト中心の演奏。まるで「プログレ」な雰囲気だが、ジャジーなビートと途方も無い演奏テクニックが、この演奏は「ジャズ」に軸足をしっかり置いていることを確信させてくれる。

コブハムのドラムは、徹底して「千手観音ドラミング」で叩きまくり。ジョンスコのギターは、意外とストレートな伸びのロック・ギターの様な迫力と疾走感溢れる骨太なフレーズを聴かせてくれる。

冒頭のタイトル曲「Life & Times」など、やたらハードでアクセル全開なナンバーが印象に残るが、爽やかでクールなファンクネスを忍ばせた4曲目の「East Bay」のヒップで小粋な演奏など、この盤のリリース後、すぐに結成された「The Billy Cobham - George Duke Band」の音世界がこの盤で確立されている。

ちなみに、ジャケの写真はコブハムの幼少期。それを持っている手は、アルバム制作当時のコブハムの手。このジャケが何を意味するのか、コブハムの真意は測りかねるが、時代はソフト&メロウをメインとしたフュージョン・ジャズの入り口の時代。この盤に詰め込まれた演奏は、エレクトリックなクロスオーバー・ジャズの成熟形と捉えることも出来る。
 
 

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