2022年12月11日 (日曜日)

「キング・オブ・カルテット」である

コロナ禍でどうなることかと思ったが、現代ジャズはコロナ禍に負けること無く、その活動と深化を継続している。コロナ禍当初は、スタジオ録音が出来なかったり、ライヴ演奏が出来なかったりで、ジャズのみならず、音楽活動というものが潰えてしまうのでは無いか、と不安になったが、何とか厳しい時期を乗り越えた様だ。

その現代ジャズであるが、深化は脈々と続いている。21世紀に入って、ネオ・ハードバップの成熟、クールで静的なスピリチュアル・ジャズ、21世紀版フュージョン&スムース・ジャズの充実など、1950年年代〜1960年代のジャズに回帰すること無く、モダン・ジャズの「クラシック化」は進んでいない。

Redman Mehldau McBride Blade『LongGone』(写真左)。2019年9月10–12日の録音。ちなみにパーソネルは、Joshua Redman (ts, ss), Brad Mehldau (p), Christian McBride (b), Brian Blade (ds)。現代ジャズのおける「若きレジェンド」が集結した、レッドマンのサックスが1管のワンホーン・カルテットの編成。

2020年リリースの前作『RoundAgain』は強烈だった(2020年10月8日のブログ参照)。モーダルで自由度と柔軟度の高い演奏あり、アーシーでちょっとゴスペルチックでファンキーな演奏あり、コルトレーン・ライクなスピリチュアルな演奏あり、現代のネオ・ハードバップをより洗練し、より深化させた演奏内容となっていた。振り返って見ると、2020年までのモダン・ジャズの総括的な内容だった気がしている。

今回のアルバムは、その先を行くものと認識した。落ち着いた、クールで静的なネオ・ハードバップ。しかし、録音年月日を見てみると、前作『RoundAgain』と同一録音ではないか。そして、ラストに「2007年のSFJAZZの25周年記念のライブ演奏」から1曲追加して、今回の新作となっている。う〜ん、前作と同じ録音なのか〜。
 

Redman-mehldau-mcbride-bladelonggone

 
今回の新作と前作と基本的な雰囲気が全く違う。前作はエネルギッシュに、2020年までのモダン・ジャズの総括し、今回の新作は、これからのモダン・ジャズをクールに静的に落ち着いた雰囲気で披露する。

しかも、今回はラストのライヴ音源以外、全6曲がジョシュア・レッドマンのオリジナルで固められている。そういう意味では、このカルテット、ジョシュアがリーダー的立場なんだろうな。

この新作を聴いて、痛く感心したのが、モーダルで自由度と柔軟度の高い演奏がメインなんだが、フレーズや音の響きの新鮮さ。決して、過去のジャズの焼き直しでは無い、「どこかで聴いたことがある」感が無い、鮮烈で機微に富むモーダルなフレーズがこれでもか、と出てくる。

前作でもそう感じたが、この新作では更に、フレーズや音の響きの新鮮さが増している。さすが、現代ジャズにおける「キング・オブ・カルテット」である。

アルバム全体の雰囲気が「落ち着いた、クールで静的」な演奏がメインだったので、ちょっと地味ではないのか、と感じたのは最初だけ。聴き込めば聴きこむほど、このカルテットの演奏は滋味深い。

このカルテットの演奏、しばらく、続けて欲しいなあ。聴く度に、現代のモダン・ジャズの到達点のひとつを確認出来る。現代のモダン・ジャズ、現代のネオ・ハードバップの最高レベルの演奏のひとつである。
 
 

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2021年6月18日 (金曜日)

音は悪いが質の高いライヴ盤 『Blues for Pat』

スタジオ録音は何度でもやり直せたり、観客がいないので冷静に演奏出来たりするので、そのリーダーのジャズマンの「真の実力」が掴みにくい。やはりジャズマンの「真の実力」を感じるのはライヴである。一番良いのはライヴハウスに足を運んで、お目当てのジャズマンのライヴ・パフォーマンスを聴けば良いのだが、NYまで行く訳にいかない。そこで活躍するのが「ライヴ盤」である。

Joshua Redman『Blues for Pat: Live In San Francisco』(写真左)。1994年、サンフランシスコでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Joshua Redman (ts), Pat Metheny (g), Christian McBride (b), Billy Higgins (ds)。ジョシュア・レッドマンのテナー1管がフロントの「ワンホーン・カルテット」。

ピアノレスで、ギターにパット・メセニーが参加。ベースに若きマクブライド、ドラムに自由奔放、硬軟自在なベテランドラマー、ビリー・ヒギンス。ジョシュアは録音当時25歳。マクブライドは22歳。パットは40歳。ヒギンスは58歳。フロント1管、テナー・サックスとベースが若手の超有望株。そんな若手二人をパットとヒギンスがガッチリとサポートする。

このライヴ盤、録音状態にちょっと難があって(恐らくブートレグかと)、ジャズ者万民にはお勧めしかねるが、当時25歳、若手超有望株のジョシュアの個性と実力のほどが、とても良く判るライヴ盤である。

このライヴ盤のパフォーマンスを聴くと、ジョシュアはコルトレーンのフォロワーでも無いし、オールド・スタイルの踏襲でも無い。敢えて言うとロリンズに近いが、ロリンズほど自由奔放では無い。
 

Blues-for-pat
 

ジョシュアのテナーは堅実でクールで豪快である。テクニックをひけらかすような吹き方はしない。でも、テクニックはかなり優秀。テナーを良く鳴らしているなあと感心した。

パットはこういう「コンテンポラリーな純ジャズ」をやらせるとむっちゃ上手い。パットというと、純ジャズ路線は「オーネット・コールマン」かと思ったが、この盤ではジョシュアのテナーの個性と特徴を見抜いて、ジョシュアの個性と特徴を引き立てる、見事なサポート・プレイを聴かせてくれる。これ、結構、凄いです。弾きまくりながら、堅実なサポート。パットの凄みを感じます。

加えて、ヒギンスのドラミングもパットのギターと同様。ジョシュアのテナーの個性と特徴を見抜いて、ジョシュアの個性と特徴を引き立てる、柔軟なドラミングを聴かせてくれる。

マクブライドは最若手ですが、このベースのパフォーマンスはもう「ベテランの域」。テクニックは突出して素晴らしく、申し分無い。このライヴでも、結構長いソロ・パフォーマンスがフィーチャーされていて、当時としても、注目の若手ベーシストであったことが窺い知れる。

このライヴ盤、音はイマイチだけど、リーダーのジョシュアのテナーの個性と特徴が掴みやすい好ライヴ盤。そして、参加したサイドマンそれぞれの個性と特徴も良く判るという、なかなか優れものの、質の高いライヴ盤です。もうちょっと音が良かったらなあ。音のバランスとレベルを再調整して、正式盤として出し直して欲しいくらい、内容の濃いライヴ盤です。
 
 
 

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2020年10月 8日 (木曜日)

ジョシュアの最強カルテット盤

ジョシュア・レッドマンが好調である。1992年にメジャー・デビューして以来、コンスタントに、ほぼ1年に1作のペースでリーダー作を出し続けている。特にこの4〜5年は、ブラッド・メルドーやバッド・プラスと共同名義のアルバムを出したり、ネオ・ハードバップを掘り下げた、硬派でアーティスティックなメインストリームな純ジャズを展開したり、実に意欲的な活動を継続している。

Joshua Redman『RoundAgain』(写真)。今年7月のリリース。ちなみにパーソネルは、Joshua Redman (ts, ss), Brad Mehldau (p), Christian McBride (b), Brian Blade (ds)。どこかで見たことのあるパーソネルだなあ、と思って資料を見たら、ジョシュアのリーダー作『Moodswing』のパーソネルがそのまま、26年振りに再集結したとのこと。なるほど納得。

さて、その内容であるが、モーダルで自由度と柔軟度の高い演奏あり、アーシーでちょっとゴスペルチックでファンキーな演奏あり、コルトレーン・ライクなスピリチュアルな演奏あり、現代のネオ・ハードバップをより洗練し、より深化させた演奏内容となっている。モーダルな演奏なんて、出現して以来、50年以上が経過しているので、もはや手垢がついて、どこかで聴いたことのある展開に陥りそうなのだが、ジョシュアのフレーズは決してそうはならない。
  
 
Roundagain-redman  
 
 
冒頭の「Undertow」が、モーダルで自由度と柔軟度の高い演奏で、ジョシュアの思索的なテナー・サックスが深みのあるフレーズを吹き上げている。特に低音が魅力的。続く2曲目の「Moe Honk」は、コルトレーン・ライクな疾走感溢れる、ややフリー気味な演奏。カルテットのメンバーそれぞれのテクニックが凄い。聴き込んでいるとあっと言う間に終わってしまうくらい、テンションの高い演奏。

3曲目の「Silly Little Love Song」は、アーシーでちょっとゴスペルチックでファンキーな演奏。素朴でフォーキーなメロディーが良い。米国ルーツ音楽的な響きが愛おしい。5曲目の「Floppy Diss」は、ブルージーでエネルギッシュな演奏ではあるが、どこか明るいユニークな演奏。この曲もメンバー4人のテクニックが凄まじい。特に、メルドー・マクブライド・ブレイドのリズム隊が凄い。

さすがにこれだけのメンバーが再集結しているのだ。今までのジャズの焼き直しにはならないし、過去の演奏スタイルをなぞることもしない。あくまで、現代の現時点でのメインストリームな純ジャズについて、これからの行く末を示唆する、含蓄に富んだ内容になっていると僕は思う。この盤を聴いて思う。まだまだジャズには、表現における「のりしろ」がまだまだあるなあ、と。
 
 
 

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2020年2月 1日 (土曜日)

テナー・サックス+弦楽四重奏

ジャズは様々なジャンルの音楽と融合する。他のジャンルの音楽はある特定の音楽ジャンルと融合することはあっても、ジャズの様に複数の音楽ジャンルと何の違和感も無く融合する音楽ジャンルは他に無い。ジャズと他の音楽ジャンルとの融合の歴史を振り返ると、まず1950年代にジャズとクラシック音楽との融合の流行があった。ジャズの融合の歴史の中で、一番歴史があるのは「クラシックとの融合」であろう。

Joshua Redman & Brooklyn Rider『Sun on Sand』(写真左)。ちなみにパーソネルは、ジャズのカルテットとして、Joshua Redman (ts), Scott Colley (b), Satoshi Takeishi 武石 聡 (ds)。弦楽四重奏の名前は「Brooklyn Rider」。弦楽四重奏のメンバーとして、Colin Jacobsen, Johnny Gandelsman (violin), Nicholas Cords (viola), Eric Jacobsen (cello)。2015年4月29,30日,5月1日NYCのSear Sound録音。

パーソネルを見渡して、この盤、異色の企画盤になる。ジャズとクラシック(弦楽四重奏)が織りなす融合音楽。アルバム全体の雰囲気として、ジャズらしいノリ・スリルと現代クラシックらしい荘厳さとがバランスよく融和している。パトリック・ジマーリのアレンジが実に効いている。ストリングスの一糸乱れぬ精緻なアンサンブルをバックに、メインストリーム・ジャズな、即興&自由度の高いカルテット演奏が展開される。この「一糸乱れぬ精緻」と「即興&自由度の高い」の対比がこの盤の「肝」である。
 
 
Sun-on-sand  
 
 
ジョシュア・レッドマンのテナーについては、正統派で端正で品行方正。ジャズ・テナーのモデルにしても良い位の「品行方正」さで、メインストリーム・ジャズの中で演奏すると、余りの端正さが故に、余りに優等生的なテナーで、ちょっと面白く無い雰囲気が漂うことがある。逆に、今回の「ジャズとクラシック(弦楽四重奏)が織りなす融合音楽」の様に、異種格闘技風セッションにおいて、ジョシュアのテナーがその個性を最大限に発揮する傾向にある。

この盤でのジョシュアのテナー・サックスは良く鳴り、流麗にアドリブ・フレーズを吹き上げる。ジョシュアのテナー・サックスの一番良いところが、この盤で溢れている。この盤の一番の注目ポイントは、このジョシュアのテナーの伸び伸びとしたブロウ。このジョシュアの即興&自由度の高い「ジャズらしいサテナー」を、一糸乱れぬ精緻なアンサンブルで弦楽四重奏がガッチリと受け止めている。

とにかく、ジョシュアのテナーが良い意味で「目立つ」。そして、弦楽四重奏の演奏が「耳につかない」。というのも、弦楽四重奏が一糸乱れぬ精緻なアンサンブルでありながら、リズミカルなビートに乗せたジャジーなフレーズを連発しているのだ。そんなジャジーな弦楽四重奏のお陰で、ジョシュアのテナーの良いところが「目立つ」。この企画盤、実は、ジョシュアのテナー・サックスを愛でるのに最適なアルバムである。
 
 
 
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2019年4月 9日 (火曜日)

ジョシュアの個性を理解する

現代のジャズ。歴代のサックス奏者が長年受け継いできた系譜をしっかりと継ぐ者が何人かいる。その一人に「ジョシュア・レッドマン」がいる。1969年2月、米国はカリフォルニア州バークレー生まれ。スピリチュアル・ジャズを代表するサックス奏者、デューイ・レッドマンを父に持つ。
 
1991年にハーヴァード大学を卒業後、出場したセロニアス・モンク・コンペティションで優勝、ジャズ・シーンに身を投じることになる。以来、およそ四半世紀にわたってジャズ・シーンを牽引している。そんなジョシュア・レッドマンの初リーダー作、いわゆるデビュー盤を改めて聴いてみる。
 
『Joshua Redman』(写真左)。1992年の録音。ジョシュア・レッドマンの初リーダー作。ちなみにパーソネルは、Joshua Redman (ts), Kevin Hays (p), Christian McBride (b), Gregory Hutchinson (ds) がメイン。あと幾人かのゲスト・ミュージシャンが参加している。ベースのクリスチャン・マクブライドの参加がポイント。音全体の纏まりに大きく貢献している。
 
 
Joshua-redman-album  
 
 
当時 「テナー界に驚異の新人現る」 とされた一枚。収録曲を見渡すと、オリジナル曲はあるにはあるが、その他を聴けば、ブルース曲、モンク曲、モーダル曲、スタンダード曲等々、スローバラードあり、ファンクあり、バップあり、とごった煮の内容。なんでもござれの内容だが、どの演奏もクオリティ高く、新人のレベルとしては抜きんでている。ごった煮ではあるが、ジョシュアの優れたテクニックが故に、アルバム全体のトーンはブレることは無い。
 
ジョシュアのテナーのテクニックは素晴らしく、その高テクニックで演奏される楽曲のレベルは高く、ほぼ完璧な内容。これが新人のデビュー盤か、これが新人のテナーなのか、と思わずビックリしたことを覚えている。マクブライドのベースを牽引役にしたリズム・セクションの存在と演奏それぞれのアレンジとが、傍らでアルバムの統一感をしっかりと支えている。
 
ジョシュアのテナーの特徴は「キメのフレーズ」の格好良さ。アドリブ・フレーズが実に格好良く展開し、実に格好良く集結する。これって才能なんだ、と思う。ジョシュアのこのデビュー盤で、既にジョシュアのテナーの個性の全てを表現して、聴き手に聴かせた。これだけ全てをさらけ出して、次はどうするのかという不安すら覚えたデビュー盤。ジョシュアの個性を理解するにはまずこの盤を聴くこと。必須です。
 
 
 
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2017年12月13日 (水曜日)

明らかに新しいジャズ・オルガン

昨日に引き続き、この人のオルガンも、ほんのりファンキーなんだけど「軽快でスッキリ」している。逆に、アグレッシブで音の太い、ストレートな音がこの人の個性。従来のジャズ・オルガンの音からすると、あきらかに対極にある音。この人とは、サム・ヤヘル(Sam Yahel)。1970年生まれだから今年で47歳。バリバリの中堅オルガニスト。

『Yaya3』(写真左)というアルバムがある。Yaya3=ヤヤ・キューブド(cubedは数字の3乗)と読む。2002年の作品。ちなみにパーソネルは、Joshua Redman (ts), Sam Yahel (org), Brian Blade (ds)。ヤエルがNYのジャズ・クラブ「スモールズ」で行なっていたライヴにジョシュアが参加して、このプロジェクト=Yaya3 は立ち上がった。

このプロジェクト=Yaya3の実質的なリーダーは、サム・ヤヘル。そして、このヤヘルのオルガンが実に魅力的なのだ。こってこてのファンクネスはかなり希薄。つまり、オルガンの演奏スタイルは、ジャズ・オルガンの大御所、ジミー・スミスの様なものでは無く、オルガンのコルトレーンと呼ばれたラリー・ヤングに近い。軽快でスッキリ、アグレッシブで音の太い、ストレートな音。
 

Yaya3

 
ストイックなまでにアグレッシブなオルガンの音色は、ストレートなグルーブ感を生み出して、シャープにうねる。音の雰囲気とくすみは明らかにジャズのものであり、このアルバムでのヤヘルのオルガンは、ストレート・アヘッドな純ジャズ系のオルガンである。コマーシャルに走らず、あくまで硬派にモード・ジャズを極めていく。

そんなヤヘルのオルガンに、ジョシュアのテナーが魅力的に絡む。ジョシュアのテナーは、コルトレーンとロリンズを足して2で割って、ロリンズ寄りに個性を寄せた感じ。硬派でストレートではあるが歌心に富んだテナーは、他に有りそうで無い個性。それが、軽快でスッキリ、アグレッシブで音の太い、ストレートなヤヘルのオルガンに絡むのだ。新しいオルガン・ジャズの響きが芳しい。

そして、そんな二人を鼓舞する、ポリリズミックな千手観音ドラミングのブライアン・ブレイド。硬軟自在、緩急自在なドラミングが、旋律をアドリブ・ラインを自由度高く司るフロント二人を手厚くサポートする。そして、アルバムを聴き終えた後、耳に一番残っているのはヤヘルのオルガン。現代の、明らかに新しいジャズ・オルガンの音である。
 
 
 
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2014年6月15日 (日曜日)

単純に良いジョシュアのライブ盤

最近のジャズは整い過ぎているのではないか、と感じることがある。耳当たりの良さを追求するあまり、手厚いアレンジと高いテクニックを基に、とても整った演奏を展開する。つまりは、ジャズを様々なシーンでのBGMとして活用する目的があってのこと。これでは、即興を旨としたジャズの本質が失われてしまう。

しかし、最近のジャズ(ここでは1990年以降を指している)の中からこういうライブ盤を見つけて聴くと、どうしてどうして最近のジャズも良いよなあ、って単純に思ってしまうのだ。Joshua Redman『Spirit of the Moment - Live at the Village Vanguard』(写真左)。

このジョシュアのライブ盤は、1995年3月21〜26日、ニューヨークのライブ・ハウス、ビレッジ・バンガードでのライブ録音。ちなみにパーソネルは、Joshua Redman (ts,ss), Peter Martin (p), Christopher Thomas (b), Brian Blade (ds)。当時、若手メインストリーム・ジャズメンの精鋭ばかりである。

このライブ盤の基本はメインストリーム・ジャズである。ジャズ者にとっては、とにかく理屈抜きで良い雰囲気である。破綻の無い、ハイテクニックな演奏が整い過ぎていて面白く無いという向きもあるが、これが今時のメインストリームなジャズなのである。現代の若手ジャズメンは、皆、ハイテクニックで破綻が無い。優等生的なジャズメンばかりなのである。

そこが面白く無い、なんていう変な評価もあるが、冒頭の「Jig-a-Jug」の演奏を聴くと、現代のメインストリーム・ジャズって、洗練されていて、アレンジも凝っていて、聴き応え十分やなあ、なんて思う。良い雰囲気の純ジャズな演奏なのだ。アレンジとアドリブのアプローチが新しい感覚で、こういう演奏を聴くと、まだまだジャズは死んでいない、と単純に思うのだ。
 

Spirit_of_the_moment

 
2曲目の有名スタンダード曲「My One and Only Love」などを聴くと、ジョシュアの解釈の新しさが良く判る。バックのリズム・セクションの演奏もその響きは新しい。決して、過去の演奏に囚われてはいない、若手ジャズメンの意気込みと矜持を十分に感じる、とても頼もしい演奏だ。

ピアノのピーター・マーチンのバッキングが洒落ていて、聴きどころ満載なのも良い。エンタテインメント性も併せ持ち、ジョシュアの捻くれたアレンジにも難なく対応するテクニックの高さには、ほとほと感心する。このマーチンのピアノとジョシュアのサックスの相性は抜群です。

そして、ブライアン・ブレイドのドラムが全編に渡って効いている。ダイナミックかつ繊細。メリハリがばっちり効いていて、スイング感抜群。昔のハードバップ時代の様な、粘りのあるスイング感では無い、乾いた縦ノリのスイング感。現代のジャズのスイング感である。

そして、クリストファー・トーマスのベースが堅実で良い。ジョシュアのワンホーン・カルテット演奏の底をしっかり支えて、カルテット演奏のリズム&ビートをガッチリと押さえています。このトーマスのベースの支えがあってこそ、新しい感覚のアレンジとアドリブのアプローチが成立する訳で、トーマスのベースは絶対に外せません。

CD2枚組とかなりボリューミーなので、一気に聴き通すにはちょっと体力が必要です。CD一枚一枚を分けて聴くのもオツなものです。どの曲の演奏も長尺ものが多いですが、十分に楽しめます。単純に良いライブ盤です。
 
 
 
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2012年4月 3日 (火曜日)

クールなオルガン、もう一丁

そのコッテコテの「どファンキー」とは対極の、静的でクールな、決して熱くならない、冷静で涼しげなオルガン・ジャズもあります。その代表格が Sam Yahel(サム・ヤヘル)。

3月22日のブログ(左をクリック)でご紹介したアルバム『Trio』。このアルバムは、1997年12月の録音。パーソネルは、Sam Yahel(org), Peter Bernstein(g), Brian Blade(ds)。ヤヘルのオルガンがベースの役割も兼ねて、ドラムとギターのトリオ・アルバムである。ギターの音色が、静的でクールな雰囲気を増幅させて、それはそれは冷静なオルガン・ジャズである。

そんなヤヘルのオルガン・トリオで、もう一枚、お勧めのアルバムがある。『Truth and Beauty』(写真左)。2005年9月の録音。ちなみにパーソネルは、Sam Yahel(org), Joshua Redman(ts), Brian Blade(ds)。こちらは、ヤヘルのオルガンがベースの役割も兼ねては同じだが、ドラムとサックスのトリオ・アルバムである。

ギターがサックスに変わっただけで、アルバム全体の演奏に「躍動感」が加わって、実に華やかな雰囲気になっている。サックスの躍動感とメリハリのある音色が、かえって、ヤヘルの静的でクールな、決して熱くならない、冷静で涼しげなオルガンを強調する効果を出していて、なかなかに味わい深い。
 

Truth_and_beauty

 
特に、このジョシュアのテナーが実に良い。躍動感溢れ、ヤヘルの静的でクールなオルガンに呼応するように、ファンキーで黒い雰囲気は極力抑えつつ、実に知的で魅力溢れるテナーを吹きまくっている。これだけ知的かつ躍動感を前面に押し出して吹くジョシュアは実に魅力的。

ドラムは、ブライアン・ブレイド。この人のドラミングは音色もリズムも多彩で、ポリリズミックなドラミングも有効だし、スタンダードなオフビートのドラミングも魅力的。これだけ多彩で様々なビートを叩き出すドラムがバックに控えているからこそ、フロントのオルガンについては、様々なアプローチが可能となって、オルガン・ジャズの可能性が広がる。

僕は、オルガン・ジャズの可能性を広げるのは、ドラムとの相性とコラボだと思っている。そういう意味で、ヤヘルのオルガンにブレイドのドラムは相性ピッタリ。ブレイドの多彩で豊かなドラミングとの相乗効果で、ヤヘルのオルガンの可能性がどんどん広がっている。そんなオルガン・ジャズの可能性の広がる中で、ジョシュアがストレートで躍動感溢れるテナーを吹きまくるのだ。悪かろうはずがない。

いわゆるコテコテ系オルガン・グルーブとは違う、コンテンポラリーでスタイリッシュ、静的でクールな、決して熱くならない、冷静で涼しげなオルガン・グルーブが心ゆくまで楽しめる、なかなかに優れた内容の一枚です。静の『Trio』、動の『Truth and Beauty』。ヤヘルのオルガン・ジャズ入門盤としてこの2枚はお勧めやね〜。
 
 
 
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2010年12月23日 (木曜日)

気軽に気楽に聴けるジャズ 『Wish』

ジャズの聴き方には色々ある。スピーカーに面と向かって対峙して、真剣に耳を傾ける聴き方もあるし、本などを読みながら、ちょっとした家事をこなしながらの「ながら聴き」もある。最近では、iPodを活用し、インナーイヤー型ヘッドホンを活用して、電車の中でのジャズ鑑賞も可能になった。

ジャズのアルバムにも色々ある。しっかりと真剣に耳を傾けないといけない盤もあれば、ひょいと気軽に気楽に聴ける盤もある。演奏形態とかミュージシャンによって分けられるとかいう単純なものではなさそうで、どうもそれぞれの盤が持つ演奏の雰囲気が決め手となるみたいだ。

若手気鋭のテナー奏者Joshua Redman(ジョシュア・レッドマン)の『Wish』(写真左)というアルバムがある。1993年のリリース。若手気鋭のテナー奏者ジョシュアのアルバムである。純ジャズを追求した、さぞかしストイックでハードな内容なんだろうと構えてしまう。

何せ1曲目が、フリー・ジャズの創始者オーネット・コールマン作の「Turnaround」から始まる。それだけでも「構える」。パーソネルを見渡すと、Joshua Redman (ts), Charlie Haden (b), Billy Higgins (ds), Pat Metheny (g)。そうそうたるメンバーでは無いか。ヘイデン、ヒギンス、メセニーのリズムセクションが凄い。しかも「ピアノレス」である。メンバー構成を見ても「構える」。

で、聴いてみてどうか、というと、これが「聴き易い」。冒頭の「Turnaround」なぞ、オーネットの作なので、なんでいきなり1曲目にフリー・ジャズなハードな演奏を持ってくるかなあ、と沈鬱な思いで、CDのスタートボタンを押すと「あらまあ」(笑)。ジョシュアのテナーとメセニーのギターのユニゾンが躍動感を持ってスピーカーから飛び出してきて、これが中々印象的なフレーズを奏でていて、とっても聴き易い、躍動感のある名演になっている。

この「聴き易く、躍動感のある」演奏がアルバム全体に散りばめられている。結構、ストレート・アヘッドなジャズ演奏を繰り広げているんですが、この独特の「緩さ」というか「ラフさ」というか「気軽さ」はどこから来るのか。
 
 
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これ、きっと、ドラムのヒギンスにあると思うんですよね。ヒギンスのドラミングって、どこか「緩い」というか、どこか「すこんすこん」している。これがヒギンスのドラミングの魅力なんですが、これが良い意味での「緩さ」をこのアルバムに与えているように思う。

その「緩さ」をしっかりとヒギンス自身が「ズドン」というリズムのアクセントでグッと締め、加えて、ヘイデンのベースが演奏全体のビートをビシッと決める。このヒギンスとヘイデンのリズム・セクションがあればこそ、ジョシュアとメセニーがフロントを張って、インプロビゼーションに専念出来るってものだ。

そうそう主役のジョシュアのテナーは良い音出してます。若手気鋭のテナー奏者って、猫も杓子もコルトレーン風に吹きまくる人が多いのですが、このアルバムでのジョシュアは違います。気持ち良く唄う様に、歩きながらの鼻歌の様に、本当に気持ち良い音で、適度にテンションを張り、適度にリラックスした、聴き心地の良いブロウを繰り広げています。

そして、やはりパット・メセニーのギターは素晴らしいですね。メセニーはバックに回っても素晴らしいギターを聴かせてくれます。これだけ個性の強い音を出すギタリストだと、フロント楽器のバッキングは、なかなか辛いのでは、と思うのですが、流石にメセニーは違う。自らの個性の強いギターの音を活かして、フロントの演奏、ジョシュアのテナーをグッと惹き立てる。確かにバックでメセニーが弾いていることは判るのだが、決してジョシュアのテナーの邪魔はしない。ジョシュアが一人で吹いている時よりも、ジョシュアのテナーが惹き立っている。

良いアルバムです。僕にとって、気軽に気楽に聴けるジャズ盤の一枚です。1〜8曲目まではスタジオ録音で、落ち着いた演奏になっていますが、9〜10曲目はライブ録音で、熱気溢れる臨場感のある演奏になっています。この対比もなかなかの聴きどころ。僕にとってのヘビーローテーションな一枚です。
 
 
 
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2010年12月20日 (月曜日)

実にクールなジャズ・オルガン

ジャズ・オルガンと言えば、コテコテ・ファンキーな、粘っこく黒くジャジーな音色を思い浮かべる。

ジャズ・オルガンの巨匠ジミー・スミスを筆頭として、このコテコテ・ファンキーな、粘っこく黒くジャジーな音色は、正統なジャズ・オルガンの印。ベイビー・フェイス・ウィレット然り、フレディ・ローチ然り、ビッグ・ジョン・パットン然り、ロニー・スミス然り。現在の日本代表、敦賀明子も、粘っこく黒くは無いがこの系統。

しかし、この正統なジャズ・オルガンの印の真逆を行くジャズ・オルガニストがいる。サム・ヤエル(Sam Yahel・写真右)である。実にクールなジャズ・オルガンである。クールと言っても「格好良い」という意味でのクールでは無い。冷静な、静的な意味での、ホットの逆の意味での「クール」である。

サム・ヤエルのジャズ・オルガンは、決して、コテコテ・ファンキーでは無い。黒くジャジーではあるが、粘っこくは無い。サラリとスマートで、黒くジャジーではあるが、ファンキーさは「かなり希薄」。しかし、スピード感が溢れ、メリハリがばっちり効いている。ジャズ・オルガンの王道の真逆を行く、サム・ヤエルのオルガンである。

そのサム・ヤエルが、テナーのジョシュア・レッドマン(Joshua Redman)、ドラムのブライアン・ブレイド(Brian Blade)と組んだトリオがる。3人対等の立場のバンドだが、実質上のリーダーはサム・ヤエル。その3人が2002年に発表したアルバムが『yaya3』(写真左)。ちなみに「yaya3」は「ヤ・ヤ・キューブド」と読むとのこと。「キューブド(cubed)」は数字の3乗の意。サックス+ドラム+ハモンド・オルガンという、実にユニークな編成のトリオである。

このトリオの演奏が実に「クール」。ここでの「クール」は「格好良い」の意(ややこしいなあ)。このオルガン・トリオの演奏は、「クール」という言葉が実に相応しい演奏である。3者3様、実に「格好良い」。理屈はいらない。とにかく、音を聴いていると、演奏を聴いていると、「く〜かっこええなあ」という感じが心の底から沸き上がってくる。
 
  
Yaya3
 
     
サラリとスマートで、黒くジャジーではあるが、ファンキーさは「かなり希薄」。しかし、スピード感が溢れ、メリハリがばっちり効いている。ジャズ・オルガンの王道の真逆を行く、サム・ヤエルのオルガンは、伴奏に回ると、その真価を最大限に発揮する。

ジョシュア・レッドマンのテナーのバックで、ジョシュアのテナーとぶつかることなく、ジョシュアのテナーの音の合間、隙間を埋めつつ、ジョシュアのテナーのソロを浮き立たせていく。これが、とにかく絶妙なのだ。相性が良い、というのはこういうことを言うのだろう。

サックスとオルガンが互いに触発しながら、相互に影響しあいながら、それぞれの個性を発揮しつつ、実にクールなインタープレイを展開していく。実に柔軟で実に理知的なインタープレイにゾクゾクする。そんなゾクゾクするようなサックスとオルガンのインタープレイを、ブライアン・ブレイドの、これまた「格好良い」ドラミングが、ガッチリとサポートする。

ブライアン・ブレイドのドラミングも、ハイテクニックで手数が多いが、決して、サックスとオルガンのインタープレイを邪魔したりしない。それどころか、サックスとオルガンのインタープレイを煽り、励まし、盛り立てる。このブライアン・ブレイドのドラミングも、このアルバムの聴きどころ。

すっごくクールなトリオ・ジャズです。発売当時、偶然、CDショップで手にして以来、長年の愛聴盤です。ほとんど何も無いところからのインプロビゼーション中心の積み上げなので、演奏内容はかなり抽象的ですが、演奏の芯はシッカリ通っているので、決して飽きません。というか、聴き込めば聴き込むほど、その都度いろいろな発見があって、なんというか、スルメの様なアルバムですね。噛めば噛むほど味が出る(笑)。お後がよろしいようで・・・。
 
 
  
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